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マスター:Barracuda
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/12/20


みんなの思い出



オープニング


 その日、大江芙紗子が学校から帰宅すると、家にいるはずの飼猫の姿が消えていた。
「アク! アク?」
 バレー部のユニフォームを玄関で脱ぎ、飼猫の名前を呼びながら、家の中を見回す芙紗子。
 どこかに隠れているのかと思い、好物の猫缶を開けるも、アクはやって来ない。
「まさか……また、『外』に行ったのかな」
 缶の中身をタッパーに移しながら、芙紗子はひとり呟いた。

 アク――本名「悪源太」は、芙紗子が小学校に入学したころ、父が拾って来たらしい猫である。
 らしい、というのは、芙紗子が物心ついた頃には、既に悪源太は芙紗子の傍にいたからだ。ふてぶてしい面構えをしたオスの黒猫で、芙紗子が甘えたい時に限ってどこかへといなくなるくせに、一人でいたい時に限ってしつこく甘えてくるような、どこにでもいる普通の猫だった。
 芙紗子は今、そんな悪源太と一緒に学校近くのマンションに住んでいた。彼女の実家は山奥にあったため、彼女が街中の中学校に進学するにあたり、親戚が管理している今の住処に転居したからだ。
「アクも連れて行きたい」
 転居が決まった時、芙紗子は一生のお願いの心持で、父親の橘之助にそう懇願した。普段は自分の言う事に何でも反対する父を認めさせるのには一苦労だったが、最終的には首を縦に振ってくれた。
 それ以来、芙紗子と悪源太は毎日、家で一緒に生活しているのである。

――月のうち、ほんの数日を除いては。


 最初に芙紗子が違和感に気づいたのは、入学して二月ほど経った頃だった。

 その日、いつものように家に帰って来て、出迎えた悪源太を抱き上げると、体に雑草の種が付いていることに気がついた。ひょっとして、外に出たのだろうか? いや、自分の服のものが、たまたまくっついただけかもしれない……
 その時の芙紗子は、それ以上深くは考えなかった。外出する時はベランダや窓は必ず閉めるようにしている。部屋は5階だし、悪源太が勝手に外に出たとも思えないからだ。
 しかし、月を追うごとに芙紗子の疑念は深まっていった。ごく稀にだが、早退などで家に早く帰ると、悪源太の姿が消えている事があったからだ。そんな時は決まって、呼びかけにも応じず、猫缶を準備しても応じず、夜になると何事もなかったかのように、悪源太はふらりと姿を現すのだった。

 さらに入学から一年半ほど経って、芙紗子の疑念は確信に変わった。
 その日も、たまたま体調不良で早退した芙紗子が、家の入口の傍にさしかかった時、ふいに彼女の視界に一匹の黒猫が入ったのだ。悪源太に間違いなかった。物心ついてから、ずっと一緒に暮らしてきた猫である、見間違うはずがない。
(やっぱり勘違いじゃない。悪源太は私の目を盗んで、こっそりどこかに行ってるんだ)
 芙紗子はそう確信した。


 それからというもの、芙紗子は手を尽くして悪源太の行先を探ろうとした。しかし悪源太は肝心なところで絶対に尻尾を掴ませず、姿をくらましてしまうのだ。久遠ヶ原に依頼を出そうとも考えたが、天魔と戦い人々を守る仕事をしている撃退士達に、こんな個人的な依頼を出すわけにはいかないと、芙紗子は思いとどまった。
 程なくして悪源太も芙紗子の考えに感づいたのか、それから1年ほどは何もない日々が続いた。

 それは年の瀬が見え始めた、ある日の事だった。
「ねえ、アク。私ね……中学を卒業したら、久遠ヶ原に入ろうと思ってるの」
 悪源太は我関せずといった風情で、芙紗子の膝の上で喉を鳴らしている。
「この前、家に帰った時ね。私……聞いちゃったんだ。お父さんとお母さんが……ううん、私の家族がみんな悪魔で……気の遠くなるくらい昔から、ずっとあの山に住んでたってこと」
 悪源太は、耳をぴくりとそばだてた。
「それでね。色々考えて……決めたんだ。私、撃退士になろうって。今度家に帰ったら、お父さんとお母さんにも相談しようと思うんだけど……そうなったら、悪源太もついて来てくれる?」
 芙紗子が言い終わると同時に、悪源太は芙紗子の膝を蹴って炬燵の中に潜ってしまった。
「悪源太……」


 次の日、芙紗子が家に帰ると、そこに悪源太の姿はなかった。

 バレー部のユニフォームを玄関で脱ぎ、飼猫の名前を呼びながら、家の中を見回す芙紗子。どこかに隠れているのかと思い、好物の猫缶を開けるも、悪源太はやって来ない。
「まさか……また、『外』に行ったのかな」
 缶の中身をタッパーに移しながら、芙紗子はひとり呟いた。

 証拠も何もない、単なる自分の勘に過ぎない。
 しかし、物心ついてずっと一緒だった間柄なのだ。
(アクは、何かを私に隠している。それも、私に関わる、とても重要な何かを)

 缶の中身をタッパーに移しながら、芙紗子は久遠ヶ原に依頼を出そうと決めた。


リプレイ本文

○午前10時 芙紗子宅
「皆さん、よろしくお願いします」
 芙紗子は撃退士達を家にあげると、居間へと案内した。

「円城寺 空(jc0082)です。よろしくお願いします」
 挨拶と共に座布団に座った円城寺は、自分達を出迎えた芙紗子の背丈に圧倒されていた。
(背……高いのです)
 自分が上の兄に肩車されたら、ちょうど同じくらいかもと円城寺は思った。
「そう言えば、悪源太さんは今どちらに?」
 期待に目を輝かせる円城寺の言葉を聴いて、芙紗子は申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。
「ベッドの下に潜って、出てこないんです。ああ見えて、人見知りする子だから。……今、写真持って来ますね」
 芙紗子はそう言うと、壁の額縁に入った写真を持ってきた。
「これが、アクです。これがパパで、こっちがママ」
 そう言って芙紗子が見せたのは、彼女の家族写真だった。そこに写っているのは、黒猫の悪源太、芙紗子と彼女の両親、そして――
「このお子さんは? 妹さんですか?」
 写真を見たユウ(jb5639)が、芙紗子の母親が膝に抱えた子供を指差した。芙紗子はそれを聞いて、おかしそうに笑う。
「いいえ、私です。5歳の時だから、ちょうど10年前の写真ですね。アクの写ってる写真って、これくらいしかなくて」
「ということは、この方は……」
 ユウは芙紗子そっくりの少女に視線を移した。
「姉です。ちょっと色々あって、今は家にいないんですけど」
 そう言うと、芙紗子は目を伏せた。
(10年前、ね)
 ユウの隣に座るラファル A ユーティライネン(jb4620)は、写真に写った悪源太を見て、片眉を吊り上げた。
(10年前でこれなら、今は相当な歳のはずなんだけどな)
 写真に写った悪源太の体格は、どうみても成猫のそれだ。今も生きているとなると、人間で言えば100歳近い歳のはずである。そんな歳の猫が元気に家を抜け出して、外で何かをしているというのは、怪しいとしか言いようがない。
「悪源太のことで、何か印象に残ってることはねーか?」
「印象に残っていること……ですか?」
 芙紗子の言葉に、ラファルが頷く。
「そうそう。すぐに思いつかないなら、体に付いてたっていう種の話とかでもいーぜ」
「ああ、それなら」
 芙紗子は思い出したように立ち上がると、隣の部屋から何かを持ってきた。
「これです。一応、取っておいたんですけど」
 芙紗子が見せた棘の生えた茶色い小粒の実を見て、円城寺が珍しそうに言う。
「巻耳(おなもみ)の実ですね。たまに公園とかに生えているのを見ます」
「ほー。公園ねえ」
 種を眺めるラファルと円城寺の隣で、ユウが芙紗子に尋ねた。
「芙紗子さん。この家には、猫用の出入り口のようなものは……」
「いえ。ありません」
「そうですか。芙紗子さん、悪源太さんは……」
 それを聞いたユウは、何かを確信したような表情を一瞬だけ浮かべると、
「いえ、若しかしたら彼しか知らない出入り口があるのかもしれませんね」
 すぐに思い直したように、笑顔を浮かべた。
「ええ。……そうだといいんですけど」
 そう言って笑顔をつくる芙紗子の顔には、微かな苦悩の色があった。目の前の撃退士達に伝えたい事が山ほどあるのに、整理がつかずうまく伝えられない、そんな苦悩の色が。
(彼女は、悪源太が普通の猫ではないことを薄々察している。だからこそ、私達に依頼を出した……)
ユウは、芙紗子に向き合って言った。
「芙紗子さん。この依頼、確かに引き受けました」
「はい。どうかよろしくお願いします」

○午前11時45分 住宅街
 芙紗子と撃退士達が家を出てから、およそ30分後。

「どこに行くやら黒猫さん、てね☆」
 追跡の準備を整え、配置についたジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は、誰に言うともなく呟いた。
 彼は今、こざっぱりとしたスーツに身を包んで、車の中で地図に目を通していた。知らない者が見れば、外回りの営業に来た会社員にしか見えないだろう。
 彼の担当するエリアは、芙紗子の家の東に立ち並ぶ住宅街だった。芙紗子の話では、彼女が最初に悪源太を見つけたのも、この界隈らしい。仲間達から送られてきた悪源太の情報には、ジェラルドは既に目を通していた。実年齢より遥かに若く、戸締りをした家に自由に出入りでき、恐らくは人語を解する……情報を集めれば集めるほど、彼がただの猫ではない事が分かってくる。
(ふむ、何だろう……ファンタジックでワクワクするね☆)
 そう思いながら、カバンの底に仕掛けたカメラの動作確認を行っていると、ふいにジェラルドの携帯が着信を告げた。
「はい、ジェラルド」
 受話器の向こうから、のんびりとした少女の声が聞こえてきた。
「今、悪源太さんが家を出ました。玄関側からです」
 華子=マーヴェリック(jc0898)からだった。彼女は今、マンションの屋上で、ジェラルドが設置したカメラの映像を確認していたのだ。
「今、非常階段の方に向かって、周りを見回し……あっ」
「ん、どうしたのかな?」
「悪源太さんが……ドアをすり抜けました」
 華子の報告を受けて、ジェラルドの目がきらりと光った。やはり予感は的中したようだ。
「透過能力、かな」
「はい。多分……」
「ふむ、やっぱり? となるとかなり慎重にいかないとね☆」
 ジェラルドは円城寺に行動開始のメールを送ると、エンジンにキーを差し込んだ。

(アクさん、公園の方に向かっているみたいですね)
 追跡を開始した円城寺は、悪源太の足取りを見てそう判断した。双眼鏡を片手に、物陰から猫を追いかける円城寺の姿は、平日昼間の住宅街ではかなり目立つ存在だ。しかし、彼女が用いている隠密の効果もあって、周囲の人は誰も彼女に注意を払っていなかった。
(周りから注目されるのは、避けたいですし)
 悪源太は、東の方角へ進んでいた。このまま進むと、その先には大きな公園がある。
(一度、仲間に連絡をしておいた方が良さそうです)
 悪源太の注意が向いていないのを確認すると、円城寺は華子にメールを送信した。
『アクさんは公園の方角へ移動中。このまま追跡を続行します』

(今のところは順調ですね。尾行に気づいてる感じは、なさそうですけど……)
 住宅街のアパートの屋上で円城寺のメールに目を通しながら、華子は東の方角を眺めた。彼女の目に映る悪源太の姿は、すでにケシ粒のように小さくなっている。
「うーん、どこに行っちゃうんでしょうか?」
 華子はそう呟いて首を捻ると、ジェラルドにメールを送った。
『円城寺さんより報告。悪源太は公園の方角に移動中』
 程なくして、華子の携帯に返信が届く。
『了解。華子さんは?』
『芙紗子さんと一緒に、合流先の喫茶店へ向かいます』
『オッケー☆』

 それから数分後。
 ジェラルドのメールが、悪源太が公園へと入った事を告げた。

○午後12時30分 公園内
『今、公園に入ったよ』
『分かった。そっちはどうするんだ?』
『車で先回りかな。黒猫くんが公園を抜けたら教えてね☆』
『了解だ』
 ジェラルドに返信を打った赭々 燈戴(jc0703)は、用意した掃除用具を手に取り、持ち場の公園東へと向かった。作業着を着込み帽子を被った赭々の姿は、どう見ても公園掃除の作業員のそれだ。赭々がホウキで落ち葉を掃いていると、通りがかった男性の老人が声をかけてきた。
「掃除の人かい? ずいぶん若いねえ」
「いや、バイトッスよ。ガッコはサボっても社会勉強は欠かさず、ってな感じっす」
 赭々は老人と世間話をしながら、悪源太のことについて、それとなく探りを入れた。
「そういえば、たまーにここで黒猫見るんですが、知ってるスか? 俺、猫大好きなんスけど気になってんだー」
「ああ、ひょっとしてクロのことかね」
 赭々の目がキラリと光る。
「そうそう、その猫ッス。いつの間にか見えなくなるし、いつもどこにいるんだか……」
「たまに見かけるのは、東の外れの方だね。あの辺りは草が生い茂ってて、春になると種が服について大変なんだよ……時間があったら、草も抜いておいてくれんかね」
(そういや、悪源太の体にも巻耳がくっついてたって話だったか。どうやら間違いなさそうだな)
 思いがけず有力な情報を手に入れた赭々は、
「ええ、もちろんッス」
 老人に礼を言って、公園の東へと向かった。

 赭々が目的地に着いて間もなく、ラファルからメールが届いた。
『悪源太は東に進んでる。もうすぐ公園と外を仕切る柵に着きそうだ』
『了解だぜ』
 その時、鋭敏聴覚で研ぎ澄まされた赭々の耳に、落葉を踏む音が聞こえた。人間とは明らかに違う、四つ足の動物の足音である。悪源太の接近を察知した赭々が、帽子を目深に被って視線を隠し、足音のする方角から十分に距離を取ると、程なくして一匹の黒猫が現われた。間違いない、悪源太である。
「ヘイ、見ぃつけた」
 悪戯っぽい笑みを浮かべる赭々に気付く事無く、悪源太は柵を潜り抜けて市街地の方角へと向かった。

 赭々が外の仲間達に連絡を済ませると、程なくしてラファルがやって来た。
「透過能力で芙紗子の家から出たらしーぜ。やっぱただの猫じゃなかったな、あいつ」
 腕組みして頷くラファルに、赭々が応じる。
「ってことは、ディアボロかヴァニタスか。悪魔ってセンは……さすがにないだろうしな」
「たぶんヴァニタスだろーな」
「どうしてそう思うんだ?」
「寿命だよ。あいつは天魔として、十年以上は生きてるはずだ」
 ラファルは赭々に、芙紗子の家族写真の話をした。写真が十年前のものであること、悪源太がその頃から全く歳をとっていないということも。
「ディアボロは戦闘特化の生物だからな。言ってみれば使い捨てだ。そんなに長く生きられるやつなんて、そういない。その点ヴァニタスなら、主である悪魔が死なない限り、寿命で死ぬ事は絶対ないしな」
 悪源太の正体を分析したラファルの言葉に、赭々は頷いて同意する。
「となると、悪源太の主人は誰なんだ、って話だな」
「ま、それもすぐに分かるだろーぜ。……大体想像はつくけど」
 そう言ってラファルは、悪源太の消えた方角を見つめた。

○午後1時 街中
 公園と街中の境目付近のコンビニで買い物客を装いながら、ユウは悪源太のことに思いを巡らせていた。
(どうやら、悪源太の目指す場所がこの界隈にあるのは間違いなさそうですね。問題は彼が、何のためにこんな場所まで来るのか、ですが……)
 その時、ユウの携帯に連絡が入った。赭々からだった。
「悪源太がそっちへ行った。いまジェラルドが円城寺を拾って、車で追いかけてる」
「分かりました」
 程なくして、悪源太がコンビニの前を通り過ぎ、街の通りへと入るのを確認すると、ユウは店を出て後を追った。幸い、昼もピークを過ぎたおかげで、街中の人通りはそこまで多くない。追跡スキルを使用すれば、追うのは容易だ。ユウが追跡を開始して間もなく、悪源太は歩行者天国の通りへと入っていった。
(足取りに迷いが全くない。通い慣れているようですね)
ユウは視界に悪源太を捉えつつ、携帯でジェラルドにメールを送信した。
『悪源太が歩行者天国の中に入っていきます』
 すぐさま返信が送られてくる。
『了解。今そっちに円城寺さんが向かうよ☆』

 数分後、合流した円城寺とユウが追跡を続けていると、悪源太は通りに面したカフェテラスで歩みを止めた。
 すると、そこへ――
「おお、悪源太。探したぞ」
 スーツ姿の割鐘のような声の男が現われ、ひょいと悪源太を抱きかかえた。男がそのままテラスの席に座るのを見たユウと円城寺は、カフェの隣にある書店の軒先へと移動。立ち読みの客を装いながら、横目でテラスのふたりを見た。
「ユウさん、あの人って……」
 円城寺は、男の顔に見覚えがあった。芙紗子の家の写真に写っていた男だ。
「ええ。芙紗子さんのお父さんです」
「会話の内容は分かりますか?」
 円城寺に問いかけられ、ユウはかぶりを振った。
「いいえ。どうやら意思疎通を使っているようです」
 芙紗子の父橘之助は、悪源太を膝に抱えながら、注文したコーヒーを飲んでいた。中空を睨んで誰ともなく軽く頷いたりしているが、その口元は全く動いていない。それを見たユウと円城寺は、これ以上の長居は無用と判断。デジタルカメラを取り出すと、テラスでくつろぐふたりの姿を動画と写真に収めた。

○午後2時30分 依頼人宅近辺の喫茶店
「そんな。アクとパパが……」
 合流先の店で写真と動画を見た芙紗子は、小声でそう呟いた。撃退士の報告を、まだ完全には受け入れることが出来ずにいるようだ。
「芙紗子さん。あまり思いつめないで下さいね」
 うつむいた芙紗子を励ますように、円城寺がそっと芙紗子の肩に手をかける。
「ありがとう、円城寺さん。皆さんも、本当にありがとうございました。この件は、家に帰ってパパから直接聞かせてもらうことにします」
 芙紗子はお辞儀をして、周りの撃退士達に礼を述べた。
「あまり思いつめないようにね。何かあったら、また依頼をくれればいいさ☆」
「そうですよ。きっと、お父さんも考えがあってやった事だと思います」
「はい。……はい。ありがとうございます」
 それに応じるジェラルドとユウの言葉に、芙紗子は何度も頷いた。

○午後8時 橘之助宅
 その日の夜。
 帰宅した橘之助の書斎の電話に、一件の録音が残っていた。

「旦那。悪源太です」
 再生と同時に再生機の向こうから聞こえてきたのは、三十歳くらいの男の声だった。
「芙紗子お嬢様の件でひとつ、伝え忘れたことがありましてね。電話させてもらいました」
 そこまで言うと悪源太は黙りこみ、なかなか話を切り出そうとしなかった。慎重に言葉を選んでいる気配を感じた橘之助の心に、言いようのない嫌な予感が走る。
「お嬢様は……『撃退士になりたい』そうです。アレはもう、止められねぇですね」
(撃退士に!?)
 橘之助の顔に、衝撃と驚愕が走った。
「申し訳ねぇ。言おうかどうか迷ってたんですが」
 少し間を置いてから、悪源太は話を続けた。
「きょう家に戻られてから、お嬢様の様子がおかしいんです。俺のことを怯えるような目で見たり、旦那の写真を眺めて涙ぐんだり……間違いねぇ、あれは気づいてますよ。俺の事も旦那の事も、全て……」
 決心したように切り出した悪源太の話を聞いて、橘之助の顔が次第に強張ってゆく。
「さっきお嬢様が、俺に一言だけ仰いました。年の暮れに家に帰って、全てを聞くと――そろそろ旦那も観念して、『あのこと』を話すときが来たんじゃねぇですか? 上の……芙久子お嬢様が家を出ていかれた、本当の理由を」
 打ちのめされた表情で椅子に座る橘之助に、悪源太の声はぽつりと言った。
「どうか芙紗子お嬢様のお気持ちを汲んでやって下せぇ……それじゃあ、失礼します」

(ついにこの日が来てしまったか。芙紗子……芙久子……)
 岩のような両手で顔を覆う橘之助の目の前で、合成音声が録音再生の終了を告げた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
久遠の天華を胸に抱いて・
円城寺 空(jc0082)

中等部1年5組 女 アストラルヴァンガード
おじい……えっ?・
赭々 燈戴(jc0703)

大学部2年3組 男 インフィルトレイター
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード