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マスター:朝来みゆか
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/28


みんなの思い出



オープニング

●What's the Nyoro World?

 加賀谷 真帆(jz0069)は悩んでいた。
「ねこかふぇ」部長となり、看板猫を飼育しながらカフェ運営を始めたのは、先日の学園祭の最中だった。
 頼れる部員や、訪ねてきた学生たちが代わる代わる世話をしてくれるが、それまで動物を飼ったことがない真帆には初めての経験ばかりだ。
 果たして自分は猫に愛されているのか? 信用されているのか?

 もの言わぬ動物との意思疎通の難しさに頭を抱えていたそのとき、新聞はさみ込みのチラシが目に止まった。


「〜 Welcome to the Nyoro World !! 〜

 来年の干支は知ってるかな? ――そう、蛇年!
 かわいい蛇たちとゆっくり遊べる、ふれあいイベントのご案内です。

☆ふれあい撮影コーナー
・ボールニシキヘビのハッピーちゃんを膝の上に載せてみよう。丸くなるよ!

・棒に巻きついたアオダイショウにさわってみよう。名前はサチオ。つるつるしているよ!

 まだ年賀状を用意していないひとは、蛇と一緒に撮影した写真を使ってみてはどうかな?
 2匹とも毒はなし。おとなしい性格だよ!

☆編み物体験
 手芸が得意な君は、カラフルな毛糸を使って蛇型マフラーを編んでみよう。
 不器用な君も大丈夫。ボランティアスタッフがお手伝いします。

☆地上20cm体験
 特製スネークスーツを着て、君も蛇の動きを味わってみよう!
 うつぶせ状態で自由に進める特製スネークスーツ(レンタル30分)。寝袋のような不思議な服。蛇の視点で地面を這い回ることができます。
 動力は電池。前方を確認できるモニター画面が表示されるので安全です。


 その他……
 アンケートにお答えいただいた方を対象とした、クリスマス抽選会も開催☆

【アンケート】
 1.このイベントをどちらでお知りになりましたか。
 2.イベントの感想をお聞かせください。

 1等:人気温泉宿泊チケット ……2名様
 2等:歳末ギフト(ジュース、お菓子など) ……5名様
 ご回答くださった方全員に文具セットをプレゼント。

 皆様のご来場お待ちしています!」


 真帆はつぶやく。
「ニョロワールド……スネークスーツ……」
 新しい世界が目の前に広がる気がする。

 チラシの端には『入場料金:100久遠』と書かれている。
 敵情視察というわけではないが、100久遠を払って見てみる価値はありそうだ。


リプレイ本文

●Nyoro 0 〜地下の紅白門〜

「ふむ、蛇との触れ合い……? 来年の干支……?」
 マクセル・オールウェル(jb2672)は街で渡されたチラシを見て、不可解な表情を浮かべた。
 蛇という動物は知っている。なでると何かいいことがあるのだろうか。
「ぬう。よくわからないのである。一体これは何の催事なのであるか?」
 ギメル・ツァダイ(jz0090)と戦うために天界を辞したマクセル。評価されるべき行動力を彼はまたも発揮する。
「とりあえず、行ってみるのである」

 一方、魔界から来たハッド(jb3000)は、空き地でつかまえた季節外れのアマガエルを懐に忍ばせた。
 手元の地図にぽつりと水滴が落ちる。
 空を仰いだハッドの額にも、また。

 樋渡・沙耶(ja0770)は眼鏡越しの目を細めた。
 寒々しい曇天の下、入場前の長蛇の列は見当たらない。
 会場入口を示す幟が立っているだけだ。幟には龍が蛇にバトンタッチするコミカルなイラストと、「Nyoro World」の文字。
 来年の干支とはいえ、蛇である。そう人気のある動物とは思えない。
(この学園都市なら何をネタにしてもお祭り騒ぎはするけど……)

「よぉーっし、来年の干支に取材にいっちゃおう!」
 元気にやってきた栗原 ひなこ(ja3001)につられ、穴をくぐる来場者が一人、二人。
(蛇、ねー……。モフモフ以外の動物に興味はなかったが、ちょいとのぞいてみるか)
 虎落 九朗(jb0008)は期待のハードルも低く、新世界へ踏み込む。

「ここですね。アンケート用紙いただけますか」
 金の匂いを嗅ぎつけてきたのは時駆 白兎(jb0657)。狙いは、アンケート回答者を対象とした抽選会だ。
 抽選が行われるまでの時間は暇つぶしに場内を見て回るつもりである。
 常日頃から竜と戯れている身としては、同じ鱗を持つ爬虫類の蛇への嫌悪感は全くない。
「入口は下ですにょろ! どうぞどうぞ〜」
 白兎は呼び込みスタッフに案内され、地底大国の入口のような洞穴に足を向ける。

 螺旋状に曲がった狭い道には数箇所の照明が設けられていた。赤茶色の壁、どことなく湿気を帯びた空気。
 わずかな傾斜がついた通路に、靴音が反響する。

(蛇を見るの久しぶりだな〜。学園ではあんまり見かけないし)
 通路を下る森林(ja2378)は、少し前を歩く黒髪和服の少女に声をかけた。
「スタッフさんですか?」
 久遠寺 渚(jb0685)は自分に話しかけられたとは思わず、小さな歩幅で迷いなく歩いてゆく。
 足を速めた森林が渚の横に並ぶ。
「その蛇さんとも写真撮れるんですか?」
 渚がさっと頬を赤らめる。
「えと……あ、あのっ、違います! まー君に友達ができるかなと思って!」
「あ、失礼しました。俺と同じお客さんなんですね」
 森林が軽く詫び、渚は真っ赤になったままうつむく。渚の手にはケージ。中には白蛇がおとなしく控えている。

 ぐるりぐるりと地下へ下ってゆくと、視界が開けた。
 紅白二匹の蛇が形作る門の向こうが会場らしい。
 垂れ幕には曲がりくねった文字でこう書かれていた。


『Welcome to the Nyoro World! ようこそ巳年!^ー^ラブ蛇イベント』


 突然の雨に降られ、やり過ごすために洞窟へ入ったのは機嶋 結(ja0725)だ。
 いわば偶然の来場である。
「お一人様100久遠いただきますにょろ。四つのゾーンに分かれてますにょろ」
「……」
 二匹の蛇をモチーフにした入場口をおそるおそるくぐる。
「なぜ此処に来たのかしら……」
 ため息を漏らした後、結は場内を見回す。
 壁には協賛企業のポスターが貼られている。
 空気は初夏のようなもわっとした暖かさだ。


●Nyoro 1 〜ボールニシキヘビのハッピーちゃん〜

 25度を上回る室温には以下の経緯があった。
(いかに大人しいといっても、蛇も疲れるでしょう)
 御堂・玲獅(ja0388)は事前に得た知識を元に、係員と交渉した。
 蛇が安心できる環境を作り、ストレスを減じる工夫を提案したのだ。
 最初は係員も渋った。
 しかし玲獅の目的が「動物虐待反対」と声高にイベントの中止を求めることではなく、円滑な写真撮影や客と蛇のふれ合いを支援することだと理解し、協力へと態度を変えた。
(今日ハ温カイナ。ガンバロウ)
 ハッピーは褐色の長い体をくねらせる。

(……蛇……す、少し怖いのですよぉ……)
 月乃宮 恋音(jb1221)はおずおずと列の前に進み出た。
 部活の仲間に「度胸と根性をつけた方が良い」と言われてやってきたが、イラストとは違う本物の蛇を前に、やはり足がすくむ。
「怖いですか?」
 玲獅に問われ、恋音はこくこくと長い前髪の下でうなずく。
「ハッピーちゃんは臆病なんです。毒もありません」
 暗褐色の斑紋は毒々しいが、おとなしく恋音の膝の上で丸まっている姿は不思議と愛らしい。
「……あれ……本当にボールみたい……。……か、可愛いかもしれません……」

「おおっ、本当に丸くなる!」
 恋音と同じく、九朗も歌い文句そのままのボールニシキヘビの様子に感動の声を上げた。
(この手触りも新感覚……モフモフにゃ負けるが、悪くないな)
 九朗の手の下で、ハッピーもうっとりしている。
(気持チイイ……)
「あ、係のひと、写真お願いしまーす!」
 撮影終了後、忘れないうちに九朗はアンケート用紙にペンを走らせた。
「モフマスターとしての新たな可能性に気づかされた。
 これからはスベマスターも目指そうと思う」

(蛇は、イギリスでは蘇りの象徴だし、一方では、イヴを甘言で唆して知恵の実を食べさせた、悪魔が形どった、生き物……)
 どうせなら大きな蛇と写真を撮ろうと考えた沙耶は、迷わずハッピーのもとへやってきた。
(何処をなでれば、喜ぶんだろう……)
 体のほとんどが胴である蛇の、腹よりは背をなでた方がいいのではないかと考え、長い背をなで下ろす。
 沙耶の膝の上で置物のようにおとなしくハッピーが丸まった。

「この写真で年賀状も作ってもらい、経費削減と致しましょう」
 白兎の申し出に、すまさそうにスタッフが答える。
「すみません、ここでは印刷まではやってないんですにょ……でも写真はお持ち帰りいただけますので」
 なるほど、と白兎の興味は次なるブースへ移る。
「手先は器用な方ですし、マフラーを作るとします。あ、ボランティア等と金にならない事はしない主義でして」

「たぶん私の前世は蛇だったのだろう。うん、きっとそうだ」
 そうつぶやきながら――実際にスマートフォンでSNSで実況中継しながら、ルーガ・スレイアー(jb2600)が撮影用の椅子に座る。
 ハッピーと顔を並べ、仲良し度合いがわかる一枚が撮れた。
『ハッピーちゃんと私。さて、どっちがどっち?』
 係員に写してもらった画像をSNSにアップロードしたルーガは、入場時にもらったアンケート用紙に感想を書き込む。
「ヘビかわいすぎワロタwwwwww」
 キー入力での発言同様、手書きでも草を生やす癖がついているルーガである。

 意気込んで会場に乗り込んだものの、一メートルを超す蛇の体長を見た途端、ひるんだのはひなこだ。
 係員もついているし、大丈夫だろうけれど、もしかして、万に一つということもある。首を絞められたりしたら……。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。この子はおとなしいみたいだから」
 話しかけてきたのは、ひなこの知っている顔だった。
「あっ、召喚研の所長さん!」
「召喚技術研究所の所長をやってるアッシュ・クロフォード(jb0928)です。以後よろしくお見知りおきを」
「どーも、なんでも放送部の栗原ひなこでっす! こちらこそよろしくね」
 バハムートテイマーのアッシュは爬虫類も得意中の得意だ。
「ひなこちゃん、記念撮影するなら一緒にどう?」
「うん、撮ろう!」
 並んで座った二人の膝の上、ハッピーが体を伸ばす。長い。まだ続くのかと思うほど長い。
(せっかくだし召喚獣のこととか詳しく聞かせてもらっちゃおうかな)
 ひなこはアッシュの隣でピースサインを作り、膝に乗った重みを意識しまいと努める。


●Nyoro 2 〜アオダイショウのサチオくん〜

 サチオは平和を愛していた。
 しかし自らの姿――青みがかった緑色の細かい鱗、どこへでも巻きつく形状、小さな黒い目と細い舌が人間に恐れられることも知っている。
(愛想ヲ振リマイテモ、相手ニハ通ジナイ)
 ほらまた、こちらを見るなり震えて人影に隠れた人間が一人。

 結はにぎわう写真撮影ブースを避け、「地上20cm体験コーナー」へ向かう。
 100久遠の分は楽しめそうだ。

「サチオさんって呼んでいいかな? 短い時間だけどよろしくね〜」
 礼儀正しく蛇にも挨拶したのは森林である。なで方も優しい。
 サチオは棒にだらんと四重巻きの状態で、森林に甘える。
 外の寒さを思い出した森林は、初めての編み物に挑戦することにした。

 須藤 雅紀(jb3091)は面食らった。
(動物とのふれ合いイベントって聞いたら、普通、うさぎとか犬とか、せいぜいヤギだと思うよな)
 毛の生えた温かいもふもふ系は一匹もいない。
 部活仲間、香月 沙紅良(jb3092)を誘ったのは、決して悪意があってのことではないのだ。
 会場の門をくぐったときに最初の予感が沙紅良の中で響いた。仏壇の前で鳴らすお鈴のように。
「Nyoro……まさか……」
「サチオくんと撮影したい方はこちらへどうぞ」
 スタッフにうながされ、沙紅良は前に出る。
 棒に巻きついた蛇がいる。沙紅良は血の気が引くのを感じる。体はこわばり、指先が震える。
 雅紀はそんな沙紅良の様子を注意深く見つめる。
(大丈夫かn…あ、駄目だ)
 くらりと卒倒しそうになった沙紅良を雅紀は支える。
「蛇、苦手?」
「そ、そのようなことは……」
「じゃ、先に撮影していいよ」
 蛇が怖いとは決して言わない沙紅良だが、片手はしっかりと雅紀の服の裾をつかんでいる。
「ん?」
「あ、いえ……その…ご、ご一緒に如何かと……」
「うん」
 雅紀はサチオの頭をなで、自分の腕に巻かせてみた。
(イインデスカ? デハ遠慮ナク)
 写真には二人で納まる。隣から伝わる震えが徐々に治まってきた。

「サチオの頭部には虹色の光沢があるんですにょ。綺麗でしょう」
「ほぉ」
 スタッフの説明を受ける桐生 水面(jb1590)は、平常心を崩さず撮影に挑む。
(山とか行ったら普通に出てくるもんやしなぁ。別に怖いとかはないわけや)
 年賀状のネタとしておもしろそうだと思った。それがイベント参加理由だ。
(まぁ別にかわいいとかもないんやけど)
「撮りまーす」
(アオダイショウと一緒の写真送ったら父さんたちびっくりしそうやな)
 実はサチオがびっくりしていた事実を水面は知らない。
(僕ヲ全ク怖ガラナイ女ノ子、珍シイ!)

「爬虫類か……恒温動物は可愛いが、変温動物もなかなか味があるな」
 続いて亀山 絳輝(ja2258)と九十九(ja1149)が連れ立って訪れる。
「……まいった、予想以上に可愛いな」
 絳輝はサチオを怯えさせないよう、鱗に沿ってそっとなでる。男くさい振る舞いの端々に優しさが見え隠れする。
 そんな絳輝にサチオも心を許したのか、首をもたげて甘える。
 絳輝はサチオを棒から外すと、中華服を着た九十九の首に巻きつけてみる。
「ひ!!!!」
 首をすくめようとする九十九だが、サチオはしっかと九十九の肩に乗ったまま。
(い、犬と比べたら可愛いもんさね)
「年賀状用と思い出用と複数枚お願いします」
 カメラのレンズがとらえたのは、いたずらそうに笑う絳輝と、冷たいマフラーを巻き、神妙な顔をした九十九だった。

「ほう、なかなか巨大な蛇であるな。ふむ、この蛇をなでればよいのであるか?」
「どうぞ〜。それにしてもお客さん、いい体してますにょ。筋骨隆々。いかにもサチオが好きそうな」
 係員にうながされ、サチオの前に立ったマクセルはそっと手を伸ばす。
(ぬぬ、何とも奇妙な感覚であるな)
 棒に絡みついていたサチオは、赤褐色の肌を持つマクセルの腕に乗り移ってきた。
「っま、待つのである。我輩は柱ではないのである。我輩に巻きつこうとするなである?!」
 とき既に遅し。
「そして係員! この状態を写真に撮るのではないのである!」
 太い腕に尻尾を絡め、胴にしっかり巻きついたサチオは眠ってしまったのか、マクセルから離れる気配がない。
(落チ着ク……)


●Nyoro 3 〜編み物体験〜

 入場後、まっすぐ編み物体験ブースへ向かったのは、遊佐 篤(ja0628)とリゼット・エトワール(ja6638)だ。
 篤は椅子に座るなり、毛糸玉を左右の手に取り、リゼットの顔と見比べる。
(黄色? いや、こっちの緑の方が似合うか)
「篤さん、私の顔に何かついてますか」
「んーとだな……あ、何でもないからな? 気にすんなよ?」
「んぅ……何でもないんですか」
 リゼットもなかなか毛糸の色を決められず、ときおり篤の顔を見ては首をかしげる。
(黒か紫がいいでしょうか……それとも)
 鏡写しのように同じ行動をする二人である。
 邪魔するのも野暮かと思ったボランティアスタッフは、呼ばれるまで二人を見守ることにした。

 牧野 穂鳥(ja2029)は黙々と編み棒を動かし始めた。
 あまり手先が器用ではないため、時間がかかるだろうと踏んで早めのスタートである。
 選んだ色は赤。自分が使うマフラーとしては完成させられなくても、せっかくの来場記念だ。部屋のぬいぐるみに着せる程度のものは目指したい。
 遅れて隣にやってきた少女がすいすいと編み上げてゆく。

 編み物上級者の恋音は、柄の入ったマフラーを作ることにした。
 周囲から寄せられる羨望のまなざし、スタッフの「慣れてらっしゃいますね」の声に赤面しながら、ひたすら編み進める。
 やがて編み地に、額にピンクのハートマークをつけた薄緑色の蛇が現れる。
「お上手ですね」
 ボランティアスタッフの沙耶が話しかけると、恋音は首をすくめ、下を向いた。

 本当は着たかったスネークスーツをあきらめたルーガは、
「編み物やるなう」
 ネットで宣言して毛糸玉に手を伸ばす。
 数センチ編める度に、「しっぽできたなう」「胴体しましまなう」、スマートフォンで実況する。

 白兎は早くも毛糸を一玉使い切り、二玉目に突入している。
 許される限り多量の毛糸を用いて長いマフラーを作るつもりだ。
(だって材料費タダですから)


●再びNyoro 1 〜ボールニシキヘビのハッピーちゃん〜

 人間界へ渡って百年ほど経つエルフリーデ・シュトラウス(jb2801)も、蛇に触るのは初めての経験だった。
「……重いぞ、お前」
 ハッピーはつぶらな瞳でエルフリーデを見上げる。
(ホメラレタ!)
 蛇は嫌いではないエルフリーデだが、むしろ写真撮影があまり得意ではない。
「撮りますにょ〜。はい、こっち向いてくださーい」
「む……」
 シャッターが下りる瞬間、つい仏頂面になるのをこらえる。対するハッピーは花丸模様、喜色満面だ。

 続いて悪魔がもう一人。
「お〜、これが人類の世界のヘビか〜」
 バアルは目を輝かせ、ハッピーを触る。
「ふ〜む……魔界のヘビと違ってちっこいの〜。つるつるきれいじゃの〜」
 悪魔といってもバアルはまだ子供、人類の行事や習慣に興味津々なのだ。
「挨拶が遅れたが、我輩はバアル3世。王である!」
 通じているのかいないのか、ハッピーはバアルの膝の上で丸くなる。
「むむむ〜」
 丸まったハッピーを見て興奮したバアルは、懐から神獣を取り出した。
「奇跡のコラボなのじゃ!」
 ハッピーの背に神獣カエルを乗せる。
 係員以外からは食べ物をもらわないようしつけられているハッピー、しかしこのごちそうはとてもうまそうだ。すぐ口に入れないと、跳んでいってしまうに違いない。
 ハッピーは口を開いた。
 神獣をぱくり。
 玲獅が止める暇もなかった。
「☆×■◎※▼〜!」
 バアルは悶絶してごろごろと床に転がる。
「お客様、どうされました? お客様?」
 スタッフはバアルの様子に気を取られ、ハッピーの腹がふくらんでいるのに気づかない。
(ゴチソウサマデシタ)

「次の方、どうぞ」
「へびなのです! すごく可愛いのです!」
 瞳をきらきらさせながらハッピーに近寄ってきたのは、メイド服姿の内藤 桜花(jb2479)。
 こう見えても動物とのコミュニケーションは得意な方だ。
「一緒に撮影するのです☆」
 いつもどおりの満面の笑みで、正面からハッピーの顔をのぞき込む。
「なでなでしたりするのです!」
 おそらく場内にいるすべての客の中で、打算も強がりもせず、最も純粋に蛇を「可愛い」と感じているのが桜花だろう。

 悪魔の来訪の続くこと、続くこと。
 はぐれ悪魔に大人気を博すボールニシキヘビ、ハッピーちゃん。
 当の本人、いや本蛇は客の種族を見分けているかは不明である。

「先に龍仙様からどうぞ。私は次に乗せますので」
「おお、結構重いですね」
 龍仙 樹(jb0212)と氷雨 静(ja4221)は相手の肩や頭に蛇を乗せ、交互に記念撮影をする。
 テンションの高い客が続いた後だけに、ハッピーもほっと一息ついているようだ。満腹のせいかもしれない。

「他にハッピーちゃんと撮影したい方はいませんか?」
 係員が呼びかける。
「どうやら御堂さんで最後のようです」
 合図を受け、玲獅は撮影される側に回る。
 ほんの数十分ではあったが、なついてくれたハッピーは玲獅の膝の上でのびのびと体をくねらせた。

「待ってくださーい!」
 入場時にスタッフに止められた渚が、ハッピーとの撮影ブースへ走ってきた。
 念願かない、渚は愛蛇を連れての入場を許可されたのだ。チラシの注意書きで禁じられているのは「蛇以外のペットの持ち込み」と読めるためである。
(オオオ、色白ノにゅーふぇいす?)
 ハッピーが鎌首をもたげる。すかさずスタッフがハッピーを押さえる。
「受付から連絡は受けてます。ただし、ケージからは出さないでくださいね」
「はい。まー君、ハッピーちゃんとご対面ですよ! お友達になれるかな」
 白蛇と褐色蛇、まー君とハッピーが金網越しに見つめ合う。
(一緒ニ働ク?)
 スタッフ数名が立ち合い、渚は二匹と共に写真に収まった。愛蛇との思い出が増え、感無量だ。


●Nyoro 4 〜特製スネークスーツで地上20cm体験〜

 場内の一角で異様な熱気を放つ二人がいた。
「ホワイトスネーク、カモン!」
 頭に白いタオルをターバンのごとく巻き、笛子を手にした九十九の声が響く。
 合図に応じて踊る蛇役は、特製スネークスーツに体を納めた九朗だ。
 ひょろろ〜、ひょろり〜、九十九の笛の音に合わせて、九朗は身をくねらせる。こういう場では楽しんだ者勝ちである。
(それにしても暑いな、これ)
 人垣からやんやと拍手が起こる。
 懐かしのアラビアン芸にいそしむ二人の横を、すいーっと別のスネークが通っていった。

 スーツの中に入っているのが結であることは、傍目にはわからない。
「……なんか、変な感じ……」
 うつぶせなのに前方が見えるのだ。
 ごろごろ転がろうとすると、安全装置が働き、うつぶせ状態に戻るようになっている。
 結はしっかり前を見すえ、ジグザグ走行を試みる。急進、方向変換、急進。センサーの反応は悪くない。
 前方に悪魔の姿を見つけた結は、必死に体をよじって避ける。動力は電池であり、必死に身体を動かさなくてもいいのだが、とっさの反応が出てしまうものだ。

 サチオとの撮影では顔面蒼白になっていた沙紅良は、スネークスーツ試着コーナーで元気を取り戻した。
「撃退士の活動に何か役立つかもしれませんし」
 早速、サイズに合うスーツを選び、腹ばいになる。
(逆に僕はこっちが辛いよ)
 雅紀は試着せず、沙紅良を見ている。
「視界的には匍匐前進的な感じで御座いましょうか。……っと、違いますね。モニターで前や横が見えます。視界は広いです」
(本当に変わった娘だな)
 思わず笑みを漏らす雅紀である。

 マクセルには思いがけない悲劇が訪れた。
「ぬ、我輩の体格で着られるスーツがないである?!」
「申し訳ございません、お客様」
 丁重に謝られても、体験できないのに変わりはない。他のひとがすいすいと地上20cmをはい回るのを、悲しく見つめる。
 あわれモヒカンマッチョ天使。

「救護者発生です」
 順調に楽しんでいた樹は途中で視界に酔い、動けなくなった。
「大丈夫ですか? 今、脱がせますからね」
 公衆の面前でスーツをむかれるのが少し恥ずかしい樹。しかしそうも言っていられない。
「……甘く見ていました…ヘビの世界、恐るべし……」
 蛇に生まれてなくてよかった、と樹がアンケートに書くのは、目が回った状態から回復した後のことである。


●再びNyoro 2 〜アオダイショウのサチオくん〜

 マフラーならぬスカーフ状の作品を編み終えた穂鳥は、サチオとの撮影に挑む。
 少し前まで、マクセルに絡みついたサチオをはがそうとスタッフが苦闘していたことは知らない。
(ぞわっとするのに目が離せないこの魅力……)
 穂鳥はサチオと見つめ合う。サチオの目に穂鳥はどう映っているのだろうか。
「はい、撮りますにょ〜」
 しばらくは携帯電話の待ち受け画像としてその写真を使おうと穂鳥は思う。
 ハッピーは休憩時間に入ったようで、撮影ブースにいない。他の種類の蛇も見たかった、と穂鳥はアンケートに記入した。

 種類が二匹と言うのは少ないな。予算的に厳しいのかもしれないが――絳輝も穂鳥と同様の意見を書いた。
 編み物ブースからあふれた机には、マフラー制作の参考となる写真が何枚か置いてある。
「ジムグリという紅い蛇は可愛いな」
 手芸は弟の担当だ。しかし姉として、やるからにはがんばりたいところである。


●Nyoro special 〜クリスマス抽選会〜

「記入済のアンケート、回収しますにょ」
 白兎は気合いを入れて飾り立てた用紙を係員に渡す。記入のお礼として文具セットを受け取る。そう、確実な報酬としてこれをもらいに来たのだ。
「では抽選しますにょろ!」
 係員はマイクを片手に、もう片方の手をアンケート回収箱に入れる。

「2等:歳末ギフトは、御堂・玲獅さん、機嶋 結さん、亀山 絳輝さん、氷雨 静さん、香月 沙紅良さん、以上五名の方々がご当選です!」

 思いがけないといった顔で賞品を受け取る沙紅良。結の表情は変わらない。

「1等:人気温泉宿泊チケットは、牧野 穂鳥さん、ルーガ・スレイアーさんのお二人です! おめでとうございますにょろ〜」

 神様仏様学園長様、どうか、と念じていた九朗が肩を落とす。
 穂鳥は「次回があればぜひまた参加したい」とアンケートに書いたのだが、次に巳年が回ってくるのは十二年後。さすがにこの島を離れているだろうと思う。
 もう一人の1等当選者、ルーガはちょうどマフラーを編み終えたところだった。
「完成なう(*´ω`*)」
 つぶやいた直後に、報せを受ける。
「抽選の温泉宿泊チケット当たったwwwwww」


●再びNyoro 3 〜編み物体験〜

 撮影を終えた客が続々と編み物ブースにやってくる。
 このイベントで一番人気となるのが編み物コーナーとは主催者も予想していなかったようで、待機者が列をなす事態となった。

 見事な作品を編み上げた恋音が席を立つ。
 代わって座ったのは静だ。
 手際よく編み棒を動かす静の膝に、音もなく編み地が伸びてゆく。
 抽選結果のアナウンスが聞こえた。
「当たりましたね。代わりに受け取ってきますね」
 樹が2等賞品を受け取りにいく間に、マフラーは完成した。
 静は戻ってきた樹の首にマフラーをかける。カラフルだが男性がつけてもおかしくない色合いだ。

 エルフリーデは白い毛糸を選んだ。手伝いは不要。慣れた手つきで可憐なマフラーを作り上げる。
(伊達にこちらに長くない)
 もちろん白蛇が幸運の象徴ということも知っている。

 玲獅は真帆に、森林は沙耶に編み棒の動かし方を教わる。
 水面もその隣の席についた。
(編み物をやって女子力を高めよう! ……というのはまぁ冗談としてや)
「うちこういうんは初めてやから上手くできるやろか……」
「大丈夫ですよ」
 完成を目指し、集中して編み進める三人。ふと見ると森林の作品にはゆがみが生じ、幅が一定ではない。
「あれ? 何だか形が歪に…」
 それでも、首に巻けばぽかぽか暖かい。ほつれないよう、最後の留め方も肝心だ。

「編み物! 面白そうなのです!」
 桜花の作るマフラーは最初はよかったが、どこかで間違ったデザインになった。
 柄がモアレを起こし、くすんだ色と鮮やかな色が混在し、目に痛い。
 とはいえ本人は気にしていない。
「これで完璧なのです! かわいいのです!」

「お。リゼットうまく編めてるじゃん!」
 自らの手もとは隠しながら篤が言う。
「初めてなので…あまり自信が……」
 リゼットが編むマフラーもどうやら完成間近だ。

(編み物コーナーは近づかないようにしなきゃね……)
 注意していたのに、アッシュに連れていかれたひなこは、
「うぅっ…あたしこういうのちょっと苦手で……」
「編み方なら教えてあげるよ」
 逃げ場を失い、マフラー制作に挑戦するはめとなった。
 横目で見れば、アッシュの編み目は均一に整っている。
(アッシュくん、器用だなぁ)
 ひなこがため息をつくと、隣から手が伸びてきた。
「えっ、えっ! あの…ちょっ……!?」
「ここをくぐらせて、輪っかにするんだよ」
 手を取られ、その体温の差を感じ、ひなこの顔が赤くなる。
 教えてはもらったものの、やはり微妙な完成度。まるで包帯だ。
「うぅっ、どーせ不器用だもん……」

 ……白兎の編むマフラーは全長四メートルに達した。


●A Happy Nyoro Year!

「よいお年をお迎えくださいにょ! 外は寒いですから、よろしければカフェオレどうぞ〜」
 係員に見送られ、客たちは帰ってゆく。

 絳輝は2等賞品と自作マフラーを手に、帰路につく。

 道すがら、真帆は部活の看板猫と写真を撮ってみようかと考える。

 渚は完成した白いマフラーを首に巻いた。赤い目も再現した力作だ。
 マフラーかまー君か、傍からは見分けがつかないだろう。

 長いマフラーを地面すれすれに垂らす白兎の足取りは軽い。
 今日の収支は大幅プラス。100久遠を元手に、かなり稼げたといえよう。

「えっとだな…リゼット。寒くないか?」
「……寒いのすごく苦手です」
 篤は若草色のマフラーを、震えるリゼットの首に巻いた。
「これで暖かいかな。一緒かえろーぜ? 送る!」
 にかっと笑いかけた篤を、背伸びをしたリゼットが見上げる。
「私も」
 クリーム色のマフラーが篤の首にかけられた。
「…え? くれるのか? そっか……マジ嬉しい! 大事にする!」
 篤はリゼットの手を握る。リゼットはあわてているが、体温を分け合った方が暖かいに決まっているのだ。

 アッシュはひなこにマフラーをプレゼントした。髪を結ぶリボンと合う、紫色のマフラーだ。
 ひなこの作った包帯も、アッシュの首に収まる。
「大丈夫、首に巻けばちゃんと暖かいよ」
 揺るがない微笑み。見事なフォローである。

「一年の終わりに素敵な思い出をありがとうございます、氷雨さん」
「喜んでいただけてよかったです」
 静と樹は穏やかな視線を合わせ、手をつないだ。

 疲れて眠った沙紅良をおぶって帰る雅紀は、確かな重みと体温を背中に感じている。
(きっと来年も……)

 アンケート回答を集計するイベント主催者も、予想以上の盛況に満足していた。
 干支が次にめぐってくるときには、
・撮影用の蛇の種類を増やす
・編み物の毛糸は一人一玉制限
・物販コーナーを作る
・スネークスーツのサイズ展開
 他に何かあるだろうか。
 十二年後を考えるのは気が早いか。まずはハッピーとサチオをねぎらってやろうと思う主催者であった。
 蛇たちは蛇たちで、勝手なことを考えている。
(ヨク働イタシ、春マデ冬眠シヨウ)
(カエル食ベタイ)


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: サンドイッチ神・御堂・玲獅(ja0388)
 いつかまた逢う日まで・亀山 絳輝(ja2258)
 護楯・龍仙 樹(jb0212)
 駆逐されそう。なう・ルーガ・スレイアー(jb2600)
 伝説のシリアスブレイカー・マクセル・オールウェル(jb2672)
重体: −
面白かった!:10人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
恋する二人の冬物語・
遊佐 篤(ja0628)

大学部4年295組 男 鬼道忍軍
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
いつかまた逢う日まで・
亀山 絳輝(ja2258)

大学部6年83組 女 アストラルヴァンガード
優しき翠・
森林(ja2378)

大学部5年88組 男 インフィルトレイター
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
恋する二人の冬物語・
リゼット・エトワール(ja6638)

大学部3年3組 女 インフィルトレイター
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト
ドラゴンサマナー・
時駆 白兎(jb0657)

中等部2年2組 男 バハムートテイマー
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
猛き迅雷の騎獣手・
アッシュ・クロフォード(jb0928)

大学部5年120組 男 バハムートテイマー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
夢幻の闇に踊る・
桐生 水面(jb1590)

大学部1年255組 女 ナイトウォーカー
MEIDO・
内藤 桜花(jb2479)

大学部8年162組 女 ナイトウォーカー
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
エルフリーデ・シュトラウス(jb2801)

大学部8年61組 女 ルインズブレイド
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
須藤 雅紀(jb3091)

大学部3年63組 男 ルインズブレイド
シューティング・スター・
香月 沙紅良(jb3092)

大学部3年185組 女 インフィルトレイター