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マスター:朝来みゆか
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/20


みんなの思い出



オープニング

●純情ゲッター(仮)

「敵は学園内にいる」

 音楽準備室では、昼休みを利用したゼミナール形式の特別授業が行われていた。
 幅広く現代コミュニケーションを研究する高柳ゼミ、しかし陰で「非モテゼミ」と呼ばれている。あえて口にする参加者はいない。

「予定でいくと今日のテーマは『モテと非モテの境界線』だったが、悠長なことを言っていられなくなった」
 高柳 基(jz0071)が集まった面々を見回す。 学生たちのファッションはそれぞれだ。
 トップス(この場合、企業のロゴが入ったノベルティTシャツである)をボトム(いわゆるズボンである。ジャージのパンツであったりもする)の中にぎゅうぎゅうと入れている者。
 長袖、長いスカートで体のラインを隠し、分厚い靴下を履いている者。
 黒い革ジャン、革パンツに身を包み、サングラスで視線を覆い、全身につけた金具をじゃらじゃらと鳴らしている者。
 中には高柳の目から見てかなりの美形もいる。しかし、どこか残念な要素があり、その部分が強調された結果、なるほど恋愛と無縁だろう思われる境遇に陥っているのだ。
 コの字形に机を並べてはいるが、彼らはあまり互いの姿を見ようとしない。
 視線を合わせないのが礼儀だと思っているのか、あるいは鏡をのぞいた気分になるのを避けるためか。
 ゼミの初参加者はそれまでのさびしい半生を語るのが通例だが、火急の様子の高柳を見て口をつぐんでいる。

「恋愛詐欺師が現れた。恋人いない歴=年齢の者を狙っては、そいつの純情を奪って捨てる。要するに、上げて、落とす。地の底まで。敵は一人じゃない。少なくとも男女三人はいると見られる」
「被害届が出ているんですか」
 学生の問いかけに、高柳が神妙な顔でうなずく。
「先週の統計で、男子四名、女子二名から涙の報告があった。記念日を一緒に過ごす約束までしたのに、相手が消え失せたと。泣き寝入りの数も考えると、相当数の学生が被害に遭っているようだ」
「でもこんなに学生が多くちゃ、敵に遭遇するのがいつになるかはわかりません」
「大丈夫。敵は恋愛弱者と見られる候補の中から、誕生日が近い者、クリスマスが近い者、何らかの記念日を間近に控えた者を狙って近づいてくる。学食か靴箱あたりで、もうすぐ入学一周年なのにせっかくの記念日を一人で過ごすなんて嫌だ……とつぶやいていれば、簡単に誘い出せるはずだ」
「そんなにうまくいくでしょうか」
「うん、その慎重さが君を君たらしめているんだ。でも人生には釣り針を垂らさなきゃいけないときもある」
「敵である恋愛詐欺師は、被害者から何を奪うんですか」
「いい質問だ。奴らは金品をせしめる。金に困っている美少女のふりをして、甘えてプレゼントをねだるみたいだな。でもつぎ込んで一番痛手を受けるのは、純情、心そのものじゃないか?」
「依頼斡旋所にお願いすればいいんじゃないでしょうか」
「失恋しました、って斡旋所に言うのか? 詐欺師につぎ込んだ挙句、依頼参加者にも報酬を支払うのか? 被害者の気持ちをもっと考えてくれ」
「……先生、もう少し情報がないとどうにもなりません。そもそも俺が非モテでさびしい冬を迎えようとしているからといって、それを知ってるのは寮のおばちゃんと、ここにいる奴らくらいだし」
「わかった。気が急いたな」

 高柳がホワイトボードに要点を並べ始める。

詐欺師集団「純情ゲッター(仮)」
・美少女A……リリカもしくはヒバリと名乗る。高い服をねだり、被害者が支払う間に店から消える。オリジナルスキル=挨拶代わりのキス。被害:小等部〜大学部
・少年B……みすぼらしい身なり。名乗らない。小銭をせびる。手をつなぎ、将来の約束をする。足が速い。出没地域:中等部校舎付近。被害:中等部〜
・男?女?……「恋人がいたことがない」が決まり文句。見た目=二十歳過ぎ。名前=セラ。活動時間帯=夕方〜夜。被害:高等部〜大学部の男女(教師も?)

 キスの部分にアンダーラインを引き、高柳はため息をついた。
「破壊的なスキルだ。被害範囲も広い。今のところわかっているのはこれくらいかな」
「少年Bは恋愛詐欺とは違うんじゃないですかね」
「セラって奴が首謀者のようで、美少女Aと一緒にいるところや、少年Bに食べ物を買い与えているところが目撃されている。このまま育ったら少年の将来はジゴロだ」
「ジゴロって……何だ」
「説明できないけど、わかる、わかるぞ……! 俺たちとは正反対の存在だと」
 高柳は学生たちの私語に胸を痛めつつ、そっとペンのふたを閉めた。
「何人かで協力してもいいし、各自で調査してもいい。フィールドワークと思って、来週のこの時間までに頼む。どんなに相手が魅力的でも本気になるなよ」


リプレイ本文

●これは演技です

 中等部校舎の学食。
 ポラリス(ja8467)は雑誌『en・en』を開いた。『特集:この冬こそ愛される女になる!』と書かれた表紙を顔の前に掲げる。
 机には『彼をとりこにする極意』や『恋と幸運引き寄せBOOK』などハウツー本も置いてある。
「何で私ってモテないのかしら……」
 声を張った独り言は演技である。
 中等部生らしいグループがちらちらとポラリスを見る。
 普段のポラリスを知る友人が通りがかっても彼女とは気づかないだろう。制服はきっちり着込み、黒髪は飾りけのない三つ編みにまとめ、眼鏡の奥の目はカラーコンタクトを外して黒く戻した。
 片耳にはめたイヤホンから亀山 淳紅(ja2261)の声が聞こえる。
「さっきさぁ、めっさ寂しいもん見たんよー! ……いや、中等部校舎の学食なんやけど。可愛え女の子がさぁ、『王子様はどこ……』ってつぶやきながら、恋人のできる本みたいなん読んでてん!!」
 ポラリスは淳紅の台詞を復唱する。
「私の王子様、どこにいるのかしら……」
 今回の作戦では淳紅とペアを組み、お互いの状況を把握できるようハンズフリー携帯電話をつなげている。
 淳紅の声の背後から複数の足音が聞こえる。
 こちらに変化があれば、すぐ淳紅にも伝わるはずだ。

「言われてみれば、私って『恋人いない歴=年齢』だわ……」
 ここにもまた非モテを自称する女生徒一人。
 六道 鈴音(ja4192)が放つ『恋人欲しいオーラ』の裏側には『人の心を弄ぶ輩は灰にしてやる』という決意が隠されている。
 場所は大学部のラウンジだ。
「恋人欲しいなぁ。クリスマス前の駆け込みなんかじゃなくて、運命の人に出会いたい……」
 ティーカップを持った手を止め、暗くなった窓の外を眺める。
 非モテと呼ばれる人たちはどんな人種なのか興味を持ち、幼なじみから聞いたゼミに参加したところ、高柳の依頼を受ける流れとなった。
 待機二日目、囮として寂しい女を演じるのも慣れてきた。

 常に鈴音のそばに潜み、彼女の動きをうかがう男は元非モテ騎士友の会の会員、星杜 焔(ja5378)である。
 元、とつくのには理由がある。『彼女いない歴=年齢』だった焔には最近、婚約者ができた。しかし長年の思考習慣は容易に消えるものではない。
 彼女ができたところで、その娘が特別なだけでモテ系になったわけではないのだ。
 幸せに震えながらも脳裏には、可愛くない子供扱いを受けて育った記憶がこびりつく。
「やっぱり俺なんかに彼女ができるとか、夢幻に過ぎなかったんだ……」
 ネガティブオーラ全開でぼっち飯を口に運ぶ焔の上に、
「ここいいかな? 一人より、二人で食べる方がおいしいよ」
 甘い声が降ってきたのは、午後八時過ぎのこと。

 島崎輝星(jb2123)は彼氏募集中の美少女がいないか、聞き込み調査を開始した。
 目指すは少女詐欺師の捕獲だ。
 既婚の恋愛豊富な女性として、少女たちの恋愛相談に乗る。プロフィールの半分は事実、半分は演技だ。既婚なのは確かだが、輝星自身も恋愛に憧れて高柳のゼミに参加した背景がある。
 小等部から高等部の校舎を二日かけて歩き回ったが、一向にリリカにもヒバリにも当たらない。
「恋人募集中のカッコいい男の子がいるみたいよ」
 釣り針を垂らしてみる。目的外の飢えた少女たちが引っかかったときは、海にリリースする必要があるが。

 カッコいい男の子はその頃――
「あーあ。折角クリスマス直前にバイトの給料日だってのに……」
 自動販売機に話しかけていた。
「今年のクリスマスも一人か。ぼっちじゃなけりゃ、プレゼントやらレストランやら予約したんだけどな〜……」
 コインを投入し、投げやりにボタンを押す。
 がごん。缶が落ちる音が響いた。
 赤いランプが派手に点滅し、当たりが出ればもう一本、の表示が輝く。
 小田切ルビィ(ja0841)は背後に人の気配を感じた。
「当たりだよ、おめでと!」
 身をかがめたルビィの耳元で、弾む声が告げた。
「今年のクリスマスは終わってないよ! まだ始まってもいないじゃない?」


●嘘がネセサリィ

「貴方は大学部?」
「いや、高等部。よく間違われるけど……」
「お酒はまだ飲めないんだね」
 大学部の学食で、じっと焔を見つめる金色の瞳。
 薄桃色のスーツを銀色のタイで引き締め、華奢な体躯、ワイングラスが似合いそうな風貌だ。
 焔は話の方向を瞬時に計算した。おそらく相手は両刀、男も女もいけるクチだ。
「俺、手料理振舞うのが趣味で……」
「へえ」
 美青年が涼やかな目を輝かせた。
「いい食材を使いたいから、バイトかけ持ちして稼いでるんだ」
 ふと見れば、学食の入口に婚約者の姿があった。
 依頼遂行中だと悟ったのか、こちらに近づいてくる様子はない。
 焔の視線を追った美青年が顔を曇らせる。
「……貴方には誰か一緒においしいご飯を食べる存在がいるんだね」
「え」
 料理が得意というアピールは成功したが、予想以上に相手は敏い。
(非モテは世を忍ぶ仮の姿で……)
 あらかじめ考えていた台詞を口にする前に、美青年は席を立った。
「いきなり話しかけて迷惑だったよね。ごめん」
 せめて何か情報を得たい。焔は相手の手に触れる。S字に似たタトゥーが手首に見え隠れした。
「きみの名前と学年、教えてもらえるかな」
 美青年が答える。
「セラ。学籍はない」

 缶コーヒーを両手に持ったルビィの頬にそっと唇が触れる。
 間違いない、この小娘が美少女Aだ。
「やべぇ。女の子にそんなことされんの初めてだぜ」
 ルビィは大げさに照れて見せる。
「これから二人でもっといっぱい、初めてのことしようよ!」
「……マジで?」
「うん♪ ね、名前教えて」
「小田切」
「あたしはリリカ。小田切リリカって、いい名前じゃない?」
 リの音が三回続くが、そこは突っ込むべきところではないだろう。
 ルビィは缶コーヒーを一本、彼女に渡す。
「ありがと。結婚したら小田切くんのこと、何て呼んだらいい?」
「結婚っ? 出会ったばっかで」
 むせるルビィの腕にリリカは細い腕を絡ませ、
「時間なんて関係ない。あたし、運命感じてるもん」
 まつ毛を伏せて問う。
「あたしじゃ不満?」
「とんでもねぇよ。俺にゃもったいねぇっつーか」
 えへへ、とリリカはルビィの腕に頬をすり寄せる。
「嬉しいな。ね、何かおそろいのもの、持ちたくない?」
 来た。おねだりだ。
 ルビィは左腕をリリカに貸しながら、缶コーヒーを握った右手を懐に入れる。携帯電話を取り出す機会をうかがう。
「おそろいか〜……いい響きだな」
「指輪はする? ペンダントとか時計は?」
「リリカ…ちゃんの好きなもの、何でも買うぜ」
「ホント? 嬉しいな。おそろいのアクセつければ、いつだって一緒にいる気持ちになれるね」
(島崎に連絡するタイミングが無いな)
 向かった先が閉店後だったのは計算違いか。
「残念。明日も会ってくれる?」
「あぁ」
「絶対だよ。一緒にお買いもの行こ♪」
 一晩経てば熱から覚める男もいるだろう。
 ルビィはリリカの携帯電話の番号を訊ねた。しかし、リリカはそういった連絡手段を持っていないという。
 おやすみなさいのキスを受け、リリカと別れたルビィは、翌日の約束をメールで輝星に報せた。

 眠る前、淳紅は他班と連絡を取り、作戦の進行状況を確かめた。

・美少女A狙いの小田切・島崎ペアは接触成功。引き続き狙う。
・少年B狙いの亀山・ポラリスペアは進展なし。
・黒幕狙いの六道・星杜ペアはセラを名乗る美青年と接触したものの、短時間に終わった。

 音楽系ゼミと誤解して参加し、いつしか非モテゼミの常連と化した元非モテの淳紅だ。今も彼女以外には非モテを自認している。
 モテを武器とする恋愛詐欺師集団のやり口が気になるところである。
「あちらさんにも理由があるんやろうけど……まぁ、まずは話できる状況に持ち込まんとな!」


●隠された真実

 購買にはクリスマスオーナメントが並び、季節の歌が流れている。
「どこもかしこもクリスマス臭くて吐き気がするわ……」
「季節に罪はないんじゃないかな」
 後ろから声が聞こえた。
「冬は誰かに寄り添う勇気のない人の味方だよ」
 ポラリスの隣に立った男は、星を模した小さな飾りを手に取った。左手の袖口から痣のような模様が見える。
(狙いと違う相手が引っかかった?)
 ポラリスは携帯電話の録音機能を発動させる。
「私みたいな子に寄り添ってくれる人、いるのかしら……」
「貴女の心の声は、恋とは違うものを求めている気がするな」
「そんな……」
 金色の瞳に射抜かれ、ポラリスは形勢を立て直すべく『恋人を作りたいあなたへ』の本を握り締める。
(求めるのは真実。詐欺集団を暴くことよ)
「私だって恋がしたい」
「あいにく貴女よりもっと寂しい思いをしている人が僕を待っている」
「私より……?」
 ポラリスが瞬きをした間に、男は消えていた。

(あちゃー、撮り損ねたか)
 ポラリスと話す男を撮影しそびれた淳紅は、再び棚の陰に隠れた。
 古ぼけたトレーナーを着た少年がポラリスに近づくのが見えたのだ。
「お姉ちゃん、お金持ってる?」
「何の用?」
 淳紅は録画ボタンを押す。
「僕、学園の見学に来たんだけど、兄ちゃんとはぐれて……朝から何も食べてないんだ」
「迷子ね。先生呼んでくるわ」
 あどけない口調と、そっけない態度。淳紅のビデオカメラが二人のやり取りをとらえる。
「置いてかないで。倒れちゃうよ〜」
「仕方ないわね……何か買ってあげる」
 渋々財布を取り出したポラリスを見て、少年の顔がほころぶ。
「お姉ちゃんは命の恩人だ。僕の本当のお姉ちゃんになってよ」
「それだと、君のお兄さんと私が結婚するって意味になるわ」
「だって僕まだ子供だから。大人になるまで待ってくれるなら、お姉ちゃんと結婚したい」
「あらやだ、言うじゃない」
 ポラリスの口元が緩む。
 少年はポラリスの手から硬貨を受け取ると、
「やぎストラップも欲しい。もう五百久遠貸して」
 さらにお金をせびる。
(ビンゴ、やな)
「ポラリスちゃん、説得して」
 淳紅の指示で、ポラリスのスイッチが切り替わる。
「いいけど、借りたものは返すのが社会のルールよ」
 小銭をつかんだ少年が駆け出す。
 購買を抜け、校舎から飛び出し、人混みに突っ込んでゆく。
「今の会話、録音したでー!」
 少年は聞く耳を持たない。やむを得ない。
「Canta!‘Requiem’.」
 淳紅の詠唱が少年の足元に血色の五線譜を呼び出す。次の一歩は踏み下ろされずに宙で固まった。

 鈴音は屋上で耐える。釣りは持久戦だ。
「寂しさは共鳴するんだね。貴女の背中がずっと気になってた」
 待ち焦がれた声が聞こえた。日は沈み、島の輪郭に沿って灯が瞬いている。
 鈴音は振り返らない。
「私のことは放っておいて」
「夜風に嫉妬するよ。貴女の肌に触れることができるなんて」
 甘い声で甘い台詞を吐かれ、温かな腕に包まれる。左手首にタトゥーがある。
 待ちわびた至福の瞬間だ。鈴音はゆっくりと相手に身を預けた。
「お名前を教えてください……」
「セラ。貴女は?」
「鈴音です」
「綺麗な名前だね。貴女の凍った心、僕が溶かしたいな」
「もう溶けてます……」
 どこかで焔が砂を吐いていないだろうか。

 ルビィのメールに従い、輝星は彼らのデート先で待ち伏せた。
 サンタ衣装の陰に陳列された黒革のコルセットとミニスカートを物色する。SM女王風ボンデージファッションだ。
 ほどなくおそろいのマフラーを巻いた二人が現れた。
「好きな人にはついお金を費やしちゃうわよね」
 彼らをつなぐのが偽りの恋だと気づく者はいるだろうか。
「小田切くん、ワンピとコート、着てみていい?」
「ああ」
 試着室から出てきたリリカがルビィを見上げる。
「どう?」
「よく似合ってる」
「このまま着ていきたいな」
「ではタグ取りますね」
 店員がはさみで服のタグを切る。
「一万八千久遠になります」
 ルビィがレジに向かった途端、リリカは身を翻した。新品のコートに身を包み、野兎の速さで店を立ち去る。
 リリカの誤算は輝星の存在だった。
 女王然とした輝星がターゲットの腕をねじり上げる。
「押さえたわ、ルビィさん」
 支払いを終えたルビィは輝星に拘束されたリリカを見下ろす。
「とんずらするつもりか」
「そんな……小田切くん、『惚れたヤツには貢ぐんだぜ』って言ってくれたよね?」
「――悪いな。実はお前みたいな乳臭い小娘にゃ興味無いんだわ」
 リリカの目が見開かれる。
「人に騙されるってのは辛いモンだよな。……お前に騙された連中は、もっと辛かったんだぜ?」
 会話を録音した携帯電話を見せると、リリカは頭を垂れた。

「一緒にクリスマスのイルミネーションを観に行きたいです……」
「いいね。この冬の景色の全てを僕たちの味方にしよう」
 鈴音はセラが獲物に対して繰り出す手口を観察する。
 甘い言葉、たったそれだけ。
 貴女が欲しいと囁き、夢心地にさせる。
 デートの費用はセラが持ったり、割り勘だったりさまざまだ。
 ただし一日のうち、会えるのは夜の数時間だけ。
 他の時間帯、セラは鈴音と焔をまいて消えてしまう。もしや他の女と会っているのか。
(新たな犠牲者が出ていたら許せないわね)
 接触三日目、鈴音は三度目のデートを終えた後、帰りたくないと粘った。
「私、貴方のハートを捕まえたいです」
「僕の心はとっくに貴女のものだよ」
 鈴音はスキルを使ってセラを拘束する。焔が退路をふさぐ。
 セラは抵抗せず、鈴音の光纏姿を見ていた。

「こいつ、全然、口割らねぇんだ」
「お金は返してもらったけどね」
 ルビィと輝星がリリカを、淳紅とポラリスが少年Bを連れて現れた。
「リリカ! レン!」
「兄ちゃん、ごめん」
「……あたし、初めて失恋した……」
 セラが膝をつく。

「僕のアウルは消えたんだ」
 セラが事の次第を語る。撃退士としての収入を失い、妹と弟を養うため詐欺に手を出した。二人も兄の真似を始めたと。
 しかし少年レンにはアウルの兆候がある。それは救いだと焔は思う。
「これ読んでもっと乙女心を勉強しなさい!」
 ポラリスは厳しい口調で雑誌を与える。
「勉強することは他にもあるで〜。学園に入ったら、斡旋所で簡単な依頼を回してもらえるよう頼んだるから!」
 淳紅が請け合う。

 モテる者が幸せとは限らない。
「リア充と非リア、モテと非モテってどこが違うんだろうな」
「好きでもない人とゴールしちゃうのが本当の負け組じゃないかしら」
 ルビィの問いに輝星が返す。
 三人の処遇は教師と事務員が決定するという。
 見えない寂しさを抱え、虚ろな心を潤したくてセラは次々と標的を変えていたのではないか。鈴音は考える。
「高柳先生にお菓子出してもらおう」
 ポラリスは前を向いている。
 冷え込む久遠ヶ原島にクリスマスがやってくる。
 今日は音楽準備室で知る人ぞ知るゼミが開かれる。六人がまとめた少しせつない三兄弟のレポートはきっといい点をもらえるはずだ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
重体: −
面白かった!:7人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
今年は絶対焼かない・
ポラリス(ja8467)

大学部4年263組 女 インフィルトレイター
撃退士・
島崎輝星(jb2123)

大学部3年178組 女 鬼道忍軍