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マスター:朝来みゆか
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/02


みんなの思い出



オープニング

 ●都会の公園
 オフィス街の真ん中、高層ビルが林立する一角に小さな公園がある。
 遊具は少ない。昔風情のブランコと、高さの異なる鉄棒が二つだけだ。砂場もなければ、滑り台もない。木製ベンチが四つ、隣と距離を開けて設置されている。
 東側にはふたのついたゴミ箱が一つ。週に三度、自治体のゴミ収集車がやってくる他、基本的に「ゴミは持ち帰る」ルールが徹底されているため、ゴミ箱から中身があふれることはない。
 正式名称を知る者も少ない小さな緑の公園は、高層ビルで働く人々の憩いの場となっている。特に昼休みは、スーツ姿の男性や女性がベンチでくつろぐ姿が見られる。彼らはひととき陽の光を浴び、風に当たり、新鮮な気分で午後の仕事に戻るのだ。

 関東地方上空に居座っていた寒波が去り、その日の都心は春を思わせる暖かい陽気だった。樹木が内に隠しているつぼみや新芽を誘い出すかのように、空から太陽の恵みが降り注ぐ。
 時刻は十一時半過ぎ、弁当売りの業者が公園の脇にバンを停めた。正午に近づくにつれ、近隣のオフィスビルの出入り口からスーツ姿の人々が現れ始めた。
 そろいの制服を着て、色違いのペンを胸ポケットに差した女性二人組が公園入り口に差しかかる。それぞれカラフルなトートバッグを提げ、バッグの中には手製の弁当が入っている。二人は公園のベンチで昼食を取るため、早めにオフィスを出てきたのである。
「何、あれ……?」
 二人はパンプスの足をすくませた。
 黒光りする巨大な虫が公園の地表を這い、ゴミ箱にたかっている。一匹、二匹……数えるのもおぞましいが、十匹以上はいる。
 遠目に見て、一匹の体長が四、五十センチはあると推測される。南半球の密林ならともかく、現代日本の都会に生息するにはそぐわない大きさだ。男性の革靴よりも大きな頭と胸部に加え、そこから生えた足も触角もしっかり太さを保っている。
 生きた化石、あるいは黒い悪魔とも呼ばれる、生命力のたくましい虫。二人はその虫の形を知っていた。けれど口には出さなかった。どこの家でも嫌われる、ゴのつく名前を。
「ねぇ、ラジコン操作のおもちゃなんじゃないの? 皆が驚くのをテレビカメラで撮影する企画だよ、きっと」
「そうだよね。いくら何でも大きいし。あんなの見たことない」
「誰が操作してるんだろう?」
 二人は昼食を食べにきたことも忘れ、群れを注視し続けた。異様な真昼の光景を前に、それがフェイクだ、現実であるわけがない、と信じられずにいたともいえる。

 巨大ゴキブリの群れに気づかず、公園内に立ち入る者がいた。
 携帯電話を耳に押し当て、何やらまくしたてるスーツの男性が一人。会話に夢中になるあまり、ゴキブリの存在が目に入らなかったらしい。
 男が蹴った細かな砂利が一匹に当たった。
 ゴミ箱の周囲を歩き回っていたゴキブリたちは動きを止めた。獲物が来た――群れはそう認識したのだろう。男に向かって足を進める。
 男は後ずさりした。だが巨大ゴキブリのスピードは速かった。近寄ってきた巨大ゴキブリを男は蹴った。しかし空しい反撃だった。
 そう、ゴキブリは飛ぶのである。
 巨大ゴキブリもその機能を持っていた。
 文字にできない叫び声が、ビルの狭間に響き渡った。
 襲われた男はわめきながら、黒光りする巨大ゴキブリたちを振り払おうとしたがかなわず、足をふらつかせ、やがて全身を震わせて倒れた。男の手から落ちた携帯電話とアタッシュケースが砂地に転がる。
 一部始終を見ていた二人組は、事の重大さに思い至った。
「人食いゴキ……」
「あれよ、あそこ、……撃退庁に連絡しなきゃ!」
「知らないよ、電話番号。とりあえず警備員さんに……!」

●久遠ヶ原学園・執行部棟
 学園に巨大ゴキブリ型ディアボロの退治依頼が来たのは、二人のOLが勤め先のビルの警備員室に駆け込んだ十五分後であった。
 アルバイトの学生が受話器を耳とあごではさんだまま、パソコンを操作する。ディスプレイに表示された地図によると、公園は駅から五分の距離だ。
 学生は、公園に出現したディアボロの特徴を記述してゆく。

・十数匹のゴキブリ型。
・体長は約40センチ〜50センチ。
・2メートルほどの高さまで飛ぶ。
・被害者は一般人。男性一名。

「夕刻の終業時刻には、駅へ向かう近道としてこの公園を横断する通行人が増えるため、早いうちに対処してほしいということですね。了解しました。撃退士を派遣します」
 通話を終えた学生は、真新しい依頼内容をプリントアウトした。


リプレイ本文

●頭上の太陽は高く
「おや、その荷物は?」
 ふくらんだボストンバッグを抱えた佐藤 七佳(ja0030)を見て、ミルヤ・ラヤヤルヴィ(ja0901)が尋ねる。
「あっ、あの、着替えです。近くの銭湯も確認してきました」
 佐藤が頬を赤らめて答えた。
「年が明けてから初めて見る『アレ』がよもや天魔とはね……」
 東雲 桃華(ja0319)がつぶやく。
「どの世界においても逞しいというか迷惑というか」
 微苦笑するレイラ(ja0365)の手には救急箱が握られている。長身のミルヤとレイラの前に出たり、後ろで跳ねたり、速足でちょこまか歩くのは海原 満月(ja1372)だ。青いチェック柄のレインコートがはためく。
「女性陣は用意がいいね」
 やわらかな笑顔で大浦 正義(ja2956)が言う。御手洗 紘人(ja2549)は肩をすくめ、顔をかしげてみせた。
 前だけを見つめるアレクシア・エンフィールド(ja3291)にも仲間たちの会話が聞こえているはずだが、その顔には読み取れる表情は浮かんでいない。
 公園北側に集合した八名がまず目にしたのは、公園を覗き込む一般人の姿だった。
 東、西、北の出入り口には三角コーンが置かれているが、怖いもの見たさで集まった人々はひそひそと話しながら、異様な虫を遠巻きに観察している。
 下がって、と通行人に呼びかける警備員が、撃退士の到着に気づく。
「天魔の駆除を行います。安全のため近寄らないでください」
 大浦の説明で野次馬が退く。
 御手洗は親指と人差し指、小指の三本を立ててウィンクをした。
「ここからは任せて☆」
 警備員はほっとした様子で頭を下げた。拍手を送る一般人もいる。期待されているのだ。失敗は許されない。
「情報のとおり、小さな広場ね」と東雲が言う。大浦がうなずく。
「相手の数は多いから、やり応えはありそうだよね」
「被害者の位置は南西方向の鉄棒のそばです。ディアボロはゴミ箱の周囲から、かなり四方に散らばっていますね。さっさと片づけてしまいたいところです」
 レイラが背伸びをして園内を確認し、レザーコートの襟元を正す。同じく儀礼服姿で黒髪をなびかせるアレクシアは、紫色の目をすがめた。
「虫螻など潰して捨てるが道理」
 八名はうなずき合い、二人一組に分かれた。

 作戦は公園の各方位から進入した上での包囲殲滅だ。
 東雲とレイラは急ぎ足で南側に回る。
 弁当売りの業者が停めた業務用バンに、ゴキブリ型ディアブロが潜んでいないか確かめる。車内に怪しい兆候はない。売り物の弁当が見当たらないのは不思議だが、荒らされた形跡はない。運転席やタイヤ周りにも異変はない。
「持ち主もいないようね」
 東雲は持参した張り紙をバンに掲示する。
『園内で戦闘が行われる故、立ち入りを禁ず』
 こうしておけば、一般人を戦闘に巻き込む悲劇も避けられるだろう。
 レイラは持ってきた救急箱を南口の樹木の脇に置いた。

 西側に向かったのは大浦と御手洗である。
「御手洗くん、もしGが逃げようとしたときには……」
「大丈夫だよ☆ この阻霊陣でGOKIを逃がしはしないから☆」
「できる限り、後衛にGが行かないように気をつけるよ」
 この実戦が、大浦にとって初めて受けた依頼である。少しくらいの怪我は覚悟の上だ。やるからには徹底的に。ディアボロを殲滅してみせる。

 北側に残った佐藤は、ボストンバッグを公園の外に置き、ため息をついた。
「……やっぱり生理的に近づきがたいですね。石炭紀の時代だと1メートルくらいのアレもいた、っていうのは有名ですけど」
 四、五十センチの黒い虫が地面をがさがさと這い回る光景は胸を悪くするに充分だ。
 スカートのすそを引っ張られ、振り向くと、青い瞳を輝かせた海原が言った。
「フナムシに比べれば、節や足が少ない分、かわいらしいものなのです」
「フナムシ?」
「フナムシ、知らないのですか? 海辺にいて捕まえてひっくり返すと、こう、無数の脚がワシャワシャワシャと……」
 想像した佐藤は顔をゆがめる。
 アレクシアが無言で海原の襟元をつかみ、東方向へ連れてゆく。
「ふふふ、一匹も逃さないぜ……」
 サングラスの奥の目を細め、ミルヤがつぶやいた。

 まずは倒れているひとの生死確認なのです、と海原は思う。
 東側からは、樹木に視界を遮られることなく、被害者の男性が見えた。砂をかぶったような携帯電話とアタッシュケースも、踏まれたり、これ以上汚れないよう退かしておく必要があるだろう。
 隣のアレクシアをうかがうと、彼女の冷たいまなざしがとらえているのはまっすぐにゴキブリの群れ、それだけだ。
 太陽は高く、都会のビルに囲まれた小さな公園を照らす。
 八名は目と目で合図をし、公園に足を踏み入れる。次々と発現する光纏。戦闘、開始だ。

●八名の陣形
 やわらかな白いオーラを華奢な四肢に纏い、佐藤は前へ出た。
 今回の相手は高さのないディアボロだ。戦闘を有利に運ぶため、こちらの高さに敵を引き上げる必要がある。
 佐藤の接近に反応し、一匹が向かってくる。そこをブーツの爪先で蹴り上げる。利き手に装備した鉤爪を振るう。
 佐藤の打撃をゴキブリは避けたように見えた。だが、遠心力を伴った打撃でわずかながらダメージを与えていたらしい。嫌な音を立てて地面に落ちた後、ゴキブリの動きがやや鈍くなる。
 佐藤の斜め後ろで、ミルヤがリボルバーを構える。揺らめくようなミルヤの殺気が実は恐怖から生まれ来るものであることを、佐藤は知らない。
 佐藤の鉤爪が宙を裂く。ゴキブリは飛び退いて攻撃を避ける。さらにゴキブリはミルヤの弾からも逃れた。
 一撃で倒そうとは思っていない。佐藤は焦ることなく、包囲の形を維持する。
 ゴキブリが反撃に転じた。佐藤はゴキブリの攻撃を押し戻す。学園での戦闘訓練で学んだ、狭い間合いでの戦闘だ。押される。押し返す。
 ミルヤの弾がゴキブリを撃ち抜く。佐藤が振り返ると、ミルヤはさわやかな笑顔を浮かべていた。

「チェリーが星空の彼方に屠(いざな)ってあげる☆」
 赤、橙、黄……七色の光の筋が回りながら下から上へと昇ってゆく。虹が炸裂し、桜吹雪が舞う中、御手洗は右手を高く掲げた。今回は魔法少女チェリーとして戦うのだ。
 御手洗の手に握られているのは、おもちゃの魔法のステッキ。もちろん本来の武器であるスクロールも合わせ持っている。
「さぁ、正義くん♪ ゴーゴー、レッツゴー☆」
「うん♪」
 語尾に御手洗の影響をかすかに受けながら、大浦はショートソードを構えた。柄にくくりつけられた鈴が軽やかな音を立てる。大浦は迷いなくゴキブリに切りかかる。
 ゴキブリは大浦が振るった細身の刃から逃げた。素早い動きで公園の外周に植えられた樹木によじ登り、葉陰に身を隠そうとする。
「巨大ゴキたん、見ぃつけた☆」
 御手洗の魔法のステッキから光の玉が飛び出す。実際にはスクロールが生み出す光なのだが、御手洗が編み出した魔法少女の演出なのだった。

 東口に黒い靄状の焔が立ち昇る。アレクシアの光纏だ。
「蠢く姿は醜悪としか言えんな。もっとも、虫けらなど押しなべてそうしたものだろうが」
 正面から向かってきたゴキブリとの衝突を避け、アレクシアは敵の触覚を狙う。手応えがあった。ゴキブリが地に落ち、音もなく走ってくる。だがアレクシアの動きの方が速い。
「逃がさぬ」
 ファルシオンで相手の気門を突く。時間をかけずに一匹倒した。
 同じく東側を受け持つペア相手は、小学生の海原だ。レインコート姿で、どこか楽しそうにも見える。
 海原が鉄棒の脇に倒れている被害者に駆け寄ってゆく。よかろう、とアレクシアは再びファルシオンを構える。こちらは一人で充分だ。

 南口から入った東雲とレイラは、二人がまず相手にするだろう個体を数えた。五匹がブランコの周囲にたむろしている。
 東には三匹。
 一方の西側は、六匹。
 北口近くには四匹。
「『アレ』型だから飛べるのよね……。いつ飛ぶかと思うと、気が抜けないわ」
「ゴキブリ型のディアボロで、本物のゴキブリではない、と自らに言い聞かせているところです」
 レイラの言葉に、東雲がうなずく。
「そうね、それがいいと思うわ。飛行は厄介だけど、向こうが何かを飛ばしたりとかしてこなければ、どうとでもなるのよ。こちらにも飛び道具があれば楽なんだけど、ないものねだりしても仕方ないしね」
「はい」
 レイラは両手で大太刀を握る。東雲は毅然と敵を見すえる。
「私に、……私たちに今できる全てをしましょう」
 事前に得た情報によると、このディアボロは二メートル以上の高さを飛ぶ能力はない。つまり飛んだとしても、長身のレイラが腕を持ち上げた高さで、充分にカバーできる範囲である。そして東雲が手にするのはブロードアックス。小柄な東雲の身には大きすぎるほどの武器であり、二メートルに及ぶ柄は、空中を飛ぶ敵に対してけん制になるはずだ。
「ひゃ!」
 ブランコの支柱にしがみついていた一匹が、二人の方へ飛んできた。
 覚悟はしていても、靴よりも大きな虫が向かってくると、声を上げてしまう。
 レイラは身をかがめ、低い姿勢からゴキブリの腹を狙った。刃が相手に当たる感触があった。続く東雲の攻撃をゴキブリは避け、再びブランコの支柱に向かう。
 敵の動きを注視しながら東雲が言う。
「『アレ』は、出発地点よりも高く飛ぶことはできないんだわ。ここには高い建造物はないから、ブランコや、せいぜい樹木の高さ……つまり飛べるのは二メートルが限度」
「御手洗さんが『滑空』とおっしゃっていましたっけ。なおさら、公園の外に出すわけにはいきませんね」
 二人は公園を囲む高層ビルを仰いだ。このディアボロが公園に出現したのは幸運といえるかもしれない。ここから出さないように包囲する作戦、自分たちが立てた計画もおそらく間違いではない。
 東雲とレイラは二人でゴキブリを追い込み、ついに叩き潰した。
「ふぅ……まずは一匹」
「回避力も防御力も高いですね」
「生命力に定評のある『アレ』型だもの」
 他の方角を見ると、北口の四匹のうち一匹はたった今、ミルヤが仕留めたところだ。
 東の一匹は斬られ、もう本来の形をしていない。地面に飛び散った体液らしき跡は既に乾き始めている。
 西側の木に登った一匹は、御手洗の魔法攻撃によって動かなくなった。
 順調な滑り出しだ。
 襲われた一般人男性は既にこと切れているらしい。海原がかぶりを振った。文化祭グッズのお面をつけた、おどけた海原の姿なだけに、余計にもの悲しさがある。
 撃退士たちは胸の中で思った。これ以上の被害を出さないために、一刻も早く残りを倒そう、と。

●LAST ONE
「レイラ、そっちお願い」
「はい」
 二人一組で動く撃退士に対し、ゴキブリ側に統一された指示系統はないようだ。隙を縫って逃走をはかるものもあれば、向かってくるものもある。
 西口から逃げようとする一匹を、海原がケーンで遮る。ミルヤの援護射撃でその敵の動きは止まる。
「ナイス、満月ちゃん☆」
 御手洗にほめられ、海原はビニール手袋をはめた両手をグーの形に握って答えた。
「ゾーンディフェンスなのです。伊達にストライカーミズキと呼ばれてないのです」
 八名は徐々に包囲網を狭め、ゴキブリを公園中央に追いつめてゆく。序盤の布陣を崩し、八名で助け合う形である。
 好戦的な二匹を同時に相手にしていたアレクシアの横をすり抜けようとする別の一匹がいた。
 すかさずレイラが阻霊陣を三角コーンに当て、逃亡を阻止した。その際、手に弱い毒攻撃を浴びたが、ミルヤが腕の上部を紐で結んでくれた。
 御手洗はゴキブリの行く手を封じるように、羽を狙って魔法を放つ。地面の上にディアボロの骸が増えてゆく。
「あははは! 虫けら共が! 塵も残さず虚空の彼方に消え失せるがいいわ!」
「み、御手洗くん……?」
 魔法少女からモードが切り替わった御手洗に驚きつつも、大浦は近くの敵に剣を振るい続ける。
 太陽が大きく傾く前に決着がつきそうだ。
 十八匹のゴキブリのうち、最後に残った一匹は背を下にし、足をわななかせている。
「惨めに死に絶えろ。虫けらの最期はそうしたものだろう」
 その腹をアレクシアが斬った。異形の敵に蔑みの一瞥を残して。

 一般人が呼んだのであろう、待機していた救急車から救急隊員が降り立つ。被害者の運び出しが行われる間、八名は黙ってそれぞれの武器についた汚れを落とした。
 学園に、討伐完了の連絡を入れたのは東雲だ。合わせて、ディアボロが産んだ卵がないか調査を依頼した。もちろん自分たちが対応する必要があれば、請け負うつもりだった。
「回答が来たわ」
 仲間たちは東雲の次の言葉を待つ。
「卵の心配はなし。ディアボロは子孫を残せないそうよ。屍骸の対処も手配済み」
「それならばよかったです」
 こわばっていた佐藤の表情が和らぐ。
「うん、チェリーも安心したよ☆」
 御手洗が両手指を重ねて胸元に当てる。
「撤収かな?」と尋ねた大浦に、佐藤が首を振る。
「あの……海原さんがいません」
「えっ」
 七名はあたりを見回す。大きな被害なくディアボロ退治を済ませたと思っていたが、まさか仲間の一人が行方不明になったのならば大ごとだ。
 海原を見つけたのはアレクシアだった。無言で指し示すアレクシアに六名がついてゆくと、弁当屋のバンのそばに、半泣きになった海原がいた。
「ううう。昼どきに呼び出されたですから、お昼ご飯を食べそびれてたのです」
「ごめんねぇ、今日はもうこれしか残ってないんだよ」
 弁当屋の男性が一パックだけ残った弁当を示して言う。撃退士の到着前、警備員に呼び止められた時点で車に積んでいた商品をカートに載せ替え、オフィスビルへ売りに出かけたらしい。商魂逞しい弁当屋であった。
「ボクの、一緒に食べましょう計画が……」
「確かにお腹が空いたよね。汗を落としてから、皆で何か食べようか」
 年長のミルヤが提案する。
「……早く体洗いたいです」
 うるんだ瞳で佐藤が訴える。特に匂いはついていないようだが、気分の問題だという。
「ええ、少々毒も受けてしまいましたし、銭湯でさっぱりしたいですね」と、救急箱を持ったレイラも賛成する。
「銭湯って泳げるかな?」
 海原は早くもはしゃいでいる。
 ミルヤはサングラスを外し、入浴後のビールを思い浮かべた。今は未成年の仲間たちといつか杯を交わす日を想像すると、なお楽しみに思えるのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
黒の桜火・
東雲 桃華(ja0319)

大学部5年68組 女 阿修羅
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
撃退士・
ミルヤ・ラヤヤルヴィ(ja0901)

大学部7年23組 女 インフィルトレイター
海鮮パティシエ・
海原 満月(ja1372)

中等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
彼女のために剣を取る・
大浦正義(ja2956)

大学部5年195組 男 阿修羅
不正の器・
アレクシア・エンフィールド(ja3291)

大学部4年290組 女 バハムートテイマー