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マスター:朝来みゆか
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:50人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/09/16


みんなの思い出



オープニング

●実りの秋はまだ遠く

 新しいパジャマは七部袖。
 綿100%、二重ガーゼ仕立てで、ピンクと紫のチェック模様だ。
 サーバントに遭遇した初戦を終え、加賀谷 真帆(jz0069)が最初に取った行動は「自分へのごほうび」という名の買い物だった。
 買ってきてすぐに水通しはしたけれど、ガーゼ生地はまだ硬く、熱帯夜の肌になじまない。
 机に向かってノートを広げる。消しゴムのかすばかりが大きく育つ。
 壁に貼った年号や数式、科学の法則はなかなか頭に入らない。
 頭がぼんやりしてきた。ベッドに転がり、真帆は友人に借りた漫画に手を伸ばす。

 気分転換の三冊を読破したところで、真帆は明かりを消した。
 立ち上がり、カーテンをたぐって窓を開ける。
 そこには誰もいない。
 ぬるい風が吹くだけ。
 別世界にいざなう永遠の少年は飛んでいないし、とらわれの姫を助けにきた鎧姿の騎士もいない。
 家同士が争っている幼なじみが花束を置いていった形跡もない。
 そんな展開は物語の中だけ。

「漫画読み過ぎたー……」
 夜空の月が綺麗なせいで、少しさびしくなる。
「皆とわいわいしたいなぁ」
 門限以降の夜遊び禁止令は、ときに退屈で窮屈な枷だ。
 夜遊びだから禁じられている。
 ならば、夜勉……勉強会は?


●眠れぬ夜の翌日

「試験に備えて、皆と夜通し勉強会がしたいんです」
 真帆は高柳 基(jz0071)先生に訴えた。
「ん……制服で? それとも寝間着か? 一夜漬け…だよな」
「はい、最後の追い込みです」
「場所はどうするつもりだ? さすがに一睡もしないわけにはいかないだろう」
「えっと、学校の? あ、ほら、講堂だったら大勢集まっても平気かな、なんて」
 高柳先生の後ろで、別の先生たちが耳をそばだてているのがわかる。
「お前、許可されると思って言っているのか?」
「いえ……」
 正面突破しようと思った自分が馬鹿だった。真帆はうつむき、何でもありませんでした失礼します、と職員室を後にする。

「待て、加賀谷」
 声が追いかけてきた。
 真帆は足を止める。ひょっとして高柳先生の気が変わったのだろうか。

「何らかの目的を持った課外活動であれば、校内での宿泊を許可する」
「ほ、ほえー……ありがとうございます」
 すかさず真帆は学内施設使用許可書を取り出す。
  
「勉強会ではどんなことをするつもりだ?」
「えーっと、月や星の観測とか」
「理科か。他には?」
「漢字や英単語の練習をしたり……」
「国語、外国語だな」
「互いの力を磨くとか」
「実技対策か」
「社会も数学も、何かわからないことがあったときに周りに聞けた方がいいと思って」
「なるほど。机と椅子は下の階から運ぶのがいいかな。使用備品もそこに書いてくれよ」

 真帆は書類にペンを走らせる。
 よかった、この先生、ぼーっとしてるくせに厳しい先生じゃなかったんだ。
 ぼーっとしてる上に優しい先生なんだ。

 勉強会の会場は、エレベータ完備の新校舎、講堂があてがわれることとなった。
 百人以上が寝袋を持ち込んでも広々使えるスペースである。

「それとな、俺は夜はしっかり寝たいんだよ。だから皆の勉強会にずっとつき合うわけにはいかない」
「え、はい、それはもちろん」
「まぁ、一応、12時頃に人数確認はさせてもらう」
「はい」
「酒、煙草は二十歳から。不純異性交遊も禁止な」
 そんなこと言っても、先生の目の届かないところで皆が何してるかわからないよ、と真帆は思う。
 でも今は先生の気が変わらないよう、心の中だけで舌を出し、優等生らしい笑顔を作る。
「はい、わかりました!」


リプレイ本文

●それぞれの夜の入り口

「夜のベンキョー会だろ? 持ちモノとしては……パジャマと枕と勉強道具一式とお菓子だな」
 狗月 暁良(ja8545)は準備の手を止める。どのパジャマを持っていくか悩み、大きめで黒いシンプルなタイプを選ぶ。
「これだな。さすがに家にいるトキみたいな格好だとダメだろうし」

 午後7時45分、告知された勉強会の集合時刻には少し早いが、早めの設営準備の許可を得て、新校舎の二十階へ机と椅子を運び込む神凪 宗(ja0435)の姿があった。
 夕食を済ませた参加者たちが集い始める頃、宗は落ち着いた様子で講堂の入り口に立ち、国語の教本を開いていた。
「いつもとは違う環境での勉強も、わりとはかどるな」
 勉強用具に寝間着、お菓子、思い思いの支度を済ませた学生がエレベータから降り立つ。
 昼間に顔を突き合わせている仲でも、夜の学校に泊まるとなればまた別の表情を発見できそうだ。軽い興奮と期待、躍る心を抑えて勉学に励まねばという自制。
 これから始まる非日常を楽しむ気配が講堂に満ちてゆく。

「――四十九、五十、五十一。よし、全員そろってるな。進級が危うい奴はこの一夜を無駄にすることなく、がんばってくれ」
 高柳 基(jz0071)先生が学生の数を数え、備品の使用について指示をする。
「飲食は自由だが、火事だけは出さないように」
 様々な高さの机、木製椅子とパイプ椅子、パネルやホワイトボード、電気ポットと可動式コンロ、オーブンレンジまでもが用意され、講堂は雑多な雰囲気となった。

「えいえいおー」
 マーカーペンを握り、ときの声を上げた下妻ユーカリ(ja0593)は、全教科の教科書と参考書、辞書で築いたバリケードにたてこもる。
 額の鉢巻には黒々と文字が書かれている――いわく「絶対進級!」と。
「今、わたしのやる気は、最高潮に燃え上がっているよっ!」
 開始から一分経過。
 ユーカリは壁の時計を見上げる。
「……えっ、夜の8時っていったら寝る時間だよね。なんか眠いと思ってたんだよ」
 自らの衣服を見下ろせば、コアラの柄の平和なパジャマだ。
 椅子を並べた簡易ベッドに抱き枕を置き、ユーカリは体を横たえる。手からペンが落ちる。

 寝息を立て始めたユーカリの鮮やかな就寝を横目に、宇田川 千鶴(ja1613)は石田 神楽(ja4485)と顔を寄せ合っていた。
「ふむ、数学は公式という『ヒント』があるだけマシですね……」
「でも覚えるのがなぁ……」
 千鶴はため息をつく。数学は難敵だ。公式を武器にできれば攻略可能になるだろうけれど。
「あ、これ飲みます?」
「凄い気合やん……」
 神楽から栄養ドリンクを受け取り、千鶴はお返しにと菓子袋を広げた。

「たまにはこういう形で勉強することも大切ですわね。さぁ、宮子、由真。外国語はわたくしに任せてくださいな♪」
 桜井・L・瑞穂(ja0027)は帰国子女の利点を生かし、英語とフランス語を華麗に披露する。
「よろしくだよ」
「英語、苦手なんですよね。単語を覚えきれません……」
 生徒は猫野・宮子(ja0024)と或瀬院 由真(ja1687)の二人だ。

「もっと彼女にうまく勉強を教えてあげられるように、カンペキにしたいんです!」
 純粋な学習動機を訴えるレグルス・グラウシード(ja8064)を、「リア充」「完璧主義」と敬遠することなく、双子の姉妹、クリスティーナ アップルトン(ja9941)とアンジェラ・アップルトン(ja9940)が講師を買って出る。
「祖国の言語なら完璧だ。わからないところは何でも訊いてくれ」
 アンジェラはパジャマと同じ色、黒い野望を秘め、胸を張る。かつて社交界で出会ったあのお方の弟君であるレグルスの勉強を見ることが、いずれあのお方と親密な時間を過ごす未来につながるはずだと考える。
(将を射んと欲すればまず馬を射よ……とな)
 持参したハニーアップルワッフルを温め直す。あたりにシナモンの香りが漂う。
「あ、何かいい匂い」
 察知して近寄ってきた加賀谷 真帆(jz0069)にもワッフルを勧め、アンジェラは説く。
「姉妹で経営しているカフェで出しているものだ。頭を使うときは甘いものと聞いたのでな。だ、断じて私が甘党というわけではないからなっ」
「どうぞですわ」
 ピンク色のパジャマを着たクリスティーナの胸には思惑などない。ただ楽しそうなお泊まり会にわくわくしながら、真帆と笑顔を向け合う。
「わーい。いただきまーす」

 お菓子といえば、ハーヴェスター(ja8295)の差し入れは大規模ローラー作戦だ。
 各所に顔をのぞかせ、会話に聞き耳を立て、大量のお菓子を配って回る。
「消灯が延びるって聞いて来てみたら勉強会じゃないですかー! 遊べないじゃないですかー! 食べるしかないじゃないですかー!」
 つまずいている学生に勉強を教える心づもりはあるのだが、お菓子の配布人に質問をする学生がいるかどうか。
「あら、頭から煙が出てますよぅ」
 ハーヴェスターが指摘した先には、暗記に取り組む高峰 彩香(ja5000)がいた。彩香はこれまで全く試験勉強をしていない。さすがにまずいと思い、この勉強会に参加した次第だ。
 頭には文法と単語、口には栄養ドリンクとお菓子。詰め込めるだけ詰め込む。
 途切れてきた集中力を補うため、講堂を出る。屋上へ続く階段を上ってゆく人影が見えた。

「夜の学校ってなんかいいよな!」
 御伽 炯々(ja1693)が言えば、
「こういうお泊まり会なんて、何年ぶりやろ。ま、たっぷり楽しもか」
 山本 詠美(ja3571)が同意する。
 二人が運ぶのは、カットしたケーキとポット、スナック菓子に煎餅、ジュースなど、お腹を満足させるアイテムだ。
 完全にお茶会の呈かと思いきや、炯々の脇には星座早見盤が抱えられている。
「まず楽しむの。楽しみながら学べれば一番なの」
 階段を上りながら、九曜 昴(ja0586)が言う。夏から秋にかけて見える星座や惑星の説明文を記述したプリントも用意した。望遠鏡をのぞく瞬間を思い、心を躍らせる。

 三名と逆に、彩香は二十階から一階まで階段を駆け下りた。エレベータは使わない。体を動かし、丸暗記で疲れた頭をすっきりさせたかった。
 校舎の外に素早く動く姿があった。
 匍匐前進、低く身をかがめた形でのキック、敵の攻撃をかわした後の体勢復旧――。鍛練に励むマキナ・ベルヴェルク(ja0067)を認め、彩香は会釈をする。
「がんばって覚えないといけないんだけど、じっと座って勉強続けるのって苦手で……」
 照れながら彩香が両肩を回してみせると、マキナがそっと口を開いた。
「……模擬戦をお願いできますか?」
「あ、うん」
 彩香の同意を得て、マキナの全身が黒い焔で覆われる。闘争心を解き放ち、赤みがかった金色の光纏に向かって跳躍し、一撃を撃ち込む。
 物理攻撃を上昇させた彩香の脇を狙い、ステップを踏む。
 校舎二十階から漏れた光が、地上で組み合う二人を照らす。

 講堂の一角に、戦術理論を組み立てるテーブルがあった。
 机を寄せ、ディスカッションを行うのは君田 夢野(ja0561)、百嶋 雪火(ja3563)、楯清十郎(ja2990)の三名だ。
 アナログゲームを参考に清十郎が自作した卓上演習セットは、玩具の駒とサイコロ、画用紙に描かれたマップから成る。本人は謙遜するが、なかなかのでき具合だ。
「作戦は……殲滅。敵は……ファイアレーベンが十体ですか、魔法が封じられた上に数が多いですね」
「楯さんのダイスはずいぶんとシビアね。この場合は遠隔狙撃で体力を削ってからの方がいいわね」
 雪火はタンクトップに短パンのラフな格好で机に向かい、小さな駒を並べる。まずは敵を配置し、味方戦力の設定を待つ。
「編制が……ダアト六人……さすがに条件が厳し過ぎますよね」
 再度、清十郎のサイコロが投げられる。各職混成の条件となった。
 夢野が戦史や兵法をまとめた資料に目を落とす。分厚い紙の束をめくり、取りうる作戦を述べる。
「ディバかルイを囮にして、その隙に阿修羅が動く。ランチェスターの法則から取ると、数の不利はこう響くからそこのカヴァー方法は……」
「僕は人的被害を抑える点を重視しますよ」
「それは…うん、そうね。こちらの戦力を減らさないよう動くのがベストかも」
 熱い議論が三人に時間を忘れさせる。


●お茶会? いえ、勉強会です

「そのパジャマかわいい〜」
 ピンク色のキャミソールとズボンに身を包んだ羊山ユキ(ja0322)に、真帆が話しかける。
 ほめられて笑顔を見せるも、ユキはすぐにぎゅっと唇を結び、真面目な表情で手元の教科書を開く。
 英語の教科書のところどころに「お菓子が来るぞ」「雨のち飴」「犬も歩けばお菓子に当たる」など、元気の出る言葉が書いてある。
「もし留年して、ママに知られたら怒られる」
 攻略すべきは全教科というのが、ユキの厳しい現実だ。
 邪魔してごめんね、と真帆が謝る。
「ううん、千歳先輩たちがお菓子を焼いてくれるんだよ。楽しみにがんばるんだ♪」
「後でまた寄らせてもらうね」
 cicero・catfield(ja6953)は理科と外国語担当の講師となり、ユキの勉強を見ている。
 紙芝居で生態系について説いた後、イギリス英語での日常会話を教える。楽しく学ぶという目的は今のところ果たしているようだ。

 ユキの隣にもう一人、勉強の後のお菓子を力のよりどころとしている生徒がいた。理数系を学ぶ更科 雪(ja0636)である。シルヴァ・V・ゼフィーリア(ja7754)の指導を受けている最中だ。
『お菓子のためにがんばるよ!』
 雪は筆談で自分の気持ちを訴える。シルヴァが問題集を開き、ページの真ん中を指す。
「教科書の公式を…当てはめるんだ……」
『どうせなら孤児院の皆に自慢できるくらい頑張るぞ〜♪』
 ガッツポーズを作る雪の頭を、シルヴァは軽くなでる。
「美味いケーキが待ってるからな」

 この一角は【個別指導のBlackHat】、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が編成した個別指導塾だ。
 学力に自信があり、試験の点数に余裕のある者が講師となり、指導を乞う者が生徒となる。
 各自の得意、不得意を組み合わせ、協力体制で試験を乗り切る作戦である。
 さらにこの塾の特徴はカフェを併設していることだ。専任のカフェ店員はメイド服を着た城咲千歳(ja9494)だ。
「もうすぐ甘さ控えめの抹茶ケーキができるよ!」
 千歳以外のカフェ店員は二人。国語を学ぶシェルティ・ランフォード(ja5363)と、理数系の講師でもあるシルヴァである。

 役割交代のタイミングで、ciceroは生徒になる。
「先生、質問いいですか?」
 わからないところをそのままにしておくのは落ち着かない。
「『ある』は『あらない』とは言わないのに、なぜラ行の五段活用になるんでしょうか」
「えーっとそこはね……」
 ジェラルドが動詞の活用表を広げ、ciceroに見せたところに、
「すみませーんっ一年の遊佐です。勉強教えてくれるって聞いてきたんですがー?」
 現れたのは遊佐 篤(ja0628)だ。
「ジェラルド先輩、二年生の社会をお願いします」
「りょーかい☆ そこに座って」
 篤が背筋を伸ばして椅子に座る。
「お菓子で覚える歴史! いちご八つ、1582年、本能寺の変!」
 ジェラルドはcicero、シェルティ、ユキ、篤を相手に、忙しく立ち回る。
「1549年にはフランシスコ・ザビエルが布教のため鹿児島に来たんだけど、このときカステラ、金平糖、ビスカウトなどを携行していたんだ」
 生徒の興味を引くよう、お菓子と知識を紐づける。
「漢字が難しいのです……」
 シェルティはテキストから顔を上げ、ため息をついた。


●夜空に近い場所

【個別指導のBlackHat】の甘い香りとは離れた場所で、汗を流す四人がいた。
 実技のための体力作り、すなわち筋トレに励むのは天風 静流(ja0373)とファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)、久遠 仁刀(ja2464)と桐原 雅(ja1822)だ。二人一組となり、体をほぐす。
 この後、時間割は座学を経て、屋上での天体観測が予定されている。
「私は外国語を担当させていただきますね。手は抜きませんよ?」
 ファティナの宣言に、静流が肩をすくめる。
「スパルタか」
「俺も第二外国語あるし、一緒に教えてもらえると助かる。代わりにこれ提供する」
 仁刀が高校生時代の国語のノートを取り出すと、ファティナの瞳が輝いた。
「ありがとうございます!」
「ファティナ君の国語はまず基礎からだね」
 雅は黙って世界史の復習を進めるが、気持ちが揺れて集中できない。
 静流とファティナと仲良く話している仁刀を見ると、焼きもちを焼かずにはいられない。
(でもボクじゃあ先輩に教えてあげられる教科なんて何もないし……)
 高等部一年と大学部三年の差は、大きい。

「そろそろ休憩時間ですわ。根を詰め過ぎては身体に毒ですもの」
 瑞穂の提案に、由真がつつましい笑顔で応える。
「美味しい水羊羹を買ってきたんですよ」
「お茶はせっかくだし入れてもらおうかな。熱湯に茶葉を入れたらダメだよ?」
「糖分と水分の補給ができますわね」
 和菓子とお茶で一服しながら、由真が日本史を説いてゆく。
「神楽の起源に関して語る上で、『岩戸隠れの段』を外すことはできませんね」
 日本舞踊の起源から辿る流れに、瑞穂がうなずく。
「流石は由真ですわ。とても勉強になりますわね」
「大宝元年の大宝令によって、日本古来のものと大陸から渡来したもの双方の儀式用の音楽や舞踊を所轄する雅楽寮が設立されました。これが雅楽の始まりですね」
 由真の講義の後は、宮子による実技の時間だ。用意された裁縫セットと素材で、朝までに三体のぬいぐるみができるだろうか。

「そろそろ先生が来る頃ですねー」
 学習グループを見回りつつ遊ぶハーヴェスターが、真夜中0時を告げる。
「皆、はかどってるか?」
 彩香とマキナも校舎内に戻り、高柳先生による所在確認に応じる。
「九名足りないな……上か?」
 眠そうな教師は屋上への階段を上ってゆく。

 重い扉の向こうには、涼しい風が吹く空間が広がる。
 高柳先生の目に最初に飛び込んできたのは、同化や強制強化スキルを使ってアウルを制御する神楽の姿だった。
 おそらく体とアウルをなじませる訓練だろう。苦悶に耐える表情。額には汗がにじむ。
 隣では千鶴がぺたりと座り、空を仰ぎ見ている。けれどその視線はかなりの頻度で神楽に向けられる。

「こと座のベガは将来北極星になるの」
 天文部部長の昴がプリントを片手に、解説する。
 炯々と詠美は説明を聞きながら星空を見つめ、へぇ、と感嘆の声を漏らす。
 夏の終わりの夜空は、またたく星の宝庫だ。
 織姫伝説の話を興味深そうに聞きながら、詠美はメモを取る。
「さすが天文部の部長さん」
「星のことばかり喋ってるけど…うるさかったらごめんなの。止まらなくなるの」
 炯々は持ち込んだ星座早見盤の使い方を昴に習い、角度を変えて眺めながら実際の星空と比べている。
「いやぁ、ここまで九曜ちゃんが詳しいとは思わんかったわ」
 詠美はジュースを注いだカップに口をつける。
 夏の大三角形、名前だけは聞いたことがあった星たちを望遠鏡を通して見たことで、深遠な宇宙の一端をのぞいた気がする。
 夜風に吹かれながら飲み食いし、天体観測ができるなんて、悪くない勉強会だ。
「詠美ねーさん、よく食べるね」
「おいしいわぁ」
 解説役の昴をいたわるために炯々が用意した紅茶は少し冷めてしまった。
 昴は「準備ありがとうなの」とは言ってくれたが、頭上の神秘に魅了されたままだ。
「アンドロメダ星雲、綺麗なの! 感動なの……!」

「織姫星とひこ星の距離は16光年だから、二人が同時に光速で向かっても、会うまでに8年かかるんだよ」
 静流は予習してきた星座の知識を披露し、おとなしく空を見上げているファティナを後ろから抱擁する。
「ひゃっ!? し、しずるさん!?」
 ファティナは突然のハグに驚き、声を上げて身を強張らせる。
「……かわいいね、ティナは」
 呼び捨てでささやかれ、ファティナはのぼせて気を失う。気絶した後、膝枕で介抱されることも知らずに。
「ホットミルクを用意してきたが、それどころじゃない、か」
 仁刀が肩をすくめる。
(先輩は優しいな)
 雅は湯気の立つコップを受け取り、仁刀と共に星を見上げた夜を思い出す。
(あれからもう半年……。先輩との距離……少しは縮められたのかな)
 星と星を結んで星座を作るように、自分たちの間にも確かな線を描ければいいと願う。

「五十一名、確認」
 高柳先生は理科の実習を行う人数を数え、屋上を去る。
 幸せな学生が多いのは……いいことだ、いいことなんだ、と自らに言い聞かせながら。


●蛍光灯と窓の影、そしてお約束

 この勉強会で一番大きなグループを形成しているのが、相互学習チームだ。
「皆で協力して学習いたしましょう」
 机をロの字形に並べ、必要に応じて席を移動しながら復習し、疑問点を仲間に教わる。
 夜の前半は理数系、後半は暗記系の科目を学ぶことになっている。

(試験勉強の合宿っておもしろそう。カワイイ女の子に教えてもらえるならよりいいわよね)
 簾 筱慧(ja8654)は、期待どおりの光景に満足しつつテキストを開く。
 数学が得意な紫藤 真奈(ja0598)と、チーム主催の氷雨 静(ja4221)が両隣に座り、同じ問題をさらさらと解いてゆく。
 同学年の女子三人が集まった形だ。
 静は速読、速記、速算スキルを惜しみなく使い、理数系の復習を進める。
 さらにその横では、櫟 諏訪(ja1215)が効率よくテストに出そうな箇所を復習している。
「この公式とか覚えておいた方がいいですよー?」
 一学年上の諏訪のアドバイスに、筱慧はうなずいた。 

 ナタリア・シルフィード(ja8997)は髪をかきあげた。黒猫のイヤリングが揺れる。
「魔法関連はこなせるのだけれど」
 魔術師の家系に生まれ、ダアトとなったナタリアは今回の試験で順調に点を得ている。やや手薄な魔法以外の実技もこの機会に学んでおきたい。
 講師として白羽の矢が立ったのは翡翠 龍斗(ja7594)だ。
 首位を目指す龍斗は、久遠ヶ原学園転入前にまとめたノートを持参し準備していた。
 学科の質問には答える用意ができていたが、実技についても見送るわけにはいかない。
「護身術を実践しよう」
「ぜひお願い」
 ナタリアに護身術を教えた後、龍斗は世界史の苦手分野をつぶすため、社会を得意とする仲間を探す。
「すまん。この史実のことなんだが」
 いち早く反応したのは水無月 葵(ja0968)だ。グラフや表を使って要点をまとめたノートを開き、龍斗の質問に答える。
 葵の目は過去だけではなく現在にも向いている。たおやかな容姿の内側には、時事問題や社会情勢への鋭いまなざしが隠されているのだ。

 黒いTシャツ、下はジャージという寝間着スタイルで日下部 千夜(ja7997)は夏木 夕乃(ja9092)の国語の面倒を見ていた。
 広い場所で大勢が集まる環境のせいか落ち着かない夕乃をつかまえ、
「……気持ちはわかるが、今は集中しろ」
 机の前に座らせる。

 例題:「はべり」を使って文章を作りなさい。
 答え:友達の手作りケーキ「は べり」ーデリシャスでした。

「国語だぞ!?」
「てへ」
 千夜にたしなめられ、
「……これが終わったらチョコレートだ」
 ごほうびを提示され、
「やればできるんだから」
 持ち上げられ、ようやく夕乃の学習エンジンが回転し始める。

「さて、一休みといこう」
 龍斗が苺大福を取り出すと、皆一斉に表情が和らぐ。勢いよく皆のノートがとじられる。
 お菓子を持参した者が手際よく机に並べてゆく。
 諏訪は、手作りの梨のカスタードクリームパイを。
 静は、カフェインの多い玉露や紅茶とブラウニーを。
「梨は最初に下処理しておくんですか?」
「今回はレンジでコンポートにしましたよー」
「美味だな」
「ブラウニーはチョコレートの濃厚さによってでき上がりの食感が変わるんですよ」
 ただ飲み食いするだけでなく、互いにお菓子の作り方を紹介したり、素材の特性について尋ねる熱心なチームである。
 チョコレートを握る夕乃が分け与えるのは、各地を旅して覚えてきた外国語の発音だ。

 相互学習チームの机から離れた場所で、夢野、雪火、清十郎のシミュレーション討論はまだ続いている。
「ザマの戦いで、ローマはカルタゴの戦象をこうやって無力化した。これを対天魔戦に当てはめると……」
「包囲網の重要性がわかるわね」
 喋っているのは次第に、夢野と雪火の二人だけになってきた。お互い資料をめくり、論を戦わせる。
 あくびをかみ殺す清十郎を見て、雪火が左右の手に飴を一個ずつつまんで揺らす。
「眠いなら飴あげるわよ? 珈琲がいい? ミントがいい?」
「いただきます」
 連日の勉強で徹夜どころか2時までも起きていられそうにない清十郎は、受け取った飴を口に放り込む。

 勉強会参加者の中で最も低学年の周 愛奈(ja9363)は、周りの上級生に聞きながらテスト範囲の勉強を終えた。
 眠る前の時間は読書に充てる。今まで読めなかった難しい漢字も、教えてくれる先輩がたくさんいる。どきどきしながら読み進めた。
「ありがとなの。つづきが楽しみなの」
 最後のページを閉じても鼓動が治まらないのは、主人公の女子中学生が「優しい先輩」と「ぶっきらぼうな同級生」の両方から「告白」されたからだ。次の巻で主人公はどちらの手を取るのだろう。
 愛奈はお気に入りのパジャマを着て、保護者である楊 玲花(ja0249)が用意してくれた寝袋に潜り込む。
 玲花は肩のこらないジャージ姿で、深夜組に合流して勉強を続ける。教師から提示された出題範囲は一通りなめた。後は、学生に満点を取らせまいとひねくれた問題を出してくる教師の考えを読むくらいか。

「は?よぐわかんながった。もう一回最初がら言って」
 嵐城 刻(ja9977)が机に向かって倒れ伏し、顔だけを隣の八辻 鴉坤(ja7362)に向ける。
「コレは簡単な構成だよ?」
「何でそったらさことできんの? ……さっぱどわがんねぇ」
 単身、あるいは気心の知れた同士で勉強会に参加した面々が集う深夜組テーブルの片隅で、刻の言葉づかいは異彩を放っていた。
「数学は公式を覚えれば後は当てはめるだけ、しかも逆算でテスト中に答え合わせできる。……大丈夫、慣れれば満点も楽勝だよ、きっと」
「……な、がっぺおがすびょん?」
「お菓子びょん?」
 聞き違えた真帆が、近くの席で繰り返す。
 刻は、お前、頭おかしいんじゃない、と言いたかったのだが、もうどうでもよくなってしまう。
「たいぎだはんで、もう寝らし」
「あ、そんなつもりじゃなかったんだけど、気を悪くさせたらごめんね」
「大丈夫、彼は気分屋なんだ。ああ言いながらもちゃんと勉強すると思うよ」
 眠気覚ましのコーヒーを入れながら、鴉坤がフォローの手を差し伸べる。

「そのジダイ時代で活躍した人間の名前を覚えないとな」
 暁良と八塚 小萩(ja0676)は歴史の話に花を咲かせていた。
 故郷の伝承の本を紐解いた小萩は、ほら混じりに解説する。
「かくて羊太夫は官軍と雄々しく戦い、局地的には勝利さえ収めるのじゃ。わずか数百の手勢しか持たぬ羊太夫が、何故朝廷の大軍と渡り合えたのか。それは群馬に住む者の卓越した身体能力があればこそじゃ。雷撃が昼夜を問わずそこかしこを撃つ、極限の地じゃからな」
 小萩は幼い頃から愛用している浴衣姿で、椅子の上に正座している。熟練した語り部にも見える。
「それって何年の話? 年号は絶対テストに出るよなぁ」
 暁良が床に落ちているマーカーペンを拾い上げる。
「朝廷の大軍との戦いは……うむ、何年のできごとじゃったか」
 小萩が故郷について記憶を巡らせる。
 暗記は大敵だ。森林(ja2378)も苦労している。
「もう少しキリのいい年に色々起こればいいのに……」
「そうだよね。10年ごとに事件が起こるなら覚えやすいんだけれど」
 真帆が同意する斜め後ろで、マキナは男性物の紺のパジャマに身を包み、黙々とテキストを読んでいる。
「お。せんぱーいっ、何勉強してるんですかー?」
 立ち寄った篤がひょいと真帆の手元をのぞく。
「あ、これはさっき習ったやつかも。1549年、鹿児島っすよ」
 あっさり解答を披露して講堂を出てゆく篤の背中に、
「え? 遊佐くん、すごい。飛び級するつもり?」
 不良なのに、と言いかけて呑み込む真帆である。
 なお、久遠ヶ原学園に留年はあるが、飛び級制度はない――

 点呼の後、すぐ眠りに就いた彩香の寝顔のそばを何かがかすめる。直方体の固形体だ。
「そっちは危ないよ」
 黒縁眼鏡をかけ直しながら鴉坤がたしなめ、物体の飛行ルートは修正される。就寝エリアを避け、講堂入り口へ。
 直方体が飛んでゆく。右から左に。また左から右に。
 夜が更けてきて、日本の合宿の伝統行事、枕投げが始まったのだ。
「地領院さんとは縁を感じました。ゆえにお相手願えればと」
「オーケー、嬢ちゃん。実技演習つき合ってやんよ」
 黒葛 風花(ja4755)の申し出に、英単語暗記に飽きていた地領院 恋(ja8071)は二つ返事で応じ、ジャージの袖をまくる。
 二人の戦法は全く異なる。
 風花は息をひそめ、机の影に隠れる。相手のすきをうかがい、枕という弾丸を放つ。
 恋は堂々とバックラーで防御し、手当たり次第フルパワーで投げる「数と威力」作戦だ。
 風花の筆記用具が音を立てて落ちた。本人は逆の方向に逃走中だ。
「黒葛ちゃん、あたしがそんな古典的な罠にかかるとでも?」
「致し方ありません」
 休憩中の相互学習チームを盾にし、風花はときを待つ。
「お?」
 放物線を描いて飛んできた枕を諏訪が止める。
 机の上のクリームパイに着弾しなくて幸いであったといえよう。
 続いてもう一撃。ナタリアが遮る。
 今こそ、と風花の枕が恋をめがけて投げられる。
「ふむ……回避の練習になりそうやね」
 風花と恋の戦いに加わったのは、屋上から降りてきた千鶴だ。
 感知スキルを発動し、被弾を避けた後、すぐさま攻撃に転じる。陰から二人めがけて連続スロー。
 三つ巴となった枕投げは、決戦の場を講堂の外へ移す。
 暗所での戦いは、囮としてフラッシュライトを用いる恋に有利に作用した。
「予想以上に楽しめたよ」
「心より感謝申し上げます」
「恋さん、黒葛さん、おおきに」
 汗が引いた頃、三人を眠気が包むだろう。
 アウル制御の訓練を終えた神楽を迎え、千鶴はあくびを一つ漏らす。

「いいか、リゼット……俺たちには昇らないといけない壁がある!」
「この壁を登った先に、何かがある気がします!」
 新校舎一階の外で、気合いを入れているのは篤とリゼット・エトワール(ja6638)だ。
 見上げれば明るいフロアが一つ。二十階の講堂の光が外に漏れている。
「いくぞ」
「はい」
 篤が配管や窓枠を伝い、その身を上へ上へ運んでゆく。
「1192つくろう……鎌、倉、幕、府ェ……!」
 リゼットは体重こそ軽いのだが、慣れない壁登りに精一杯で余力はない。
 ふう、ふう、と息を切らし、篤についてゆく。
 手のひらが汗で滑る。
「あ」
 重力に引っ張られ、危うく傾いた体を支えてくれたのは、壁走りで駆けつけた篤だ。
「……お手数おかけします、ううぅ……」
 下を見ないよう目を閉じ、リゼットは篤にしがみつく。
 そんなコアラの親子のようなシルエットを仰ぎ見るまなざしがあった。
「な、何かすごいことやってるな〜」
 散歩中の森林だ。暗記に疲れた頭に新鮮な空気を入れるため外に出た。草木も眠る頃というが、夜間の生態系はまた別の顔を見せる。夜目を利かせ、虫や植物の観察をする中、ふと校舎の壁を這い上る二人の姿を見つけたのだった。
 応援の意味を込めて森林は手を振る。
 篤は気づいたようだが、背負われたリゼットは目をつぶったままだ。
「ここなら大丈夫だ」
 篤が降り立ったのは講堂の外に設置されたベランダだった。窓越しにさざめく仲間たちが見える。
 地面を見下ろし、篤は森林に手を振り返す。
「上までがんばりますっ」
 残り数メートルの登攀を終え、屋上に着いた二人を天体観測チームが迎える。
 リゼットはあらかじめ用意しておいた柏餅と緑茶を篤に振る舞った。
「餅部分が猫さんの形なんです。葉っぱは服の形で」
 篤は一口で柏餅を口中に収める。
「校舎を登ったアツい味がするぜ!」


●新しい一日へ

【個別指導のBlackHat】は一時看板を下ろし、併設カフェのみの営業となる。
 白地に淡い花柄のワンピースの裾をひるがえし、シェルティが焼き菓子と紅茶で仲間をもてなす。
 茶葉は夏摘みのダージリンとミルクティー用アッサムの二種類を用意した。
「加賀谷さんもお一ついかがですか? 脳への糖分補給も必要なのです」
 低カロリーのおからクッキーと聞いて、真帆が手を伸ばす。
「ありがとう! すごくおいしいー」
 チョコとナッツの入った甘いクッキーは千歳のレシピによるものだ。使い慣れないオーブンレンジだったが、歌を歌いつつ、楽しく焼けた。
「抹茶ケーキは甘さ控えめ、クッキーは焼き立てです」
「やっぱり…勉強後のケーキは美味いな……」
 後輩たちに試験対策を施し、自身のチェックを終えたシルヴァも顔をほころばせる。自作のケーキはあらかじめ用意してきたものだ。
 充実したメニューが仲間たちの舌を潤す。もし有料制にしたならば、かなりの久遠を稼げそうなカフェだ。
 一度は至福のお菓子タイムで気力回復した雪も、やがてまぶたが下がってくる。
『そろそろおやすみなさいの時間…かも?』
 ホワイトボードで挨拶を告げ、青い魚の描かれたパジャマを着て夢の海へ潜ってゆく。
 隣のユキは既に上半身を机に預けている。
「宵越しのお菓子は持たぬ……」
 きっと甘い夢を見ているのだろう。
 ジェラルドは目を細め、そんな二人を眺める。

 レグルスの英語特訓は続いている。
「アンジェの例文は、さっきからなんだかカッコイイというか、仰々しいですわね」
 クリスティーナの指摘を聞き流し、アンジェラはペンを走らせる。

 僕は君のいない世界では一分たりとも呼吸できないんだ。
(I cannot breathe in the world without you even for one minute.)
 恐怖を捨て、不条理を受け入れろ!
(Abandon fear, and receive absurdity.)

「下の文は不可算名詞が鍵となる」
 例文がジャパンアニメのセリフの引用だと知らぬレグルスは真剣に聞き入っていたが、所詮は中学生だ。午前3時、電池が切れたように机に突っ伏してしまう。
 その足元で、枕を抱いたクリスティーナが転がる。
「眠いですわ、眠いですわ、眠いですわ」

 クリスティーナが転がっていった先には、男物のワイシャツを寝巻き代わりに着た雅がいた。
 雅の寝顔を観察中のファティナが、クリスティーナを見て目を丸くする。
 ようやく寝息を立て始めた雅の横で、仁刀は眠れずにいた。
(慕ってくれる雅、心安く接するファティナ、落ち着いている静流……自分は彼女たちの先輩として、友として、あるいはその先の関係に進む身としてふさわしいのだろうか)
 ホットミルクの安眠効果は、悩みを吹き飛ばすほど強くはないらしい。

 明けの明星を確認した昴たち天体観測チームが屋上から戻ってきた。
 清十郎の作った卓上演習セットのマップ上には、一晩を戦い抜いた駒たちが倒れている。
 由真、瑞穂、宮子の三人のそばには、それぞれが作った三色のぬいぐるみも眠っている。うさぎ、くま、猫の愛らしい姿だ。
 完全に徹夜を決め込む者は少ないようだ。

「終了一時間前です。仮眠を取って学習内容を記憶に定着させましょう」
 静の合図で、相互学習チームはペンを置いた。
「明日がんばりましょうねー!」
 護身術を習った諏訪はほどよい疲れですぐにもまぶたが落ちそうだ。
「おやすみなさーい」
 千夜と夕乃は隣に並んで目を閉じる。同じ夢を見られればと願いながら。

 しばらく講堂内に静かな時間が訪れる。
 黙って机に向かう者の後ろで、床で身じろぎするかすかな音、誰かの名前を呼ぶ寝言がときおり響く。
 起床時間前、最初に動き出したのは葵だ。
 着物の崩れを直し、朝食の用意として五十人分のおにぎりを手早く握ってゆく。
(がんばった皆様に、いい結果が訪れますように)
「朝7時、起床時間ですよー」
 フライパンをお玉で叩くいささか乱暴な起こし方に顔をしかめた仲間も、葵のこしらえたおにぎりを見て相好を崩す。

 ユーカリは大きく伸びをした。
「よっしゃ、よく寝たー! なんかやることあった気がするけど、無問題」
 過ぎ去った時間は振り返らないのがユーカリ流だ。
 玲花が優しく愛奈を起こす。
 窓から差し込む朝の光が、パジャマ姿の学生たちを照らす。
 新しい一日がやってきたのだ。
 早めに清掃に取りかかる宗を諏訪が手伝う。眠そうな仲間たちも加わった。各自の荷物をステージに残し、椅子と机を階下に運んでゆく。
「皆、おはよう……。悔いのない一夜を過ごせたかな……」
 ぼんやりした高柳先生の問いかけに、
「充実した一夜でした」
 風花がきっぱりと答える。
「試験期間の最後までベストを尽くすように」
「はい!」
 やりきった充実感で顔を輝かせる仲間を見回し、一晩中、お菓子作りに精を出していた千歳は、自分も勉強しないとと青ざめた。
 皆に勧められるままお菓子を食べてしまったが、太ったらどうしよう、と不安になっているのは真帆である。学科試験を乗りきったら、実技に力を入れようと思う。
「とりあえず帰ったら寝ますね」
「俺もゆっくり寝ます〜」
 マキナのあくびが、森林にうつった。進級をかけた苦闘の日々は残りわずかだ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 凍気を砕きし嚮後の先駆者・神凪 宗(ja0435)
 Blue Sphere Ballad・君田 夢野(ja0561)
 秘密は僕の玩具・九曜 昴(ja0586)
 恋する二人の冬物語・遊佐 篤(ja0628)
 傾国の美女・水無月 葵(ja0968)
 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
 道を切り開く者・楯清十郎(ja2990)
 撃退士・百嶋 雪火(ja3563)
 世界でただ1人の貴方へ・氷雨 静(ja4221)
 ドS白狐・ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)
 華麗に参上!・アンジェラ・アップルトン(ja9940)
重体: −
面白かった!:27人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
2013コミカル部門入賞・
羊山ユキ(ja0322)

大学部1年158組 女 ディバインナイト
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
秘密は僕の玩具・
九曜 昴(ja0586)

大学部4年131組 女 インフィルトレイター
みんなのアイドル・
下妻ユーカリ(ja0593)

卒業 女 鬼道忍軍
すごい撃退士・
紫藤 真奈(ja0598)

大学部4年79組 女 阿修羅
恋する二人の冬物語・
遊佐 篤(ja0628)

大学部4年295組 男 鬼道忍軍
Silent Candy Girl・
更科 雪(ja0636)

中等部1年12組 女 インフィルトレイター
●●大好き・
八塚 小萩(ja0676)

小等部2年2組 女 鬼道忍軍
傾国の美女・
水無月 葵(ja0968)

卒業 女 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
孤独のバンダナ隊長・
御伽 炯々(ja1693)

大学部4年239組 男 インフィルトレイター
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
優しき翠・
森林(ja2378)

大学部5年88組 男 インフィルトレイター
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
撃退士・
百嶋 雪火(ja3563)

大学部7年144組 女 インフィルトレイター
赤目の麗人・
山本 詠美(ja3571)

大学部7年66組 女 鬼道忍軍
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
黒葛 風花(ja4755)

大学部5年41組 女 ダアト
SneakAttack!・
高峰 彩香(ja5000)

大学部5年216組 女 ルインズブレイド
撃退士・
シェルティ・ランフォード(ja5363)

大学部2年81組 女 アストラルヴァンガード
恋する二人の冬物語・
リゼット・エトワール(ja6638)

大学部3年3組 女 インフィルトレイター
クオングレープ・
cicero・catfield(ja6953)

大学部4年229組 男 インフィルトレイター
気配り上手・
八辻 鴉坤(ja7362)

大学部8年1組 男 アストラルヴァンガード
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
死者の尊厳を守りし者・
シルヴァ・V・ゼフィーリア(ja7754)

大学部7年305組 男 ディバインナイト
God Father・
日下部 千夜(ja7997)

卒業 男 インフィルトレイター
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
ハーヴェスター(ja8295)

大学部8年132組 女 インフィルトレイター
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
夜舞う蝶は夢の軌跡・
簾 筱慧(ja8654)

大学部4年312組 女 鬼道忍軍
白銀の魔術師・
ナタリア・シルフィード(ja8997)

大学部7年5組 女 ダアト
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
逢魔に咲く・
城咲千歳(ja9494)

大学部7年164組 女 鬼道忍軍
華麗に参上!・
アンジェラ・アップルトン(ja9940)

卒業 女 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
年寄りキラーな津軽の男・
嵐城 刻(ja9977)

大学部6年64組 男 ディバインナイト