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マスター:ArK
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2017/08/20


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園。その巨大な学園には、その歴史に相応しい巨大な図書館がいくつも存在する。
 その中には、これまでに扱われた無数の依頼や、卒業生達の記録なども収められているという。
 ここなら、かつては『未来の話』として考えられていた記録も見つけられるだろう。
「昔の人はこんな未来が来るって想像出来なかったんじゃないかな?」
 若い世代はそういっているが、そうだろうか?
 未来は――そんな未来にしたいと《想った》からこそ、辿り着けたのだ。
 これはそんな、いつかの遠い未来の記録である。


〇赤い本
 ねえ、赤い本のこと覚えている人いるかしら?
 その本に名前の書かれている悪魔は、音を正しく発音できた者が自由に使役できるという‥‥。
 あのとき名前を書いてくれたみんな本当にありがとうね。
 本は今も、一緒に遊んでくれるみんなの名前を書いて大事にしてるんだから♪

 ――でね、ちょっと相談なんだけど。
 赤い表紙の記念本を作りたいの。よかったら手伝ってもらえないかしら?


●久遠ヶ原学園職員室
「先生、この本覚えていますか?」
 職員室のひとつを訪れた大貫薫(jz0018)は馴染みの教員ライゼ(jz0103)へ、一冊の本を差し出し見せた。
 本の表紙は日焼けした赤色。安っぽい金色の飾りが施されているが、それさえあちこち剥がれ使用感が強い。
「ええと‥‥前に、鬼ごっこの末に名前を書くことになった本、でしょうか?」
 ライゼが薫から本を受け取り裏表紙を捲れば、ライゼ自筆のサインは今もそこに。
「名前、こんなに増えて。‥‥これが?」
 一通り頁を見た後で本を閉じ、顔を上げたライゼが薫を見ると、
「こんな感じの装丁で卒業記念本を作りたいと思いまして」
 薫はにんまり微笑みながらそんなことを言ってきた。
「まさか‥‥、今度は三界跨ぐ鬼ごっこをしたいと‥‥?」
 不安を感じたライゼが半眼で問えば、
「いえいえいえ! あたしももうオトナですしそんなこと言わないですってば〜」
 薫は笑って全力否定。それから背筋を正し、かしこまって話し始めた。

「あたしが今大学部4年だから思いついたってわけじゃないですが、記念を残したいと思いまして。
 赤い本の元ネタ『使役できる』っていうのはすごく強い表し方ですけど、ちょっと考え方を変えてみたんです。
 相手のだけじゃなくて、お互いに名前を書いた本を持ち合えば、お手伝いしあえる絆のおまじないにできないかって。
 もちろんあたしが勝手にそう考えているだけで、卒業がテーマに含まれればなんでもアリな普通の記念本です。
 原稿の募集はこれからですけど、先生にもぜひ手伝っていただきたいんです」

 真面目な表情でじっと見つめてくる薫を見て、ライゼは優しく微笑むのだった。


●久遠ヶ原学園畑
「ライゼ先生から連絡は受けてるよ」
 貴布禰 紫(jz0049)は現在、学園でライゼの助手をしている。そして更に今は植物に水やり中。
「ライゼ先生に言ったら、貴布禰先生にって。あの、企画の協力者とか参加者を募集したいんです」
「なるほどね。そーゆーことなら任せておくれ。明日にはちゃちゃっとやっとくよー!」
 紫は即快諾。薫の望みは翌日成る。


●求めるは協力者!
 過去の想い出、未来の夢。
 年齢性別種族問わず! あなたの『卒業』が必要です!
 卒業をテーマにする記念本を作りませんか?
 既に卒業してしまったというあなたも、まだ卒業しそうにないというあなたも大丈夫!
 原稿自体はもちろんのこと、原稿集めや編集、製本などなどお手伝いさんも大募集!
 興味ある方は久遠ヶ原学園大学部4年大貫薫までお気軽に☆

 〜追記〜
 先生に止められないよう、内容には注意して下さい。


リプレイ本文

●龍成我の旅立ち
「手伝いを募集していると聞――」
「大歓迎! それじゃ早速だけどここからここまでと、これとこれ! よろしくお願いします!」
 製本手伝い申し込みのため、久遠ヶ原学園にある部室のひとつを訪れた大学部5年雪ノ下・正太郎(ja0343)に、勢いよく手渡されたのはプリント用紙の束。挨拶さえ最後までさせてもらえなかった正太郎だが、即採用らしい。
「これは‥‥?」
「機密文書よ。大事に取り扱ってね」
 表紙を捲れば在校生や卒業生、教員の名前と連絡先などの情報が載っている。
 名前の中には正太郎が共に戦場を駆けた級友の名前もあったが、懐かしさに浸れたのも僅かの間。正太郎は仕事であることを思い出すと顔を上げ、用紙の渡し主に目を向ける。
「俺一人で?」
「ですとも! ヒーローたるもの助けを求める原稿を救えずしてどうする! ってね」
 どこでどう知ったのか、自信たっぷりに言うのは後輩にして企画者。
 『ヒーロー』という言葉をだされては正太郎も退くことができない。
 なぜなら正太郎の博士課程研究テーマは『アウルによる変身ヒーローの実現』なのだ。今も斡旋所で依頼を受けながら、既存クラスの特性を己の体で自ら確認することで研究し、新クラス『変身ヒーロー』の確立を目指している。教授になれるまでオーバードクターも覚悟の上。
 慌ただしく去る企画者を見送った正太郎は、手近な椅子に座り資料を読むことにした。
 名簿の名前は原稿提供予定者のものであり、備考として現在の状態が書かれている。
 特に正太郎に頼みたいのは連絡の取れない相手などからの原稿の回収、ならびに内容の確認。連絡が取れないというのは引っ越したか連絡先が変わったか――事件か。 

「まずは近場から行ってみよう。東京ならすぐそこだし」
 正太郎はすぐに行動を起こす。
 そこで運命の再会が待っていることなど、今はまだ知らない――。


●龍成我の再会
 所は日本にして東京。
 支局として昨年新設されたばかりであるが、歴史はそれより少しだけ古い、新興企業が此処に在る。
 その名も『内務室・東京支局』。
 支局長も局員も学園を卒業したばかりの若手だが、その実力は久遠ヶ原学園在学中に太鼓判を押されている。
 業務内容は事務経理の代行であり、相談はひっきりなしとの噂。
 そして現在は仕事量に対しての人手不足が悩みの種だという。

 室内に響いているのはキーボードを叩く小気味よい音。ふとそれが止んで、椅子の軋む音が聞こえてきた。
「‥‥ふぅ」
 と息を吐きだして緊張を解いた局員――月乃宮 恋音(jb1221)が、椅子の背もたれに身体を預けたのだ。
 企業者のひとりでもあり、在学中から業務に携わってもいた、局随一の業務能力をもつ女性だ。強張った肩をまわしてストレッチすると、豊かな双峰が体の動きに倣って弾んだ。
「‥‥少し、休憩ですねぇ‥‥」
 学園時代より恋音を知る者が見ればその発育が進行しているのは一目瞭然。特別な薬液を染み込ませたさらしの使用を継続しているものの、未だ完全に抑えきることができないでいる。
 机上の書類の山を崩さないよう、静かに椅子を引き立ち上がった恋音が向かった先は冷蔵庫。開ければスポーツドリンクやソーダ水、マンゴージュースやノンアルコールカクテルなどが入っていた。
 恋音はその中からスポーツドリンクを選んで、1本取り出した。

 コップに注ぎ、半分位飲んだ頃合いだろうか。
 何者かがこの支局へやってきたことを知らせる電子音が局内に響いた。
「‥‥お客様、でしょうかねぇ‥‥」
 新たな依頼か進捗確認か、などと考えながら恋音が出入り口に向かうと、そこには正太郎の姿があった。

 お客様相談用のブースへ案内し、机を挟んで正太郎と向かい合うように座る恋音。
 早速本題が正太郎から切り出され、恋音は肩を落とした。
「‥‥原稿、ですね。えっと‥‥その、大変申し訳ございませんでしたぁ‥‥」
 忙しくしていて手が付けられないでいたと告白する恋音を、正太郎は気遣った。
 話の流れで、正太郎が現在受けている原稿の回収と内容の確認について恋音に相談すると、
「‥‥あ、それなら私、お手伝いできると思いますぅ‥‥」
 終始控えめで大人しくしていた恋音がわずかに自信を含んだ声を発した。

 恋音が閃きを示してからの進みは順調だった。
 企画者に確認を取り、恋音の提案が承諾されると、恋音は正太郎の持つ名簿を借り、状況を確認した。
「‥‥あちこち、ばらばらなんですねぇ‥‥」
 行きはゲートが使えるとしても学園への帰還は自力なのだ。現地で途方にくれないと限らない。
 恋音はさっそく効率よく無駄のない収集経路を調べ、表にまとめ始めた。
 正太郎は、学園時代より更に精練された恋音の手際のよさに終始感嘆し視線が外せなかった――もちろん同時に驚異の成長を続けている胸囲からも。そして仕事に向かう恋音からは、格闘家とは異なるが強い闘気さえ感じ取れた。
 こうして恋音の支援を得た正太郎は、各地を効率的に飛び回ることができるようになる。


●青い鳥と白百合
 ある晴れた日の昼下がり。
 空色よりも深い青い髪を、漣のようにゆるやかに揺らし歩く木嶋 藍(jb8679)の姿があった。
 深海を思わせる青い瞳が見つめる先には探偵事務所。あと少しで辿り着く。

 探偵事務所の中ではユリア・スズノミヤ(ja9826)が、3歳になる一人息子の昴と留守番中。
 所長でもある愛しの旦那様は仕事で不在であるが寂しくはない。
 だってもうすぐ『親友』が来てくれるから。
 記念本について知り、原稿を取りに来てほしいことを企画者へ伝えると、人を送るといってきたのだ。念のため誰が来るかと名をたずねればまさかの親友。
 それぞれの幸せを得てから4年。ユリアは久遠ヶ原学園を既に卒業し、愛する夫と共にこの事務所で働いている。
 夫との間に授かった昴と3人で慌ただしくも幸せな日々を過ごしている最中だ。

 ――藍ちゃんもしあわせしてるかな?

 そんな想像をしながら、まもなくやってくる藍のため、キッチンでお茶の準備をはじめるユリア。
 すると「マーマ」と呼ばれ、裾がひっぱられた。視線を落とせば息子の昴と目が合う。
「みゅ〜? 藍ちゃんがきたらおやつタイムなのねん♪ もーちょっとまってねーん♪」
 頬をゆるませ、微笑みで昴を諭すユリア。けれど昴の気持ちもユリアにはよくわかった。既に事務所中には完成直前の焼き菓子の香りが充満しているのだ。昴がねだってきても仕方がない。なにせユリア自身も食べることが大好きだ、だからといって少しでも味見をしようものなら、
「‥‥うん、だめねん」
 親友に出す前に食べつくしてしまうかも。親友と何を話そうかとあれこれ考えることで意識を逸らした。
 それでも裾を引き続ける昴を、ユリアはやさしく抱き上げた。
 その左手の薬指にはマリッジリング。今日のネイルは喜びを表わす気分色。
 胸元で揺れるロザリオにはめ込まれたルビーはユリアの瞳色にして夫の髪色。
 昴をあやしていると、玄関で呼び鈴が鳴った。
 ユリアの胸が早鐘を打つ。心の躍りは密着する昴にも伝わったようで、腕の中で目を丸くしている。

 胸が高鳴るのは藍も同じ。
(挨拶はどうしよう? ひさしぶり? げんきにしてる? 旦那様おげんき? すばるくんおおきくなった?)
 考えてきたはずなのに、いざ扉の前に立つと思考がまとまらない。でもきっと顔をみたら言葉はすぐに決まるはず。
 まもなく『はーい!』という元気な声がふたつ重なって聞こえてきた。
 内側から軽快な足音が近づいてくる音を感知して気持ちが更にそわそわし始める。
 だんだん大きくなった足音は、扉を挟んだ目の前で止まった。すぐにカチリと鍵が外される音が聞こえて、扉は思いのほか勢いよく開け放たれた!
「みゅー!」
 飛び出してきたのはユリア。藍は慌てて両手を広げるとユリアを昴ごとしっかり抱き留めた。
 得意ではなかったスキンシップ、だけど親友が全力で甘えてくるのだから、藍も喜びを込めて抱擁を返す。
「ユリもんはかわらないね〜」
「いらっしゃい! 藍ちゃん、まってたんだからねーん!」
 ユリアが藍の胸に顔を押し付けると、藍の纏う優しい香りに気付いた。藍が学園にいるとき友人から贈られ、以降この香水を好んでつけているのをユリアはよく知っている。

 ユリアを支える藍も気づく。昴を抱くユリアの左手薬指に輝くマリッジリングに。おのずと自分の左手も暖かくなる。
 藍の左手中指には亡き母から譲り受けたプラチナリングがはめられていて、その隣には――、
「みゅー!」
「あ」
 ユリアと藍の間に挟まれる昴が声を上げたのにはっとし、思考は中断する。
「ごめんね、びっくりしたよね。ユリもんもほらほら」
 藍に支えてもらって姿勢を正したユリアは、あらためて藍を迎えた。

 応接室で待つ藍は、お茶の用意をするというユリアを待つ間、昴の遊び相手をしていた。
 絵本を開いてよみきかせる。ヒーローが現れて悪を退治しお姫様を助け出す物語だ。
 藍もヒーローに憧れていた、そして撃退士というヒーローになった。
(昴くんもいつか誰かのヒーローになるんだろうね。それとももうなってるのかな?)
 そんなことを考えながら、昴が楽しめるように一所懸命読み上げる。

「おっまたせね〜ん♪」
 トレイにお菓子と紅茶セットを載せて、ユリアがキッチンからやってきた。
 お菓子はラングドシャとマカロン、どちらもユリアの手作りだ。
「あ。また腕をあげた? 私ユリもんの大好き!」
「私だって藍ちゃんの大好きねん♪」
 ふふ、とふたりで微笑みあって。
 ユリアは慣れた手つきで紅茶を注ぎ、藍とユリアの前に、昴にはジュースを。
 それからは当初の目的も時間も忘れ、それぞれの思い出話と近況報告に花を咲かせるのだった。

 気がつけば陽は既に西に傾いており、応接室の窓からはオレンジ色の光が射し込みはじめた。
「藍ちゃん、お夕飯もたべてっちゃう? 彼もそろそろかえってくるだろうし、藍ちゃんにお料理ごちそうしたいよー」
「あ。そうだね。旦那様にもせっかくだから挨拶していこうかな。というか手伝うよ。すごいの作ってびっくりさせよ」
 そうと決まれば善は急げ。今度はメニューをアレコレ相談する。
「やっぱりビーフストロガノフとボルシチ?」
「それなら材料はあるよー」
「さっすが♪ すぐにとりかかろう!」
「うみゅ♪」
 それはユリアの得意料理。
 眠ってしまった昴をおこさないよう、そうっと応接室を抜け出して、ふたりはキッチンで仲良く調理に取り掛かる。

 丁度料理が出来上がったころ、ユリアの夫は友を連れて帰ってきた。
 少し作りすぎたかなと感じた料理も残さないで済みそうだ。
 食卓に笑顔があふれた。藍はそれぞれとの再会を喜び、
(‥‥みんな笑顔が変わってない、倖せなんだね)
 倖せを感じた。そして再び思い出話がはじまり、時間を忘れてしまう。
 夜が深くなると、今度は藍の帰りが遅いのを心配した迎えがやってきた――そこでもうひと騒動あったのだが、それはまた別のお話。
 藍はユリアから原稿と、みんなからたくさんの勇気をもらったことを感謝する。
 そしてまたの再開を約束し、藍は帰路へ着くのだった。


●内務室の休息
 恋音は日常の業務と、正太郎へのサポートの合間をみながら自身の原稿を進めていた。
 何を書こうかと考えて止まる指。
(今一番書きたいコト‥‥。局員のみなさんも頑張ってくれていますが、やはり人手不足、ですねぇ‥‥)
 在学中の作戦のことを思い浮かべる。そのときだって少ない人手から、ひとりふたりと仲間が増えてあの形に至った。
 今も久遠ヶ原学園では新しい世界の助けになるだろう後輩たちが勉学に励んでいるはず。
(久遠ヶ原学園の卒業生ならきっと――)
 思い出と現在に想いを馳せて。

 恋音は記念本に載せる原稿を仕上げた。


●龍成我と試練
 恋音の助力により、正太郎の旅路は順風満帆。
 現地で困難あれば自らの力で切り開いたり、恋音に連絡して助言を得たりもした。
 関係者に、音信不通の原稿提供者の行方を聞けば、当人はフィールドワークに出かけたまま帰ってこないという。
 北は北極、南は南極まで。宇宙はいなかったが――三界は少しいた。
 とはいえ仕事組は学園で帰ってくるのを待っていればいいだけのこと、これは藍に頼んだ。

 あるとき、通りすがりの地で暴れるモノに出会えば迷わず光纏。
 襲われる者を颯爽と救い、感謝されることもあった。
 相手を不安にさせないよう、人懐こく話しかけては安心させ、安全なところまで送り届けた。
 その度に名を聞かれたが、正太郎は「リュウセイガー」とだけ名乗り旅路を急ぐ。

 正太郎はリュウセイガーとして、誰かの心に残るヒーローになり続けることだろう。
 いつかその誰かが学園の門を叩き、新時代のヒーローになってくれたら。
 そのとき自分が教授になっていて、その夢ある子を教え導く存在になれたらと。
 夢を叶えるため、正太郎はこれからも走り続ける。

 まもなく正太郎の原稿集めの旅は終わる。
 世界各地の原稿を集め、最後に立ち寄ったのは『内務室・東京支局』。
 そこでは正太郎にとってのこの任務の事実上の司令、恋音が原稿を手に慎ましやかに待っていた。
「‥‥遅くなって申し訳ありません、でしたぁ‥‥。こちらが、私の原稿に‥‥なりますぅ‥‥」
 どうぞお受け取り下さいと頭を下げる恋音の手から正太郎の手へ渡る原稿。
「確かに受け取った! そしてそれにすっごい助かった! やっぱりヒーローには頭脳系パートナーが必要だと実感したよ。ありがとう!」
「‥‥え、えっとぉ‥‥、その。こんな私ですが、お役にたてた、なら‥‥よかった、ですぅ‥‥」
 長く伸ばした前髪の裏で、恋音は目を細めてはにかんだ。


●最後の原稿
 正太郎が恋音の原稿を手に、編集室として使っている部室に戻ると、藍がひとりパソコンに向かっていた。
 モニターの影に隠れてよく見えないがどことなく不調そうだったので、
「大丈夫か? 調子悪いなら帰ったほうがいいぞ?」
 と声をかければ、藍の雰囲気は途端明るくなった。
「あ、大丈夫、大丈夫です。ちょっと私も原稿書こうかなって思って。でもいざ書こうとすると語彙力不足のせいか、こんがらかってきちゃって。今になってもうちょっと勉強しとけばよかったな〜と憂鬱感じてただけなので!」
 心配してくれてありがとうと藍は笑う。
 正太郎もそれ以上追究せず、自分にあてられている作業にとりかかることにした。
 編集も終盤。今行っているのは誤字脱字の確認と、余白空間への挿絵探し。
 向いているかと問われれば難しいところだが、大学部でのレポート作成などで経験はある。他にも多趣味が役に立ってくれた。

 正太郎の作業音を聞きながら、藍は思い出す。
 ユリもんと、親友たちとすごした、倖せで楽しかったあの時間を。
 帰り道で伝えた喜びを。共有した喜びを。
 胸いっぱいの倖せを、精一杯の文章であらわそう。
 私の原稿は大好きなユリもんの近くに‥‥。
 想い描いたものを形にするため、藍は不調をおして想いを綴る。
 今抱いている新鮮な想いを。

 ――そして、原稿は揃う。


〇内務室
『みなさまこんにちは。
 私達の挨拶に目を留めていただきありがとうございます。

 在学中の大規模作戦等では部隊名『内務室』として活動しておりました私達ですが、
 2017年9月より、件の部隊名を社名として掲げ、事務・経理の代行業を始めさせていただきました。
 2020年には東京に支局を開局し、此方の経営も軌道に乗りましたことから、
 お世話になった久遠ヶ原学園に於いて、新入社員の募集を行わせていただきたく思います。

 ご連絡は当方迄――』

 以下簡単な業務内容と支局の所在地、連絡先などが記載されていた。
 あのとき世界は取り戻され、今の姿になった。
 私達が新たな時代を育む者達の受け皿になれたら、創れたら。
 ――そんな想いを込めて。


〇白百合
『あれから4年。
 私と彼は学園を卒業して、彼の探偵事務所で一緒に働いています。

 結婚式もしたよ。
 ダブルだったかトリプルだったかは知る人のみぞ知る☆

 指輪は彼が私の為に選んでくれた。
 エンゲージリングから睡蓮のマリッジリングへ。
 それは花言葉を託され託した指輪。
 いつまでも清純な心で、信頼しあい、優しさを与えあう――。

 今は3歳になる息子がひとりいるよん。
 名前は昴。
 『すばる』は大切な想いをひとつに統べる星。私と彼が愛する星。
 『青い鳥』や親友たちにも、たくさん愛されますようにと。
 私と彼の愛が、いつまで輝きつづけますようにと想いを込めて。』

 頁の隅には睡蓮と、ふたつの金色の環が描かれている。
 また、ひとつの環の中には白百合が一輪。もうひとつの環の中には何も描かれていない。
 睡蓮の花が金色の環の内にある白百合の花を静かに優しく包み込む――。


〇青い鳥
『23歳の自分。
 愛する人の傍にいる幸福。
 でも些細な事ですれ違い。

 ある日の私は『白百合』の待つ探偵事務所へ顔をだした。
 愛しの星を胸に抱く、彼女の変わりない輝く笑顔をみた瞬間、
 彼女が幸福であるのが一目でわかった。

 彼女が愛する旦那様と、神出鬼没の親友と久しぶりの再会。
 ふたりとも笑顔が変わっていなかった。
 彼らも倖せなんだって一目でわかった。

 ‥‥じゃあ私は?

 その後で私を迎えに来てくれた、愛しい人。
 みんな揃ってあの頃と同じく大騒ぎをした。

 その帰り道。
 私は、愛する人に大事なことを伝えた。
 それはとてもとても大事なこと。

 次にこの本を開くとき、
 きっと、私には愛する人が増えている。』

 頁の隅には舞い散る桜の花びらの中に、一羽の青い鳥が描かれている。
 この頁を陽に透かして見れば、環が青い鳥を囲んでいるように見えた。
 そして隣には白百合を囲う環。ふたつの環は永遠を描く――。


〇久遠ヶ原学園図書館
 いくつも存在する図書館のひとつに、赤い背表紙の本が寄贈された。
 それは在校生、あるいは卒業生や教員、関係者らの<<想い>>が綴じられた本だ。

 この本はこれから久遠ヶ原の歴史のひとつになり続けるだろう。


 〜スペシャルサンクス〜
 勇士開拓の先駆者、正太郎。
 温和怜悧な事務司令、恋音。
 白き愛の綴り手、ユリア。
 青き愛の綴り手、藍。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター