●探索と掃討の方針
入口にて龍崎海(
ja0565)が生命探知を行うと、迷路と思われる空間内に生命体が存在することを確認出来た。
「迷路ですか、地図を取りながら進みましょう! 道具は用意してあるんですよー」
亀山 淳紅(
ja2261)は背負うリュックサックから筆記用具等を取り出して見せる。其れを見て海は、
「ライゼ先生にもさせられないかな?」
目的は地図作成に意識を向けさせ、土竜から意識を逸らせられないかと話を持ちかけた。淳紅は道具を分け、互いに地図を作ることにする。意味を問われれば、
「なんか面白い形になってたりしないかなーとか自分気になって」
自分の興味であると濁し答えた。
「マッピングするなら距離も測った方がいいかも‥‥エッカートさん基準とかどうだろう?」
其々が其々の歩幅で計れば結果は変わる、では基準をということで礼野 智美(
ja3600)が提案すると、
「ん? 構わないぜ」
ミハイル・エッカート(
jb0544)は快諾。ライゼの動向を気にしており、近くに位置すれば注意をしながら地図作り協力も出来る、損なく効率もいい。
「――で。どうするんだ?」
人間同士のやり取りを不機嫌そうに横目で見ながら、結論を促す少年は骸目 李煌(
jb8363)。
入口から伸びている2本の路のうち、進まない一方と来た道側の低い位置に糸を張る海。目的は通過確認。広間で土竜が使わなかったとはいえ、迷路内の土竜が透過能力を使うか不明のため、阻霊符を発動。土竜が場を通れば糸が切れるはず。
封じなかった道へ海を先頭に進む。
「自分が後ろに付きますね」
地図のためにも前がいいだろうと淳紅が続き、
「じゃ、俺はその後ろ。‥‥しっかし破壊されたゲートでも力が削られるのか‥‥」
「力は、異空間内での生命維持活動分ですから破壊されているいないは関係なかったりしましてですね――」
前を歩く李煌の疑問に答えながら、悪魔のライゼ。歩数管理としてミハイル。
「後ろの守りは私が努めよう」
と、ここまで沈黙を保っていたカルロ・ベルリーニ(
jc1017)が後方からの奇襲等に備えた支援射撃をかう。奥に進むにつれ緊張感が増してきたのか、昂揚が解けて来たのか。先の戦場と打って変わり落ち着いた冷静さを纏っている。
殿は智美。
「ダンジョンでは先頭と後方に戦士を置いて、バックアタックや挟み撃ちに対処するのが基本だからね」
「む?」
智美の声に振返るカルロと視線が合って、
「あ、いや! 妹がゲーマーなんで、付き合わされて、その、色々‥‥色々‥‥」
思わず飛び出す言い訳。恥ずべきことはないはずなのだが――しどろもどろ。一行は路を行く。
●三叉路の攻防
「‥‥また曲がり角か。奇襲に気をつけてな‥‥」
曲がり角では李煌の言葉を受け、海が足を止め、手に持った手鏡を差し出して先の様子を窺う。
「土竜が居るな、2」
遠距離で仕掛けては身体を晒した者だけが狙われ、後続の射線が通らず、仲間の援護が期待できない状況に陥る。そして正面にも路は続いている。正面路を警戒しておく必要もある。
「‥‥じゃ、手分けしようか」
李煌の言葉で場が動く。まずは海が土竜へ向かい飛び出した。勢いを殺さぬままシュトレンを土竜へ突き出し貫く。流れる動作で仲間の追撃のため、死角を守るため、壁に背を預け空間を明ける海。
間髪いれずに淳紅が追う。2体の土竜を一度に射程に収め、すぅっと息を吸い込んで発する音は歌。
『――Ti abbraccio. ‘dolciss.’』
炎の腕が土竜を抱擁するため一直線に伸びる。並んだ土竜は炎に抱かれ温度障害を受ける。背後の壁も炎は差別することなく破壊。壁向こうには外空間が広がっていた。
追って通路に飛び出した李煌の全身から漆黒のオーラが噴出す。左腕は知らぬものが見れば驚くだろう骨の腕。右腕も光纏により髑髏の文様が浮き出しており、禍々しい容貌だ。更に、
「‥‥俺に宿りし魔なる血よ、今こそ覚醒せよ‥‥!」
顕現される悪魔の血、背に怨霊のようにも見える黒い陰翼が可視化された。
遅れながら敵を確認した手負いの土竜が、思うほど自由にならない身体で、海を狙い礫を放つ――も当たらず。
もう1体が手負いの土竜と海の前に飛び出し体当たり。衝撃を受けるも壁に預けた背中と、足を踏ん張ることで海は場に留まった。隊列は乱れない。
元の通路に残った4人が正面と背面に警戒していると動きがあった。正面通路の奥から土竜が顔を出したのだ。此方に気付き迫ってくる。
地図を仕舞い構えるライゼに、
「この距離と数なら貴女が出る前に片付く」
と、その場に留まることをミハイルは指示。
土竜はライゼへ礫を飛ばしながら場に足を止める、更に後ろから現れた土竜が続き、直線に並んだ。
「この瞬間を待っていた」
涼やかに語り、真っ直ぐにPDW FS80を構えたミハイルの右目が赤く輝いた瞬間、銃口から発せられるアウル弾。白と黒の軌跡を描き土竜らを貫いた。衝撃にうずくまる土竜。痛撃で弱った土竜を追撃し、葬ったのは太刀から持ち替えた智美のシュティーアB49と、カルロが引鉄を引くオートマチックによる弾丸。ライゼが手出しする必要はなかった。
通路の戦闘も終盤。
力を発現させた李煌の左手に握る黒月珠――長い数珠にオーラが集まり始める。
「‥‥我が魔力の前にひれ伏せー!!」
怨霊魔砲:炎。
声と共に発せられた魔力は、土竜を包み込み爆発。手負いの土竜らは抗う間もないままに消滅。正面に次いで両の壁も破壊され、隣の通路が顕になるも敵の姿はない。
路角に集まり被害状況を確認――支障なし。けれど油断もしない。
「え〜っと、この壁の向こうが外空間ということは‥‥」
淳紅は自分の技が明けた穴から外を覗き、右も左も外壁が続いていることを確認。地図に追記。
また時間が経てば修復されてしまうことから「ここに穴をあけた」ことを覚えておくため、近くの壁に記録を残す。使ったのは真紅のルージュ。出所は智美が持ち込んだメイクセット。
「使うことないから新品だよ」
苦笑いをしながら提供してきた。掃討と探索は続く。
●壁の穴
別道での戦闘により明いた穴のある場所に差し掛かった時のこと。
「あ」
誰ともなく声が漏れた。
穴には、こちらに背中を向けた状態の土竜が詰まっていたのだ。じたばた後ろ足が動いている。無理に移動しようとして嵌ったのだろう。通常なら透過もできるのだろうが、現在より阻霊中。そして理由は不明だが壁を掘ろうともしない。後ろに撃退士という敵が現れようと何も出来ない。
「可哀相といえば可哀相だけど‥‥」
「‥‥単に運が悪かっただけだね」
「今のうちに始末しておこうか」
「異論はない」
身動きの取れない土竜を集中攻撃し、消滅させる。ルージュで文字を書いておく「ここは土竜の無念」――先に進もう。
●小広間の攻防
分岐は多く、行き止まりも多かった。
何度目かの十字路に差し掛かった時、右と左に挑むも袋小路。智美を先頭に来た路を辿って十字路に戻る。
残りの路を直進しようとしたところで、
「‥‥この先、なんだか空間がありそうですが、どう思います?」
地図を記録していた淳紅が声を上げた。自分の書いた地図をみせ予測を述べる。先に開けた空間があるはずだ、と。
「しかし前の大群がいたような広間ではないな。コアを置く部屋であろうか?」
カルロは冷静に分析する。流石に路のど真ん中においてあることはないと思って居るが、開けた場所なら在りうるか?
「どうだろう。迷路って基本的に入る人を迷わせる目的ものが多いと思うから、最下層の可能性は低いと思うんだよね」
とは智美の見解。しかしゲート入口を地中に作るなど、作成者が通常の感性を持ち合わせているか不明なのが厄介点。
「‥‥ま、進む以外に確認手段がないんだから‥‥いくしかねぇだろ?」
「生命探知使っておこうか」
李煌の言葉に、海が探知すると幾らかの固まった存在を探知できた。
間もなく辿り着いたのは見た目は十字路、けれど正体は路を挟む形で位置するふたつの小部屋。
入口も通路の幅しかなく、ミハイルが索敵を用い警戒していたものの、視界を遮られて居たため発見できず。先頭を歩いていた海が両部屋の土竜から集中攻撃を受ける形で開戦。
「‥‥此れはマズイか」
咄嗟にシールドを発動し初手を凌ぎながら連絡。右部屋に5体、左部屋に4体。広さはそれぞれ10m四方前後。幸いなことは、より後ろに位置しているため、状況は把握しているがライゼが土竜を視認していないこと。平常状態だ。
けれどこのままでは攻撃もままならない。
(‥‥大量に出てこないで欲しかったものだが‥‥)
出てきてしまったものは仕方ない。李煌は射線に気をつけながら移動し、小部屋内の土竜を狙った。海が留まっているおかげで土竜が路に出てくることはないが、攻める手も限られてしまう。
「わたくしは如何しましょう?」
「後ろに下がってて貰っていいんだぜ?」
男は黙って女の盾になるもんだ、そう背中で語りながら、ミハイルはライゼを自身より後ろへ下がらせる。
そうしている間に1体の土竜が撃破され、広間に入り込める空間が出来た。滑り込むよう疾く移動したのは智美。
(攻略済の後ろから土竜が来るとしても少数だろうし、先生がどうにかできるはず。だから俺は――!)
数が多ければ通路で迎撃を、と考えるも、現在の状況では銃に持ち替えたところで射線は通らず手出しもできない。
玉鋼の太刀を引っさげ最前線に立ち、太刀で断つ。智美が侵入した部屋の中には特別な物体はなく、小型の見慣れた土竜のみ。
攻手を増やすため、反対側の部屋についても空きを作ろうとするが、海より早く土竜が滑り込み、埋められる。
「そうだ、横壁を破壊して入口を広げるとかどうでしょう?」
壁は結構もろく、簡単な攻撃で破壊することが可能だと理解した上で、淳紅が口にすると、
(万一視界に収まる許容量を超えた場合‥‥か。暴走した時はそのときで手立てはある)
一瞬ライゼを確認し、淳紅に視線を戻し、承諾するミハイル。
「壁壊しますので破片とかに注意して下さい!」
仲間が巻き込まれないよう注意を促すことも忘れない。dolcissを用い、部屋の壁を破壊。また直線上に位置していた土竜にも障害を与えた。すぐさま其れを利用してカルロが弾丸を撃ち込んだ。
ライゼの状態を確認するミハイル。必要ならば問答無用で担ぎ上げ、一時退避することも考えていたが一部屋分なら問題無しの様子。
智美が貪狼で耐える間に、片部屋の掃討は完了。同じ手法で壁を壊し、入口を広げ、二つの小部屋の敵は一掃された。
●土竜叩き
スタート地点に戻ると前の広間へ向かう道の糸が切れていた。
確率は低いが大群が地上へ向かっていてはまずいと、全力移動で広間へ向かう一行。
最初に滑り込んだのは移動距離で勝る智美。
「1体か‥‥!」
巨大土竜がのそのそ歩いている最中。盛大に足音を立ててきたため、土竜も感知し頭を向けてきた。次いで海とミハイルが到着するも、攻撃の手はミハイルの方が早い。
「気付かれて残念だったな? 俺の本気の一撃、見せてやろう」
言うが早いかミハイルの全身から赤と黒のオーラが吹き上がった。手にした銃から間髪いれずに放たれた弾丸が獲物を捕らえる、が倒れない。土竜は智美に近接し、前足を大きく振りかぶり、振り下ろす。
「この程度!」
難なく避け次手の反撃は、烈風突。土竜は衝撃により後方へ突き飛ばされ倒れる。直ぐに起き上がらないところをみると行動不能に陥ったようだ。その間に後続も到着、戦力が揃う。
意識の戻らない土竜へ集中攻撃を浴びせる。手番の早い淳紅は、だらしなく伸びている頭部狙いワンダーショック。
「‥‥土竜はピョコピョコ出てくるのを叩くので十分だ‥‥」
李煌は簡単なゲームの内容を思い起こしながら蛍丸を鞘からするりと抜き、土竜の身体に叩き込んだ。土竜に反応はなく効果音が鳴るわけでもなく、現在の程度はわからない。
「消滅した時がかの者の死、其れまで只攻撃を加えるのみ」
頭を穿ち、腕を切り落とし、腹を抉り、身体には矢と弾丸が打ち込まれる。巨大土竜は智美を起点とする連携攻撃により反撃もままならぬまま葬り去られるのであった。
●奥へ
壁の穴が塞がりだした頃、時間は掛かったが迷路の地図はほぼ完成に至る。特別意味ある形では――ないかな?
海は淳紅の作った地図を頼りに適所で生命探知を行い、迷路内に土竜が残っていないかを探りながら奥へ。
「いくら廃棄されたとはいえ、ここは天使どもにとって侵攻拠点のはず。我々の侵入に気付き舞い戻ってきたりはしないのであろうか?」
(‥‥奇策、奇襲用としてわざわざ地下に作った可能性もなくはない、か。作ったヤツが居残ってでもいれば問いただしも出来るんだが。いや、いないに越したことはないんだが‥‥どっちにしろすっきりしねぇな)
カルロの疑問を耳にして、李煌も考える。たかが下等奉仕種族・土竜だけが巣食うゲート、と慣れた頃に罠として発動する何かがあったりするかどうか、も進まないことには判らない。杞憂であればよいが。
とにかく今は能力を解放した反動で疲弊が強い、と眩暈に耐える李煌。
その後方、
「‥‥あ、粒餡」
戦士たるもの時間を見つけては歩きながらも食事は取る。智美は次に備えることを怠らない。
「ところで、土竜嫌いだろう? どうしてそこまで入りたがるんだ?」
恐らく誰もが抱く疑問をライゼにぶつけたのはミハイル。
「はい、嫌いですよ?」
ミハイルの想像通り行く末を見守りたいのも然り、他クドクド吐き出される土竜への愚痴の末、
「――わたくしは万が一の際、皆様を人間界へ返すための保険ですから」
とライゼはにこり微笑んだ。
迷路内にコアと思われるものがないことを確認した一行は、更に奥へ向かい足を進める。
「戻る前に少し確認しておきたいです」
先に状況が判っていれば次回探索時の手も打ちやすいだろうとと淳紅が提案したのだ。
進むにつれ、正面が明るくなってきた。息苦しさが僅かに薄まり、空気の流れ、開放感を感じる。
其れもそのはず。無理のない範囲で見たものは、広がる外空間へ続く道。
天井がなく、壁もなく、手すりなどもなく、吊る物のないつり橋のような床が、外空間の中を真っ直ぐに伸びている。わき道等も伸びているが、その先がどうなっているかまで確認できそうにない。また、床等の残骸が遊泳している。
そして繋がる先にぼんやりと、垂直に立つ壁と扉が、見えるものには見えただろう――。