●開始/西
「近辺に敵や人は居ないようです。――が、遠くに影と土煙」
戦場に転送されるや否や、龍崎海(
ja0565)は空を見上げ、見渡すと苦々しい表情を浮かべた。
「地区的には西にあたるわね。一先ず中央の避難所なら――ええっと、この道を通れば早いかも。ついてきて!」
直感第一。メフィス・ロットハール(
ja7041)は建物の間をすり抜けるように全力で駆け出した。以前発生した襲撃鎮圧に参戦したひとりであり、地理にも通じている。
そしてもうひとり、
(また、メフィスとこの地を踏むことになるとは、な)
率先して駆けてゆく相方の白い帽子と背に遅れぬよう、アスハ・ロットハール(
ja8432)も続く。
「過去に現れた敵と同種とのことだが、急に出てくるのも怪しいものだな」
出撃前に目を通した資料にあった、敵の情報を思い起こす不動神 武尊(
jb2605)。
「結構長いよね。いいのか悪いのか対処はしやすいけど」
先を急ぎながらも周囲への警戒と注意を怠らないソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)。武尊の声を拾い、反応を返した。
「とにかくうち達は、ここの平穏を取り返す為頑張るしかない訳で。‥‥――にしても裏になにがあるやらねえ」
ソフィア同様、幾度か同種の敵と対峙したことのある高虎 寧(
ja0416)は肩を竦めながら溜め息づくのであった。
中央に近づくにつれ、人の気配が、喧騒が大きく感じ取れるようになる。
●到達/中央
「私たちが到着したのは西ですが、敵は居ないようでした。ですが。西から新たな敵が来る可能性もあります。注意はしておいて下さい」
中央に到着後、Rehni Nam(
ja5283)は住民に不安を与えぬよう、護衛に当たる駐在の撃退士のみに見解を伝える。
西という退路を明らかに示し、残る方位から中央に、意図的に集めさせるようにしているのではないか――との懸念。
実際西からの襲撃を警戒し、中央に集めるよう動いた、と駐在員達も話す。
「避難できて居ない人がどこかにいるかも知れません。防災無線化何かで俺達、救助のことを知らせられますか?」
これから各所で戦闘が起きる。海は人々の混乱、不安を煽らぬようにと対策を申し出。手配はすぐされるそうだ。
万一に備えそれぞれの連絡先も交換。情報の共有を徹底するよう努めていると、
「‥‥ん。(羽音、鳥‥‥違う。マガイ、モノ‥‥) ――コエ、が。‥‥来る!」
ボソボソと片言を発していた不破 炬鳥介(
ja5372)が反応を鋭く示した時、硝子の割れる音と悲鳴が聞こえた。
いち早く飛び出し、構える鶺鴒。流れるような動きで戸惑いなく放つ一隻は、降下中の鳥を射抜いた。上がる奇声。間もなくソフィアや寧らも駆けつけ、現場を確認。
「ちょっと小ぶりだけど、例の鳥に似てるね」
「窓を破ったのは直接攻撃じゃなさそうね」
どこから飛来するのか不明だが、時折こうして鳥がやってくるという。
「どこからだろうが、ちゃっちゃと終わらせれば済むこと、だな」
蒼から銀に変化する後ろ髪を揺らしながら、蒼桐 遼布(
jb2501)は冷静に状況を見極める。ただそれだけのことだと。
念のため、避難所内で異界認識を試みたRehniであったが反応は特に見られなかった。
敵影は徐々に近づいている。
「じゃ、アスハ。みんなも。そっちの方角は任せたわよ」
「そちらも十分に気をつけてくれ」
再び落ち合うことを約束し、分かれる一行。
●分担/南
どんっ、と大きな破壊音が聞こえ、ウィズレー・ブルー(
jb2685)らは足を止めた。
(この距離、丁度阻霊符の範囲でしょうか)
ウィズレーがずっと張り続けていた符。透過しようとした何かが引っかかったに違いない。
「これ以上破壊される前に急ぎましょう!」
人の造形物に興味を示し堕天したウィズレーにとって、天魔の所業で破壊されていくのは耐えがたい。ヒヒイロカネを握る手に力を込め、より早く疾駆する。
瓦礫の上、土埃の中に蠢く者あり。狼2。
「目標捕捉。双極active。Re generate――」
先駆けしたのは遼布。双龍矛の銘を持つ巨大な槍、蛇矛を軽々身構えると、全身を奮わせ闘気を身に纏わせる。
「これより狩りを開始する‥‥!」
得意の間合いを維持したまま1体を強く薙ぐと、蒼と銀の稲妻が堕ちたように見えた。
風圧で土埃が払われ、狼の毛が舞う。傷は深くない様子。低い体制を取った直後、突進してくる狼。
「お前たちの好きにはさせんぞ!」
強靭な肉体と気概を持つ武尊は怯むことなく狼の前に立ちはだかった。正面から、正々堂々受け止める。
「ぐ、うっ‥‥!」
呻き声は噛み締め呑み込み、耐える。支障はない。
もう1体の存在に注意を払いつつ、シルバーレガースを装着した足を大きく振り上げ、膝のばねを活かし蹴り付ける。
(不安要素は早めに取り除きませんと‥‥付近の反応は‥‥)
周囲に潜むものがないかとウィズレーが探査を試みた直後。むっつが地に、ひとつが空に。
「敵、居ます!」
人間が自律飛行できるはずがない。ウィズレーが空を見上げると、陽光に紛れる影を見つけた。
一直線に降下しながら、風の刃を叩きつけて来る、鳥。
「この程度‥‥!」
風刃を耐え切ったウィズレーは機を待ち反撃。氷晶霊符から顕し放った氷刃は鳥の羽を切り裂く。だが堕ちない。
(魔法に強い‥‥のでしょうか)
今を耐え、次に備える。
手早く手負いの1体を仕留めたのは武尊。瓦礫上に居たもう1体は、隙を付いて遼布の懐深く入り込んできた。
「――鋼糸‥‥!」
突進を耐え抜き直ぐ、ワイヤーを発現。狼を絡め捕らえ、行動を抑制しようと試みる。
が、捕らえることは出来なかった。微塵に切り裂き、分断してしまったから。
「残る1体は何処だ」
位置把握しているウィズレーは鳥にかかりきり。だが近くに居るはず、と捜索の足を伸ばすと――
間もなく這い出してきた。崩れた瓦礫の中から。阻霊により透過が出来ず、埋もれていたようだ。
身震いし余計なものを弾き飛ばすや、狼は目先の獲物目掛け牙を光らす。
「顕れてもらったばかりだが、退場願おうか」
武尊の背に巨大な鎧の影が浮いては追従するように漂うと、
「スティンガーブラスト‥‥! 貫く‥‥!!」
腕に層略したアームドリルの爆音を響かせながら直進。狼の腹に一撃。引き抜きざま本体外周の刃で更に切り裂く。
「狼はこれで終いだな」
冷静に確実に、動きの鈍った狼を、遼布は直刀で切り捨てるのであった。
空を仰げば、透けるように真っ白な翼を広げたウィズレーが鳥と対峙中。
魔法の通りが悪いことを体感するや、飛翔。ランスを手に侵攻を妨害。防戦に徹す。空ならば壊れるものもない。
「地上の反応減少‥‥。あとはこの鳥、だけですね」
互いに多く傷を負っているが。癒しの技を持つウィズレーが優位を持ち続けていた。
間もなく地上から矢が放たれ、鳥の身を貫くのを確認する。武尊だ。遼布も闇の翼を広げ加勢。
「南班、処理終了です」
通信機に囁きながら、鳥を仕留めるウィズレー。浮力を失った躯は地に堕ちる。
●分担/北
「ハハ、ハハハ! 紛い物ども! 我が物ヅラして出張ってんじゃねーよ! 死ねよ、みっともなくなぁ‥‥!」
敵と対峙した途端、業火の様な殺意の塊と変貌した炬鳥介は最前線で狼を挑発する。心に響いてくるコエに従い、それでも包囲されぬようギリギリの冷静さを保ち、鉞を揮う。
初めこそ数は少なかったが、アスハの流す血の臭いを嗅ぎ付けてか、炬鳥介の発す声を聞きつけてか、今や数4。鳥も空に集い始めている。
「慣れはすれど、慢心する気はさらさらない‥‥!」
幾度目の交戦か。アスハは炬鳥介と挟撃するよう立ち回り、数で劣る今、狼の数を確実に減らすことに尽力する。
「この一撃は彼女と共に‥‥!」
炬鳥介に注視している狼の背後に回りこんだアスハ。流れる動きで、メフィスから贈られたライダーグローブに似た白龍爪の爪を狼の腰に打ち込んだ。粉々と粉砕する感触。腕を引き、反撃に備える。
「‥‥テメェはもう動けねぇな‥‥! 砕け散れッ!」
追撃として炬鳥介が叩き込むは過剰な一撃。衝撃波と共に狼の全身が押し潰され破裂した。
余韻に浸る間もなく、頬を狼の爪が掠めていった。
「‥‥ぁあ‥‥? 俺を、やる、ってか‥‥?」
挑んできた狼に身を向けねめつける炬鳥介。アスハも機を窺い待機。
「おふたりの邪魔はさせませんよー!」
3という数の鳥と対峙するのはRehniただひとり。けれど持ち前、盾としての本質を発揮。
祈り、群がった鳥の中心へ落とすのは隕石。重圧が3体にのしかかり、ギリギリで地には堕ちないが、元来の機敏さに障害を与えていた。そうして足止めに徹し――
「誰からいきましょうか」
――ているだけでもなく、進んで前に出、仕留めるべく動く。
PDW FS80を手に、自由に動けぬ鳥に弾丸を放つRehni。反撃として風刃を集中して受けるも、耐え抜く。
隕石を落とせる間に仕留めたのは1体だけであったが、鳥の敵意は既にRehniに注がれている。他所へ狙いがぶれることはないだろう。
「痛いの痛いのも飛んできます! まだまだやれますよ!」
狼が絶命する咆哮を耳に数えながら、Rehniは鳥を仕留める気満々。
炬鳥介に牙を向けた狼は屠られ、残るは2。同数。
狼も炬鳥介へ牙を向けることに怯えを覚えたのか、1体がアスハへ跳びかかる。
(見切り‥‥きれない、か‥‥!)
回避試みるも適わず、全身で衝撃を受ける。が、仕返す力は残っている。スカーレットバンカーを右手に装着すると、零距離攻勢魔術を発動。今尚アスハに噛り付こうとし、構えている狼へ放つ一撃。
「撃ち‥‥穿て! バンカー!」
がたん、と弾倉が回るような音が立つ。接触。射出、命中――、打ち出された杭状のアウルは狼の身を貫通、全てを奪った。薬莢が跳ねるような音と共にアウルは霧散し、狼も崩れ落つる。
「‥‥メッセ、滅せよ、滅せ‥‥!」
一切の余念はなく、ただ滅ぼすだけ。炬鳥介は浮き足立つ狼を追い詰め、殲滅するのであった。
「あの大鳥と比べれば仕留め難くはないようだが‥‥いま行く」
「‥‥さぁ、って‥‥鳥、か」
アスハ、炬鳥介は共にRehniの応援に向かう。
●分担/東
移動を遮るものの少ない鳥が多い為か、さほど避難区から離れて居ない場が戦場となってしまう。
けれど誰よりも早く、鳥の群れが何らかをするよりも早く、ソフィアが手を打った。
「少しでも減らせればいいんだけど‥‥! Fiamma Solare‥‥!」
可能な限り距離を詰め、多くの鳥を巻きこめるよう、空へ輝きを打ち上げた。輝きは炎よりも、空の太陽よりも強い光を放ち、弾ける。
「ん〜、多分追撃でいけるくらい、かと思うよ!」
身を焼かれたのは5体の鳥。落ちたのは2体。激しい一撃に、落ちなかった鳥もふらふらとしている。
「見える以外にも何かいる可能性が‥‥。万が一抜けられては大事です」
駐在撃退士が構えているとはいえ、進まれるわけには行かない。海は鳥との射程高度を詰める為、民家の塀から屋根へと一気に駆け上がった。更に周辺に潜むものが居ないか探査を試みる。
「鳥は見える数が全て! 反対側の通路側に何か――」
伝えるが早いか、狼が路地から飛び出してきた。勢いを殺さぬままソフィアに跳びかかった。体当たりに体勢を崩すソフィア。鳥からの追撃があっては適わない、けれど。
「これは狼を縛り付けるより上の方を減らした方がいいかしらね」
持ち前の機動力で一気に移動した寧は、空に複数の影手裏剣を放った。属性相性も相成り、いづれも命中。さらに2体の鳥が落ちる。
反撃の機会をもてた鳥は1体だけであった。放たれた風刃が切り裂いたのは、海。
「この程度、問題ではありませんね」
けれど被害は殆ど無い。
「性質は似てそうだけど、大きさ通り、力も小さいのかしらね、っと。当てる!」
現時点で残る1体を撃ち落としたのはメフィスの矢。
「結構あっけない手ごたえね。ソフィアさんの魔法が強いのかしら‥‥」
視線を向けると、金色を纏うソフィアが、狼に仕掛けるところが見えた。
「狼は結構脆かったっけ? でも万が一残られても困るし、全力で行かせて貰うよ、――Spirale di Petali!」
激しい風にのって螺旋のように舞い踊る花びら。花びらを全身に浴びた狼は意識が朦朧としたのすら分からぬまま、意識を途絶えるのであった。一瞬にして鎮圧される敵の群れ。
「目撃情報からするとまだ居ると思うけど‥‥そこから見える?」
屋根の上に居る海へ、呼びかけ尋ねる寧。
「少し遠いけど鳥がいるね。低く飛んでる。狼は‥‥わからないな」
確認できる範囲には自分たち以外の生命反応もなさそうだ、と海。地面に降り立ち、鳥を落すべく進むことにする。
鳥より先に、1体の狼と衝突することになる。
「臭いでもかぎつけてきたのかしらね」
言い放ちざま、寧は狼の行動を抑制すべく影を縫いあげた。獲物に在り付けぬまま、移動を封じられ、足掻く狼。
「ナイスっ。鳥に近づかれる前にやっちゃいましょ!」
続いてメフィスが鶴の形に折上げられた召炎霊符を投げつける。鶴の形が解け、黒い炎に変化、炎は火の鳥に変じて狼に喰らい付いた。避けることも出来ず、憎憎しげに低く呻く狼。
「炎よ、飛んでいけ!」
仕留めたのはソフィアの魔法書から放たれた炎の花びら。
「この周囲にも人はなし。空の反応が2つ、っていうところだね」
惜しむことなく、海は探査を使い、避難し遅れた一般人が居ないか等を確認し続けた。甲斐あって気兼ねなく戦えているともいえる。
気を緩めることなく、鳥が射程に収まるや否や、ソフィアが先ほどと同じ様、螺旋を描く花びらを打ち上げた。
意識を奪われ、地に落下してくる2体の鳥。威力も重なり、もはや虫の息。
それぞれ、寧、メフィスの手により仕留められた。
各方位とも連絡が取り交わされ、目撃、報告のあった数の処理がなされたことも確認される。
「一先ず中央で合流しましょ。‥‥気になることもあるし」
避難所でRehniが一通りの確認はしたが、どうにも気になってならない、と。
敵は処理したもののメフィスの表情は晴れなかった。
●結果/異
どの方位からも、新たな敵がやってくる気配はなさそうだ。
中央の避難所に集まり、安全が確保されたことを避難中の人々に伝えようとした、時。
異変は起きた。
見上げていた空が歪んだ。太陽に雲がかかった等生易しいものではなくて。
決して一般人では越えられない壁。
結界。
丁度この時を狙ったように、一般人たちが避難の為に移動した避難所が、丸ごと結界に飲み込まれた。
けれど不幸中でも幸いかな。
全ての避難所が飲み込まれたわけではない。中央より西寄りのいくつかだ。
もし目に見える襲撃から、天魔から遠ざかるよう、より西に逃れていたら全てが囲われていたかもしれない。
結界内でも、結界外でも悲鳴が上がる。
爆発する感情。向かう先は――核。