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マスター:ArK
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/08/28


みんなの思い出



オープニング

○何処か彼方で
 関東地方北西部、魔の蔦が絡みついた33F建てのビル。かつては県庁舎として機能していた建物も、今は悪魔支配の象徴である。
 上層の一室で、とある悪魔は部下の報告に眉を顰めていた。
「周辺地域で撃退士がでしゃばっている?」
「はい、埼玉北部、栃木東部‥‥所謂『県境』と呼ばれる地域でも、奴らの干渉が確認されております」
 壁掛け鏡の表面が歪み、ぼおっと明るさを増した。
 映しだされたのはどこか遠くの山中。久遠ヶ原学園の制服を来た少年少女たちと地元の住民が、歓談している様が見える。
「ふん、このような子どもにやられるとは‥‥この地域の担当は余程の無能か」
「恐れながら、ここだけではございません」
 その言葉を裏付けるように、鏡の映像が変わった。
 埼玉県北部、通称「骨の街」。ドラゴンゾンビを中心に据え、既に自治を奪って久しいはずの地域だ。
「‥‥これはいつの記録だ」
「斥候のコウモリが持ち帰ったのは、1ヶ月ほど前かと」
 広がる廃墟の中、凛と駆ける撃退士の姿。
「さらに‥‥」
「もう良い、貴様の懸念はわかった」
 新たな実例を示そうとする部下を制し、悪魔はううむと唸る。不愉快極まりないが、部下の手前、ここで露わにするわけにもいかない。
「だが、このエリアはアバドン様の膝下。強大なお力で結界を施している。撃退士とはいえ所詮人間、這い入ることはおろか『気づく』こともできぬわ。それとも何か、貴様はアバドン様の偉大なるお力を、信じられぬと申すか?」
「滅相もございません。ですが‥‥」
 強大な支配者の名に、部下が一瞬身震いする。だが、憂いの表情は晴れないままだ。
「人間の慣用句に、念には念を入れる、というものがございます。ここは我々の力を示し、撃退士、ひいては人間どもに無力な身の程をわからせることも、無駄ではないかと」
「ふむ‥‥」
 悪魔は天井からぶら下がったシャンデリアに視線を移すと、考えをめぐらせた。
「それも一理あるな」
「左様で」
 強大な支配者の側近として「この地」に遣わされてもう随分になる。支配は安定しているが、拡大の目途は中々立たないままだ。
 ──ならば積極的に撃退士を「駆除」するのも悪くないのではないか?
「よかろう。周辺地域の撃退士を、根絶やしにしてやろうではないか。二度と「この地」――アバドン様のお膝元に近づこうなどと、思わないようにな」
 立ち上がり、笑みとともに判断を下す悪魔。
「かしこまりました」
 部下は一礼し、大きなコウモリに姿を変える。そしてそのまま、割れた硝子の隙間を抜けて外へと飛び立った。
 受け取った命令を、同胞に伝えるために。


●事件記録
 関東北西、とある県境の町。
 東の空に光がみえはじめるような、まだ屋外で活動している者の少ない時間にコトは起こった。
 最初の被害者は早朝の散歩に繰り出していた初老の男性。
 川沿いを歩いていると正面から影を背負ったヒトが歩いてくることに気付いた。すれ違い様挨拶をしなくては――と礼儀に備えたのだが、その瞬間に声は出なかった。
 何が起こったのかすらわからぬまま、激しい傷みが男性を襲う。地面に倒れるとそこには液体が広がっていた。べっとりと、赤く生温い。
 辛うじて――最期の意志が働く。
 男性は空を見上げた。
 逆光の中に浮かび上がるシルエット。
 かすむ視界でどうにか正体を捉える。
 それは先ほどすれ違いを予測していた影だった。しかし人には似ても似つかない。ぎょろりとした目、黒々とした表皮。異形の――天魔だ。
 天魔は、赤の中に横たわり事切れようとしている男性に飛びつくや、腹に頭部を透過浸透させ、生々しい音を立てて肉を貪る。男性は程なく絶命。
 魂の失せた男性の腹部から、天魔は顔を抜き出す。そして後ろ2本の足で身を立ち上げると、次なる獲物を求め、のろりと歩き出すのだった。


●出撃要請
「――どこの馬鹿が創ったのかは知りませんけれど、こんなものを放逐してみっともない。第一死なせてしまっては回収も――」
 説明の前に事件の詳細を確認しながら、呆れ半分、ため息をつくのは学園研究職員のライゼ(jz0103)。
 今こそ学園に帰属しているものの、彼女ははぐれ悪魔。ゆえに「そちら側」視点での意見を零すことも多い。かといって元の陣営に戻る気もさらさらない様子。
「っと、ごめんなさいね。わたくしが憂いても仕方在りませんでした」
 複数の視線を感じ、はっと意識を戻すライゼ。ここは相談用に開放された教室のひとつ。目の前には生徒――撃退士たち。
「どうもヒトの血肉を好むディアボロが町を襲っているようなのです。様相としては――虫、でしょうか? 現在までに報告されているのは1体のみですが、人間に恐怖を与える存在としては十分でしょう。すみやかに現場へ向かって下さい。‥‥重々お気をつけを」
 被害者や敵について、情報は時間と共に徐々に集まり始めていた。
 体長は2mに及ばない程度。全身艶のある殻のようなモノで覆われた――巨大な昆虫。
 また、一足先に救護撃退士も動き出してはいるが、内蔵を喰われた被害者の回復は絶望的のようだ。遺体の回収作業に等しい、と嘆きの報告が上がっている。とりあえず撃退班にも救護班の連絡先は伝えられる。
「一応わたくしもここに控えておりますので、何かありましたらお尋ね下さいな」
 ライゼは瞼を伏せ、深く息を吐くのであった。


リプレイ本文


 日が南天を目指し、半ば昇り終えた頃。
 現場に到着した撃退士一行は、二班に別れ調査に当たっていた。
「泥‥‥じゃない、ちだまり‥‥だよ、これ――っ」
 発見した路面の黒ずみを検め、紀浦 梓遠(ja8860)はニットキャップの端を強く握り締めながら、唇を噛む。
「血肉を好む巨大昆虫って話だもんな」
 橘 月(ja9195) は既知の梓遠を落ち着かせようと、屈んだ背に己が手を軽く添える。自分も手だれには及ばないが、何度かの経験を経て成長しているはず。
(今回は梓遠も一緒だし、‥‥大丈夫だ)
 この震えは武者震いと言い聞かせて。
 周囲を見渡せば草花の先端にも乾いた血液が付着し、膜を張っていた。
 ここは危地。だが今人影はなく、建物の間を静かに、生ぬるい風が吹き抜けていく。
 そこへ、
「忙しそうだったけど、やっとあちらさんに確認がとれたよ」
 暑い日差しの下、長袖のパーカーを纏い、フードを目深に被った夏雄(ja0559) が淡々と語りながら現れた。手には通話を終えたばかりの少し熱をもった通信端末。相手は先に現場入りしている救護班。
「負傷者の収容は継続中。最初の被害位置から、どんどん住宅地に向かってきてるらしいね。あと一般人の多くは家に立て篭もってる様子。でも――おいらたちは、元凶の始末を優先してくれってさ。孤立してる家とかが襲われたとき心配なんだけどなぁ‥‥」
 保護は救護班が請け負うので、撃退班として与えられた任務に専念してくれという話だが――心配だ、と一般人の捜索に手を割くことを考えていた夏雄たち。
「孤立してる、家‥‥?」
 梓遠は立ち上がりながら繰り返す。
「そ。農家なんか畑のど真ん中にぽつんとあったりするんだよ。まだ市街に至ってないなら可能性はあるかな、って」
「確かに可能なら人も見つけて、保護したいけど‥‥敵は1体」
 現在確認出来ているモノを撃破できれば眼前の脅威は去る。逡巡を経て月が答えを呟く。索敵に集中すべきだったのだ。
「そういうこと。あっちにも言うことは言ったけど――まあ、確かに任務が違ったね。改めて蝗狩に集中するとしようか」
 頷き返した夏雄が、最寄りの民家から視線を外そうとすると――



 家屋が瓦礫と化す瞬間の音、そして強烈な悲鳴。
 只ならぬ予感に誰ともなく駆け出す。間近に寄れば他の可能性を疑う余地なし。
 一軒の民家が蝗型ディアボロの襲撃を受けていた。幸い屋外に人影はなく、血痕も見えない。
「惨いことをする害虫はさっさと駆除しないとね!」
 眼前に敵を捕らえるや、梓遠の瞳は赤々と輝いた。言葉にも鋭さが増す。
 そして速攻。一足飛びに間合いを詰めながら、現したバタフライアクスを大きく振り上げ、勢いよく振り下ろす。狙うは足の切断。
 ヒュッと風が切れる音に次いで、立ち上る乾いた土埃。
「蝗といえば大群のイメージがあるけど‥‥流石にこれが大群じゃ滅入るというか、笑えないな」
 風に土が掃われ視界が晴れた後をみれば、成人の背丈をも越える巨大蝗が不気味に身を起こしていた。
 偃月刀を握る手に力を込める夏雄は、背筋が冷えるのを感じながら、悲鳴響く建物を背に、蝗と対峙する。
「っ! そうだ、発見の報告――」
 月は発見の報告しようと、通信端末を手にする――が、応答が無い。しかし敵を前に長らくそうしているわけにも行かず、連絡を一時断念。戦闘に加わるべくアサルトライフルWBを構えた。
(まずは機動力を削ぐ――)
 前線で脅威に曝される梓遠の身を案じながら月は、目まぐるしく立ち回る3つの影に注意し、弾丸を撃ち出す機を狙う。
「6本もあるんだから、1本くらいくれたっていいじゃないか!」
 もう一度、と梓遠が攻撃に移ろうとした時、蝗が跳ねた。広げられた翅が陽を遮るが、丁度見上げる者にとっては逆光となり、
「眩し――‥‥!」
 目が眩む梓遠。翅が風を切る音は聞こえたが、相手の位置が捕捉できない。このままではまともに押しつぶされてしまう――そんな光景が脳裏を過ぎった時、
「梓遠!? ‥‥この!」
 月が反応した。すかさず撃ち出された弾丸は蝗の側面を捉え、衝撃で重心をずらすことに成功する。
 それでも巨体と衝撃波の影響から完全に逃れることは適わず、梓遠の身体には圧力がかかり、背から地面へ倒れこむ。そして腕に食い込む足の棘。だが、もし重心がずれていなかったら、まともに胴体が潰されていたことだろう。
 蝗が梓遠を踏みつけたまま、ぎょろりと周囲を見渡す。
「これじゃ上から叩き割る訳にはいかないねぇ、だけど!」
 踏みつけている以上蝗も回避することはない。もし回避されてもそれならそれで梓遠が解放される。夏雄はどちらに転んでも結果は良好と、刃を揮った。直後ぱっくりと割れる胴の後ろ半分。零れる体液は、ない。だが圧力は散る。
「この隙に抜け出せ!」
 月が叫びながら援護の為、弾丸を打ち出した。蝗の注意が夏雄の斬撃に続き、月の射撃で逸れ、
「この痛み、返すよ!」
 梓遠に抜け出す余地が生まれた。だが退避はしない。刃を蝗の腹に沿わせ、起き上がりざまに切り上げる。見舞ったのは威力も命中も若干劣る一撃だが、位置が功を奏す。夏雄が上半分を削いでいたのもあり、胴は3つに分断された。
 さらに止めとばかり、跳躍した夏雄が、蝗の脳天目掛け陽に煌く刃を叩きつけた。乾いた音を立てて砕ける蝗の頭部。眼だけが、てん、と転がり落ちた。

「ほら、腕だしな。応急だけど手当てしとこう」
「あ‥‥う、うん――」
 敵が去って気が抜けたのか、呆けたように応える梓遠を座らせ、夏雄は腕の血を拭い、消毒をし、包帯を巻いてゆく。
「っと、そうだ。連絡しないと」
 そこで月がふと気付く。繋がらなかった通信。脅威を撃退したことだし、と改めて手に取った時、端末が自ら鳴った。



 刻は6人が二班に別れる瞬間まで遡る。
「それじゃ、あとの連絡は通信端末で――って、あれ? あれ‥‥? あー‥‥ごめん、忘れたっぽい?」
 所持を確認しようと、手をポケットに入れ探るが――なかった。平山 尚幸(ja8488)が申し訳なさそうに肩を落とす。同行者はあとふたり、どちらかが持っていれば、と視線を送ってみたものの、
「おお! 虫取り網だけじゃなく携帯も持ち忘れてたなのなのだ!?」
「あ、わりぃ。俺もないわ」
 偶然か天の悪戯か、フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)と御暁 零斗(ja0548)も未所持という事態。
 これから班を再編成する訳にもいかず、さすがに私物を貸し出す者もおらず。
「‥‥あ、そういえばデモ機とか借りられないかな?」
 すぐ傍に携帯端末専門店がることに気付いた尚幸。中で怯えていた店員に尋ねてみると、電波確認用の貸出端末があることがわかった。
「ちゃちゃっと見つけて倒すから、安心するなのなのだ!」
 フラッペは店員を落ち着かせるべく撃退士であることも告げ、任務の間一時的に借りることにした。仲間と番号の交換も行う。

「んー、むしー、虫ー、Insecte? どこにいるのだー」
 住宅地外周付近で敵を探して回るフラッペは、虫の既存イメージに着目し街路樹や生垣を見て回る。だがしかし、
「いや、情報によると2m位あるようだぞ? そんな狭いところにはいないとおもうぜ」
 と突っ込みをいれる零斗。事件発覚当初はともかく、現在屋外に一般人は居ない様子。被害は家屋に進入されてとのことだ。大きさから考えれば見つけるのも難しくはないだろう。
 それを示すかのように発砲音が響き、空に赤黒い軌跡が走る。住宅地の様子を見渡そうと、秀でて高い建築物の屋上に位置取っている尚幸の手によるもの。己が特性を活かし、索敵に専念していたのだ。しかし移動に手間取る、どうにか射程内に現れてくれたが。
 軌跡の先をみると――蝗がいた。頭部に血糊がべたりと張り付いて黒ずんでいる。ここまでに人を餌食にしてきたことが窺える。
「黒いけどカブト虫じゃないのだ!?」
「いや、だから蝗だって。‥‥とにかく報告にあったのはこいつ、だな」
 驚愕するフラッペに、零斗はそもそもどこから得た情報だ、と呆れながら髪を掻き揚げる零斗。だがそれは己を切り替えるスイッチ。
「おお! これ以上進入させはしないのだー! とぉっ!」
 フラッペのジェットレガースが陽を受けて白銀に輝く。建物に押し入られては人が襲われる。その前に、と地を強く蹴り跳躍、そこから繰り出す鋭い蹴りが、尚幸の銃撃に怯む蝗を襲う。前足のひとつがかさりと拉げた。
「さぁ、俺と遊ぼうぜ!」
 機動力に特化している零斗はフラッペと反対側、蝗の背後に位置取れるよう回りこむと、狙いを定め、パイルバンカーから杭を打ち出した。エネルギーは蝗の胴を貫通。大きな穴を開ける。
「疾風迅雷の名は伊達じゃねぇんだぜ」
 しかし蝗の動作は止まらない――無差別の暴走を始めたのだ。
「うわ、そんな暴れたら建物が壊れ――ああ!」
 全身で蝗が体当たりするも、建物は、壊れなかった。無意識の透過だ。
「ちっ、そういや忘れてたな。阻霊符もってるが、どうする、使うか?」
 幸い所持していた零斗が提案するが、使えば透過できなくなり、家屋が崩壊する。使わなければ透過し家屋に侵入、中のものは襲われるだろう――答えは、でない。
 だが迷っている暇はない。地上の状態を知ってか知らずか。己が特性、引鉄を引いたことで撃鉄中毒となった尚幸は、思考の合間を埋めるように蝗に弾丸を撃ち続けていた。暴走は関係ない、被害が出る前に仕留めればいい。
「迷惑なやつ‥‥恨むなら俺でも恨んでるんだな、はは、ははは!」
 発砲音に混じって何か電子音が聞こえる。
「ようっし! リョウト、あいつを仕留めるのだ!」
 フラッペは再び跳躍し、蹴撃を繰り出した。そのたびに蝗の殻が砕け飛び散る。銃をもたずともその身体自体が銃身であるかのように、飛び出す一撃は重い。しかし動き回られては的確に芯を捉えることはできず、
「動きすぎだ! ちっとは大人しくするんだな!」
 零斗が腕を突き出すと、蝗の下に広がる黒く大きな影が、まるで地面に縫い付けられたかのように動かなくなる。本体も同様。
 攻撃の隙は十分に出来た。尚幸のスナイパーライフルCT-3が再び赤黒い弾丸を放つ。撃ち出されたエネルギーは蝗を貫通し地を穿つ。ダメージも大きいのだろうが影に拘束されている蝗は身じろぎひとつ出来ないでいる。
「これでどう、なのだ!」
 仕留めの一撃。訓練では命中を外し、青痣をつくってばかりであったフラッペも、締めを外すことはなかった。蝗は腹を砕かれると、身を崩壊させた。それを視認したフラッペの双腕から、うっすら浮かび上がっていた蒼い六角柱が角度を変えながら溶け消える。
「っし、これで現れたっていう蝗は始末したな。さっそく報告を」
 そこへ屋上に上っていた尚幸が慌てた様相で飛び降りてきた。
「ごめん! 戦闘に集中してて取れてなかったんだけど通信が――」
 報告を耳にするや、フラッペも零斗も言葉を返す前に、駆け出した。
 応援要請。



 最初にこの町を襲撃した蝗はフラッペらが住宅地外周で仕留めた。
 そして新たに町に迫ろうと現れ、やや外れの家屋を襲っていた蝗は夏雄らが仕留めた。
 ディアボロとはいえ、自然界の蝗のような特性をもっているのだとすれば、1体ということはない――そんな夏雄の予想は的を射る。
 さらに1体が郊外から出現し、中心へ向かっているという報告が双方にもたらされたのだ。
「あれか? 自分はこの辺に陣取るから――ってああ!」
 尚幸は目を見張る。蝗はまもなく見つかった。一軒の民家を襲おうとしている、がその庭。近隣での戦闘音が気になったのか、屋外に子供が顔を出していた。巨大な蝗の存在に気付いていないことは無いだろう、気付いて動けないのだ。
「あの子はボクに任せるのだ!」
 早かったのはフラッペ。わき目も振らず一直線に道を駆け抜け、疾風の如く子供を小脇に抱え掻っ攫う。まるで弾丸。
 すれ違うように蝗の足が地面を穿つ――まさに間一髪。だが蝗の目は子供を追いつづける。
「待てよ! お前の相手はこの俺だぜ。無視すんなや」
 鋭い犬歯をむき出しにし、まさに獣のように哂う零斗。背を向けようとする蝗に杭を叩き込む。
 それでも攻撃の手はフラッペの抱える子供へ向く。
「しつこいのだ!」
「撃退士よりそっちの血の方がお好みってか」
 零斗は悪態づくが、いかに挑発しようが反応がない。その後ろに陣取った尚幸の援護射撃も意に止めず、跳ね迫る。
 そこへ援軍到着。
「この切れ味、きみで試させてもらうかなー、なんてね」
 現れざま、漆黒に塗りつぶされた大鎌を、蝗の胴目掛けて振り下ろす梓遠。だがほぼ全方向に及ぶ昆虫の視野、蝗は跳び避けた。梓遠は目を凝らし、動作を追う。
「どうしてもその子がほしいって感じだねぇ。迷惑極まりないってわからないのかな?」
 虚をつき、搦め手を駆使――と狙えども適わないと知れば作戦を変える他無い。夏雄は刀を抉るように突き出す。数は揃っている。
 フラッペは子供を守るよう抱え回避に専念。梓遠と夏雄がその前に立ちはだかり壁となる。尚幸は翅が広げられる度、薄翅を打ち抜き、風通しをよくさせた。もう、翅を頼る跳躍はできまい。
 そして月。
(翅がなくても後ろ肢で跳べるかもしれない‥‥慎重にいかないと。確実に守らないと‥‥!)
 尚幸の対極位置で太い後ろ肢を撃ち落とそうと狙いを定める。怖いのは、身をまもる術をもたない、一般人の被害。人数が増えた分集中力も必要となるが、守るべきもののためいつになく発揮された。
「防御が薄いのはもうわかってんだ、そろそろ諦めろ!」
 決定打になったのは雷の如く電撃的な動きを魅せた零斗の一撃。丁度頭部を正面に捕らえた時のことだ。
 パイルバンカーの射出口をぴたりと眉間に這わせ、放つ。頭から胴へ、胴から腹へ、真っ直ぐに貫通した杭は、打ち抜けた位置で光に融けた。脆く堕ちる足、折れる触覚、崩れ往く胴体。蝗は活動を終えた――。

 フラッペが守り通した子供は、直後泣き出したがこれといった外傷もなく無事。
 しばらく街周辺の警備や、負傷者の収容の応援に加わったりもしたが、新たに蝗が現れることはなかった。
 多くが背を向ける方角、そこには今も暗雲が立ち込めている――そこに何があったのか、応えるものは居ない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 沫に結ぶ・祭乃守 夏折(ja0559)
重体: −
面白かった!:3人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
疾風迅雷・
御暁 零斗(ja0548)

大学部5年279組 男 鬼道忍軍
沫に結ぶ・
祭乃守 夏折(ja0559)

卒業 女 鬼道忍軍
猛る魔弾・
平山 尚幸(ja8488)

大学部8年17組 男 インフィルトレイター
また会う日まで・
紀浦 梓遠(ja8860)

大学部4年14組 男 阿修羅
茉莉花の少年・
橘 月(ja9195)

大学部4年293組 男 インフィルトレイター