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マスター:ArK
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/07/09


みんなの思い出



オープニング


 今日も斡旋所の掲示板には数多くの依頼が張り出されている。また、それよりも更に多くの生徒が依頼の品定めをしていると――
「はい! 依頼を求めてやってきてくれたそこのキミ! 是非ともこれを受けてはくれまいかー!」
 斡旋所受付バイトの貴布禰 紫(jz0049)が、
「今日のお勧めはこれだよっ!」
 と突然、タイムセールが始まるかのように叫んだ。
「ほら、そろそろ海っぽい季節でしょ? そんなところにこの依頼! 浜辺でキャンプ気分を味わいながら報酬も貰えるとゆー、なんて一石二鳥の依頼だと!?」
 どんな依頼であるものかと疑問符を浮かべる者と、即座に食いつく者に分かれるのは必須で。
「はい! 受けたいので詳細を教えてください!」
「おおぅ! ありがとー! 内容としてはねー、24時間戦い続けてもらうだけの簡単な依頼だよ☆」
 ――簡単かどうかはなんともです。



「あらためましてこんにちは! 依頼の説明はっじめるよー☆」
 紫は相談用に開放された教室に顔をだすや、資料を配布しながら言葉を紡いだ。
「ん〜‥‥ボクとしては結構簡単な部類だと思うんだけど、感じ方は人それぞれかもね」
 いくつか突っ込みを受けたらしく、説明台に移動しながら肩を竦める紫。
 それはともかく、この依頼は海岸で走り込みをしていた、とある生徒からの通報。
 久遠ヶ原海岸のひとつに、大量のサーバントが流れ着いているのを発見したという。
 その場にいた仲間と共に、見かけたサーバントは処理したものの、ちらほら波に揺られてやってくるのが見えたという。
「流石に自主トレとして張り付いてるわけにもいかず、せめて依頼として報酬出るようにしてくれー! ってね。どばっと現れる時もあれば、ちょろっと現れる時もあって、ってかなりムラがあるみたい」
 とりあえず出現要因が解消されるまで、海岸に溜まらない様、退治して欲しいとのこと。敵は海月にもみえる半透明状のスライム、交戦したものからおよその情報は吸い上げられていた。
「みんなの担当はこの1日だよ。食材とかキャンプ用具も一通り貸し出されるから、そんなに準備は要らないと思うけど、何かあったら聞いてくれるかな? 上に確認してみるよ」
 そうして紫は説明を終えるのであった。


リプレイ本文


 朝6時を回る少し前、掃討依頼が発行された海岸手前の林の中に、人が集いだす。
「ええっと今日は一日晴天‥‥蒸し暑くなるでしょうッスか!? こ、これは髪まとめといた方がよさそうッスね!」
 悲鳴にも似た叫び声を上げながら、南村角 晃(ja2538)は流していた長い黒髪を素早く器用にポニーテールに仕上げた。任務を、より優位に快適に進める準備。そう考えての情報収集であったが、最高気温をみて己がげんなり。
「環境はともかく、こう範囲が広いと、うちの持ち味も出し切れないのよね」
 ショートボブの高虎 寧(ja0416)に、戦闘で髪が邪魔になる心配はない。それよりも敵出現予想範囲を地図で確認し、どうしたものかと嘆息。寧が得意とするのは瞬発的な戦闘スタイルだ。
「はじめる前からそんな疲れた顔すんなって! 広いったって障害物もなんもなし! こんだけ見渡しよけりゃ、どうにかなるさ!」
 初任務に沸き立つ血を抑えられず、テト・シュタイナー(ja9202)は今にも飛び出していきそうな勢い。蒼い瞳は光り輝き、金のサイドテールが潮風に揺れる。
「不備を鍛えるという意味ではいい訓練になりそうだし、やってのけるわよ――昼寝付きの任務なんてそうそうないし」
 テトの言葉に応答しながら、そっと呟く寧。後半が本音の様にも聞こえた。
「ふふ。とにかく今日は一日よろしくね。班分けと担当時間は事前の打ち合わせ通り、他に何もなければ――あら?」
 インニェラ=F=エヌムクライル(ja7000)がひとりひとり顔を確認しながら最終確認を行っていると、不意に違和感を覚えた。それは、
「顔色がすぐれないようですが、大丈夫ですか?」
 木陰であるせいか、まだ日が昇りきらぬせいかもしれぬが、阿岳 恭司(ja6451)の顔色に若干の陰りがみえたのだ。
「き、気のせいた〜い」
 本人はマイペースを装っているが、どうにも本調子ではない様子。それを見かねてか、
「ええと‥‥、も、もしお体の調子が悪いようでしたら無理はされない方が。担当時間を交代するとかも、まだ出来ると思いますし‥‥」
 自身、アウルに目覚める前は病弱であった微風(ja8893)が、消えてしまいそうな声を絞り出して提案する。
 しかし恭司は意気よく立ち上がることで体力具合を示すと、皆に背を向け、真っ先に林から飛び出していった。しっかりした足取りをみればまだ大丈夫そうだが、それでも。
「やっぱり心配です。高虎さん、最初の休憩、応援に出てもいいでしょうか?」
「ん〜、まあ、消耗してないしいいんじゃない?」
 元々休憩には不測時の応援要員としての意味もある。寧は、微風の提案をのむと、テトも率い砂浜に向かうことにした。



 結果的に、4人で砂浜に下りたのは、正解となる。
「この数、ふたりじゃ危なかったな‥‥」
 テトは波打ち際に揺られる白い塊をみて慄く。今朝まで退治する人がいなかったのか、海月型サーバントが複数溜まっていた。ほとんどが気持ち良さそうに波に揺られているだけだが、一部は砂浜を侵攻し始めてもいる。
「はっはっはー! サーバントどもめ! この正義の味方、チャンコマンが成敗してくれる!」
 恭司はいつの間にか覆面を被り、リング名だろうか、名乗を上げながらキャノンナックルを拳に纏わせ、1体に飛び掛っていった。
 全体重を乗せた渾身の一撃は砂浜をも穿ち、海月を抉り、一瞬の間で対象を滅した。爆ぜ消える海月。
「時々いるわね〜、性格変わるタイプ――ともいってられないわね。微風、無理しない程度に援護するわよ」
「はい」
 寧はあくまで援護に徹する姿勢。手に手裏剣を現し、機を計り待つ。水辺は相手の得意地形、突出しないに越したことはない。
「ああ、主援護は俺様に任せな! 思いっきり暴れてやる!」
 テトの掌に薄紫色の光がまとわりついた――直後、それは一隻の矢となって海月へ飛ぶ。的確に、中心に見える核を貫通する。刹那、海月は形を崩した。
「おふたりとも‥‥強い‥‥!」
 威力を目の当たりにし、息をのむ微風。一瞬にして2体もの海月が消滅したのだ。
「あらら、これは応援いらなかったかし――」
 寧がそんなことを言いかけた時、戦況は変局を迎える。
 おそらく付近にいたのだろう。波に乗って新たな海月が襲来、恭司に襲い掛かった。
「ぐぅっ‥‥!!」
 不意打ちに近かい攻撃の回避はかなわない。海月の触手が恭司の感覚を蝕す。幸いダメージは致命的でなかったものの、恭司は眩暈に襲われ、その場に膝を着いた。
「情報にあった麻痺攻撃か!」
 ちっ、とテトは舌打ちした。どんなに強靭な身体を有していようと、動けないところを襲われてはいずれ――
「そんなこと、させません!」
 果敢無さは果敢に変ずる。微風は仲間の危機に己の身を投げ出す強さを持っていた。
 駆けながら手の中のヒヒイロカネに念じ、今まさに恭司に喰らいつこうとしている海月目掛け、現し、振り下ろす魔具は、
 ――ピコッ☆
 と可愛らしい音を立てた。それはカラフルなピコピコハンマー。
「あ、あれ!? こっちじゃありませんでした‥‥」
 慌てる微風。想い描いていた攻撃とは違ってしまったが効果に遜色ない。海月は怯み、波に浚われる。
「逃がしはしないわよ!」
 待っていた好機。微風の一撃で弱っているところへ追撃を仕掛ける寧。投げつけた手裏剣が見事仕留める。
 その間にテトが、
「おっっ、もい!!!」
「す、すまんたい〜‥‥」
 恭司を引きずって波打ち際から退避させていた。これで包囲される心配はないだろう。
 今見て取れる海月の数は3。
「誘い出して仕留めましょう。私‥‥頑張ります」
 手に柳一文字を握り締め、微風が息を吐くと、透けるように白い様相の周囲を青い光が舞った。それは決意の光纏。
 テトと寧はそれを感じ取るや援護に徹した。
 水辺を離れた海月の動作は極めて鈍かった。砂にまみれ、白く透明な身体は汚れる。
 それはこちらも同じ。
 微風はただ必死に、囲まれないよう立ち回った。太刀で斬り付けては退くの繰り返し。
 合間にテトが紫の矢で滅し、寧は持ち替えた槍で核を狙い貫く。微風の斬撃は海月の表皮を削り断ち切って。
 そうして恭司が麻痺から回復する頃には、目に見える範囲の海月は消失していた。
 だが戦いはまだ始まったばかり、気は抜けない。
 ひとまずの脅威を撃退したこともあり、微風と寧は一旦後退。恭司とテトに見張りを任せるのであった。



 まだ海岸方面から元気な声が聞こえていた頃。
「若いっていいわね――晃さんは、おねーさんとこんなことしてて退屈じゃなぁい?」
 林の中では、インニェラが晃とテントの設営を行っていた。当番から戻り次第休憩に入りたい者もいるはずだ。
「気にしないでいいッス! 俺、実のところ戦闘はあんまし得意じゃないんで、こういったことの方が自信あるんスよ」
 見た目はメイド、中身は少年。最年少晃のこと、動き回りたいのではないかと、考えたがインニェラであったがそうでもない様子。楽しそうに支給品の中身を仕分けている。
「ならよかった。それじゃあテントも張り終わったし、ちょっと早いけど食事の準備をはじめてしまいましょうか。先発が戻って着次第食べられるようにね」
 雅な紫の長髪を揺らしながら、簡易調理台に足を運ぶインニェラ。そこには白米飯盒、野菜肉に鍋。
「うぃッス! 非レトルトってのが俺的は嬉しいッスね! 美味しいご飯で鋭気も回復ッスよ!」
 晃は手近な野菜を手にとると皮むき作業に入った。戦闘任務中であることを考えればレトルトの方が適当ではあるが、
「確かに。たまには外でこういうのもよさそうね」
 インニェラの言葉に、豊かな表情で大きく肯定する晃。
 この間にも具材はどんどん晃の手で切り刻まれ、インニェラにより熱を通される。
 そうして最初の班が休憩所に戻ってくる頃には――
「あの海月がサーバントじゃなければ食材にできたのになぁ〜」
「そう落ち込むなって! ほら、十分いい香りが漂ってるじゃねーか」
 林一帯に食欲をそそる、芳ばしいカレーの香りが充満していた。
「担当お疲れさまッス! ひとまずコレで汗は拭って貰うとして、先にご飯にするッスか? もう寝るッスか?」
 風呂がないのが残念だ、とばかり。晃は恭司とテトにタオルを手渡しながら尋ねる。
「温めればいつでも食べられるようにしておくから、好きなほうでいいのよ?」
「俺はとりあえず休むた〜い‥‥」
 本来ならカレー作りに手を出したいところの恭司であったが、疲弊が激しいことを自認し、休息を優先。汗を拭ったタオルを晃に返し早々、己に割り当てられたテントの中へ潜り込む。
「俺様は食べてからかな」
 適当な位置に腰を下ろしたテトは自分の荷を漁りだす。
「それじゃ、おねーさんたちも一緒に食べてしまいましょう」
「了解ッス!」
 今は微風、寧組が哨戒に当たっているが、要請があればすぐに出て行かねば成らない。食べられるうちに食べておくにべきだ。
 テトは要望に応じ、手際よくカレーを盛り付けると素早く配膳。『いただきます』の掛け声と同時。テトが荷から取り出した小瓶の中身を、己のカレーにどばっと景気よく振りかけた。集約する視線。
「ん‥‥、なんだよ? お前もいるか?」
 気付いては尋ねるテト。振りかけたのは特製香辛料のようで、特殊な香りを放っていた。
「い、いやぁ〜、俺は遠慮しておくスよ〜」
 苦笑いを浮かべながら晃はカレーを口に運ぶ。好みは人それぞれ。

 最初の塊を除けば、以降特に海月の異常襲来もなく、
「海月発見、っと。そっちにいかせるから対応よろしくね」
 水上歩行で海上を悠々と歩いていた寧は、水面下に敵影を確認するや、砂浜の微風に合図を送った。追い立てるように槍を突き立て、陸に誘う。
 波に翻弄されることなく索敵を行う、鬼道忍軍ならではの立ち回り。
 そうして時折流れ着く2〜3体を確実に処理しながら、比較的平穏な時間が過ぎていった。
 しいて言えば視界が闇に沈んでからが本番。より警戒を強めねばなるまい。まもなく日付も変わる――‥‥



「なんというか‥‥きな粉もちにみえるッス‥‥」
 暗闇の中、晃は砂浜に打ち上げられ、砂にまみれる海月を見つけてはショートソードで斬り付けていた。
「ふふ、テトさんにお借りしたナイトビジョンのおかげで状況が把握しやすく、助かるわ。どう? 似合ってるかしらね?」
 インニェラはゴーグルを装着したまま微笑んでみせた。
「え〜っと、く、暗くてよく見えないって回答じゃダメッスかね?」
 感想は決して口にせず、適度に言葉を濁す晃。
必要とあればトーチを灯すものの、効果時間が短いものもあり、ここぞという時に限らせていた。
 そんな折だ。海岸線に目を向けていたインニェラが叫ぶ。
「波に揺られて、複数! 応援を呼んでもらえるかしら!」
「そ、そんなに多いッスか!? りょ、了解っス!」
 その場にインニェラを残すのも気が引けた晃であったが、移動力を考えれば己の方が早い、とすぐさま駆け出した。
「纏まっているなら好都合。‥‥Moerket thunder gennemtraengende――」
 海を眺め、インニェラは流暢な舌使いで身の内のアウルを高めた。たちまちその掌に闇色の稲妻が集う。
「ここで私と遭遇したことを不運と思いなさい」
 一閃。闇の中を、螺旋を巻く闇が駆ける。命中こそ僅かに劣るものの、2体の海月の一部を、その雷は削り取った。
(少しでも削っておければいいのだけれど――)
 万が一物理的攻撃を受けてはインニェラでは致命傷になりかねない。一旦間合いを取る。

「流石に3食カレーでは飽きるば〜い。この辺でちゃんこ‥‥テコ入れも必要よね〜」
 2度の休憩の甲斐もあって、大分回復した恭司はカレー鍋の前で作業をしていた。残りは大分減っているが、朝の分も必要だ、と。
「少しでも法則性がわかればいいのですが‥‥」
 その火の横で、微風は遭遇した海月の数や時間、場所を地図に記入していた。
(うちは寝る、寝るったら寝る――)
(休息も任務任務‥‥)
 緊急招集でもかからない限り絶対に起きない、そんな信念を抱いて床に就くのは寧。同じくテトもうつらうつらとまどろんでいたのだが――計ったように知らせはもたらされる。
「敵襲! 敵襲ッスよー!」
 遠く近く、海岸に響き渡る切迫した晃の声。
 一同は手を止め筆を止め、飛び起きた。誰もが撃退士としての顔に変化している。

 それぞれ照明を手に砂浜を駆ける。
 ここまでの遅れを取り戻そうと全力疾走、結果真っ先に到達したのは恭司。
「助けを求める者が居る限り! 駆けつけ救う――吾が名はチャンコマン!」
 ヒーローマントが闇にはためき、仲間の照明で背後から照らされる。見事な登場演出だ。
 だがキメてばかりは居られない。既にインニェラが押されているのが見て取れる。
 恭司は一気に海月に近接すると拳で掴み上げ、力を込める――痛打。相手に人のような痛覚があるかは不明だが海月はまもなく動きを止める。
「間に合った、ようですね‥‥」
 肩で息をしながらインニェラは胸をなでおろした。もてる魔法も撃ち尽くし、どうしたものかと考えていたところ。
「無事でよかったッス!」
 晃は安堵しながら、敵からインニェラを庇うように陣取り、海月と対峙する。追って他の仲間も駆けつける。
(当たるといいのですが‥‥!)
 舞う様な動きで微風は海月に切りかかった。しかし当たらず。
「雷は使い切りましたが、まだ陽光がありましたね」
 闇中で苦戦する様子を察し、インニェラは手に光る球を呼び出した。周囲が淡い橙の光に照らされ彩られた。
「今度こそ」
 微風は追撃に打って出る。刃は海月の身を殺ぎ、核を絶つ。こうしてインニェラを包囲していた海月は消滅したが、
「まだまだ沖からくるわよ!」
「朝方敵が多かったのはこういう訳か‥‥!」
 寧はテトと共に遠距離から海月を狙い続けた。少しでも上陸前に威を削ぎ、近接組が止めをさす戦法だ。
 インニェラの足回りに光が集えば魔法が放たれ、晃が仕留める。
 寧の手から影手裏剣が放たれれば、微風が追い打つ。
 テト、恭司も負けじと数を削っていった。
 そうして戦いは断続的に陽が昇るまで続き――


「わー‥‥早起きというか、朝日で瞼の裏が痛てぇ‥‥」
 水平線に綺麗な太陽が昇り始めると、テトが目頭を押さえ苦悶した。
 ――やるだけのことはやったはずだ。
 誰もがそう思い、動く海月の居ない海岸を見つめながら、撃退士たちは大きく息を吐きだし、その場に座り込む。
 彼等に求められた戦いの時はそうして幕を閉じるのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: メイドの鑑・南村角 晃(ja2538)
 穏やかなれど確たる・微風(ja8893)
重体: −
面白かった!:2人

先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
メイドの鑑・
南村角 晃(ja2538)

高等部1年16組 男 ディバインナイト
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
終演の幕を降ろす魔女・
インニェラ=F=エヌムクライル(ja7000)

大学部9年246組 女 ダアト
穏やかなれど確たる・
微風(ja8893)

大学部5年173組 女 ルインズブレイド
爆発は芸術だ!・
テト・シュタイナー(ja9202)

大学部5年18組 女 ダアト