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マスター:ArK
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/03/19


みんなの思い出



オープニング


 関東某所の小学校。
 ある日、児童たちがが廊下で、教師の袖口を引っ張りながらこういった。
「せんせい、あのね。たいいくかんにね、すっごく大きなはちのすがあるんだよ」
「すごーくすごーく大きいの! あれってあぶないんだよね? わたしね、ちゃんとね、ちかづかなかったよ!」
「せんせーあたまがくらくらするよー」
「おっきなはちさんが、たくさんとんでたよ!」
 みんながみんな、瞳を輝かせながら口にするのは蜂の巣の発見。
「そうか、近づかなかったのは偉かったね。教えてくれて有難う。あとは先生がなんとかするから、これからも近づいちゃだめだよ?」
 教師の言葉に、児童たちははあい、と揃って元気な返事を返し、教室へ戻っていくのだった。
 学校に蜂が巣を作るなどよくある話。しかし児童になにかあれば、多かれ少なかれ担任に、学校に苦情がくるだろうこのご時世。情報を得た教師は、すぐ確認に向かった。場合によっては専門の業者を呼ぶ必要もある。
 そして、その同じ日に、小学校は臨時休校をとる。



「こちらの写真をご覧下さい」
 そういって依頼斡旋所の職員がスクリーンに投影したのは蜂の巣だった。依頼を受ける為その場に居た撃退士たちが揃って首を傾げる。
 ――蜂の巣にしかみえないけど。
「これは小学校で発見されたものです。こうして全体を見ると判ると思いますが、とても、大きいです」
 画面が引き、建物も写る程度の位置にカメラが移動すると、撃退士たちは息を飲んだ。人の大きさくらいありそうだ。
「目算ですが直径1.5m前後と思われます。また、蜂の大きさは大体30cm程度。今のところ何の被害もなく、学校関係者にも避難してもらっている状況です」
 巣の中に何匹潜んでいるか判らないが、それなりの数がいると見込んでよいだろう。また、一般的な蜂よりもかなり大きいとはいえ、素早さもそれなりにあることがわかっていた。
「勢力、能力共に確認できていない状態で申し訳ないのですが、早急な対応を御願い致します」
 斡旋所職員はそう告げて頭を下げるのだった。


リプレイ本文

●ダイレクトムーブ
 ディメンションサークルから送り出された先は敵陣ど真ん中。
 殲滅対象となるサーバントが巣食い蠢き合っているという小学校の校庭であった。
「こんなぴったり到着することもあるんですね」
 周囲を見渡しながら呟くのは森部エイミー(ja6516) 。冷静で淡々とした声はのなかに驚きがみてとれたが、焦ってはいなかった。敵の奇襲がないかと目を光らせて警戒を怠らない。
「なるほど。この音か。情報にあったヤツは‥‥」
 響いてくる耳障りな音を遮ってやろうとして、緋伝 璃狗(ja0014)は耳に手を押し当てた。耳栓であっても完璧な遮音は難しい。特にアウルの発現により感覚さえも洗練されているだろう撃退士なら尚のことよく聞こえるはず。
「‥‥ちっ、あんまり変わらないか」
 やはり完全に遮断するには至らず、空気の振動が肌を、骨を伝って聞こえているような錯覚を覚えた。
「効果が薄いなら連携の邪魔になるだけだ。気力で耐えてみせる」
 反応を返したのは月詠 神削(ja5265) 。そのまま体育館の方を見据える。向かう軌道に敵の影は無い。
 しかし――
「あ、敵、こちらに気付いたようですよー? 何匹か向かってきますー」
 ゆったりとした動きで、発現させたショートボウに矢を番えながら澄野・絣(ja1044) は仲間へ注意を促した。合間に放つ一矢。生憎空を貫いただけであったが相手の意を煽るには十分。
 こちらから打って出るまでもない、向かってくるサーバント。絣はエイミーと共に動きを封じながら遠距離攻撃で潰しておく。
「ふ。卿と同じ戦場というのも久しいことだ。だが我もあの頃とは違う! それをこの場で示してみせようぞ!」
 敵影視認直後。アレクシア・エンフィールド(ja3291) はファルシオンを手に咆えた。同時に黒い靄にも似た焔がその身を包む。
 光纏。
(確かに久しいものだ。シアの挙動――少々の不安はあるが‥‥それは、まだいい)
「往くぞ、害虫駆除だ!」
 次いでアレクシアを古く見識るフィオナ・ボールドウィン(ja2611) もツーハンデッドソードを現し、此度の仲間と共に戦場に飛び出すのであった。

●ダイレクトアタック
「流石、そう簡単に攻め落とさせてはくれないか。――露払いといこう」
 体育館の壁に張り付く巨大な巣を視認して、璃狗は舌打ちをした。周囲には蜂の姿をしたサーバントが3体、辺りを警戒するかのように張り付いていたのだ。
 蜂の動きは早かった。
 標的を確認するや否や一直線に飛来。むき出しの針が狙い定めるは神削。近接する特異な羽音に眩暈を覚え、身を揺らがす。
「くっ‥‥!」
 視界が歪む。目を凝らして蜂の動きを見極めようとするが難しい。故に回避を断念し、ショートソードを握る手に力を込め、全身を緊張させた。受けに徹する。
 そうして刺突された針はショートソードとぶつかり合い火花を散らす。神削は折れず、渾身の力で蜂を弾き返した。弾く軌道上にあった制服の袖が一部切られたが神削にダメージはない。服は直る。
「さあ! こっちへ来るがいい虫けらども!」
 フィオナは誰よりも前に踏み込むと、その場でタウントを発動。途端蜂達の敵意が己に集中しているのを肌で感じた。しかし決して怯まない。
「背後を空けて注視など余裕もいいところであるな」
 描く理想の為に、アレクシアは刃を煌かせた。狙うはフィオナに注視し、防御の余地もないがら空きの背。難なく命中するかと思われたが――
「つっ‥‥!」
 刃が蜂に触れようとしたそのとき、羽音が強く鳴った。その音に強い眩暈を覚え、揺らぐ軌道。無常にも刃は地に堕ちる。
 その隙を突こうと攻撃に転じる蜂。アレクシアにはまだ力が戻らず頭を振る。
「させませんよー!」
 向かい来る窮地を救ったのは絣。放たれた矢が蜂の側面を掠めて通る。
「あー、またあたらないですー‥‥けれどー」
 絣にはそれで十分であった。自分の攻撃は撃破への道標。だからこそ、その作られた合間に神削が割って入ることができる。
「喰らえ‥‥! スピン――ブレイドッ!」
 手の中のショートソードが滑らかな曲線を描いて蜂を断つ。まるで細い木の枝の様、それはぽっきりと腹から半分、綺麗に両断された。同時に振動を止めた翅と共に地に転がる躯。
「お見事ですー、続けていきましょう」
 絣は神削に賛辞を贈ると、休む暇なく矢を番えなおし、
(前衛の方は全体の把握が難しいですし、私が眼になっておきませんとー)
 心でそんなことを思いながら、次なる機会を待つ。

(絶気闇炎‥‥)
 この隙。潜行した璃狗は巣に数歩のところまでやってきていた。
 太陽輝くこの昼に、彼の居る一箇所だけが闇が降りたようにも見える炎を纏って。そして振り上げる腕。
 このまま容易に敵の巣を砕けるかと確信した時、無常にも纏っていた闇が掃われ、己が抱く戦意が露になる。
「しまっ‥‥」
 気づいた時既に遅し。再度潜ろうとするも、より早く目の前にある巣の洞から、1体の蜂が飛び出してきた。
 不意打ち。
 多少の予想はしていたものの、虚を突かれる。繰り出された針を伴う体当たりに、蜂対策として着用していた白いバンダナが切り裂かれ、空に舞う。
 遅れて頬に赤い筋が一本。反射する動作でそれを拭いながら後方に飛び去る璃狗。サバイバルナイフを逆手に構え、対峙。
 幸いにも、周囲の敵数も減っており、眩暈の頻度は下がっていた。今なら羽音に惑わされず相手を落とせるかもしれない。
 そんなことを考えていると応援が機を得てやってきた。
「自然界の蜂と同じように巣をつくるんだ‥‥でも、これは違う」
 自然のものではない。ここに在っていいものではないと、青いリボンを揺らしてスクロールを解くエイミー。放たれる光弾。光は彼の翅の一部を削ぎ落とす。
(っし、この隙だ)
 赤黒い炎色濃く、璃狗は蜂に狙いを定める。翅を欠損し、飛ぶのもおぼつかない有様、羽音も同様に薄れて。
 研ぎ澄まされた刃は蜂の胸部を難なく砕き、その活動を終焉へと導く。
 この撃破により、遠く聞こえるいくつかの羽音を残して、近く周囲から眩暈をもたらす音は消え去るのであった。
 

●バックアタック
 他に蜂が潜んでいる気配もなく、念のため巣を破壊しておこうと、行動を移した。
 まさにそのとき。
「敵、来襲ですー、いっぱいですー」
 後方を警戒していた絣が奇襲を知らせた。巣への危害に気付きやってきたのか、同胞の消失に気付いてやってきたのか。それとも絣等の存在に気付いてやってきたのか、今は分からない。
 けれども――
「其れは一旦捨て置け! 奴等を蹴散らしてくれよう!」
 攻撃手段を持たぬ巣はあとでも問題ないだろうと、言い放つアレクシア。そして先ほどの遅れを取り戻そうとしてか、は誰より早く、ひとり突出。
「シア! 前に出すぎだ!」
 気付き、慌てて後を追うフィオナ。
 このときの敵数5。移動先で対峙したものや回り込まれたのも含め、あっという間に包囲されるふたり。背を面合わせ、せめてもと死角を殺すのがせいぜい。
 全方向、極近距離から浴びせられる羽音により、ひどい眩暈が襲う。
「この程度‥‥!」
 命中おぼつかない腕で剣を振るうアレクシア。しかし狙いは捉えられず空を切るばかり。
(せめてあの翅を落とすことができれば――!)
 見せたかったものも表せず、彼の人まで包囲されるに至り、焦りを覚えるアレクシア。気張ろうとするほどに剣先は鈍る。
 他の仲間も攻撃の手を休めずにいるが、ふたりを巻き込まないよう注意を払いながらのため、なかなか効果の上がる攻撃を繰り出せずにいた。
 そんな折だ。
「っつ‥‥虫程度を相手には過ぎた剣であるが‥‥シアの手前致し方ない――見よ! 受けよ!」
 それまで持ち前の防御力で耐え抜いていたフィオナは僅かに嘆息。
 したかと思えば、直後咆えた。囮の為のタウントを棄て、深層意識化から剣を呼び起こす。
「我が技で! 此れにより散れることをあの世で誇るがよい! 聖剣――第一段階――!」
 刃を包む金色の光。そこに在るのか無いのか曖昧な半透明の姿。フィオナは不完全な剣を振りかざし、不幸にも目前に居た1体の蜂へ、一気に振り下ろす。垂直に断たれる細工物。
 その一閃が蜂達の戦意を煽った。
 ふたりのうちどちらが脅威かと本能から察知したのであろう。更なる集中攻撃がフィオナを襲う。
 しかしそれは同時に――
「敵、頭に血――はなさそうですけど、のぼってますねー。好機ですー! 一気にまいりましょー!」
 背を向けている蜂に、絣は弦を引いた。放たれる光陰。やや眩暈で狙いが揺れたものの、比較的遠く離れていたことも幸いし、影響は前衛ほどではなかった。
 薄翅を貫く光。1体が体勢を崩す。
「まったく、単純な思考回路しかもってないようだな」
 しっ。と短く息を吐いて、神削は攻撃を繰り出した。絣が作り出した好機を漏らさない一撃。
 瞬く間に2体が消失したことを受けてか、蜂が動く。フィオナへの集中攻撃も緩み、各々の激しい眩暈も徐々に軽くなる。

 極めて単純な思考なのだろう。各方面に散る残りの蜂たち。
 逃走だ。
「逃すものか! 卿の痛み、返してくれる!」
 アレクシアは逃げ去ろうとする1体に強く踏み込む。
「アウェイク――フェイク、ウァサ――!」
 偽・魔剣投影。影から闇が集い、一瞬にして己の周囲に十三にも及ぶ黒い虚無の剣が具現。そして一斉射出。
 すり抜けたものもあるが、多くは蜂の背を一様に貫く。一瞬にして原型留めぬほど微塵に砕かれたそれは、活きているとは誰にも思えない有様。最後に闇が、硝子のように弾け砕けた。
(まぁこんな所だな)
 やっと巡ってきた己の力を揮える機会に安堵を示すアレクシア。しかしその余韻に浸っている余裕はまだ、ない。
 この間にも残りの敵が逃走を続けている。
「顕れて‥‥エナジーアロー!」
 エイミーが薄紫に輝く破壊の矢を浮かべ、蜂の背に放つ。
 が、それは背に届く前に消失してしまった。相手の移動が早い。今から駆けても相手を射程に収めるのは難しそうだ。無念を抱く。
 逃走という挙動に気付いたと直後から、全力で追いかけていた璃狗はどうにか射程に収めることが出来る。
「どこかで巣を作られても面倒だ。ここで仕留めさせてもらう――影よ!」
 そう口にしながら、璃狗は手の内に棒手裏剣を生み出すと、勢いをつけて投射。影は吸い込まれるように真っ直ぐ蜂の身を貫いた。
「よし! 残りは――」
 視線を動かす璃狗。先にいたのは絣。
「私を狙ってきた、という様子ではないようですがー、ここから先はゆかせません」
 近接したことから遠距離支援を諦め、ショートボウからショートソードに発現を変更する。進路変更することなく直線的に向かい来る蜂の突進を剣で受け止めた。
「軽そうなのにー‥‥お、重いですー」
 勢いを殺さぬ体当たりに、絣は押し負けそうになる。だがすぐ後ろには藪。飛び込まれては追うのも難しい。ひたすらに耐え抜くしかないと心を決めた。決して逃しはしない。
「よく堪えた、残りはまかせろ!」
 神削が追いつく。
「よろしくお願いしますー。神そ――」
 苦しそうに言葉を詰まらせながらも、絣は残る渾身の力で、剣を大きく揮った。丁度神削が居る方向へ弾き飛ばされる蜂、威力に流されるまま――
「俺はみそじゃねぇええええ!!」
 少なくと絣は「神削さん」とバトンを渡した。が、聞き取れなかったか反射的なものか、届いた音に対して、突如神削は声を荒げる。
 烈火の如く怒りはバトンされた蜂へ。刃が煌き、斬ったという感覚も手に感じられぬほどあっさり両断した。
 目の前で崩れ落ちる蜂を見つめながら肩で呼吸を整えようとしている神削に、
「突然どうしましたー‥‥? 大丈夫ですかー‥‥? 神削さん‥‥」
 おずおずと心配そうに、絣は声をかけるのであった。


●バックステップ
 敵の殲滅が完了したことを確認してから、一行は体育館に戻り、巣の破壊を行った。
「‥‥当たり前だがハチミツは無し、か‥‥」
 一太刀で打ち砕かれた巣は、原型を留めては居ない。小さな欠片、塵。そうなってしまったモノを見つめながら璃狗が感想を漏らす。
「ま、こいつらの場合集めるのは人の感情――にでもなるのか?」
 天使が集積しているのは人の想いそのもの。感受性豊かなこどもが多い小学校などにあっては、集めるとすればよく集まることだろう。
「ハチノコもいないか。‥‥ハチノコ、旨いらしいんだが」
 サーバントが蜂であると知ってから神削はずっとそのことを考えていた。しかし残念ながら、いざ巣を崩してみても中にそれらしいモノはいなかった。
「まあ、まあー。食べ物はきちんとしたものにしたほうがいいですよー。――ともあれ、はい」
 にこりと微笑んで。絣は巣を見下ろすふたりに箒や塵取を手渡した。一瞬思考がとまる璃狗と神削。だがすぐに納得いく。
「掃除です。私は校庭のほうにいきます」
 エイミーも同じ装備をもって自分の行き先を宣言。そうして念入りに亡骸や戦闘痕などを片付けるのであった。

 掃除もほぼ終わったころ。
「‥‥この、戯けが!」
 フィオナは激昂していた。その先で小さくなっていたのはアレクシア。
「そ、そんなに怒らないで――」
 戦闘時の冷徹な様相はどこへやら。歳相応の少女として今、そこに居る。
「ひとり突出がすぎる! 仲間の援護がなければどうなっていた!」
 あれはこれはと作戦時の行動を指摘していくフィオナに、返す言葉も浮かばずひたすら耐え抜く。戦時の痛みより、こちらのほうがアレクシアには堪えたようだ。
 一通り指摘の嵐が通りすぎて、訪れた無音の刻に、ぽつりぽつりアレクシアが言葉を紡ぐ。
 ――ごめんなさい。
 ――おつかれさま。
 ――ありがとう、姉さん。
 そんな単語に虚を突かれるフィオナ。
「ま、まぁ‥‥今日のところはこれで終いにしてやる。報告に戻るとしよう――帰るぞ!」
 照れ隠しからか、口早にそう言い放つと素早く踵を返してしまうのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 日月双弓・澄野・絣(ja1044)
 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
重体: −
面白かった!:5人

執念の褌王・
緋伝 璃狗(ja0014)

卒業 男 鬼道忍軍
日月双弓・
澄野・絣(ja1044)

大学部9年199組 女 インフィルトレイター
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
不正の器・
アレクシア・エンフィールド(ja3291)

大学部4年290組 女 バハムートテイマー
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
『封都』参加撃退士・
森部エイミー(ja6516)

大学部2年129組 女 ダアト