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マスター:有島由
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/02/19


みんなの思い出



オープニング

 ぐいっと腕を引っ張られるのに、体を揺らしながら、それでもユキは足を踏ん張り、抵抗した。
「もう、いやだぁ……」
 周囲には木々、道は舗装されているとは言い難く、空は広いが寒々しい。冬の山である。ユキは双子の姉であるハルに手をひかれ歩いていたが、当て所ない歩きに疲れてしまっている。体が弱いわけではないが、大人し目で引っ込み思案ところのあるユキには山歩きは短時間でもきつい。一方、姉のハルは積極的で活動的、ユキよりもよっぽど体力も力もある。
「何泣き言いってんのよ! 男でしょっ そんな弱気だからいっつも女子に間違われるんでしょ! シャキッとなさいっ」
 後ろを振り返って叱るように言ったハル。足は止めたけれど、今でもまだユキの手を握って離そうとしない。ユキは肩をすくめて聞くと、隣へと視線を移した。
「でもよー、寒いし。ユキが可愛いのは事実だしさぁ、帰ろうぜ」
 ハルとユキの幼馴染、トオルが口を挟む。若干どころかユキに味方した言い方をして、ハルを更に怒らせるような仲裁の仕方をする。いつものことだけれど、トオルはがさつな性格からか歯にもの着せないし、発言もやや無神経なところがある。けれど物怖じしない態度で横柄に対応するためいつでもどこでも同年代の子供たちからはリーダーと当てにされるのがトオルである。
 親同士も幼馴染で今回、三人は親たちの温泉旅行についてきたのだが、どこからか秘湯の情報を仕入れたハルが親の目を盗んで出てきたのだ。
「あんたまで何言ってんのよ、あんたも行くって賛成してたでしょうが。今更止めたなんて、情けない!」
「お前だってもう止めたいと思ってるけど素直にごめんなさいが言えないだけだろ! そういうとこが可愛げねぇんだよっ」
「なんですってぇ!?」
「や、やめようよ。帰ろう、怒られちゃうよ……」
 白熱する二人の喧嘩。もとはユキとハルの話が、いつの間にか話題もずれて二人が喧嘩することになる。そんな中にユキは口を挟もうとして、けれど小さな主張は二人に聞こえない。
「いいの? 天然温泉よ? 入りたくないの? 入りたいでしょ、そうでしょ。行くわよ、ここまで来たんだから。寒いし温まりたいのよ、私も! もうちょっとなんだからっ」
 ほら、という風にハルが指を向けた先には一本の長いつり橋。
 ため息ひとつしてハルに続くトオル。ユキは一度、後ろを振り返って、そしてハルに抱きつくようにして寄ると吊り橋を三人で渡り始めた。

 ガサガサガサッ
 音を立てて林道から転がり出る影。久遠ヶ原の撃退士・安住だった。
「大丈夫か?」
 相棒の撃退士・新原が訪ねてくるのに、首を振った。大丈夫ではない。
「……見失った」
 撃滅すべき対象を取り逃がすなんて、大失態だ。安住も新原も敵との相性は悪かった。だが、それを理由にしてはならない。チームで動いているのだ、他にも迷惑がかかる。
「A班が応援要請を出してるから、俺たちは相性の関係からそっちに行った方がいい」
 山中のコア破壊を目的として動いているA班からの応援要請だ。行かないわけにはいかない。だが、ゲートから排出され外に放逐されたディアボロを逃すわけにもいかない。優先順位を考えるとしても――
「探索は他の奴らに頼む、か。学園に連絡を」


リプレイ本文

●戦闘痕と追加情報
「蛇って地面を這っているイメージあるけど、普通に木に登ったりするのよね……」
 でもダメ、か。と呟くと木を見上げていたアリス・シンデレラ(jb1128)はしゃがみこんでいる雫(ja1894)に成果を尋ねた。地面に残った粘液を調べていた雫が顔を上げる。
「どうやらディアボロの魔法耐性はこの粘液によるもののようですね」
 前任から引き継いだ情報によると、敵は緑の粘液と紫の毒液の両方を使う、蛇型ディアボロ。擬態能力を持つがゆえに、取り逃がしたらしい。
 雫、アリスがいるのは前任撃退士、安住・新原がディアボロを見失った地点だ。上下左右に関係なく、地面に、木に、葉に、緑の粘液が至る所に飛散している現場は見目が悪い上に、敵の足取りもここでプッツリ途切れてしまっている。粘液の飛散による足跡の根絶――つまり、それまでディアボロが身に纏い、痕跡としていた体液はこの緑の粘液なのだ。
「となれば、粘液が飛散された時はディアボロの魔法耐性も下がるのでは?」
「それは大発見だな」
 林から顔を覗かせたのは鳳 静矢(ja3856)だ。ガサガサと林をかき分けて出てくる彼の後に続いて久遠寺 渚(jb0685)が出てくる。
 敵を見失ったこの地点を中心に、安住達がやってきた方向へと遡って戦闘痕を調査していた二人だ。
「こちらは毒液の方を確認してきたぞ」
 毒液の吐き出された場所は落ち窪み、解け焦げていた。揮発性が高い、という事前の情報があったために何の予備もなく痕跡を調べてきたが、それゆえに一瞬の毒性の高さが見て取れた。避けられればよし。だがまともに食らえば……ヒールなど治癒を施したとしても重傷を免れないだろう。
「敵の能力は厄介だ、対処を考えておかないとな」
「長さや太さってどのくらいでしたっけ。ずいぶん大きいな、とあの時は思いましたけど……」
「80〜90センチと言っていたから、この木ぐらいの太さだな。長さは4メートル」
 ここから、あそこぐらいだ。そう示す静矢。改めて大きさがわかり、アリスはまたしても大きいな、と心に刻む。
「へうー、蛇さんが相手とは……なんか、複雑です」
 渚は若干涙目になりながら呻いた。実家が神社であり、その祭神は白蛇だ。加えて彼女のペット「まー君」も白蛇。ここに連れてこなくてよかったと思いつつ、この依頼では自分も何か役が立てるのでは、と積極的に自分の蛇知識を皆に伝えようと努める。
「蛇さんは体温を見るんです。だからあの、ホッカイロとかで陽動ができないでしょうか」
 はい、どうぞ。と言って渚に渡される。この時期にも役立つし、ディアボロが蛇型である以上、それもありえるか、とアリスは渡されたホッカイロの口を切って使用しながら、仕舞い込んだ。ぬくぬくである。
「ピット器官による熱探知ですね。サーモグラフィーはそれを参考にして作られたと聞いたことがあります」
 淡々と述べつつも、雫もホッカイロを手に頬に温かみを持たせている。戦闘に役立つかは置いといて、渚の機転はきいていたということだ。
 静矢も現場が冬の山だといってももう2月だ、と油断していた口だ。ありがたく渚から受け取る。そうしてもう一人、
「え! 子供たちがこんなところに?」
 通信機で仲間と連絡を取り合っていた雪室 チルル(ja0220)が声を上げた。
 どうやら、子供たちが若干名、行方不明らしい。直前には秘湯に行く、などと発言をしていて、親が目を離した内に出て行ってしまったのだとか。
「被害が出てからでは遅い……まずは保護だな」
 秘湯へ向かったという子供たち。その秘湯は吊り橋を渡った先にある。そして、林道からは一本道。ディアボロが向かった可能性も高いことに気づいて、静矢は眉をしかめた。

 ディアボロ対処班に連絡をつけていた御堂・玲獅(ja0388)は携帯をしまう。
「どうでしたか?」
 心配げな表情で玲獅に尋ねたのは空木 楽人(jb1421)。
 親たちに向き直る。ディアボロ探索範囲に近い施設を回り、一般人の避難誘導をしていた玲獅は子どもがいなくなったという報を彼らから聞いていた。
「もう、大丈夫ですよ。私たちが必ず、お子さんを見つけますから」
 だから先に避難を、と玲獅は親たちを促した。
 そこへ、旅館から借りた地図を片手にやってきた、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)。手を振って主張する彼の、けれど視線は地図にある秘湯の二文字だ。
「へぇ♪ 温泉があるんだねぇ☆ ……で、吊り橋……っと♪ ここで戦うのは出来れば避けたいねぇ☆」

●三人組と奇襲
「ん、聞こえました。子ども、複数の声です」
 周辺施設の避難誘導を終えた三人は玲獅の生命探知を頼りに、秘湯までの道筋を辿っていた。楽人の召喚したヒリュウが上方をくるくる転回しつつ三人の周囲へ円らな瞳を向けている。小さくても護衛である。
「玲獅さん、どっちの方ですか?ひー君を先に行かせます」
 責任感たっぷり、を表情に乗せて楽人が玲獅に尋ねる。その頭にはいつの間にか低空していたヒリュウが乗っている。
 ヒリュウには固有スキル、視界共有がある。傍に敵がいるかいないかどうかの確認のためにも、上空から偵察のできるヒリュウは効果的だ。
「じゃあ、お願いします」
 その言葉にキュィ、と鳴くとヒリュウは飛んで行った。

「ひー君、お疲れ様」
 子供たちを視認できる距離まで近づくと、それまで子供たちの気を引くために動き回っていたヒリュウが飛んできて、頭を差し出すので、楽人は笑みを漏らして撫でる。
「微笑ましいよねぇ」
 ボクも撫でていいー?なんてヒリュウに問いかけるジェラルド。動物もふもふしたいらしい。とはいっても、ヒリュウは龍なのでふわっふわとはいかないが。
 そうして、三人の子供たちと三人の撃退士、そしてヒリュウ一匹で和んでいると、突如それは訪れた。
「伏せてください!」
 スナイパーヘッドセットが音を拾ったのに、咄嗟に玲獅はそう言い放った。直後、玲獅たちの頭上を毒々しい紫の液体が通過した。
「襲撃ですねっ」
 自分たちが捜していた敵だと察した楽人がすぐさま、ヒリュウを手元に呼び寄せる。玲獅も懐から阻霊符を取り出し、橋へと貼り付けた。これで敵の橋への侵入は防がれる。だが、
「やばっ 橋が!」
 毒液の当った場所を見て叫ぶ、ジェラルド。六人の立っていた場所は橋の上だ。――敵がいないことをヒリュウで確認していたから、余裕を見ていたが、悠長になりすぎた。
 楽人は一番近くにいたトオルを抱き上げ、ヒリュウに捕まった。けれど、
「きゃ、きゃああああああああ!」
 悲鳴を上げるハル。浮遊のショックに口を閉ざすユキ。ジェラルドと玲獅は自分たちが非難するので手いっぱいだった。そして、――全力跳躍で谷へと突っ走る、静矢。

●危機一髪と策
「勢い、良すぎでしょ……!」
 子供たち二人を抱える静矢と、その胴体に巻きつけた簡易の命綱を引っ張り、踏ん張るジェラルド。ディアボロの失踪現場付近に吊り橋があると知った時に作った、カラビナとロープによる簡易命綱だ。ジェラルドの横で必死に綱を握る、トオル。引っ張り上げようとしたが、その前に敵の攻撃が二人の背を向けて放たれる。
「危ない!」
 アウルの鎧をまとった玲獅が自分の身を盾に、ジェラルドたちに向けて放たれた攻撃を防ぐ。楽人も召喚し直したスレイプニルでジェラルドたちから気を逸らせようと動く。
「引っ張り上げるから動かないでよ……!」
 闘気開放を使用したジェラルドはせぇの、と一声で引っ張り上げる。静矢は当然ながら、勢いを利用して無事に子供二人を抱えたまま地面に着地する。

「ここは危ない、避難を!」
 静矢は子どもたちを後ろに庇い、言い放った。
「寄らせんよ!」
 言うが早いか、静矢は挑発スキルを使いながら距離を縮め、強制的にディアボロの注意を己に向けさせた。玲獅は子どもたちの手を引いて林の中に連れ込む。
(本当なら、旅館まで護送したかったです)
 状況を説明してほしいと訴えぐずる子供たちに、ジェラルドがお菓子と飲み物を渡して、じっとしているようにと告げた。
 状況はそれ以上の猶予を与えてくれない。ディアボロから目を離さずにいた楽人が、警戒を強めた。ディアボロがまだ子供たちを狙っている。玲獅もスクッと立ち上がると後で説明します、と告げ引き返した。

 ディアボロは大人数の撃退士に対し、警戒を強めたようだった。
 無暗に攻撃をするのを止め、睥睨。身を縮めたかと思うと――毒液と粘液の噴射。渚はリブラシールドを前に押し出しそれを躱したが、姿を見失った。
「擬態ね!」
 チルルの声に渚はあたりを見回して、大きな巨体がないことを確認するとすぐさま木を背にした。背後からの奇襲を警戒したからだ。
「出てきなさいっ 隠れるなんて卑怯なことをするあんたはあたいがサクッとやっつけてやるわ!」
 チルルがディアボロに対し、挑発の言葉を投げかける。
 皆、静かだった。見えない敵を警戒して――いや、待っている。動くのを。
 獄液を煙幕にし、痕跡を消すために粘液も飛散させるとすぐさま擬態に移ったディアボロ。けれどそれはつまり、魔法耐性のある粘液を自ら拭い、魔法攻撃に対抗する手段を持たなくなったということだ。

 パシャッと音が鳴った。擬態対策のために周囲に巻いておいた赤インクの水溜りが踏み荒らされた音。
 見えない敵――けれど、確かにその水溜りの上にいる敵に、静矢は紫明刃を剣に乗せて放った。

●逆転の兆し
「既にあなたは術中ですよ」
 雫たちがディアボロを発見した時、皆の注目が子供たちに向いていた。吊り橋から投げ出される二人の子供、追って行った静矢。そして引き上げるジェラルド。
 彼らの行動にばかり意識が向いていたのはディアボロも同じ――その隙に渚が赤インクを周囲にばら撒き、水溜りを作っておいた。よって、静寂の間に赤インクに身を浸らせた敵は自らを主張させる。
 静矢の剣を分厚い鱗で受け止め、けれど魔法の効果までは受け止めきれずにダメージを受けた。静矢の猛攻に対し、とぐろを巻いて防御に徹する敵へ縮地を使って雫が近づく。
(気づきましたか)
 朱に染まった瞳が雫をぎょろりと睨み、毒牙を向けてきた。しかし、雫の目的は攻撃することにない。蛇が嫌うニコチンの抽出液をディアボロの顔面にぶちまけ、素早く後退する。
 ディアボロはやはり、その特性上、蛇の性質を持っているようだ。盛大に体をくねらせて、頭部を振り回す。
 そのまま静矢が紫明刃で攻撃をしたが、それを察知したディアボロはニュルリと体を移動させ、そのまま身を潜めようとした。
 だが、ここで渚の用意したホッカイロが効をなした。渚が自身の持つホッカイロをあらぬ方向へ投げる。――蛇の目は退化している。故に、得物の認識は目ではなく、温度。ピット器官と呼ばれる、口周辺の鱗にある隙間によって感知されているのだ。生成物であるディアボロにその器官はなくともおかしくはないのだが、生成した悪魔が気まぐれにそこまで蛇に似せたのだろう。
 ホッカイロの熱を追って動いたディアボロの視線に、縮地で近づいた雫の攻撃が決まる。闘気開放をした状態だ、蛇の弱点であるピット器官はあっけなくその機能を沈黙させた。
 視界ともいえる感知機能を突如失ったディアボロにそれ以上の成すすべはなく、体をあちらこちらに振り乱し、暴れまくる。ほぼ、混乱も同義の状態だ。しかし、それでも攻撃を行おうと、口に溜めた毒液を暴れながら放つ。
 しかし、ある意味隙だらけな攻撃に、受けてやる義理もないのでさっさと躱す。潜行で近づいたアリスが鱗の少ない腹部分を狙って大鎌を下から切り上げる。
「かくれんぼなら、アリスも得意なのですよ」
 むろん、反応のできない敵は大ダメージを受けた。巨体をひっくり返らせ、地面を揺らす。そこへ楽人がハルバードをその巨体に引っ掛けた。そのまま引きずり、木へと激突させる。
 脳震盪でも起こしたのか、ディアボロは体を痙攣させた。
「やりました、か……?」
 ほっと、安堵の息をつき――だが、頭を振り払うようにした後に頭をもたげさせたディアボロに、再び皆が警戒を強めた。
 だが、雫が痛打、薙ぎ払いを連続して行い、ディアボロの最後の足掻きも止まった。いや、渚の八卦石縛風で石化し、止まらざるを得なかった。
「いっけぇええええ、威力最大!」
 チルルは武器の先端へと収束した力を解放、白い輝きを放つエネルギーが真っ直ぐ、ディアボロの口内へと注ぎこまれる。ぱっくん。それが何もわからない内に飲み込まされたディアボロに、アリスが闇色の槍を突き刺す。顎を貫いて地面に縫いとめたそれはそのまま、ディアボロの口を閉鎖し、ディアボロ内部の封砲がエネルギーを逃しきれずに――破裂。

 戦闘後の間もなく。一息をついて、けれど次の行動に移る前の、その絶妙なタイミングで雫が提案を掛ける。
「無事に事も終わりましたし、探していた秘湯に行って見ませんか?」
 その言葉にジェラルドも賛成に挙手した。
「労働の後のお風呂は良いよねぇ☆」
 ということで案内頼むねぇ〜、と子どもたちを戦闘に歩かせる。汚れちゃったし、汗を流すだけでも、と理由を論う女子軍に一行の次の行き先は秘湯へと向かうこととなったのだ。もちろん、学園へは連絡済。安住達も誘い済みである……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
期待の撃退士・
アリス・シンデレラ(jb1128)

中等部3年5組 女 ナイトウォーカー
能力者・
空木 楽人(jb1421)

卒業 男 バハムートテイマー