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マスター:有島由
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/30


みんなの思い出



オープニング


 ゴミ箱の底が空に浮いてしまっているのを見て、太田は思わず手を出した。
 袋を引きずり出そうとしているのはわかったが、袋の中身がいっぱい過ぎて強引に引っ張っても出てこないのだ。
 触った途端、手にざらりとした感触を感じた。
 学内の清掃は毎日行われているし、ゴミ袋も毎日変えている。しかし、わざわざ指定もされていない、「ゴミ箱」自身を綺麗にするものは誰もいない、ということだ。
 不快感に眉を潜めた。

 ズボッと、勢いよく袋が固定された箱を置き去りにして抜け出る。

「あっ ありがと……」
 中山が今更のように礼を言い始めるから、太田は言葉少なに受け答えて、他の掃除メンバーに声を掛けた。
「捨ててくる」
「おー。俺ら、先帰ってるけど」
 遊んでるのだか掃除してるのだかわからないような輩から声が飛んでくる。
 クラスメイトだ。仲良くはない。でも仲が悪いわけでもなくて、適当に話をする。彼らが太田を待つ必要はない。
 実際、太田が言葉を返すよりも先に、掃除用具をカタし始めている。

 合計三つとなった真ん丸ゴミ袋を持つために屈んだ太田の背に、その声はかかった。
「えと、私も……」
 中山はいつもはっきりとしない。キチンと主張すればいいのに。
 けれども言いたいことはわかったので、ゴミ袋を持つのは二つだけにして廊下に出た。パタパタと急ぎ足気味に足音が続く。

 廊下の窓から夕陽が差し込んでいる。
 グラウンドでは運動部らしき生徒たちがガヤガヤと騒がしい声を上げながら動き回っている。
(面倒)
 何が、って中山が苦手なのもある。後ろを歩いてきているだろう、彼女は無言ながらもこちらの様子を伺っている気がする。
 無口な太田は背の高さもあって、女子から怖がられやすい。中山も太田のことを怖がっている。今回、ゴミ捨てについてきたのは太田が信用ならなかったからに違いない。
 実際、太田も清掃に対してあまり乗り気ではない。当然だ、誰が放課後にわざわざ居残りして掃除をしたいと思うか。
 だが、班で持ち回りしているのだからしかたない。自分に与えられた役割を放棄すればその方が厄介だ。ゴミ捨てに名乗りを上げたのは単に、掃除の終わった後で誰がゴミ捨てに行くかと揉めた後に誰か一人に押し付けるだろうことが分かっていたからだ。
 もし、そうなっていたら中山が押し付けられたのではないだろうか。女子は派手系の奴らばかりで真面目な奴は今回の班にいなかった。男連中の方がよっぽど真面目なぐらいだった。
 別に中山が物事押し付けられても太田は関係ない。
 ただし、後に女子の間でいじめなどが発生する可能性があって、それが教師にばれた際にあれこれと調査されるだろう時に自分は嘘を吐くのか、あるいは正直に苛めの主犯や切っ掛けなどを話すのか――。
 どっちにしろ、面倒だ。そして、女子の苛めというのは簡単に発生する。

 中山の作り出す、警戒と静寂に嫌気がさし、イラつき始める頃、二人は角を曲がった。無人の校舎裏が見える。

 ホッ。
 安堵したような息が背後から聞こえ、太田は振り返った。
 そのことに、ビクついたように体を揺らした中山は太田を見上げた。

「……誰もいなくて良かった」
 とりあえず、太田はそう言って歩みを再開する。
 先ほどと同じように、後ろから足音が続いた。けれど、中山の発する気配は若干緊張を失くしているように思った。

 放課後の校舎裏。不良が溜まり場である一方、苛めの定番の場所。
 そして告白する男女がいるのもここである。

 良くわからない場所だ。人気がない、ということだけで利用されているのだろうが、もし己が告白しようとしてその場所に誰かを呼びだした時、同時に苛めをしようとした輩がやってくるかもしれない。
 あるいは、告白の最中に不良が乱入してくるかもしれない。

 利用するには色々とレベルの高い場所だ。
 そして、教室からゴミ集積所に行くにはこの校舎裏を通らなければならない。ただでさえ、放課後に居残りしているのになぜ損場所に行きたいと思うか。否、皆が行きたくなくなる。
 しかし、今ここは誰にも使用されていない。
 中山が安堵したのと同じく、太田も今日のラッキーにはゴミ捨ての面倒くささと不愉快には目を瞑るくらいだ。
(ゴミ捨てが終わったらそっこーで手を洗うけど)

「犬もいないし……」
 中山の呟きが聞こえた。そのことに太田も内心だけで同意する。
 最近の事だが、この校舎裏の利用にはもう一パターン増えた。

 迷い込んだ野良犬との感動溢れるエピソードだ。
 大抵は自分から周囲と一線を引いて、人嫌いをしている人物。あるいは悪ぶっているけれど実は心優しい不良。こういった奴ら――つまり、人間の友達が少ない人種――が「犬の友達」をやっているわけだ。
 この場面を見てしまった場合のパターンとしては秘密にしろ、と脅されるか秘密を共有する仲間に強制認定受ける。
 どちらにしても、変に縁ができて関係がずるずると長引く。何て厄介だ。

 実際に太田がそんなシチュエーションに陥ったわけではないが、時々見かける。
 何せ、校舎裏は上の階の窓から見えてしまう上に放課後はよく人がゴミ集積所への利用で通るからだ。
 つまり、けっこう丸見え。
 だが、そういう校舎裏を利用する古典的シチュ作りをする輩は思い込み激しく、まるで人からの視線に気づかないのだ。

 現実は小説より奇なり、という言葉がある。
 太田と中山は無事、校舎裏を抜けてゴミ集積所に袋を放り込んできた。
 悪臭にも耐え、教室へ向かう二人。

 だが、安堵は早かった。
 帰り道に通りかかった、校舎裏。そこには先ほどまでなかったものが「あった」。
 古典的なのは、なにも人に限らない。

 赤い、赤い夕陽に佇むその姿は人に近しい。けれど、そのほっそりとした肢体に動くたびカシャカシャと鳴る、体は人にありえない。
 ボウッと、夕陽を見上げていたそれは二人に空虚な視線を向けた。
 空洞。闇が中に蠢くのに、太田はゾッと怖気を感じた。
(死神……)

 まるで笑むよう、カシャカシャと音が鳴る。
 そして、その夕陽に輝く手が招いた――。

「っ逃げろ、中山!」
 太田に背を押された中山が転びそうになりながらも走り出す。
 異形のものは彼女を追うことはなかった。だが、太田の肩に細くも硬い指先が食い込む。

(俺は、ここで死ぬのか……)
 異形が握る鎌の刃がきらりと、輝く。
 しかしそれはポロッと地に投げ捨てられた。

「え」
 両腕でぎゅうぎゅうと、抱きついてくるそれは既に死神然とした姿から、ただのローブ羽織った骸骨に成り下がっていた。


リプレイ本文


 校舎まで、後6メートル。
 天草 園果(jb9766)はただでさえ小さい身体を折り畳み、影の中を移動していた。

(っふぅ……)

 一つ、二つ、三つ……。
 窓から見えないよう、壁に張り付きながら進むと目的の場所についた。
(ホネッキー……っ!)
 そっと覗きこんだ内部の様子に、園果の顔色が悪くなる。
 敵に発見されていないか、心に汗しながら慎重に、もう一度覗き込む。
「こちら天草です……状況、確認しました」
 一年A組。そこは今、骸骨型のディアボロが看取する牢だ。そのことを今更、再確認した園果は仲間へと連絡を取りはじめた。


 最初に火花が上がったのは、校舎左の部室が集まっている箇所だった。
「よし、いい子〜♪」
 呼びだしたヒリュウの頭を撫で、柴島 華桜璃(ja0797)は満面の笑みを見せた。
 一方で、疲れた顔をして見せるのは淀川 恭彦(jb5207)である。

「ちょ、ちょっと休みませんか……?」
 ヒリュウに次のホネッキー探しを頼んだところである。恭彦がおどおどと掛けた言葉に、華桜璃は振り向いた。
「まだまだ! せめて、学生たちを保護してからね」
 年齢的には華桜璃の方が年下なのだが、強気で言った華桜璃の言葉にも、一瞬言葉を詰まらせ、溜息とともに反論の言葉を呑み込む。

「とおぉぉおおぉぉっ!」
 ヒリュウで探しだしたホネッキーに恭彦を追いかけまわらせ、華桜璃のところまで誘導。恭彦を追って角を曲がって来たところを、華桜璃が不意打ちでエナジーアローを放った。そしてすぐさま後退する。
 この作戦の要は、華桜璃の存在を隠すことだ。ヒリュウの使い手は恭彦であると誤認させることで、敵対する相手の数を誤認させる。
 起こす戦闘は派手に、それでいて確実な成果を。そうでなくては、遊撃にならない。

「さぁて、処理☆しちゃいますか♪」
 それにしても、と華桜璃は首を傾げた。人差し指を口元に当てる仕草は何とも色っぽい。
(……なんでかなあ?)
 胸に浮かぶ既視感。どこかで、こんな敵を見たことがるような気がする……が、憶えてない。だが、まあいいか。
 楽天的に考え、納得する。思い出せないということは特別大したことはなかったんだろう。とにかく、今はコレを片づけることだけ考えればいい。
 結論した華桜璃は倒したホネッキーの残骸を、掃除用具を片付けるのに集中した。


 慌ただしく、教室から骸骨が出ていくのを、アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)は確認した。
「うん、いい流れ!」
 遊撃班が動いているのが上手く作用しているようだ、と頷くと横にいるジーナ・フェライア(jb8532)を振りかえった。
「……わかってるわ。懐柔、出来るのならそれに越したことはないもの」
 静かに、返答する。
 ジーナが先に出てしまえば、相手を挑発することになる。ギリギリまで姿を見せない方がいい。
 短いやり取りを交した後、アルベルトは廊下を見張るホネッキーたちの前に姿を現した。

 アルベルトの見目に、浮足立って警戒が緩んだ。だが、それだけだった。内、一人が看板を掲げる。
『どなた?』
 ホネッキーたちは骸骨の為、喉がない。人間と同じようには喋れない。
 だが、ホネッキー同士では常時、以心伝心が機能している。というよりも、ホネッキーは群体であり、個性はあっても個人ではないのだ。全ての視界と情報を任意で共有することができる。
 もちろん、以前までに人界で塵となり消えて行った故ホネッキーたちがどのようにしてやられたかを、知っている。
 愛の為、散ったのだ。だが、だからこそ学習している。人外であるホネッキーたちに人類が友好的に接することはない。
「あぁ……なんて、美しいんだ――」
 唐突に、アルベルトは口にした。質問には無視だ。
「陶器のように白く、滑らかな肌だ。けれど、陶器ほど柔くない……強さも秘めた、美しい肢体――」
 抒情的に言葉紡がれるのにホネッキーたちの体が薄く朱に染まった。
(ああ、骨でもなるんだ)
 陶然とした表情を浮かべながらも、アルベルトの思考は冷めている。
「なんて、素敵なんだ……」
 ここで会心の笑み。
 アルベルトは自分の魅力を理解している。その上で計算し、使っている。そんな彼に対し、ホネッキーたちはいとも簡単に、それはもうあっさりと――陥落した。

「君達はとても魅力的だよ。その魅力を理解できない奴ら等放って、俺の下へ来てくれないか?」
 俺には君たちのような美しい女性が必要なんだ。
 最初は悩ましげに、最後はウインクを。――アルベルトは女装も上手ければ、女性を口説き落とすのも上手かった。
 ホネッキーはホネッキーでしかない。愛に生きる天魔はアルベルトが撃退士という宿命の相手であるとわかった上で、飛び掛かる。
 アルベルトは笑みを深める。

 が。

「……うっわぁー……」
 反射って怖いのね。
 足の裏から粉々になった頭蓋と、骨格のパーツが滑り落ちるのを見て反省した。
(というか、あれは勢い有りすぎじゃないか……?)
 猛烈な勢いで飛び掛かって来た骸骨に、思わず足を掲げてしまったが激突した勢いで頭蓋が砕けるのだ、もし一般人だったなら。
「冗談じゃない……」
 全力で抱きつかれた結果、全身複雑骨折あるいは粉砕されることを予想し、笑みが引き攣った。

『やはり、私たちの宿命は変わらないのね……っ!』
 怒り言葉が看板に記されるのに、瞬間的に反発心を覚えたジーナは廊下の影から飛び出した。
 いや、元よりこれでは戦闘を回避することはできそうにない。骸骨は一気に不審と警戒心が高め、戦闘モードに入っている。先ほどまで、アルベルトの言葉に体をクネクネさせていたアホどもとは打って変わって、そこにいるのは人害だ。

「あなた達は一体何がしたいの?」
 キッと敵意の視線を投げてきた骸骨に、ジーナは告げる。
「男にモテたいの?」
 答える声はなく、看板にも文字はない。女と話す気はないという無言の意志。
「なら、あなたたちがまずすべきは自分磨きじゃないの? 男を見て、目の色変えるだけが女じゃないわ。女としての誇り――それはどこいったの?」
 厳しいジーナの言葉に、彼女らは言葉を返さず、自らの腕骨を武器に構え、或いは頭蓋を投げつけてくる。
 ジーナは頭蓋を杖で打ち返した。自らの元に帰って来た頭蓋を受け止めた刹那、骸骨は頭蓋に貼り付けられた符により爆散した。
「口説くテクニックぐらい身に着けてから出直してきなさい」


 廊下の騒がしさに、教室内のホネッキーたちの意識がズレた。隙だ。

「人質は全員伏せろ!」
 西條 弥彦(jb9624)は窓から教室に身を入れつつ、握ったマシンピストルの銃口に火を吹かす。
 銃弾の雨が敵の体を扉に押し付けた。一方、弥彦は着地と同時に人質たちを背にする。
 事前に、園果が中にいた人物に接触し窓の鍵を開けるよう計っていたため、スムーズに場が出来上がった。
(俺だけだったら、ビビられるだけだったかもな……)
 機嫌が悪いわけでもないのに鋭い眼光を、一瞬背後に投げかけた。
 カチャ、と乾いた音が重なり合うのに、視線を正面に戻す。崩れ落ちてどれがどれだかわからない骨のパーツたちがゆっくりと形を取り戻してゆくのに弥彦は舌打ちした。

 C組教室に侵入した義覚(jb9924)が見たのは、ある女生徒の頬を叩こうとする、骸骨の姿だった。
 素早く接近した園果が蹴りつける。
「大丈夫かい?」
 解放された女生徒に近寄った義覚は彼女の手首に強く掴まれたような痣が残っているのを見つけた。

「あまり、女性に手荒な真似はしたくないんだが……」
 そう、断りを入れてから、義覚は握った鎖鞭を床に打ちつけた。パシン、と音が鳴る。
「悪い事をする子には……お仕置きが必要かな?」
 微笑み、問う。
 いつの間にか、鎖鞭を握る手とはもう一方にも冷気発する氷の鞭が握られていた。
 灯りに群がる虫のように、フラフラと寄ってくるホネッキーたちを義覚は容赦なく、鞭打つ。

「――ああ、頼んだ」
 義覚が放送室へと向かうのを見送って、弥彦は教室の入口外に立つ。その鋭い眼光が生み出す迫力によって、その様はさしずめ門番といったところか。
 結局、人質の人数が多すぎて一室には集まりきれなかった。そのため、C組からよりA組に近いB組へと人を移動させた後、ジーナにも護衛してもらうことになった。
 折角人員があるのだ、本当なら敵の侵入に備え窓を見張っていて欲しかったのだが仕方ない。
 弥彦はA・B組の出入り口に護衛としてたち、ジーナはB組内で護衛。A組には自分たちで窓を注意しておくよう、言いつけてある。

(……ビビられなかったのが、嬉しくないとはな)
 立ちあがった後の敵の反応は、弥彦の想像の斜め上をいった。
 弥彦は不良ではない。乱れた格好をしているわけでもないし、不用意に暴力を振るうこともない。ただ、弥彦を表現するには「鋭い眼光」に尽きる。
 ビビられることはあっても、好かれることは稀である、凶悪な目付き。
『触れると火傷するぜ……?』
 弥彦に飛ばされてもめげずに飛び掛かって来た、骸骨。
 結局は、早々廊下から入って来たアルベルトにストライクショットを撃たれたのが最期だったが、彼女らの残していった看板に書かれた言葉の意味は、弥彦には計り知れない。

「あの……」
 声を掛けられて、弥彦は振り返り――思わず仰け反った。
 背が、高い。そして迫力がある。

「……何かあったか?」
 敵か。警戒に目元を険しくさせた弥彦だが
「さっきはありがとうございます」
 無表情に告げられた感謝の言葉に否定された。
 ああいや、別に。そんなことをいった弥彦は凶悪なまでの目付きになっていた。照れ隠しだ。だが、それを気にした風もなく男子生徒は言いたいことだけ言って、さっさとA組に戻った。


 未だ、もう一つの遊撃班は敵の本体、ホネッキー・ネオに出くわしていなかった。

 廊下に佇む闇色のローブ姿にホネッキーの一体が気づいた。カシャカシャと足音立てながら、声無き声で話しかけてくるそれにヴォルガ(jb3968)は振り向いた。
 その瞬間、狭まっていくはずだった両者の距離はピタリと定まった。
 見間違えだ。そのことを理解したホネッキーたちが何をするよりも早く、一ノ瀬・白夜(jb9446)がワイヤーを引き戻した。
 目に見えないほど細い金属性の糸が、首の骨を折り、頭蓋を本体より弾き飛ばす。

 サッと広がる混乱。
 その中に、片手が割り込んだ。鎖弦(ja3426)の手は一つの頭蓋を掴むと、圧潰した。
 砂と化した、己の仲間に敵は一瞬、戸惑ったようだった。
 だが、
「俺に抱きつくつもりか……?」
 ホネッキーたちの総意は、敵という互いの立場よりも「愛」。
「面白い、義妹を掴み続けることによって魔神砕きにまで昇華されたアイアンクローを喰らいたいならかかってこい」
 今にも飛び掛かる寸前、といった様子に鎖弦は告げた。脅しではない。
 群れとなって襲ってきた骸骨の頭蓋を、的確に掴み、粉砕する。

「困ったものだな……」
 ヴォルガが作業の手を止めず、呟いた。
 ゴツゴツ、ジョリジョリ、ズリズリ。奇妙な音が静かな廊下に響いている。
 バラバラに散った骸骨だが、無事な部分を繋げ合わせて復活されては困る。徹底的に、壊しつくさねばならない。
 ローブ纏う骸骨が、骨をすり潰す姿は恐ろしく不気味である。しかし、そのことを気にした封もなく白夜は欠伸をした。
 そして、鎖弦は作戦の改案を練り続ける。

 ヴォルガは男性なので、女性型の骸骨とはまるで骨格が違う。とはいえ、ローブという緩衝剤により、その違いは遠目ではわからないらしい。
 警戒薄く、寄ってきたところを白夜が不意打ち、鎖弦が追撃する作戦はコンビネーションも相俟って、かなり上手くいっていると言えた。
 だが、捜している敵が見つからない。

「あ……」
 眠たげな眼を上に向け、白夜が声をもらした。拡声器から流れ出す、滑らかな声。
「作戦が次の段階に入ったか……。俺たちも移動するとしよう」
 体育館へ集まるよう促す義覚の放送。
「うむ……。ホネッキー・ネオは来ると思うか?」
 ヴォルガが問う。
 普通ならば集まるわけがない。だが、ホネッキーは別だ。
「ネオは他のホネッキーたちの監督役だ。部下たちの行動を見過ごすような上官ではないと思いたいが」
 ホネッキーたちは集まる。なら、ネオはホネッキーたちをまとめるため、出向く可能性が高い。
 何しろ、ヴォルガに話しかけた敵の行動からすると、ネオは単体で校舎内を動き回っている可能性が高いのだ。ネオの指揮影響はホネッキーたちにとって大きくないと、鎖弦たちは見ている。
「そうだな、私もそう思うよ」
 正解だ、とでもいうようにヴォルガが頷く。

 そうこうしながら歩いていた三人は、バッタリ。

「……!?」
「――っ!!」

 曲がり角で、ホネッキー・ネオと遭遇した。

 ネオは混乱している。
 ローブ姿の骸骨という自分に似た姿と正面激突になりかけ、混乱している。口早に何かを言っているが、そこに声はない。
 それでも、なんとなく言っている意味が通じてしまうのはヴォルガが骸骨だからか。慣れ親しんだ形だからこそ、口の動きより読める。

「目的を聞く気もないが……素直に撤退するなら叩き潰す程度で済ませてやる。が、このまま抵抗するなら砕いて潰して切り捨てる」
 説得にもなっていない、破壊宣言。
 それにより、ヴォルガ以外の二人の存在にネオは気づいた。鎖弦を見、抱きつこうとして足を止める。そして、その隣に立つ中性的容貌の白夜に対し、
『綺麗な……男? 女?』
 看板が上がった。
 白夜の気怠気な表情に、ほんの少し口角が上がった。――ぴんっ!
 糸が、ネオを捕らえて縛る。もう少し白夜が力を入れれば、ネオは終わりだ。

「いや、私がやろう」
 ヴォルガが名乗りを上げた。
 天魔であった頃と、撃退士であった頃。その実力の違いは既に身に染みている。
 「撃退士」としての自分は一体どれほどになっただろうか。――実力を試したい。
 骸骨という、同じ型だからこそ、思う。

 告げたヴォルガに、鎖弦は腕を下げ、退いた。
 もちろん、ヴォルガが苦戦しようものならば参戦する気はある。一応、腕部に取りつけたハンズオブグローリーから小太刀二振りに武器を変えて置く。
「さぁ、始めようではないか」
 言葉と同時、ヴォルガの持つ大剣の刃が濃い闇に染まって眼にも止まらぬ速さで振るわれた。

 その勝負は然程の時間もかからず、終わった。
 ネオはホネッキーの監督役であり、指揮権はあるが戦闘能力においては他と変わりがない。早々、三人は残りの骸骨が集まっているだろう、体育館に向かった。

「なんというか……俺よりもよほど人間らしいのではないか……?」
 アイドルのコンサート並みに盛り上がっている体育館の骸骨に、ぽつりと鎖弦は呟きをもらした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・西條 弥彦(jb9624)
 血族の脈動・義覚(jb9924)
重体: −
面白かった!:2人

グランドスラム達成者・
柴島 華桜璃(ja0797)

大学部2年162組 女 バハムートテイマー
音羽の忍・
鎖弦(ja3426)

大学部7年65組 男 鬼道忍軍
遥かな高みを目指す者・
ヴォルガ(jb3968)

大学部8年1組 男 ルインズブレイド
事件を呼ぶ・
淀川 恭彦(jb5207)

大学部2年95組 男 インフィルトレイター
撃退士・
ジーナ・フェライア(jb8532)

高等部3年32組 女 陰陽師
影を切り裂く者・
一ノ瀬・白夜(jb9446)

大学部2年91組 男 鬼道忍軍
風を呼びし狙撃手・
アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)

大学部6年7組 男 インフィルトレイター
撃退士・
西條 弥彦(jb9624)

大学部2年324組 男 インフィルトレイター
思い出重ねて・
天草 園果(jb9766)

大学部2年118組 女 ナイトウォーカー
血族の脈動・
義覚(jb9924)

大学部7年303組 男 アカシックレコーダー:タイプB