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マスター:有島由
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:14人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/14


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●最後の夜
「今年も終わりですなぁ……」
 呟いてチラリ、保津高峰は部屋の中央に陣取る友人たちを見た。

 オルスト・ホーライドは陽気に笑ってお菓子を貪っている。時に彼は苦学生なので普段は糖分を取らない。バイトは肉体労働が多いので体力を保ちつつ、余分なものは食さない主義だ。その手が操るのは高峰の愛機。最初はゲーム機の上下すらわからなかったオルストが良く成長したものだな、と変に感心した。
 幡名永時はいつも通り仏頂面を見せながらもその頬はほんのり染まっている。眼が据わりきっていて小さく何事かを呟いてはグラスを傾ける姿はとても学生とは思えない。うらぶれた居酒屋に出没していそうだ。
 佐原由之(jz0178)はひたすらパソコンの画面に向かって文字を打ち込んでいた。つけっぱなしのテレビ画面へも視線を動かしては文字を追加する。ちなみにチャンネルは通販番組。先ほどから怪しげな宣伝文句が繰り返されている。何をしているのかと聞こうと思っては零されるかつてないほど不気味な笑みに躊躇ってしまって、結局何をやっているのかわけがわからない。
 そうして、そんな三人から離れた所。床に敷かれた蒲団の中から高峰は顔を出していた。

 高峰は時計を見やる。
 現在、12/31の21:00ジャスト。子供は眠る時間だ。
 年越しは寝て過ごす派の高峰は三人に恨めし気な眼を向ける。

(誰も構ってくれない……)
 年越しの過ごし方は人それぞれだ。それはわかっている。実際、三人はまるで違う夜の過ごし方を選んでいる。
 だが、ならばなぜ自分の部屋に皆集まっているのだろう。疑問に頭を捻った。……ら、首が痛くなった上、頭を強打してこぶができました。

 再度、高峰は考え込んだ。
 頭までも蒲団に潜り込み、うつぶせの体勢で息苦しくなりながらも高峰は必死に考えた。
(なぜ、誰も構ってくれないんだ……っ!?)
 高峰の部屋に集まりながら、自分の世界だけに入る彼らの行動理由を本気で考え込む。いっそ寝てしまえばいいのに、高峰は彼らの存在を埒外に置くことはできなかった。
 人がいれば絡みに行く、それが高峰の信条だ。

 それぞれがバラバラに行動する三人にいったいどういうことだ、と鼻息荒く高峰は思った。これでは誰にちょっかいをかけに行けばわからない……。

 思考回路が非常に混線してドロドロに溶けた思考で考えていた高峰はいつのまにか意識が闇に溶けていた。
 結局、高峰は暖房のついた部屋でぬくぬくと蒲団にくるまっていれば眠ってしまうのが性なのだ。


「……ハッ!」
 意識が急激に持ちあがって高峰は目覚めた。
 全身に汗を掻き、呼吸を繰り返す。鼓動が早くなっているのを自覚して思わず胸に手を当てながら身を起こす。
 柔らかな蒲団が動作にあわせてずり落ちた。

 部屋にはテレビの音が流れている。相変わらず怪しげな通販番組だ。
 三人も先ほどまでと変わらない様子でいる。

 ふと、時間を見やって
「あれ……」
 現在、12/31の21:00ジャスト。
 時計の示す数字に首を傾げた後、高峰は再び蒲団に潜り込んだ。そうして、やはり意識は薄れてゆく――。


「なぜだ――」
 高峰は蒲団から飛び起き、orzの体勢を取った。
 そんな高峰の様子を不審そうに見やる視線は、……残念ながらない。

「もういっそ、外に出て時間を過ごしてみるか」
 もう一度見やった、時計の針はやはり21:00ジャスト。
 秒針は進んでおり、一分が経過すれば一分が進む。今にも高峰の前で時間は21:01に変わった。
 けれど何度も繰り返した結果、分かったのは眠って目覚めれば再び21:00ジャストに戻っているということだった。

(しかし、三時間か……)
 眠れば時間が巻き戻るとはいえ、一体何をしよう。
 眉をしかめて考える高峰だがこの不思議現象を解決しようという方向には頭が働いてくれないらしい。

 高峰は勢いよく立ちあがると、コートを引っ掴んだ。
 漸く、なんだ、という視線が三人から向けられる。それに爽やかな笑顔を見せて高峰は宣言した。
「逝ってきます☆」


リプレイ本文


 月が浮かんでいた。
 丸い月が雲に隠されもせず、夜に輝く。
 その景色を窓際から見たカッツ・バルゲル(jb5166)はぼんやり、呟く。
「大晦日、ですか……」
 開け放たれた窓から入り込んだ冬の風が彼の黒髪をさらりと撫でて過ぎていった。

 窓の下では待ち合わせをしていただろう、寮生たちが出かけてゆくところだった。
 年が明けるにはまだ早い時間。それぞれが思い思いの、大晦日を過ごす。
 久遠ヶ原学園、普段は依頼などで忙しくしている生徒たちは今日だけは、と賑わいを見せていた。


 入れた紅茶はとうに冷めていた。
 如月 千織(jb1803)は視線を手元に落とし、忙しなく指を動かす。やっているのはゲームだ。続きが気になるので休憩も入れず、没頭していた。
 千織は今日が大晦日だということを知っている。けれど、イベントごととしての認識は薄く、長期休暇中の一日であり、年末という事実でしかなかった。
 一瞬だけコントローラーから離された指は机の上に散らばる菓子にではなく、顔にかかる髪を掻き揚げるのに使用された。
 晒された耳にはヘッドホンが装着されており、曲が絶えず流れ続けている。そうして、千織はいつの間にか眠りに落ちていた。


「ん……」
 或瀬院 由真(ja1687)は開き切らない瞼をこすった。
 漸く開かれた瞳は金。いつの間に眠っていたのだろう、そう思いながら涙にぼやける視界で時間を見やる。
「……ふへ?」
 居眠りの内に年を越えてしまっただろうか、と思った時計は未だ9の時を指している。外は暗く、夜だ。翌日の朝ではない。
 これは可笑しい。眠る前の時間は12月31日の夜10時を過ぎていて、であるならば今の状態は
「時間が巻き戻っている、のでしょうか?」
 録画していた番組がどうなっているのか、機械を動かしてみたが、未だ番組は始まっていないのだから録画もされているわけがない。
 予約のままだったことを確認し、由真は指を顎にやった。
 ふむ、と考えこんだ後、立ち上がると由真は机に和菓子を持ってきた。密かに取っていたものだ。
「普段は真面目に頑張ってますから……」
 ほんわかとした笑みを浮かべて由真は自己弁解した。
 どうしてそうなったかなど、今日ばかりは考えずに良いだろう。
 年に一度の大晦日。自堕落な時間を過ごすのも許されるはずだ。
 一つの和菓子を手に取り、一瞬躊躇った。けれど口元へと運ぶ。
「だらけてもいいですよねー」


 天羽 伊都(jb2199)はガバリ、と身を起こした。そして時計を見やり、
「うーん、」
 困惑に声を上げた。
 寝て覚めて、九時であることを確認したのはもう幾度目だろうか。
「やっぱりかぁー」
 正月は寝正月に限る、とコタツにみかんを用意したのは最初だ。
 繰り返しに気付いてからは寝放題だぁーとダラダラしていたものの、ちょっと飽きた。
「――うん、外に出てようかな♪」
 外出用に上着を羽織った伊都は大晦日の夜、外へと出かけた。


「ふぅ……正に事実は小説より奇なりよね超ウゼェ☆」
 素晴らしい笑顔を浮かべて、田村 ケイ(ja0582)は言った。
 それまでの淡々とした表情から一気に変わった。そのことを恐れる様に、ケイの目前にいた数十人ものチーマーたちはたちどころ、殴りかかって来た。
 それは防衛本能だ。襲われる前に襲え、の要領である。
 それに対し、ケイはためらうこともなく腕を振り上げた。

 数分後、ケイは倒れたチーマーの山を築いていた。勝利の爽快感はない、ただ溜息と怒りと疲れが溜まるだけだ。
 チーマーを背に、ケイは神社へ歩き始めた。
 若干、急ぎ足なのはこうやって絡まれることが実は一度目じゃないためだ。
 ふと、ガサガサ音がして道に何かが――いや誰かが飛び出してきた。それはカラフルな集団。

 時間の繰り返し。
 そして、どこからか現れる大量のチーマー。
 大晦日なのにボルテージ最高潮状態の彼らはなぜだかケイに襲い掛かってくる。
 撃退士であるケイが一般人である彼らに怪我をしないよう、加減をしながらボコるのは骨が折れる上に時間も相当ロスする。
 そうして、気づけば神社へ向かう途中で十二時になる。

「またか……いい加減にしなさいよ?」
 繰り返しの中でいろんな道を行ったが、彼らはどこにでも現れた。
 既に気分はタイムアタックだ。黒笑みを浮かべ、ケイは拳を再び握る。

 喧嘩のために雑木林へと道を外れるケイ。
 けれど、彼女のすぐ横を一般参拝客がゆったりと、賑わいつつ神社へと向かう。
「? 今、なにか物音がしたような……」
 参拝の列に並んでいたザジ(jb4717)は首を傾げた。


「天魔だって……気を利かせて動かないとか、ふざけているんですよぉ……」
 ひっく。
 鴉守 凛(ja5462)はとろん、とした目のまま購入した絵馬を睨みつけると素早い動きで書きなぐった。
「世界大混乱」
 一息に書かれたそれを神社に投げ込み、凛は笑みを浮かべた。

 しかし実際に混乱しているのは凛のほうだ。
 繰り返しに気付いた凛はつい先ほどまで自室で缶を開けていたのだ。浴びるほどに呑んだ酒に酔った凛は武器である槍斧を振りかぶり、テレビを粉砕。ベッドも撃破し、扉は冬にもかかわらず随分風通しが良くなった。

「ああ、すっきりしましたねぇ……」
 非常に満足そうに笑みを浮かべる凛だが、素面に戻った際のことなど何も考えていない。
 根暗にもみえる普段とは打って変わり、活動的な夜となった大晦日だった。


「なんだったのかしら、あれ……」
 御堂 龍太(jb0849)は先ほどまでいた人物に首を傾げた。
 泣いていたと思ったら高笑いをし始めた少女は絵馬を投げる様に奉納し、去っていた。
 初詣に縁日を楽しんでいた龍太は両手に食べ物を持ち、その背を見送った。

「ああ、まさに夢のような時間よねぇ……」
 おもちにおぞうに、おせちに……。
 並べた購入物を前にウットリ、呟く。
 普段ならばお財布やカロリーの心配もあって、我慢することが多いのだが。

 気づいたのだ。
 先ほどから、今日という時間はループしている。
 つまり、使ったお金はなくならないし、食べた分もカロリーが増えない。ちなみに満腹感もリバースしてしまうので食べても意味がないと言えばそうなのだが、食べた時の幸福感や美味しさは何度でも味わえる。食べた気分は味わえるのだ。
 これはもう、端からハシゴしてゆくしかないだろう。


「はやくでろってんだバカ……」
 落ち込んだような表情をして、紫苑(jb8416)は呟いた。
 耳に押し当てた携帯はPPPPと音を鳴らし続け、徐々に不安になってくる。
 紫苑は撃退士になったといえ、未だ六歳。一人きりで過ごす大晦日に耐えず、鳴らしたのは馴染みある撃退士の番号。
 繰り返しに気付いて、その異常に耐えられなくなったともいえる。

 漸く、電話越しに声が聞こえて紫苑は笑みを浮かべた。
「……まだおきてたんですかい、このだめおとなが」
 口にするのはどうしても皮肉になってしまう。けれど、嬉しさが零れ落ちた。
「あ! バカきんなこのタコ!」
 要件がないことを知った向こう側は即座、切ろうとしてくる。
 今更ながら、なんという奴だ、と思う。自分と彼との関係はどういう関係、と聞かれれば困ってしまうけれど、それでも甘いものではないことだけはわかっている。
 それでも、こんな時ぐらいは甘えさせてくれたっていいだろう。
「じゃ○―ずかうんとだうんみながらでもかまわねぇですし、……としこしそばくっててもかまわねーですから」
 一端、言葉を切った。
 いつも、口にするのは捻くれた言葉で。素直なこと等いつも言わないから。
 だかっら言うかどうか、最後まで迷って。
 けれどもう、かの人に電話を切る気がないというのが伝わってきて。
「……いっしょにとしこししてくだせぇ」
 あけましておめでとーって、いってやりやすから。
 空を見上げ、紫苑は本音を口にした。


 大晦日。
 一年の集大成ともいうべきこの日に、ルカーナ・キルヴィス(jb8420)が作ろうと思ったのはミルフィーユだった。

 ミルフィーユというのは層が上手く作れるかどうかが肝心なお菓子だ。こればかりは要領同行の問題ではなく、繰り返しの練習が必要になる。
 だから、本日起こった時間が繰り返す現象は非常に都合が良かった。

 人に渡すように可愛らしくラッピングに包んだそれはルカーナ自身が見てもなかなかのものだった。
 料理を作る際に思うのは食べる人の笑顔だ。誰に食べてもらいたい、美味しいと言ってもらいたい、食べて幸せになってもらいたい。
 そんなことを思いながら、料理は作るもの。
「できたー! こないだはみさみさにお世話になったし、これで喜んでほしーな♪」


 ピンポーン。
 部屋の呼び鈴が鳴って、ルカーナはハッとして扉を見た。
 エプロンをしたまま扉に向かったルカーナは驚きの表情のまま、その人を迎えた。

「よかったら、初詣行きませんか?」
 緋流 美咲(jb8394)――通称、みさみさはハニカム笑顔を携え、ルカーナの部屋を訪れた。



「ちがウ! 右ニ大きク動いたラそこハ当たっちゃウ!」
 リシオ・J・イヴォール(jb7327)は叫んだ。
 彼女が額に汗して必死になっていたのは「キャッチザスカイ」というゲームだ。
 日本に留学する以前からアニメやゲームに興味のあったリシオだが、日本に来てからはこのロボットアクションのプレイにはまっている。
 自分の腕が未熟だと自覚しているリシオはこの繰り返しに実力を磨こうと意気揚々とゲームプレイをしていた。
「オオッ! 今のボクの動キ、超スモイ!」
 小さく歓声を上げながら攻略に励むリシオの耳には鐘の音も聞こえていない。
 それでも時計は静かに、日付の変更を伝える。


「……………………………」
 鐘の音が耳に入り、中津 謳華(ja4212)は静かに瞑想から瞼を開いた。

 下宿先の神社。その裏手にある薪小屋に謳華はいた。
 座禅を組み、雑念を取り払って集中する謳華の眼前には蝋燭が揺れている。

 武の高みを目指して歩んできた一年を謳華は思う。
 より高見へと到るため、より力を身に宿すため、反省と反芻は必要なものだ。

 蝋燭の炎が揺れる。
 それを煩悩と見立て、謳華は再び瞳を閉じた。
 ただ一心に、煩悩を捨て去るべく瞑想を続けた。

 そうして、鐘の音が止む。
 三度開いた謳華の視界は漆黒の闇に塗りつぶされていた。

 ザッ
 靴が砂を噛む音を鳴らしながら謳華は立ち上がり、足を進める。神社では賑わしく、初詣が続いている。
「……新年、一意祈願。今年もまた縁ある一年となるよう、そして強きと巡り会える一年となるよう、かしこみかしこみ願い奉る」

「おや、」
 背後で聞き知った声がして、謳華は振り返った。
「新年あけましておめでとうございます」
 佐藤 としお(ja2489)はにっこり、笑顔で新年初めての挨拶をした。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
海の悪魔(迫真)・
如月 千織(jb1803)

大学部3年156組 女 ダアト
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
撃退士・
ザジ(jb4717)

高等部3年21組 男 バハムートテイマー
撃退士・
カッツ・バルゲル(jb5166)

大学部3年237組 男 阿修羅
大切な家族へ・
リシオ・J・イヴォール(jb7327)

高等部3年13組 女 ルインズブレイド
誠心誠意・
緋流 美咲(jb8394)

大学部2年68組 女 ルインズブレイド
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
はりきりシェフ・
ルカーナ・キルヴィス(jb8420)

大学部3年323組 女 ナイトウォーカー