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マスター:有島由
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/06/05


みんなの思い出



オープニング


「それでそれでっ?」
 興味津々、という言葉を眼から表情から全身からと表現している青年・水月八一郎(みなづきやいちろう)に、若干顔を引きながらミシェル・ジャンクソンは会話を続けた。
 その話題はミシェルの愛犬・武士郎の本日の活動である。
 ミシェルの友人である八一郎は大の犬好き、特に武士郎は他人の犬であるにもかかわらず「愛している」と臆面もなく主張し、憚らない。
 ミシェルも、それが悪いとは思わない。愛犬が好かれているのは彼女にとっても、非常に嬉しいことだ。
 けれど、けれど――犬が目的で友人関係を続けている、というわけではないだろうか。
(そんなはず、ないよね……?)
 いつも二人がする話題と言えば、武士郎のこと。それ以外の話などしたことがないし、八一郎がミシェルのことを、どれほど知っているか、自信がない。
 自分は武士郎のオマケなのではないか、そう頭に過る時がある。
 ミシェルはそもそも、日本の武士文化に憧れてフランスからやって来た。未だに日本語は不十分だと自覚しているし、素の時は母国語を喋ってしまう時もある。
 日本にやってきてから知ったことだが、今の日本には武士がほとんどいないということも知った。それでも、武士を目指す自分はあまり周囲に馴染めていないのではないか。
 女友達も、それなりにいる。けれど、一番親しいのはやはり目の前の青年、八一郎なのだ。
「どうしたの、ミッちゃん?」
 寮室。クッションに座って武士郎の両手を万歳させながら、急に黙り込んだミシェルに八一郎が首を傾げた。
「八一郎殿」
 本当は、この部屋に来る前から用意していた言葉。いつ言おうか、いっそ言わない方が良いのかと思いながら、躊躇い、躊躇い、俯きがちになりながらも漸く絞り出す。
「明日は休日でござろう? 予定は……何か、あるだろうか」
「んー?日曜だよねぇ。今んとこ依頼も引き受けてないし……うん、買い物とかかな?」
 当日になってから考えるタイプだからあんま決まってないなぁ、と呟きをもらす八一郎。
「明日は共に……」
 言葉は、途切れた。
 顔を上げた先にある八一郎の顔を直視して、何も言えなくなった。


 とんでもなく、呆けた顔をしてしまった自覚がある。

「なぁ、幡名」
「――なんだ」
 机に向かっていた八一郎の同室者、幡名永時(はたなえいじ)は開いていた教科書を閉じながら返した。幡名は依頼やアルバイトなどで遅れがちとなっている勉学に勤しもうとしたがちっとも手につかなかった。
 騒がしいのはいつものことである。そして、男子寮だというのに忍び込んでくるミシェルに小言を言うのもいつものこと。
 いつまでたっても止めない二人にどこか別の場所で会えといったこともあるが、ミシェルが忍び込んでくるというスタイルは変わらなかった。
「あれって、デートのお誘い……って考えていいのかな?」
 ぽつり、と漏らした八一郎の言葉に幡名は目を見張って、振り返った。
 ミシェルの態度はわかりやすい。けれど、八一郎は犬のことしか頭にない超鈍感青年である。
 漸く自覚したのかと思ったのもつかの間、八一郎は言葉を続けた。
「武士郎くんからのお誘いデート……」
 幡名は先ほどとは違う意味で目を見張った。
 ミシェルはかわいらしい女の子である。焦げ茶の眼に金髪ポニーテールの、武士に憧れる少女。年齢は実は幡名たちよりも上の大学生であるが、背丈が非常に小さい。常に犬とともにいる姿は癒される。そんなミシェルが八一郎に片思いしているのは誰が見てもわかる。
 恥ずかしげに顔を赤らめつつ明日の予定と、一緒に出掛けないかと誘ったミシェルの姿は恋する乙女でしかない。そしてそれに対して八一郎は顔を赤らめていた。

 それが、どんな勘違いだろう。
 犬とのお散歩に対する反応だろうか。いや、本当はわかっているんじゃないだろうか。
 ミシェルとのデート、という言葉を発するのが恥ずかしくて武士郎との、と言葉を濁したのではないか?
 本当に本気で、犬(武士郎)とのデートで舞い上がっているわけではなかろうな?


「ふむ……その勘違いはミシェルにとっても水月にとっても大打撃を与えそうだな」
 顎に指を当てて考え込むミイナ・ノンハーム。その外見がビジュアル系なためか、初対面でなくとも男性として認識されていることの多い女性天使だ。
「何とかしたいと思ってるんだが、何か良い手ないか?」
 幡名はこの見た目はかっこよくとも性別は女性である友人に相談をしていていた。
 ミイナは水月との面識は薄いが、ミシェルとは友人である。天使ということで久遠ヶ原に来て早々は馴染み難かった経験からか、年齢は違えども留学生のミシェルと気が合うことも比較的多いという。
「そういう場合は幡名が手を出すより、第三者に介入してもらう方が良い。知り合いだと何かと動きにくい部分もある」
「依頼、か……」
 幡名は苦学生だ。方々でアルバイトをしながら学費や生活費を稼いでいる。そのアルバイトの一部には放課後に学生間でピンチヒッターなどをすることもある。
「あのさぁ、いくら暇だからってバイト中だよー? 掃除中なんだよねぇ〜?」
 店長の間延びする声が、辛辣に状況を指摘してくる。
「考えがある。私が代わりに出しておくから、幡名も当日は動けるようにしておいてくれ」
 ミイナはそう言うと、掃除を再開した。

「もしもし、夕映か? 明日、幡名とデートしてきてくれ」


リプレイ本文


 陽の傾きかけた午後の空き教室。
 四人の撃退士と依頼主がパイプイスに腰掛けていた。
「なんというか……見事にちぐはぐな好意の向きなのだな」
 依頼人のミイナから詳しい話を聞いた蒼桐 遼布(jb2501)はぽつり、呟いた。その手元には簡略ながら図式に表された依頼人たちの関係性などメモが取られている。
「できれば二組とも成就させてやりたいものだが……」
 石動 雷蔵(jb1198)はそう、口に出したが問題はそう簡単ではないこともわかっている。
「相手に一人の女性として意識させる、というのが目標になりそうだな」
「自覚させるには衝撃を与えることが必要。恋に障害はつきものともいう」
 平野 渚(jb1264)は淡々と口にしたが、その脳内ではわりと物騒なことが考えられていた。
「閉鎖、吊り橋効果、共有……」
 ポツポツと口にされるその内容に、鹿島 行幹(jb2633)は首を傾げた。
「デートとはそうまでしないと成功しないものなのか? やはり人間の心理は難解だな……」
 行幹はもともと天使であるし、師とともに鍛錬をしている日々が多いのでよくわからない。しかし、人の心理は解らないながらも考えてみる。
「八一郎の興味は犬にある。なら、ミシェル自身をその好みに合わせたらいいんじゃないか?」
 犬耳とか着ぐるみとか。斜め上に視線を固定しながら、言った。
 撃退士の中には堕天使やはぐれ悪魔が多くいるせいか、動物の耳やら尻尾が生えていたり、アウルを光纏した状態そのものが動物の形状になる、などという者も少なくない上着ぐるみを着て生活するのを当然とする者もいる。
「今日のうちにやっておくべきことはミシェルたちの服装を彼らの好みに合わせること、それとデートプランだな」

 待ち合わせ場所を、遼布と雷蔵は遠くから伺っていた。
 デートの基本である、女性が待ち合わせに遅れるというのを行うミシェル・ジャンクソンと鷹浜夕映。それに対して男性陣の水月八一郎と幡名永時が受け答えする。ターゲット四人を確認した。
 普段は制服姿の彼女らの私服姿に、胸をドキリ――としているかどうかは傍からはわかりにくい。しかし、男性陣のツボを押さえようと努力した結果が垣間見えている。
「こちら、遼布。ターゲットが移動を開始したようだ」
 とりあえず、違う場所にいる渚と行幹へと連絡をする。
 今後の予定として、まずは様子見。四人のダブルデートがそのままイイ雰囲気へと移行するのならば介入する必要はない。
 八一郎がミシェルとのデートという意識をきちんと持っているのならば、幡名の方も依頼提案自体が杞憂だったと引き下がり、二人二人で共に正式にダブルデートの形となることが予想できる。ダブルデートに邪魔になりそうなものたちだけを単純に追っぱらってしまえば済む。
 しかし、だ。予定は未定――過去から未来は予期される。

「あの様子じゃ、どうにもな……」
 犬と戯れる。飼い主と会話する。犬に引っ張られる。犬を抱きしめる。……このワンパターンな行動を起こすのはターゲット1、水月八一郎である。
 遼布は様子を見ていて、頭が痛くなってきた。
 一に犬、二に犬、三に人を気に掛ける。
 ペットの武士郎は飼い主であるミシェルの持つリードに繋がれている。普段そのようなものは付けないでいるらしいのだが、休日の人混みの中リードを付けずにいたら早々に逸れてしまうためだ。
 それによって、武士郎に興味のある八一郎はミシェルと隣に並び歩いている。その数歩分後ろを幡名と鷹浜の二人が歩いている。一見すればダブルデートとして成立しているように見える構図だが、男子たちの注目は共に前方にあるらしい。
 八一郎は武士郎を気に掛け、ミシェルと会話しながら武士郎へと視線を注ぎ、幡名はそんな二人の様子をハラハラとした様子で気に掛け、隣を歩く鷹浜と会話が少なくなっている。
 幡名にはきちんと、前日の内に鷹浜と雰囲気を盛り上げることでデートを盛り上げてほしいと言い含めておいたのだが。
「そろそろ、俺が出てみよう」
 遼布とともに四人を尾行していた雷蔵がヒリュウを召喚しながら言った。


「こら、ヒリュウ!」
 先行させたヒリュウを追うようにして雷蔵は四人に近づいて行った。
 ヒリュウは犬の武士郎に興味を持ったようにくるくると飛んでいる。その実、武士郎の足が進むのを止めている。いや、本気でジャレているのだろうが。
「すまない、うちのヒリュウが迷惑をかけた」
 面識のある幡名ではなく八一郎に声を掛けた。
「いえいえ〜、お構いなく」
 俺も動物好きなんで、と軽く笑んで見せる八一郎。事前情報に間違いはないようで、犬以外の動物、召喚獣も好んでいるようだ。
「この犬、名前はなんて言うんだ?」
 ヒリュウが気に入ったようだ、と暫しの同行を申し出る雷蔵に八一郎は自分たちの紹介を始めた。
「こちらは武士郎くんの飼い主、ミッちゃんです!こっちが鷹浜さんで、こっちが幡名」
 自慢げに言う八一郎に倣ってそれぞれが簡易に挨拶する。
(ふむ、ジャンクソンが八一郎にとって特別であるのは間違いない、か)
 紹介の仕方からして、ミシェルと他二人と言う言い方だ。八一郎にとってミシェルは思うところのある人物である。
「ダブルデートの邪魔したな、早々に退散させてもらうか」
 からかいを混ぜてそう言えば、八一郎はきょとんとした表情をして見せた。幡名は自分も含まれている、ということには気づかないらしく八一郎の挙動に注目している。
 一方で、ミシェルと夕映の二人はすぐさま顔を赤らめさせたが、否定の言葉を紡ぐことはなかった。男子二人の反応を伺っている。
「あははは、そんなわけないじゃないですかー。どうぞどうぞ、ゆっくり話しましょうよ!」
(それはどんなリアクションなんだ)
 心情としては頭を抱え込んでみたり、眉を寄せたりして八一郎の言葉についてじっくり考えたい。しかし、今は無理だ。
 表情が先ほどよりも固くなったのを自覚しながら、雷蔵は会話を続けた。
「あ、いや。実はこの後、予定があるんだ」
「デートですか?」
 幡名の切り返しに、頷く。
「ああ。――俺の彼女も犬を飼っててな……ヒリュウも混ぜて一緒に遊ぶんだ」
 一緒にいるうちに仲良くなったんだよな、とボヤクように告げて反応を見る。少しばかりあからさまだったかも知れないが、当の八一郎は興味なさそうに「へー」と一言口を吐いただけだった。
「……変に絡んで悪かったな。お礼に、この券を使ってくれ」
 この先にある、ペットが入れるカフェだと言って渚の用意した優待券を握らせる。
 本当にいいんですか、と目をキラキラとさせて尋ねてくる八一郎。他の人のペットも見られるかもしれないなぁ、と呟く姿に若干哀れを感じる。そこに待っているのはペットたちではなく、作戦だ。
 武士郎の柔らかな毛並みを撫でると、ヒリュウが嫉妬したように引っ付いてきた。それに小さく笑んで、腕に抱えこむ。小さな生物の、微かな息遣い。
「やはり、何事も態度だけじゃダメだな。言葉にしないと、伝わらない」
 伝えているつもりでも、伝わらないことがある。
(相棒だから、と言うのは甘えだな)
 依頼が終わったら日頃の感謝をこめて手入れしよう。何度でも、口に出そう。


 じゃあな、と言って雷蔵はヒリュウとともに四人と一匹から離れた。
 そのまま曲がり角に消えるように見せかけて四人の背後に位置する遼布の場所まで回りまわって戻る。
「どうだ?」
「誘導はできた、だろうな」
 もともと、水月以外の三人には本日の行程について話してある。次の目的地であるカフェまでは何の問題もなく辿り着くだろう。
 そしてカフェに辿り着いた後、彼らに知らせてはいないイベントが企画されている。

 こじんまりとしたカフェのテラスで優雅に休憩中、を装った渚は表情を淡々とさせながら今入って来た四人の客の動向に注意を傾けていた。
 女二人に男子二人、そして犬。同性同士で横になり、四人席を囲む彼らが渚のターゲットだ。
「いやぁ、こんなところに武士郎くんが入れるお店があったんだね」
「武士郎も気に入ったようでござるな」
「近くだし、オシャレだしね。最近できた店かな」
「まぁ、客の中心層は女性ばかりのようだが、男が全く入らないというわけでもなさそうだ」
 店の感想を言い合う、四人。八一郎・ミシェル・鷹浜・幡名の順である。
 それなりに盛り上がっているようで何よりだ。
 会話の中心が武士郎に関することだったりするのは四人の中で最もおしゃべりな気質の水月の興味がそこにしか向かっていない、と表しているようだったが。
 とはいえ、ダブルデートはスムーズに進んでいるようである。
(順調、だからこそハプニング)
「期は熟した」
 ジュー、と吸い上げて空になったグラスを置いた。
 八一郎と幡名の二人が会計へと席に立ったタイミングを見計らって立つ。渚は先に会計を済ませてある。店から移動するのに障害はない。
 先に立ち上がり、上着やバッグを手にして着込み始める鷹浜。渚はハイアンドシークとサイレントウォークを駆使して彼女を軽く素早く縄で拘束する。
「な、に……?」
 ぽかん、とした表情で呆気にとられる鷹浜に小さく謝りを入れ、テーブルの上にカードを置いた。そして横で武士郎を抱き上げたまま固まってしまったミシェルの手を引く。
「恋のきゅーぴっど、登場」
 あ、という風に顔を上げたミシェルの手を引いて、幡名たちの背後を通り過ぎる。
「おーるらいと。誘拐完了」
 え、え、え、と疑問符を浮かべるミシェルを連れて近くのカラオケ屋に入り込む。部屋を取り置いていた雷蔵が入れ替わりに出ていく。既にターゲットと接触して顔を知られてしまっている雷蔵は顔を見られたら計画がばれてしまうので、渚と交代で休憩を取るのだ。たぶん、あのカフェとかで。
 もう一人の尾行役である遼布は未だにターゲットに張り付いているはずである。折角の計画であるのに、暴漢などに茶々を入れられては叶わない、というスタンスでの張り込みだ。
「あの、」
「人か犬、どちらかだけを渡すと残してきた」
 躊躇いがちなミシェルの言うことはわかった。だから事情を説明する。……なってないかもしれない。
 カラオケボックスの中で、ちょこんと肩身狭そうに座るミシェル。その膝に犬の武士郎が乗っかっている。それを視界に写しながら、手元で携帯を弄り、鷹浜に連絡を取る。


 ミシェルも鷹浜も昨夜のうちに顔を合わせている。といっても、本日の彼女たちのコーディネートに関する相談だ。
 四人の撃退士と依頼人で話し合った結果、男子三人は幡名に連絡を取りデートプランの話と当日の行動に関する諸所の注意など話し合いをしていたが、一方で渚は依頼人のミーナに呼び出してもらってミシェルと鷹浜の二人と会っている。
 当日の服装に関する提案、もといミシェルには遼布の伝言と行幹から預けられた犬耳カチューシャを手渡した。鷹浜についてはミイナの助言である、幡名のタイプ「落ち着いた雰囲気の女性」をテーマにコーディネートした。
 普段、自分の服装に気を使うことの少ない渚だが、センス自体はある。アクセサリーなどのアクセントで女性らしさを押し出すなど工夫を教えたりしたのが昨夜の話。
「カードの裏、地図。ひとりで来るように」
 八一郎を指定して書かれたカード。その裏にはカラオケ屋までの地図がある。攫った、と明確に記し、取り戻しに来いとまで書いた。ここまでして来ない者はよほど鈍いのだろう。ただし、犬とミシェルは違う部屋と記載した。犬を選べば空室、ミシェルを選べば両方を返す。
「人と犬、比べる者がいれば馬鹿だ」
 ミシェルは渚の言葉に小さく身動ぎしたが、答えは出ているようなものである。

「ここ、かな?」
 躊躇いがちに、開かれる扉に向かって渚は構えた。
 そして、パンッ!

「うわっ!?」
 勢いよく鳴らしたクラッカーに驚き、後退する八一郎は入って来た扉に頭をぶつけて蹲った。

「よく来た」
 え、え、え、と困惑の反応を返す八一郎にちらりとミシェルを振り返る。
(あるいは似たものカップル)
「人間は究極の選択をどうするか、というテーマのアンケートだ」
 攫った理由などを軽く説明を入れながら、言葉を続ける。
「犬好き情報は事前に仕入れていた。だから、彼女と愛犬どっちを取るか示した」
「彼女?」
 些細な言葉に尋ねてくる八一郎にミシェルを示せば盛大に違う、と反応が返ってくる。それに対し、ミシェルはまたもや盛大に落ち込んだ様相を見せる。
「だが、結論として彼女を選んだわけだろう」
 協力してくれた礼だ、ととあるイベントの優待券を渡す。そここそ、今回のデートの最終目的地だ。行幹が配置しているはずである。

 公園にて。
 行幹は準備をしていた。記念撮影、それが四人に起きる次なるイベントだ。
 セッティングの開始は四人が後援にはいるタイミングで行う。それ以外の者を釣ってしまっても申し訳ないからだ。
 用意など一人でやっていると不自然に視えてしまうだろうから、遼布が合流している。雷蔵はヒリュウを先行させて四人を様子見しつつ尾行。犬である武士郎には匂いを覚えられてしまっている可能性があるので、こちらには参加できない。代わりにそれまで尾行を務めていた遼布がこちらに合流した。
「犬の姿を通して、彼女自身の魅力に気づいて貰う。……上手く行くといいが」
「幡名たちに関しては渚の作戦が成功したようだ」
 行幹に対して、遼布が答える。
 ミシェルが攫われたのに対し、八一郎を追いかけさせる。そうすることで、八一郎に対する精神的なアクションを求めたことと、一方で幡名と鷹浜を二人きりにすることもできた。こちらはほぼ作戦通り、いい雰囲気に出来上がっているので後押しなど必要はないだろう。
 問題は、やはり八一郎にある。
 犬など動物の着ぐるみ数体を横に、行幹と遼布の二人は会話を交わす。天使と悪魔だが、ともに久遠ヶ原の劇他紙である。種族と言う括りで一概に評価を下すのは利口とはいえない。行幹も遼布も共に鍛えるのが趣味だ。話題が続く。

 そうして和やかなのか、殺伐としているのかわからないような修行に関する会話をしながら携帯が震えるのを待った。

「宣伝イベントで記念撮影を行っているのですが、どうですか?」

 カシャッ!


「それでね、それでね……」
「もう、大変だったんだからっ!」
 ミイナはミシェルと夕映の二人に適当に相槌しながら手元の写真を見た。
 へにゃへにゃとしたタオル生地の、パジャマによくあるような顔出し型着ぐるみ。その犬バージョンを笑顔で色違いに着るミシェルと八一郎。兎バージョンで仏頂面の幡名と恥ずかしげな表情の鷹浜。
 ダブルデートの報告は既に依頼を受けた撃退士の一人、遼布から受けている。
「楽しかったんだろ?」
 ミイナが問いかければ、二人は反応は違えども同じ答えを返した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:0人

懐裡の燭・
石動 雷蔵(jb1198)

大学部5年135組 男 バハムートテイマー
揺れる乙女心・
平野 渚(jb1264)

高等部3年1組 女 ナイトウォーカー
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
撃退士・
鹿島 行幹(jb2633)

大学部7年225組 男 ルインズブレイド