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マスター:有島由
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:9人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/15


みんなの思い出



オープニング

●おとこのこ
「ああ、もう!急がなきゃなんないのにっ」
 久遠ヶ原の撃退士であるミツバ・ブランドルは並木道の元を走っていた。その隣には双子の姉、ミズナ・ブランドルが無言のまま走っている。いや、正確には喚きだしたミツバに対して咎めるような視線を向けて先を行く。
 友人たちとの待ち合わせ時間までもう時間がないのはわかる。だが、そもそも時間が無くなった原因はミズナである。もう少し反省の色が見えたっていいのに、今のミズナはミツバをノロい、と視線だけで嘲っている。非常にイラつく姉だ。
 ミツバもミズナも撃退士だが、学生の傍らで判子屋を営む。実家が判子屋を営んでいて、二人とも久遠ヶ原に来るまでには一流の彫刻師の称号を受けている。それゆえ、久遠ヶ原に入っても学生の傍らで判子づくりをしている。特に、この学園の生徒たちは名前が豊かだ。バラつきがあって、ほとんどが特注もの。――商売繁盛だ。
 しかし、だからといってミズナもミツバも学生であるし、仕事は仕事だ。プライベートとは分けたい。
(ミズナの奴……っ!)
 彫刻大好きすぎる姉は待ち合わせの時間も忘れて仕事に没頭していたかと思うと、準備にあれやこれやと時間をかけ始めた。待ち合わせをしている友人たちの中にはミズナの本性の知らない異性がいるからだ。
「化粧とかしても中身かわんねーし、するだけ無駄だっつーの」
「うるさい。黙って走れ」
 横暴すぎる姉に黙った。けれど、考えてみても欲しい。
 まったく同じ顔が化粧をして、香水やお手入れだかに時間かけておめかしするのだ。年頃の男子高校生に許容できるはずがない。それは懐のでかい、男の中の男という奴だけだろう。もっとも、こんな女顔でそんな図太い精神の持ち主がいたら、の話だ。
 待ち合わせ時間までを考えて時計を見やる。どうせ仲間内のことだ、多少の遅れは許容してもらえるだろうが、そう考えているうちに前を走っていたミズナが立ち止まった。
「どうした?急ぐんじゃネェの」
「でも、っくしゅん!」
 見上げたミズナがくしゃみする。しかも、何回もだ。
「花粉症か?」
 体を丸めて何回も、止まらないようにくしゃみをする姿に違和感を感じて背中に手をやった。そして、
「っくし!」
 ――移った。
 ミズナもミツバもくしゃみが止まらずに、その場をいったん離れる。時間もない。
 まだ、二人は自身の身に起きた異変に気づいていなかった。

●男の娘
 集合場所で携帯をちらちらしながら、同時に周囲へ目線を走らせるなんてことをしつつ人を待つ保津高峰。非常にウザ苦しい光景だが、そのことについて幡名永時はスルーした。
 保津とかかわることは自らの身をもウザキャラへと身を落とす行為に等しい、と無口キャラを気取る幡名は一歩二歩と離れて、決して仲間内だと周囲に認識されない絶対距離を保つ。最も、それは同時にもう一人の仲間であるミイナ・ノンハームと身を寄せることだ。
 若干女性が苦手、というキャラではあるためどういった態度を取るべきか。いや、彼女は男口調の非常に凛々しい方なのでそこまで緊張することはないのだが。
 遊びに行くというのにおしゃれに無関心なようにラフなパーカー姿だ。美形である。異性がとても引っかかる。ただし、彼女にとっては同性、――女性たちがミイナをナンパするのだが。性別など知っているこっちからしても嫉妬という心がメラメラしそうな雰囲気だ。
 待ち人が来ればこんなことを両方に対して思う必要もないのに、と身の置き場のないようなことを考える幡名。実際、顔面半マスクという自分がその何倍も目立っていると理解していない。

「高峰ぇえええええ!!!」
 来たようだな、と声のした方を見てあんぐり、絶句。もともと無言の上にマスクをしていて口元なんて見えないはずの幡名だが、その驚嘆ぐあいはたぶん、他の二人が表わしてくれるだろう。
「おお、ミツバ――おはようござん……ぐほっ」
 待ち人――ブランドル兄弟の一方が保津に怒りのラリアットを決めた!
「てめぇええええのせいだこの野郎っ!」
 そしてそのまま首元を掴むと倒れ込む前に首を締め上げる!
「ちょ、ミツバさ……しま、しまってるっていうか、でもなんか柔らか」
 保津の言葉に反応したように一瞬で拘束を解くとそのまま脳天にチョップを決めて地面に沈める――ミツバ?
(え、ミツバ?ミズナさん?)
「ミズナ、おまえ保津に絡むキャラじゃないだろ?」
 どうした、と心配げに問いかけるミイナ。けれど、それにブランドル双子は首を振った。
「俺が、ミツバだ」
 そう言ったのは、保津にプロレス技を仕掛けた――少女の方だった。
「ミイナちゃん、あの――っくしゅん!」
「風邪?花粉症?というか、胸あるぞミツバ。それにミズナもなんか、変……っぐしゅ!」
「やば、ミイナに移った!」
 不審を指摘したミイナがくしゃみをした、と思ったら連続で繰り返し苦しげに体を折り曲げる。それに慌てる二人。
 いったいなんなんだ、と体を起こした保津がけれどやはり、くしゃみをする。
 そして、
「は、はぁああ?」
「何だそれは、ネタか?」
 ミツバとミズナに加えて保津とミイナの四人に、幡名は今日初めての言葉を放った。

●現場
「なんで幡名は変わらないんだっ!」
 そう、詰め寄られて幡名は美少年から美少女へと変化した、ミツバから視線を外した。
 前々から、男の娘だとは思っていたが、現在は正真正銘の美少女だ。ブランドル姉弟はもともと、顔立ちが似ている双子のなのでブランドル兄妹となってもあまり差異はないのだが――服装は男の時と変わらないのだから、少しは胸元を隠してほしい。
「状況がわからないんだが、たぶんマスクがあるからじゃないか?」
「マスク、ですか?」
 きょるん、と大きな目を潤ませて見上げてくるのは、ミズナ。かわいらしいし、似合ってもいるのだが……これもこれでダメな気がして視線を外した。――ところに、メロンを強制的に胸元に二つくっつけた保津のような、オカマのような物体がいた。
「おーまいっがぁあ!? 巨乳ちゃんですよ、幡名くん。保津峰子ちゃんダゼ☆」
「保津は中身を変えて出直せ」
 華奢な身体にぶかぶかの男性服、巨乳の女性。染めた短髪も似合うぐらいの容姿だ。顔が変わったわけでもないのにちゃんと女と見える。一見したならば女性と思い込むだろう。
 しかし、保津は保津だ。男でも女でも一言しゃべればそのウザさで人に嫌われるだろう。
 たぷんたぷん、揺れる胸元なぞ見ても保津と知っているだけに脱力だ。
 ため息を吐き、視線を反転させてミイナを見やる。
(……これは、なんというか)
「似合うな、ミイナ」
「ああ、だろ?スーツでも着てればもっと良かったな」
 身長もあって美人なミイナ。口調も凛とした空気も、男となった今の方が不自然でない気がするほどに自然体。
「しかしな、戻れないのは困る」


リプレイ本文


 犬乃 さんぽ(ja1272)は並木道を走っていた。
 金髪碧眼のセーラー服の美少女、に間違われる少年撃退士だ。
 並木道で発生した天魔事件。依頼に参加したさんぽは集合地点へと走っていたのだ。それに合わせてポニーテールが揺れている。
 さんぽは前方に複数人の影を見て、大きく手を振った。

「みんな、お待たせ……くしゅん」
 走る足を止めて、膝に手をやる。そして顔を上げる。
「大丈夫だ、おいらも今来た」
 赤褐色の肌に元気な笑顔を見せる、緑髪緑目の少年。
「そうですよ! 俺も仕度に時間がかかってしまい、今来たところなんです」
 あちらから、とさんぽが来たのとは逆方向を指さすのはアフロ頭の男性。170cmを優に超える身長にがっしりとした男性体型、を水玉ワンピースに身を包んでいる。
 服の生地が引き伸ばされてピチピチとしてる。加えてマスクも着用し、怪しさが満載。いや、ディスイズ変質者。
「息調えてからでいいんだがよ……改めて自己紹介しとこうぜ」
 顔見知りも初対面もいるだろ、と獣耳と尻尾を持つ全身黒の青年。顔の片側に大きな三爪痕が走っている。
「私は礼野 智美(ja3600)。ジョブは阿修羅です」
 黒く長い髪を朱色の紐でまとめている人物が言った。名前は女性のようだが、顔は凛々しく青色の瞳は目力がある。声も低い。男子制服を大人っぽい雰囲気で着こなしている。が、その手にあるのはどうみても草刈り鎌だ。
「点喰 縁(ja7176)、アスヴァンだ。今日はよろしく」
 ふわぁ、とあくびをしながら言う中性的な顔立ちの茶髪茶目の青年、縁。ラフな格好の胸元にクロスが光っている。
「カーディス=キャットフィールド(ja7927)、鬼道忍軍です。今日はよろしくお願いします」
 それまで読んでいた本をパタン、と閉じてお辞儀する英国風紳士。腰まである黒髪を三つ編み、いわゆるおさげにしている。眼鏡を付けた緑眼を笑みに細めて言う。
「いやぁ、久しぶりに着ぐるみを脱いだので少々肌寒いです」
 実はカーディス。普段は猫の着ぐるみ着用なのである。夏でも。今回の依頼は例外的に脱いできました。そして現在、シャツに上着、ズボンというなんということもない組み合わせだが――センス光る。いや、品位がある。これぞ英国紳士の本領発揮という格好だ。
「俺は天険 突破(jb0947)、阿修羅だ。今回の依頼、ガンガン攻めていくつもりだ」
 よろしく、と橙色のつり目を更に輝かせる、黒シャツに緑ジャケットの青年――突破。口元につけられたマスクによって声がくぐもっている。
「僕は天羽 伊都(jb2199)、よろしくおねがいします!あ、ルインズブレイドだよ」
 元気よく挨拶する、男子制服を着ている――伊都。男の子なのだろう。ショートの黒髪を耳の後ろあたりで纏めている。力強い、大きな黒眼が特徴的だ。後ろにキャリーケースがある。
「一騎 イェーガー(ja1796)。おいら、鬼道忍軍だ」
 緑の少年が言う。ちなみに服も緑だが首元のマフラーは黒い。さんぽが巻く赤のマフラーとは対照的である。
「犬乃 さんぽ。鬼道忍軍だよ、今日はよろしくね……くしゅん」
 セーラー服の少年、さんぽがくしゃみをしながら言った。
「そして私は田中 匡弘(ja6801)、脱サラして今は鬼道忍軍として撃退士を謳歌中ですよ」
 あっはっはっは、と陽気に笑うアフロ。基、匡弘。
「とりは俺か。ライアー・ハングマン(jb2704)――悪魔だ」
 ジョブはナイトウォーカーだぜ、と言って笑む三爪痕の青年ライアー。その拍子に、耳がパタパタと動いたのが見えて、悪魔という事実よりもそちらに注目してしまう。


「さて、最初に依頼内容の確認と討伐の方針を合わせておきたいのですが」
 智美が確認をするように目を走らせる。
「えっと、実は僕。悪い天魔が出たって聞いて急いで来たからまだ……」
 さんぽが目を伏せるのを見て、智美は一つ頷く。
「発生現場はここ並木道で、依頼主は学園の撃退士数名。敵の勢力・詳細は不明です」
「随分珍妙な依頼らしいですね」
 くしゃみで性転換とか昔の漫画にありそうですよね、とカーディスが苦笑した。
「……くしゃみ?」
 先ほどからくしゃみをしているさんぽが疑問符を頭に浮かべる。
「依頼主はこの並木道を歩いていて、突如性転換したようだぜ」
「マスクをしていた者のみ影響がなかったというから、口か鼻からの吸引によって効果が出るようだな」
 ライアーが笑いながら言うのに対し、至って真面目なように突破が言う。
「つまり敵は植物のような生体である可能性が高い、というわけですね」
 この時期ですし花粉でしょうか、と疑問するカーディス。手に持っていた本を再び広げた。その題名は、「春の植物大図鑑」――本物の植物と天魔を見分けるために持ってきたようだ。
「性転換作用のある花粉を出す推定植物の天魔、ねぇ……?なぜ作ったしと言わざるを得ねぇ」
 そんなディアボロを生み出した天使か悪魔とはどんなセンスをしているのだろうか、と呆れつつ これ以上被害が広がると流石にまずいと依頼に参加したのだが実際問題、久遠ヶ原での生活はすべてが非日常的がすぎて日常だと感じ始めている縁。
(なんか最近、何があってもあんまり驚かなくなっちまったなぁ)
「くしゃみで伝染するらしいですねぇ。犬乃さんのように」
 俺は幸いにも花粉症で苦しんだことはないですねぇ、という匡弘の言葉。
 しかし、当のさんぽはと言うと。
「え、え、えぇえええ!?」
 さんぽが自らの身に降りかかった出来事に気付いたのはその三秒後。

「ふむ、俺の嗅覚でも何も感じんか。空から樹上を探ってみるかねぇ」
「では地上は感知で探ってみましょう。点喰さん、後でお願いします」
「僕は探索に向くスキルがないから、地道に雑草刈りしようかな」
「私も草刈り鎌と高枝鋏を駆使して探索しようかと。天魔ならば切ることができないでしょうから」
 ライアー、カーディス、伊都、智美と作戦の話が続く中、さんぽは戸惑っていた。
(ぼっ、ボク、女の子になってる……)
 くしゃみで性別反転すると聞き、胸元を見下ろしたさんぽの眼に入ったのはしっかりと膨らむ、自分の胸元。それなりに大きい。
 一体いつからそうなっていたのか。思い返してみれば走っていた時にいつもより体のキレが悪いと違和感を自覚していた。
(こっ、これが女の子の体!?)
 恥ずかしい気持ちで顔が熱くなってくる。
(ボク今、花粉症の人の気持ちが分かった様な気がする……!)
 拳を握りしめ、瞳に力を入れるさんぽ。その心は敵天魔を根絶やしにすることでいっぱいだ。その実、美少年効果により対外的には大きな瞳がうるうるしているようにしか見えない。
(ボク、あいつらやっつけて、ちゃんと男に戻るんだもん!)
「みんな、あの、その……」
 モジモジしつつも自分が既に伝染していることを訴えかけようと思った。しかし、時すでに遅かったり。
「どうかした……くしゅん!」
 さんぽの様子に気が付いた一騎、くしゃみが伝染しました。


「え、えっとその……ごめんね?」
「……別に、いい。どうせ治るし、おいら、困ってる人ほっとけない。だからこの依頼受けた」
 依頼人と同じになっただけだ、と意気消沈しながら言う一騎。
 しかし、その姿は先ほどと同じ格好、同じ口調にも関わらず憂愁に顔を俯かせる緑髪の少女。赤褐色の肌が活動的に見せる一方で、ショートの髪が頬に掛かって薄倖そうな印象を型作る。何より、幼いからなのか胸元に膨らみは少ないがその声は破壊力抜群なロリっ子声。
 落ち込む一騎にオロオロとしつつも、同じ天魔被害者という同情が先立つさんぽ。
「元気出して天魔を対峙しよう!」
「気持ちはわかります。ええ、大いにわかりますとも」
「……前向こうぜ」
「ガンバッ!」
 伊都とカーディス、縁、突破と一騎へと励ましを遠くから声掛けた。
「倒せば治るんだし、落ち込まずともいいだろう」
 智美が堂々、二人の前に出た。それもマスクなしで。
(今更本当に男になったってそんなに変わるとは思えないし)
 胸はA以下、一見しただけでは男にしか見えず凛々しい容貌と低い声。そして男子制服を着用するフェミニスト(女尊男卑)。それが智美だ。
「最初から女装していれば性別反転恐るるに足らず、というわけです」
 私のように、と言って匡弘はワンピースの裾を摘んで見せた。
 一度、ヲーホッホッホッホとかやってみたかったんです――と言う匡弘はきっと最強に違いない。未だ、マスクは付けたままがっしりとした体格にワンピースをピチピチと身に着けている状態だ。
「まぁ、いいじゃねぇか。似合ってるぜ、可愛らしくって」
 ケラケラ笑うライアー。励ましているのかなんなのかわからないが、一騎は顔を上げた。
「おいら、似合ってる?」
 疑問を口にしながら、もう一度自分を改めて見下ろす。
(……なんか変な気持ちだ)
 自分であると思わなければ普通に可愛い女の子である。その事実にもやっとした気持ちながら、天魔を倒そう、と気分を変えてみる。

 並木道の中央でくしゃみを連発したと依頼人から聞き、そこを中心に感知をしていたカーディスは小さなくしゃみをして目を瞬かせた。胸に違和感を覚えたのだ。
「……点喰さん! こちらを確認お願いします」
 それに振り向いた縁が見たのは、スラッとした女性だ。いや、もとから柔和な雰囲気ではあったが今は出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んだモデル体型。高身長なところがさらにそれを加速させている。
「お、おぅ……炯眼!」
 眼鏡にぶつかりそうな長い睫毛に縁どられた眼が見つめていることに少し動揺しながら縁は指さされた付近をスキルで解析した。
 それはシロツメグサに似た、白く丸っこい植物。
「ニンジャの力でやっつけてやる!――英雄燦然ニンジャ☆アイドル!」
 アウルの力なのか、さんぽが言うが早いかその背後からスポットライトが当たり、主題歌が流れ、ローラースケートが装着される。それはすなわち変身ターン。
 今は体的にも美少女姿なので、美少女アイドルがその場に誕生した。
「行け、ボクのヨーヨー達……鋼鉄流星ヨーヨー★シャワー!」
 敵は倒された。


「ふぅ、これで完了か」
 そう言って、突破はマスクを取り外した。だが鼻がムズッとする。
「ハックショーン! 天険突美って呼んでねっ☆」
 用意周到な男・突破はしかし、ハクションスターの栄光とともにくしゃみをした。思わずモデルっぽいポーズで改名までしてしまう。その被害を受けたのは縁だった。
「うわ……姉さんそっくり……」
 胸元が控えめな小柄な御嬢さんと化した縁。木に寄りかかり凹む。どうやら、常日頃から恐れている姉に似ているらしい。
「悲劇はもう二度と繰り返さない……っ!」
 天険突破もとい突美が叫び、大剣を周囲の草に叩きつけた。それに皆の心が合わさった。
 ライアーはクレセントサイスを、伊都はエネルギーブレイドを、カーディスはグリースを、縁は薙刀を、匡弘はナインテイルを、智美は阻霊符を、一騎は打刀を、さんぽはヨーヨーを――叢へ向け、構えた。

 敵が倒され、花粉が空を舞う中――唯一マスクを着けていた匡弘は徐に、はぎ取る。そしてズオオッと勢いよく鼻から深呼吸。
「ヲーホッホッホッホ作戦は成功するためにあるのです。バッチコイ!」
 成功した計画に、るるるるる、と踊る匡弘。その際にワンピースのスカートがふわり、と空気を含む。
 先ほどまではピチピチすぎて破けそうだったワンピースが今は軽やかに揺れている。高身長は変わらず、声は若干の高くなったようだが女性としては低めのアルト。その髪型はなんと、アフロから緩やかな曲線を持つベリーショートへと変化した。
 今の匡弘は活動的で爽やかなワンピースの女性。怪しさがすべて払拭され、出るとこ出たモデル体型の女性――INおじさん。

「あーらら、もう戻ってしまったんですね」
 反転した姿で買い物とか言ったら面白いかと思ったのですが、と残念そうに言う匡弘。
「うぅ……なんでこんな恰好を――」
 赤いチャイナ服を着こなす伊都。吸い込んだ量が少なく、既に戻っているため胸元に膨らみはない。が、それでも似合いすぎている。女性化してすぐはキャリーバックから服を取り出し着替えたが、それは念のためのものであってハイテンションが落ち着いた今、嬉々として着た先ほどを思い出して赤面している。
 しかし、一方で長時間――より多くの花粉を吸いこんでしまった者たちもいる。
「ふむ……まぁ、悪くはないな」
 自分の顔や体を確認し、動きにくさを理解するライアー。服がきつくなってしまったのか胸元が異様に強調されている。しかし、彼がそれを気にするわけでもなく、
「さて、効果が切れる前に友人にドッキリでも仕掛けに行くかぁ」
 胸元の重さに平衡感覚を崩されながらも、どんな反応するか楽しみだ、とクスクス笑いながら飛び去ったライアーはともかく。
「汚物は消毒汚物は消毒汚物は消毒……ああ、着ぐるみを着てしまいましょう。そうしましょう」
 呪詛のような言葉を呟いていたかと思うとすっきりした顔で猫の着ぐるみを重ね始めたカーディス。
「ふっ……中国にあるという泉を目指して旅立つか」
 突美の眼が遠い。泳いで海を渡りそうな勢いだ。
「おいら、女の子になっちゃった……」
 呆然とベタなことを呟く一騎。先ほどからなっていたのだが、トイレで実感させられた。
「おいら、何か大切なものを失った気がする……。母ちゃん、姉ちゃん――」
 ビデの洗礼は小学生の男の子にはダメージが大きすぎた。実家の家族を思い出し、郷愁を抱く一騎。

 智美はというと――
「花粉というのは荒地整備をしていないのが原因であって、故に田舎よりも都会の方に集中し成人や社会人に多い現象なんだ。だからここの整備を……」
 田舎育ちゆえ、花粉に詳しくそのうんちくを学園に依頼完了の報告がてら電話口に伝える。その手には持ち帰ってゴミの日に出すらしい、雑草の入った袋。天魔自体は火炎放射器を握ったカーディスが若干暴走しながら焼き尽くした。
 彼女が男性から女性へと戻っているのかどうか、それは外見からは全く予想がつかないのだった。
 そして、セーラー服の美少女・さんぽ。彼女がきちんと戻っているのかどうかも怪しい所である。
「ボク男、男だからっ……もう、ちゃんと元の体に戻ってるもん」

 天魔の能力は性別転換。その効果は口と鼻からの吸引により、その継続時間は――吸い込みの量にも関わるが、個人の体質ももちろんある。
 一体いつその効果が切れたのか、それはまた別の物語であって彼らがそれまでの生活をどうこなしたかは……ご想像にお任せしよう。
                  ――依頼人兼記録者・久遠ヶ原撃退士幡名永時

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
『天魔大戦』参加撃退士・
一騎 イェーガー(ja1796)

高等部1年5組 男 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
にっくにくにしてやんよ・
田中 匡弘(ja6801)

大学部9年193組 男 鬼道忍軍
猫の守り人・
点喰 縁(ja7176)

卒業 男 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー