●侵攻
骸骨型ディアボロ――通称ホネッキーが寮に大量発生したという知らせを聞いて飛んできた撃退士たちが目撃したのは群をなす、敵。
一縷の乱れもなく、整列し、直進する様は彼らを圧倒する。
深森 木葉(
jb1711)は思わず息をのんだ。――家族を天魔との戦いで失った彼女にとって天魔は憎むべき対象だ。人前では明るく振舞っていても、目前のそれらは禍根を残す相手だ。ギリッと歯を食いしばり、今にも口を吐きそうな言葉を飲み込んだ。
「ふむ、見るのは初めてですが……これは、できますね」
冷静に、感想を漏らしたのは火鉈 千鳥(
jb4299)。
「とある映画の巨人兵みたいですね。倒されたら『早すぎたんだ!』とか言われそうですし……」
真野 智邦(
jb4146)が苦笑しながら千鳥に同意する。
「おいおい、何で寮生が動いてねぇンだよ。こんだけ可笑しい状況だってぇのに」
ライアー・ハングマン(
jb2704)が言った可笑しい状況――それは、もちろん、整列し汽車ポッポを繰り返すホネッキーたちのことだ。どっから持ってきたのか、あるいは持参したのか、縄を使用しての行進である。
アイリス・レイバルド(
jb1510)も現場に来るまでは明らかに侵攻されている状況でなぜ寮生が動かないのかと思っていたが、
(――心霊現象?)
珍事・衝撃映像の大好きなアイリスとしては好奇心をくすぐられる光景であることだけは間違い。そのまま突撃しないことを鑑みれば、多少の自重が効いているらしい。
「……どうして掘り当てた骨がディアボロなのかしらね……」
紅 アリカ(
jb1398)が呟くが犬が骨(コッソリ学園に侵攻中)を見つけるのは当然だ。
「骸骨ってそれだけ見れば素晴らしい自然美だよね」
いいなぁ、と呟く和泉早記(
ja8918)。奥ゆかしい態度がいい、とおっとり→ウットリ。
彼にとってホネッキー自慢の白い肌は理科室に飾りたくなるほどらしい。世間知らずのお坊ちゃん育ちのためか、たまに常識がズレているところがある――。
そんな早記と勝るとも劣らない熱視線でホネッキーを見つめるのは雫(
ja1894)。
無口のためなのか、感情を表に出すことが滅多にないからなのか、動物=食料という考えが伝わっているのか……動物が好きなのに怯えられてしまう。
彼女にとって今回のホネッキーは――自分を怯えるか、怯えないかそれだけの価値判断である。彼女にとっても瀬戸際なのだ。
動物には好かれなくとも、せめてディアボロには……ぶっちゃけ、敵で生物と称すには肉も体もないのだが、彼女の夢は自分に懐いてくれる生物を飼うことである。
「流石にホネッキーまで怯える事なんて無いですよね……」
ふふ、ふふふふ。
若干、黒々しい笑みを口に乗せる雫。
「うーん、あいつらやっつけたらミシェルさん、武士郎くんを抱っこさせてくれるかなぁ……」
敵を倒す意味をもはや、変えてしまっている神野コウタ(
jb3220)。ある意味、一番好戦的だ。
「何はともあれ、敵はこちらに気づいてないようですから早めにバリケードを作ってしまいましょう」
いろいろな思惑ある彼らをまとめたのは水城 要(
ja0355)。男の子なのに、腰まである長い髪と容姿・身体つきも相まって、一見すると女性に間違えられる。
彼よりも彼の周囲がギャグ化するという特徴を持つ男の娘である。ボケが多すぎて飽和状態になりやすい学園で貴重なツッコミ(若干天然交じり)である。
ちなみに、普段はツッコミである人物もボケへと変換してしまうのが今回の敵ホネッキーの侮れない能力である。
●作成:バリケード
敵が寮目前に大量発生しているのは事実である。
例えホネッキーが、戦闘意欲があるかどうかも疑わしいような行動をとっていても、防衛戦であることには違いない。
寮を守ることを優先し、防備としての戦力を残しつつバリケード製作に入った。
「放送を流してきます」
寮監室の放送機を借用して雫は寮内部にホネッキーの襲来を伝達する。
寮生が表に出てこないのはホネッキーの襲来に気づいていないからと信じたい。いくら馬鹿馬鹿しいとはいえ、撃退士として撃滅すべき責任がある。まずは協力――戦力を求めるのが常套だろう。
しかし、寮生からの反応はない。呼びかけで出てくるようならば最初から他の寮生に依頼届けは出されないだろう。
「うん、ほら、皆留守だったんだよ……」
早記は妙に遠い目をしながら、拳を握りしめフルフルしている雫に言う。本来なら、肩でも叩いていうところだが早記の場合においてはノータッチ。これは変えられない前提である。何故か、は謎。
「ったく、仕方ねぇ、いる奴だけで何とかするしかねぇか」
呼びかけの成果がないことを悟ったライアーは次の行動に移るべく、バリケードの材料集めに入る。寮内を物色……いや、借用するだけだ。緊急時だから、無断だが決して他意はない。見た目がいかに不良だろうと、それは理由ある行動である。
だが、そんな時だけ寮室から顔を出す寮生――視線が痛い。
ライアーは何事もなかったかのように自動ドアをすり抜け、寮から外に出ると防衛陣に加わる。
「バリケード完成まで時間稼ぎと行きますかね」
バリケード製作から防備へとシフトチェンジ☆
アリカは真面目に警戒していた。
「……これだけ数が多いなら、少しでも消耗を抑えないとね……」
遊んでいる(風にしか見えない)骸骨を前に冷静に、分析をして効率良く大量破壊を行う術を考える。
(団体で連携してくるというのなら各個撃破で答えるべき――)
冷静に分析していると見せかけ、実は「習うより慣れろ」タイプである彼女は接近戦で遊撃しつつ確実に仕留めるようだ。――その思考の先はかなりエグイ。
いや、敵は天魔である。それぐらい当然である。こちらを馬鹿にしているように、人の領域で遊びまわっている敵が悪いのだ。
「しかし、見事に女性だけ避けるわね……。でも、ここから先は通行止めよ。通りたいなら通行料は……高くつくわよ」
寮癖に取り付こうとするホネッキーを刀で払い落すところから始めた。
「ふむ……」
アイリスはカオスレート的にも心情的にも囲まれたくないので、敵から距離を取ろうと心に決める。
一方で好奇心がものすごくくすぐられていた。敵の出現パターンが嫌に目につく。地面から出てくるというのがやけに控えめで、奇襲をかけるというよりも……
「駄目だな、すごく試したくなってきた」
不意の考えを実行すべく、星の輝きの照準を敵に絞る。
「これは……っ!」
片腕を頭の上にあげ、まぶしいとでも言いたげ……と思えば、もう一方の手を腰に当てて、ポーズ。
「小心者が数を頼って気を大きくしているのかと思ったが……まるで自分は女優だといいたげじゃないか」
ライトアップをされてポーズを決めてくる闇の眷属(ディアボロ)。違う個体にも試すと一目散に木の影へと隠れて、チラチラと見てくる。――恥ずかしがっているのか。
「ディアボロにも個性が……? これは観察するしかないな」
次はカメラに反応するか試してみよう、と戦闘よりも実験にのめり込んでゆくアイリス。衝動のままに追いかけ始めた。
その様子に、木葉は耐えることを放棄した。
素早く懐から炸裂符を用意、敵に攻撃を開始する。
無言で、しかしゴゴゴゴゴ、と背後に青い炎を背負っての戦闘開始。
天魔は彼女にとって復讐対象だ。だからこそ、その思いは激しい。
(敵に潜入を許したどころか、こんなギャグ――!)
一人、本気戦闘(マジギレ)に入りました――。
●防備が完璧すぎる
慌ただしく、バリケードの材料を運ぶ木葉。先輩たちの指示に従って机・椅子を運び、段ボールを自動ドアに貼り付けようとして……
「どなたか自動ドアの電源きってくださぁ〜いっ」
開閉をひたすら繰り返す自動ドア。電源を切るという話は出ていたのだが、順序を間違えたようだった。
「え?これも使え、と……?」
要があるものを手に、戸惑いの声を上げた。
ヒリュウ(さくら2号)とともにバリケード作成中のコウタ。寮のあちこちから物を持ってきては、先輩たちに渡している。背が届かないので、実際に積み上げるのは任せているのだ。
なのだが。
「だめ、なの?」
先輩(要)を見上げるコウタの目は真ん丸で純粋。効果音は「きょるん」
「いえ……」
無邪気な小学生を前に要は口をつぐんだ。
(幾ら何でも良いとは言え、ぬいぐるみはちょっと……)
ぬいぐるみを脇に避けて設置。文句は言われないだろう。何も、ネタを持ってくるのはコウタだけではない。
ぼけーっとして見える智那はここで頑張っていた。バリケードの材料集めのため、ロビーのソファーや机、マット・金網・三角コーン……
「ってコーナーポストはやりすぎでしょう!」
要が慌てて止めに入る。いったいどこから持ってきたのやら……返してきなさい、と言われて素直に帰しに行く智邦。
要はツッコミ疲れを感じ、目前へと顔を向け――頭蓋が飛び交う、男子寮前。
(ああ、眩暈が……)
唯一、他のメンバーたちのボケとツッコミに巻き込まれずに済んでいるのは黙々と作業をこなす千鳥。
「……ホラーは苦手ではありません……」
移動力を生かして、千鳥は走り回る。
漆黒の大鎌と棘の付いた鞭によって追い立てられ、逃げる骸骨。一瞬にして飛散する、骨の欠片。白がキラキラと真昼の陽光に輝きながら散り、消えてゆく――。
ホラーだ。作り出している光景がある意味ホラーだ。ホラー以外の何物でもない。
●ようやく戦闘へ逝こう
「しかしあの依頼届け……随分と敵の詳細なデータが書かれていましたね」
要がそういうのも無理はない。敵の得意攻撃や行動パターンが仔細にわたって書かれていた。今回の敵である骸骨型ディアボロは通称ホネッキーと呼ばれ、
「てそこがおかしいですよね。通称がつくディアボロって……」
敵は地面から出現し、頭蓋投げを得意とする。また、抱きついてきたりする。
「しかし……見ている分に「彼女ら」と言うだけあって男性ばかり狙われているような――」
近くを通り過ぎるホネッキー。彼女の追う先には、ライアー。
「あの……僕も男なのですが」
ちょいちょい、と自分を示してアピールする要。
ちらっ
じぃい――――ぃい。
ぷい。
「って今のなんですか! 振り返って見つめるまでしておいてなぜ無視を……!」
要の主張に対して、ホネッキーが取った次なる行動とは……
かきかき。
「自分より綺麗な男には興味はないのよ」(地面に書かれたホネッキーからのメッセージ)
「ま、負けました……」
がっくり、膝を落とした要。
ホネッキーからの負け宣言に対し、心が真っ白。
そして次の瞬間、覚醒。
シルバートレイを握りしめ、――飛び交う頭蓋を狙い撃ち☆
「おぉ、ホームラン!……次は右!え、左?」
コウタはさくら2号と名付けたヒリュウと連携プレーで皆を支援、ホームランの指示を与えていた。共有視覚を駆使したものだが……当てになるかは別である。
その隣で、智邦は名刺交換をホネッキーとしていた。なんだか、お見合いのような雰囲気を辿りつつ……も、彼は撃退士である。
名刺交換をした相手には丁寧に、戦闘の相手をお願いしている。ちなみに、名刺の中身は名前(ホネッキー)と職業(ディアボロ)だ。
撃退士たちをあらゆる意味で倒していたホネッキーたちだが、一方で後退を余儀なくされているホネッキーもいる。その前には雫。
「――なぜ、逃げるのですか。他の人たちと同じように抱きついて見せればよいのでは?」
疑問のようであって、疑問ではない。
ホネッキーは肉がないので骨をカチカチと震わせ、団子のように身を寄せ合っている。
「……悪戯が過ぎる様ならスープの出汁にしますよ」
ほら、と手を前に押し出しながら踏み出す雫。比例して震えは大きくなってゆく。
カチカチ→ガチガチと本気で怯えているホネッキー。
ぴた、と雫は足を止めた。だが、油断するのは早い。
「なるほど……正に骨の髄まで嫌われている訳ですね」
わかりました、と自己完結させた雫は手に持っていた頭蓋を片手で握りつぶす。
あまりにも惨いそれに、死んでいるのに昇天し始めるホネッキーたち。
本来ならば、頭蓋が砕かれたとしても頭は残っているので動けるし生体反応(笑)も残るのだが、文字通り、灰となって消えてゆく。自殺(自己消滅)――いや脳死(笑)だ。
人は脳で感じたことを肉体にもフィールドバックさせてしまうというから、頭蓋が粉砕されたことで死亡(存在の消滅?)を感じ取ってしまったのだろう。
声無き声で悲鳴するホネッキーに仲間の危機を感じ取った頭蓋が自らその間に割り込んだ!――頭蓋だけ。
どこからともなく投げつけられた頭蓋。
けれど雫はフランベルジュで打ち返したぁああ!!飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ!どこまで行ってしまうのかぁあ!
寮の壁の高さを越えてもその勢いまるで衰えず、高く、高く――
「ホームラン……」
その後の雫は破壊神が降りてきたようだったという。
それまで、大量のホネッキーにほぼ一人だけ追いかけられていたライアーは頭蓋が宙を飛びかい始めたのをきっかけに足を止めた。
「そんじゃまぁ俺の思いも受け取ってくれや」
と、言いつつ飛び掛かって来たホネッキーをサラリと躱す。しかし、その一瞬の間に、体の上に据えられていた頭蓋を手に取っている。
「拒絶で悪いがね、あとはあの世で頑張ってくれ」
皆にならって、ホームラン!
それまで、抱きつきの被害を免れていた早記に(悪)魔の手が伸びてきていた。
寮を守るという作戦上、防備陣から離れることなく寮壁近くにいた早記。地道に、仲間を襲うホネッキーの戦力を減らしていた。
防衛に徹していたはずの仲間が戦闘に夢中で寮から離れてしまっても、彼は防衛ラインに穴が開かないよう、必死に一人で寮付近に配置していた。これをボッチとたまに人は言うかもしれない……。
(いや、いいんだ。接近戦は願い下げだしさ)
だが、そんな彼にも歩み寄る影が――ホネッキーである。
「スキンシップは苦手なので……いや、無かったね、スキン」
ボッチでなくなったことにありがたい、なんて思わない。敵は倒す。というか、近寄らないでほしい。心から思う。なので、
「燃やして灰を撒いても、花、枯れそうだけど」
フレイムシュート。燃やす。敵は燃やす。感傷も何もかも燃やし尽くす。こちらも実は破壊神が……忙しい。
戦闘は長く続いた。ホネッキーは逃げたり追いかけたりで少しずつしか減らなかったためだ。そして、それよりも長く続いたのは雫の説教。
戦闘時に出てこなかった寮生への、苦情――交じりの、切々とした愚痴。
ホネッキーにまで怯えられたのは精神的に堪えたらしい。ちなみに、その横で他のメンバーは武士郎をかわいがっていた。特に、八一郎が武士郎へとアタックするのに気付かないコウタは嫉妬されていた。