収穫祭の1週間前。学園からの参加者に集まってもらい、顔合わせを兼ねた打ち合わせを行った。
「今回は、お祭りのために参加頂きありがとうございます!」
巫女樹蘭月(jz0116)が神社の本堂に集まった8人に深々と頭を下げる。
「Non、Non! 気にしない、気にしない! 神社! Japaneseミコ! Yes! 日本文化って感じでワクワクするよ! 目一杯楽しんで楽しませるぞー!」
アメリカ人のAlba・K・Anderson(
ja9354)が陽気に言うと、ドイツで生まれ育った御守陸(
ja6074)も頷く。
「僕もお祭りって初めてです。楽しみです!」
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ、祭りを盛り上げろとボクを呼ぶ! そう、ボク参上!」
そう言って両手を突き上げたイリス・レイバルド(
jb0442)のテンションの高さに皆が笑う。
「時間に余裕があったら神儀のお手伝いもしますから遠慮なく言って下さいね」
「わ、わたしも、お手伝い、で、できます」
実家で巫女を務めているという天之御中(
jb0584)と久遠寺渚(
jb0685)の申し出には、蘭月の父親の方が、華が増えると大いに喜んだ。
商店街の代表者たちとも顔合わせも終わり、それぞれのアイデアで出店することに決まった。
学生たちから提案された景品クジ引きと打ち上げ花火の案もOKが出た。自分たちのアイデアが採用されて学生たちは皆でハイタッチをして喜んだ。
それから収穫祭までの放課後は、三剣神社に集まって祭りの準備をすることになった。
蘭月も一緒にクジ引き用の引換券作るのを手伝っていた。秋に因んで楓の葉の形にするのだ。
「にゃん、にゃん、みゃーこ♪ マジカルみゃーこ♪」
上機嫌で綿飴用のビニール袋に絵を描いているのは猫野宮子(
ja0024)だ。その絵は自身のキャラである魔法少女マジカルみゃーこや猫の絵だ。
「可愛い! 猫好きなんだね!」
出来上がった袋の絵を見て蘭月が言うと、宮子はウニャと笑う。
「大好きなんだにゃ! 猫は最高にゃ!」
その横では犬乃さんぽ(
ja1272)がお店に掲げる看板を作っていた。その看板には、
「ヨーヨーチャンピオンのお店? 犬乃くんってヨーヨーのチャンピオンなの?」
「そうだよ! 祖父の代から親子三代続くチャンピオンさ!」
さんぽは、ポケットからヨーヨーを取り出すと、高難度のトリックを難なく決めてみせた。
和気藹々と談笑しながら作業を進めていると、悲鳴のような声が上がった。
「え、ええぇっ! や、屋台で、お祭りで、売り子ぉ!」
渚があわあわとしながら、隣で彫刻のように姿勢の良い青戸誠士郎(
ja0994)を見上げる。
「まあ、それはそうだろ。店の手伝いというのには、そういうのも含まれるんじゃないか?」
「ひっ、人前恥ずかしいとか、そそそそそんなレベルじゃないですよ?!」
「あがり性なのか?」
「は、はい‥‥ でっ、でも、あっ、あがり症のあら、荒ら療治にはいい、かも‥‥?」
収穫祭の前日。会場の設営と仕込みの準備が始まった。
食べ物系の屋台の者は炊事場で下拵え。
焼きそばの屋台を担当する誠士郎は、キャベツやニンジンを慣れた手つきで切っていく。
「うむ、どのくらい切っておけばいいのか‥‥ さて、ニンジンは軽く湯通ししておくか」
そこへ大きなダンボールを抱えた陸が入ってきた。
「よかったー 間に合ったよぉ。ドイツの親戚にお願いして送ってもらったんです!」
箱を開くと、真空パックされたソーセージが大量に入っている。陸はフランクフルト屋の担当だ。
「これが、ブラートヴルストです。フランクフルトもいいけど、カレーヴルストにするならこれでなくちゃ!」
「カレーヴルスト?」
「焼いたソーセージにケチャップとカレー粉を載せるんです。簡単だけど美味しいんですよ!」
「それは美味そうだな。明日は是非食べてみたいな」
「はい! もちろん皆さんにもご馳走しますよ!」
焼きトウモロコシ屋を担当する渚は、皮付きトウモロコシを大鍋に入れて軽く塩茹でしていく。
決め手のタレも自作。濃口醤油1、味醂1、日本酒1、ざらめ1の割合。
「タレは重ね塗りして焼くのが美味しいから、多めに作っておかなくちゃですね!」
他のメンバーは会場でそれぞれ担当の屋台作りを手伝っている。
アルバは射的屋だ。屋台に奥行きを持たせて的を置く段を雛壇状に設置する。
最上段に目玉商品を置くようにするが、景品そのものを置けないので的になる箱を作る。
「軽過ぎてもNo! 重過ぎてもNo! 簡単には落ちないけど、頑張れば落ちるかもって思わせるのがmisoね!」
イリスはもぐら叩きゲーム屋だ。ゲームセンターによくあるようなもぐら叩き機だが、イリスは付いているモグラの人形を外して別の人形に付け替えている。
「さぁ、取り出したるは世にもキュートなイリスちゃん人形! そう、四角いゲームフィールドの中で戯れるボク可愛いっ」
御中は的当てゲーム屋。着ぐるみを着て自分が的になる予定だ。商店街の人に頼んで揃えてもらったパンダやウサギ、クマなどの着ぐるみを並べて御中は腕組みをする。
「さて、どれにしましょうか‥‥ でも、せっかく持ってきてもらったので、順番に全部とか‥‥」
そして収穫祭の当日。秋晴れの気持ちの良い朝を迎えた。
「んんーっ! 晴れたね! よーし、ばっちり綺麗にするよ!」
いつもより気合を入れて蘭月は境内の掃除を始める。
普段と違うのは、本堂へ続く石畳に出番を待つ屋台たちが並んでいることだ。蘭月は胸のワクワクを押さえながら箒を掃く手を速めていった。
午前8時になると、屋台担当の商店街の人たちと、学園のみんなが集まって、いよいよ本番の準備が始まった。
蘭月も巫女衣装に着替えて、両親と奉納の儀の準備に掛かる。
8時半頃になると、町内会の役員や、農家の主だった人達が収穫した物を持って集まり始める。
「天之さん、久遠寺さん。ごめんね、手伝わせちゃって」
蘭月は、父親の我が儘で手伝うことになった御中と渚に申し訳なさそうに言う。二人は三剣神社の巫女衣装をきて来客にお茶出しをしてくれていた。
「大丈夫ですよ。私のお店は準備するものがほとんどないですから」
「わ、わたしも、できるだけ作りおきは、し、したくないので、時間あるから‥‥」
「それに、他の神社の巫女衣装着られることなんて、滅多にないですから」
そう笑って言う御中に、渚もうんうんと頷く。
「ありがとう! 実は、いつもよりお客さん多くて大変だったんだ」
9時からの奉納の儀は、本堂で厳粛に執り行われた。
屋台で手の空いた者も参加したため、小さな本堂もあっという間にいっぱいになる。そのためか父親の祝詞奉上もいつもより気合いが入ったものになり、脇に控える蘭月は笑いを堪えるのが大変だった。
滞りなく奉納の儀も終わり、いよいよ縁日が開始となった。
最初は疎らだった客足も、お昼近くなると徐々に増え始め、客引きの声にも気合いが入る。
宮子も魔法少女になって店先に立つ。来てくれた人がいっぱい楽しんでくれるといいな!
「それじゃあ、魔法少女マジカル♪みゃーこ。お祭りバージョンの出撃にゃ♪」
浴衣に猫耳尻尾、にくきゅうグローブ、にくきゅうブーツ。
「いらっしゃいにゃ♪ こっちは猫の綿菓子屋にゃよ♪」
店先で客引きを始めると、たちまち小さい子供たちが集まってきた。
「わーっ、猫娘だー」
「ち、違うにゃ。マジカルみゃーこだにゃ。妖怪じゃないにゃー はい、にゃーこ綿菓子。それと、これはクジ引きの券なのにゃ。3枚で一回クジが引けるにゃよ。
あれ、こっちの子は何で泣いてるのにゃ? 迷子かにゃ? ちょっとお店のほうお願いなのにゃー」
そう言って宮子は迷子の手を引いて本部へ連れて行く。
猫綿菓子の隣は犬乃のヨーヨー屋。店先の棚には様々なヨーヨーが飾られている。
水風船のヨーヨー釣りの水槽の横には、浴衣コンテストで貰ったマメ柴のヌイグルミが飾ってある。
お祭りを楽しみにしてた子供達や町の人に思いっきり楽しんで貰いたいな!
「さぁさぁ、ヨーヨーチャンピオンのヨーヨー屋さんだよ、みんな、見て遊んで行ってよ」
さんぽは歌って踊りながら、得意のヨーヨー技を披露する。
「犬の散歩から、必殺ニンジャギャラクシー!」
大技を決めると周りで見ていた客から拍手が上がる。子どもたちも、すごいすごいと大喜びする。
更にヨーヨーで水風船を器用に釣り上げて、ビシッと決める。
「コレさえあれば、キミもヨーヨー名人だよ!」
「おねえちゃん、すごーい! かっこいいぃ!」
子供たちに褒められたが、さんぽはガックリと肩を落として真っ赤になる。
「そっ、そのボク‥ 男だから‥‥」
その向かいは、アルバの射的屋。軽快なトークでお客を楽しませていた。
的を並べた棚の奥には豪華な景品が飾られている。目玉の景品は、大きなヌイグルミや、携帯ゲーム機、流行のトレーディングカードゲームのデッキ・パックに、COOLなモデルガンなど。
他には小さめなヌイグルミや着せ替え人形、流行のヒーロー変身ベルト、ちょっと懐古的な野球選手カード、クジ引き券5枚、お菓子の詰め合わせ袋など、子供が喜ぶ物がたくさん用意されていた。
「ああーっ! くそっ! また駄目だっ! もう3回目だよ! ちょっと、これ、ほんとに落ちるようになってるのかよ!?」
携帯ゲーム機の的を何度も挑戦していた高校生くらいの男子が難癖をつけてきた。アルバはそれに笑って答える。
「No! No! 落とせない仕掛けなんて無いよ! OK! ちょっと、お見せするね!」
そう言うとアルバは店の前に回って、高校生が使っていた銃にコルクを詰める。
だらりと銃を下げた状態から早撃ちで一発。携帯ゲーム機の的に当たって、的の箱が大きく傾く。続けて2発Shot!
狙い違わず全弾ヒットして的が棚から落ちた。おおー!とお客がどよめく。高校生も呆然と落ちた的の箱を見つめている。
「ホラ落ちた! 君もイケる、きっと大丈夫! Yes、You Can!!」
客の相手をしながらアルバも一緒にはしゃいじゃいたいと思う。
俺もあとで綿菓子食べたいなあ。でも、皆が楽しめたなら尚HAPPYさ!
正午を過ぎてご飯時になると、食べ物屋も大忙しだ。
「いらっしゃい、いらっしゃ〜い。焼きそばが出来立てですよ〜」
誠士朗はいつもの着流しに法被、たすき掛け&鉢巻のお祭りモード。
焼きそばのメニューはオーソドックスな豚肉入り焼きそばとオム焼きそばの2品。ソースは専用ソース。お好みでマヨネーズか辛子マヨネーズ。
せっかくのお祭り。楽しいものになるように微力ながらお手伝いさせて頂きます。
「オム焼そば2つですね。今できますからね。少しお待ち下さい。マヨネーズは掛けますか?
‥‥はい! お待たせしました! それと、クジ引きの券です。当たるといいですね」
陸のフランクフルト屋も特別メニューのカレーヴラストのおかげで盛況のようだ。
「本場ドイツの味ですよー、おいしいですよーっ」
取り寄せたブラートヴルストの焼ける匂いとカレー粉の匂いが食欲をそそり、お客が途切れる間もない。
「有難うございましたっ。本部のほうでクジ引きやってますので、良かったらどうぞっ」
昔は体が弱く、撃退士になってからは修行と戦いの日々だった為、陸は祭りはこれが初めて。
なので、客として回ってもみたいと思う。特に射的とかやってみたい。綿菓子とかも食べてみたい。
(お客さんが途切れたら、ちょっと回ってみようかな‥‥)
渚の焼きトウモロコシ屋からも良い匂いが漂ってくる。
素焼きして少し表面に焦げ目がついたら刷毛でタレを塗る。重ね塗りは3回。しっかり味を染み込ませるのだ。
湯気がこもってぐちゃぐちゃになって美味しくなくなってしまうので、ラップで包んでの作り置きはしていない。だから、お客さんには少し待ってもらって、作り立てを渡している。
「お、お待たせしました! や、焼きたてで、熱いから、気をつけて下さいね。あと、これ、クジ引きの券です。あ、ありがとうございました!」
渚は人見知りが激しく、最初はあわあわしていたが、徐々に慣れてきて物怖じしなくなってきた。荒療法の甲斐があったか。
イリスの、モグラならぬイリス叩きのお店も盛り上がっている。
「ピコハンで可愛いイリスちゃん人形をピコピコたたくゲームだよ! どうだいお兄さん、1プレイ。
ゲーマー心をくすぐるナチュラルハードモードだよッ♪
ノーミスだったらちょーっと無理した豪華景品が君のもの!
更にっ1プレイ毎にクジ引き券もつけちゃうぞー!」
ノリノリの外人の女の子がやっているためか、男性客が多いようだ。
だが、ゲーム難度は高めでなかなか高得点が出ない。
日本的祭りって全然知らないけどそんな事知ったことかーっと、思いつつイリスは場を盛り上げる。
楽しければ勝利っ 楽しければ正義っだよね!
「おしい、47P! じゃあ4番のグループから好きな景品を取ってね♪ あと、これクジ引き券ね。
いやーなかなか高得点が出ないね。そろそろ猛者が現れてほしい気分!
お、お兄さんいい闘気だね。ここは妥協しないゲーム性が売りだよ、やってく?」
御中の的当てゲーム屋は小さい子供たちで賑わっていた。
タヌキから、パンダの着ぐるみに着替えた御中が的を抱えてヒョコヒョコと動くと、それに向かって子供たちがゴムボールを投げる。
ボールが当たると派手なリアクションでガオーっと叫んで動きを速くしていく。大人相手には景品が出過ぎないように撃退士の身体能力で適度に回避してバランスをとる。
「おしいです! がんばって! ガォー! 当たったね! はい、じゃあお菓子セットですね」
客が途切れたところで、御中は着ぐるみの頭を取って水分を補給する。
秋になったとはいえ、着ぐるみはさすがに暑いですね。でも子供達に楽しんでもらうために頑張らなくては。
午後も3時を過ぎると客足も落ち着いてきた。
蘭月と学園の生徒たちも手の空いたところで屋台を廻って、自分たちも存分にお祭りを楽しんだ。
午後5時。縁日も終了して奉納の舞。儀式用の巫女衣装に着替えた蘭月が、松明で照らされた神楽殿で粛々と舞う。
三剣神社の名前に因んだ剣舞だ。薙刀が振られる度に付けられた鈴がシャンシャンと鳴り響く。
舞が終わると一瞬の静寂後、拍手が鳴り響いた。舞台上の蘭月も照れ臭そうに深々と頭を下げる。
アルバたちも惜しみなく拍手を送る。
そして最後の花火。蘭月も合流して9人は夜空の花火を見上げる。
「楽しく盛り上がったようで何よりだ。今度は客として来たいものだな」
「もう終わりなんですね‥‥ なんだか、あっという間でした‥‥」
「そうだね‥‥ でも、とても、とっても楽しかったです。皆さん、本当にありがとうございました!」
みんなのやり切ったという思いが、夜空で光の華となって弾けていった。