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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/05/12


みんなの思い出



オープニング


 市街地から外れた山岳地帯にそびえ立つ、洋館。そこでは一人の年老いた男性と、その孫娘である少女が暮らしていた。
「おじいちゃん、何で私は外に出て遊んじゃダメなの?」
「それは、危ないからだよ。外には、お前を狙う悪い怪物が沢山居るんだ」
 洋館の一室で男性にそう問いかけた少女は、その答えを聞き、表情を曇らせる。
 この少女は本人こそ気付いていないものの、内に秘めたるアウルを覚醒させており、それによって引き出された並々ならぬ身体能力に目を付けた天魔達が、彼女の事を狙い洋館近辺を徘徊しているのだ。
「ふぅん……でも、おじいちゃんと此処に来るまではそんな事無かったよね?」
「ああ。あの時は、まだ……平和だったからね」
 何も知らない少女の言葉に、男性は視線を宙で彷徨わせた。
 ――この少女は、自分がアウルを覚醒させた時の記憶を失っている。それ故に、何故自分がこの洋館で男性と二人だけで暮らしているのか。何故自分は洋館の外に出る事が出来ないのか。その理由を知らないのだ。
「じゃあ、今は平和じゃないの? 教えてよ、おじいちゃん」
「はっはっは、私と居る限りは大丈夫だよ。この洋館の中に限っては、平和だからね」
 男性は笑いながら少女の頭を撫で、好奇心にも似た疑問に突き動かされている少女を落ち着かせて。
「……しかし、その平和もそろそろ危ういのかもしれないね」
 意味深にそう呟いた男性は、自分が今向かっている机の中から一通の手紙を取り出し、それを机の上に乗せた。
「良いかい? 私が戻ってくるまで、この部屋を絶対に出たらいけないよ。私はこれからお前を狙う悪い怪物達と話し合って、色々とお願いをしてくるから」
「うん、分かった」
 少女は何も知らないからこそ、この状況下でも男性の指示に従うのだろう。
 ……アウルを覚醒させていない人間が正面から天魔と話し合えば命が危ういという事ぐらいは、普通の人間であれば小学生であろうとも簡単に察しが付くのだから。


 洋館、ロビー。男性が視線を向けた先には、近代的な兵器で武装している、三体のサーバントが立っていた。
「……殺すなら、私を殺せ。あの子は……あの子だけは、絶対に渡しはしない!」
 男性がそう声を上げると、サーバントの内の一体が男性に向けて銃を構え、そして引き金を引いたのだった。


リプレイ本文


 五月某日、洋館の正面玄関前。空は分厚い雲に覆われ、洋館周辺は言葉に出来ないような緊張感に包まれているが、そこには一夜陽子救出任務を受けた、六人の撃退士達が集まっていた。
「行くぞ。戦闘は予め打ち合わせしておいた通りで頼む」
 他の撃退士達に向け、ドアに手をかけながら呼びかけたのは、鬼塚 凌空(jb9897)だ。
 鬼塚の隣で突入する為に身構えている佐藤 七佳(ja0030)は彼の呼びかけに対して頷いた後、ドアに寄りかかって。
 そして、勢い良く扉を開けた七佳と鬼塚に続き、撃退士達は洋館のロビーに雪崩れこんでいく。
「あら、偉い趣味の悪いお出迎えやねぇ……」
 九条 泉(jb7993)は阻霊符を使用しながら、自分達の方へと三体揃って拳銃を向けてきているサーバントを見て、溜め息を吐いた。
 ――サーバント達から離れた床には、無造作に床に転がされたままの男性の死体。その身体は何発もの弾丸に撃ち抜かれ、穴だらけになっていた。
「あまり時間はかけないよ……この人の為にも」
 死体を見た月村 霞(jb1548)は、冷たい視線をサーバントに向けてそう呟く。
「……此処からは、アタシ達に任せて頂戴」
 決して安らかとは言えない死に顔をしている男性の死体に向け、マリア(jb9408)が軽く頭を下げると、隣に居た仮面(jb9630)が大剣を肩に担ぎながら前に歩み出て。
「貴様らは目障りだ、ここから失せろ」
 彼がサーバントに向けてそう言い放った瞬間、サーバント達は揃いも揃って拳銃の撃鉄を引いたようだった。
「絶対に、許さへんで!」
 サーバントの動きを見た九条が跳び出すと、偽翼を展開した七佳、薙刀を構えた霞も続いてサーバントとの距離を一気に詰めるべく、突撃する。
 三体のサーバントは突撃を開始した三人に向けて引き金を引き、弾丸を発砲。辺りには銃声が鳴り響き、三発の弾丸は三人に一発ずつ真っ直ぐ向かっていったが、三人は弾丸を回避し、個々の定めるターゲットとの交戦を開始する。
「私のスタイルじゃ防御に回ったら負ける……だから、徹底的に攻める!」
 霞は薙刀を巧みに操る事で、敵のナイフでは到底反撃が出来ないような間合いから近接攻撃を仕掛ける。
 しかし二度、三度と振られた薙刀の刃をサーバントはナイフで的確に弾き返し、霞が敵のナイフを絡め取るべく更なる追撃を繰り出そうとしたその時、サーバントは渾身の力で薙刀を大きく弾き飛ばし、霞に向けて拳銃の銃口を向けた。
 構えられた拳銃の標準にブレは無く、流れるようにして撃鉄を引き、そして引き金に指をかけるサーバント。
「叩き潰す……!」
 だがその時、霞の背後から大剣を大きく振り上げながら仮面が跳び出した。サーバントは力の込められた強力な一撃を受ければ持っていかれると判断した為か、攻撃を中断して咄嗟にサイドステップを踏む事で、振り下ろされた仮面の大剣を回避する。
「……貴様の相手は、二人だけじゃないんだぜ」
 サーバントが着地しようとしている地点に向け、弓を引くマリア。そして放たれた矢は、サーバントが着地するのと同時にその足を射抜き、そして矢に込められていた蛇の幻影がサーバントに咬みついた。
 蛇に咬みつかれた箇所からは毒が注入され、サーバントの身体は徐々に毒に蝕まれていく。
 足を射抜かれた事によって移動が出来なくなったサーバントは、苦し紛れにか、霞の方に再び銃口を向けたが、霞の薙刀によってことごとく拳銃を絡め取られ、そしてその手から叩き落された。
「…………」
 サーバントは成す術も無く、ただ顔を上げると、そこには大剣を今振り下ろさんとする仮面の姿が。仮面はそのままサーバントの頭上から力を込めて大剣を振り下ろし、一体目のサーバントを一刀両断にした。

 しかし、まだサーバントを一体片付けただけに過ぎず、その隣では九条と鬼塚が別の個体と戦闘を繰り広げている。
「足止め言うたかて……そない簡単ちゃうねんけど……ねっ!」
 サーバントの懐に素早く潜り込んだ九条はそのまま直上に向けて脚を振り上げ、サーバントの顎を蹴り上げようとするが、サーバントはそれを受け止める事は無く、身体を横に滑らせるようにして回避した。
 そしてそのままバックステップを踏み、距離を取って拳銃で遠隔攻撃を試みようとするサーバントだったが、九条の背後には、深く腰を落として正拳突きの構えを取っている鬼塚の姿が。
 その拳の中では符が握り締められており、鬼塚がそのまま拳を前に突き出すと、花弁のような形状をした雷の刃が発生、サーバントが着地しようとしている場所に向けて一直線に飛んでいく。
 サーバントはそのまま空中で身体を捻って回転するようにして跳躍距離を伸ばし、雷の刃を回避したものの、着地の段階で体勢を崩し、着地地点で膝を着いた。
「九条、今だ!」
 鬼塚の呼びかけを聞き取った九条は、再び電光石火の如き速さでサーバントに接近、大きく足を振ってサーバントの首に回し蹴りを直撃させる。
 九条の足はサーバントの首にめり込んでいき、その首をへし折る勢いで振り抜かれ、サーバントはあまりの衝撃に大きく吹っ飛んでいく。
 そして再び落下地点を予測して雷の刃を放った鬼塚、並びに遠方より援護射撃として矢を放ったマリア。二発の攻撃は着地する寸前のサーバントの身体を射抜き、それを撃破する。

 こうしてサーバントを二体撃破し、五人が戦闘を終えた隣では、偽翼を展開した状態の七佳が、自身の得意とする『立体三次元戦闘』で敵をかく乱していた。
「防御ごと貫くッ!」
 そう言った彼女は滑空の勢いを利用しながらサーバントの横を通過、背後に回り込んで刀を一閃させサーバントの背を斬った後、滑空の勢いをそのままに距離を取る。
 近接戦闘の間合いに入っても七佳を捕える事の出来なかったサーバントは、ナイフを投げ捨てて両手で拳銃を構え、即座に滞空している七佳に向けて発砲する。
 だが、七佳はサーバントが拳銃を発砲する瞬間から着弾までの時間を予測するようにして刀を振り、その弾丸を空中で弾き落とした。
「多少は速いようだけれど、あたしの方が上よ。簡単に離脱できるとは思わないで」
 空中で体勢を整えた七佳は再び滑空の勢いを利用してサーバントに急接近、そのまますれ違いざまにサーバントの足を刀で斬り、着地する。
 サーバントは足を斬られた事でその場に崩れ落ちたが、七佳は着地したその場から地面を蹴って飛び上がり、今度は天井に足を着いて刀を構えた。
 移動する事が出来ないサーバントは、そのまま真上に居る七佳に銃を向けるも、再び遠くから飛来したマリアの矢に腕を射抜かれ、その場で銃を落とす。
「これで終わらせるわ、迅雷一閃ッ!」
 七佳は天井を蹴り、滑空の勢いや重力を利用して真下に居るサーバントへ向けて突撃、頭上からその肉体を真っ二つにしたのだった。


「ごめんなさい、後でちゃんと弔いますから……」
 そう言って男性の死体を移動させようとしている霞に男性の事を任せた他の五人の撃退士達は、一夜陽子が匿われているとされる部屋へ直行する。
 そしてドアの前に立った五人の撃退士達だったが、緊張させない為に、とマリアがドアを数回ノックした後、揃って中へ踏み込んでいく。
 すると、部屋の中では思い詰めたような表情をしている陽子が、椅子に座りながら机の上に置かれている手紙を眺めていた。
「こんなところに居たのね……心配したわン」
「助けにきました」
 陽子を見つけて少し安心したような表情をしているマリアと、伏兵が居ない事を確認した上で武器を下ろした仮面が、陽子に声をかける。
 すると撃退士達の存在に気付いたのかゆっくりと顔を上げた陽子は、特に怯えるような様子も無くマリア達の方を向いて。
「おじいちゃんは、どうなっちゃったんですか?」
 陽子は何処か状況を察しているようにそう言った。恐らく彼女の耳には、男性がサーバントに撃たれた時に鳴り響いた銃声が聞こえていたのだろう。
 ……だが、誰一人として言葉を発そうとしない沈黙の中で、七佳が黙って首を横に振ると、陽子は全てを受け入れたようにして黙り込んだ。
 そんな中、鬼塚は一人で陽子の元へと歩み寄っていき、机の上に置かれている手紙を手に取ってから、陽子の方を真っ直ぐ向いた。
「おっさんはもう帰ってこねぇよ」
「……うん、分かってる」
 そして短く言葉を交わした後、鬼塚は男性の遺書と思われる手紙を開き、その中に書かれている文章を読み始めた。
「陽子へ。この手紙が誰かの手によって読み上げられている頃には、私は既に天魔に殺されているだろう」
 男性の死を受け入れたのか、陽子はその言葉を聞いても動じず、真っ直ぐ鬼塚の方を向いたまま次の言葉を待っているようだった。
「恐らく既に気付き始めているかもしれないが、お前はその身体の内に秘めたるアウルを覚醒させている。覚醒を招いた原因を書き残す事は出来ないが、過去に起きたあの事件は途轍もない悲劇をもたらした。そのショック故か、お前はアウルを覚醒させた時の記憶を失っているんだ」
「やっぱり……」
 陽子は何か思い当たる事があるのか、そう呟いた後、自分の掌を見つめた。
 普通の子供とは、周りに居た子供達とは比べ物にならない自分の身体能力。そして、祖父である男性すらも振り回してしまう程の体力。
「……だから、悪い人達に狙われてたんだ。私は普通じゃないから。私は……アウルを覚醒させているから」
 陽子は気付き始めていた。普通ではない日常生活の中で、普通ではない自分自身の行動を見る事によって。
 だがその『理由』となる過去が思い当たらなかった為に、彼女はそれが『普通』であると思い込んでいたのだ。行方不明になっている自分の両親が、一体本当はどうなったのかを知ろうとしなかった事と同じように。
「私が死ぬ事で、もうお前を守るような存在、そしてこの洋館に縛り付けるような存在は居なくなった。だから、これから生きる道はお前自身が決めるんだ。今のお前はアウルの力を使って天魔と戦い、失った記憶を取り戻そうとする事も出来るし、何処か遠い地でまた別の暮らしを送る事も出来るだろう。それを決めるのは、お前自身だ。もし道に迷っても、お前達の前に居るであろう撃退士の皆さんが、お前が決断を下す為の手伝いをしてくれるだろう」
 鬼塚はそこまで手紙を読み上げた後、手紙の下の方に書かれている一文を敢えて読み上げぬまま、陽子に手紙を手渡した。
 だが、陽子は手紙を受け取る事こそしたものの、その手紙に書かれている文章に視線を向けようとはしない。
 自分が今受け入れなければならない運命の重さを感じたから。そして、今まで自分の事を守ってくれていた祖父の存在の大きさを再認識したから。
「嫌でもちゃんと見ぃ!何の為に命託してったと思うとるん!?」
 亡き男性の意思を想ったのか、九条が陽子に向けて強めに言葉を投げると、陽子は手を震わせながらも手紙の中に書かれている文章に視線を向け、自らの目で亡き祖父の意思を確認し始める。
 もう本当に、自分の事を守ってくれる存在は居ない。そして、自分の生きるべき道を示してくれる存在も居ない。自分の目で手紙を読む事で、それらの現実と直面した陽子は、微かに唇を震わせた。
「……!」
 そして、手紙の一番下の方に書かれている一文を読んだ陽子の目から、一滴の涙が零れ落ちた。

 ――何故なら、そこには純粋に彼女の祖父として、純粋に彼女を見守る者としての男性からのメッセージが書き残されていたからだ。
 お前と一緒に暮らす事が出来て、本当に幸せだった。このような形で手紙を遺す事しか出来ない祖父ですまない。辛い事もまだまだこれからたくさん起こるとは思うが、どうかこれからも元気に生きてくれ――と。

「おじいちゃん……おじいちゃんっ……」
 震える声で亡き祖父を呼び、顔を伏せた陽子の手からは手紙が滑り落ち、そして落とされた手紙はゆらりゆらりと宙を舞った後、ふっと床に落ちる。
 ……手紙が落ちる様は、まるで男性の気持ちを表すかのような光景だった。
 天魔に狙われている彼女を如何にして天魔から守り抜くかで苦悩し、幾度も心を揺らがせたものの、最終的には彼女を自分の命に代えても守り抜いた後、自分の本意を最愛の孫である陽子に伝えられたのだから。
「アタシ達は、久遠ヶ原学園という所から来たの。そこには、陽子ちゃんと同じような目に遭った子もたくさん居るわよぉ。もし陽子ちゃんさえ良ければ、アタシ達と一緒に来ないかしら?」
 陽子の事を気遣い、マリアは優しく声をかけたものの、彼女はまだ悩んでいるのか、顔を伏せて黙り込んだままだ。
「今じゃこんな事珍しくもねぇよ、それが現実だ。誰かが変えない限り、ずっと続く。それが気に食わねぇから、俺はこいつを握ってんだよ」
 そう言って鬼塚が掌の中に忍ばせていた符を開いてみせると、少しだけ顔を上げた陽子が口を開いて。
「……私、戦う。おじいちゃんの為にも。おじいちゃんに命を懸けて守ってもらった私自身の為にも。私、事件の事を調べて、失くした記憶を取り戻したい。お父さんとお母さんがどうなったのかを知りたい!」
 必死に涙を堪えながら決心した陽子。抜け落ちた自らの記憶を取り戻す為に、そして自分の事を守る為に死んでいった祖父の為に、この力を使おうという決心を固めたのだ。
 久遠ヶ原という新たな地へ赴き、もうこのような悲劇を繰り返さない為に。
「っ……」
 だが、最愛の祖父の死と直面する事となった陽子は、自らが背負う事にした運命の重さ、そして遺された意思の重さに押し潰されそうになり、とうとうその場で泣き崩れてしまう。
 それを見た九条はゆっくりと陽子の元へと歩み寄り、そしてその目の前で屈み、優しく彼女の事を抱き締めて。
「生きる助けやったらなんぼでもしたるさかい……今は泣いてえぇから……」
 そう言って九条が陽子の背中を優しくさすると、陽子もまた九条の事を抱き締めた。

 幼いながらも重く冷たい運命を背負い、今度は自分が誰かの為に、そして自分自身の為に戦い始める覚悟を決めた陽子は、九条の胸の中で静かに泣き続ける。
 強い心持っている彼女は、これから久遠ヶ原で新たな人生を歩み出す事だろう。

 自らの手で、自らの未来を切り開く為に――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 騎士殺しの魔拳・九条 泉(jb7993)
 撃退士・鬼塚 凌空(jb9897)
重体: −
面白かった!:4人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
乾坤一擲・
月村 霞(jb1548)

大学部6年34組 女 阿修羅
騎士殺しの魔拳・
九条 泉(jb7993)

大学部5年55組 女 阿修羅
スプリング・インパクト・
マリア(jb9408)

大学部7年46組 男 陰陽師
充実した撃退士・
蒼月 夜刀(jb9630)

高等部1年30組 男 ルインズブレイド
撃退士・
鬼塚 凌空(jb9897)

大学部5年164組 男 陰陽師