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某日、沿岸地域の市街地にて。
「……さしずめ、剣の流星ってとこかいな? んじゃ、星狩りといきますか」
撃退士たちの姿を視認、ゆらりと動いた双子型サーバント――大剣となった右腕を持つ紅の個体を見て、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)は言う。
サーバントが立っているのは住宅地の中心、道路が交差している地点の真ん中。
「なんとしてもひがいは最小限に抑えたいの、ですね……」
ゼロの心境を察してか、華桜りりか(
jb6883)もまた歩み出る、が。
何故か、サーバントは未だ行動を開始せず、ただその場で六名の姿を眺めるだけ。
――それもあり、前後から挟み込む形での展開が容易に完了。援護役を務める二名も位置取りに成功し、ある意味で奇妙な雰囲気に包まれる。
「行動が不可解ではありますが、周囲への被害を考えると、やはり此処で決着をつけるべきですね」
そして鈴代 征治(
ja1305)がサーバント前面、りりかの前に出る形で身構えると。
「…………」
サーバントはようやく『何か』を認識したかのように、その大剣を上げ、不気味な唸り声をあげた。
「何をねらっているのかはわかりませんが、自由に動いて頂いてはこまるの……です」
それを確認したりりかは征治の背後より、式神を生成。それをサーバントの元へ飛ばし、絡みつかせる。
サーバントは大剣を大きく振るい、迎撃を試みるが、強力な式神を打ち破る事は出来ず、身体を拘束される。
「ほんじゃ、いくで。動きとしては分かり易そうや、繋げていこか」
りりかが行動を起こした直後、翼による飛行でサーバントの頭上を取ったゼロが牽制射撃を行い、敢えて当たらないように、サーバント前面にそれを着弾させる。
するとサーバントは、弾丸を回避する為、今まで前面で構えていた大剣を引いて。
「どうやら守りは硬いみたいだけど、それなら下げるだけだよ。ほら!」
サーバントが大剣を引いた瞬間に合わせて、背後に位置取りをしていた神谷春樹(
jb7335)が、装甲を溶かす特殊な弾丸を撃ち込む。
大剣と腕の境目に命中したその弾丸は、多少なりともその部分を溶かしていき、一定の効果を発揮している事が窺える。
「効き目はあるようですね、ならば追い打ちと行きましょうか!」
りりかと春樹の一手によって、特殊な効果を持つ攻撃が通用する事を察した征治は、正面から電撃による攻撃を浴びせる。
しかし、サーバントはその大剣によって電撃を受け止め、微動だにせず顔を伏せた。
「堅いし強い、けど……シエルほどじゃ……」
そこへSpica=Virgia=Azlight(
ja8786)が背後より接近、具現化させたレーヴァテインによる一閃を狙う……が。
「……!」
今まで顔を伏せていたサーバントが不気味な唸り声をあげたかと思えば、被弾寸前で紅色の衝撃波を放ち、Spicaを弾き返す。
更にサーバントは、大剣を素早く、軽々と振り上げ、Spicaへの反撃を狙っているようだった。
「こういう時こそ、俺も役目は果たさねぇとな……! ばっちり狙い撃つぜ!」
だがそこで、住宅の屋根上に陣取っていた新谷 哲(
jb8060)が狙撃銃を構え、反撃の構えを打ち崩さんとサーバントの大剣を狙撃する。
放たれた弾丸は、振り上げられた大剣に命中。ダメージこそ皆無に見えるものの、行動を阻害し、その隙にSpicaは体勢を立て直した。
「やっぱり、大剣だけあって相手の動きは単調やな。叩き潰し、振り上げ、薙ぎ払い……読みやすいもんやで」
そこから即座にゼロが追撃へ移行。今度は直上より、当てに行く形で牽制射撃を行い、大剣での防御を誘発させる。
「それならば、良いのですが……」
ゼロが防御を誘発させた直後、特に合図なども無く、りりかが蛇の幻影による追撃。
的確な連携でそれを直撃させ、圧倒的な威力でサーバントを怯ませる。
「さっきのは効いてたみたいだけど、大剣だとどうかな? 硬いみたいだし、無駄になるかもしれないけど、試さないよりは良いからね」
その怯みを突く形で、今度は春樹が大剣へ直接、装甲を溶かす効力を持った弾丸を命中させる。
「……? ……!」
しかし、大剣への効力は窺えず、むしろ大剣を直接攻撃された事で、サーバントが呻き声をあげた。
「何かが気に入らなかったようですけど、そこからあんまり動いてもらっちゃ困るんですよ!」
呻き声をあげた後、拘束から逃れるように大剣をブンブンと振り回しているサーバントに向け、征治が再び電撃による攻撃を行う。
……すると、どうだろう。サーバントは大剣を振るうのと同時、再び紅色の衝撃波を放ち、征治の放った電撃を相殺。
それだけに留まらず、強引に拘束を打ち破り、征治に飛びかかったのだ。
サーバントは空中で一回転、その勢いを利用して、征治に向けて大剣を一気に振り下ろす。
動きの大きさから、回避は容易と思われるものの、征治は前衛としての務めを果たすべく、正面からそれを防御。
大剣が接触するのと同時、彼を中心として一定範囲に衝撃が走るも、さしてダメージを受けぬまま、反撃に転じる。
「……いいから、戻ってなさい!」
サーバントはその強烈な一撃を大剣で受け止めようとするが、そのまま元居た場所まで押し戻されて。
「このまま、逃がさない……」
その場に打ち付けるかの如く、Spicaが背後から巨大な槌を叩きつける。
サーバントは大剣を振り回すように、振り向き様の反撃に出るが、雷を纏った槌はそれを弾き返した。
「見え見え、だから……」
Spicaはそのまま追撃、具現化せしミョルニルを、大剣での受けに回ったサーバントに振り下ろす。
これもやはり、圧倒的な威力を持った一撃であるが故に、ミョルニルと接触した部分から大剣の表面に亀裂が走り、若干ながらも相手に隙が生じる。
「ヒュー、あの二人もすげぇが敵の動きも中々だな……! こいつはパパッと、脚だけでも潰しとくか」
そこへ哲が狙撃を行い、放たれた弾丸がサーバントの脚を撃ち抜く。
それにより体勢を崩したサーバントは、その場で膝をつき、一時的な行動不能状態に陥ったようだった。
「さて、懐に入ったらその剣は使えるんか?」
それを見逃さず、好機と踏んだゼロは、直上より急降下。至近距離から闇の塊を叩き込み、それを弾けさせた。
動きが止まっていた事もあり、無抵抗でそれを受けたサーバントは、徐々に消耗。動きが若干、鈍くなり始める。
「その大剣がやっかいなの、ですよ……」
それに続け、りりかの生成した式神が再びサーバントに張り付き、その胴体に絡みつく。
ゼロの一手に続き、式神による絡みつきが効いているのか、サーバントはさながら壊れかけのからくり人形の如く、いびつな動きを見せ始めて。
「――おやおや、私も彼等の強さを見くびっていたのかな。ちょっとマズそうだね」
それを何処か遠くから眺めていた『何者か』は、撃退士側からは認識されていない場所で、パチンと指を鳴らした。
「流星らしく、最後の一撃ぐらいは見せてあげなさい……ってね。指示出しとは言え、私が介入するつもりは無かったんだけど、こうもあっさりやられちゃ、仕方ないよね」
その『指示』を受けたサーバントの大剣は、徐々に紅色のオーラを纏い始める。
「物騒……」
一方で、物々しさを感じたSpicaは、相手の行動を警戒し、いつでも距離を取れるように身構えた。
「でも、動きが鈍くなってきた事には変わりないからね。ここで一気に決めさせてもらうよ!」
しかし、大剣にオーラを纏い始めたとは言えど、サーバントの動きが鈍くなっている事は変わらぬ事実。
春樹は動きが止まっているサーバントに向け、三連続で射撃を行い、それら全てを命中させる。
連続射撃であるが故に、単発の威力は落ちているものの、三発命中させる事で総合的な威力は高くなる筈だったのだ、が。
「…………」
サーバントは何故かびくともせず、はっきりとした紅色のオーラを纏った大剣を二、三回振り回し、またも呻き声をあげる。
「奥の手か、それともただの威嚇か。どちらにせよ、そちらから仕掛けてこないと言うのなら、引き続き此方から行かせてもらいますよ!」
サーバントがいびつな動きを見せたものの、特に何の攻撃も仕掛けてこない事から、征治は再び真正面から電撃を放つ。
するとサーバントは、今までとは比べ物にならない速さで大剣を振るい、電撃を相殺。何度か大剣を地面に叩きつけた後、おもむろに征治の方へ視線を向けた。
「……やる気になったのかな? さあこっちだ!」
それを受けた征治が挑発を試みると、サーバントは拘束を打ち破り、尋常ならざるスピードで彼の元へ接近、大剣を振り上げた。
そして、振り上げられた大剣の刃にオーラが吸い込まれるのと同時、流星の如き一閃が放たれる。
だが、征治は真正面から放たれた一撃を的確に受け止め、槍を構える。
「あの様子なら、俺は攻撃を続けても大丈夫そうだな……! 後に繋げていくぜ!」
サーバントの奥の手にも見える一撃を平然と受け止める征治を見て、哲はサーバントの脚に狙いを定め、狙撃銃の引き金を引く。
弾丸が再びサーバントの脚を撃ち抜くと、サーバントはガクリとその場で崩れ、行動を停止。
「ちょっとそっちへ行ってくださいね……ッと!」
そこへ繋げる形で征治が強烈な一撃をサーバントの胴体に叩き込むと、サーバントはSpicaの方へと吹っ飛んでいって。
「……レーヴァテイン、これでっ!」
それを受ける形で、Spicaがレーヴァテインによる一閃を見舞う。
書庫接続によって、よりオリジナルに近い状態で再現されていたそれは、サーバントの大剣を粉砕し、本体の動作をも停止させたのだった。
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六人がサーバントを撃破してから、暫くして。
「お陰様で、民間人をさらって行ったサーバントの居場所を捕捉、殲滅に移る事が出来そうです。ご協力、感謝します」
強力なサーバントが無事に撃破された、という報せを受けた別働隊が合流。その内の一人が六人に向け、感謝の言葉を述べる。
「ただ、この特殊なサーバントを送り込んできた者の正体が掴めていない以上、油断は出来ません。どうか、皆様もお気をつけて」
そして、彼は六人に注意を促してから、民間人を誘拐していったサーバントの殲滅に出た。
「ん……。でも、何か……裏がありそう」
その一方で、Spicaは動かなくなったサーバントの姿を見て、呟く。
紅色をベースカラーとした、見た目こそ人間の少女にも見えるこの個体。
Spicaはこのサーバントの容姿自体に見覚えがある訳ではないようだが、この『紅の個体』とは別に、同タイミングで投下された『蒼の個体』も含め、何かが思い当たるらしい。
「――おやおや? まさか、気付いた感じかな?」
そんなSpicaを、少し離れた場所から見つめる女が一人。
紅色の長髪、そして大剣のような形をした右腕。気配を消し、撃退士たちの死角に潜む形で薄ら笑いを浮かべた彼女は、しかし溜め息を吐いて。
「サプライズ! って出ていったら面白そうだけど、まぁそうもいかないよね。私の獲物、堕天使チャンも居ないみたいだし……」
その場で一人、意味不明な事を呟きながら、六人の姿を眺め続ける。
「何にせよ、早い段階でケリがついて楽やったな。りんりんにも色々と合わせてもらった事やし」
「……これでひがいが抑えられたのなら、何より、です」
無事に戦闘を終え、肩の力を抜くゼロとりりかの姿。
「実際、完璧な勝ち方だったよな。徹底的に援護出来たみたいだし、良かったぜ」
そしてその余韻に浸る、哲の姿。
「あーん、でも堕天使とか関係無しに遊んだら面白そうなんだよね。ポルックスの全力を受け止めた男の子とか、女の子の後ろから銃で撃ってたあの子とか……」
六人に興味が湧いたのか、一人でくねくねと奇妙な動きをしている女だったが、次のSpicaの一言を聞いて、ピタリと動きを止める。
「紅と蒼……。一緒に降ってきて、容姿も瓜二つ。二人で一つ……?」
心当たりの多さ故、困惑しているSpicaだったが、その一言を聞いた女は、満足したようにフフン、と笑う。
「……さっきから誰が見てるのかは知らんが、目を離したら、紅き星が闇に染まるで?」
だが、そこへ釘をさすように、何処からか視線を向けられている事に気付いたゼロが一言。
それを聞いた女は、六人にくるりと背中を向けて、何処か遠くへと歩き出す。
「いやぁ、移動してる間に本当にガラクタにされちゃったもんねぇ……。私の完敗だよ、アハハハッ」
負けを認めたらしい彼女は、それ以上は特に何もせぬままに、この市街地から姿を消したのだった。