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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/03


みんなの思い出



オープニング


 ――それは、唐突に現れた。
 真昼間の住宅地、人々が行き交うその中に。流星が夜空を駆けるかの如く、彼女たちは『投下』されたのだ。
「……?」
 今こそ攻勢に転じるべく、主であるシエルの命を受け、カストル・アークライトの一手を警戒していた、使徒の零。
 彼女は偶然居合わせたその場所で、すぐ近くに投下された『紅』の個体を見て、何とも言えぬ違和感を抱いた。
 そう。それは、さながら『あの二人』を模しているのではないか――と。
「右腕に大剣……。いや、右腕が大剣……? それはつまり、これは……」
 投下された後、暫し硬直していた、異質な『それ』を観察する零。
 見た目こそ二人との共通点が無いにしても、空を駆けた二つの『流星』から察するに、やはりそれを意味しているのではないかと彼女は考える。

 そして、それは事実なのだろうと彼女は身構えた。何故ならこの個体、見た目こそ可愛らしい人間の少女だが、その片腕は『大剣』の形をしていたから。
「やはりサーバント――!?」
 この個体がサーバントである事を直感的に察知した零は、すぐさまその場を離れようとするも、それと同時に爆発音が響き渡る。
 今まで平然と行き交っていた筈の人々が悲鳴を上げ始めたかと思えば、それらの姿が徐々に視界の中から消え去っていく。
 それを受けて目を凝らすと、視界の隅に映った『何者か』の姿。その姿に彼女は見覚えがあった。
「……複数の汎用型まで投入されているようね。動き出した、と考えるべきかしら」
 それは、カストルが過去の行動中に利用していたサーバントの姿だったのだ。
 零はすぐにその場を離れ、シエルに相手の行動開始を伝えるべきかと思案するも、先程投下された『紅』の個体が行動を開始した事に気付き、その考えを改める。

「なるほど、目である私を封じる為にこの一手を打ったと……。つまり、これはカストル本人ではない、外部からの干渉かしら」
 ――以前、カストルが零に語った彼なりの『真意』。
 それを思い出した彼女は、これはカストル本人による干渉ではなく、何かしらの形で彼との関係を持つ『何者か』の攻撃である事を察し、その場で刀を構えた。
「貴女がサーバントなら、言葉を語る事は出来ないのでしょう。けれど、戦う事によって、その身に刻まれた皮肉を表す事ぐらいは出来る。違うかしら?」
 サーバントが直接的に零の言葉に反応を示す事は無い。
 しかし、ゆらりと立ち上がった紅のサーバントは、大剣のような形に作られているその片腕を振り上げ、不気味な唸り声をあげた。
「双子は双子でありながら全く以て異質であった。そして双子は双子でありながら別々の死に方を選び、別々の意志の下にその生涯を終える。傍観者であるのなら、そんな事を言いそうね」
 厳密に言えばそれらは双子ではないのだが、双子としての名前を冠していたという事で、この『傍観者』は、そんな皮肉を彼女たちに表現させたいのだろう。
 彼女、或いは撃退士がこの個体、或いはもう片方の『流星』を斬る事で、双子の片方が先にこの世を去った事を表現する事が出来る。
 そして、それを追うようにもう片方の個体を撃退士が斬る事で、残ったもう片方の双子も確実に死へ向かうという事が自ずと暗示される。

「私も見守る事しか出来ない立場の存在だもの。それぐらい、分かって当然よ」
 紅のサーバントと対峙する中で、彼女の周囲から人の気配がどんどん薄れていく。
 先程はうるさい程に聞こえていた悲鳴すらも徐々に聞こえなくなり、この個体と共に投下されたサーバントたちによって、人々が拉致されている事を彼女は理解する。
「……私はこの個体を相手するよりも、拉致された人々を追うべきかしらね。彼等なら、この個体も簡単に沈められる筈でしょうし」
 最初はこのサーバントを抑える事を考えていた彼女ではあったが、再び考えを改め、救援要請を開始。
 未だサーバントが行動を開始していない事を確認した上で、救援部隊が即座に行動開始した事を告げられた彼女は、刀を納めた。
「私が目である事は貴女も理解していて、カストルの考えすらも知っているのでしょう? そういう事なら、行かせてもらうわ」
 心なしか、それを承諾するかのように大剣を下ろすサーバントを横目に、零は微かに耳に入った悲鳴を追って、その場から移動を開始する。
 双子の死が敵側の『何者か』から暗示された今、彼女の成すべき事は、可能な限り被害を抑え、味方の攻勢を手助けする事に他ならなかったから。


リプレイ本文


 某日、沿岸地域の市街地にて。
「……さしずめ、剣の流星ってとこかいな? んじゃ、星狩りといきますか」
 撃退士たちの姿を視認、ゆらりと動いた双子型サーバント――大剣となった右腕を持つ紅の個体を見て、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は言う。
 サーバントが立っているのは住宅地の中心、道路が交差している地点の真ん中。
「なんとしてもひがいは最小限に抑えたいの、ですね……」
 ゼロの心境を察してか、華桜りりか(jb6883)もまた歩み出る、が。
 何故か、サーバントは未だ行動を開始せず、ただその場で六名の姿を眺めるだけ。
 ――それもあり、前後から挟み込む形での展開が容易に完了。援護役を務める二名も位置取りに成功し、ある意味で奇妙な雰囲気に包まれる。

「行動が不可解ではありますが、周囲への被害を考えると、やはり此処で決着をつけるべきですね」
 そして鈴代 征治(ja1305)がサーバント前面、りりかの前に出る形で身構えると。
「…………」
 サーバントはようやく『何か』を認識したかのように、その大剣を上げ、不気味な唸り声をあげた。
「何をねらっているのかはわかりませんが、自由に動いて頂いてはこまるの……です」
 それを確認したりりかは征治の背後より、式神を生成。それをサーバントの元へ飛ばし、絡みつかせる。
 サーバントは大剣を大きく振るい、迎撃を試みるが、強力な式神を打ち破る事は出来ず、身体を拘束される。

「ほんじゃ、いくで。動きとしては分かり易そうや、繋げていこか」
 りりかが行動を起こした直後、翼による飛行でサーバントの頭上を取ったゼロが牽制射撃を行い、敢えて当たらないように、サーバント前面にそれを着弾させる。
 するとサーバントは、弾丸を回避する為、今まで前面で構えていた大剣を引いて。
「どうやら守りは硬いみたいだけど、それなら下げるだけだよ。ほら!」
 サーバントが大剣を引いた瞬間に合わせて、背後に位置取りをしていた神谷春樹(jb7335)が、装甲を溶かす特殊な弾丸を撃ち込む。
 大剣と腕の境目に命中したその弾丸は、多少なりともその部分を溶かしていき、一定の効果を発揮している事が窺える。

「効き目はあるようですね、ならば追い打ちと行きましょうか!」
 りりかと春樹の一手によって、特殊な効果を持つ攻撃が通用する事を察した征治は、正面から電撃による攻撃を浴びせる。
 しかし、サーバントはその大剣によって電撃を受け止め、微動だにせず顔を伏せた。
「堅いし強い、けど……シエルほどじゃ……」
 そこへSpica=Virgia=Azlight(ja8786)が背後より接近、具現化させたレーヴァテインによる一閃を狙う……が。
「……!」
 今まで顔を伏せていたサーバントが不気味な唸り声をあげたかと思えば、被弾寸前で紅色の衝撃波を放ち、Spicaを弾き返す。
 更にサーバントは、大剣を素早く、軽々と振り上げ、Spicaへの反撃を狙っているようだった。

「こういう時こそ、俺も役目は果たさねぇとな……! ばっちり狙い撃つぜ!」
 だがそこで、住宅の屋根上に陣取っていた新谷 哲(jb8060)が狙撃銃を構え、反撃の構えを打ち崩さんとサーバントの大剣を狙撃する。
 放たれた弾丸は、振り上げられた大剣に命中。ダメージこそ皆無に見えるものの、行動を阻害し、その隙にSpicaは体勢を立て直した。
「やっぱり、大剣だけあって相手の動きは単調やな。叩き潰し、振り上げ、薙ぎ払い……読みやすいもんやで」
 そこから即座にゼロが追撃へ移行。今度は直上より、当てに行く形で牽制射撃を行い、大剣での防御を誘発させる。
「それならば、良いのですが……」
 ゼロが防御を誘発させた直後、特に合図なども無く、りりかが蛇の幻影による追撃。
 的確な連携でそれを直撃させ、圧倒的な威力でサーバントを怯ませる。

「さっきのは効いてたみたいだけど、大剣だとどうかな? 硬いみたいだし、無駄になるかもしれないけど、試さないよりは良いからね」
 その怯みを突く形で、今度は春樹が大剣へ直接、装甲を溶かす効力を持った弾丸を命中させる。
「……? ……!」
 しかし、大剣への効力は窺えず、むしろ大剣を直接攻撃された事で、サーバントが呻き声をあげた。
「何かが気に入らなかったようですけど、そこからあんまり動いてもらっちゃ困るんですよ!」
 呻き声をあげた後、拘束から逃れるように大剣をブンブンと振り回しているサーバントに向け、征治が再び電撃による攻撃を行う。
 ……すると、どうだろう。サーバントは大剣を振るうのと同時、再び紅色の衝撃波を放ち、征治の放った電撃を相殺。
 それだけに留まらず、強引に拘束を打ち破り、征治に飛びかかったのだ。

 サーバントは空中で一回転、その勢いを利用して、征治に向けて大剣を一気に振り下ろす。
 動きの大きさから、回避は容易と思われるものの、征治は前衛としての務めを果たすべく、正面からそれを防御。
 大剣が接触するのと同時、彼を中心として一定範囲に衝撃が走るも、さしてダメージを受けぬまま、反撃に転じる。
「……いいから、戻ってなさい!」
 サーバントはその強烈な一撃を大剣で受け止めようとするが、そのまま元居た場所まで押し戻されて。
「このまま、逃がさない……」
 その場に打ち付けるかの如く、Spicaが背後から巨大な槌を叩きつける。
 サーバントは大剣を振り回すように、振り向き様の反撃に出るが、雷を纏った槌はそれを弾き返した。

「見え見え、だから……」
 Spicaはそのまま追撃、具現化せしミョルニルを、大剣での受けに回ったサーバントに振り下ろす。
 これもやはり、圧倒的な威力を持った一撃であるが故に、ミョルニルと接触した部分から大剣の表面に亀裂が走り、若干ながらも相手に隙が生じる。
「ヒュー、あの二人もすげぇが敵の動きも中々だな……! こいつはパパッと、脚だけでも潰しとくか」
 そこへ哲が狙撃を行い、放たれた弾丸がサーバントの脚を撃ち抜く。
 それにより体勢を崩したサーバントは、その場で膝をつき、一時的な行動不能状態に陥ったようだった。

「さて、懐に入ったらその剣は使えるんか?」
 それを見逃さず、好機と踏んだゼロは、直上より急降下。至近距離から闇の塊を叩き込み、それを弾けさせた。
 動きが止まっていた事もあり、無抵抗でそれを受けたサーバントは、徐々に消耗。動きが若干、鈍くなり始める。
「その大剣がやっかいなの、ですよ……」
 それに続け、りりかの生成した式神が再びサーバントに張り付き、その胴体に絡みつく。
 ゼロの一手に続き、式神による絡みつきが効いているのか、サーバントはさながら壊れかけのからくり人形の如く、いびつな動きを見せ始めて。

「――おやおや、私も彼等の強さを見くびっていたのかな。ちょっとマズそうだね」
 それを何処か遠くから眺めていた『何者か』は、撃退士側からは認識されていない場所で、パチンと指を鳴らした。
「流星らしく、最後の一撃ぐらいは見せてあげなさい……ってね。指示出しとは言え、私が介入するつもりは無かったんだけど、こうもあっさりやられちゃ、仕方ないよね」
 その『指示』を受けたサーバントの大剣は、徐々に紅色のオーラを纏い始める。
「物騒……」
 一方で、物々しさを感じたSpicaは、相手の行動を警戒し、いつでも距離を取れるように身構えた。

「でも、動きが鈍くなってきた事には変わりないからね。ここで一気に決めさせてもらうよ!」
 しかし、大剣にオーラを纏い始めたとは言えど、サーバントの動きが鈍くなっている事は変わらぬ事実。
 春樹は動きが止まっているサーバントに向け、三連続で射撃を行い、それら全てを命中させる。
 連続射撃であるが故に、単発の威力は落ちているものの、三発命中させる事で総合的な威力は高くなる筈だったのだ、が。
「…………」
 サーバントは何故かびくともせず、はっきりとした紅色のオーラを纏った大剣を二、三回振り回し、またも呻き声をあげる。

「奥の手か、それともただの威嚇か。どちらにせよ、そちらから仕掛けてこないと言うのなら、引き続き此方から行かせてもらいますよ!」
 サーバントがいびつな動きを見せたものの、特に何の攻撃も仕掛けてこない事から、征治は再び真正面から電撃を放つ。
 するとサーバントは、今までとは比べ物にならない速さで大剣を振るい、電撃を相殺。何度か大剣を地面に叩きつけた後、おもむろに征治の方へ視線を向けた。
「……やる気になったのかな? さあこっちだ!」
 それを受けた征治が挑発を試みると、サーバントは拘束を打ち破り、尋常ならざるスピードで彼の元へ接近、大剣を振り上げた。
 そして、振り上げられた大剣の刃にオーラが吸い込まれるのと同時、流星の如き一閃が放たれる。
 だが、征治は真正面から放たれた一撃を的確に受け止め、槍を構える。

「あの様子なら、俺は攻撃を続けても大丈夫そうだな……! 後に繋げていくぜ!」
 サーバントの奥の手にも見える一撃を平然と受け止める征治を見て、哲はサーバントの脚に狙いを定め、狙撃銃の引き金を引く。
 弾丸が再びサーバントの脚を撃ち抜くと、サーバントはガクリとその場で崩れ、行動を停止。
「ちょっとそっちへ行ってくださいね……ッと!」
 そこへ繋げる形で征治が強烈な一撃をサーバントの胴体に叩き込むと、サーバントはSpicaの方へと吹っ飛んでいって。
「……レーヴァテイン、これでっ!」
 それを受ける形で、Spicaがレーヴァテインによる一閃を見舞う。
 書庫接続によって、よりオリジナルに近い状態で再現されていたそれは、サーバントの大剣を粉砕し、本体の動作をも停止させたのだった。


 六人がサーバントを撃破してから、暫くして。
「お陰様で、民間人をさらって行ったサーバントの居場所を捕捉、殲滅に移る事が出来そうです。ご協力、感謝します」
 強力なサーバントが無事に撃破された、という報せを受けた別働隊が合流。その内の一人が六人に向け、感謝の言葉を述べる。
「ただ、この特殊なサーバントを送り込んできた者の正体が掴めていない以上、油断は出来ません。どうか、皆様もお気をつけて」
 そして、彼は六人に注意を促してから、民間人を誘拐していったサーバントの殲滅に出た。
「ん……。でも、何か……裏がありそう」
 その一方で、Spicaは動かなくなったサーバントの姿を見て、呟く。
 紅色をベースカラーとした、見た目こそ人間の少女にも見えるこの個体。
 Spicaはこのサーバントの容姿自体に見覚えがある訳ではないようだが、この『紅の個体』とは別に、同タイミングで投下された『蒼の個体』も含め、何かが思い当たるらしい。

「――おやおや? まさか、気付いた感じかな?」
 そんなSpicaを、少し離れた場所から見つめる女が一人。
 紅色の長髪、そして大剣のような形をした右腕。気配を消し、撃退士たちの死角に潜む形で薄ら笑いを浮かべた彼女は、しかし溜め息を吐いて。
「サプライズ! って出ていったら面白そうだけど、まぁそうもいかないよね。私の獲物、堕天使チャンも居ないみたいだし……」
 その場で一人、意味不明な事を呟きながら、六人の姿を眺め続ける。
「何にせよ、早い段階でケリがついて楽やったな。りんりんにも色々と合わせてもらった事やし」
「……これでひがいが抑えられたのなら、何より、です」
 無事に戦闘を終え、肩の力を抜くゼロとりりかの姿。

「実際、完璧な勝ち方だったよな。徹底的に援護出来たみたいだし、良かったぜ」
 そしてその余韻に浸る、哲の姿。
「あーん、でも堕天使とか関係無しに遊んだら面白そうなんだよね。ポルックスの全力を受け止めた男の子とか、女の子の後ろから銃で撃ってたあの子とか……」
 六人に興味が湧いたのか、一人でくねくねと奇妙な動きをしている女だったが、次のSpicaの一言を聞いて、ピタリと動きを止める。
「紅と蒼……。一緒に降ってきて、容姿も瓜二つ。二人で一つ……?」
 心当たりの多さ故、困惑しているSpicaだったが、その一言を聞いた女は、満足したようにフフン、と笑う。

「……さっきから誰が見てるのかは知らんが、目を離したら、紅き星が闇に染まるで?」
 だが、そこへ釘をさすように、何処からか視線を向けられている事に気付いたゼロが一言。
 それを聞いた女は、六人にくるりと背中を向けて、何処か遠くへと歩き出す。
「いやぁ、移動してる間に本当にガラクタにされちゃったもんねぇ……。私の完敗だよ、アハハハッ」
 負けを認めたらしい彼女は、それ以上は特に何もせぬままに、この市街地から姿を消したのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 最強の『普通』・鈴代 征治(ja1305)
 Cherry Blossom・華桜りりか(jb6883)
重体: −
面白かった!:6人

最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
血気盛ん・
新谷 哲(jb8060)

大学部5年160組 男 阿修羅