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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/09


みんなの思い出



オープニング


 過去に『風神の剣士』が初めて目撃された場所でもある、既に使われなくなった道場。
 その入り口付近に立っているのは、剣士のような姿形をした二体のサーバント。
「……これじゃ、取りに行けないなぁ。困った困った」
 サーバントが何故この場所に立っているのかは、不明。
 しかしそんなサーバントの姿を、少し離れていた場所から眺めていた少女は、自分だけでは道場に辿り着く事は出来ないと考え、溜め息を吐く。
「お父さんの竹刀、あそこに残ったままらしいんだよねぇ……ううん。剣術バカだったし、竹刀ぐらいは備えてあげるべきかと思ったんだけど」
 どうやらこの少女は、過去にあの道場で剣術を教えていた師範の娘らしく、道場の中に残されたままという竹刀を求めて、この場所に来ているようだ。
 だが、少女が一人でサーバントの前に姿を現せば、一撃で斬り捨てられてしまう事は一目瞭然。
 それは少女も理解しており、諦めようかと頭を悩ませているようだ、が。

「でも、お父さんの娘として、此処で逃げ出す訳にはいかないね。剣術の達人、道場の師範! その娘が怯えててどうする!」
 少女は気合いを込め、サーバントの前に飛び出そうと足に力を込めたが、さすがにこれは無謀だと判断したのか、踏みとどまって。
「ダメだ、一人じゃ絶対お父さんみたいに斬り殺される……。それは嫌だしなぁ、どうしようかなぁ」
 この少女が勇敢な性格をしている事は確かなのだろうが、殺されてはどうにもならず、そもそも竹刀を持ち帰る事が出来なければ何の意味も無いのだ。
 故に彼女は、腕を組んで瞼を閉じ、暫くその場で頭を悩ませる。
 如何にして此処を切り抜けるのか、如何にして道場の中にある竹刀を取り戻すのか。
 道場の付近には、過去の戦闘で刻まれた『風の跡』が残されていて、道場の中は死体こそ処理されているものの、折れた竹刀等は殆どそのままなのだと聞く。
「……そうだ! 此処に現れた剣士を倒した人達と同じような、強い人を呼んで来れば良いだけじゃん! お父さんの為だ、よし!」
 頭を悩ませる中で、撃退士を呼んでサーバントを討伐してもらうという方法を思いついた少女。
 彼女は一旦道場に背を向け、亡き父の竹刀を取り戻す為に、剣士を倒す事が出来る強者を探しに行くのだった。


リプレイ本文


 ――剣士型サーバントが目撃されたという、道場前。
 そこには、道場前で待ち構えている二体のサーバントを、依頼者である二戸まゆりと共に少し離れた場所から観察する撃退士達の姿が。
「なるほど、ココが、ね……」
 寂れた道場の様子、敷き詰められている砂利の具合を確認したアスハ・A・R(ja8432)は、その記憶を辿り、過去に此処に現れたという『使徒の剣士』の名を思い浮かべる。
「懐かしいですね、ここも」
 そんなアスハに続いて地面、道場、サーバントの姿を見回す十三月 風架(jb4108)。
 ――彼はアスハが思い浮かべていた使徒の剣士、一正宗が此処に現れた時、実際に彼と手合わせをした撃退士の一人だ。
 そして彼は、その正宗の最期を看取った撃退士の一人でもある。
「此処に来た事があるんですか? お父さんと会った事も?」
「いえ、自分はただ此処に現れた剣士と戦った事があるだけですよ」
 風架の言葉を聞いたまゆりは、それに食いつくように問いかけるが、彼は軽く首を横に振った。

「私達がサーバントを倒すまでは、絶対に道場に近付いてはダメですよ」
「ええ、分かっています! さすがに私じゃお力になれませんし、此処は皆さんの背を見て学習と行きますよ!」
 エルム(ja6475)の声を聞き、まゆりがそれを了承すると、彼女達は何も言わないままに、揃って道場の方を向いて。
「お父さんの竹刀、なにか目印はありますか?」
「持ち柄に一心っていう名前が刻まれてる筈です、それが目印になると思いますよ! 剣術バカだったお父さんのお墓に持っていってあげたいんです、どうかよろしくお願いします!」
 エルムの問いに、相変わらず活気に溢れた声でまゆりが答える。
「……形見の品、ですか。それは……何としても取ってこないといけませんの」
 まゆりの言葉を聞いた橋場・R・アトリアーナ(ja1403)は、さっと身構えて、真っ直ぐサーバントの方を向く。
「任せてください、俺が絶対に取り戻してみせます――!」
 アトリアーナに続き、雪ノ下・正太郎(ja0343)が拳を前に突き出すと。
「我・龍・転・成っ!! リュウセイガー!!」
「おおっ、変身!?」
 光纏、ヒーロースーツを身に纏った正太郎を見たまゆりは、目を輝かせた。

「剣士型……こちらも腕に覚えのあるものがいるようだが、はてさて」
 各々の準備が整った事を確認した天風 静流(ja0373)は、まゆりを下がらせ、黒色の大弓に矢をつがえる。
 それと同時に彼女の身体に浮かび上がる、真っ赤な紋様。血が巡るように、アウルの力を全身に循環させた静流は、向かって右側に居るサーバントを狙う。
「…………」
 そんな静流の姿を見るや否や、それを真っ向から迎え撃たんと刀を構えた二体のサーバント。
 そして静流が放つ、閃光の如き一本の矢。
 サーバントは即座に刀を振り抜き、それを弾き落とそうとしたが、その『閃光』はサーバントの左腕を吹っ飛ばした。
 ――吹っ飛ばされた箇所には腕と思えるような物が無く、そもそもこの剣士型サーバントは、甲冑だけが魂を得て動いているようで。
「さて……この程度なら、受け切れる、か?」
 攻撃を受けるのと同時に、二手に分かれたサーバント。
 アスハは左側へ離脱したサーバントに狙いを定め、手をかざすのと同時に、空から『雨』を連想させる程に大量の魔法弾を降らせる。
 サーバントはアスハの一手を受けようとしたのか、即座に動きを止めて刀を構えたが、その『雨』を防ぎきれる訳がなく、甲冑全体にヒビが入った。

「やはり剣士は剣士、という事のようですね。ならばこの技も、正面から――!」
 アスハが『光雨』によってサーバント二体を完全に分断した次のタイミングで、風架は追撃をかけるように、サーバントに急接近する。
 そして彼は、足元に零した自身の血液を円錐状に伸ばし、それを針のように形成する事でサーバントの身体を貫かんとする。
「…………」
 ――だが、サーバントがその『血針』と風架を前にして足を止めた時だった。
 ただ血針を前にしても静かに、動じずに刀を構えたサーバントは、血針が甲冑を貫かんとしたその瞬間、見切ったようにそれを刀の表面で流し、風架に斬りかかる。
 これがサーバントに成り果てても尚、剣士であるという事の証明と成り得る技、燕返し。完成した、一つの剣術だ。
「剣術も上々、という訳ですね……」
 血針を受け流され、回避する隙すらも封じられた風架は、そのままサーバントに肩を斬られる。
 そこから立て続けにサーバントは刀を振り上げ、それを素早く振り下ろすが、風架はその斬撃を寸前で回避した。
「……!」
 ――しかしその斬撃はフェイントだったらしく、刀を振り下ろすのと同時に一歩深く踏み込んだサーバントは、そのまま刀を振り上げて風架の腹部を斬りつけた。
 燕返しから続けて繰り出された、虎斬り。
 それを風架に命中させたサーバントは、心なしか不敵な笑みを浮かべているように見えて。

「その隙は見逃しませんの……!」
 だが風架と入れ替わるように飛び込んでくる、アトリアーナ。サーバントは彼女の姿を捉え、刀を用いた防御を試みる。
 しかしアトリアーナの追撃は尋常ではない威力を持っており、サーバントは刀で確かにそれを防御した筈だったのだが、衝撃で甲冑全体が崩壊寸前にまで至った。
 このままでは打ち砕かれると思ったのか、後退していくサーバント。
「今だ、このまま撃ち抜け……!」
 その先に回り込んでいたのは、アスハだった。
 彼はサーバントが後退しようとしている先の空間に干渉を行い、その場にある空気を圧縮、解放。
 それにより吹っ飛ばされたサーバントは、再び風架たちの正面へ。
「この技は手向けです……眠れ、安らかに」
 サーバントが目の前に来る直前、風架は自らの血液によって、大蛇を思い起こさせる大型の剣を自身の腕に生成していた。
 これは彼が初めてこの場所で『風神の剣士』と戦った際、剣士が放った風の奥義にぶつけた技。
 そしてその奥義を打ち砕いた技でもある。
 強烈な一撃が来る事を予測、刀を突き出す事でそれを相殺しようとするサーバントだったが、風架は刀ごとそれを打ち破り、その右腕までもを破壊する。

「……正宗に倒された無念なのか、わかりませんが……その身体、撃ち抜かせて貰いますの」
 刀と腕を破壊された衝撃で宙に打ち上がるサーバントの後を追うように、宙へ跳び上がるアトリアーナ。
 彼女は宙でバンカーを構え、それを下から上へ突き上げるように頭へ打ち込む。
 その一撃で砕け散るサーバントの兜、中にはやはり『肉体』は無く。
 アトリアーナはそのまま流れるように胴体へもう一突き、三段目でサーバントを地面へ叩き落とした。
 叩き落とされたサーバントは、地面に叩きつけられるのと同時に粉々に砕け散り、もはや『剣士』とも言えぬ姿となった。
 ――風架、アトリアーナの行った連携攻撃は、この場所で剣士として鍛錬に励んでいた者達を斬った一正宗の技を模倣した物。
 故にアトリアーナ達はその技を使う事で、言葉に出さないまでも、彼等の仇となる風神の剣士を既に打ち倒したという事を表しているのだろう。
 それがアトリアーナなりの、剣士達へ向けられた「迷わず逝け」というメッセージなのかもしれない。

 アスハ、風架、アトリアーナが片方のサーバントと交戦している一方、静流たちは。
「竹刀は返してもらうぞ、それを未来へ伝えていく為に!」
 静流が矢によって左腕を破壊、そこへ追撃を狙う正太郎は、全身にアウルの炎を纏いながら、サーバントに力強い体当たりを仕掛ける。
 だがサーバントは正太郎を前に立ち止まり、渾身の力が込められた彼の体当たりを、その威力を逆手にとったように刀で受け流した。
 正太郎の攻撃を回避したサーバントは、それを受けて振り向いた正太郎に向け、敢えてその刃が当たらないように刀を振り下ろす。
「剣士なら、そのまま踏み込んで来い! 俺は逃げたりはしない!」
 それがリュウセイガー、彼のヒーローとしての『熱』というものなのか、正太郎はそれを迎え撃つように腰を落とし、受けの体勢を取って。
「――!」
 サーバントはそれに挑むように、刀を振り下ろした状態から更に一歩深く踏み込み、瞬時に刀を振り上げた。
 正太郎は宣言通りにそれを正面から受け、若干の傷を負ったまでも、一切の揺らぎを見せない。
 そんな正太郎の姿を前に、この剣士型サーバントは喜びのような感情を抱いているのか、刀を片手で平らに構える。
「――秘剣、翡翠!」
 サーバントが受けの姿勢を見せたところへ飛び込んできたのは、エルム。
 彼女は疾風の如き剣閃で、サーバントの胴体を正確に衝こうとする。
 だがサーバントはその剣閃を刀の表面で流し、エルムの側面へ滑るように回り込んだ後、刀を振り下ろさんとした。
「美しい太刀筋です、我流の私とは大違いですね」
 しかしエルムとて技の面では劣っておらず、彼女は振り下ろされた刀を正確に受け流し、再び刀を両手で平らに構える。

「…………」
 サーバントは振り向き様にカシャリ、と甲冑全体を鳴らし、その視界の中心に、遠くから接近してきた静流の姿を捉えた。
 静流は先程の勢いをそのままに薙刀を持ち、常軌を逸した速度でそれを三度振る。
 サーバントは視界の中心に静流の姿を捉えていた筈だったが、それでも静流の攻撃はサーバントの両足を破壊、刀までもを地面に弾き落としていた。
 薙刀が振り抜かれた跡には、虹を思い起こさせるような煌く軌跡が残されており、それが消え去る頃、サーバントは地面に倒れ込んでいく。
「では、私の燕返しもお見せしましょう……!」
 もはやそれを受け流す事すら叶わない、攻撃と移動の手段を断たれたサーバントに向けて繰り出される、エルムが編み出した我流の『燕返し』。
 一呼吸の内に繰り出された、縦の斬撃と横の斬撃。
 それはもし仮にサーバントが手足を持っていたとしても避けきれない程に、正確かつ威力の高い技だった。
 エルムの燕返しを受けたサーバントの甲冑全体にはヒビが入り、次の一撃が直撃すれば、それが粉々に砕け散る事は一目瞭然だった。
「これで決めさせてもらうぞ、終わりだ!」
 正太郎はサーバントにトドメを刺し、竹刀を取り戻す為に、拳に蒼いアウルの炎を纏わせ、半歩踏み出す。
 サーバントはそのトドメを自ら受け入れるように、捻りが加えられた正太郎の崩拳を受け、粉々に砕け散っていったのだった。


 真っ向勝負を挑み、剣士型サーバント二体の撃破を確認した六人。
 道場を眺める静流の隣で、エルムは暫しの黙祷を行い、静流以外の四人と共に道場の中へと踏み込んでいく。
 道場の中は既に廃れており、破壊された大量の竹刀の破片と、辛うじて形を残している幾つかの竹刀だけが地面に散乱していた。
 その中に混じっているであろう、一心という名が持ち柄に刻まれた竹刀を探す五人。
 暫く探し続けると、アトリアーナがその竹刀を見つけ、それを持ち上げる。
 だがその竹刀は刀身となる部分が折れてしまっており、もはや竹刀としての役割を果たす事は出来ないように見えた。

「――そう、ですか。まぁ随分と時間も経ってますし、仕方ないですよね」
 サーバントが撃破された事を確認、後から道場前に駆け付けたまゆりにアトリアーナが竹刀を渡すと、彼女は残念そうに肩を落とした。
「……きっと、最後まで剣士だった。竹刀、見つかってよかったと……思いますの」
「竹刀が折れているという事は、少なくとも剣士としての誇りを捨てて背中を向けたって事じゃなく、最期まで剣士として戦ったって事でしょうからね」
 だがアトリアーナ、風架の言葉を聞いたまゆりは頭を振り、気を取り直したように顔を上げて。
「最期までしっかり戦った証、ですよね……! 誇りに思います、はい!」
「ああ。折れている……という事は、その持ち主は最後まで剣士だったのだろう……誇っておけ」
 若干作られているようにも思えるまゆりの反応だったが、アスハが風架に代わって続けると、彼女は力強く頷いた。

「貴女がお父さんから受け継いだ物を、未来へと伝えていって下さい」
「ええ、勿論! 皆さんに取り戻して戴いたんですから、絶対!」
 そんなまゆりを肯定するように、正太郎が彼女と視線を合わせると、まゆりは正太郎を真似たように右拳を突き出す。
「こんな事が繰り返される事の無い世界にする為、私達はこれからも戦います。貴女はしっかりと生きてください、残された者の務めです」
 正太郎に続き、エルムはまゆりの背を押すような形で、そんな言葉を彼女に贈る。
「分かってますよ、大丈夫です。お父さんが最期まで剣士だったのなら、私だって前を向きますよ!」
 エルムの言葉を受け止めたまゆりは、六人に取り戻してもらった竹刀を眺めながら、よし、と小さく呟いて。
「では、お墓に行ってきます! ありがとうございましたっ!」
 そして彼女は、その竹刀を父の元へ届ける為に走って行ってしまった。

「アレが誇りの折れた者の得物をわざわざ壊す事は無いでしょうし……昔なら、余計に」
 走り去っていくまゆりの後ろ姿を眺めながら、風架は脳裏に正宗の姿を思い浮かべ、呟く。
「しかし、道場が襲われるという話も珍しくないな。すっかり寂れてしまっているが」
 その一方で、道場を眺めていた静流は淡々とそんな言葉を述べた。
 彼女の言っている通りで、最近はこのような道場が襲われる事も別段珍しい話ではない。
 だが少なくとも、六人の手によってこの地に現れた剣士型サーバントは倒され、此処で命を落とした剣士達の無念は晴らされたのだろう。
 ひたすら撃退士達と向き合った剣士型サーバントのその姿からすれば、もはやそれは言うまでも無い事で。
「……残された想いが繋がる事を、祈っていますの」
 無事に竹刀を取り戻し、自らが持つ『形見』であるリボンを撫でたアトリアーナは、その後も想いが続く事を祈るのだった。


依頼結果