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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/19


みんなの思い出



オープニング


 関東某所にある、人々から忘れ去られた廃病院。そこでは使徒の一正宗と、彼の「主」が肩を並べながら立っていた。
「……主よ。一つ、聞いても良いか」
「何だい、正宗? 任務さえ無事に遂行してくれるのなら、別に構わないよ」
 正宗は主と視線を合わせようとはせず、真っ直ぐ前を向きながら自分の主に何かを問いかけようとするが、しかしそれでも彼は即座に問いを口にせず、少し間を置いては息を吐いて。
「私は、本当にこのような生き方をしていて良いのか? 私は貴方の使徒、使役されるべき存在。それなのに主よ……貴方は、私に自由に生き方を選ばせてくれている。主として、本当にそれで良いのか今一度確かめておきたくてな」
 一剣士としての誇りを持ちながらも、主に忠誠を誓った使徒としての生き方を心の何処かで考えているからか、正宗は主にそう問いかけては口を閉ざす。
 今の彼は、彼が思っている以上に自由に生きる事を許されている。主から受けた使命さえ遂行していれば、言ってしまえば何をしていても許されるのだ。
 剣士として剣の腕を磨く事も、その腕試しをする為に誰かに戦いを挑む事すらも、使命さえ全うしていれば許されてしまう。正宗は、そんな自分の『自由』に微かな違和感を抱いていた。

「ああ、勿論構わないよ。僕はあくまでも君を駒として使いたいだけなのであって、それ以外の部分まで支配したいという訳ではないからね。それとも、剣士という生き物には何処までも指示を出してやらないとダメなのかい?」
 だが、正宗の主はふっと笑っては正宗にそう問い返す。正宗の主である彼は、使徒を使役する主という立場にありながらも、まるで主として振る舞う事を望んでいないかのような言動を取るのだ。
「……いいや、主がそれで良いと言うのならそれで構わない。私はただ、今自分の中にある僅かな迷いを無くす為にも、今一度確認しておきたかっただけなのだ。つまらぬ事を聞いてしまったな」
「ハハハッ、正宗らしい考え方だね。剣士として主に忠実でありたいという意思を持ちながらも、剣士として自らの道を進みたいという意思までもを持っている。でも正宗、君は僕に忠実であり続ける必要は無いんだ。君は僕からの任務さえ遂行してくれれば、後は自分の生きたいように生きてくれて構わない」
 ――そう。彼は、主でありながら主ではない。ただ正宗という一人の剣士を、自分の駒として使いたいだけの一個人に過ぎない。
 故に正宗の主は、彼を束縛しようとしないのだ。彼にとって必要な事だけを命令し、後は自分が好きなように動けるよう、正宗を自分から遠ざけようとする。
 だがそれは、彼等にとってはとても都合の良い関係だった。主は主の生き方を、正宗は正宗の生き方を選ぶ事が出来る為だ。
「ならば、私は命の続く限り奴等と戦い続けたい。私の、剣士としての生き方を見つける為に。私は戦う事でしか自分の生き方を探す事の出来ない愚か者だ、しかしそれでも私はこの道を歩もうと思う」
「僕は良いと思うよ、正宗がそうしたいと思うのならね。戦いとは、人と人の思念がぶつかり合う瞬間とは、僕にとってもとても興味深い物だからね……フフフッ」
 正宗が自分のこれから歩んでいくであろう道を語ったのに対し、彼の主はそう答えては、不気味な笑い声を上げる。
 しかしそれでも、主の不気味な笑い声を聞いた正宗は、何かを考えながらふっと笑みを浮かべた。

「……撃退士に左眼を斬られた時から、私はようやく剣士としてあるべき姿を得る事が出来るのかもしれないと期待していた。向き合い、剣を交え、勝った者が負けた者の命を狩る。その期待は、どうやら現実の物となりそうだな」
 主からの返答を聞いた正宗の心からは既に迷いが消え去っており、それを受けて彼は、これからは自分が真に剣士として生きていく事が出来るのだという事を考え、それに喜びを感じていた。
 何故、彼が主に忠誠を誓う事で使徒となったのか。その真意は正宗以外に知る者は居ないが、それでも彼はようやくその目的を達成出来るのかもしれないという可能性を感じ、剣士としての真価を発揮しようとしている。
「主よ、この戦いも確実に任務を遂行してみせる。任せてくれ」
「期待しているよ、正宗。君の力も、自分の生き方を探す中で徐々に強くなり始めている……その力がどこまで強力になるのか、僕としてもとても興味があるんだ。だからこそ、此処で負ける訳にはいかないよ」
 剣士として生きる事を許された正宗が決意を改めてそう言うと、彼の主は任務が無事に成功する事だけを考えながら、廃病院の奥へと姿を消していく。
「……さて、今回も貴様らの生き方を試させてもらうぞ。私が剣士として生きる事を許されたからには、最後まで付き合ってもらおう」
 笑みを浮かべ、刀の柄に手をかけた正宗は、そう呟いては廃病院の一室へ向かって歩み始めたのだった。


 同日、久遠ヶ原斡旋所。
「関東の外れにある、かなり昔から放置されている廃病院に正宗が現れたという報告が入った。前回の作戦結果から察するに、今回は何らかの行動を起こしてくるだろう……警戒を怠らないようにしてくれ」
 そこでは事務員の黒瀬信志が、前回の敵の作戦が陽動作戦であった事を踏まえ、今回行われる事になる正宗との戦闘への警戒を強めていた。
「……相手が何を目的としているのかは分からない。だが、少なからず俺達が立ち止まっている余裕は無さそうだ」
 高速道路封鎖に使用されていた防壁型サーバントの調査を行い、現場の調査を終えようとも敵の真意が判明していない以上、出来る限り早めに相手の目的を突き止めたいと考えた信志は、決意を改めたようにして前を向き。
「本作戦は、俺も同伴させてもらいたい。少し、気になる事があるんだ……これは俺にとっての問題という事もあって、君達に話す事は出来ないんだが。作戦に私情を持ち込むべきではないのかもしれないが、どうしても確かめたい事がある」
 彼が前作戦で現場の調査を行った時、突然脳裏にフラッシュバックした罪の記憶。そして、自分に向けて矢を放った者の正体。彼は事情があって前線と距離を取っている身ではあるが、事務員ではなく一人の撃退士として、それに関する『何か』を確かめたいのだろう。

「勿論足を引っ張るような真似はしない、これでも現役時代は精鋭と呼ばれていたんだ。今度こそ、絶対にあの男から真実を聞き出さなければな」
 正宗達が一体彼に何を望んでいるのか。そして、何を目的として撃退士との戦いを続けるのか。それを確かめる為には、やはり再び戦う他に道は無い。
 それ故に、信志は再び前線へ赴くという道を選んだのだ。罪と過去を背負っている彼が、再び普通の撃退士としての道を歩めるように。そして、この戦いに終止符を打つ為に。
「……迷惑をかけてしまってすまないな、だが今回ばかりは許してくれ。本作戦の目的は一正宗との戦闘を経て、彼等の目的を聞き出す事。以上だ、戦場へ向かうぞ」
 作戦内容を説明し終えた彼は椅子から立ち上がり、そして戦場へ赴く為に歩み始めるのだった。



●解説
 廃病院に現れた一正宗と交戦し、その目的を聞き出す事が本作戦の目的となります。
 また、本作戦には黒瀬信志が同行し、共に戦闘を行います。事務員としての活動は以前と変わらず行う事となる為、質問卓での質問が可能です。


リプレイ本文


 関東某所にある、人々から忘れ去られた廃病院。
 正宗の出現報告を受けてこの廃病院へと赴いてきた六人の撃退士と黒瀬信志が、周囲を警戒しながら病院の奥へと進んでいくと、待合室だったと思われる比較的広めな一室の中に、使徒である一正宗の姿があった。
 刀を構える事もなく、ただ腕を組みながらニヤリと笑みを浮かべる正宗。しかし、それを見た十三月 風架(jb4108)は正宗の前へと歩み出て。
「お久しぶりですね、風神の剣士正宗…新たな誇りは見つけられましたか?」
「ほう、その姿と声……君は、あの時の」
 風架の姿を見た正宗は、彼と初めて戦闘を行った時の事を思い出したようにして、刀を手に取る。
「初めまして、一ちゃん。こんな何もないところに何の用かな? あ、僕は砂原ジェンティアン。気軽にジェンって呼んでねー」
 しかし、風架に続いて砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)がそう名乗ってみせると、それを聞いた正宗は竜胆の方へと視線を向けた。
「砂原……と言ったな、名を覚えておこう。尋常な勝負を望んでいる訳ではなさそうなのが、少し残念ではあるが」
 剣士としての誇りと言う物なのか、それともまた別の意味なのか。しかしそれでも竜胆の名を聞き、そしてそれを覚えたと答えた正宗は、他の撃退士達の方へと視線を向けては、またもニヤリと笑みを浮かべた。
「やはり来たか……罪人よ。その記憶の裏には、一体どのような信念が眠っているのだろうな?」
「……さて、貴様にそれを教える義理は無い」
 正宗が罪人と呼ぶのは、信志。だが正宗の言葉を聞いた信志は特にこれと言った言葉を返そうとせず、ただ刀を構えては前を向くのみ。

「一つ、問うておく。此処に居る者達は、一体何を目的として戦っているのか……それを私に証明しようとする気は無いだろうか? もし私の問いに答えるというのであれば、私の目的を明かす事もやぶさかではない」
 正宗が求めているのは勝利でも、そして名誉でも無い。ただこの男は、自分が胸の内に秘めている疑問の答えを探しているのだ。
 ――何を目的として戦うのか。何を目的として剣を握るのか。それらを知る事で、自らが何を目的として剣を振るっているのかという『生き方』を見出す為に。
「……無論、剣を交え、その戦の中で生き方を問う。それが剣士の問答という物だろう」
「やり合うには申し分の無い相手だ、ボクとしては全開でお相手して欲しい所」
 そんな正宗の問いを聞いた天羽 伊都(jb2199)は、刀を構えては正宗の問答に応えようとする意思を見せる。
 それを見た正宗もまた、自身の周囲に風を発生させ始めるが、その一方でマクシミオ・アレクサンダー(ja2145)は呆れたように溜め息を吐いた。
「喋りながら戦闘ってかァ? 随分悠長さんじゃねーか。お前らと違ってこちとら非力な人間様なンでね、いつだってマジモンの死に物狂いってワケ」
「人間……か」
 何かを考えるようにしてそう呟く正宗ではあったが、返答が無い事を確認したマクシミオは更に言葉を続ける。
「いっそさァ…ここで一発、てめェの全力を見せてくれよ。生半可な技じゃァ、人間のしぶとさは脅かせねェぜ?」
「見せしめに一発、という事か? 中々に面白い事を言うな」
 マクシミオの煽りを聞き、正宗は刀を両手で構えてはそれを振り上げようとするが、しかしそれを見て撃退士達が身構えると、正宗はフッと笑っては刀を下ろした。

「私の技を見たいのであれば、私の問いに……私の期待に応えてみせよ。剣士の誇りなどと言う仮面はとうに捨て去った、その生き方を示す事で私を楽しませてみせろ」
「生きるってのは、格好つけ続けるって事だ。安っぽい意地と見栄を張り続けられるなら、野たれ死んでも本望だ」
 ようやく戦う姿勢を見せた正宗に対し、向坂 玲治(ja6214)がそう答えると、正宗は刀を構えては深く腰を落とす。
「……報いを受けるその日まで、戦う。それだけですの」
「ならば、挑みに来い――!」
 橋場・R・アトリアーナ(ja1403)の言葉を聞いた正宗がそう言ったのを皮切りとして、真っ先に正面から突っ込んで行くのは伊都。
 眼にアウルを集約させた状態の彼が正宗に素早く接近し、そしてその手に持っている刀を振り下ろすと、正宗は正面から刀でそれを受け止めた。
「その攻撃の重み、実に良い太刀筋をしている。手馴れの剣士、といったところだろうな?」
「ボクの生き方は闘争する為に在る、人生とは闘争の日々であり他者との戦いは避けにくいモノだ!」
 そう言った伊都は正宗の刀を勢い良く弾いては懐に踏み込もうとするが、正宗はそれを見切ったようにして後方に移動し、敵の多さから壁に背を預けるような位置取りをする。
「但しヒトはその闘争する相手を選び周囲を救う事も出来る。ボクは1秒でも敵対者である天魔と闘い抗う事で日本を、世界を救っている!」
「その志、見事だ。しかし言葉だけでは世界は救えぬぞ、その刀で力を示してみせよ!」
 接近してくる伊都を前に、彼の言葉に対してそう言い返した正宗は、瞬時に刀を振り抜いては竜巻を放つ。
 伊都は咄嗟に回避行動を取る事でその竜巻を避けようとしたが、移動速度の速さ故に完全に避けきる事は出来ず、直撃は回避したものの竜巻が彼の腕を掠める。

「その真意、確かめさせてもらおうか。何故俺を狙っているのか、何故俺の過去を知っているのか……!」
 しかし、伊都が正宗の注意を引いている内に正宗の側面を取った信志は、素早く間合いを詰めては刀を振り下ろすものの、正宗は素早くそれに反応しては刀を刀で弾き返した。
「さて。その狙いは我が主に問え、貴様が私の問いに答えようというのなら別だがな」
 だが正宗と信志が受け答えをしていたその時、正宗の前方からアトリアーナの放った鉄球が飛来した為、正宗は咄嗟に風刃を放っては信志を後退させ、刀でそれを受け止めようとする。
「……この重量と勢いまで、難なく止めれると思わないことですの」
「く……」
 アトリアーナの放った攻撃は正宗が今まで受けてきたどの攻撃よりも重く、それを受け止めた刀が耐えられないと判断した正宗は、即座に受けから回避に転じ、その鉄球を回避した。
「生きる理由は生まれたから、それだけで十分。自分はただ生きるだけです!」
 そしてアトリアーナと少しタイミングをずらして正宗の側面から斬り込もうとする風架ではあったが、咄嗟に体勢を立て直した正宗は彼の刀を今までと同じように刀で受け止め、睨み合う。
「ならば問うぞ、黒き風の剣士よ! 君は何が為に戦う、君は何が為に生き続けるのだ!」
「志半ばで死んだ者、生まれる事さえできなかった者、望まぬ死を迎えた者がいる以上、生者には今を全力で生きる義務がある!」
 正宗の問いを受けた風架は刀で刀を弾き返し、一歩深く詰め寄るが、それを見た正宗もまた刀を振っては風架に詰め寄り、これ以上は譲らない姿勢を見せる。
「義務があろうとも、力が無ければそうする事は許されない! なればこそ、君は一体どのような技でその義務を果たそうとするのか見せてみよ!」
「自分は人間である今を全力で戦い抜く、望まぬ死を迎える者が居なくなるように! 望まぬ死を迎えた者達の分まで生きるために!」
 だが風架が更に一、二と刀を振っては正宗を押し返すと、それを受けた正宗は満足気な笑みを浮かべては、深く腰を落とした。

「まぁ、アレだ。真っ向から削り合いといこうぜ……!」
 しかし、正宗の反撃を許さないようにして風架の反対側から一気に接近した玲治は、大きく振りかぶっては拳を叩きつけるようにして光の力を帯びた強烈な一撃を放つ。
「これが一対一であったのなら、私も楽しめたのだろうがな……ッ!」
 不意に放たれた強烈な一撃を刀で受け止める正宗ではあったが、その衝撃は正宗の肉体にも到達し、それを受けた正宗は足元に風刃を放っては咄嗟に玲治と距離を取る。
「さて勝負、と」
 だが正宗が玲治との距離を取るのと同時に竜胆は、正宗との距離を詰めては自身を中心とした魔方陣のような物を展開する。
 竜胆は上手く魔方陣の範囲内に正宗を捉える事で、正宗が多用している風刃を封印する事に成功したようだった。
 しかし風神の加護を受けたその剣術までもを封じる事は出来ない為、技を封印された事を厄介に感じながらも、正宗は落ち着いて刀を構えては長く息を吐く。
「生き方なんて、殺し合って理解出来るモンじゃァ決して無ェんじゃねえかな。それで理解出来るンなら、哲学も武士道も発展しねーだろ」
 正宗が息を吐いているのを見たマクシミオは、先程攻撃を受けた伊都に対してライトヒールを使用しながら、正宗に対してそんな言葉をかけた。
「あれはきっと言葉の海で、思考の森で、共に探索する仲間を探すためのモンだと俺は思う」
 彼の言葉を聞いた正宗は、自分自身が今まで戦うだけであったという事もあって、そんな『新しい考え方』を聞いてはマクシミオの方へと視線を向ける。
「だからさァ、思うんだ。物騒なモンしまって、てめェと茶でも飲みながら喋ってみてーとか、な。それのが武士らしさってーのも一層あると思うし」
「戦だけが武士の華ではない、という事か。確かに私がこのような戦うだけの立場になっていなければ、私が君と言葉を交わすだけの時もあったのかもしれないな。無論、これは可能性の話に過ぎないが」
 しかし、やはり正宗は自身が主より受けている命を全うしなければならないという考えから、マクシミオの言葉の意味を考えながらも刀を構え直した。

「……冗談だよ。俺らがイケても、そっちのご主人様が許してくれねェだろ?」
「そういう事だ。私が剣士として生きていく為にも、主から受けた使命は全うしなければならない。しかし、もし叶うのであれば……一度、腰を据えてじっくりと話をしてみたいものだ」
 だが会話が途切れるのと同時に、治療を受け終えた伊都が刀を構えながら距離を詰めて来ようとしているところを見た正宗は、今度は自ら前に出ては伊都と刀をかち合わせる。
「世界を救うというその意思が、この力強い一撃を成しているのだろうな……!」
「それに、ボクは男だ。戦ってる時って楽しいだろ? あんたも武人やってるなら、そんな難しい事考えなくても分かるんじゃない?」
 伊都の言葉を聞いた正宗は、ニヤリと笑っては彼の刀を力強い一撃で弾き、そのまま流れるように腰を深く落としては口を開いて。
「ああ、実に面白い……! 私はその言葉に応えよう、この剣技を以て!」
 今現在、正宗の周囲には伊都だけでなく風架、更には背後からの支援攻撃を仕掛けようとしている信志までもが居る。
 それを感覚で感じ取った正宗は、生きる道を切り開かんとする己が刃に懸け、刀に意識を集中させては封印状態の解除を試みる。
「その刃に問え、生きる道の在り方を――!」
 すると、今まで封じ込められていた風は封印を打ち破り、それと同時に正宗が一気に刀を振り抜くと、彼を中心とした巨大な竜巻が巻き起こった。

 それを受けた三人は竜巻によって宙へ打ち上げられ、それを見た正宗は伊都の方へと視線を向けて。
「行くぞ、私を楽しませてみせろ!」
 正宗はそのまま流れるようにして風を操り、打ち上げられた伊都の元へと跳び上がっては強い風を纏った刀を振り下ろす。
 それを見た伊都は盾を緊急活性化させ、それを用いて防御を試みるが、繰り出される三連撃の衝撃が強く、風が彼の頬を切る。
 だが伊都はそのまま三連撃を全て受け切り、宙から打ち落とされても尚、地面に上手く着地した。
「我が三連撃を全て受け切る程の意思の強さ……だが、私の本当の目的はそこに非ず」
 しかし竜巻によって打ち上げられた後、ようやく体勢を立て直した信志に対して正宗が視線を向けたその時。
「僕は君を必要としているんだ、来てもらおうか。狂気の宴はこれからだよ、フフフッ……」
 何処からか聞こえてきた謎の男の声と同時に部屋の中へと流れ込んできた強烈な風が、信志の事を包み込んでは彼を何処かへと連れ去っていってしまった。
「私の目的は、撃退士と戦う事。そして我が主の目的は、撃退士にも通用する洗脳術を研究する事……あの男は、主にとって素晴らしい研究対象だったのだ。故に私は、あの男を誘拐するまで君達の目を引き寄せる役目を担っていた」
 この戦いは彼を満足させる程の物だったのか、正宗はそう自分達の目的を明かしては、六人との間に素早く距離を取って刀を両手で構える。

「私を満足させる程の強者が集っているのだ、この技は簡単に打ち砕かれてしまうだろう。だがその目に焼き付けよ、我が奥技を!」
「来るぜ、全力が!」
 奥技の構えを見たマクミシオの呼びかけを受け、撃退士達はそれに応じて身構え、武器を持ち替えたアトリアーナは正宗に対して視線を向けながら。
「……どんな攻撃でも、ボクは撃ち抜きますの。貴方ごと」
 生き方と言える程、大層な物は持ち合わせていない。しかしそれでも、平穏を脅かす者は天魔も人間も関係無く撃ち抜く。
 他者の命を奪う事に躊躇いの無い、そんなアトリアーナの言葉を聞いた正宗は、風が集約しつつある刀を振り上げた。
「何者にも囚われず自由に。僕の主は僕自身、僕に命令出来るのは僕だけだよ。目に見える強さは別に求めない、強いか弱いか……それを決めるのも僕だからね」
 アトリアーナに続いて竜胆の言葉を聞いた正宗は、ぐっと両手に力を入れ直して。
「――キミは『自分』をちゃんと持ってるかい?」
「私は己の真価を問う為に戦に身を投ずる、それだけの話だ――!」
 そしてその瞬間、正宗は刀を振り下ろす事で音速の真空波を放った。

 玲治のシールドバッシュは真空波阻止に間に合わなかったものの、風架の天叢雲凶蛇、マクミシオの拒冥の牙槍が真空波と衝突し、その威力を弱める。
「撃ち抜く、止めてみせるのです!」
 肉体のリミットを解放したアトリアーナの繰り出す五連攻撃によって真空波が粉々に砕けると、再び何処からか吹き寄せてきた強烈な風が正宗の身体を包み込み、そして正宗の姿は徐々に薄れていく。
「正宗、撤退だ。狂気の宴は此処からだよ、フフフッ……楽しみだね」
「……その意思、見届けた。再び剣を交えられる事を楽しみにしている」
 満足気な笑みを浮かべた正宗に撃退士達が追撃を加えるよりも前に、正宗の事を包み込んだ風は彼を連れて何処かへと消え去って行った。
 黒瀬信志の誘拐と、洗脳術の実験という彼等の目的。それらによって幕を開ける『狂気の宴』とは、一体どのような内容を用意しているのだろうか。
 それらの真相はまだ、正宗の主である男にしか分からないのかもしれない――。


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