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マスター:新瀬 影治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/09/30


みんなの思い出



オープニング


 妄想、そしてお宝本。それらは健全な男子高校生である俺にとって、欠かす事の出来ない重要な物だ。
 それらが無ければ俺……吉田良一は、精神を正常に保つ事が出来ないだろう。何故なら、俺もまた普段は撃退士として戦場に赴いているからだ。
「……誰も居ない、か?」
 市街地に出現したディアボロを相棒である竹端と共に薙ぎ倒し、今は市民を避難させる為に仲間と分かれて行動を行っている俺は、市街地の外れにある庭付きのかなり立派な一軒家の中へ来ている。
 まだディアボロが全滅したかどうかの確認が取れていない以上、市民を避難させなければ彼等に被害が及ぶ可能性が高い為、こうして取り残された人が居ないかどうかの確認を行っている訳だが……どうやら居なさそうだな。
「あの、貴方は……?」
 しかし、俺がこの家には誰も居ないと判断して竹端との合流を急ごうとしたその時、背後から女性の声が聞こえてきた為、俺は声のする方へと咄嗟に振り向く。
 ……すると、そこにはポニーテールのような形に結び上げられた黒髪が美しい一人の女性が立っており、彼女が撃退士ではないという事を察した俺は、女性の元へと歩み寄って行く。
「俺は撃退士の吉田良一です。今現在、この場所にディアボロが出没しているというのはご存知ですよね?」
「ええ、聞いております。ですが、気が付いた頃には既にこの家には私以外に人が居なくなっていて……それで、止むを得ずこの場所に居続けていました」
 それはつまり、この女性は家族と共に避難する事も無く、取り残されていたという事か? それはそれで酷い話だが、それならば女性の家族は何処へ行ったのだろうか。
 撃退士の保護無しに避難を行うという事は、ディアボロの襲撃を受けている可能性も高い……。少々嫌な予感がするな。

「私は、篠田沙織です。今、このような事を聞くべきではないのかもしれませんが……私の家族がどうなったのか、ご存知ではありませんでしょうか?」
「……すみません。俺が此処に来たのは少し前なもので、分かりません。ですが撃退士の保護無しに避難を行ったというのであれば、もしかすると危ないかもしれませんね」
 俺の返答を聞いた沙織さんは、何処か心配そうな表情をしながら自身の足元に視線を落とす。
 家族が危険な目に遭っているかもしれない、と聞けば普通の人間であれば心配をしてもおかしくはないのだろうが、それでも彼女は、家族に置いて行かれた立場の人間だ。
「そうですか……無事だと良いのですが」
「貴女の前でこのような事を言うのは間違っているのかもしれませんが、今は貴女の事を置いて逃げて行った者の心配よりも、自分の身を案じてください。ディアボロの全滅はまだ確認されていませんから、危険が及ぶ可能性もあります」
 家族の事を想っている人の前でこのような事を言うのは間違っているのかもしれない。しかし、それでも沙織さんの家族は彼女の事を置いて逃げて行ったという事もまた事実……今は彼女にも『自分勝手』になってもらわなければ困る。
 嫌な予感ほど的中するものだ、恐らくまだこの市街地にはディアボロが潜んでいる。それに加え、今の俺は一人……自分で自分の身の安全を考えてもらわなければ、沙織さんを護ろうとした俺が殺される危険性もあるだろう。

「良一さん、貴方は……何故私の事を? 貴方が撃退士であっても、ディアボロは危険な存在です。それと戦うとなれば、貴方の身にも当然危険が及ぶでしょう」
「それでも俺は、誰かを見殺しに出来る程、非情にはなれないんですよ。貴女と出会ってしまった事が不幸な事だったのだとしても、それでも俺は撃退士として貴女の事を救出する。それだけの話です」
 何故彼女の事を考えているのかと問われれば、それは俺が撃退士だからと答えよう。撃退士である俺は、天魔と戦い、そして誰かを護るという使命を背負っている。
 誰かを護るという大雑把な使命を背負っているからこそ、俺は『誰でも』助けるのだ。それがバカだと言われればそれまでなのだが。
「例え相手が誰であろうが、生きたいと思う人がそこに居るのなら俺はその人を助けます。沙織さん、貴女が生きたいと思わないのであれば俺は今すぐこの場所から撤退しますが……どうしますか?」
 俺は沙織さんに向け、敢えてそのような問いをかける。自分が生き残る為に、そして沙織さんが生き残る為に、自分が今どうしたいのかという事を問いかけているのだ。
 ……すると、俺の言葉を聞いた沙織さんはおもむろに顔を上げ、此方を真っ直ぐ向きながら。
「私は……生きたい、です。元々私は身体が弱かったもので、辛い事も本当に多かったのですが、それでも私が今生きて貴方と出会ったのは何かしらの縁があるのだと思います。ですから、どうか……私の事を助けてください、良一さん」
 そう言った沙織さんの瞳は恐怖によって震えており、そしてその声もまた、震えていた。
「分かりました。貴女が生きたいと望むのであれば、俺は撃退士としての責務を果たすまでです」
 ……なんだろう、この状況は。この状況に出くわしているのは、本当に『俺』なのか? 普段は妄想とかお宝本を読んでムフフしてる俺なのか?
 しかし、今の俺は……言ってしまえば、沙織さんにとってのヒーローのような存在だろう。普段はモテる事も一切無いような俺が、ヒーローだと……?

 竹端よ、俺は今……人生の春を迎えているッ!

 だが、そんな事を考えては感動のあまり俺が拳を握り締めたその時、家の外の方から何かが破壊されるような大きな音が聞こえてくる。
「まぁ、そう上手い話がある訳無いよな……ははっ」
 俺は即座に右手に長剣を、左手に特殊な加工が施されている拳銃を構え、沙織さんを自身の後ろに庇うような形で、家の玄関の方へと視線を向けた。
「まさか、ディアボロ……?」
「沙織さんは下がっていてください、此処は俺が食い止めます。その間にこの携帯電話で俺の相棒に電話をかけてくれませんか? ディアボロが現れた、と」
 怯えたような反応を見せる沙織さんに携帯電話を手渡した俺は、竹端の携帯の電話番号を入力し、俺の代わりに連絡を行ってもらうように頼む。
 ……ヒーローってヤツは、困難を乗り越えてこそ輝く物だ。そして、ヒーローは一人ではない……頼れる相棒、そしてたくさんの仲間達が居る。
「分かりました、任せてください……!」
「お願いします、仲間が来ればこの状況を打開する事も出来る筈です。問題は、竹端が来るまでの時間……。沙織さん、貴女は俺が護る……!」
 一度は言ってみたかったヒーローっぽい台詞を口にした俺は、家のドアを破壊して俺達の前に姿を現した獣型のディアボロと向き合いながら、拳銃にそっと口付けをする。
「……お前の銃、使わせてもらうからな。頼むぜ」
 この拳銃は普通の拳銃とは違い、弾丸の威力は低めではあるものの、防具に相当する程の強度を持っている。
 故に、この拳銃を上手く使う事が出来れば、沙織さんを護りながら戦う事も十分に可能だろう。せめて竹端、欲を言えば増援部隊が到着するまでの間を凌げば、勝機はある……!
「良一さん、どうかご無事で……」
 俺に向けてそう言葉を返してきた沙織さんは電話をかけ始めた為、俺もまたディアボロの方へと拳銃の銃口を向けて。
 そして拳銃の引き金に指をかけたその瞬間、撃退士である俺達の救出劇が幕を開けたのだった。


リプレイ本文


 某日、吉田良一からの救援要請が出されている民家前。
 そこでは5人の撃退士達が、民家の庭に居る4体の獣型ディアボロと対峙していた。
「さぁて、それじゃ行こうか!」
 そう言って光纏し、身構えたのは千葉 真一(ja0070)。赤いマフラーを首に巻いている、ヒーローのような撃退士だ。
「任せましたよ、千葉。道は俺達が切り開きます」
 真一が身構えているところを見た樒 和紗(jb6970)は、彼にそう声をかけては弓を構え、そして民家の入り口付近にいるディアボロ1体に向けて矢を放つ。
 矢が放たれた事に気付いたディアボロはそれを即座に回避するも、和紗が狙っていたように、ディアボロを民家の入り口から遠ざける事には成功したようだ。
「仲間の救出も民間人の保護も、撃退士ならば当たり前の事。行こうか」
 和紗の攻撃に続き、血界を使用する事で全身にアウルの力を循環させた礼野 智美(ja3600)は、真一の突入を支援する為にも刀を構えながらディアボロ達の中へと突っ込んでいく。
 突っ込んでいく中で智美は跳び上がっては宙返りを行い、滑空の勢いと共に強烈な蹴りを民家の入り口付近に居るまた別のディアボロに命中させる事で、攻撃を命中させた対象だけでなく、その周囲に居る3体のディアボロの注目までもを自身に引き付けた。

「……さて、私も突破口を切り開かねばな」
 注目を引き付けた事で、智美の周囲に居るディアボロの内の1体が彼女に飛びかかろうと身構えたものの、エレイン・シルフィード(jc0394)がヒュグロマンテイアを使用した攻撃を行う事でその行動を阻害し、1体のディアボロを比較的遠い場所まで後退させていく。
「よーし、このままアタシもやっちゃうぞー!」
 そしてその時、今まで単独行動を行っていた並木坂・マオ(ja0317)が民家の屋根上に姿を現しては、智美の事を取り囲もうと動いている3体のディアボロの内の1体に狙いを定め、それに対し屋根からの跳び蹴りを試みる。
 マオの跳び蹴りは狙っていたディアボロに直撃し、滑空の勢いも相まってそれを吹っ飛ばす事に成功。吹っ飛ばされたディアボロは地を転がるが、しかしそれでも獣型である為に素早く体勢を立て直し、その視線を智美の方ではなく今度はマオの方へと向けていく。
 一方、マオ達が近接攻撃を仕掛けては突破口を切り開く中で、マルゴット・ツヴァイク(jc0646)は少し離れた場所から、購入したばかりのPDWを構えていた。
「これ以上、犠牲は増やさせない……」
 そう呟いた彼女は、相変わらず智美の周囲に居る2体のディアボロの内の片方に対してそれを発砲する。
 まだPDWの扱いに慣れていないのか、マルゴットは射撃時の反動に振り回されているものの、しかしそれでも的確に弾丸を命中させ、智美が数体のディアボロに包囲される危険性を完全に排除した。

「よし、此処は任せたぜ」
 仲間の行動によって民家への道が切り開かれたと判断した真一は、ブーストを発動しては一直線に民家の方へと突撃し、ディアボロの邪魔を受ける事も無く吉田の援護へと向かっていった。
「では、此処に居る敵は俺達だけで排除するとしましょう。どの程度の耐久力があるかは分かりませんが、弱体化させておきましょうか」
 真一が無事に民家の中へと突入した事を確認した和紗は、智美と対面しているディアボロに向けてアシッドショットを放ち、それを命中させる事でディアボロの胴体の一部分を腐敗させる。
 それを受け、智美はディアボロが行動を起こすよりも先に刀を構え、紫焔を武器に集中させてはそれを燃え上がらせた。
 そして彼女はそのまま目にも止まらぬ速度で刀を一閃させ、腐敗した部分を的確に斬り裂く事で、反撃を許す間も無くそれを撃破する。
「成る程、来るか」
 しかしその一方で、先程エレインが攻撃を行った事で撃退士との間に距離を置いていたディアボロが、爪を鈍く光らせながら彼女の方へと突進してこようとしていた為、それを見たエレインは軽く息を吐いては自ら迎撃に出た。
 エレインは鉄扇を構えながらそのまま素早くディアボロの懐に飛び込み、振り下ろされた爪を素早く回避しては、流れるような動きでディアボロの右腕を斬り落とす。
「逃がさないよー、アタシだって居るんだからね!」
 腕を斬り落とされた事で本能的にエレインと距離を取ろうとするディアボロだったが、それを見逃さなかったマオはディアボロの側面から的確にダッシュ蹴りを決め込み、それを逃がす事無く撃破する。

 囲まれる事も無く、的確に1体ずつディアボロの数を減らしていく事で民家の庭に残されているディアボロは残り2体となったが、しかしその内の片方が爪を剥きながら智美に飛びかかろうとしていた。
 それを見たマルゴットは、遠距離からPDWを用いて鋭い一撃をディアボロに命中させ、それを上空から的確に撃ち落とす。
 撃ち落とされたディアボロはマルゴットの一撃によって深い傷を受けており、そのまま地面でのたうちまわっているが、それを見た和紗は弓を構えて。
「ケリをつけてしまいましょう、今ならば畳みかけられます」
 そう言った彼女は敢えて傷を負っていない方のディアボロに向け、光を纏った矢を放つ。
 そして放たれた矢はディアボロの不意を突くようにしてその肉体を貫き、一撃でそれを仕留めた。
 ディアボロを撃破した和紗に続き、瀕死状態のディアボロに接近した智美は、それに対して鬼神一閃を放つ事でトドメを刺し、庭に居るディアボロ4体を全滅させたのだった。

 一方その頃、民家内部では吉田がディアボロ2体を相手に防御主体で戦っており、彼の背後に居る沙織は無事だが、攻勢に転ずる事が出来ずに苦戦していた。
「ちっ、いつまでも凌ぎ続けるだけじゃラチが明かねえ……!」
「頑張ってください良一さん、助けはきっと来ます……!」
 逆転の兆しが見えない現状に対してそう言葉を漏らす吉田ではあったが、その時、彼の前に真一が飛び込んでくる。
「……いや、ヒーローのお出ましみたいだな」
「天・拳・絶・闘、ゴウライガァッ!! ここからは、ゴウライガが相手だ!」
 救援部隊が到着したのだと把握した吉田がふっと笑みを見せると、真一はそのヒーローネームを名乗り、2体のディアボロを相手に立ち向かう。
 新たに姿を現した撃退士である真一に対してディアボロ2体は警戒するような姿勢を見せるが、しかしその内の片方が真一に向けて飛びかかろうとすると、彼は拳を構えて。
「ゴウライ、パァァァンチ!」
 そして真一は飛びかかってくるディアボロに対しルートアウトを命中させ、攻撃の命中箇所に稲光の如き閃光が走るのと同時にそれを吹っ飛ばした。

 しかし、それによって生じた真一の隙を見たもう片方のディアボロは彼に攻撃を仕掛けようとしていたが、それを見た吉田は真一とディアボロの間に飛び込んでいく。
「せっかくのヒーローの戦闘シーンだ、邪魔はさせねえぜ!」
 そして吉田は剣と銃を用いた素早い三連攻撃を行い、ディアボロの両腕を的確に斬り落とした。
「やるな、一気に畳みかけるぞ!」
「おう、ヒーローさんよ!」
 吉田の援護行動を見た真一は彼に声をかけ、それを承諾した吉田と共に、このまま一気にディアボロ2体を撃破する為に動き出す。
「ゴウライ、クロスプリットキック!!」
 体勢を立て直した真一は両腕を斬り落とされているディアボロに対し、目にも留まらぬ素早い蹴りを直撃させる事でそれを撃破した後、そのまま流れるように奥に居るもう1体のディアボロに対しても蹴りを命中させていく。
 それを見た吉田もまた、素早くディアボロとの間合いを詰めては剣と銃を用いた二連攻撃で追撃を行い、2体目のディアボロも順調に瀕死状態に追い込んだ。
「ゴウライガ、ラストを決めるのはヒーローであるお前だ!」
 すると、瀕死状態のディアボロを見た吉田は真一に対してそう声をかけ、それを聞いた真一は深く腰を落とす。
「助けを求める者が居るのなら、それに応えるのがヒーローだ! ゴウライ、パァァァンチ!」
 真一はそのまま正義の拳で最後のディアボロにトドメを刺し、吉田と沙織を救出する事に成功したのだった。


 無事に沙織を護り抜いた吉田は、彼女を連れて真一と共に庭へと出て行く。するとそこでは、他の5人の撃退士達がディアボロの退治を終えて待っていた。
「間に合ったようですね。大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫です。皆様のお陰で、私はこうして今も生きています」
 安心からか、ほっとしたような表情をしている沙織に対して和紗が気遣ったように声をかけると、彼女はふっと笑みを浮かべては、自分が無事であるという事をしっかり伝えてくる。
「どうやら、無事のようですね。やるじゃないですか、吉田」
「それでも皆さんが来てくれていなければ、俺も危なかったと思います。和紗さん、わざわざ申し訳ない」
 そして和紗がそのまま吉田に対しても労いの言葉をかけると、吉田は軽く首を横に振っては、和紗に対して頭を下げた。
「それでも吉田が篠田さんを護ったのは事実だし、良いんじゃないのか? 篠田さんも、良かったな」
 だが、反省したような言葉を述べた吉田に対してそう言ったのは、真一だった。そして真一がそのまま沙織に対しても声をかけると、彼女は笑顔を浮かべては黙って頷く。

「……まぁ、俺がやろうとした事をやり遂げられたっていう意味では満足しても良いのかもしれないな。その割には、庭に居たディアボロ達は他の皆が倒してくれたみたいだけどよ」
「やれやれ、これでは正義の味方どころかただの仕事人ではないか……」
 庭にも数体のディアボロが倒れている事を確認した吉田がそう息を吐くと、エレインはまさにやれやれと言った様子で言葉を返す。
「おーい、相棒! 待たせたなー!」
「竹端ッ!? 遅いぞ、もう全部終わってるわこんちくしょうッ!」
 しかし、その時何処からか吉田の相棒である竹端が姿を現した為、吉田が既に全て終わっているという事を彼に伝えると、竹端は辺りに広がっている光景を見てはギョッとしたような表情を見せた。
「それで、その方のご家族は?」
「あぁ、先にこっちで保護してますよ。どうにも焦りから混乱して一目散に助けを呼びに来たみたいで、沙織さんが危ないって心配してたぜー?」
 沙織の家族がどうなったのかという事を智美が竹端に問いかけると、彼は至って平然とした表情でそう言っては、沙織の方へと視線を向ける。

「……沙織さん、申し訳ない。緊急時だったとは言え、俺は貴女の家族に対して失礼な事を言ってしまった」
 だが、竹端の話を聞いた吉田は、沙織に対して頭を下げる。何故なら吉田は沙織を保護した際に、沙織の家族は彼女の事を置いて逃げたのだと考え、それに関連する言葉をかけてしまっていたからだ。
「もう、大丈夫……」
「……いいえ、問題ありませんよ。良一さんも誰かを救いたい一心でそうしたのだと思いますし、何よりこうしてたくさんの方々が私の事を助けに来てくださったのですから、それを喜ぶべきだと思います」
 しかし吉田が頭を下げるのと同時に、マルゴットは沙織の事を安心させる為か、沙織の元へと歩み寄っては彼女に微笑みかけていた為、それを見た沙織は自分達が今生きているのだという事を喜ぶべきなのだと考え、吉田にそう言葉を返した。
「貴方達は、私にとってのヒーロー。ですから顔を上げてください、貴方達が私という一人の人間を救ったという事には違いありません」
 沙織にとってのヒーローとは、この場所に居る撃退士全員の事を指している。しかしそれでも、吉田が身体を張って彼女を助けようとした事もまた事実である為、沙織には誰一人として暗い表情をして欲しくないという想いがあるのだろう。
 そんな想いから出た沙織の言葉を聞いた吉田は顔を上げ、今度はエレイン達の方へと視線を向ける。
「皆さんも、本当にありがとうございました。俺は沙織さんにとってのヒーローになろうとした、しかしそれでも……俺は救われた側に過ぎない」
「なぁに、今は君の正義を共有しに来たまでよ」
 結果としては吉田も、今回の作戦に参加した撃退士に救われた側の人間。そう考えた彼がエレイン達に向けてそう言葉をかけると、エレインは吉田に対し、そんな言葉を返した。

「ヒーローなんかじゃないですよ、護りたい人を皆守れる訳じゃない。出来るだけの事しか出来ませんから」
 更にエレインの言葉に続けて智美がそう言うと、それを聞いた沙織は静かに首を横に振って。
「確かに、ヒーローだからと言って全ての人を守れる訳ではないのかもしれません。ですが、力を持っていない私にとっては、少なからず貴方達はヒーローのような存在に思えます。悪に立ち向かい、そして弱き者を救おうとする勇敢な方々……それをヒーローと言わずして何と言うのか、と思える程に」
 智美の言っている通りで、ヒーローだからと言って全ての悪を滅ぼせる訳ではない。困っている人を全員助けられる訳でもない。
 しかしそれでも、助けられた側の人間からしてみればそれは紛れもない「ヒーロー」であり、未来を切り開いてくれた特別な存在なのだ。
「さーて、お二人さんはこの後どうなるのでしょうかー。ちょっと楽しみだね?」
 自然と肩を並べていた沙織と吉田に対し、マオがニヤニヤしながらそんな事を言うと、吉田は沙織の方をチラッと見ては空を見上げた。
「俺は、沙織さんにはこれからも生きていて欲しい。俺が救ったからとかそういう訳ではなくて、ただ純粋に人として人生を楽しむ為に。俺が思うのはそれだけだ」
「えー」
 マオは吉田の方を向きながら不満そうな様子を見せるが、しかしそんな吉田の言葉を聞いた沙織は撃退士の方を見回して。
「……皆様に助けられた命、大切にします。今日という日に起きた出来事は、私にとっての一生の宝物になる事でしょう。この場に駆け付けてくれたヒーローの皆様の事、忘れません」
 沙織の言葉を聞いた吉田は、眼鏡をかけ直しながら自嘲したようにふっと笑うが、少し間を置いては沙織と同じように撃退士達の方を見回す。

「この救出劇は他の誰でも無い、貴方達によって切り開かれた結末で幕を閉じます。6人のヒーローと1人の役立たず、それに俺が、誰一人として欠けずに沙織さんを助け出したという結末で」
「おい、誰が役立たずだよ! 俺はこれでも色々な人助けてんだろうがぁー!」
 吉田の幕引きの台詞を聞いた竹端は不満そうな反応を見せるが、しかしそれでもそれを聞いた沙織はふふっと笑っては前を向いて。
「皆様は、私のヒーロー。どうかこれからも、前を向いて進んで行ってください。皆様に救い出された私は此処で、皆様のご健闘をお祈りしております」
 こうして男子高校生と撃退士達の救出劇は、救い出された沙織の笑顔によって幕を閉じるのだった――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 天拳絶闘ゴウライガ・千葉 真一(ja0070)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
重体: −
面白かった!:2人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
撃退士・
エレイン・シルフィード(jc0394)

大学部6年228組 女 陰陽師
揺らがぬ銃口・
マルゴット・ツヴァイク(jc0646)

中等部3年11組 女 インフィルトレイター