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某日、スライム型ディアボロの大量出現が確認されている山の入り口。
事前の確認段階に於いて、山の管理人は「あいつらを倒してくれるんだったら、キャンプ場だろうが芋だろうが用意してやるぜ!」と言っていた為、それを聞いて乗り気になっている一部の撃退士も含めた六人の撃退士は、山の中へと踏み込んでいく。
「頑張りましょう、秋の味覚の為に!」
そう言ってやる気を見せたのは、藍那湊(
jc0170)。目的はディアボロの殲滅である為、勿論彼はそれを目的として此処へ来た訳だが、しかし本当のところは一仕事を終えた後に秋の味覚を楽しみたいと考えているらしい。
「秋の味覚よりも、山で暮らす動物達が心配です。食料も減れば、冬越えも大変になるでしょうし……早く何とかしないといけません」
だがそんな湊を横目に、悪魔としての姿で行動しているヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)は、この山で暮らしている動物達の事を気にかけているようだ。
こうして個々違った事を考えながらも六人が山の奥へと進んでいくと、どうやらスライム型ディアボロ達が活動している範囲内に突入したのか、キノコが食い荒らされた跡が残っている。
「ふむ、当事者には悪夢の光景だな……。敵が集まり固まる前に、確実に潰す」
常磐木 万寿(
ja4472)は、そんな食い荒らされた跡を観察しては周囲にも同じように何かが食べられた跡が残っているのを発見し、被害の甚大さを認識してはディアボロ討伐に意欲を見せる。
「せっかくの秋の味覚を全く味わいもせずに無駄食いなんて、随分と風情が無い連中ねェ……とりあえず殺処分確定ェ♪」
万寿と同じく、秋の味覚が食い荒らされた跡を見てそう呟いたのは、黒百合(
ja0422)。ディアボロ達は痕跡から確認するにただ本能のままに、この山を荒らす為に秋の味覚を喰らっていると思われる為、彼女はそんな風情の無いディアボロ達に殺意を抱いたのだろう。
「えっと、キノコ狩りしたかったです……。お腹空いてきました……」
それを聞いて久慈羅 菜都(
ja8631)は腹を鳴らすが、しかしその時、近くの木陰からゴソゴソと何らかの物音が聞こえてきた為、撃退士達は揃ってその音に反応し、武器を構えた。
そして木陰から姿を現したのは、1体のスライム型ディアボロ。だが良く確認してみると、山の奥にはこの1体だけに留まらず大量のスライム型ディアボロが蠢いている。
「どうやら自分から出て来てくれたみたいね、私がすぐにケシズミにしてあげるわ!」
ディアボロの姿を見た六道 鈴音(
ja4192)は、即座に身構えては1体のディアボロに対して紅蓮の炎と漆黒の炎が束なった強烈な炎の魔術を放ち、そして宣言通りにそれを消し炭に変えた。
そんな鈴音に続き、ディアボロが一ヶ所に固まっている事に加え周辺環境への被害が少なく済みそうだと判断した黒百合は、燃え盛る劫火を出現させ、更に3体のディアボロを一瞬の内に燃やし尽くす。
しかし、スライム型ディアボロの群れを見つけるや否や、どうやらディアボロ達は撃退士の気配を嗅ぎ付けては秋の味覚を食べながらも撃退士の元へと集まってきているようで、次々とディアボロが自ら姿を現し始めた。
「美味しい栗とか、全部食べちゃったんですか……?」
ディアボロ達が這いずるようにしながら近寄ってくるのを見た菜都は、そう呟いては1体だけ群れの中から突出してきたディアボロの元へと素早く接近し、刀でそれをすくい上げるようにして斬り捨てる。
「うりゃー!」
菜都に続き、湊もまた不用心に群れから離れて行動していたディアボロを1体素早く処理するが、そんな彼の存在を察知した数体のディアボロ達は、湊を襲う為に彼の方へと移動を始めていた。
「ダメージは無さそうですが、身体に付いたら掃除が大変そうです。何にしても、これ以上荒らさせる訳にはいかない……」
だが、それを見たノーチェは磁場形成を利用する事で地面を滑るように素早く移動しながら、湊の元へと迫っていたディアボロ2体を青葉珠で易々と処理する。
そして、万寿もまたマシンピストルを用いて2体のディアボロを1、2とテンポ良く撃ち抜いて撃破するが、しかしそれでもディアボロ達が減る気配は一向に無い。
「よし、まとめて焼き尽くしてあげるわ! 六道赤龍覇!!」
それを逆に好機と見た鈴音は、右手を天に掲げては真紅の龍を彷彿とさせる火柱を呼び起こし、2体のディアボロを先程と同じように消し炭に変えた。
「秋と言えばスポーツの秋よねェ、雑魚敵は雑魚敵らしく私に一汗程度かかせなさいよォ♪」
更には黒百合が、地面から腐泥と血液を噴出させ、直線上に居たディアボロ5体を一気にそれらの中へと呑み込ませる。
スライム型ディアボロ達が何も考えずにただ正面から姿を現した事もあり、撃退士達が攻撃を重ねる事でそれらの数は一気に減ったが、しかしそれでもまだ辺りでは複数のスライム型ディアボロが蠢いているようだ。
菜都はそんなディアボロ達の方へと素早く駆け出しては、曲線的な動きで刀を振るう事でディアボロ1体を斬り伏せ、そして敵の間を縫うようにして更に2体のディアボロを速攻で斬り捨てては、囲まれないように一度ディアボロ達と距離を取る。
しかし、攻撃を終えて隙が出来ている菜都に目がけて、背後から1体のディアボロが跳びかかろうとしているのを視認した湊は、冬を思わせるような冷たい突風を吹かせ、そのディアボロを吹き飛ばした。
「戦うのは好きじゃない……。でも、動物達を脅かすのなら容赦はしない」
だがディアボロが風によって吹き飛ばされた先には他の2体のディアボロが居り、それら3体が一ヶ所に固まっては自爆をしようとしていた為、それを阻止する為にもノーチェは両脚に雷のアウルを、身体に風のアウルを纏わせ、疾風迅雷の如き素早さでディアボロ達の元へと飛び込む。
そして彼はディアボロ3体が融合しかけている中心部分に青葉珠による攻撃を入れ、そうする事でバラバラになったディアボロ達を上空で纏めて機械剣で真っ二つにする事で、それらを的確に処理していく。
こうする事で残りのディアボロは7体となった筈だが、しかし撃退士達の視界内には4体のディアボロの姿しか見当たらず、他の3体は気配も含めて一切察知する事が出来ていない。
「どうやら死角を突く事ぐらいは考えてるみたいねェ、バレバレだけどォ♪」
しかし、神経を研ぎ澄ませては周囲の音に注意を払っていた黒百合は、数体のディアボロが木の上を移動している事に気付き、それらのディアボロが風に乗って奇襲を仕掛けようとしてくるその瞬間、長大な洋弓を用いてそれを1体的確に射抜く。
「奇襲か、後ろだ!」
ディアボロが狙っていたのは、不運にも木に背を向けて立っていた鈴音。万寿はディアボロが迫ってきている事を即座に鈴音に伝えては、自らも素早く銃弾を放つ事で、更に1体のディアボロを空中で撃ち落とす。
「そんな攻撃が効くと思ったら、大間違い――!?」
万寿の呼びかけを受け、鈴音は上空から一直線に飛んでくるディアボロに対し召炎霊符を用いて迎撃、それを撃破するが、しかしそれと同時に、今まで音を立てないように地面を這いずりながら移動していたディアボロ1体が彼女に飛びついた。
「なにこれ、ベタベタする……!」
スライム型である事もあり、ディアボロの身体は粘着質で非常にベタベタしており、それが身体にくっつけば堪った物ではないだろう。
故に鈴音は、身体にくっついているディアボロを即座に力任せに振り落としては、続けて召炎霊符を用いた攻撃でそれを消滅させる。
こうして大半のスライム型ディアボロは撃退士達によって討伐され、残るは特に隠れる事も無く姿をさらけ出している3体のディアボロのみだ。
しかし、残された3体のディアボロは先程まで大量に居た仲間が倒された事で最後の悪足掻きをしようとしているのか、縦に連結しては自爆を試みようとする。
「…………」
だが、ディアボロを殲滅しようとも辺りに実っていた筈の秋の味覚は既に食い尽くされており、それを見た菜都は、手にしている刀に闇を消し飛ばす程に眩い光を纏わせた。
そして彼女は縦に連結しているディアボロの元へと素早く接近し、刀を振り下ろす事で、自爆される前にそれを真っ二つに斬り裂いたのだった。
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「かっかっかっ、お前さん達があのスライム共を倒してくれて助かったぜ! まぁ山にあった食い物は食われちまったが、こいつぁ俺からのお礼だ!」
あれから暫くして、スライム型ディアボロの全滅を確認した撃退士達は、山の所有者とキャンプ場で合流しては芋を焼いていた。
「……良い匂い、楽しみですね」
ディアボロに秋の味覚を食べ尽くされた事で、先程までは少々気を落としていた菜都だったが、芋が焼けてくる良い匂いによって、すっかり気分は元通りになっている。
そしてそんな菜都と同じように、ここからが本番と言わんばかりに芋が焼けるのを心待ちにしている湊。
「残ってたら茸とか栗とか集めて御土産にしたかったのにィ……まァ、来年に期待だわねェ」
「私なんて、天然の松茸なんて食べたことないのに……天魔のくせに生意気よっ!」
しかし、やはり秋の味覚を食べ尽くされていた事は中々に痛い出来事であった為、黒百合や鈴音は少々残念そうにそんな言葉を口にした。
「まぁそう言いなさんな、そろそろ焼けるからよ。俺に出来るのはこんなもんだが、まぁ楽しんでいってくれや」
「落ち葉焚きもいいですが、後片付けはしっかりしてくださいね」
だが、山の管理人はそんな彼女達の事を気遣っては芋が焼けているかどうかの確認を行い、ノーチェもまた山の事を考え、近くの水場から消火用の水を用意する。
その一方で、芋が焼けるまでにはまだ時間がかかると判断した万寿は一人で山の木々を眺めては、徐々に色づき始めている紅葉を発見し、息を吐く。
紅葉を眺める時期にしてはまだ早い為、完全に色が付いている訳ではないが、しかしそれでも色づき始めている紅葉が見れた事を幸運と感じた万寿は、一服しながらどこか満足そうに頷いた。
「――えっと、芋が焼けたみたいですよ。常盤木さん」
そんな時、一人で山の景色を眺めていた万寿の元に、芋が焼けた事を知らせる為に菜都がやってくる。
「ああ、行こうか」
それを聞いた万寿は彼女の呼びかけに応答し、他の撃退士達が居る場所へと戻って行こうとするが、菜都はそんな落ち着いていて背の高い万寿の隣に何気無く並んでみては、何処か嬉しそうな表情を見せた。
菜都が万寿の事を呼びに行っている頃、落ち葉焚きを行っている周囲では。
「ふぁっち……! でも、幸せ〜」
念願の焼き芋を手にしてはそれを食べようとする湊ではあったが、焼き立てであるが故に芋がかなり熱く、彼は息を吹きかけながら少しずつそれを食べ、笑みを浮かべていた。
湊も含め、山にある秋の味覚はスライム型ディアボロに食べ尽くされてしまったものの、それでも焼き芋という秋らしい食べ物を口にする事が出来た為、彼等は先程までとは一変して秋の味覚を堪能する。
無論、楽しんだ後で何らかの事件が起きてしまっては元も子も無い為、黒百合やノーチェはそれらの準備を徹底させているが、しかしそれでもスライム型ディアボロ大量発生という脅威が去ったという事を体感出来ているのだろう。
――しかし撃退士達が焼き芋を堪能している頃、スライム型ディアボロが殲滅されているかどうかを確認する為に戻ってきたある意味で黒幕の一正宗は、味覚も何も残っていない山の中を一人で彷徨い歩いていた。
「まさか、全滅だと言うのか……? あの化け物共は大量に居たとは言え、そんな馬鹿な話が……」
スライム型ディアボロが躊躇いも容赦も無く秋の味覚を食べ尽くしてしまったという事を今更になって知る事となった正宗は、目の前に広がっている光景に目を疑いながらも、それが現実であるという事を思い知らされてはそんな声を漏らす。
これはある種の天誅なのだろう。撃退士を利用し、その後で楽をして秋の味覚を一人で堪能しようとしていたのだから。
働かざる者食うべからずと言うように、スライム型ディアボロ殲滅に加わる事も無くただ美味しいところだけを持っていこうとした罰が当たったのだ。
「だがこの匂い、そして人の声……。私は、まさか秋の味覚を堪能する事も無くこのまま……」
遠方から聞こえてくる、焼き芋を楽しむ人々の声。そして、芋を焼いた事で漂ってくる香ばしい匂い。
使徒であるという事もあり、人の前に姿を現す事も許されていない正宗は、秋の味覚を結局堪能する事も出来ずにこの場を去るしかないという絶望感に負け、その場で項垂れる。
本来であれば正宗が仕掛けた罠。しかし、それでも最終的には彼の首を絞める事となったこの一連の出来事に関する真相は、正宗以外誰も知る事も無く、黒歴史として闇の中へと葬られる事だろう。
山の中に踏み入った近隣住民が、刀を携えた不思議な人物が項垂れているのを見たという噂が後日に流れていたというが、しかしこれにて表向きの騒動は、撃退士達の活躍によって無事に幕を閉じた――。