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マスター:蒼月柚葉
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/12


みんなの思い出



オープニング

●四国某所・国家撃退士詰所

 天界の騎士たちがまだ動いてるというのに、滋賀での戦いが終わってから、今度は冥魔たちの動きも不穏だ。
 野良ではないディアボロによる事件の報告も増え、果てはメイド服を着た悪魔らしき影すら目撃されているという。
 まだ、交戦記録は少ないため、目的もわからずこの詰所の職員も不気味なものを感じている。
 とはいえ――。
「そう思うとこの詰所は平和でよかった、って言えるのかもなー」
「あぁ、まさか四国に配属って言われた時は死ぬかと思ったけど、対して事件もないとこで助かったわ」
 傍らでたばこをふかす同僚と軽口を叩き合う。
 この町は天界の勢力圏に近く、最近噂になっているメイド服の悪魔も数度しか報告に上がっていない。
 しかもそれすら、狐のような耳をはやしていたとか、自分のしっぽを枕代わりに寝転んでひなたぼっこをしていたとか、道を掃除していたとか、訳のわからないものだけだ。
 それに、ここには以前天界の騎士たちが襲撃したような大規模な研究所はないどころか、撃退士に関連する施設はこの詰所くらい。
 人口も大して多くはなく、攻撃する旨みは皆無と言っていい。それを表すかのように偵察用サーバントすらまばらだ。
 少なくとも、この詰所の撃退士たちはそう考えていた。
「そういえば今日、大規模な増援が派遣されるらしいしな」
「らしいな。なんでも、最近の情勢悪化を鑑みて訓練中のも繰り上げたとか。実際退屈で死ななきゃいいんだがな」
 ま、俺たちの仕事が楽になるからいいけど。そういって二人は騒々しく笑った。
「とかなんとか言ってたら、噂のメイドがお茶を汲みにきてくれたりしてな」
「ははっ、冗談のつもりか? いくらなんでも出来が悪すぎるだろ」
「だよなー。まさかこんなところに悪魔が来るわけ――」

 響き渡る銃声。
 少し遅れて聞こえたのは、何かを地面に叩きつける音と警備員の、叫び声。

「おいおい嘘だろ。本当に悪魔が……!?」
 窓のほうへと駆け寄り様子を伺いにいった同僚に、青ざめた表情で聞く。
 ひょっとすると声も震えていたかもしれない。
「…………いや、ち、違う」
 答える同僚の声も震えている。
「あ、あれは……」
 窓の外を白銀の羽根が風に巻き上げられ舞っていく。
 鎖と鎖の擦れる音が響く。

 ――天使の……しかも、騎士だ。

 そう告げた同僚の声がどこか遠くの世界のことに聞こえた。

●献身、故に……

 時は少し遡る。
 焔劫の騎士団に所属する騎士リネリアは自身の居室で、戦いの準備をしていた。
 だが、その表情は決して明るいものではない。
 先日の戦いで回収できたヒヒイロカネはわずかに一つ。あるのとないのとでは大違いだが、研究素材にはまだ足りない。
 自分がもう少ししっかりしていれば、増援の撃退士たちのものは奪えずとも、倒れている撃退士の分は入手できただろうか。
 ズキリ、とその戦いでつけられた傷が痛む。
 それは鎧を浸透し、内部へと到達した衝撃による傷。防衛能力を回避に特化した自身が直撃を許した証。
 だから――。
 その分の研究の遅れは自分で取り戻す。
 彼女はそう決心した。
 もう完治した、そういうことにしておけば、また任務へと行けるから。

 ロベルは連れていけない。
 戒めのためとはいえ、損傷したままの片目と片翼。強がっていても、初陣の恐怖心はまだ消えていないと知っているから。
 リュクスは連れていけない。
 彼の力は防御に長けており、攻撃するには不向き。それに、彼は従士にすらなりたて、まだ戦場に立つどころの話ではない。
 バルには……もちろん言えない。
 先日の戦いで受けた傷は深く、全快とはいかない。怪我をしたまま出撃したなんて言ったら、きっと心配で出てきてしまうだろう。
 彼を安心して休ませる、そろそろ大きな成功が必要だった。

 装束へと袖を通す前に、傷の様子を確認する。与えられた任務の対象はそれほど規模のある相手ではない。
 大丈夫。そう自分に言い聞かせて、装束を着ようとした刹那、音を立ててドアが開かれる。

「……見たっすね」
 出来る限りの低い声でドアを開けた従士、ロベルを咎める。
「部屋に入るときはノックするように、って何度も言ってるじゃないっすか!」
「あぁ、それはわるぅございました。って、そうじゃねぇよ! あの痣――」
 バルじゃなくて、よかった。
 装束を纏い、装甲を抱えて立ちあがる。ドアを開けたままの体勢であっけに取られる彼がつける眼帯に、きゅっと心が痛んだ。
「んじゃ、サーバントの調整してから行かなきゃいけないっすから、これで失礼するっすよ」
「あ、おい!! 待てよ!」
 嘘は付いていない。背中にかかる声を無視し、出来るだけ早く部屋から出ていく。


 天使は知らない。
 自分の大切な者たちが、勝利よりも成果よりも望んでいるのは何だったかという事を。

●旋風となりて

「まずは2つ……」
 研究所を襲撃した天使、リネリアは小さく呟くと同時に、意識を手放し倒れた撃退士からヒヒイロカネを回収する。
 詰所の中からまた新たな撃退士たちがあらわれるが、リネリアを捉えられるような者はいないらしい。
 サーバントたちと連携し、気配を消すと撃退士たちの背後から攻撃をする。
 目的はヒヒイロカネだ。甘いと言われようと抵抗を出来なくさせればそれで十分、わざわざ殺して恨みを買う必要はない。
 圧倒的な力量差があるからこそできる芸当。
 傷は痛むがこのままいけば、何事もなく終わるだろう。

 天使は知らない。
 この詰所へと増援の撃退士が接近しつつある事も、自分を護るために恋人たちが出撃したことも。

●斡旋所にて

「依頼、よ……。また、天使の活動が確認されたみたい」
 シルヴァリティア=ドーン(jz0001)は集まった撃退士たちにそう切り出した。
「四国にある……小規模な詰所が、焔劫の騎士団のリネリアに襲撃されてる、わ」
 これまでの騎士団員たちの活動から、彼らの狙いは撃退士の持つヒヒイロカネなのではないかと推測される。
 小規模とはいえ、詰所に所属する撃退士の装備や保管されている予備の兵装まで持っていかれれば、どれほどの情報を敵に与えるかわかったものではない。
 また、天界の勢力下に近いこの詰所には増援が予定されており、今日がまさにその日だったのだが――。
「増援の部隊も、天使たちに、足止めされてるみたいなの……」
 詰所へと向かっていた部隊もリネリアの従士と見られる天使とサーバント群に足止めをされている。
「貴方達には、詰所の救援を……お願いしたいわ」
 このままでは増援の撃退士たちが到達するまで詰所の撃退士たちが持ちこたえることはできないだろう。
 詰所へと最速で向かい、増援を到達まで耐える、もしくは、リネリアを撤退に追い込むことが今回の目標だ。
 とはいえ、相手は騎士の一人。強力な相手であることは間違いない。
 前回の戦いで相手の手札はすべて見る事が出来たが、おそらく今回もそれらを駆使し戦ってくることだろう。
 また、正面から工夫もなく撃った攻撃くらいならば、難なく避けられてしまうと予想される。
「他のところには……別の子たちが、向かうわ」
 だから、リネリアの相手に専念してほしい。シルヴァリティアはそう告げる。
「騎士たちに、これ以上情報を渡すわけには……いかないから。どうか、頑張ってきて……ね」
 でも、無事で。
 出発する撃退士たちの背を静かにみつめて見送った。



リプレイ本文



 剣戟の響きに誘われる様に、詰所へ到着した撃退士たちが目にしたのは、壊滅寸前の国家撃退士たちの姿だった。
「あぁ〜あ……また好き勝手やってくれちゃって… …」
 辺りを見回したErie Schwagerin(ja9642)が言うのも頷ける。
 天使の振るう鎖や蝙蝠の投下した球体の衝撃を受け、戦場はまるで竜巻でも通り過ぎたかのように無残な姿を晒していたからだ。
「うへ、またアイツか……元気だな」
 久瀬 悠人(jb0684)の言葉とともに現れた二対の翼をもつ蒼竜が、味方に護りの力を付与する。
 まず目指すのは敵陣突破。
 こちらに気付いたサーバントたちが迎撃せんと迫っているのが見える。
「またあのお嬢さんか……」
 頭上を取ろうと飛来した蝙蝠に大剣を横薙ぎに振う桝本 侑吾(ja8758)。
 黒く輝く光の衝撃波をよけるため、蝙蝠たちは軌道を変え攻撃の機会を逃した。
 ――ギィン。
 詰所へ走る撃退士たちの後ろで響き渡る甲高い金属音。
「また貴方達っすか」
 黒須 洸太(ja2475)は答えず、ただ相手の目を睨め返すのみ。
 後方にまわりこみ突き出されたリネリアの槍は、仲間の背中を護っていた洸太が受け止めていた。
(しばらく動けそうな傷じゃなかったけど……。腐っても天使、腐っても騎士団か)
 その一撃の重さに内心顔を顰めつつ、盾で槍を押し返す。
「リネリアさん。貴方は今回何のために戦うのです?」
 魔を祓うとされる白銀の盾を振りかざし、地竜の突進を受け止めつつ御堂・玲獅(ja0388)は問う。
「……天界の勝利のために」
 ――そして、愛する人のために。
「やってることはただの略奪でしょうに、騎士道でも気取っているのかしら」
 ふぅ、とため息をついたErieを地竜から庇うようにエスコートするキイ・ローランド(jb5908)。
 守りきるのが自分の仕事。そこに自身の愛する者がいるのならばなおさらのことだ。
「従士を他で暴れさせて陽動なんてやってくれるね」
 その言葉に一瞬驚いた表情を見せたものの、何事もなかったかのように繕い直す。
 動揺を見せてはいけない、油断ならない相手ならばなおさらだ。
「負傷者を連れて下がってくれ、退路は確保する」
 侑吾の言葉に、国家撃退士たちは負傷者を抱え上げ少しずつ詰所内部へと撤退を開始する。
 その背中を護るように撃退士たちは展開した。
「貴方か、ボクか、要はどちらが頭数を減らせるか勝負っすよ」
 漆黒の鎧に身を包む獅子頭の騎士の姿を取った天羽 伊都(jb2199)が無骨な黒の大剣を突き付ける。
「……勝負、っすか。負けられないっすね、それは」
 伊都はちらりと国家撃退士たちの撤退状況を確認する。そろそろ、全員が内部に離脱できそうだ。
「中に入れないように守っててね」
 キイの言葉に応、と無事だった者たちから声をあげる。心強い増援が来た事で彼らの士気も幾分か上昇したようだ。
 倒れていた撃退士たちはかろうじて息はあるらしい。
 前回もそうだった。この天界の騎士は、撃退士たちを殺してはいない。
 そのことが洸太にとっては非常に腹立たしい事だった。
 偽善は人を腐らせる。無用な情けで逃がした敵が、自分の戦友を殺さない保証などどこにもない。
「君の奪ったヒヒイロカネは……巡り巡って誰かを殺す」
 一夜にして天をにも届けと立ち上る烈火の閃光に飲まれ灰と化した街。
 焔の鳥かごに敵を封じ込めんと研究所に穿たれ巨大な炎の楔。
 もしも、奪われたヒヒイロカネによって、天界の兵器の開発が進めば夥しい量の死者が出る事だろう。
 悪魔にも。もちろん、人間にも。
「この泥沼で、自分だけキレイなつもりか」
 再度突きつける言葉の刃。奪われ続け何も残っていない自分の目の前で無駄な情けなど、ましてや大切な誰かのためなど絶対に許しはしない。
 半ば理不尽な天魔への怨嗟。
 対するリネリアは言葉では答えず、それに鎖を以て応じた。


「……早めに下げてね? 結構派手に吹き飛ばすから」
 駐車場を真っ二つに裂くように深紅の閃光が走る。
 一直線に放たれた逆巻く炎の渦に巻き込まれた地竜たちが身を焦がす業火に悶え、低く唸り声をあげている。

「あの範囲火力はまずいっすね……」
 呟くリネリアの視線の先にはErie。
 結構派手に吹き飛ばすという宣言通りに、彼女は広範囲を焼く焔でサーバントたちへと着実にダメージを重ねていた。
 脅威は早めに排除すべき。そして、なるべくもろいところから。
 仲間をカバーするように布陣している前衛を避けるために、リネリアは大きく跳躍すると上方から鎖を投げる。
 前衛の頭上を越え、狙い通りErieへと伸びる鎖。
 自身の元へと伸びゆく鎖にもErieは回避を試みるどころか全く動く様子を見せずに次の攻撃へのために集中を高めていた。
 ――ガシャン
 金属同士が擦れ合う音を立てながら鎖は絡め取る。
 Erieではない、絡め取られたのはキイだった。
 お互いの間に言葉は不要。
 白銀の騎士が必ず自分を守ってくれると信じているからこそ、自分は彼のためにまた敵を速く倒すことに集中できる。
 ならば逆に引き離そう。
 キイの体を宙へと舞わせるには十分な力を込めて鎖を振るが、彼はまるで根でも生えているように動かない。
 このままでは、動きが制限される。
 すぐに鎖を解除したリネリアの元へと、Erieから巨大な火球が放たれる。
 牽制のつもりの一撃。
 だが、火球は天使に直撃し彼女の切り札を一枚切らせることに成功した。
 何故か、それは彼女の後ろの蝙蝠たちだ。
「庇ったってわけね」
 撃退士たちを襲ったのは、銃弾の迎撃を受けながらも飛来した蝙蝠たちによる騒音爆撃だった。

 数に勝るリネリアたちだが、密集しお互いにカバーをしあった撃退士たちはなかなか崩れない。
 一人を吹き飛ばせば別の一人がカバーし、一人が意識を手放せば全力でフォローを行う。
 さながら全員で一つの生物であるかのように彼らは戦った。
 また、玲獅によりサーバントのスキルが阻害されたことも大きい。
 光を立ち上らせ地を走る魔法陣。
 それは、リネリアには抵抗されたものの、多くの地竜と蝙蝠が持つスキルをしばしの間封じ込めることに成功していた。
 しかし、ちらちらとは確認できてはいるものの、未だ探知でリネリアを捉えることができていない。
 相手が格上であるが故か成功はまだしていないが、玲獅は諦めない。
 成功すればきっと、天使を撃退する糸口になるであろうから。

「まずは味方との連携できる場を用意するべくっすね……」
 黒獅子が振るうのは必殺の一閃。
 耐久には難がある蝙蝠たちにとって、伊都の振るう刃は大打撃となりうる。
 ラプトルによる妨害を受けながらも振るわれた剣から放たれる衝撃波により、避け損ねた蝙蝠がまた一羽脱落した。
 残るはあと二羽。
 次のターゲットに狙いを定めようとした刹那、巨大な鎖が叩きつけられる。
「そこか」
 鎖を振るったリネリアへと、侑吾が剣圧を飛ばす。
 少し中心からズラしてあるのはフェイク。
 どこから来るのか読めないのならば、回避の方向を限定し予想を立てるのみ。
「捉えましたよ、そこです」
 言うと同時に白銀の盾をかざしリネリアの元へと突っ込む。
 避けたであろう方向を重点的に探知した結果、彼女を捕捉することに成功した。
「行ってこい」
 ともに駆けだした侑吾の言葉に背を押され、悠人がリネリアの元へと騎竜を駆る。
「また、来るんすね。受けて立つっすよ」
 振るわれた鎖。
 悠人は鎖に巻き取られ移動を封じられた騎竜を還し、再召喚。
 しかし同じ手は食わぬとばかりに、再び距離を詰めようとした悠人の足をリネリアの鎖がしっかりと絡め取った。
 これで本体が飛び出すことはできまい。しかし――。
「ランバート、行ってら」
「嘘……っ!?」
 それすらも、計算のうち。
 悠人の振るう双剣を足場に低く唸り声をあげつつ騎竜がリネリアへ突貫する。
「今度はそっちっすか!?全く毎回毎回よく――」
 騎竜の突撃を幻影で受けたリネリアの言葉はそこで途切れる。
 突撃をした竜の背後、ちょうど死角になる位置に悠人の援護のために地竜を足止めしていたはずの侑吾の姿。
 彼女の切り札はどうやら連続使用できないらしい。
 反撃に突き出された投げ槍が肩に突き刺さるのも厭わず、逆袈裟斬りに振りあげられた刃。
 侑吾の一閃はリネリアの足を深く傷つけた。

 回復の術をほぼ使い切り、何度も意識を手放しそうになりながらも、撃退士たちはまだ善戦を続けている。
 お互いをカバーし合い誰一人欠けることなく戦線を維持していた。
 その上学園から撃退士たちに連絡が入る。どうやら別働隊が停戦の約束を取り付けることに成功したらしい。
 それならば、それを伝えるサーバントが来るまでたえるのみ。
 しかし、このまま続けていてもじり貧になることが目に見えている。
 ならばとErieは揺さぶりをかけることにした。
「騎士との戦闘域は、ここを除いて三か所、一体だれが来てるのかしらねぇ?」
 彼女の従士は二人だけのはず。
 ――では、あと一か所で戦っているのは誰だ。
 今までの言葉では平静を装っていたものの、その言葉を聞き明らかに動揺した様子のリネリア。
 今が好機と、洸太がつなげるように追い打ちを仕掛けた。
「たとえその誰かが討ち取られても……。それはお互いさま、だよな?」
 以前対峙した時にも聞いた台詞。
 万に一つもそんなことなどありえない、そう理解はしているものの最悪の可能性が心を過り。
「私だって、覚悟の上でここにいるんだから!!」
 半ば自分に言い聞かせるように、リネリアが叫ぶ。
 彼女の心情を代弁するように地から湧きたつ鎖が撃退士たちに襲いかかった。
 考えないようにしていた事実。もし、自分が無用な情けで見逃した者たちが、自分の愛する人たちを討った時、どうするのか。
 目の前に居る、奪われ続けた者の憎悪が、紅蓮の魔女の揺さぶりが、白銀の騎士が告げた事実が、彼女に嫌でもそれを考えさせる。
 集中力を乱されきった彼女は回避すら最低限に、苛烈な攻撃を仕掛ける。
 自身の血と返り血で白銀の鎧は真っ赤に染まっていた。

「さ、まだまだいくっすよ」
 瞳から金色に輝く軌跡を残し黒鉄で身を覆った獅子が大剣を振るう。
 彼もまた、前線で攻撃を受け続け多くの損傷を受けていたが、ヒーローたるものこの程度で敵に弱みを見せてはいけない。
 槍をいなし、鎖を受け、振るわれる剣は鋭さを増す。
 リネリアもまた、右翼を裂かれ、左腕を折られてなおも、致命傷だけは回避し続けた。
「やらせるわけには、行かないっすから!」
 横薙ぎに振り回される巨大な鎖、それが伊都へと届くのよりも早く洸太が割り込む。
 竜の描かれた盾を全力で展開し、衝撃に顔を歪めつつもその場で衝撃を受け止めきった。
 背に護る者がある限り通しはしない。これ以上、奪わせるわけにはいかないから。
「当たると痛いぞ?」
 横から割り込んだキイの盾は眩い光を放つ。
 身をかがませ、最低限の動きで攻撃を回避したリネリアが見たのは目の前から突き出される分厚い黒刃。
 白騎士と黒騎士、盾と剣との連携攻撃。
 回避をするにはもう遅く。
 直撃を受けたリネリアは突き飛ばされ、赤く染まった羽根が散った。



「まだ……っ!」
 それでもなお、槍を支えに立ちあがり戦おうとするリネリア。
 伊都の突きにより、彼女の胸部を護る装甲は粉々に砕け散っていた。
 配下のサーバントたちも、その様子にどこか戸惑うような顔を彼女に向けている。
「リネリア。何でお前、仲間を信じてないんだ?」
「信じて、ない……?」
 悠人の言葉に驚きを滲ませ聞き返すリネリア。全く自覚をしていなかったその台詞に彼女の動きが止まる。
「全部自分でやろうってのは、そういうことだろ」
「ってこと。お前、そういう行動に合わないぞ」
 幾度となくリネリアと刃を交えてきた悠人と侑吾は、彼女の性格もだいたい分かってきた。
 だからこそ、わかること。
「貴方が誰かを想うように、貴方の動向に喜び悲しむ方々がいらっしゃる事は、貴方自身お分かりのはずです」
 盾を構えたまま玲獅もまたリネリアに言葉をかけた。
「その方々が大切だとお考えならば、言葉にしてその気持ちを相手にお伝えください」
 お互いを想いあうが故のすれちがいになる前に、そう玲獅は告げている。
 はっとした表情で玲獅を見据えるリネリア。
 やっと気が付いたのだろう。一人で出撃したはずなのに、多くの戦場が出来上がっている訳に。
 か弱く取るに足らないものだと教えられ、自身もそう思っていたはずの人間に今諭されている。
 以前までの価値観ならばそれは非常に屈辱的なことのはずだったのに。
 どこか興味深さと満足感を得ているのはなぜだろうか。
 自然と口元に笑みが浮かぶ。だが、このまま退くわけにもいかないのもまた事実。
 さぁ、戦いの続きを。
 再び槍を構え直したリネリアと撃退士たちの間に再び緊張が走る。
 しかし、戦いは乱入者によって中断させられることとなった。

 バサバサと羽音を立て、雷を纏う瑠璃色の鳥が舞い降りる。
 そのサーバントが舞い降りたのは撃退士たちの手前、リネリアから彼らを護るように降りてきていた。
 撃退士側にはすでに連絡があった伝令のサーバントとはこれのことらしい。
 だが、それが来る事を知らなかったリネリアにとっては寝耳に水の事態だったようで――。
 彼女の視線はその鳥が首から下げているネックレスに注がれている。
 羽ばたく翼に抱かれた濃紫の石をモチーフにしたネックレス。それはバルシーク揃いで持っているアクセサリー。
「『すぐに戦いを止め戻れ』っすか……」
 彼が肌身離さず持っているはずのそれを持ってきているというのはただ事ではない。
「行けよ。前の怪我だって治ってないんだろう、その様子じゃ」
「……借りができたっすね、撃退士」
 生き残ったサーバントたちに指示を出し、リネリアは撤退を開始する。
 その表情はあれほどの戦いの後だと言うのに、憑き物が落ちたように穏やかで。
 あ、そうだと伊都が剣を突き付けながらリネリアに告げる。
「アセナスに宜しく言っておくっすよ、落ち込む事は無い、相手が悪いと」
「わかったっす。しっかり伝えておくっすよ」
 堂々とそう告げる黒獅子の言葉には、同期の騎士を思い浮かべながら少し苦笑いをしながら応じる。
 確かに重く響く一撃だったっすから、そう小さく付け足して。
「借りっぱなしは嫌いっすからね。この借りは必ず返しに来るっす」
 ふわりと空へと舞いあがり、その場の撃退士たち全員の顔を一度見渡した後リネリアが告げる。

 ――だから、返しに来るまで死ぬ事は許さないっすよ。

 こうして、天使は去り詰所に再び平穏が訪れる。
 光纏を解き、武器を仕舞った撃退士たちが耳にしたのは、割れんばかりの歓声と職員たちからの感謝の嵐だった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト