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マスター:蒼月柚葉
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/08/30


みんなの思い出



オープニング

●昏い部屋で

 立派な額縁に彩られた絵画、立ち並ぶ本棚に大きな執務机。
 その机が背にした窓から入る光は薄暗く、どこかぼんやりと室内を照らしている。
 部屋の中央奥に置かれた執務机に座っているのは軍服らしき服装をした齢10歳と少しといった外見の少女。
 背中の中ほどまで伸びた金色の髪を首の後ろで束ね、サファイアのような深い蒼色をした目を輝かせて手にした本の頁を手繰っている。

 遊び飽きて捨てた玩具の反応が途絶えた。

 その事実は彼女にとってよっぽど興味深いものだったらしい。
 嬉々として頁をめくる様子は、外見も相まってまるでクリスマスプレゼントのリボンをほどく子供のようだった。
 それもそのはず、壊れかけとはいえその玩具はディアボロ。
 そう簡単に壊されてしまう物ではない。
 破壊することが可能なのは同族か、はたまた人間の中の一部の者たちか。
――あるいは天使とその配下たちか。

 調べてみる必要がありそうだ。
 そう考える彼女は分厚い本の詰まった本棚から取り出した一冊の書を読みふける。
 尊敬するお母様だったら、こんな時にはいったいどんな手段を考えたのか。
 きっと、最善の手段を打ち出してみんなから褒められたのだろう。

 私も、きっといつか……。
 そう考えるとわくわくした気持ちが止まらなかった。
「敵情を把握するためには、まず現地で情報収集から、でしたよね」
 ぱたん、と手にした本を閉じ少女は顔を上げる。
 まだまだ体格に合っておらず床に足のつかない椅子から降り、窓の方へと歩み寄ると窓から空を見上げる。

「見ていてくださいね、お母様。私、立派な軍師になって、そして――」

●災難再び

 季節は夏真っ盛り。
 身を焦がすような暑い光が降り注ぎ、雑木林ではけたたましく鳴くせみの声が響く。
 大量の汗を流しながら町のはずれへと進むのは一人の少年。
 その少年、アキラは流れる汗もそのままに、きらきらとした目で楽しそうに日差しの降り注ぐ道を進む。
 目指すのは以前肝試しに向かったあの廃屋だった。

 自分が以前遭遇したディアボロはもうすでに撃退士たちが倒してしまったらしい。
 人から様々なものを奪っていく天使や悪魔たちを撃破し、市民の生活を守る正義の味方たち。
 アキラにとって撃退士たちはそんな存在だった。
 いまならまだ、その戦闘の痕跡の一端を見ることができるかもしれない。
 良く知っている場所で日常を守るための戦いがあった。
 自分には素質はなかったから、きっとその戦いに身を投じることはできないけれど、それを感じることはきっとできる。

――だから、大人たちはしばらく近寄ってはいけないと言われていたその廃屋に向かったんだ。
 もうすでに、ディアボロ達は倒されたって聞いていたから。
 あんまり遅くなると、何の痕跡もなくなってしまいそうだったから。
 その時にはまだ、こんなことになるなんて思っていなかったんだ。

●夏の昼を進むのは

 相変わらず、その廃屋は荒れ果て無残な姿を晒している。
 だが、夜に来た時に感じたようなどこか不気味な禍々しさを今は全く感じない。
 廃屋に巻きつく蔦は青々とした葉を広げ、壁の落書きは太陽光の強さにかき消され、あまり目立たなかった。
 そんな廃屋の庭で、真っ黒く焦げた跡を発見しここで行われたことに思いを馳せたり、地面に落ちた赤い痕にドキリとしていると……。

――がさり。

 聞き覚えのある、だが聞きたくなかった音がアキラの耳に聞こえた。

――がさり、がさり、がさり。

 ゆっくりと、だが着実に大きくなっていくその音は廃屋の中から聞こえているようだった。
 アキラは近くに転がっていた放棄された冷蔵庫の陰に身を隠し、廃屋の様子を伺う。
 玄関からぬっと現れたのは忍び装束に身を包んだ犬を模したぬいぐるみ。
 それが二匹、辺りを伺い何やらごそごそとゴミの山をあさったり、粗大ゴミをひっくり返したりしている。
 その奥からひとつ、現れた人型。
 この暑い夏だというのにぴったりとした黒の装束を身にまとい、覆面で顔を覆ったそれはまさに忍者。
 とはいえ、関節部や顔を見るとそれが精巧に作られた玩具であることがわかる。

 玩具が動いている。
 先日見たばかりの事実だが、また見る羽目になってしまうとは。

――来なければよかった。

 そう、後悔したところで時はすでに遅い。
 アキラの頭の中では先程から警鐘が鳴りやまない。
 このままここにいるのは絶対に危ないのは分かるが、動いてしまっては見つかるかもしれない。
 ふとアキラは自分が身を潜めている冷蔵庫のドアが少し空いている事に気づく。
 この廃屋に来てしまったことが一つ目の失敗だったとするのならば、アキラは二つ目の失敗をしてしまった。
 その中に身を滑り込ませてしっかりとドアを閉めてしまったのだ。

 思いっきり蹴破ることができれば開けることはできるかもしれないが、そんなことをしてもしディアボロに気づかれれば死を意味する。
 しかし、このままここの中いては助かるかどうかはわからない。
 さっと、血の気が引いていくのを感じながら恐怖で震える手でアキラは携帯の番号をおす。

――助けて。

 かろうじて絞り出すように告げたアキラは救助を待つ。
 冷蔵庫の中をこだまするのは、自身の懺悔の声と死神たちの足音だけだった。

●斡旋所にて

「緊急の、依頼が入ったわ」
 シルヴァリティア=ドーン(jz0001)は普段通りの無表情で、それでもどこか焦っているようなトーンで告げる。
 以前、壊れた玩具のディアボロ達を撃破した廃屋。
 その場所に再び玩具のようなディアボロ達が現れたのだという。
「通報したのは、アキラという少年ね。周囲にディアボロがいて、身動きが取れなくなって、いるそうよ」
 すでにディアボロがいなくなった後という油断か、それとも遠い存在を間近に感じたいという好奇心か。
 再び事件のあった廃屋に足を踏み入れてしまったのだ。
 彼の潜んでいる冷蔵庫は廃屋の庭のほぼ中央にある。
 ディアボロ達は乱雑に周囲を探っており、庭にはゴミが大量に散乱しているため、まだ今のところは発見されていない。
 しかし、このまま彼らが何かの捜索を続ければ見つかってしまうのは確実だろう。
「だから、どうか助けてあげて」
 未来のある子供の命がこんなところで散ってしまうのは悲しいから。
 シルヴァリティアは集まっている撃退士たちにそう願う。

「情報によると敵は3体らしいわ」
 どれも忍者装束を着ているが二体は犬のぬいぐるみを模したもの。
 さしずめ忍犬というやつだろうか、背中に一本刀を下げ、周囲をせっせと探っている。
 残る一体は忍者の玩具を持ちた者。
 さすが玩具とはいえ本職といったところか、静かに辺りを見回し戦闘の跡を調べている。
 二度目の事件が起きたことでこの建物は取り壊され、周囲のゴミも処分される流れが強くなっているらしい。
 前回同様、建物の被害は問わないが、敵に隠れ場所を与える事にならないよう注意が必要だ。
「急いでいけば、間に合うわ。……どうか、みんな無事に帰ってきてね」
 出発する撃退士たちの背中をシルヴァリティアはじっと見えなくなるまで見つめていた。 


リプレイ本文

●遭遇戦

 廃屋を飲むかのように絡みついた蔦は青々とした葉を広げ、まだ蒸し暑い風を受けひらひらと揺れている。
 崩れかけている門柱も、庭に散乱したゴミも以前に来た時のままだった。
「また玩具みたいなの、か。それはともかく、まずは助け出さないとだね」
 鮮やかな桃色の髪をかき上げ、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は廃屋を見遣る。
 どうやらディアボロたちは内部の探索に戻っているようで、庭にその姿はない。
「状況的には芳しくない……ですが、やれるだけやってみますか……」
 それに応えるように、仁良井 叶伊(ja0618)が返した。
 生命探知を使用し、廃屋の様子を探っていたは虎落 九朗(jb0008)顔を上げ、仲間達に目標の場所を告げる。
 奥の建物内部に3つの動く反応、庭に転がる冷蔵庫に1つ反応があった。
 その一つの反応、おそらく救出対象のアキラだと思われる方を見て、虎落はかつてに思いを馳せる。
(「廃屋は危険なんだから遊びに行くってのは止めて欲しいもんだよな……うん、すげえブーメランだけど」)

 まずは少年の安全を確保するのが第一、散乱するゴミに驚きながら日向 迅真(ja5095)は周囲を警戒しつつ進む。
「ゴミ屋敷だったのか不法投棄が原因なのか……、とにかく今の俺達にはいい迷惑だぜ!」
 これだと目星をつけた冷蔵庫はまでもう少し、血のような沸き立つ赤の光纏を展開し阻霊符を発動していた神喰 茜(ja0200)は油断なく周囲を警戒する。
(「あー……この暑いときにまったくもう……」)
 ふと、感じたのは僅かな殺気と風を斬る音。
 反応できたのは恐らく同じく刀の使い手だからこそ。

――キィン。
 甲高い音を立て、八岐大蛇と艶のない黒塗りの忍刀がぶつかり合う。
 神喰の視線の先にあったのは暗い覆面の下に爛々と輝く赤の双眸。
 初撃が防がれたのを知るや否やくるりと跳躍し、距離を取った忍者は下がり際に苦無を投擲する。
 飛来する苦無を刀で打ち落としながら鮮やかな深紅の髪を眩い金に変え、深紅の燐光を纏いながら神喰は忍者の方へと距離を詰めた。

 阻霊符で撃退士たちの侵入を知ったディアボロたち、忍者が現れたということは――。
「こっちも来たようですね。……ともかくアキラ君の安全が最優先です。戦いに酔ってそれを忘れないようにしないといけませんね」
 廃棄されたゴミの影から飛び出してきた黒犬の刀をかざした大剣で受けつつ楊 礼信(jb3855)が言う。
 楊はぐっと手に力を込め、冷蔵庫から離れるように黒犬を押しのけた。

――ケラケラケラケラ!

 甲高い笑い声が聞こえると同時に茶色の毛並みをした忍犬のぬいぐるみが吹き飛んで行く。
 受け身を取った茶犬のもとに降り注ぐのは雑多なゴミ。
「悪い子はいねがー、ってかぁッ?ケラケラケラ!」
 笑い声の主、革帯 暴食(ja7850)は戦いの際に敵の隠れ場所となるであろうゴミを文字通り蹴散らしながら冷蔵庫の方へと向かう。
 そっと冷蔵庫の扉を開き、中をぎょろりと除きこむとひぃっ、と小さく悲鳴が上がった。
 アキラが完全に開いた扉から見たのは全身に口のような模様を浮かび上がらせた拘束服姿の女性。
 それはまさに――。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい……」
 おそらく天魔と勘違いしたのだろう。
 ある意味では彼女の思惑通りビビったアキラへと黒田 京也(jb2030)が声をかける。
「いやいや、俺達は味方だ。おう、もう大丈夫だぜ」
 そっと手を差し出すとその大きな掌に少年の小さな掌が重ねられた。
 そのまま力を込め外へと引っ張り出すと周囲の様子を見回す。
 どうやら、予定通りディアボロ達を足止めすることができているらしい。
「あーっと?こうだったか?」
 どこか不慣れな手つきだったが正確に暗い青色をした龍を召喚する。
 傍で小さくすげぇという声が聞こえると、彼は小さく親指を立て応じた。

●総力戦

――ガキン。
 牽制にと神喰が蹴りだした懐中電灯の残骸を小太刀一振りで斬りはらい、首を目がけて忍者は刀を振り下ろす。
 その一太刀を最小限の動きで避け、浅く頬が斬られたのを気にも留めず刀を振るう。
 目視することすらも困難な一撃は小太刀にそらされ忍装束を裂くにとどまった。
――強い。
 口元に浮かべた笑みが一層強くなる。
 お互い一対一で当たっていたら勝てる相手ではないのかもしれない。
だが――。
 バチバチと轟音を響かせながら空を雷が裂く。
 ソフィアの放った一矢の稲妻は回避すると同時に一度ゴミの山に紛れようとした忍者を正確に射抜く。
 命中した個所からはぶすぶすと黒い煙があがり、どこか焦げたようなにおいが漂った。
 後衛が厄介だと判断したのだろうか。
 その一撃を受け、目から紅い光をなびかせながら忍者が手をふり下ろすとソフィアの足元の地面が爆発したかのように土砂を吐き出す。
 砂埃を巻き起こし、体に叩きつけられる土砂の奔流を両手かざし受けた。
 視界が開けると先程まで忍者の居た場所には何もいない。
「上っ!」
 切羽詰まった声は誰のものだったのだろうか。
 状況を確認するよりも先にソフィアは横に身を投げ出し、地面に転がる。
 多少口の中に土が入ってしまったが気にしている場合ではない。
 それとほぼ同時に、風を斬る音とともに一瞬前まで自身の体があった場所へと刀がつきたてられていた。
 あれをまともに受けていたらと思うとぞっとする。
 着地の衝撃をころし、再び彼女の方へと向き直った忍者に白銀の鎖が絡みついた。
「麻痺りゃ逃げられねぇだろ」
 着地の隙を逃さずに、茶犬の相手をしていた虎落が放つ鎖に絡め取られ、満足に動くことができなくなっている忍者。
 それを好機と見た神喰は忍者の方に駆けこんでいくとすれちがいざまに手にした剣を一閃した。
 少女の放つ斬撃を防ごうと刀を持つ手に力を込めるが、がっちりと絡みついた鎖にがしゃりと音を立てるにとどまった。
 ごっ、という鈍い音とともにくの字に折れた忍者の体が吹き飛ばされていく。
 意識を刈り取られ、先程まで輝いていた禍々しい紅が消えた。

 主人のピンチだと思ったのだろうか、二匹の忍犬がフォローをしようと吹き飛ばされた忍者の方へと向かおうとする。
「あなたの相手は僕たちです」
 黒犬の足元からも白銀の鎖が立ち上り、今まさに走りだそうとしていた黒犬を絡め取る。
 忍者へと鎖を打ちこんだ虎落をカバーするように前に出た楊は、一度大剣を仕舞い巻物を取りだした。
 さぁっと広げられたその巻物にはびっしりと達筆な漢字が書き込まれている。
 その通りの手順を踏み、呼び出されたのは雷撃の矢。
 轟く雷撃は黒犬にぶつかるとドゴンと大きな音を響かせた。
 茶犬が一度頭を振ると刀を構え直した刹那、鎖に絡め取られた槍に白く輝く槍が叩きつけられる。
 わき腹を捕えたそのやりは装束ごとやわらかそうな生地をそぎ取って行った。
「タフっつってもこれなら効くだろ?」
 槍を放った虎落がにっと笑みを浮かべる。
 反撃には注意していたが忍者の方とは違い遠距離攻撃の手段を持ち合わせていないらしい。
「出来りゃ麻痺ってるうちに茶犬も忍者も撃破してーが……」
 虎落の大剣がきらきらと夜空に輝く星のような光に包まれる。
 横薙ぎに振り抜かれた大剣を茶犬は刀でガードをするが、そこにたたみかけるように楊もまた燃えるように紅い刀身を持つ巨大なクレイモアを叩きつける。
 大上段持ち上げられてから降り抜かれたその一撃は茶犬の左腕を斬り落とした。

 かかってこいと言わんばかりに手を手前に引き寄せる動きをした仁良井の挑発に、黒犬が刀を構え突っ込んでくる。
 後ろを見れば、救出対象の少年を門の外へと離脱させることができたようだ。
 このままそちらに向かわれるわけにはいかない。
 突っ込んできた勢いに合わせ、振り上げた杖を渾身の力を込め叩きつける。
 この外見だからか物理ダメージの方が効果を上げるらしい。
 下から這いあがるようにふるわれた刃に、左手から出血するが傷は浅い。
「こんなモコモコしてても俺には無意味だぜ!この偽犬が!」
 黒塗りの鞘から白銀の刃を抜くと同時に、紫電を纏った刃が茶犬へと向かう。
 一振りで三条、放たれたオーラは正確に黒犬を装束ごと刻んでいった。
 いつも以上に上手くいったのはぬいぐるみとはいえ忍犬を連れているのがうらやましかったからではない、もちろんだ。
 返す刀でもう一閃、放たれた衝撃波を避けようとしたところに仁良井の振るう杖が棍のように突き出される。
 戦いの流れは完全に撃退士たちに向いていた。
 そのふりを悟ったか、忍者たちの動きはがらりと変化する。

 既に二度、鎖の束縛により集中砲火を浴びていたにもかかわらず忍者はまだ健在だった。
 だが、損傷が激しく勝利はできないと悟ったのだろう。
 忍者は撤退しようと行動を開始する。
 斬りはらわれた小太刀をいなし、振り下ろされた刀を受けた神喰と忍者は鍔迫り合いのような状態になる。
 渾身の力を込め、神喰を突き飛ばすように後方へととび距離を取った忍者。
 その向こうには廃屋が、そして森がある。
 逃がしはしないと追いすがった神喰に忍者は牽制とばかりに小太刀を投げつけた。
 だが、それこそがフェイク。
 それを刀で打ち落そうとした神喰の目の前には忍者の紅い双眸があった。
 脇腹に鋭い痛みが走る。
 神喰を刺した忍者はそのまま、撃退士たちの方へと――救出対象の方へと進んでいった。
 忍者の足元から3度目となる鎖が現れる、それは正確に忍者を絡め取ったが――。
――バキン。
 同じ手は食わぬとでも言うのだろうか。鎖を砕き、忍者はその束縛から脱出する。
 鎖と挑発をそれぞれ振り払った犬が今度こそ忍者のカバーに入るように動きだした。
 ふと、忍者に纏わりつく花弁。
 その風に乗った螺旋を描く花弁は忍者に到達すると霧散するように消えて行った。
 残るのは激しい風の渦。
 風に巻かれ動きを止めた忍者の元にもう少しで忍犬が届くと言ったところで、二匹の犬はほぼ同時に地に叩きつけられた。
「うちと噛み付き合わねぇッ?」
 茶犬に強烈なかかと落としを見舞った革帯が叩きつけられた茶犬を見下ろす。
「こっちは大丈夫だ。ほぉ……撃退士ってのはそう言うもんか……」
 まだ震えているアキラの肩にぽふと手を置いてやりつつ、撃退士たちの動きをみて呟く。
 アキラもまた自分を守るために遠くで戦っている撃退士たちの様子を見て、傍で佇む男と竜へと視線を移した。
 一歩間違ったら死ぬかも知れない。その恐怖は確かにまだ残っている。
 しかし肩に乗ったその掌の暖かさは、言葉こそないものの絶対に大丈夫と言ってくれているようだ。
 黒田はちらりとアキラの方を見ると、そっと目を細め仲間たちの方に視線を戻す。
 彼はもう、震えてなどいなかった。

 ほぼ同刻、黒犬に一撃を見舞ったのは日向だった。
「行かせねぇからな!」
 まずは後ろに、小さく跳躍するとそこにあったのは粗大ゴミの山。
 その側面に足をかけたかと思うとぐっと、力を込める。
 このまま忍者と合流されてはまずい、それを足場に力を込めて蹴りだした日向はまっすぐ黒犬へと飛んだ。
 その背後では、がらがらと大きな音を立てながら反動でゴミの山が崩れて行く。
「こういう使い方もできるんだよ!」
 跳躍の勢いも乗せ、黒犬の頭部へと鞘をつけたままの抜刀・閃破を叩きつける。
 クラリと、黒犬の体が傾いだ。
「これで終わりです」
 仁良井の白い光を放つ長杖によるフルスイングを食らい、黒犬は地面で動かなくなった。
 紫焔を纏った蹴りを受けた茶犬に自身が噛みつかれるのも厭わず革帯が噛みつく。
 とても楽しそうな笑顔を浮かべたまま、革帯は茶犬を喰らい尽くした。

 意識の混濁した忍者へと神喰が一閃を放つ。
 それは、防御にと差し出された忍刀とぶつかりパキンと甲高い音を立て忍刀を砕いてなおも忍者へ迫り、その意識を完全に闇へ落す。
 脇腹に受けた傷は楊の放った癒しの光により塞がり、血の跡がそこに残るのみ。
 立ちすくむ忍者へ星の輝きを纏った大剣と燃え盛る炎のような大剣の一撃が浴びせられたかと思うと、光り輝く火球が迫る。
 その火球は激突するとすぐに炸裂し、忍者の全身を炎で丹念に炙っていった。
「まぁ、楽しかったかな。さよなら」
 満身創痍といった様子の忍者の前に立つ神喰は刀を振り下ろす。
 その一撃は的確に首を捕え、胴と頭をまっすぐ両断した。

●戦いの後で

 ディアボロ達を殲滅した撃退士たちは救出対象だった少年、アキラを家まで送り届ける。
 間近で撃退士たちを見られて、嬉しいような申し訳ないような怖いような、複雑な表情のアキラに日向が声をかける。
「アキラ君?もし俺達が来なかったらゾンビのディアボロにされてたかもしれないんだぜ?だから危険なことはもうするなよ!人型の奴は倒すのが意外と苦痛な場合があるんだぜ!」
 撃退士だって無敵じゃない、そういう彼の眼にはうっすら涙が浮かんでいた。
 甘かった。
 唯の好奇心でこんなに色々な人に迷惑をかけてしまった。それは申し訳のないことで……。
 俯きそうになったアキラを見かねて、黒田が続ける。
「まぁなんだ、もう少し大きくなったら、もっと強くなれ。誰かを守れるようにな。もっと怖い、母ちゃんの説教がまってるぜ?」
 どこか冗談めいた笑顔を浮かべ、少年の肩をぽんぽんと叩いてやった。
「……良く怖いのを我慢したね。今回無事で居られるのもその強い心があったからだよ。次からはもっとその強い心を正しく使おうね」
 自分とそんなに年の変わらない撃退士の楊にそう言ってもらえると、どこか心強く、暖かかった。
 落ち込んでいたままではいけない。
 ありがとうございました、とアキラは頭を下げた。
 顔を上げたアキラは、涙の跡でぐしゃぐしゃではあったけれど憧れと感謝とが混ざったような清々しい笑顔だった。

「さぁ、帰るか?」

 差し出された黒田の大きな掌にアキラの小さな掌が重なる。
 その掌はやがて同じくらい大きくなり、誰かの手を引くのだろう。
 守れた物の大きさを感じながら、撃退士たちは帰路についた。



「わぁ……!」

 撃退士たちの去った後の廃屋で、一人の少女が感嘆の声を上げる。
 背の中ほどまで伸びた金色の髪を首の後ろあたりで束ね軍服を着込んだ少女はサファイア色の目を嬉しそうに輝かせた。
 視線の先にあるのは首を刎ねられた忍者の玩具。
「複数の行動阻害の組み合わせ、ですか……!」
 どこか楽しそうに手にした本に筆を走らせ、何事かを書きこんでいく。
「やっぱり、来てみて正解でしたね。ここには、もっともっと面白いことがありそうです」
 そういうと少女は空を仰ぐ。
 どこか遠くを見るような眼で呟いた言葉は、風に流れて消えて行った。



「見ていてくださいね、お母様」





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 太陽の魔女・ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)
 紫電のお庭番・日向 迅誠(ja5095)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: −
面白かった!:4人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
紫電のお庭番・
日向 迅誠(ja5095)

大学部4年185組 男 鬼道忍軍
グラトニー・
革帯 暴食(ja7850)

大学部9年323組 女 阿修羅
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
月の雫を護りし六枚桜・
黒田 京也(jb2030)

卒業 男 ディバインナイト
闇を解き放つ者・
楊 礼信(jb3855)

中等部3年4組 男 アストラルヴァンガード