.


マスター:蒼月柚葉
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/03


みんなの思い出



オープニング


 焼けつくような日差しが降り注ぐ昼と同じく、夏の夜は過ごしやすい気候とは言い難い。
 昼間よりは幾分和らぐものの、暑さはまだまだ健在で、窓から入る風は多量の湿気を含みじめじめとした不快感を伴う。
 そんな暑い夜には怪談や肝試しをしてみよう。
 恐怖やドキドキで、不快な暑さを吹き飛ばそう。
 それはある種の夏の風物詩として、輝く夏の思い出として、人々の記憶に残るはずだった。

 しんと静まり返った夜の道を進み、町のはずれへと進むのは2人の少年。
 見慣れた町も夜に進むと一味違った様子を見せる。
 灯りはお互いが手に持つ懐中電灯の明かりと空に浮かぶ月明かりだけ。
 それはどこか、見知った世界が違う世界へと変容していくようで、少年たちは興奮と少しの恐怖を顔に浮かべ、あらかじめ調べておいた場所を目指した。

「お〜、やっぱり雰囲気あるなぁ」
「そうだね、いかにも何かいそうな気がする」
 二人が立ち止まったのはとある廃屋の前。
 住人がでて行ってから誰も手入れをしていないようで、綺麗だったであろう庭は荒れ果て、窓ガラスにはひびが入っている。
 半ば崩れそうになった門柱の横を通り、敷地内へとはいって行くとその異様さはよりよくわかる。
 廃屋の壁にはびっしりと蔦が這い、塀は裏も表も落書きだらけ。
 幽霊が出るという噂が流れるのは至極自然な流れであったようだ。

 さらに――。

「っと、アキラそこ気をつけろよ」
「うん、大丈夫。テルも足元に注意してね」
 彼らが今乗り越えた白く大きな箱状の物は壊れた冷蔵庫だった。
 住人がいなくなり、管理されていないのをいいことに一部の心ない人たちがゴミを捨てて行く。
 古びた本、壊れたスピーカー、籠に詰められたおもちゃ、錆びたスコップ、何が入っているのか分からないビニール袋の山。
 それらがさらに、この廃屋がお化け屋敷と噂されるに足る雰囲気を醸し出すことに一役買っている。
 たどり着いた玄関先で、少年の一人がそっと扉に手をかけ力を籠める。
 建てつけが悪くなってしまったからか強い手ごたえを感じながらも、ガラガラと音を立て扉を横にスライドさせた瞬間、隙間から飛び出してくるのは黒い影。
「わっ!?」
 扉を開けていた少年、テルが驚いて飛びのき尻もちをつく。彼の手から離れた懐中電灯が地面に転がった。
 にゃぁという声とともに飛び出した黒い影は少年たちを振りかえることもなく一目散に庭の方へと走って行く。
 まるで何かに怯えるように、何かから逃げるように。
「なんだ、猫じゃん。びっくりして損したよ……」
 扉から少し離れたところに立っていたアキラが、苦笑いを浮かべながら尻もちをついたテルのところへ歩み寄る。
 しかし、テルは未だに地面に座りこんだ体勢で恐怖の表情を浮かべたままだ。
「え、そんなにびびるものかな。実はテルって結構怖がり?」
 不思議そうに聞くアキラに、テルは震える手をゆっくりと上げ視線の先を指差した。

――がさり。

 何かがすれあう音がアキラの耳に聞こえた。

――がさり、がさり、がさり。

 ゆっくりと、だが着実にその音は大きくなっていく。それはつまり、こちらへと近づいてきているというわけで……。
 振り向いてはいけない。
 そう分かってはいるものの、無意識のうちにアキラはテルの指す先をたどっていた。
 先程空いた扉の隙間、そこから差し込む地に落ちた懐中電灯の明かりを受けて浮かび上がる丸みを帯びたシルエット。
 柔らかそうなもこもこした毛、丸い耳、ボタンで作られたつぶらな瞳。
 片手が千切れかけたり、あちこちから綿が飛び出たり、若干壊れかけてはいるもののその外見は間違いなくクマのぬいぐるみだった。

 だが――。
 それが本当にクマのぬいぐるみならばこんな風に歩いたりなどしてしない。
 右手を内側から破るように無骨な爪が飛び出たりなどしてしない。
 その爪の先が赤黒く染まってなど、いない。

「嘘だ……。こんなの嘘だ……」
 呟いた言葉は宙に舞い消えていく。
 目の前の現実に変わりはない。

 ゆっくりとこちらに向かってくるクマのぬいぐるみの背後でまだ動く影があった。
 ゴミの山から這いだす頭部のないロボットが見える。
 ぼさぼさの髪を振り乱しボロボロの服を着て立ちあがる着せ替え人形が見える。
 物陰からぬっと出てきたのは折れた剣を持ったおもちゃの騎士だろうか。
 遊び方も知らない子供が乱雑に遊んで捨てたかのようにぼろぼろになったそれらがゆっくりと迫ってくる。
 それはまた遊ぼうとでもいうためか、自分たちも仲間に加えるためか。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そんなことはどうでもよかった。
 叫び声を上げ、動けずにいるテルの腕を引き、立ちあがらせ、そのまま背を向け走りだす。
 冷蔵庫を飛び越え、庭を突っ切り、門柱を越え、それでもまだ振り返らずに来た道をただただ走り続けた。
 静かな夏の夜を裂くように、二人が走る靴音だけが響いていく。


「緊急の依頼です。野良ディアボロの出現が確認されました」
 久遠学園の依頼斡旋所にて集まった撃退士たちに事務員は淡々と切りだした。
「場所は町の郊外にある廃屋です。長いこと誰も住んでいなかったことに加え、大量のゴミが放置されていたため潜伏するにはちょうどよかったものと思われます」
 しかし、そこに幽霊が出るという噂が立ってしまった。
 おそらく、内部で何かが動くのを目撃した人がいたのかもしれない。
 その噂を聞いて肝試しに来た少年二人がディアボロと遭遇し、危うく殺されそうになってしまうという事例が発生した。

 今の所、ディアボロたちが外に出てくる様子はないがそれがいつまで続くかもわからない。
 そのため、撃退士たちに早急に対処してほしいとの依頼がきた。
「敵はおそらく4体。それぞれがおもちゃのような外見をしています」
 何故か損傷しているようだがそれでもディアボロ、油断して良い相手ではない。
 今回、誰も使っていないうえに、このような事態であるため建物の被害は問わないという。
 最初から建物を破壊してしまえば敵に多くの隠れ場所を与えることとなり危険かもしれないが、流れ弾で家屋を破壊することに関してはそれほど気を使わなくてもよいだろう。
「これからの時期、また肝試しは増えてくると思うんです。町の安全のためにも、どうぞよろしくお願いいたしますね」
 事務員は深く礼をすると出発する撃退士たちを見送った。


リプレイ本文

●朽ちた家屋に潜むのは
 半ば崩れそうになった門柱、蔦の這った外壁、落書きだらけの塀。
 散乱したゴミの山も、放置されるがままになっている家電も、そこに広がる光景はどれも確かに撃退士たちが昼間見たものと全く変わらない。
 しかし――。
 その空間が帯びる雰囲気は、全く異質なものに変化しているのが彼らにはわかった。
 月は雲に閉ざされ、灯りは自身で持ち込んだもの以外に何もない。
 廃屋の方から不快な湿気とともに吹きつけ肌を撫でる風は生温かく、淀んだ空気は重くのしかかってくるかのようで、その空間は人を不安にさせる何かで満ちている。
 それは、昼間入念に探索した時にごみ以外なにも見つからなかったその廃屋に、『何か』が存在していることを強く主張しているかのようだった。

「チッ、動きづらくて敵わんな」
 小さく呟き倒れた箪笥を避けながら、ディザイア・シーカー(jb5989)は周囲を警戒する。
 荒れてはいるものの建物としては壊れている箇所はほとんどなさそうだ。だが、散らばるゴミや家具は確かにとても動きにくい。
 このご時勢に肝試しなんて危ない事をと思いつつ、後ろを警戒しながら進む同行者を気遣う。
 麦わら帽子にペンライトを結び付けて作った簡易のヘッドライトをかぶり、辺りを見回しながら進むロード・グングニル(jb5282)は携帯を確認した。
 幸い電波は届いているようでまだ接続は維持されている。
 ほっと、まずは一つ安心をしつつホイッスルをいつでも吹けるよう準備した。
 ふと、視線を上げると居間とその先の一室を隔てるための障子はわずかに開いてる。
 まるで、撃退士たちを誘うかのように。

 一方、左側の廊下を進んだルルディ(jb4008)とクロフィ・フェーン(jb5188)、そしてルルディのヒリュウであるフィロは二つの扉の前へと差し掛かる。
 お互いに一つ、目配せするとルルディは向かって右、玄関とは反対側の扉に手をかけた。
(「僕にも報告にあったようなおもちゃで遊んだことがあったのかな?))
 その背中を守るように左の扉、通った廊下を注意深く照らしながら、クロフィはそう考える。
「フィロ君、お願いするんだよ」
 小さく指示を出したルルディに従い、少しだけ開いた扉からフィロは辺りを伺いながら、部屋の中に入って行く。
 その後ろからゆっくりと扉を開け、ルルディたちも部屋に入っていった。
(「JunkはJunkのままでいればいいんだよ」)
 クロフィもそれに続き、部屋の中に入ろうとするとがさりと前後の部屋から同時に物音が聞こえた。
 
 廃屋の外では、待ち伏せを担当する撃退士たちが、敵発見の報告を今か今かと待ちかまえている。
「隠れる場所が多いのは好都合にも不都合にもなるからね。慎重に行こう」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)はあらかじめゴミの散らばり方を確認し誘い込むのに最適な場所に目星をつけ、そのあたりで待機を行う。
(「子どもの頃はお人形遊びで楽しかった思い出……それが、子供に危害を加えるなんて……」)
 絶対解決しなくちゃ、と決意を固めているのは夏野 夢希(jb6694)だ。
 今回集まった撃退士は8人。今は4人なので何とかなっているが、内心緊張でドキドキしている。
 トワイライトを使用し、光源を確保したエステリーゼ・S・朝櫻(jb6511)は光纏し阻霊符の効果を使用しておく。
「こんなの玩具じゃない。べ、別に怖いわけじゃないのよ。誰がこんな子供だましで怖がるものですか。そうよ、これは玩具、これは子供だまし……」
 毅然と廃屋を見据えているものの小声で自分に言い聞かせるように呟いている。
 その様子を見てか一際大柄な体躯の男が、彼女たちよりも廃屋に近いところで腕を組み仁王立ちする。
 立ち上がった偉丈夫、桐山 晃毅(jb6688)は言葉はないがここより先には進ませぬとでもいうように、まっすぐ廃屋に目を向けていた。
 すると、ほどなくして夏の夜の静寂を裂いて鳴り響くのはホイッスルの音。
 そして、一拍遅れて携帯からほぼ同時に報告が入った。
「クマとロボと遭遇なんだよ。誘導開始なんだよ!」
「姫発見だ。案の定騎士がついてる」
 響いた言葉は闘いの始まりを意味していた。

●壊れた玩具を砕くのは
 まず、戦場に現れたのは機動力に長けた二体のディアボロとそれを誘導するクロフィとルルディ。
「おいで、遊んであげる。あなた達の最期まで」
 腰ほどまでの夜空のような藍色の髪を風になびかせ、一度大きく翼を羽ばたかせたクロフィは、待ち伏せしている味方の方へ駆けこもうとしていたクマの前に立ちはだかった。
 邪魔だと言わんばかりに無造作に振り下ろされた爪の一撃を盾で受け止め、そのまま押しのける。
 バランスを崩したクマは千切れかけた腕で器用受け身を取ると、クロフィを標的と定めたのか、爪を構えて向き直る。
 これはディアボロ。本当に玩具だったわけではないのだろうが、壊れてもなお動き続ける彼らをどこか憐れだとクロフィは感じた。
「君らの足止めは、ぼくがやるんだよ。かかっておいで?Junk」
 天界の加護を受けたルルディを脅威と判断したのか、はたまたその言葉に反応したのかはわからないが、ロボは盾に半身を隠しながらルルディに向けマシンガンを乱射する。
 薙ぎ払うようにばら撒かれた銃弾の数発が身を裂く痛みを感じながらも視線を逸らさず、笑顔のままのルルディは弓を引き絞る。
 ルルディの放った矢はひゅぅと空気を裂く音とともに盾に守られていないロボの右半身を射抜いていった。
 頭部を完全に破損し、それ以外のパーツも亀裂だらけの壊れたロボット。
 JunkはJunkのままでいればいいが、壊れたものの気持ちは壊れたものにしかわからない、ルルディはそうも思うのだ。

 少し遅れるようにして、ディザイアとロードもまた、ディアボロを誘導してくる。
 着せ替え人形の姫は予想通り騎士の玩具に守られるようにして悠々と歩いて戦場へやってきた。
 その姫に降りかかるのは花弁の螺旋。渦巻く花弁は姫に纏わりつくと霧散し思考な思考を阻害していく
「厄介なのから先に倒しておきたいね」
 狙うのならば今がチャンス。意識を朦朧とさせている姫に気づき、騎士は姫のカバーに回ろうとした。
 ――だが。
「動かれちゃ困る、ここで痺れてろ!」
 そこまでは撃退士たちにとっては予想済み。
 ディザイアの声とともに虚空に出現したのは、雷で形成された剣。
 それは鼓膜を震わせる轟音を響かせながら、騎士へと叩きつけられた。
 とっさに盾を構え防御を試みる騎士であったが殺しきれなかった衝撃の強さに膝をつく。その体をバチバチと小さな紫電がまるで蛇のように駆けていた。
 その横をすっと何者かが通過したかと思うと、盾を支えに立ち上がろうとした騎士は再び地面にたたきつけられる。
 半ばフックのような拳を叩きつけた桐山はそのまま距離を詰め騎士に追撃を試みた。
 だが、騎士もやられたままではない。
 迎撃せんと振り下ろされた大盾が彼の肩を捕えようとするがカウンター気味の一撃が騎士の鎧へと叩きつけられる。
 みしりという嫌な音がしたのは桐山の肩か、騎士の鎧か、或いは両方か。
 それでも、桐山は揺るがない。自身が引きつけている間に味方が姫を撃破すると信じているからだ。

 ふと、周囲の空気が異様な冷気を帯び始める。
 それは暑さを緩和してくれる心地よさとは程遠い、凶暴さと残酷さを持った攻撃としての魔法。
 その発生源は先程の花びらを振り払い、ステッキをかざす姫だ。
 壊されたせいか、はたまた前からそうであったのかは分からないが、目のある場所には落ちくぼんだ空洞があるのみ。
 しかし、ぼさぼさの髪の隙間からのぞくその空洞からは確かに憎悪のこもった視線を感じる。
 少女が憧れる魔法使いのもつようなステッキの先端に集まった氷の魔力は、姫が杖を振るうと戦場の中央に巨大なブリザードが発生した。
 荒れ狂う氷のつぶてと身を裂く冷気が白い奔流となり、撃退士たちを飲み込んでいく。
 
 カタカタカタカタと、不気味な音を立てつつ首を動かしその様子をどこか満足げに見つめる姫は笑っているのかもしれない。
 だが、白銀の渦を切り裂いて、薄紫の粒子を振り撒き進む一矢が姫の頭部に直撃し、その笑いを無理やり中断させる。
「此処に子どもは居ないわよ、私たちが片付けてあげるわ」
 頬から流れ出た紅で身体にまとわりつく白を染めながら、エステリーゼは氷の欠片を振り払う。
「それにしてもこんなディアボロを作るなんて、悪魔も趣味が悪いわ。というかディアボロはみんな趣味悪いのよ」
 その血を拭うと再度魔法の矢を姫の足を狙ってうちこむ。
 足を損傷し、バランスを崩した姫に空気を裂き飛来するのは銀弾の雨。
 絶え間なく撃ち込まれる弾丸の衝撃に姫人形は体をのけぞらせた。
(「大丈夫、守り神がついてる」)
 銃弾を放った夏野は両手でしっかりとオプニノスを握り、まっすぐに姫を見据えている。その瞳にもはや怯えも緊張もない。
 8人が揃い、その上見知らぬ環境で緊張は最高潮に達していたのだが、身につけた短剣を見やり、決意を再び固めた彼女は姫人形を正確に打ち抜いた。
 そこにヒリュウのフィロが飛びかかり、強烈な突進を見舞う。
 さらに飛来するのは虹色の刃。
 幾重にも色を重ねた輝く尾を引きつつ、刃は姫を刻んでいく。
 畳みかけるような連続攻撃をかろうじて耐えた姫が顔を上げ見たのは、太陽を思わせる光を放つ炎の球。
「いくらゴミが散乱している所でも、それっぽいディアボロは要らないよ」
 ソフィアの言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、身をよじり回避を試みた姫であったが時はすでに遅い。
 一瞬あたりが昼間のように明るく照らされ、花びらが舞い散る中、ステッキを取りおとした姫はそのまま地面に崩れ落ちた。

 姫が撃破されたのを見てか偶然か、残されたディアボロ達は捨て身の攻勢にかかる。
「いーやー!こないでー!」
 先程の矢を脅威と感じたのか、素早いクマがエステリーゼの元へと爪を振るわんと駆け寄っていく。
 近寄るなとばかりに撃ち込まれた魔法の矢が直撃をするのも厭わずに、クマが赤黒く染まった爪を全力で叩きつける。
――ガキン。
 堅い金属と金属がぶつかり合うような音が響き、エステリーゼが気がつくと目の前には黒い光をはらはらと散らした純白の大きな翼。
 エステリーゼが短く感謝を伝えると、クロフィは小さくうなずいて応じた。
 お互い消耗しつつはあるが、まだ倒れるには程遠い。
 クロフィの持つ盾に攻撃を阻まれたクマはそれならばと振り返る反動で再び飛び出し、近くにいたロードへと駆け進んでいく。
 彼が行っていたのは遠距離攻撃。懐に入れば勝機はあるのではないかと、そのディアボロは考えたのかもしれない。
 だが――。
 走り抜けると同時に横薙ぎに切り裂いた一閃に手ごたえはなく、カンッという軽い音とともに弾き飛ばされた何かが飛んで行く。
 カランと地面に転がったそれは簡素な盾。
「どこ狙ってんだ?」
 声とともにクマが感じたのは強い衝撃だった。
 ゆっくりとクマが下を見るとまっすぐに夜の闇を映したかのような漆黒の大剣が貫いている。
 先程の隙に背後へと回り込んだロードに突き刺され、クマは完全にその機能を停止する。
 そのほぼ同刻、騎士はその動きを止められていた。
 身に纏わりつくのは花咲く蔓。ソフィアの呼び出したその蔓は、騎士をがっちりと縛り動きを阻害する。
 その捕縛から逃れようともがく騎士だが、蔓は全く千切れない。
 その胴部に夏野の放つ弾丸が命中する。
――ピシッ
 すでに何度も攻撃を受け、耐久度も限界だったのだろう。頑丈そうに見えた鎧もついに目に見える亀裂が走る。
「これで、終わりだ」
 桐山の拳に、ぱきぱきと亀裂は数を増していく。
 やがて全身に亀裂が走ったかと思うと、 騎士の鎧は粉々に砕け散った。
 最後に一人残ったロボはマシンガンをサーベルに持ち替え、フィロに切りかかる。
 既に盾を持っていた左腕も肘から先を失い、剣一本で切りかかる姿はまさにジャンクといった様相だった。
 もう一撃とばかりに剣を振り上げるロボの懐に入り込みフィロが渾身の一撃を放つと、輝くまばゆい光と共に矢と槍に形作られた光が突き刺さる。
 ルルディの放つ矢に射抜かれ傾いだロボの体を水晶のように透き通った大剣が両断する。
「汝に幸あらんことを」
 壊れてもなおも動き続けた玩具たちは、もう二度と動くことはなかった。

●夏の夜に響くのは
「皆、人形たちがこのままだと可哀想だからお炊き上げをしたいから手伝ってくれる?」
 戦闘が終わり、撃退士たちが息を整え終わったところで夏野はそう切り出した。
 玩具の残骸は未だにゴミとともに転がっている。
 確かに悪魔達とはいえ、このまま放置するのも忍びない。
 撃退士たちは、他のゴミや廃材などに火が燃え移らないように場所を確保しそこに残骸を集めて火をつけた。
「今度は子供たちと楽しく遊ぼうね」
 火を見つめながら夏野がつぶやく。
 燃える残骸は徐々に黒く変色し、炭となり灰に変化していく。
 その様子を眺めつつ、このディアボロも元は人間だったのだろうかと桐山は思いを馳せる。
 そうだったとすれば、本当に「終わる」ことが出来たのは良かったのかもしれない。
 自分が肝試しに参加するとすれば怪物役になりそうだなと思う桐山の横で、うっすらと涙を浮かべているのはエステリーゼ。
「こ、怖くなんてなかったんだから……子供だましよ、あんなもの」
 強がってはいるものの相当怖かったのか涙がこぼれそうになっている。
 それをみたロードがそっとハンカチを差し出すと、エステリーゼはぐしぐしと目をこすった。
「まぁ、無事にすんだしよかったってことで」
 ディザイアが肩にぽんと手を乗せてやると、エステリーゼも普段の調子を取り戻す。
 メイドに見られたらなんて言われるやらと、小さく一つため息をついた。
「もっと遊びたかったかもしれないけどもう終わりだよ。おやすみなさい」
 クロフィが立ち上る煙を追って空を見上げるとちょうど雲が散り、丸い月が現れたところだった。
 まっすぐと月に向かって煙が上って行く様子はまるで魂が天に還っていくようで。

――ありがとう。

 撃退士たちは雑木林を吹き抜ける風の中に小さく、そんな声を聞いた気がした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
黎明の鐘・
逆廻桔梗(jb4008)

中等部3年9組 男 バハムートテイマー
光を紡ぐ・
クロフィ・フェーン(jb5188)

中等部3年2組 女 ディバインナイト
澪に映す憧憬の夜明け・
ロード・グングニル(jb5282)

大学部3年80組 男 陰陽師
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
勿忘草のお気に入り・
エステリーゼ・S・朝櫻(jb6511)

大学部5年261組 女 ダアト
鉄拳をもって教えてやる・
桐山 晃毅(jb6688)

大学部8年72組 男 ルインズブレイド
夏はやっぱりカレーでしょ・
夏野 夢希 (jb6694)

大学部3年326組 女 アカシックレコーダー:タイプB