●宣伝
「お、おう、これ発売いつなのだ!?よ、予約特典は!?ハードはっ!?」
イベント開始前、フラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)はエキストラに即効食いついている。
「聖夜もゾンビがいれば寂しくない! クリスマス発売となります。
3DゾンビのはらわたDVDが特典としてサービス!是非御予約下さい!」
放浪ガンマン、実はバリゲーマーであった。
情報を聞き出す彼女のお陰で宣伝が出来ているのだから、結果的には始まる前から大活躍である。
「ジャーナリストとして聞き逃せませんね♪」
取材とばかりドラグレイ・ミストダスト(
ja0664)がタブレットPCを開いているのは、
キャラ立てなのかそもそも彼の素なのか。
賑わいは、広場内の照明が落ちていくことで不意に止まる。
中央に立つのは華奢な少女。
羽空 ユウ(
jb0015)は漆黒の羽根を舞い散らせる光纏を見せ、翼を刻む刺青を見せる背を開いた漆黒のロングドレスの姿。
カードを翳して、詠み上げるかのように謳う。
「堕天したとしても……いえ、此れすらも運命」
真横に少し目を移せば、写真とキャラ紹介、そしてパラメータがグラフになって表示されている。
『―――堕ちたる天使、運命の詠み手』
読み上げる音は、凛と響く。
回避や生命が低く落ち窪んだグラフは、攻撃と特殊の部分が逆に突出している。
スキルを多彩に使い、占い能力を持つのが特徴だ。
「運命が……交差する」
表情の無い呟きと共に、併設されたモニターに電源が入る。
広場中の様子を生放映しているらしい。
●ヒーローズ
無数のゾンビメイクをした人々が、不気味な声で吠え、女を攫おうと腕を伸ばす。
「こらっ! そこのゾンビさんたちっ! これ以上の悪事は許さないんだよっ!」
場違いな程明るい声で、甘めのキャミに白のミニ。
ショールをふわりと羽織る秋の装いで駆け寄るクレア(
ja0781)。
そして――スモークが彼女の周辺に満ちる。何故か音楽が変わったりきらきらと特殊効果がつくのであろう間の後。
セーラー服を纏った金目の少女が、獣のよう笑う。真紅の鎌を軽々と掲げて。
「悪いことすると、ハンバーグの材料より細切れにしちゃうぞ☆」
鎌を片手で振り回して、見事に肉片へと変える。返り血を浴びて満足げなクレア。
「斬殺撲殺絞殺、どんなやりかたがいーい?☆」
顔前のピースでキメっ☆
『サイコでキッチュでポップな美少女戦士、ブラッディ☆セーラー』
映し出された映像にテロップがつく。
攻撃が突出して高く大技の多い接近戦特化の玄人仕様だ。
彼女の可愛さに思わず使ってみて、その歯ごたえに悲鳴を上げる人が多数予想される。
「これはスクープですね♪」
ゴスロリドレスのドラグレイは、陽気に犬耳を揺らす。
ゾンビや戦士達の写真を撮り捲るのが彼のキャラだ。
見事にクレアがゾンビの首を切り飛ばした瞬間も、勿論逃さない。
立っているのは電灯の上で、誰にも気づかれず其処に上り、また写真を撮れる程の身体能力はけして侮れないものだ。
クレアに近づこうとするゾンビを見つけると、楽しげな瞬き一つ。
「こんな面白い記事を邪魔するのは駄目なのですよ♪」
身軽に飛んだかと思えば鞄から扇を取り出して重力の勢いを貰い一気に落下。
途中でスカートの翻る一回転のサービスをアクロバティックに決めて、ゾンビの脳天を扇で張り飛ばす。
「ふふ、特ダネを探しに行ってきます♪」
その侭、縦横無尽に分身し、水を歩き。写真を撮りながらゴミ箱や段ボールを投げたり動作は多彩だ。
『異世界からの使者、特ダネジャーナリスト』
移動スキルに優れて、ヒットアンドアウェイの戦法を基本とする。
但し攻撃関係は軒並み低く、あくまでジャーナリストの立場を重視。
面白いことに特殊スキルの『写真』は実際ゲーム内で撮影が出来て、後程ギャラリーで楽しめる仕様になっている。
速度なら負けてはいない、とばかり疾風の如く駆けるのはフラッペ。
文字通り風を纏っての参戦だ。彼女の身体から溢れるアウルは、蒼の色。
リボルバーの弾倉めいた蒼の六角柱が両腕を中心に展開している。
颯爽とした身のこなしで相手の懐に飛び込み、腕から一気にアウルが駆け巡る。
ゾンビを多段蹴りから、肘鉄で舞うように地面へと落とす。彼女は巻き込まれず、宙返りで体勢を整えて。
地に足がついたかつかぬか、という速度で彼女は再び地を蹴る。
レガースからジェットのように光が放たれて、加速モードを縮地を使って表現する。
「ボクは風。風を留めることなんかできないのだ!」
掴もうとする腕を逆に踏んで、彼女は空高く舞い上がり。肘鉄が頭に埋まったかと思えば、足は別のゾンビを薙ぎ倒している。
『銃無きガンマン、蒼き疾風の銃士』
速度に特化したパラは、スピード狂を惹きつけるにはうってつけ。
如何にコンボを連続させるかと入力との勝負になりそうなキャラメイクになっている。
●協力プレイ
「ふっふっふ、ついにボクもヒーローっす。おとんに自慢できるっすね」
機嫌よく笑って帽子の角度を整えているのは朝倉 夜明(
jb0933)だ。
次第に場が温まってきたを見計らっていた彼女はハルバードを持って立ち上がる。
その傍らには、朱色の愛らしいヒリュウがふわふわと浮かんでいた。
策も戦術も無い、真っ向勝負でゾンビのど真ん中に小柄な身体が突っ込み。あっという間にゾンビに群がられてしまうが。
「リュウちゃん、ビーム!っす!」
声と共に、ゾンビの中央で巨大な光が膨れ上がり――爆発する!
それで空いた風穴に、竜の顔の形状に似た斧槍を振り回す姿は勇ましい。
「もしかしてこれが昇級試験っすね!?燃えて来たっす!」
夜明けの色を纏いながらゾンビを数体跳ね飛ばす、文字通りの無双モードが発動している。
ヒリュウの動作は噛みついたり、それを庇って転びかけたりする愛らしいアピールも欠かさない。
『異世界の竜騎士見習い、デイブレイクナイト』
竜騎士の昇進試験と勘違いしているずれた娘さんである。
能力は低いが、特殊能力の召喚を使用すると強力な召喚獣との連携が取れる。
初心者が適当にボタンを押してるとなんとかなっちゃった☆と言うこともあり得る玄人泣かせが魅力。
柘植 沙羅(
jb0832)はちまちまとゾンビを斬っている。
彼女の能力はゾンビテイマー(という設定)なので手数がなければ変身できない魔法少女みたいなものである。
清楚な着物姿ながら、剣を閃光の速度で振り抜くと刀身は透き通って見える鮮やかな軌跡を残す。
「ふっ、ゾンビどもは僕の手駒となるのだ!」
切り捨てる度、そのゾンビが彼女に跪いて手駒となる屍人を従えて満足げに笑う姿は悪人っぽい。
幾らか集めたところで、満を持して彼女も登場する。
「わが名はサーラ!ゾンビどもよ、ひれ伏すがいい!僕に従え!」
『浄化の剣を持つ、下僕募集中テイマー』
本人は弱めのパラではあるが、斬れば斬る程敵キャラが味方に付くという、使い方によっては桁違いの強さを誇るキャラクターだ。
「ふっ、ごくろう下僕ども! ヒマは危ないから離れているんだぞ」
ゾンビ達は一斉に同士討ちをしていく。囲い込むようにゾンビを集めさせ、相棒のヒリュウを離れさせると悠然と彼女は収穫とばかり剣を振り翳すのだが。
「もひとつおまけにビームっす!!!」
閃光が、ゾンビと――ついでに柘植を巻き込んで、弾けた。
柘植の周辺は見事なゾンビトレイン状態で、敵を纏めて屠るには御誂え向き。問題は、柘植の手下も(そして柘植も)一緒に丸焦げになったことだが。
「ちょ、僕の下僕まで巻き込まないで欲しいぞ!?」
明らかに柘植も焦げているが巻き込まれたのは下僕だけ、というアピール。
朝倉がやっちゃった、みたいな顔になるのは一瞬。ふっと視線を逸らして。
「…沙羅ちゃん、君の犠牲は忘れないっす」
空を見上げて、敬礼!
「まだ、まだ生きてる!!」
抗議の声もなんのその、二人はじゃれ合いながらゾンビを倒していく。
人々を追いかけるゾンビ、水無瀬 快晴(
jb0745)更にそれを追う。
足音を殺せば漆黒の姿は黄昏の闇にまぎれて―――ぎら、と輝く金の目だけが、黒猫の眸のよう妖しく瞬く。
「そこをまずはどいて貰おうか……」
薙ぎ払うのは、鞭の一閃。
無数のゾンビ達が後ろに跳ね跳び、どす黒い血が撒き散らされる。
『深き闇に潜む金眼、―――漆黒の暗殺者』
攻撃に特化したパラ。範囲攻撃や、隠密からの暗殺にも優れた広く遊べるキャラのようだ。
彼の静かな表情が、僅かに動く。その先にいるのは、櫟 諏訪(
ja1215)だ。
青白い肌に、機械を纏った四肢。衣装も近未来風で、片目にはスコープグラスがついている。首筋を覆う漆黒の首環がやけに毒々しい。
彼はゾンビを引き連れて親子のエキストラを狙うのだが、子を庇う母親に、ぴく、と銃を向ける腕が止まった。
苦悶の色を浮かべている唇が掠れた声で動く。
「ハヤ…ク…ニゲテ、クダサイ…ナー…」
響く苦しげな音。
「……操られて、いるのか?」
快晴は、皆にも聞こえるような大きさで淡々と告げ。
周囲のゾンビを鞭で薙ぎ倒しながら、櫟へと距離を詰めていく。
「カードは――運命を示す」
凛、と告げるのは羽空。いつの間にか二人の側に立ち、カードを鮮やかに繰り、解いていく。
細い指で引き当てたタロットを示す。
「……15番、悪魔。原因は己。――相手に、原因、絡みついている」
羽空の言葉に、頷きを返して静かな金の眼差しが櫟を見据える。
「……あの敵は、首のあたりが気になるな」
毒々しく紅い光で明滅する首環。狙いを定めた瞬間、彼は音も無く闇に沈む。次に現れるのは、櫟の背後。
「……壊させて貰うぞ」
鞭を振るうと、見事に首環だけを抉り取るようにしなやかな攻撃が加えられ。
櫟を戒めていたものが、崩れ落ちていく。
途端に、茫洋としていた緑の眸に快活で優しげな光が灯り。
「助かりましたー!ありがとうございますよー!ゾンビ退治、協力させてもらいますよー?」
彼は、己の意志で銃を取る。二丁拳銃が、抜き撃ちで火を噴いて。
『捕らわれの機械兵士、今は心芽生えた人として』
遠距離に特化した高命中のパラ。
基本は低火力だが確実に当てていく。必殺技はタメとコストを必要とするが火力不足を補う高威力なのが魅力的だろう。
羽空は更にカードを繰ると無数の腕がゾンビ達を拘束。
光の無い青の眸が、ゆっくりと皆へと向けられる。その先のどこかを遠く見るよう。
「タロットカード12、吊るされた男……因果の鎖、負いし業、捕らわれる」
それ以上攻撃する気がないのを見とり、快晴は目を薄く細め鞭でゾンビを絡め取る。首を跳ねた瞬に、血糊が飛び散った。
「ふむ、共同戦線というのも悪くないか…」
英雄達は、集っていく。
「敵はあちらの方から来ているみたいですねー…。あちらに原因があるみたいですねー?」
ぴんと立った櫟のあほ毛に導かれ、湖へと駆け出す――!
●ボス戦
「―――オオオオ!!!!!」
空気を震わせ湖から巨大なゾンビが現れる。
早速切りつけるのは柘植だが、逆に、吹っ飛ばされる。
「剣が、効かないだと!?」
手駒に受け止められて無事ではあるが、表情は険しい。浄化出来ないのだ。
更に、ゾンビを中心に無数の隕石が八人へと降りかかる。手加減して殆ど威力はないが、コメットの行使だ。
「節制。……力は制御、される」
カードを翳して威力を減少させるが、羽空は大きく身を揺らがせる。
各々が銃で、鎌で、様々な武器で攻撃するもボスは悉く盾で弾く。膝をつく撃退士達。
だが、――立ち上がる。
「このまま、負けられませんよー…?」
櫟のあほ毛がボスの弱点を探す。特に気配が強いのは、――頭部。
「まずはボクが道を作るっす。さあ、暴れるっすよプニさん」
朝倉が召喚するのは、黒と蒼の馬竜。空駆けるその雄々しき姿は、闇の鎧に包まれながら、黎明の眩しさをその奥に内包する。
道を開く先駆けの獣は、閃光を放ちボスの盾を弾き飛ばす。
「洗脳…違った、浄化できないなら仕方ないな! ここは協力してやるぞ!」
ゾンビ達が柘植に繰られてボスに群がっていく。朝倉の拓いた道を辿り、腕を、足を抱いて動きを止め。
「ボクが行くのだ! 弾丸として穿つ!!」
フラッペが地を蹴り、ドラグレイと視線を交わす。速度を誇る彼等は共に攪乱として。
「タロットカード11、力。力は理性に、宿り――秘めたる牙、となる」
羽空が札を翳すは強化の呪文だ。
ドラグレイはボスを垂直に駆け上ってアウルを武器に纏わせ、肩を思いっきり引っ掻く。
「特ダネの為に戦うのです♪」
様子は、子犬がじゃれついているようにも見えて微笑ましい。
フラッペは足、そして胴を順に蹴って足場を作り其処から勢いをつけての落下、宙を舞う回し蹴りで飛び回る。
さすがに堪らず両腕で庇う瞬を逃しはしない。
「これで決めさせてもらいますよー!」
見事な牽制の銃撃から、櫟は銃を下ろして少しの間を置く。タメの間に、銃に集まっていく光。
眩く膨れ上がり――がら空きの頭部に、打ち込む!
「……ああ、これで終わりだ」
陰に潜むように背後に回っていたのは、快晴。
難なくボスの背後を取り、至近距離から棘の鞭を首に回してアウルの銃弾を爆発させる!
「裁きの時が、下る――理を乱すもの、塵は塵に還れ」
翳す札が、黒羽根と共に眼球を切り裂き――。
「悪いゾンビの、お仕置きタイムだぞ☆」
可愛らしいウィンクと裏腹に、高揚に満ちた狂気の笑みを浮かべるのはクレア。
大きく空を舞い、紅の鎌が脳天から顔の半ばまで割り開いていく。
そして、お約束の大・爆・発――。
「全ては……因果律に、支配されている。私も、あなたも――」
羽空のアンニュイな表情が、僅かに伏せられて大写しに。
●その後
「Oh…そ、それは熱い展開なのだ!?じゃ、じゃあどうしてゾンビは現れたのだ!?Uh…!き、きき、気になるのだーっ!」
終了後、関係者にジュースを差し入れたり掃除をしたりと働きながら、ゲーム話に熱く食いつくフラッペ。
「全員のキャラが正式に登録されることになりましたよー? 皆でまた遊びませんかー?」
公式キャラのカスタマイズで、より自分に似ているキャラを作れるようにしてくれるという約束を取り付け、櫟が嬉しげに笑う。
「新作ゲームの体験レポートが出来ますね♪」
「ゲームしたらどんな風に動くのかな?」
一も二も無く、クレアとドラグレイが快哉を上げる。
「やー、こういうイベントってすっごく楽しいっすね! ゲームの出来も楽しみっす!」
朝倉が衒いなく笑うのにつられたよう、快晴も僅かに皆に会釈をして。
「まぁ……楽しかったよ」
各々が表情を柔らかく、新作の予約用紙を手に取る。
クリスマスになれば、もしかしたらまた皆でこのゲームを今度はプレイヤーとして遊ぶ機会もあるのかもしれない。