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マスター:青鳥
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/09/07


みんなの思い出



オープニング

●劇場の長い一日
 長菱商店街には、小さな劇場があった。
 かつてこの辺りが人でにぎわっていた頃に夢を抱く若者たちの芽吹きを助けられれば、と名もなき役者だった男が立ち上げたもの。
 音響や舞台設備は小劇場とは思えない程充実していながら、ジャンルを問わずに格安での提供を続けていたこの劇場から、幾つもの夢が巣立っていった。
 時は流れ、経営者たる彼も年を取り、また小劇場の経営自体が悪化するに至る。
 劇場自体は、数年前に閉鎖していたが、清掃や手入れは欠かさずにいた。
「儂の仕事はもう終わった。ただ、なあ。……この子らに、一度だけでも人のいっぱいになった劇場はみせてやりたかったよ」
 熱心に手伝う孫たちを眺め、彼はよくそう呟いていた。
 そんな折だった。
 長菱商店街全体の振興を、久遠ヶ原学園学園の試験と連携する形で撃退士に協力を取り付けることになったという。
 学生の撃退士。
 演者としての知名度は低く。
 パフォーマンスのレベルは高く。
 なおかつ、少しの時間で舞台を見れるものに仕上げてくれるような、ある意味で理想的な存在である。
 
 劇場のファンは多かったため、問題なく依頼金も集まった。
 彼からの依頼は、ただ一つ。
「芝居小屋にかけられるものなら、演目は何でも構わない。
 夏休みの中の一日、昼の部と夜の部を両方、劇場を満席にして欲しい」
 とのことだ。
 笑いでも涙でも、ただ客達が劇場で楽しい時間を過ごせればそれで良いと。
 そして、そんな依頼に食いつく人員は何処にでもいるわけで。
「ふむ、なら私は昼の部――マチネを頂こうか。あれは外に出たときの眼の眩むような感覚が良い」
 独自の美の追求者でもあり、一連の振興企画の責任者であるジュリアン・白川(jz0089) がそう言えば。
「では朱星は、夜の部――ソワレを、担当いたしましょう。夜、目を瞑るときに思い出せるような素敵な夢を」
 両手を合わせて、劇場型特化マニア観月 朱星(jz0086)が頷く。
 こうして、「長菱自由劇場」の長い一日が始まるのだった――。


●ソワレには星空を
「というわけで、夜の部、つまりソワレのテーマは『星空』でございます」
 観月が取り出して見せたのは、ホームプラネタリウムの機材。
 壁に星空を映し出す、というささやかな品物だという。
 実際に部屋を暗くして、スイッチを入れると壁に星空が投影される。
 小さく瞬く、夜空の光景。
「折角だから、劇場主のお孫さんに夏休みの理科研究になることも出来たらという要望です。
 星の光をバックに、星にまつわる物語など演じてみては下さいませんか?
 舞台の天井からつるすワイヤーロープや、床に置くトランポリンも御座います。
 空を舞うような、空中劇が出来たら素敵ですね?」
 両手を合わせて、やはり幸せそうに笑う観月。
「そして、肝心の出し物の内容ですが、観客を文字通りの『客』に仕立てての群像劇と致します。
 客席を月色の小舟に乗った旅人と見立てて、天の川を流れる舟が折々に見る星の物語。
 神話やまつわる物語、オリジナルでも構いません。
 皆様は、星の物語をどうかお好きに演じて下さいませ」



●物語の始まり
 客席には、月色のパンフレットが配られる。
 開けば、書かれているのはこんな内容。

『今日の貴方は、空の旅人。
 月色の舟が、貴方が乗るのを今か今かと待っている。
 滑り出す先は、一面の星空。
 ミルク色の天の川を流れていく舟は、様々な景色を見ることが出来るでしょう。
 今まで知らなかった星の姿、うつくしい煌めき。
 一瞬の瞬きを、貴方の心の永遠に。

 舟が、地上に還るまで」


 舞台の幕が開けば、―――一面の星空。




リプレイ本文

●一面の、
「わたしはこの船の案内人、宜しくお願いします」
 淡い黄、たまご色のロングワンピースを纏った雪成 藤花(ja0292)が、裾を掴み上げる礼をする。
 今夜の舞台は、月色の舟に乗った観客に星の物語を見せる趣向。
「今宵、天の川を巡るはとある青年。彼は輝きを失いかけた星に光を与えるため、巡っています」
 ご案内しましょう、と続けるが青年はいない。間接的に存在を描くのが、この舞台の趣向だ。
 舞台の背景に、白鳥座が浮かび上がる。
 白を基調にした衣装で頻りに舞台の上を何度も探し回っているのは或瀬院 由真(ja1687)。
「そんな。あれが無いと、大変な事に……!」
「彼女は、こと座のベガとわし座のアルタイルを結ぶ、白鳥座の精霊。
 白鳥座のデネブは、恋人星を繋ぐ大事な橋渡しの星なのです。
 青年は尋ねます。どうしたのかと」
 語り部を通して精霊は『青年』と言葉を交わす。
「とても大事な物を、探しているんです。あのランタンが無いと、織女さんと夏彦さんが会えなくなってしまうんです!」
 デネブの星を無くしてしまって、恋人星の橋渡しができないのだと。
「一緒に探してくれるんですか、有難う!」
 不安げな彼女の表情が僅かに柔らかく綻び、まるで観客が彼女の助力にになれたかのような暖かい満足感を与えて川岸に舞台は移る。
 ランタンは観客にはすぐ分かるが、由真は敢えて「あれ? ない…」とおろおろとして見せる。
 「そこだよ」「そこー!」と子供が声を出したところで、ぱっと顔を明るく。
「あ、それです!見つかって良かったっ」
 黒子が拾い上げるランタンを、大事に胸を受け止める。が、肩がまた落ちてしまう。
「輝きが、消えている?そんな!」
 その途方に暮れた表情が、客席の方を見て驚いたよう目を瞠り。
 腕の中でランタンに灯が差し込む。舞台に配慮して、電動のものだ。
「これが、輝きを取り戻す貴方の力。本当に……本当に有難う御座います!」
 青年の齎す、星の輝き。星に光を分け与える奇跡。
「お陰様で、今年も無事に役割を済ませる事が出来そうです。このお礼に、何か手伝わせて下さい!」
 彼女が腕を広げると裾が風を孕んで鮮やかに舞う。彼女は白鳥座、渡り鳥の精霊。
 追い風と旅の守護を受け――物語は、軽やかに進む。

●星は奏でる
 白鳥座からこと座へ。照明が、次第に絞られていく。
 暗闇の中央に向けて立ち尽くす、白の長衣を纏った青年。
 哀しげな面持ちの御影 蓮也(ja0709)横には、壊れた竪琴。
 語り部の訪れに、彼は力なく笑う。
「せっかく来てくれたのに演奏はできないんだ、弦が切れてしまってね」
 竪琴を大きく示して見せれば、確かに弦が張られていない。
「この弦の元は光、光がないから直せもしない……」
 愛おしげに、寂しげに琴を撫でる仕草が胸を打つ。
「青年は言います。光を精霊に齎しに来たのだと」
 御影は無条件に信じて、昏いランタンを差し出す。
 光が灯る瞬、素早く彼は魔具を取り出す。
 弦の代わりはカーマイン――更に、纏うは「アーク」により生ずる、闇を切り裂く光。
 見事な演出に、客席がどよめく。彼は確かに、竪琴に光の弦を張って。
「ありがとう、お礼に最高の曲を奏でさせて貰うよ」
 快活で温かな笑みが御影の表情に宿る。文字通り、光を灯したかのごとく。
 中央に腰を据えて、竪琴を爪弾いていく。
 何処か物寂しさを覚える小さな音。
 けれど、響き合い、広がり――音の波紋が広がると、絞られていた照明も明度を取り戻す。
 彼の爪弾く光の竪琴から、音と光が重なり客席まで広がっていくかの如く。
 誰もが鮮やかな優しく雄大な光を音として聴く。
 胸にしみて、心揺らす強い光。
 それは、希望を掻き鳴らすに似て。

 次は牡牛座。
 裾を引く軽やかな装いで柊 夜鈴(ja1014)は踵を鳴らす。
 同時に幾つもの打楽器の音が重なるBGMに合わせリズムを重視した、無邪気で楽しげな踊り。
 演じるのは、エウローペだと語り部が紡ぐ。
「彼女が出会うのは、雪のよう真っ白な牡牛」
 踊り疲れたのか休んでいた不意に立ち上がる。
 不安げな色を宿して、後ろに、一歩、二歩。
 牡牛の存在を、パントマイムで描き出すのが彼の演技だ。
 そろ、と手が伸びて直ぐにびくりと震えて退く。
 怯えた表情で数歩を詰めては小さく悲鳴を上げて飛び退いたり、彼の仕草を追えば確かに何かがそこにあるように見え始める。
 やがて、彼は抱えていた花を幻の牛に捧げて渡す。
 片手で持った花輪を腕に通す仕草で、牡牛の首にかけたかのようにみせ、少女らしいくつろいだ笑み。
 再度重ねるダンスは、常に相手がいるかの如く先程までの奔放で闊達な踊りではなく気遣う、共に舞うステップで。
 言葉は無く、眼差しと仕草だけで演じる彼に、次第に誰の目にも光景が描き出されていく――。
 だが、彼が立ち竦んだかと思うと――風の如く、舞台袖に。初めて撃退士の全力の移動を見せれば、瞬時に姿が失せたようにも見える。
 合間に語り部が語る、牡牛の正体は全能の神たるゼウスであること。
 彼女はその寵愛を受けた存在なのだと。
「青年は、言います。彼女が、ゼウスが去った後にも寂しくないように。
 彼女が、嫉妬深いゼウスの妻ヘラから、怒りを買わないよう温かな光を手渡そうと」
 舞台袖から再度現れた不安げな柊の、昏いランタンに光が灯る。
 祝福の、ひかり。
 照らされるように、表情も明るい笑顔に。
「エウローペは、ゼウスに愛されながらもヘラの呪詛を受けなかった稀有な女性としても、語り継がれています――」


●光と影
 次に浮かぶのはオリオン座とさそり座。
 豪奢な椅子に長い脚を悠然と組む男、夜来野 遥久(ja6843)。
 ギリシャ風の衣装に、端正な顔の半分を隠す銀仮面。
「我が名はオリオン、比類なき勇者と謳われた者。栄誉も富も女も、全てはこの手中に」
 中空で何かを握り潰す仕草と共に傲然と言い放つ。
 傲慢故に神に蠍を使わされ死を賜った狩人と観客が知る頃、客席から声。
「見つけたぞオリオン、我が宿敵」
 黒の布を纏い仮面は揃いで色だけが金。
 月居 愁也(ja6837)が客席後方の扉から現れ 布を放り捨てた途端黒衣に光纏で紅蓮をを周囲に揺らめかせれば、子供達は大喜びだ。
「その声はスコルピオ…俺の命を奪った者」
 遥久も弾かれたよう立ち、憎々しげに睨み返す。
「ガイアの怒りは深い。再びこの針を受けよ!」
 互いに駆け寄り、通路で腕をぶつけ合う激突から打ち合う腕を休めず舞台へ向かう。
「俺が何度でも殺されると思ったか。お前の針など叩き折ってくれる!」
 傲然と言い放つ遥久の冷たい表情と対照的に、戦い自体を楽しむ月居の眼差しは炎の如く踊り、揺らめく。
「面白い。精々楽しませてみろよ、英雄殿!」
 地を蹴り、ジャマハダルを針に見立てた月居の刺突を大きく振り翳すロッドが正面から受ける。
 金属同士が噛み合う高い音が弾ける交差。
 だん、と踵が地を蹴るのもほぼ同時だった。
 二人の身体は、高い跳躍で背から後ろに大きく回転、舞台に手をつき更に、もう一度。
 後方回転の二連続から、勢いを乗せて更に――高く身体全体を使って宙に舞う。
 スピード感溢れるアクロバットが視線を奪う、その隙を利用して置かれた黒布を遥久が着地と合わせて引き掴んだ瞬。
 ――月居が一瞬早く動いて、胸を狙い刃を突き出す。
「仕留めた――!」
 遥久の身体は崩れ落ちて、奈落、即ち舞台の下に落ちていく。
 残るはただ、黒い布ばかり。
「オリオン、どこへ逃げた!」
 悔しげに布を踏む月居の仕草は遥久が動く時間を稼ぐ為のものだ。
「何処を見ている、――俺ならここだ。スコルピオ、今宵こそお前を叩きのめす!」
 先程、月居が現れた場所をなぞるかのごとく、悠然とした声。
「なんだと、その台詞はこちらのものだ!」
 今度弾かれて見るのは月居。更に二人が駆け寄り、打ち合いながら舞台への再現。
 そこで、語り部の声が割って入る。
「争いは何も生みません。喧嘩を止めて、光を共に抱きましょうと青年は言います」
 並んで、彼らは舞台で語り部の声を聞く。二人顔を見合わせて。睨み合うのは数瞬。
「仕方ない、今日のところは月舟の客人に免じて休戦だ」
 月居が素顔を晒す。何処か悪童じみた笑い方。
「今日ばかりは生き長らえたな」
 対して遥久が仮面を外せば、こちらは子供の悪戯を許すような柔らかな眼差しで肩を竦めて見せる。
 仮面をランタンに持ち替えて、月居と遥久、赤と白の光が並んで揺らめく。
 しかし先に退場する遥久の背中にあかんべーをして見せる月居。
 客席の笑い声に振り向くと、素知らぬ顔の月居に胡散臭げに首を傾げるがまた歩き出して――。
 何度かそれを繰り返したところで、急にばっと振り向くとあかんべーの最中の月居と目が合う。
「貴様、休戦は取りやめだ!」
 風のように逃げる月居と追いかける遥久は何処か楽しげにじゃれあうように。揃って、扉から姿を消していく。

 彼等が過ぎ去った後の舞台には、浮かび上がるのは乙女座。
 周囲にはただ枯れ果てた森、冬の世界。
 跪く簾 筱慧(ja8654)だけが、命あるものとしてその場に。
「私は豊穣と正義を司る女神。だけど今は娘を失い枯れている」
 乙女座の物語として有名なのは、正義を司り人に失望した女神、アストレイア。
 もしくは、冥府に連れ去られたペルセフォーネのものだろう。
 彼女はその両方をアレンジして、一つの物語と成すのだと語り部が説明する。
 音楽は無く、木枯らしの音ばかりが、吹き抜けている。
 長く淀んだ曇りの空の後の、晴れ間を仰ぐように青年を通して彼女は客席を仰ぐ。
 光を、希う仕草で震える手にランタンを差し出す。
「貴方のもつ希望の光が、大地に恵みをもたらすものなら、娘を冥界から解放させてくれるものなら」
 縋る声すら、悲痛に寒々しく。
「私は貴方の希望の光を必要とする。貴方が真に未来を求める者なら。希望を持つ者なら。
 さぁ、貴方が持つその希望を示して」
 殆ど、彼女は動かない。
 静の演技で、劇場の温度すら下げるような寒さを描く。
 だが、ランタンに灯が宿ると共に、木枯らしは止み。
 纏っていた灰の布を取り去れば、森に差す光を編んだような緑と黄の衣装。
 堂々と整った長身で、華やかに笑えば世界に光が差す。
「ありがとう。あなたの勇気が、世界を取り戻した。貴方が困った時、私は恩返しをするでしょう。でも今はその時ではない」
 細く長い腕を指し示せば、描かれるのは天秤の星々。
「これは私がもっていた天秤。でも今は光を失っている。
 正義を見失った人に望みを抱くことをずっと、私は忘れていたから」
 けれど、と彼女は柔らかく笑い。
「貴方なら…できるはず」

 そうして、場面は移る。次に描かれるのは、天秤座。
 歩み出るのは、白のローブに色の薄い髪、眼差しだけが鋭い金。
 影野 恭弥(ja0018)は、何処か感情薄く淡々と、ランタンを翳す。
「光を、齎しに来たか。受け取ろう、お前の光を」
 語り部は、しかし彼の物語を紡がない。今は、
「光ある場所には必ず影が生まれる」
 あくまで、悠然とした素振りで、押し抱いて見せるのはランタン。
 かたり、と小さな音を立てて床に置いて見せる。そこから、影が広がっていく。
 光を映して、ゆらゆらと。
「そして光が強くなればなる程、影は濃くなり…やがて闇となる」
 明度を増して光が大きく煌めき、同時に次第に彼の身体が闇に飲み込まれる、蝕まれる。
 禁忌ノ闇によって生まれた、深く底の無い闇の具現。
「人々は闇を恐れ恐怖する」
 しん、と静まり返る空気を支配するかの如く、絶対的な声は告げる。
 だが、眼差しだけは染まらない。
 彼が見開く涼やかな眸は、鮮やかな金の色。炎の如く燃え立つ、闇に輝く鮮やかな光。
「人々を恐怖から救う為、神は希望と言う名の光を与えた」
 静かに、囁く声なのに闇に包まれた場面ではこの上なく良く通る。
 青年を通し灯を揺らしながら、影野は語る。
「…対極だよ青年。光ある場所に闇があるように、闇がある場所には光がある」
 影の支配者として、操り手として、温度の無い静謐さが舞台には宿る。
「他者から与えられるか、自ら見出すかそこは大きな問題じゃない」
 そう言って、ランタンを身軽な仕草で取り上げて揺らせば、シニカルに片目を瞑って見せて。
「大事なのはバランスさ」


●舟の終着
「そして光を与えて、彼は自らの光を失いかけます。けれどそんな彼に、星々は――」
 最初に見えたのは、簾の持つ光だった。
「私は貴方に助けられた。だから豊穣の力をもって、貴方に光を取り戻します」
 指先は舞うように示す緑の新芽。春の到来。
 真っ白の羽、光を抱きながら舞い降りるのは白鳥――由真の姿だ。
「今度は、私がお返しする番です。受け取って下さい!」
 空から掲げられた光に、一気に舞台が明るくなる。
「争わぬ心、友好の証を」
「許す心、親愛の光を」
 月居と遥久は今ばかりは仲良く並んでランタンを掲げ。
「祝福の光を」
 花に彩られた光を、柊が手渡す。御影が琴を鳴らす。
「きみから貰った光は優しさの光、それはきみ自身の中から出てきたもの。だから無くなったりはしない、ゆっくり心を覗いてごらん。きっと光が見えるから」
 光に満ちた舞台で最後に歩み出るのは、影野。
「言っただろう、対極だと。どちらか一方が失われることはないのだよ」
 彼が掲げる光は、一際大きい。口元に僅かに描かれた笑みは、何処か不敵な印象。
「名乗り遅れたな青年。私は天秤、天秤座の精霊、対極と調和をこよなく愛する者だ」
 ――世界は、光で満たされる。
「星々の助けで彼はまた、輝きを取り戻すのです」
 星を背後に、彼女は静かに語り出す。
「それでも、彼はわたしのところには訪れません。
 わたしは、輝きを持たぬ星――月だから。
「月の顔を見るは忌む事とされていました」
 月について影の側面を語ってから、けれど、と歌うように声は優しく。
「同時に、愛されました。ヒトに近い天体として。
 だからわたしはいつも、あなた達を見守っています」
 青年に添う彼女の胸は暖かで。
 きっと恋しい人の名に連なる物語だから。
 演じるのでない心からの慈しみ。
 抱くように藤花は腕を差し伸べて幕は下りる。


●砂糖の星、紙の月
 翼で由真が舞うのを皮切りに、客席に皆で菓子を配る。
「最後まで観て頂き、真に有難う御座いましたっ」
「思い出の輝きが、ずっと共にありますように」
「甘やかな星の輝きが灯りますように」
 遥久と月居が用意した菓子は、金平糖。
「愛しき人の子らよ。今みてきた事は世界を希望で満ち溢れさせる事ができるという力。 その力を分け与えるわ」
 皆で役を演じて見せれば観客は大喜びだ。
 
 紙の月だって、信じれは本物になるよう。
 砂糖の星に、人の演技に。
 見果てぬ夢を描くのは、劇場の最後の物語に相応しく。

 愛おしいばかりの、夜の夢は確かに。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 幻の空に確かな星を・御影 蓮也(ja0709)
 輝く未来を月夜は渡る・月居 愁也(ja6837)
 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
重体: −
面白かった!:12人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
幻の空に確かな星を・
御影 蓮也(ja0709)

大学部5年321組 男 ルインズブレイド
幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
夜舞う蝶は夢の軌跡・
簾 筱慧(ja8654)

大学部4年312組 女 鬼道忍軍