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マスター:青鳥
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/08/27


みんなの思い出



オープニング

●長菱商店街振興策
 それは一本の電話から始まった。
『……お願い、この通り!』
「この通りと言われても、電話では頭を下げてるのやら合掌しているのやら判りかねるがね」
『……相変わらずね。そんなだから彼女の一人もできないのよ』
「彼氏の一人もいない君にだけは言われたくない台詞だね」
 訪れる沈黙。
 その間も久遠ヶ原学園で教鞭をとるジュリアン・白川(jz0089)の指は休みなくキーボードを叩く。
 恐ろしいことに、初等部から大学部まで有するこの学園において進級試験は年に一度しかない。教師陣にとって、今はまさに修羅場である。
 その多忙期間中に突然かかってきた電話の主は、旧知のフリーランス撃退士だった。
「学園は何でも屋ではないよ。君も卒業生なら判るだろう?」
『それは判ってるわよ。でもね、ようやく立ち直ろうとしてるんだから何とかしてあげたいわ』
 そこで白川は手を止めた。
「待てよ、そこは駅前の商店街だったね」
『ええそうよ。長いに菱と書いておさびし商店街。もうゲートは無いんだけど、ディアボロに襲撃されてから人出が絶えてしまったの』
「……名前を変える所から取り掛かるべきじゃないかね?まあいい、何とかなるかもしれん」
 白川は電話を切り、斡旋所宛てのメールに取りかかった。

【依頼内容】
 不況とディアボロの襲撃により寂れてしまった商店街の振興に協力すること。
【特記事項】
 本依頼は進級試験の採点対象とする。

●世界はアイドルを求めている
 商店街の復興依頼がいくつか出されるのだと聞いていた。
 その一つに、アイスクリーム屋の宣伝手伝いがあるのだとも。
 なのになぜ。
 観月 朱星(jz0086)が並べているのは、シャーベットカラーのひらひらふわふわしたレースやフリルが丁寧に彩るドレスなのだろうか。
 怪訝な視線に彼女は全く躊躇なく微笑む。
「だって、今回のお仕事は歌って踊ってアイスを売ることなんですよ。
 ステージもあります、頑張って下さいませね」
 世にも幸せそうに胸の前で手を合わせる観月。
 彼女が機嫌よく語った内容は、以下。

 寂れてしまった、長菱商店街。
 その中でもケーキ屋の跡継ぎは、なぜかアイスクリーム作成の道に目覚めて家出。
 しかし、商店街の振興の話を聞いて、戻ってきたのだという。
 若きアイス求道者、常夏麗華(トコナツレイカ)の作るアイスクリームは文句なしに手間暇をかけて美味しいもの。
 更に彼女は、冷たい石の上でアイスとトッピングを混ぜ、歌いながら作るアイスクリームという奴が最近とみにお気に入りらしい。
 これを作って町おこしが出来ないか、そう考えた彼女の目に留まったのは。
 某テレビ局の「ご当地アイドル募集」の企画であった。

「そこで常夏さんは考えるわけです。歌って踊ってアイスを売れば、全てが上手く行くのではないかと」
 極論に思えたが、まあもう突っ込むのはなんか無理な気がした。
 手芸の得意な常夏嬢が渾身の力をかけて作ったというステージ衣装。
 当日はテレビ局も取材に来るということで、商店街の無駄に余った土地に暇な店主たちが手作りながら手間暇かけて準備したステージ。
 此処に上手く人を集めて、PRなどして。
「テレビ局も結構注目して下さってるようですから。上手く行けば、一日限りですがアイドルにもなれちゃいますよ。常夏氏のお店、『ハッピィポップデイズ』は今は屋台だけですけれど、本当においしいアイスを扱っていますので良かったら召し上がって下さい。依頼参加者は食べ放題、とのことですから」
 観月は心底楽しげに笑う。かなり、彼女の趣味の持ち込み企画であることは間違いなかったが。
 これも、恐ろしいことに進級試験の一環なのであった。


リプレイ本文

●アイス日和
 休日の駅前、行き交う利用者に桐原 雅(ja1822)は満足そうに頷く。
「うん、予想的中なんだね」
 彼女は先にある程度の下調べをしている。人の集まりやすいこの時間を狙って駅前に来たのは雅の提案だ。
 白い帽子に髪を押し込み、白と青を基調とした騎士風の衣装の少女は如何にも愛らしい。
 男装の形を取っているが、少年と言うよりは中性的な印象だ。
 ビラを配る若い男女に人々の目も否が応でも引き付けられる。
「あの、…これってご当地アイドルの奴ですよね?」
 遠慮がちに受け取りながら訪ねてきた女子高生に、奉丈 遮那(ja1001)は人好きのする柔らかな笑顔で笑う。
「はい、今日はステージもあるので来てくださいね〜」
 彼女が頼んだテレビでの告知も何とか間に合ったのか。朝番組のCM力は意外に侮れない。
「うん、今のいい顔だったよ」
 他の部からの協力は仰げなかったが機材は商店街からのレンタルで賄えた。
 カメラ片手に鴉乃宮 歌音(ja0427)は忙しく駆けまわっている。
 モバイルからブログのアクセス数を確認すると右肩上がり。ブログは元々準備があったのも幸いした。
『ハッピィポップデイズ開店イベント!』
『氷の妖精華麗に舞う! スケートショウ公開!』
 文字が踊るブログを確認して、呟き系から顔出し系まで交流サイトへの書き込みにも余念がない。
『駅前で、アイドル達を一足早く見れるチャンス!』
 GPSつきで打ち込んで、次はウェブカメラの確認に戻る。
 そのタイミングで颯爽と現れるのは、セーラー風に大きな襟がはためく衣装に女性も羨む素足が半ズボンからは惜しげもなく覗く姿。
 地を蹴りスピンからのターン、金髪のポニーテールがふわりと揺れて、犬乃 さんぽ(ja1272)が浮かべるのはアイドルスマイル。
「皆、こんにちは! ボク達、ホップデイズ☆ブレイカーズ!」
 ピースサインは顔の高さで。堂に入った姿に、何事かと足を止めるものも多数。
 オリジナルの歌をハミングしながら、思い切りの良い高い跳躍は男子ならではの高度を見せる。
 彼の手が離さないのはヨーヨー、生き物の如く犬乃の周りを回ったかと思うと、本人と同じタイミングでスピンする小技も見せる。
 口々になんだろうと話しているOLを狙って、するりと雅は近づいていく。
「これ、どうぞなんだよ」
 少年か少女か一瞬分からない可憐な姿にしどろもどろの彼女達が尋ねることに応えるのも、あくまで押し付けがましくなく冷静に。
「今日、長菱商店街でステージをやるんだよ。無料だし、予約もいらないから良かったらどうぞ。アイスのクーポンもあるよ」
 宜しくね、と丁寧な礼。去り際、振り返る瞬間に、整った涼やかな表情がふと笑う。
 一気に硬さが解けて、可憐な笑みが見えた。
「また、会えたらいいな」
「「絶対行きますーーー!!」」
 見事な手腕だった。
 一方奉丈も、両手でビラを渡して質問にも丁寧に答えている。
「はい、ミントがお好きなら夏のクールスペシャルがお勧めです。バニラとミントが二層になって見た目にも涼やかなんですよ〜」
 一通りアイスの味見をして説明も受けた少女には、アイスの説明もお手の物だ。
 不思議な明るい色の眼が優しく笑うと、引き込まれるよう客も笑う。
「美味しいアイスにボク達のデビューステージ、続きが見たい人はチラシの所に来てね、待ってるから☆」
 ビラが行き渡ったところで、犬乃がビラを一枚ふわりと宙に浮かせるとヨーヨーが空中で捕えてそれもまた、見物人の手に。


●屋台
 小さな屋台が今は唯一の店舗だった。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!…やっけ?」
 亀山 淳紅(ja2261)が透明感のある声を高らかに響かせる。
 鮮やかな色合いのクランベリージェラートを下地に、手際よく季節のフルーツを冷たい石の上に落として混ぜていく。
 合わせて、歌が響く。
 軽快に耳を擽る声はポップなメロディラインに乗って混ぜる手も自然にリズムが合う。
「ハッピィ・ポップ・デイズ 踊りだすほど美味しいリズム 君にも一口!」
 櫟 諏訪(ja1215)が更に声を重ねる。こちらは優しげな少し甘い声、二人で目を合わせて笑いあった後に、丁度出来上がったアイスをカップへと。
「おいしくできましたー!どうぞですよー!」
 許可を得て、試食用のカップでの配布。遠巻きに見ていた子供がわっと歓声を上げて集まる。
「わ、私…ちゃんと勉強したら、料理だってできる子だから!」
 本日は出来る子らしいエルレーン・バルハザード(ja0889)も二人と共にいっぱい練習したのである。
「♪ららら アイスはすてき
こんなにつめたいのに こころはぽかぽかするぅ♪」
 一生懸命手元だけじゃなくお客さんの方もちゃんと見ながら優しい声が歌を連ねる。子供と目が合うとぽかぽかだね、と片目を瞑って見せて。
 亀山の手拍子も混ざり、店前は賑やかだ。
「思いっきり歌うと、気持ちええなあ」
 アイスを作っている腕の疲れもなんのその、亀山の表情は明るい。
 髪もピンで押さえて、清潔感にも気を使った服装は店のイメージを良くすることにも貢献しているようだ。
「じゃあ、アイスを配ってきますよー、お願いしますねー」
 櫟がお盆にアイスをたくさん載せて、エルレーンの方へと視線を流す。
「うん! がんばるっ!」
 握り拳のエルレーン。沢山の人の注目に、今日は真っ向勝負だ。
「はい、ハッピーポップデイズのアイスですよー」
 店の前で、芝居がかって櫟がアイスのミニカップを彼女に渡す。スプーンですくってぱくりと一口。
「はうっ…おいしすぎてッ!!」
 大きく目を見開いた次の瞬間、ぱっと彼女の姿が二つに分かれる。忍軍ならではの分身を作成したのだ。
「思わず二人で食べたくなるの★」
 アイスを差し出すきめポーズに、櫟の周りに子供達が群がる。
「すげー!!」
「俺もーーー!!」
 受けは上々、その間に櫟がビラも一緒に配っていくという寸法だ。
 気をよくしてエルレーンは別バージョンも披露。
「WAO★思わず身体もはじけちゃう!」
 今度は金髪ブロンドのグラマラスな美女に大変身!!!
 おおおおおおおお、と今度上がったどよめきは大きいお友達。胸囲の格差社会に関係してるような気がしたが今は深く考えないことにする。
「ステージもやるので見に来てくださいねー!」
 櫟が元気よく宣伝したところで、人だかりはどんどんと増えていく。
「ビラを配るのが追いつかないくらいね」
 赤と白のフリルがついた衣装を発育の良い身体に纏い、簾 筱慧(ja8654)は嬉しい悲鳴を上げる。
 店前でのビラ配りと言うことで、こちらの増員に回っている彼女は、ちょうど集まってきた男性の方を担当する。
「そこのあなた、ヒマなら夕方に行うショウもみてみない?きっと素晴らしい思い出になるよ」
 しなやかな仕草で猫のように近づいて行って、鮮やかなウィンク。
 でれ、と鼻の下が伸びるのに、小さくターンをして見せるとフリルが風を孕んで綺麗に膨らむ。
「知人や家族も誘って見に来てくれるとありがたいなー。おねーさん」
 駄目押しの、上目使い。
 時間や場所の書かれたビラを大事に持ち帰る男の背を見送って、彼女は次なる客を探しに行くのだった。


●アイドル爆誕!!
 宣伝効果は十分か、ステージは既に満席に近い。
「まだまだ、来るよ」
 モバイルを見ていた歌音は自信ありげに頷く。
 騎士服風の姿に、金の髪が柔らかく落ちる男装めいた風情だ。
「賑やかですね、ここから楽しんでもらいましょう〜」
 奉丈のおっとりとした表情に、緊張は無い。慣れないローラースケートも、勉強の成果か随分足に馴染んだ気がする。
 甘いオレンジと清潔な白を組み合わせたドレスにオレンジのブローチは彼女の眼にもよく映えている。
 司会の前口上が終わって、とうとう彼等へとコールされた。
「それでは、ポップデイズ☆ブレイカーズの登場です!」
 一斉にローラースケートで全員が飛び出し、犬乃が大きく手を振る。
「みんな、今日はボク達のステージに来てくれてありがとー、美味しいアイスと歌と踊りを楽しんでいってね」
 途端に衣装を解けば、皆と揃いの騎士風の装いに早変わり。緑と白に、黒のインカムがアクセントをつけてチョコミントカラーの披露だ。
 気を取られた瞬間には、いつの間にか色とりどりの衣装を着た八人が揃っている。
「私達ホップデイズ☆ブレイカーズがステキなトワイライトタイムを演出するからね〜
 それじゃーレッツショウタイム!」
 簾が華やかに投げキッス。軽快な前奏が響き始めるタイミングで光を纏って、ステージを一気に端まで駆け抜ける。
「はぅはぅ…ホップデイズ☆ブレイカーズ!あくしょんいきますッ!」
 反対側からはエルレーンが、彼女と交差して壁を垂直に走るという並外れた技を披露する。
ふわ、とフリルの裾が風になびくのにエルレーンの顔は自然に綻ぶ。
 沢山のリボンが飾られた夢のようなドレス、綺麗な衣装の「かぁいいおひめさま」であるのだと実感させてくれる。
 夢見る瞳が笑う表情は、彼女に自覚があるかは分からないが立派な、アイドルそのもので。
 更に犬乃が中央から擦り抜けながらヨーヨーと一緒にバク転すれば客席は大賑わい。
 気づけば周囲には白い煙が舞い、亀山の放ったトワイライトの光をきらきらと舞台へ花を添えている。
 歌音は舞台を駆け回る傍ら、ドライアイスを仕込んでいるのだ。
 前半とは違う愛らしい姿で、しかし踊りは本格派、ドライアイスを置く仕草を見せない綺麗なスピンを披露する。
「べたーな台詞やけど!一生懸命歌うから、アイス食べながらでも聞いてってくれれば嬉しいんやでー♪! 『アイシクルデイズ』 !」
 前奏の終わりに、亀山がマイクを片手にステージ中央へ躍り出る。
 鮮やかな赤の色が混ざる衣装にブルーベリーの飾りがついた帽子で、美味しそうなベリーアイスをイメージした彼の横には、淡い緑にこちらは光沢のある黒の帽子を被って黒蜜トッピングの抹茶アイスな櫟が並ぶ。
「いつも通りの 帰る道 おいしいアイスに はずむ日々
とろけるような 夢の日々 君と一緒の 帰り道」
 最初は陽気で甘い、ツインボーカルから。地声を使うポップスは、自然体の声音にきらきら輝く躍動感が滲む。
 歌うことが楽しくて仕方ないのだと誰よりも大きな声で、けれど櫟との調和も崩さない。櫟の声がメインを辿るときには、音を綺麗に整えるハモリで。
 次のパートで二人は一歩下がって、奉丈と雅が進み出る。
 涼やかな雅の声に、奉丈が優しく響きを乗せる。
「ハッピィ・ポップ・デイズ 弾けるフレーズ 甘くとろけるメロディにのせて
 ハッピィ・ポップ・デイズ 踊りだすほど美味しいリズム 君にも一口!」
 前半のラストフレーズと共に羽のような光がふわりと雅の周囲を包んだかと思うと、帽子が高く宙を舞う。
 次の瞬間には艶やかな黒髪が下りて、男装からドレスへとスカートが広がる。
 笑顔もぐっと華やかに零れていく。
 奉丈と二人肩を寄せる近くの位置から、花開くよう両手を大きく伸ばして。
 片手を広げて顔の前、それから大きく円を描く振り付けで最後は二人、手を打ち合わせる。
 雅の羽が集まって纏ったかのよう、奉丈の背中に羽根が生える。真っ白の、天使の羽根。
 地を蹴れば、重みなどないとばかり姿が空へと舞いあがる。空中で大きく一回転をして、ふわりと靡く髪を掻き上げて見せ。
「まだ、ショウは終わらないよ」
 歌音がステージに向けて語りかけ、大きく客席に向けてボールを投げる。反対側からは、亀山も投げて見せる。
 すかさず櫟が一瞬の早業で玩具の銃を使い、ぱあんと撃ち抜く。本職ならではの見事な抜き撃ちを披露する傍ら、
 簾は壁からの接近見事なボディラインを見せつけるよう大きく扇を振りかぶって投げ放つ!
 その後は正しく風の如き速さでその場を跳ぶと、真っ白い脚が目を惹く。
 同時に左右で音を立てて割れたボールは客席に紙吹雪を散らした。
「抹茶アイスの櫟諏訪ですよー!黒蜜とあわせてどうぞー!」
 自己紹介をしながらの客席下り、縦横無尽に客席を滑り抜けて、客とハイタッチ。
「ハッピィポップデイズ、開店です!宜しく!」
 歌音も客席に向けてアイスを配って行けば、飛ぶように貰われていく。
「その冷たさもとろける魔法で暖かさに変わる、さぁ、アイ☆ステージマジック、今日も君のハートに!」
 犬乃がウィンクを決めた途端に、彼の手の中のヨーヨーが魔法のようにぴんと張られた糸を下から垂直に上ったかと思えば次の瞬間にはぐるんとスピン。
 目にも止まらぬ速さで左右に振り子の如く揺れては壁に沿って跳ね上がる。その間、犬乃も壁走りで真上へと滑り。
 華やかさに少し憧れるような眼差しを向けた雅は、皆のダンスに合わせて体を動かしながら笑顔を崩さない。
 合わせて歌声を添えると、重なり合ったメロディは客席へとずっと広がっていく。寄せて返す、波のように自然に、優しく。
 そして、紙吹雪とトワイライトの舞う上空で、スカートをなびかせて奉丈がマイクを口元に。
「ハッピィ・ポップ・デイズ 弾けるフレーズ 甘くとろけるメロディにのせて」
 大きく急降下をしながら歌う間、亀山は手拍子を重ねながらハモリを入れていく。
 メンバーの増減に合わせて声量をコントロールしながら、他の人の歌声も届くよう。
 彼女の効果に合わせて、ステージの屋根近くから一気にエルレーンが滑り降りる。音を立てずに、着地から連続のスピン。
 最後に回ったところで、奉丈とセンターを交代して。マイクを胸に、大事にフレーズを初々しい仕草で歌い上げる。
「ハッピィ・ポップ・デイズ 踊りだすほど美味しいリズム 君にも一口!」
「召し上がれ!!」
 亀山の一際朗々とした声が、合図。皆で差し出す仕草のきめポーズで終えると大きな波のよう、会場から歓声が響く。
 いつまでもアンコールの声は止まなかった。

「お疲れ様ー」
 未だ舞台の高揚も褪せない侭で、皆が楽屋でアイスに手を付けることになる。歌音が買うと言ったのだが、店主は皆へプレゼントとしてお持ち帰り分まで用意してくれたのだ。
「頑張れた、かな」
 雅が自分に確かめるように呟くと、亀山が人懐こく笑う。
「すっごい頑張れたでー! 歌もみんなで歌えて楽しかった」
 一人で歌うのではない、また違った楽しさに胸がまだ熱い。
 歌音が貰ってきた動画をモバイルで流す傍ら、エルレーンは一人、先程まで着ていた衣装を見遣る。あの時、彼女は確かにお姫様だった。
「…私、かぁいくなれたかな?このいしょうに似合うくらいに」
 今は、どうだろう?
 迷う彼女が視線を向けると眩しい顔で笑い、歌っている画面の中の自分と目があった。

 誰もが笑って、眩しくて。
 観るだけで心弾むアイドル達。
 客席からの熱気が、反応が確かに八人を『アイドル』だと示していた。
 眩しさも、熱さも、高揚も。
 アイスでは冷めないくらい、心の中に。


依頼結果