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マスター:青鳥
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/07/23


みんなの思い出



オープニング

●時の砂は過去に流れて
 一人の、少女がいた。
 彼女には両親がいたが、両親はけして味方ではなかった。
 彼女を搾取対象としか見ていなかった。
 虐待と言える程のものではなかったのかもしれない。
 けれど、尊厳と人格は黙殺される生活が、長く、長く続いていた。
 助けを求めようとも、大人は彼女の惨状から目を逸らし、友人と呼べる存在はいなかった。
 ただ、一人を除いては。

「必ず、お前を助けて見せる。世界が優しくて美しいものだと、教えてやる」
 手を取ってそういってくれた少年がいた。
 少女は、初めて太陽を見たかのように表情を歪め、少年に縋りついて泣いた。
 けれど彼女も彼も、どうしようもない程に若かった。
 義務教育の身で、出来ることは少なく、とても、少なく。
 お互いの心は追い詰められていくばかりの、日々。

 ―――サーバントにより彼女の町が滅ぼされるその日までは。



●転じて、夏
 少女は幸福だった。
 天使勢の襲撃を受けたことで彼女の町は天使の支配下となり、「偶然にも」彼女は他の街に出かけていて難を逃れた。
 彼女は、だから自由になった。
 歩く度にひらひらとシフォンワンピースの裾が揺れる。薄紅のリボンが流れる。
 好きな服を着て、好きなものを買う幸せ。
 見上げれば空は青く高くて、つかめそうで思わず手を伸ばす。
 だが目に入るのは、自分の薬指。金の剥げた、安物の指環。
 胸を、少しだけ刺すような痛みが走る。
「……まだ、迎えに来てくれないの?」
 恋しい人を、思う。
 あの夜、彼女を逃がしてくれた恋人は未だ、行方がようとして知れない。
 だからこそ。
 彼女は、此処にいるのだ。

 天魔と戦うこの、学園の入り口に。
 新しい転入生として。
 


●それでも世界はうつくしい?
「今回の件には、使徒が関わっています」
 開口一番、観月 朱星(jz0086)が告げる。
 自然、空気に緊張が走った。
「――話の発端は、少し前に遡ります。
 関西地方のとある小さな町が、サーバントによって滅ぼされました。
 十人は天使に回収され、今はただの廃墟となっています。
 襲撃時に町から離れていた住人は無事でしたが、そのうちの一人、冴木結(サエキ ユイ)が不思議なことを証言しました。
『この街が天使のものになることを知っていた。彼女の恋人がそう言っていた』と。
 当時の彼女の恋人と、襲撃の陣頭指揮を執っていた中倉洋介との間に何らかの取引があった可能性を示唆するものです。
 そして、結果として彼女は、鬱屈した家庭環境から脱出し現在に至っています」
 観月の声は平静ではあるものの、少しだけ目を伏せる。
 それから、改めて顔を上げ。
「現状、彼女の言を裏打ちする情報はありません。
 けれど、彼女は当学園にこの七月に入学、そして正式に依頼をしています。
 町の近くに彼女と彼の思い出の地がある、そこに行けば彼の行方が分かるかもしれないから護衛をして欲しいのだと。
 皆様に依頼いたしますのは、その地までの彼女の護衛です。
 現在はサーバントの巡回地域ですので。
 得られた情報については全て、学園側に提供する約束もしておりますので、無理に取り上げる必要はありません。
 彼女と情報を必ず持ち帰ること、それが皆さんの任務です」
 そして、依頼の具体的な説明に入る。
 「思い出の地」とは、町はずれの小高い丘であること。
 サーバントが周辺にうろついている可能性がある為、迅速な移動が必要なこと。
 詳細の場所は彼女しか知らず、また彼女は彼女抜きでその場にたどり着くことを拒むために、『自分が同行している状態』でしか詳しいポイントを教えないこと。
「敵の懐に飛び込むようなものです。
 サーバント相手に派手な騒ぎを起こしてしまえば、敵の増援が来たりとそもそも目標達成が困難になる可能性があるでしょう。
 ある程度離れれば何とかなる復路はともかく、特に往路では慎重に動かれることをお勧め致します。
 ――ここでの貴方達の言動や行動は、間違いなく遅かれ早かれ使徒にまで伝わります。そのつもりで、いらして下さい」

 暦を見れば、七夕を過ぎる頃。
 彼女は、彼を探しに行くのだ。

 邂逅を夢見て。


リプレイ本文

●深い森
 無警戒に歩き出す依頼人こと冴木をさりげなく制するのは二階堂 かざね(ja0536)だ。
「危ないからね! 大丈夫、近くにいるよ!」
 不安の色を浮かべる冴木に、人好きのする笑顔を向けて。
「そうね、大事な探し物があるのでしょう? 万が一にも危険があってはいけないわ。私は後ろに下がるから」
 暮居 凪(ja0503)も重ねて、警戒心を解きにかかる。
 放っておけば先に行かれかねない、と判断して彼等は順に声をかけていく。
「夏の森っていうのは案外危険だよ? エスコートはお任せあれってね」
「ああ、ただ歩くのも詰らんだろうしな。良ければ、私達と話をしないか?」
 状況を冷静に測る常木 黎(ja0718)とサー・アーノルド(ja7315)が彼女を隊列の中央へ。
 今回の依頼では、出現サーバントの詳細すら不明。
 不透明な状況への適切な対処を要するというのに更なる不安要因がある。
「全くの爆弾、だねえ。心の世話までは構っちゃいられないしさ」
 心の中で一人ごちる常木の言い分も最もだ。
 不安定さを依頼の障害と捕えながらも、これも『仕事』だ。
 親しげに笑みを向けて、何くれとなく手を貸しては声をかける。
「学園ではやっていけそうかい?」
「あ、はい、こんなにやさしい人が一杯いるなんて…環にも、」
 誰かの名を呼んで言いよどみ掛けるのを契機と、暮居が穏やかに口を挟む。
「そういえば。彼氏の名前って教えてもらえるかしら?」
「…え、環、暁環っていうんです」
「どんな方なのか聞かせて貰えるだろうか」
 途端に表情を明るく雄弁に水を向けた皆に滔々と語りだす。
 話に夢中になって、隊列や進軍に異を唱えないのは助かることではある、けれど。
 暮居は僅かな痛みを覚えたように、自らの胸を押さえる。
「行方不明の人を想う気持ちは、私も理解出来るわ。手掛かりを探したい気持ちも‥‥ね」
 彼女が失った『彼』に生存の可能性が、存在の所以が掴めたら何をしてでも細い糸を手繰り寄せるだろう。
 彼女は、その『可能性』を持っている。けれど、――想定出来る末路は。
「…こ奴、これからすることは恋人を売るも同然かもしれぬことは自覚しておるのか?」
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)がやり取りを遠く見守りながら、意地の悪い感想は自覚の上。
 人の狂おしき恋情か、もしくは自己愛の末のエゴか。
 悠然と涼やかな金の髪を流して、彼女は思考にピリオドを打つ。
「まあ、我には詮無き事か」
 フィオナは己の責務を果たすべく周囲に警戒の意識を研ぎ澄ませる。
 後方に、今のところ異常は無し。
「――上空、北西方向に影が」
 感情を乗せない声で機嶋 結(ja0725)は皆に告げる。
 アーノルドは指を立てて冴木に口を噤ませ、谷屋 逸治(ja0330)が茂みを見つけて彼女を優先的に隠しての待機。
 的確な上空に注目しての警戒と慎重な行軍で、ひとまずの接敵は回避できそうだ。
 先頭で雨宮 歩(ja3810)は身を低め、木々に紛れ気配がないことを探りながらじりじりと進軍していく。
 振り向けば、談笑する冴木の笑顔。
「優しくて美しい世界、逆から見たら残酷で醜い世界。見方を変えれば世界は簡単に変わる。お前の世界はどうなるかなぁ?」
 声は流れても届くことは無く。
 見届けるのもボクの仕事か、と気怠げに続けて彼は目を伏せる。
 約束された、先の悲劇に。



●捜索
「わあ、綺麗だね! 一緒に行こう?」
 丘に辿り着いたところで二階堂が朗らかに手を差し出して見せる。元気に、明るくふるまうこと。
 つられて笑ってくれるように。
 注意深く会話や所作を観察してみるものの、彼女からは恋人への信頼ばかりが伝わる。
 下手に刺激しなければ、協力者として問題は無いだろうが、情報は捜索物でしか得られないというのが現状までの判断だ。
 彼女が示すのは小高い丘だが、いざ探すとなれば足が迷う。
 暮居が恋人との思い出を自分も辿る様にして声を差し挟む。
「彼の事ではなく。貴女の思い出を探してみてはどうかしら?それが彼との思い出なら、何か分かるかもしれないわよ」
 それなら、と心当たりがある様子に、幾人かが護衛代わりにと傍らに添う形で。
「さて、迅速に済むようなら有意ではあるな」
 監視の位置で傲然と周囲を見渡すのはフィオナ。
 彼女の堂々たる仕草は、警戒というより視察のようにすら見える。
 視界が開けた分上空からの敵があれば直ぐに反応は可能だろう。
 豪胆にも、どっかりと胡坐をかいて座していた谷屋も茶を飲んで一息を入れる。
 寡黙な男は僅かな休憩を入れる間も巌のよう佇んでいたが、ふ、と何かの気配に振り返り。
「……あちらを、見て下さい」
「ふうむ?」
 別ポイントを監視していたフィオナに短く注意を促す。
 見え隠れするのは、灰の毛。大柄なけして自然の動物のものではないそれ。
 だが、飛び出してくる気配はない。何かを監視する姿勢だ。
「何やらきな臭いがな。時間を寄越すというなら付き合ってやろうか」
「そういうことだねぇ。ボクは前に出ておくよぉ」
 忍軍の敏捷さを生かして、梢近くの樹に登る形で、逆に監視体制を固めるのは雨宮。
 見下ろす先には、依頼人がいる。合わせ場所だったという木の根本を、アーノルドと共に掘っている。
「探し物は見つかるだろうさ、きっと。それがいい事かは分からないけどねぇ」
 両者が指先を土に塗れさせ、出てきたのは袋に包まれたノート。
 彼女がそれを手に取った瞬間――。

「オオオオオオオ――ン!!!!」
 
 少女に向かって飛び出してくるのは灰色狼が二匹。
 すかさずアーノルドが後ろに抱き込んで庇い、常木が真横に張り付く。
 更には、三つ首の頭を持つ獣が飛び出した――が既にその襲撃を察知し照準をつけていた谷屋の弓が狙う。
 引き締まった肉体が正しき型を辿り、番えて――放つ。
 違わず腹を射抜かれながらも駆けるサーバントに同じ速さで疾走するのは鎧を纏う騎士の影。
「幻獣の抑えは請け負おう。貴様等は先に狼を潰せ」
 ギィィン、刃が牙と真っ向から食い合っての軋む音、巨大なケルベロスに退かずに睨み据える。
「此処は貴様らの領地ではない。人間の領域に土足で踏み入る非礼、己が身で償うが良い!」
 堂々たる宣言と共に、アウルが増大する。天魔と言えど存在を見過ごすことが出来ぬ程に。
「じゃあ、こっちを先に片づけるよぉ」
 雨宮は木の枝を蹴り、真上から灰色狼に向けて刃を下に飛び降りる。
 自重を乗せての刃は、分厚い灰色の毛皮を大きく切り裂いて――。
ほぼ同時、交差する形で機嶋の刃が迸る。小柄な影が構える細身の大太刀は、彼女の身長より数十センチ短い程度。
 側面を取るステップから、力の限り振り抜く攻勢は、まさに蹂躙。
 腹部を薙ぎ払っての離脱までが、一呼吸の交錯。
 手ごたえは十分、フィオナが請け負う間の、掃討は戦略的にも十分な解だろう。
 だが、問題は。
「冴木殿、もっと後ろに!」
 もう一体の狼は狼は他に目もくれず冴木に向かって走り出す。
 アーノルドの片腕が彼女を引き寄せ武器を持つ手を差出して食いつかせる形で、護りに力を割く。
 強化された腕に食い込む傷は深くはないが、鈍い痛みを伝える。
「護りは私が預かる。始末を頼む――!」
 この身が尽きるまで庇い続けると言い切る彼に護衛の位置の撃退士は頷き合うう。
「さっさと、終わらせないと!」
 二階堂が向き直った瞬間、彼女は赤白い炎と雷の如くオーラを纏い頭髪がふわりと浮き上がる。
 肌にぴりぴりと痛い程闘気を纏わせながら睨み据える横を、暮居が大振りにランスを操り足元を薙ぐ動きで掬い上げる。
 浮き上がった瞬間を狙い澄まして、常木の銃口は狼のこめかみへ。
「これ以上、かき回して貰っちゃ困るんでね」
 ダァン、と至近距離での発砲に顔半分が弾け飛ぶ。
「今、楽にしてやろう」
 それでも蠢く姿にアーノルドのショートソードが喉笛を掻き切るまでが、一連の見事な流れ。
「このまま大人しくしてくれるなら重畳、か」
 冴木を片目に眺める間も三つ首のうち一つが吐き出す黒い炎が間近でフィオナの肩を炙り抜く。
 肉の焼ける異臭と苦痛を感じながら口元は不敵に笑う形を崩さずに、炎を切り裂く勢いで逆に返す刀は裂けた口元を更に深く、切り刻む。
 睨み合いから意識を割けばすぐさま、おそらくは冴木を狙うことが予想出来れば、逸らす訳には断じてならない。
 二度目のスキル行使にアウルへと力を込めたところで、暮居が側面から片手を翳す。
 白く光る数式が浮かび上がり、ケルベロスを招く形に悠然と差し伸ばされて。
「こちらも手が空いたわ? いらっしゃい」
 有無を言わさず、強い声音と共に宣言をする。
 長期戦となるならば、攻撃対象を散らしながら。彼女らは目を一瞬だけ見交わして、己が役割を成しにかかる。
 機嶋の小さな身体から繰り出される、苛烈な一撃がもう一匹の狼の首を跳ね飛ばしたのが遠目に見えたかと思えば、風の如く雨宮がケルベロスの方へと走りくる。
 留まらず、刀を上から下へと跳ね上げる動作と共に、靄が巻き起こる。
 目隠しの技は、的確にケルベロスだけを包み捕えて。
 ひゅん、と大きく空気が揺れた。
「思いっきり、いっくよー!」
 二階堂の綺麗に括られた髪が大きく揺れて、舞うように数回転。勢いを押さえずに光の如き速さで敵陣の真っただ中に飛び込む姿。
 両手に持つ揃いの剣が順番に、――同時に、三つ首のうち二つを叩き崩す!
 それでも足掻こうと最後の首は暮居の喉に向かうが、すらりと差し伸べた手にはいつの間にか盾が顕現している。
 幾つもの数式が的確なコマンドを並べて白い光へと溶けて――。
「おしまいよ」
 おやすみなさい、と囁いた瞬には、常木と谷屋の放つ銃弾と矢が両の側面から的確に穿っていた。


●追撃
 手に入れたノートに冴木はその場で目を通したきり口を噤んでいる。
「この侭、無事に帰れればいいんだけれどね」
 常木が憂い顔で嘆息を落とす。
「残念ながら。新手、追撃のようです」
 最後尾を歩いていた谷屋が、顔色を変えずに言う。後ろからは、複数の気配。
 帰路に入ったばかり、道幅はまだそこまで狭くもなってはいないが。
 灰色狼が二匹、更に――。
「出ちゃった、ね」
 二階堂が、誰よりも早く駆けだす。目標は腐臭を放つグール達。
 若い男性と、壮年の男女。
 彼女の関係者であることは一際白くなったその顔色で十分だった。
 走り出す冴木の襟首をすかさず掴み、後ろへと放るのはフィオナだ。
「…戯けが。貴様の我侭に付き合い続けるほど我はお人好しではない」
 冷静に斬って捨てる。
 彼女の愚行を今は断じて見過ごす余地はない。
 常木が、彼女を受け止める形で同じく動こうとした雨宮へと目を向ける。
「“お守り”は私の仕事、OK?」
 ひら、と片手を上げる返答。彼は前衛へと走り抜けながら、声だけを残していく。
「アレはただの残骸だ。ちゃんと死なせてやった方がアイツらの為だよ」
 詭弁だ、と胸の中で呟きながらも表情は見せず飄々と。
「……残骸、なら。じゃあ、わ、私が――!」
 残骸、の言葉に暴れるのを止めて代わりに悲痛に声を張り上げる少女に、痛ましげに目を伏せたのはアーノルドだった。
 彼は迷わず短剣を引き抜き、空を掻く彼女の指先に握らせる。
「本当に望むなら、私が武器を貸そう。これで、成せるはずだ。だが、今は危険だ――堪えてくれ」
 必ず成させると。強く約する声に、冴木は糸が解けるよう力を抜く。
 グールに相対して双剣を逆手に身を低く構える二階堂の表情は、いつもの柔らかなものでなく真摯に。
 す、と息を抜くと同時に十字に、躊躇わず顔を薙ぎ潰す。
 整った若い青年の顔は、それでもう見る影も無くなった。
 一呼吸だけおいて、機嶋は魔具に光の刃を宿す。
 僅かに首を動かして窺うのは、後ろから呆然と見遣る少女。
 短剣を手に迷う様子に静かな声が自然に落ちた。
「これだけが、綺麗でしたか?」
 尋ねる響きになるが返答を待つ余地はない。
 ただ、己と同じ名を持って、世界の全て裏切られながら、一条の光を見てしまった少女の飢餓に似た表情に僅か心を揺らされた。
 絶望と怨嗟を纏い、生き続けた過去。
「私は壊します。貴方に、嫌われても構いません」
 浮かび上がるのは、亡霊を模した歪んだアウル。手を強く握り、正した背筋で背中を向ける。
「さて…何であろうと、邪魔です。消え去りなさい」
 翳した魔具から、白刃の光が舞い一体を跡形も無く切り刻む。
「独りだったし…慣れている。――此処に、来るまで」
 残りは、グールが二体に狼も二体。予断は、未だ許さない。
「出来れば、使いたくはなかったが…仕方ないか…」
 谷屋が僅かに眉を揺らして、銀と黒の二丁拳銃へと持ち変える。立て続けに、二度の発砲音。
 的確に、正確に狼の足を、腹を撃ち抜いていく。
 フィオナと暮居が狼を請け負い、発砲音に合わせて自由になった常木も銃を選ぶ。
「まあ、手さえあけばなんとかなるだろうさ」
 依頼人は少なくとも大人しくしているならば、役割分担を整えての彼等の攻勢が勝つのは道理だった。
「現実を見ろ。これがお前の生きる世界だ」
 崩れていくグールから目を逸らそうとする少女に、雨宮の声が静かに届く。
 項垂れて――けれど、静かに冴木は頷いた。

●帰還
「確かに、資料は回収した」
 フィオナが差し出されたノートを改める。内容は概ね予想通り。
「人が人の為に己を売るか」
 肩を竦めて、軽い口調。切り拓く道を他者に委ねてしまう者もいる。それだけのことだ。
 これが使徒の手口を解く契機となれば重畳だろう。
「お姫様の護衛も完了、ねえ」
 谷屋の応急手当てを受けながら迎えと連絡を取るのは常木。任務は無事に完了、ノートも彼女も無傷の帰還だ。
 警戒を緩めずにいた機嶋が、ふと冴木を見遣る。
 留めも刺さず大人しくしていた彼女の心の動きは、分からない。
「どうするんですか」
「もう全部どうでもいいやって、思ってたけど。貴方が」
 泣く目が、かち合う。
「そんな、身体で。…過去形だったから」
 長い行軍の中、四肢は動く度に軋む。その音を知って、彼女の言葉を聞いて何かを察したのか。
 それでも、独りだったと、此処に来るまでと語ったからか。
 壊れた世界の果てに、それでも孤独も壊れるのだと――可能性を冴木もまた、見たのか。
「学校に、行きます」
 ふい、と身を翻した途端、甘やかしてくれるアーノルドの腕が静かに抱き締めるのに冴木は息を止める。
「――貴方の祈りは、正しくないのかもしれない。けれど、……私は騎士失格かな」
 世界のあらゆる苦痛から、今だけは守ってやれればいいと強く抱く腕の中、少女が声を殺して泣く。

 大きく雨宮は肩を竦めて。
「これが、『正義』のなれの果てか。だとしたら、――ズタズタに切り刻んでやりたいな、アイツの正義を」
 明確に否定する音は風を伝って、何処かへと届く。
 この一幕の、顛末と共に。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 秋霜烈日・機嶋 結(ja0725)
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 Shield of prayer・サー・アーノルド(ja7315)
重体: −
面白かった!:11人

寡黙なる狙撃手・
谷屋 逸治(ja0330)

大学部4年8組 男 インフィルトレイター
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
Shield of prayer・
サー・アーノルド(ja7315)

大学部7年261組 男 ディバインナイト