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マスター:青葉桂都
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/05/15


みんなの思い出



オープニング

●魔軍の蠢動
 轟音と共にアスファルトの道が破砕されてゆく。
 破砕するのは剛脚、大蜘蛛の脚、だがそれが支えるのは蜘蛛の胴ではなく、無数の触手を生やした円筒状の肉塊だった。
 そのおぞましさに、街には悲鳴が渦を巻いて広がってゆく。
 息を切らし必死の形相で駆け逃げる人々の背へと、八本の蜘蛛脚がうごめいて高速で肉塊が迫り、触手を伸ばして逃げる人々へと襲いかかり、絡みつき、巻き、捕獲してゆく。
 人間の街へと進撃したデビルキャリアーの群れが猛威を振るっていた。

「悪魔めぇっ!!」
「市民が体内に囚われているッ! 脚だ! 脚を狙ぇぇええ!!」

 町の撃退署の撃退士達が、リボルバーを手に猛射する。弾丸が嵐の如くにデビルキャリアーの脚へと命中し、その皮膚を突き破って体液を噴出させてゆく。四本の脚が折れたデビルキャリアーはバランスを崩して前のめりになり、その前進が止まった。

「やったか?!」
「攻撃は十分通る。いけるぞ!」

 撃退署の撃退士達が歓声をあげる。

「キャハハハハ! だーめだめっ!!」

 不意に、空から甲高い笑い声が響いた。
 ビルの屋上より漆黒の翼を広げて少年が跳び、二本の曲刀を抜き放って地上の撃退士達を見下ろす。

「だって君等、ここで死ぬから!!」

 ハリドゥーン・ナーガは全身から赤紫色の光を立ち昇らせると、クロスさせた二刀に収束、踊るように無数の剣閃を繰り出した。
 刃の軌跡から三日月状の光刃が飛び出し、雨の如くに地上へと降り注いでゆく。
 地上から断末魔の悲鳴が次々にあがり、真っ赤な血の華が咲き、光刃波の直撃を受けて両断された撃退士達の死体がアスファルト上に転がってゆく。

「ヒャハハハハハ! 反抗なぞ無駄無駄無駄無駄ァッ!! 我等こそがザハーク蛇魔軍! 征けよデビルキャリアー! この地の人間どもを狩り尽くせッ!!」

 少年の声に応えるようにデビルキャリアー達が津波の如く進撃してゆく。
 その日、街が一つ悪魔の群れに呑まれた。
 悪魔子爵ザハーク・オルスは、ヴァニタスのハリドゥーン・ナーガの他にも八体の有力な悪魔を各地へと放ち進撃させていた。
 東北地方はさながら地獄の蓋を開いたかの如く、破壊と死が荒れ狂い始めていたのだった。


 八甲田山麓にはいくつかの温泉宿があった。
 天魔の脅威に疲れた湯治客は、いまだこれらの秘湯を訪れていた。
 だが、日に数本のバスがあるばかりのそこでは、今回の大侵攻を逃れられるはずがない。
 青森市に天魔襲来の報があったことを受けて、我先にと車で逃げ出したのは……宿ごとに差はあったが……客のうちおよそ3分の1ほど。
 残る客の大半は不安に怯えながらも従業員の誘導でそれぞれ1ヶ所に集まっていた。
 移動手段がないわけではない……が、万一逃げる途中で悪魔と遭遇してしまえば一巻の終わりだ。
 宿の従業員たちは入り口に物を積み上げてふさぎ、客をなだめながら救助を待っていた。


 斡旋所で紹介されて集まった撃退士たちに、オペレーターである女性職員は至急の仕事だと告げた。
「青森全域で、悪魔が大規模な作戦を展開しています。主に一般人の救助などを目的に、皆さんの他にも多くの撃退士に協力してもらっているところです」
 ここに集まった者たちも、逃げ遅れた一般人の救助をして欲しいのだという。
「悪魔の部隊が高速道路の青森インター付近を越えて国道103号線を南下しているそうです」
 目標はおそらく、八甲田山麓に点在する温泉旅館と考えられる。
 山から見て北東に1つ、西に2つの宿が今も営業を続けているというのだ。
「北東の宿は部屋数も少なく救出する人数も20人弱というところです。西側の2軒は客と従業員が合わせて100人近くいたようです」
 もっとも、車で来ていた客の中には自力脱出を試みた者も少なからずいるらしい。結果がどうなったかは知るよしもないが……。
 いずれにせよ、送迎用に用意されているバスに分乗すれば全員を運ぶことは可能だろう。
 山の南側にもかつてはいくつか宿があったが、現在はもう営業していないそうだ。
 敵はデビルキャリアーという人間を捕らえる能力を持ったディアボロが2体と、その護衛20体弱という構成だ。
 デビルキャリアーは蜘蛛に似た8本の脚を持つ巨大なイソギンチャクといった外見だ。無数の触手で一般人を捕らえ、頭頂部にある口から体内に取り込むことができるらしい。
 無差別ではなく、撃退士を見れば無力化してから捕らえることもするようだ。もっとも、触手の射程は長いが撃退士の身体能力に比すれば早くはないという話である。
 護衛はタコの頭部を持った人間という外見のブラッドウォリアーが数体に、巨大サソリのデスストーカーが2体、それに人型の影シャドウストーカーが10体前後という構成らしい。
「道路の広さから考えて、西側に多くの戦力が振り分けられると予想されます。また、北側から近づいているので、南側へ行くのは後になるでしょう」
 ディメンジョンゲートを使えば、誤差を含めても撃退士側は敵よりも早く目的地にたどり着けるだろう。
 考えられる作戦は2つ。
 1つは旅館に残った一般人をバスに乗せて、西側の黒石市へ脱出すること。
 南東には十和田市もあるが、ザハークのゲートがあるそこに近づくのは自殺行為でしかない。
 ただ、人数が多いため、ほぼ確実に救出対象の収容中に敵が到達する。少しでも効率よく一般人を収容する方法と、脱出を阻止しようとするであろう敵を突破する作戦を考える必要がある。
 もう1つは敵を撃退すること。
 敵の数が多いため、全滅させることはまず無理だろう……が、デビルキャリアーだけを撃破して離脱することならできるかもしれない。
 目的が一般人の捕縛だとすれば、キャリアーさえ倒せば敵が撤退する可能性は十分ある。
 当然、敵も全力でデビルキャリアーを守ってくる。それを突破し、キャリアーを破壊する方法を考えなければならない。
「どちらを選ぶかは、皆さんが自分たちの戦力や構成と相談して決めてください」
 職員が告げる。
「市街から離れた温泉宿では撃退庁も手を割けません。どうか……よろしくお願いします」


リプレイ本文


 ディメンションサークルで転移した撃退士たちは、急ぎ温泉宿へ向かう。
 10人いた者のうち、西側に出現したのは6人だった。
 森の空気は澄んでいた。敵が近づいてきているとは、とても思えないほどに。
「ある文豪が近くの沼でイワナ釣りをしたというが……平和になったら来てみたいものだな」
 誰にともなく呟いたのは戸蔵 悠市 (jb5251)だった。
 吹き抜ける風に、桐原 雅(ja1822)が帽子を軽く押さえた。
「行こうよ。まずは宿からだね」
 小柄な少女の言葉に、悠市はうなづく。
 出現地点から近い場所にあったホテルへまず撃退士たちは向かう。
 バリケードの外から声をかけ、乗り越えたところでルールライ(jb4792)が悲しげな顔を見せた。
 数え切れないほどの人々がロビーに集まっているのが見えたからだ。
「こんなに、沢山の人が……」
 純粋で純真な少女は不安げにたたずむ人たちを見、決意を新たにしていた。
「温泉で癒されに来たのに余計疲れちゃうねぇ。早く救助してあげなきゃねー」
 ルールライより軽いノリではあったものの、嵯峨野 楓(ja8257)も人々を救おうという意思に変わりはない。
「ええ、絶対に救い出して見せますっ」
 言葉を交わす間に、悠市や雅は宿の者に作戦を説明しに行く。敵をまず撃退してから、救出作業を行うということを。
 宿の従業員は、救出を先行しないことに対して不安げであったものの、撃退士の判断に口を挟むことはしなかった。
(温泉宿の救出任務、か。失敗して失うものが自分の命だけではないというのは、中々に重いな)
 従業員へ説明を終えた悠市は静かに客たちを振り返る。
「……こんな些細な楽しみさえ失われてしまうのか」
 細いフレームの眼鏡には、助けるべき多くの人の姿が映っていた。

 北東側に向かった4人の撃退士たちは、その頃敵が進路に使うと見られる道路を移動していた。
「さて、撃退士として初の依頼です。足を引っ張らない様、気を引き締めていきましょう」
 銀色の狐耳を生やしたはぐれ悪魔、ミズカ・カゲツ(jb5543)は、今回が撃退士となってから始めての作戦だ。
「そんなに気を負わなくても大丈夫ですよ。リラックスして行きましょう」
 柔和な外見の少年が、ミズカを気遣う。。
「リラックスとは言っても、流石に温泉につかる余裕は無さそうですね。残念です」
 楯清十郎(ja2990)は腰から下げた剣と盾が装飾されたメダルを、軽く握って言った。
 国道を移動する撃退士たちは、数台の車が交差点を曲がってくるのを見た。
「待て! 俺は久遠ヶ原学園の者だ!」
 夜神 蓮(jb2602)が飛び出して、車を止める。
 運転手たちは、あわてて青森市へ行く道を間違えたらしい。
「逆に幸運だったかも知れんな」
 ぶっきらぼうな調子で久遠 仁刀(ja2464)が言う。
「ああ。皆さん、この道を行くのは危険だ。俺たちが天魔を片付けるまで、宿で待っていてくれ」
 蓮に説得されて、車が宿への道を戻っていく。
 遠くに巨大なディアボロの姿が見えた。
「来たな。奴らがやろうとしている事を見過ごすわけにはいかない……!」
「ああ。これ以上の蹂躙、許す理由はない。叩き伏せる」
 撃退士たちはヒヒイロカネから武器を取り出すと、ディアボロたちの群れに立ち向かった。

 西側で敵の姿を確認したのは、北東側より幾分後だった。
「都市部だけじゃなく、こんな山奥にまで手を伸ばしてくるなんて……ホント、無茶苦茶なやり口だよ」
 雅はヒヒイロカネから武器を抜き、手はずどおり1人だけ先に移動を始める。
「気をつけてくださいね、雅さん」
 心配げなルールライへ一瞬だけ目を向ける少女。
「うん。とにかく、これ以上の暴挙をさせない為にも、自分に今出来る事をやり遂げてみせるんだよ」
 淡々と答えた彼女は、かすかに手を振ると、再び走り出す。
 残った5人もディアボロを迎え撃つ準備をしていた。
「冥魔の脅威から一般人の救出か、今の私でどこまでやれるか」
 腰まで銀髪を伸ばした悪魔、シルヴィ・K・アンハイト(jb4894)が太刀を抜く。
「スピード勝負だ、ちゃっちゃか片付けるぜ」
 ぶっきらぼうに言い放った冴城 アスカ(ja0089)は力強く拳を手のひらに打ち付けた。


 北東側の敵は、聞いていた敵の数の半分よりいくらか少なく見えた。
 清十郎は敵の真ん前に飛び出した。
 鮮緑色の光が全身をまとい、彼の周囲に結晶が浮かぶ。
 まとったオーラが敵の注目をひきつけていた。
 灯りに惹かれる虫のように向かってくる敵に向かい、仁刀が大太刀を構えた。
「まずは道を切り開かせてもらうぜ!」
 振りぬいた刃が一瞬のうちに伸びる。
 いや、伸びたのは武器の形をした月白のオーラだった。霧虹のごとく輝くオーラがシャドウたちを切り裂いていく。
「仁刀さん、一気に片付けます! 行ってください!」
 進路上にいた敵の1体へ向けて、大振りの扇子を清十郎は投じた。
 描かれた龍が空を舞い、傷ついた敵の1体を切り裂く。そこに、ミズカが放った和弓の矢が止めを刺していた。
 まだ邪魔な敵は残っている。だが、オーラに惑わされた敵は進路を邪魔することも忘れて清十郎を狙う。
 幾度も振るわれる漆黒の触手の一部を清十郎は盾で受け止め、残りは耐えしのいだ。
 合間を縫って、仁刀がデビルキャリアーへと接近していく。
 蓮は攻撃を防ごうと身構えながら前進した。
 デスストーカーやブラッドウォリアーの1体は清十郎のオーラに惑わされていない。なおも仁刀の攻撃を阻害すべく動き出しているのが見て取れたからだ。
 ミズカも弓を太刀に持ち替えて、前進している。
「邪魔させるわけにはいかないんだ!」
 アウルの力を借りた強烈な一撃を、鋏の付け根に叩き込む。
 2つある鋏の一方が千切れて、宙を舞った。


 西側でも戦いは始まっていた。
 楓は五芒星の描かれた魔法陣を出現させる。
 アウルを練り上げて、金色に輝く狐が陣の内に姿を見せる。
「影に海産物にサソリか……凄い趣味だね」
 九重の尾を天へと伸ばし、金の狐が大きく息を吸った。
 吐き出される灼熱の炎が影たちを焼いていく。
 そのまま移動して距離をとったのは、敵の誘導を試みるためだ。
 もっとも、敵も明確に目的があってここに来ている。それなりの技や工夫なしに、温泉へ向かうのは帰られない。
 それでも初撃でダメージは与えた。
 前進するアスカたちにシャドウを任せて、楓はブラッドウォリアーやデスストーカーを狙うシルヴィの援護に回る。
 気配を消している敵に接近するシルヴィに敵が接近するように、反対側に回り込んで光の矢を放つ。
「こういうのはあまり得意ではないが……幻想の中で迷ったまま逝け」
 シルヴィがデスストーカーとウォリアー2体が集まった一帯へ一気に接近し、方向感覚を狂わす奇門遁甲を展開する。
 ストーカーの鋏と尾がシルヴィを一斉に狙った。惑わされていない。
 だが、ウォリアーたちは幻惑されて、互いに切りあっている。
「サソリには効かなかったみたいだね」
「ああ、タコよりは耐性が高いのだろう」
 シルヴィの傷は浅くないが、まだ倒れるほどではない。
 同士討ちをしたウォリアーの1体へ、楓は狐の形に形成した炎を放った。
 悠市は暗青の鱗を持つ竜を召喚していた。
 人間よりも一回り巨大なストレイシオンは、鱗と同じ色の翼を持つが空を飛ぶことはできない。
(桐原は……と)
 ストレイシオンの陰から、雅が隠れているあたりを確認する。
 少女が動き出そうとしているのを確認し、悠市はあえて大声を上げた。
「守りを固めて備えるぞ!」
 仲間たちに、光纏の光の上から青い燐光が宿る。
「助かるぜ! こちとら器用じゃないんでね!」
 釘バットを構えたアスカが、シャドウたちに飛びかかり、頭部を強烈に殴打した。
 護衛のディアボロたちの注意は前方にいる撃退士たちに集中している。
 雅は後方で動き出していた。
「仁刀先輩と一緒に戦えないのは残念だけど、ボクも先輩の信頼に応えられるよう頑張らなくちゃ」
 信頼すべき友が、力を尽くしていると信じられるから憂いなく全力を尽くせる。
 ……もっとも、無茶をするところは少し心配だったが。
 銀色に輝くレガースに力をこめる。
 少しだけ緩んだ制服の背から顕れていた燐光が、完全なる翼へと変わった。
 駆け出した雅は、一気にデビルキャリアーへ接近して力強く脚を薙いだ。
 撃退士と近接したシャドウたちの半数が闇を生み出す。
 残り半数はアスカへ闇の手を伸ばして、長身の彼女が持つ旺盛な体力を奪おうとしていた。
「ちっ……! 厄介な能力持ってやがンなァオイ!」
 ルールライは闇の中に向かって前進する。
「大丈夫ですか、アスカさん!?」
 いつも他人を気遣ってばかりの少女が、真っ先にしたのは仲間へ声をかけることだった。
「このくらい、なんでもねえよ。あんたこそ気をつけな、こう暗くちゃ避けてやれないかもしれないぜ」
「心配ありません……今、明かりをつけますから!」
 円形盾で身を守りながら、星の輝きをともす。
 少女を中心に、美しい輝きが広がった。


 北東での戦いは続いていた。
 朝日のごとく輝いているのは、振り抜いた仁刀の刃だ。
 ルインズブレイドの刃は自らを光に傾け、悪魔への威力を増大させる。
 しかし、それは自身も敵から強烈な攻撃を受ける諸刃の刃であった。
「そこをカバーするのが私たちの役目です。しっかりまっとうさせていただきましょう」
 ミズカはブラッドウォリアーの魔力剣をギリギリのところで回避する。
 シャドウたちと、さらにもう1体のブラッドウォリアーは清十郎が1人でひきつけていた。宝石が散りばめられた一対となる剣で攻防一体の動きを見せている。
 隙を見てはキャリアーにさえ攻撃をしかけている。
 とはいえ楽な戦いではないのだろう。自らを癒す結晶はすでに尽き、仁刀と逆に天魔の影響を可能な限り和らげて戦っている。
 蓮とミズカは、清十郎に注目していないデスストーカーとブラッドウォリアーの相手をしていた。
 回避力を高める片刃の直刀でミズカはどうにか魔力剣の攻撃をかわす……が、一撃食らっただけで、ミズカは大きくよろめいた。
「長くは持ちませんね……ですが」
 表情は変わらないが、狐の耳が気合を示すかのようにピクと動いた。
 銀の髪が流れた。
 雷を象った鍔が雷の如く走る。一閃した刃は、浅からぬ傷をブラッドウォリアーへ与える。
「弱音を吐くわけにはいかないさ。そうだろ?」
 蓮もデスストーカーの攻撃を受けながら、気の流れを制御して自らを癒した。
「戦いが長引くことはないさ」
 仁刀は声をかけた。
 二度目の輝きがキャリアーを傷つける。しかし、まだ敵は倒れなかった。
 巨体の周囲を駆け回り、少しなりとかく乱を試みるのは、小柄な体での戦い方に染み付いた習性か。
「最低でも二撃目で決めたかったが……」
 反撃の触手が襲ってくる。撃退士にとってさして早いものではない動き……しかし、大きく属性を傾けた仁刀ではかわせない。急所だけは確実に太刀でガードする。
 連続で襲ってくる触手に束縛されたが、力任せに振りほどく。
「戦闘能力はあまり高くないですね。武器も魔法もよく効いてますよ」
 清十郎は落ち着いて敵の能力を測っていたらしい。
「だが、体力だけはバカ高いな。……それでも、次で終わりだ!」
 仁刀はすらりとした太刀の、刃の一点に光を集中させる。
 地を蹴り、イソギンチャクの胴体を薙いだ攻撃は、的確に集中した光の部分を命中させていた。
 三度走った朝日のごときアウルの輝きは、今度こそデビルキャリアーの胴体を両断する。
 ディアボロたちが逃走した。
 追撃で、さらに数体のシャドウとブラッドウォリアーを2体とも倒し、撃退士たちは用意してきた無線で仲間を呼び出した。


 西側でも雅のラッシュがキャリアーを着実に削っていた。
 シルヴィはまだ楓と共にブラッドウォリアーの1体を狙っていたが、敵はなかなか倒れない。
「魔法耐性か……私や嵯峨野には厄介だな」
 同士討ちでも互いに魔法攻撃ではさしたる被害はない。時間を稼ぐ効果はあったが。
 デスストーカーからの攻撃もシルヴィの体力を削っていたが、ルールライが回復してくれていた。
 幻惑から逃れた敵が、楓へと攻撃をしかけたのはしばらく後のことだ。
 シルヴィは攻撃したが、効かない攻撃では牽制にもならない。もう少し近ければ守ることもできたかもしれないが。
「嵯峨野!」
 魔法に強いが耐性があるというほどではない。また、装備も災いし、楓が一撃で倒れる。
「ずっと惑ったままでいればいいものを……」
 撃退士としてだけでなく、悪魔の兵士としての戦闘経験を持つシルヴィは、けして冷静さを失わなかった。
 再び1体でも多くの敵を巻き込もうと移動し、奇門遁甲を展開する。
 雅にも危機が迫っていた。
 アスカは釘バットを振り回し、ようやく闇を作っていた敵の1体を撃破する。
 闇の晴れた一角から見えたのは、ブラッドウォリアーの攻撃にさらされ、倒れる雅の姿だった。
 舌打ちし、アスカはシャドウの群れから駆け出す。黒い触手を、悠市のストレイシオンが阻んでくれる。
 オーラをまといながら、バットを盾のように構えて駆ける。
「よォ、タコ頭ァ!! 少し遊んで行けよ!」
 振り下ろされた大剣を受けながら、アスカは貫手を出した。
 敵がうめく。
 けれど、その直後、雅の体を触手が体内へ取り込んでいた!
 楓が倒れ、雅が捕われた。さすがの撃退士たちにもいくらか動揺が走る。
 ルールライがすぐに無線機に手を伸ばした。

 デビルキャリアーの体内――。
 雅は慎重に、体を起こした。
 悪魔の内壁は意外と分厚そうだ。ここが犠牲者を捕らえる一種の牢と考えれば、それも必然か。
「仁刀先輩が無茶するから心配……とか、今回は言えないかな」
 しっかりした足取りで立つ。余計な敵に狙われるくらいなら、捕われて内部から攻撃するほうがいいと判断したのだ。
 少女が動き出したのに気づいたか、触手が体内へと伸びてくる。
「安心しなよ。ボクだって長居する気はないから」
 とうに、敵は雅の攻撃でだいぶ弱っているはずなのだから。
 連続した素早い蹴りが、内壁を十字にへこませた。


 全力で移動してきた北東側の撃退士4人は見た。
 遠くからも見間違いようのないデビルキャリアーの巨体が、苦悶にうごめき、断末魔の叫びを上げるところを。
「どうやら……焦るほどのことはなかったようですね」
 淡々と告げたミズカの耳が、安堵のため左右に伏せた。

 ディアボロの脅威がなくなったところで急ぎ撃退士たちは一般人をバスに乗せた。
 ルールライがローテーションを組ませ、効率的に収容させる。
 人々がバスに乗り込み、街へたどり着くまで気を抜く者は1人もいなかったが、幸いなことにそれ以上大きな襲撃が起こることはなかった。
 ――だが、これが前哨戦でしかないことは、誰もが気づいていた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 戦場を駆けし光翼の戦乙女・桐原 雅(ja1822)
 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
重体: 怠惰なるデート・嵯峨野 楓(ja8257)
   <魔法に強い敵に魔法で攻撃し、反撃を食らう>という理由により『重体』となる
面白かった!:11人

撃退士・
冴城 アスカ(ja0089)

大学部4年321組 女 阿修羅
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師
瞳にルーンを宿し・
夜神 蓮(jb2602)

大学部5年244組 男 ルインズブレイド
心配性少女・
ルールライ(jb4792)

大学部1年209組 女 アストラルヴァンガード
マシュンゴの英雄・
シルヴィ・K・アンハイト(jb4894)

大学部7年48組 女 陰陽師
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅