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白い光に照らされて、学園へと戻った。
外は赤や青が入り混じり、周りは迷宮のように入り組んでいる。
その場に現れた全員が、何をすべきかはわかっていたため自己紹介を軽くすまし、言われた通りに死の塔を目指すことにした。
歩くだけで現れる敵。雪室 チルル(
ja0220)は容赦なく持った両手剣でなぎ倒し、時に阿岳 恭司(
ja6451)が交渉をしていた。
「どうだ、一緒にプロレスをしないか!」
「プロレス オレ ワカラナイ」
「こうだ!」
暫く歩いていると開いている扉を見つけ、全員でそこを覗く。
すると、女子生徒がそこにおり、ここは死の塔なのだと言う。
「私では怖くて先に進めないの。行って来てくれないかな?」
窓の付近にあるのは禍々しい扉。
「行くしか無いのですし、先に進んでみましょう」
理葉(
jc1844)がそう言うと、全員が頷く。
迷わず開けたその先には、薄い紫のような、白い壁で出来たダンジョンが繰り広げられていた。
「あぁ、ありますねえ」
スタスタと先にある石の扉を見やる。左右の壁にあるのは蝋燭で、石の扉には取っ手などは無い。
「これ、どちらか火を消すヤツですよ」
「わかるぞ!いっそどちらも消すか!」
「えい!」
「「あ」」
逢見仙也(
jc1616)と恭司が話している間に、チルルが容赦なく両方消した。氷を纏った自身の両手剣で迷わず薙ぎ払った。
火が消えても変化は無く、後にこれが片方しか消していなかった場合、誰かのもう一人が封印されていたかもしれないということを知ったので結果オーライだったと言える。
「あ、扉が開きましたね」
重苦しい、予想通りの音を立てて扉が開き、雫(
ja1894)がそれを告げれば、全員がまた歩き出した。
「春でも見つけに行きますか」
仁良井 叶伊(
ja0618)がそう言うと、岩の塊から自身そっくりの人形を作りだした。道中の敵はこれでそこそこに倒せるだろうと言うと、恭司がたまには交渉もさせてくれよ!と言い、一先ず、死の塔を攻略していく。
進んでは出てくる敵。
途中で気が付いたが、このもう一人の自分。出す度に体がというか突然眩暈が起きる感覚があり、精神的な疲労が出てくることに気が付いた。
それは肉体的疲労として現れ、温存するために交渉にも精が出たのだが。
「よい子の諸君!カボチャは皮が黒く果肉が赤いモノが美味いゾ!」
恭司がもう一人の自分と腕を組んで並び、どうだと言わんばかりにうんちくを披露した際、陰気で短気な相手は心底怒り、それに怒ってやり返したりしつつ進んだ。
「とりあえずちゃんこ鍋でも食べろ!」
「天使である我に、頭が高いぞ!人間が!」
天使には魔法が効かない者が多いと悟っていた恭司は、迷わず拳闘具で攻撃をかまし、そのままプロレス技を仕掛け、最後に炎を纏ってはいたが華麗にチョップを決め込んだ。
「ちゃんこ鍋は世界を救うんだぞ!」
「後で食べたいなー」
どこからともなく出てくるちゃんこ鍋に、チルルが美味しそうと何度も見ていた。
ふと、後ろを見た雫がそのまま構える。
「ちゃんこ鍋出すのもいいですけど、敵を倒すのは忘れないでほしいですね」
後ろからヒュンと音を立てて何かが通り過ぎ、その後も素早くそれが動く。同時に後方では弓矢が飛んでいた。
「何時もは前線で戦っているから、勝手が分かりませんね」
良いサポートをしてくれる仙也と雫に、助けられた2人だった。
そうこうと進んでいくと、質素な作りのはずの塔には似つかわしくない、立派な扉が見えた。
ここにこの塔のボスがいることは明らかであった。
「いらっしゃーい!」
元気な挨拶と共に現れた一人の女子生徒。
雫が静かに構えの姿勢を取る。俗にいう聖子ちゃんカットというやつだろう髪型をした女子生徒。
だが、ここにいる以上は。
―――敵だ
つられて全員が戦闘状態に入る。
「若いままでいたいって思うじゃない?年を取るなんてまっぴらごめんよ。そうは思わない?」
「理葉は思いませんよ。理葉は理葉ですから」
「不変なんてまず不可能ですしね。死んでもどうせ腐敗するんですから」
「死の塔…この方は…」
「そういうことだろうな!」
「なら容赦はいらないですね」
「ずっと同じままでいるのはイヤ!」
全員に否定されて死の塔の番人は怒りのままに姿を変える。
「皆、皆、このままここにいなさいよ!!!」
背中から生えた触手は6本。それ以外に変化は無い。
ならばそれを破壊するだけだ。
「行くわよ!」
チルルが叫びながら両手剣を持って突撃していく。氷を纏った剣で同時に現れた道中と同じ敵を蹴散らし、叶伊の作り出した自身を象った人形が突進する。
横から恭司が出て、後ろから天使のようなものが見えたと思えば、ギリギリまで近寄ってから腕を思い切り振り下ろし、地面へと拳をたたき付けた。
次の瞬間に狙いを定めた触手の下から紅蓮の炎が火柱になって下から噴き出て燃やし尽くす。
「熱いぃぃぃ!!痛いぃぃぃ!何でよ!何で!?皆、若いままでいたいでしょ!?年老いてもいいことなんて無いじゃない!」
凍った触手の付け根は燃え、音を立てて崩れ落ちる。2mは軽く超えていて、途中で千切れて床へと落ちた。
残った3本が勢いよく伸びるが、2本は途中で理葉の剣撃によりバサリと切り落とされる。ふわりと風が舞い、すとんと床へ降りた。軌道を変えた1本も迷わず切り、変える直前で腕を切っていったが、それはすぐさま雫が祝福の魔法で治してくれた。
「行かせませんよ」
「倒しても倒しても周りのヤツらが…!」
「全体攻撃していいならしますよ」
言った瞬間、仙也の髪がふわりと浮かび、地面が光る。
全体を圧縮された熱が覆い、小規模の爆発が起こる。
一時的に全てが静寂に包まれ、女子生徒もまた沈黙した。
「仕留めるなら今じゃないんですか?」
言葉と同時に一斉に攻撃が触手とその付け根へと向かう。叶伊が人形と突撃して回り込み、槍で付け根を突き刺し、女子高生が吼える。
かろうじて残っている触手を伸ばそうとするのを、雫の放った矢が撃ち落した。チルルが氷の両手剣をより一層凍らせて振り下ろし、恭司が火炎を纏ったチョップを叩き付け、辺りを水蒸気が埋め尽くす。
「あ、鏡の欠片だ!」
途端、全てが消え失せ、チルルの手元に落ちてきたのは手渡された鏡の欠片の最後の一つ。
カチリと嵌めれば、途端死の塔は崩れ落ち、元の教室であった。
「ど、どうだったの!?」
入る時に声を掛けてきた生徒からの言葉に、最終的には消えて、鏡の欠片になっていたと告げる。
そして、鏡の反応のままに氷の元へと急ぐ。
「次はとうとう氷の姫か!」
「その腕、麻痺してません?」
「あの触手にやられた時ですね」
仙也の言葉に、理葉が頷く。それを聞いた恭司はまたもや鍋を取り出した。
「マヒした時にはちゃんこ鍋で病気を治そうちゃんこ鍋だ!」
ついでに前線でいいだけ戦っていたチルルの怪我を見つけてしまう。
「薬はともかく宝玉なんて高いモン使えるか!こんなもん鍋食っときゃ治るわ!」
全員で全力で鍋をつついて、空にしてから急いで氷の姫の拠点を探しまくったのは言うまでもない。
体も温まり、体力も怪我も全快である。
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鍋を良いだけつついて、教室を一歩出たら、見覚えがある場所。思えばこの先は体育館だ。
「この先にいそうですね」
「いるでしょうね」
「いよいよ最終決戦ね!みんな行くわよ!」
叶伊の言葉に仙也が返し、鏡の欠片をはめ込んで扉を開ける。
「寒い、ですね」
「凍り付いてしまいそうです」
雫と理葉が思わず呟く。
体育館のステージ側には大きな氷の塊があり、それが突然動いてこちらを向いた。
目に入ったのは仮面をつけた女性なのだが、氷に捕らわれて動くことすらできそうにない。
不格好な仮面。近くに落ちている氷に埋まった箱には「氷の姫の仮面」の文字。
「ダサい仮面つけられてかわいそうに…代わりにこのかっこいいルチャドールマスクを被りなさい」
恭司が言いながらマスクを持っていく。
「そういう問題なんですか…あ、やっぱりそういう問題じゃないですよね」
叶伊が苦笑していたら案の定吹雪が起き、ルチャドールマスクは吹っ飛んで行った。
「そんな仮面が良いと言うのか…」
「さっさと倒しちゃうわよ!」
後ろからチルルがそう言うとサッと前へと出て行き、両手剣を振り下ろす。
冷気を纏った両手剣が氷の姫の腕に当たる。
ガキィンと氷同士が激しくぶつかったような音がした。
「この氷、やっぱり硬いわね」
様子見をするための剣撃だったとは言え、欠けることすらしない。
「全て凍れ…永遠に…!」
高い声と低い声が同時に響く。
氷の礫が飛んできて危険だと思い後ろへと下がって防御の姿勢を取る。と、叶伊がタイミングを合わせて温泉を噴き出させて防ぎ、凍ることが無い地帯が出来た。
下からは間欠泉が氷の姫を襲い、少しずつピシリと音がし始めたのがわかる。
ふと雫が歌い始める。
歌が流れる空間の中で、魔法が当たると更にヒビが大きくなっていく。
仕掛けている内に、何らかの法則の順番で魔法や攻撃の効くタイミングがあり、それ以外は効いていないことに気が付いた。
自分達の持っている属性だけで行けば、核熱→風→地震→火炎→氷となっているのがわかっている。
魔法以外の攻撃は属性の関係で効いていない時があるようだった。
だが、わかってはいても攻撃が吹雪で当たらないことが多かったのが難点で、それを今は補われている。
「いけます!補助は任せてください」
「凍れ…凍れ…全ての時よ止まるがよい…」
「いい事言ってるつもりかもしれんが傍から見たら授業サボりたい学生が屁理屈言ってるようにしか聞こえんぞ」
恭司のこの一言を聞きながら、ターンが来たと言わんばかりに仙也の魔法が炸裂し、氷で作られた巨大な体の右腕が破壊された。
「誰も、死なせないですよ」
大振りの左腕の攻撃を小柄な体と風で軌道を変えてするりと避け、その左腕の付け根にその短い片手剣を派手に突き刺す。
途端、風で勢いのついていたその片手剣が氷にめり込み、バキバキと音を立てて左腕が地に落ちた。
「この先にいるかもしれない、春の姫に会いたいですね」
言いながら槍と自身の作り出したそっくりな人形とユニゾンで容赦なく攻撃を叩き付け、頭部を破壊する。背後からは間欠泉が降り注ぎ、浸み込んで溶けていくようだった。
「次は俺だな!行くぞ!破壊の炎!」
腕を豪快に振り下ろすと足元から火柱が立ち上がり、体育館と癒着している氷が蒸発し、足元から崩れ落ちていく。
「チルル殿!」
「任せなさい!」
一気に飛び上がり両手剣を上から下へと真っ直ぐに振れば、散々壊された氷の像は崩れて行き、メキメキと音がしたと思えば、あっという間に氷が砕け散った。
「良かった、生きてますね」
雫が剥がれるように落ちてきた女性を無事に抱き留め、少し離れた床に下ろす。
息はしているし、仮面がくっついている間は何かしらの変化があるのか、手足も冷たくは無い。凍傷の心配も無さそうだ。
ゴトリ、と音を立てて落ちた仮面。これが元凶だと全員で壊そうと仮面を見た。
瞬間、カタカタと揺れ、足元で黒く黒く染まっていく。
『許さぬ許さぬ!!我は決して壊されぬ!!ならば良かろう、全てを闇へと還してくれる!!』
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黒くなった仮面が浮き、下から無数の黒く光る柱が現れ、それに当たったチルルと叶伊、恭司が崩れ落ち、仙也と雫、理葉が祝福の魔法を慌ててかける。
程なくして回復をすると、仮面から禍々しいと言う言葉がぴったりと合うような黒いオーラが見えた。
全員が言われた言葉を思い出す。
『氷の雪の仮面は、壊そうとすれば夜となり、貴方方を襲うでしょう』
ラストスパートだ。
「マンデー…いや、スノーナイトロウのメインイベントの始まりだ!」
防御、回復に努めたチルルも最後ならばと再び剣を構える。
肩で息をするほど疲弊しているが、それでも負けるわけには行かないと己を奮い立たせた。
「やられる前に、やっておきましょうか」
叶伊はそう呟くとちらりと横を見る。途端、木々が体育館に鬱蒼と生え広がり、それは小さいな森のようなものを形成した。
「これで隠れることも守ることもできますよ」
「使わせてもらいますよ」
そう言うと、仙也は素早く森へと足を踏み入れて消えてしまう。
『闇色に染まるがよい』
辺りが急に夜のように暗くなった。
迷わず恭司が拳に火を纏って上に挙げる。
「簡単に染まるものか!」
「そうですよ。それに、大きいので見えなくても気配で十分です」
「当てますよ」
ストンと弓矢が夜と化した仮面の、うねる巨大な体を突き刺す。
夜になった仮面はどうやら特別強いわけでは無いようだとこの攻撃で確認する。
「仮面を破壊して、平和な学園に戻すの!」
チルルが叫んで横から、黒い柱を避けてザクリと斬り裂いた。
「火に暗闇など関係無い!」
「核熱も良く光りますよ」
空中で圧縮を始めた熱は、そのまま派手に爆発をし、仮面に傷をつける。
途端、闇が一部欠け、明るくなった。
夜が明るくなるのならば、それは弱体化されたということではないかと、影から一撃をくらわせては視界から消えていた叶伊が槍に力を込め、持っている力の全てを乗せて攻撃を加えれば、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。
『ああああああ』
「今です!」
「食らうがいい!我が熱き炎の拳!!」
上へと高く飛び、そのまま構えた炎のままに拳を叩き付ける。闇が裂けていくのが見え、チルルが続けざまに最後の一撃と言わんばかりに、文字通り全力でその剣を振るった。
『終わってしまう、我の全ての安寧が…』
「終わっていいんですよ」
闇の塊から仮面を切り離すように横から理葉が小剣を振り下ろして、落ちていく仮面を雫の矢が追い詰める。
それは真っ直ぐに飛び、そのままトスっと仮面に突き刺さった。
「これで、終わりです」
―――パァン
割れると思ったそれは、予想とは違い粉々に砕けて散っていく。
『我の…あんね…』
空が割れ、全てが元に戻っていくのが見えた。
皆で歓声を上げ、大いに喜んだはずなのに、どこか遠くなっていく。
最後に聞こえたのは恭司の大きな声だった。
それは締めにはもってこいの言葉。
「俺たちの異聞録はこれからだ!」
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チルルはハッとして目を覚ました。
記憶はあまりないが、良い夢だったのは覚えている。
自分はかっこいい騎士のような姿で暴れまわって、敵を倒して満足した。
そんな夢だったと思う。
ようし、今年も大暴れしていくぞー!
何だか楽しくなって気合を入れて布団から飛び起きれば、頭をぶつけてもう一度布団で蹲る。、イテテと頭を押さえつつ窓を開ければ本日も晴天。
新年初の日の出である。
赤い朝焼けと共に、氷が解けて水になっていく。
カタッと見えない何かが落ちた音がした。