.


マスター:天原とき
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/07/16


みんなの思い出



オープニング

●青い島と青い触手
 ――それは、青い海に浮かぶ青い島のようであった。
 直径にして五十メートルはある、綺麗に透き通った半透明の陸地。
 硝子細工を思わせる壁のようなものが迷路のように立ち並び、陽の光を反射して綺麗に輝いている。
 これだけなら、興味を持って近付いてみようとする人も少なくなかったであろう。
 しかし、その青い島の周囲に浮かぶ無数の魚の死骸が、この島が――いや、この生物が危険であることを示していた。

 ざぁ、と海面を割って一本の触手がうねる。
 長く太い、スプリング状の触手――真っ直ぐ伸ばせば一本辺り優に二百、いや三百メートルはあるのではないかというそれがうねる。
 その触手に撫でられただけで、魚の群れが丸ごと海面に浮かぶ。
 原因は小さな、しかし無数の毒針だ。
 触れただけで獲物に突き立てられるそれを無数に備えた触手が無秩序に振り回され、周囲のあらゆる生命が毒に犯され絶命していく。

 そして被害を受けるのは、生命だけではない。
「――逃げろ逃げろ逃げろ!」
 叫びながら、撃退士の男が抱えたライフルを連射する。
 狙っているのは、船に迫ってくる触手。
 命中する度に動きが鈍り、その凶悪な死の手と船の距離が離れる。
 が、まるでカウンターでも狙わんとばかりに、弾丸が命中し触手を削る度にその衝撃で凄まじい音を立てて毒針が放たれ、甲板へと突き刺さってくる。
「くそ、この前は大砲で、今度は触手か!」
 アウルを込めて毒針の一本を弾きながら、お抱えの撃退士は毒を吐く。毒針が相手なだけに。
 あっという間に穴だらけになる船。
 それでも自力で遊泳することは出来ないのか、触手の射程圏内から逃れさえすれば安全だ。
 なんとか海岸線にたどり着いた船から、撃退士の男は沖合に浮かぶ『島』を睨む。
 近付きさえしなければいい――それは確かだが、これでまた航路は大幅に制限されてしまう。
 男は憂鬱な息を吐きながら、携帯を手に、手慣れた様子である番号を呼び出すのだった。

●カツオノエボシ級戦艦
「――というわけで、ええと、この海月型サーヴァント『マン・ノ・ウォー』の撃破がこの依頼の目標となります」
 オペレータの宮古・瀬憐は幾つもの写真をプロジェクターに映し、集まった久遠ヶ原学園の撃退士達に説明する。
 あまりに巨大なためだろう。
 並んでいるのは恐らくは空撮や望遠で撮ったのであろう、カットの異なる写真だ。
「『マン・ノ・ウォー』の主な攻撃手段は巨大な単一の触手による質量攻撃と、そこから放たれる毒針です。
 直撃の威力は勿論、毒も非常に強力なものであることが確認されています。
 また、直径十センチほどの同形小型の海月型浮遊サーヴァントを無数に体内に飼っており、至近距離においてはそれを防衛用として展開してくるようです」
 説明を切り、写真が切り替わる。
 遠くから全体図を収めたものと、至近距離から撮影に成功したものだろう。
 奇妙なことに、青い半透明の肉体の中に紅い輝きがふたつだけ見えている。
 ひとつは海上、もうひとつは海中――『マン・ノ・ウォー』の傘の上と、傘の下だ。
「この『マン・ノ・ウォー』に対する攻撃の方法ですが……
 こちらに見えている、ふたつの赤い光。これがこの巨体を維持するための核なのではないかという見解がもたらされています。
 ですので、こちらを攻撃し、破壊して頂くことが、目標を達成するに当たって最も有力な手段であると思われます。
 船や海中装備などは貸与されますので、必要ならばそれを使用し、作戦を展開してください。
 ――宜しく、お願い致します」


リプレイ本文

●戦艦攻略戦
 洋上、沖合に浮かぶ青い島。
 自力で推進することこそ出来ないものの、そのサーヴァント『マン・ノ・ウォー』はその海域の王者として君臨していた。
 少なくともここ数日、近寄る船は一切ない。
 サーヴァントがその自慢の触手で全て蹴散らしてきたからだ。
 巨体から繰り出される質量攻撃は強力無比であり、生半可な船舶は二発以上の直撃に耐えることを許さなかった。
 だからだろう。
 新たに船の推進音――挑戦者がやってきたのを知って、触手がその身を躍らせるようにうねったのは。

「敵サーヴァント、反応……! 触手、来ます! 回避、右!」
 ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)が小型クルーザーの甲板から警告を発する。
「了解!」
 応えるのはフェリーナ・シーグラム(ja6845)。
 ヴィーヴィルの指示に従ってフェリーナが素早く舵を切り、それに応えたクルーザーは軽快に海面を割って道を逸れる。
 瞬間、どば! とまさしく海を割って叩き付けられる淡青の触手。
 最初の叩き付けを回避された触手は、その長い巨体を生かしてクルーザーの後ろを塞ぐようにしつつ、更に海面を這うようにして追いかける。
 クルーザーも高速だが、触手の方がわずかに速い。
 船尾から、叩き割るように二度目。
「回避、右――今!」
「了、解っ!」
 タイミングを見計らってヴィーヴィルが機敏に指示を出す。
 フェリーナはよく応え、彼女の操船にクルーザーもよく応える。
 二度めの叩き付けも回避し。僅かにサーヴァントと本体の距離が離れたものの、旋回して触手との接触を避けるのを優先する。
 逃さないとばかり、更に追い掛ける触手――
 だが、不意に触手がその動きを変えた。
 クルーザーを追うのを止めて、海中へ――
「――接近が露見しました。支援射撃に移りましょう!」
「攻撃隊、こちらクルーザー! そっちに触手が行きました!」

「――了解。こっちに来たわよ」
 通信に応答しながら、那月 読子(ja0287)はウォータースクーターの速度を上げる。
 場所は水中。
 クルーザーによって海上で気を引いてからの奇襲は半ば成功。
 主力攻撃を担当するチームは、既にサーヴァントのその傘が手に届く位置にあった。
「っ!」
 後ろから迫ってくる触手を間一髪で避けつつ、読子は素早く水中から脱する。
 サーヴァントの傘の上、青い陸地の端。
 見据えれば、攻撃目標の赤い核が中央に見えた。
 同時、辺りの青い地面から震えるようにして、小型の海月サーヴァントが次々と姿を現す。
「近接戦なんて実戦では初めてだけど……」
 ヒヒイロカネからすらりと大太刀を抜いて、読子はその刃と共に走る。
「こちら那月、上陸成功。支援宜しく」

「――了解」
 ぎり、と強烈な複合弓型V兵器の弦が引かれる。
 イヴ・クロノフィル(ja7941)はそうしてクルーザー甲板の端から、読子の側の海月一体を射抜いた。
 ひょうっ! と独特の空気を裂く音と共に、一撃で一体が落ちる。
「――」
 歓声はない。すぐさま次に弦を引き、アウルの矢を叩き込む。
 ほぼ微動だにしない半身を引いた射撃体勢から、一瞬でその手が三往復。
 その回数だけ、小さな海月が落とされていく。
「支援感謝。往くわ」
「了解! ――フェリーナ様、移動を! イヴ様、次はかざね様のところへ参ります!」
「了解!」
「了解」
 再びヴィーヴィルからの指示。
 アサルトライフルでイヴと同様に支援射撃を放っていたフェリーナが素早く操舵席に取り付き、船を発進させる。
 イヴはその衝撃に僅かに身を揺らしながらも、最後の一射で正確に一体を射抜いた。

「ぬおー!」
 ツインテが回る。
 二階堂 かざね(ja0536)は、寄ってくる海月を片っ端から双剣で薙ぎ倒しながら、ばっ! と横っ跳びに逃げた。
 直後、ずんっ! と海月を巻き込んで振り下ろされる触手の胴体。
「あ、あぶな……! て、ほっとしてる場合じゃない!」
 すぐさまツインテを揺らしながら体勢を立て直し、手近な海月の一体を切り捨てながら、かざねは走る。
 上陸地点から、中央に見える赤い核までおよそ二十五メートル。
 撃退士なら十秒も掛からない距離だ。
 だが、その間には無数と言っていいほどの小型海月が湧き出しつつある。
「――かざね様、支援、入ります!」
「ありがと!」
 通信から飛び込んでくる声を信じて、無謀とも言える突撃を敢行する。
 切り捨て、切り捨て、切り捨て。
 攻撃の隙を、彼方から飛来する三点射の弾丸と矢が埋める。
「負けるかー!」
 そうして僅かに、だが確実に、核へ向けての前進が続く。

「っ!」
 更にもう一方では、アイリス・ルナクルス(ja1078)が触手と格闘を続けていた。
 一人でも傘の上から引き剥がそうとしてなのか、触手は先ずアイリスを執拗に狙ってくる。
 咄嗟に大剣を傘に突き立て、波打つ衝撃を受け流す。
 抜くよりも早く、ヒヒイロカネに剣を戻し、触手と触手の合間へ跳び込むように一転。
 僅かに触れたことによる反撃として飛んでくる毒針を、すかさず出現させた盾で払う。
 だが、触手だけではない。
 当然のように湧き出した海月の群れが、大きな動きの隙に彼女を四方から襲う――!
「――アイリスさん! 危ないッ」
「!」
 間隙に割り込んできたのは成宮 雫雲(ja8474)。
 素早い跳躍で至近に降り立っては、両手の拳銃で一掃射。
 声と共に、猛烈な連射が海月を蹴散らす。
 アイリス自身もすぐさま体勢を立て直しつつ、海月の二体を纏めて薙ぐ。
「大丈夫ですかッ――わ、わっ!」
 怒ったように触手が割り込んで、叩き付けられる。
 雫雲に目標を変えたらしい触手は、うねりと共に猛烈に暴れ回る。
「大丈夫…行けます。そちらも…気をつけて」
「っ――ご武運を!」
 海月と触手を引き連れながら、雫雲はすかさず離脱する。
 敵の引き受けという大きな支援を受けて、アイリスも再び駆け出した。
 核が近い。
 飛び込みながら海月を斬り捨て、数歩――
 同様に無数の海月を排除しながら近付いてきたかざねと、僅かに遠いものの、その直線を遮るものがない位置にいる読子。
「――こちら、海上班」
「到達したっ!」
「…攻撃準備、よし」
 三人の斉唱が、通信に響く。

「――支援、入ります!」
「ありがと――!」
「こちら成宮、一度離脱して――」
「了解! フェリーナ様、イヴ様、雫雲様の支援を――!」
 そんなやり取りを通信で耳にしながら、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)とソフィア 白百合(ja0379)、二人のソフィアと、更にcicero・catfield(ja6953)は顔を見合わせて頷いた。
 場所は――海中。海上より遥かに深い位置だ。
 頭上では触手が右へ左へと暴れ回り、その更に上でもうひとつの赤い核が蠢いているのが見える。
 その更に向こう、青い傘の上では、凄まじい数の海月を怒涛の勢いで斬り捨てながら突き進む阿修羅の三人と、海月と触手を引き付けながら飛んで跳ねる雫雲の姿も見える。
 こちらは、静かなものだ。
 深く潜行してからの、核の直下から長射程攻撃による破壊作戦。
 触手がフリーなら、三人の存在にサーヴァントも気付いただろう。
 海月達も、傘の上であまりの勢いで薙ぎ倒されていなければ、ゆっくりと静かに近付いてくる三人に気付いたかもしれない。
 ――だが、それはいずれも無かった。
「――こちらソフィア・ヴァレッティ。コア攻撃準備よし」
「同じくソフィア・白百合。攻撃準備よしです」
「シセロ、同じく――攻撃準備良し、だ。海中班、全員準備完了」
 笑みと共にシセロが締めて、それぞれがV兵器を構える。
 三人はゆっくりと浮上。
 そして――海上班の斉唱が、耳に届く。

「――攻撃、開始です!」

 通信から耳に届く、ヴィーヴィルの確かな号令。
「――弱点が丸見えなのは失敗だったね。やらせてもらうよ」
「炎よ…… その業火の身にて、仇なすものを喰らえ!」
「我が手は審判を得る 我が敵に裁きを下し これを倒すであろう 父と子と聖霊の御名において――」
 それぞれの言葉。
 同時に、核へと一斉に火力が突き刺さった。

「!!!」
 瞬間、確かに島が――サーヴァントが大きく震えたのを、誰もが感じた。
 海上どころか、海中にある核にまで同時に痛烈な集中砲火を受けて、死の危険を感じたのだろう。
 触手が暴れ回り、海月達が猛烈に湧き出る。
 海上だけでなく、海中にもだ。
 そしてもはやなりふり構っていられないとばかりに、毒針が乱舞する。
「っっ!」
 脇腹に毒針が突き刺さるのを感じながらも、読子は眼前の海月を一撃。
 動きに支障はない。事前に配られた対毒の防護が、辛うじて毒の侵入を防いでいた。
 直線を再びクリアにし、すかさず身体を一転させながら狙撃銃を構え、一瞬で核を再照準。撃ち放った。
 アイリスもかざねも同様。怒涛の勢いで押し寄せてくる海月とのたうつ触手を可能な限りで回避し、後方からの支援射撃に任せながら、ひたすらに傘の中心に存在する核へと刃を突き立てる。
「かざねこぷたー・斬! どうだーっ!」
「ぐ…Eu nu sunt un erou de justitie…deci, te omoare…!」
 極めて強いアウルの燃焼と共に、熟練のスキルが次々と核へ突き刺さる。
 そして海中でも。
「海月が来ました……!」
「任せて――!」
 どんっ! と強い衝撃。
 アウルを全力で込めた一撃で以って、ヴァレッティが海月を纏めて焼き払う。
 水中に生まれた太陽のような輝き。
 生まれた突破口へと、すかさずシセロと白百合でアウルの弾丸と炎を叩き込む。
 飛んでくる毒針は誰もが気にしない。
 白百合やヴィーヴィルが付与した対毒防護を信じているのもあるし――ここで沈めなければ、どのみち持たないからだ。

 そしてついに、海上と海中で、二つの核がほぼ同時に崩壊した。

「!!!!!」
 青い島――サーヴァントの本体が、目に見えて融解、崩壊していく。
 最後の断末魔とばかりに、触手が、海月達が、崩壊しながらも滅茶苦茶に暴れ出す。
「両方のコアの破壊を完了――逃げて下さい!」
 ヴィーヴィルが撤退の指示を出す。
「皆さん、こちらですッ! 早く!」
 雫雲が突破口を開きながら、傘の上の三人の阿修羅を迎える。
 逃がすものかと怒涛の勢いで迫ってくる海月を、最後尾で掃射。
「ん……!」
「っ、凄まじい……!」
 イヴもフェリーナも、雫雲と阿修羅三人の撤退をクルーザー上から支援する。
 矢の一撃で数体を貫き、あるいは弾丸の嵐でまとめて打ち砕く。
 それでも、潰しても潰しても、後から後から崩壊しながらも湧いてくる海月。
 触手もその形を崩れさせながらも、執拗に追ってくる。
「っ、あぶ…ない!」
 アイリスがかざねの背中に伸びた触手を叩き切る。
 それで遅れた彼女を、半ば突き飛ばすようにして読子が運ぶ。
「早く」
「乗った!?」
「乗った!」
「全員、乗りました!」
「フェリーナ様、船を!」
「了解です!」
 最後に海月の一体を撃ち抜いて、すかさずフェリーナがアクセルを踏み込む。
 ぶぉん! とエンジンが猛回転の唸り声を上げて、急発進。
 直後、半溶けの触手が、傘の縁ごと一瞬前までクルーザーが止まっていた海面を押し潰した。

「傘が――!」
「白百合さん、早くっ!」
 水中では、さながら落盤に遭遇したかのような有様。
 崩れた傘が、千切れた触手が、次々と海中の三人を押し潰さんとばかりに迫ってくる。
 僅かに遅れた白百合を、ヴァレッティが手を引く。
 その上から降り注ぐ欠片を、シセロが正確な連射で撃ち抜いては吹き飛ばす。
「二人とも、こっちだ――」
 先導して射撃で粉砕しながら、シセロが二人を誘導する。
 白百合も後ろから大きな破片を砕きながら、辛うじて傘の下から脱出。
 海底に落ちていく傘と、触手と、無数の海月達の死骸。
 それに最後に一瞥をくれて、ヴァレッティもその場から離脱した。

「――敵サーヴァント、沈黙ですね」
 ヴィーヴィルが吐息と共に言う。
 既に青い島は殆ど跡形も無い。
 ゆっくりと沈んでいくそれを、十人全員がクルーザーの甲板から見つめていた。
「作戦完了です。皆様、大丈夫ですか?」
「大丈夫っ! 怪我はあるけど、お菓子があるっ!」
「ん…大丈夫。毒も、受けてない」
「助かったわ。もしかしたら危なかったかも」
「いえ、そんな」
 それぞれのやり取りに、くす、と小さな笑いが満ちる。
「帰還、しよう」
「はい。 ……いつか、平和な海を取り戻せるんでしょうか」
「何。少なくとも、今日、一歩前進したさ」
 海面に、青い島が完全に沈む。
 現れた水平線を眺めて、撃退士達はひとつ息を吐くのであった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

鋼鉄の鷹の化身・
那月 読子(ja0287)

大学部2年96組 女 阿修羅
主演女優賞受賞者・
ソフィア 白百合(ja0379)

大学部4年224組 女 ダアト
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
撃退士・
ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)

大学部1年158組 女 ダアト
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
手に抱く銃は護る為・
フェリーナ・シーグラム(ja6845)

大学部6年163組 女 インフィルトレイター
クオングレープ・
cicero・catfield(ja6953)

大学部4年229組 男 インフィルトレイター
二人ではだかのおつきあい・
エフェルメルツ・メーベルナッハ(ja7941)

中等部2年1組 女 インフィルトレイター
縁の下で支えてくれる人・
成宮 雫雲(ja8474)

大学部7年20組 女 鬼道忍軍