「にゃ〜ん」
「にゃん」
「にゃ〜」
ここは廃校舎。そこに迷い込んだ三匹の猫が寂しそうに鳴いている。しかし、逃げだそうにも周囲には怪しい気配。三匹の猫たちはどうしていいか分からずに、ただ悲しそうに、寂しそうに鳴くだけだった。
「ねこー、ねこー、猫ちゃんがピンチです!」
「猫様ら、無事だといいんだがねぇ」
迷子の猫を「猫ちゃん」と呼ぶ峰山要太郎(
jb7130)と「猫様」と呼ぶ点喰縁(
ja7176)。
「そうですね。早く猫ちゃんたちを見つけて、飼い主の子を安心させてあげないとね」
そして「猫ちゃん」とよぶもう一人の鏑木愛梨沙(
jb3903)。そんな撃退士たちは、猫たちを助けるため、そしてディアボロを倒すために、廃校舎へ向かっていた。
「絶対に探し出して見せる!」
そう意気込みを見せるも虎落九朗(
jb0008)は、さきほどまで救出対象の映像資料……という名の可愛いにゃんこ動画二時間分を瞬きせずに見て、幸せそうな表情を浮かべていた。
「そうですね。怖い想いをしていないといいのですが」
そんな点喰は、猫用に小さめのブランケットを用意していた。そんな猫談義をしている人もいるが、退治すべきディアボロについても色々を考え相談している。
「ディアボロは早めに倒したいですね」
鑑夜翠月(
jb0681)はそう呟く。猫たちに危険が及ぶかもしれないから、ディアボロは早めに倒してしまいたい。そうすれば猫たちも安心して出て来るはずだ。
「百足の弱点は昔から眉間と相場が決まっておるのじゃ」
そう蘊蓄を語るのは美具フランカー29世(
jb3882)だ。確かに妖怪伝記や伝承では、百足の弱点として眉間を矢で貫くというのがあるが、それがディアボロにも適用されるか分からない。
「天魔にも同じように当てはまるかどうかは不明じゃがな」
それを理解しているから、最後はそう締めくくるのだった。
「まあ、それはそれとして、早く迎えに行ってあげなきゃねー」
そして、アッシュ・スードニム(
jb3145)が耳をピコピコさせながら言うのだっった。
廃校舎に到着した撃退士七人は、三班に分かれて行動を開始した。A班はアッシュと点喰、B班は虎落と美具、そしてC班は残りの鏑木、鑑夜、峰山の三人だ。
さて、点喰とアッシュのA班は、ゆっくりと周囲を見渡しながら歩いている。廃校舎は廃棄されてから長いのか、かなり荒廃していて、色々な場所が壊れている。さらに、通路以外でも通れる場所が多い。
「なんだか、アスレチックみたい」
尻尾をフリフリしながら、楽しそうに見回すアッシュ。その肩には、ヒリュウが一緒に楽しそうにくるくるとしながら踊っている……ように見える。
「さって、何が見つかりますかねぇ……?」
周囲の気配に気を配り、周囲の生命反応を探知すると……何か足下から近づいてくる気配がある。そして、タイルが剥がれ穴が開いた場所から、カサカサと乾いた音と共に現れるディアボロ……仮称センチピート。その姿、巨大なムカデだが、触手が鋭い刃物のようになっていたり、毒を噴射するような器官が見えるあたり、ムカデとは違う。
さらに受付の女の子が描いてくれた絵よりも不気味は空気をただよわせ、点喰とアッシュに襲いかかってくる。
しかし、その攻撃は姿が見えている奇襲……つまり、余裕をもって避けられる程度の攻撃。点喰はあっさりと避けると、同時に和槍を構え鋭い突きでセンチピートを貫く。
「大したことはないですね。地面から襲いかかってきましたよ。皆さん注意してくださいね」
点喰はハンズフリーにしていた携帯に声をかけて、仲間に知らせる。
「了解だ」
「こっちも発見よ。戦闘に入るね」
その返答で虎落や鏑木からの声が聞こえる。なんとも便利な文明の利器だろうか。もっとも、この場所が幸運にも電波が到達するからだからでもあるが……。
そんな話をしている間にも別の地面から、点喰に襲いかかる。
「イヴァ、ねらって」
「キュィィン!」
そんなセンチピートに、アッシュの召喚していたヒリュウがブレスを吐く。
「むぅ、あと何匹いるんだろ?」
さらに、もう一匹センチピートが現れる。
「このペースで現れるなら探す手間もはぶけるか」
捜索に苦労する可能性を考慮していた点喰としては助かる。センチピート事態も、あまり強くない。数が多いが、この二人なら、この程度の数は問題ないだろう……。
「天井にいます!」
こちらは鑑夜と鏑木と峰山のC班。さきほど、一体目を倒したところで、再度捜索を再会したところ、天井を這い回っているセンチピートを鑑夜が発見した。
「攻撃します、皆さん注意してください!」
鑑夜が行う攻撃は、仲間を巻き込む可能性がある。それを警戒して、仲間に声をかけてからの攻撃を開始する。
鑑夜は、センチピートに告死の悲鳴を刻みつける。刻みつけられた告死の悲鳴に苦しそうに悶えるセンチピート。そして、天井から落下し落ちて地面に叩きつけられる……が、それでもすぐに体を回転させ、反撃してくる。
センチピートの攻撃で少しダメージを負ってしまった峰山だったが、周囲には頼れる仲間がいるので、冷静に六花護符を構える。そして、センチピートに掲げるとそこから、白い玉が現れてセンリピートへ射出される。さらに峰山の攻撃にタイミングを合わせて、鏑木は桜花霊符を構え、桜の花びらのようなものを作りだす。その花びらは一瞬、華麗に舞うと、センチピートめがけて飛翔する。
その一撃で毒液をまき散らし倒れ動かなくなるセンチピート、これで二体目の撃破だ。
「これで三体目か……」
思った以上に容易に見つかるセンチピートに対して、猫の捜索は難しい。戦いの最中に探す訳にはいかないからだ。だが、お互いに庇いあうように戦う虎落と美具のB班は、効率よくセンチピートを倒していく。
「何をやってるのだ?」
そんな倒したセンチピートの毒液をハンカチに染み込ませていく。
「これでおびき出せればのう」
そう考えている美具だ。そして、かなりの量を染み込ませたハンカチを武器に吊して、戦いやすい校庭に移動する。同時に何か大きな物が動く気配を感じる。
「フランカーさんがヒュージを誘き出せそうだ!」
その気配に仲間に連絡する。同時に大きな地響きと共に現れるヒュージセンチピート。その口は人間など噛みきってしまいそうな巨大な顎……そして、大きな鋏と毒液を噴射する射出器官。それが猛烈な勢いで……美具の武器の先端のハンカチを食いちぎる。
「見事な一本釣りだねー」
そんな見事に釣り出されたヒュージセンチピートに笑いを堪えるアッシュ。そして、口をもぐもぐとやっていて……やっとそれがただの布切れだと気が付く。その時には、周囲を撃退士の皆が囲んでいた。
校庭に誘い出したヒュージセンチピートを撃退士の皆が囲む。ヒュージセンチピートは囲まれても怯みもせずに襲いかかってくる。全身を丸め、回転しながら体当たりをしてくる。
その回転突撃をシールドで防ぐ点喰と美具。その攻撃に耐えたところで、大きな隙が出来る。
「硬そうだねぇ……これならどうかなー?」
クスクスと笑いながらアッシュはヒリュウのイヴァに指示を出す。
「キュオーン」
イヴァが放つ強烈な一撃をヒュージセンチピートに叩き込む。
「ギュゥアゥアゥアア!」
悲鳴なのか奇声なのか分からないような音が響くと同時に、全身から毒液を飛ばして反撃してくる。
その毒液自体はそれほどダメージはないが、それでも
不快感もあるし、それが広範囲に及ぶので、長い戦いになると効いてくるかもしれない。
「さっさと倒してやるぜ! そして、猫たちを助けるんだよ!」
虎落が気合いを入れて巻物を開く。その中には達筆な漢字が書かれている。そして、同時に放たれる青竹の槍のような物。それが、ヒュージセンチピートに突き刺さる。さらに鏑木が審判の鎖で、ヒュージセンチピートを縛ろうとするが、それには耐える。しかし、撃退士たちの連携のとれた攻撃に、戦いは撃退士たちが有利に進んでいく。
形勢の不利を感じたのか、急に体を直立させて、見下ろすような姿勢になる。
「何をするのか分からないけどさせないぜ!」
鑑夜は、何かをしようとするのを阻止しようと胴体下部を狙い禍々しい形状の刃を叩き込む。その禍々しい刃は、魔法書パンデモニウムから生み出された刃。生み出された刃にダメージを受けるも、それに耐えヒュージセンチピートは、大きな音を繰り出した。
「な、なんじゃ?」
美具が思わず悲鳴をあげる。しかし、その音で撃退士たちにはダメージは何もない。しかし、音の意味はすぐに分かった。その音自体が攻撃手段なのではなく、その音で、残っていた通常のセンチピートが集まってきた。
しかし、その集まってきた数は多くない。それが、皆が手分けして効率よくセンチピートを倒したために、残っている個体数が少なくなっているのだ。
「ちょうどいいぜ。これで全部だろ。ここで全部倒せば掃除完了だ!」
虎落が威勢のいい言葉を吐く。第二ラウンドの開始だ。
点喰はヒュージセンチピートには、流水ミズチを抜く。この剣は、銀光煌めく剣。しかし見た目以上に軽い剣で、点喰が振ると同時に、小さな水泡が舞う。
「耐久力はありますが、他はそうでもないですね」
敵の状況を冷静に見てダメージを蓄積させていく。
「小さいのも退治します!」
峰山は爆発する札を手の中に作り出すと、それをセンチピートに投げつける。その札な命中すると同時に小さな爆発する。そして動かなくなるセンチピート。やはり通常個体はそれほどの強さではないようだった。
「小さいのは任せとけ!」
虎落は、アウルを輝かせ無数の彗星を作り出す。そして、それを周囲のセンチピートへ雨のように降らせダメージを与えていく。
「出番じゃぞ」
美具は召喚獣を呼び出す。呼び出されたのは、暗い青の鱗を持つ竜。同時に口を開くと、そこに青白い光が集まり、そこから雷撃が放たれる。さらに、タイミングを合わせて、アッシュもイヴァに雷撃の指示を出す。
「ギュゥァゥァゥ!」
悲鳴すらも小さくなって弱っているヒュージセンチピート。しかし、それでも抵抗を止めない。
「これで終わりです」
鏡夜は静かに音を刻み始める。鑑夜は冥府の風を背に纏い自身のアウルの力を増幅していく。増幅されたアウルは鏡夜の背に暗緑の光を集めていく。そして、その刻まれた音が、ヒュージセンチピートに悲劇の刻印を刻む。
「ギュァァァ!」
そして、最後の断末魔を響かせ地面に倒れ落ちた。周囲を見渡すと、最後に集まってきたセンチピートもすべて倒れている。撃退士たちの勝利だった。
そして、ヒュージセンチピートを倒し、周囲が安全になったところで、アッシュは猫たち三匹を呼び出すために……尻尾をふりふりする。
「猫さん、猫さん、こっちだよー」
すると、ほどなくして、近くの穴から猫が三匹、ゆっくりと顔を出す。
「もう安心だ、飼い主が心配してたぞ」
虎落が優しく声をかけると、心細かったのか、すぐに虎落の足下へすり寄ってきて、体を足に擦りつける。そして、足に伝わる優しい温もり。それだけで、幸せな気分になる。
そのうちの栗毛のこんちゃんは、少し元気が無い感じ。すぐに点喰が優しく撫でながら、慣れた手つきで体の様子を確認する。強いストレスを感じていると、自分の毛をむしっちゃったりしている場合があるが、どうやらこんちゃんは大丈夫の様子。それを確認してから、ブランケットに優しく包み込み、そして抱っこしてあげる。
「にゃ〜ん」
すると、少しか細い声ではあるが、小さく鳴くとブランケットに包まれて少し幸せそうな顔になる。
「猫ちゃん、可愛いよ〜」
そんな峰山の声が響く。
他の子は元気なようで「何かちょうだい!」「抱っこして」って雰囲気。それを敏感に察した点喰は餌を用意したり抱っこしてあげたり。それは、普段から猫を飼っているから分かる、言葉ではない猫の動作から分かる、いわゆる猫語。
「ながちゃんは抱っこして欲しいようですよ」
一人で二匹の相手は大変なので餌の用意をしながら、峰山に猫を抱っこするように勧める。
「もふもふなのです〜」
そして、ながちゃんを優しく抱っこして、もふもふする峰山。その顔はとても幸せそうな顔であり、そして、もふもふされているながちゃんも幸せそうだった。
だけど、少しもふもふしていると気分屋なのか「下ろして〜」という雰囲気で体を動かす。それで下ろしてあげると、今度は「遊んで〜」という感じで、わがまま放題、甘え放題な感じ。やっぱり、三匹もと寂しかったのかな?
そして、寮生活の峰山は寮で猫が飼えないからと、存分にもふもふするのでした。
「ご飯の準備が出来ましたよ」
鑑夜が声をかける。すると、すごい勢いでご飯を食べ始める三匹。やっぱりお腹が空いていたのだろう。そんな光景をやっぱり幸せそうな表情で見つめる虎落。
美具や鏑木はそんな光景を見ながら、終了の連絡を済ます。後は飼い主に猫たちを引き渡せば依頼完了だ。