●皆さんでご挨拶
ここは温猫温泉がある温泉街。
「縁ある場所に新しい店か。少し感慨深いな」
そこに新しいお店がオープンしようとしています。そのお店の名前は甘猫かふぇ。猫さんと一緒に甘くて美味しい料理が食べられるお店なのです。
この温泉街の町おこしに関わってきた凪澤小紅(
ja0266)さんはとても嬉しそうです。
「温猫温泉にカフェ……随分お洒落だね」
「観光案内やガイドブックのネタにもなりますわね」
最近はカフェも人気ですし、美味しい料理は観光の名所になる事もあります。そんなお店を見て笑顔になるルティス・バルト(
jb7567)さんと紅華院麗菜(
ja1132)さん。
「だけど、その前に準備が先だな」
だけど、準備が必要なのです。今日はそのお手伝いなのです。
「ネコがいっぱい……素晴らしいお店です」
皆さんが店内に入るとお出迎えしてくれたのはミルフィちゃん。早速、雫(
ja1894)さんの足に身体をすりすりしての歓迎のご挨拶。雫さんは動物さんから嫌われやすい体質のようなのですが、ミルフィちゃんには関係ないようですね。そんなミルフィちゃんと一緒に他の子たちも皆さんにすりすりなご挨拶。
「みゃん!」
ちとせちゃんはレティシア・シャンテヒルト(
jb6767)さんに一直線でじゃん。そして抱っこされて、とっても幸せそう。
「み、皆さん……い、いらっしゃいませ」
そんなお話をしていると、奥からまろんちゃんを抱っこした店主さんの甘粕榛名さんが登場なのです。
「キミがカフェの店主かな? 俺はルティス。よろしくね」
そんな優しい微笑みに、甘粕さん……あれ、居ない?
「あ、あ……甘粕です。よ、よろしく」
ルティスさんの甘く素敵なご挨拶は刺激が強かった様子。阿佐ヶ谷さんの後ろに隠れてのお返事。
「皆さん、今日はよろしくお願いしますね」
そんな甘粕さんに替わって温猫温泉女将見習いの阿佐ヶ谷さんがご挨拶。
「はい、お手伝い頑張りますの!」
そんな阿佐ヶ谷さんに元気なお答えの神谷愛莉(
jb5345)さん。
「やあ、阿佐ヶ谷さん、今日もお美しい」
そんな皆さんで挨拶している中で、阿佐ヶ谷さんに綺麗な花を差し出すルティスさん。花はハナエンジュという小さな花弁が咲き並ぶ綺麗な花。
「まあ、綺麗ですね。早速飾りましょうか」
花を受け取り花瓶で飾る姿が慣れている様に見えるのは女将修行の成果でしょうか?
●クマちゃん?
「お客さんクマか?」
そんなご挨拶をしていると、もう一人奥から顔を出しました。髪は綺麗なプラチナブロンド、その髪に添えられているのはクマ耳カチューシャ。
「おや、あのコは?」
「あの子は、よく分からないですけどお手伝いしてくれているのですよ」
阿佐ヶ谷さんがご説明。
「クマさん!」
「レティシアだクマ!」
レティシアさんに気が付いて、すっごい嬉しそうなクルースニクスちゃん。くりっくりな目を丸くしての大喜び。一緒にクマ耳もぱたぱたと揺れています。
「クマさんはいい子なのです」
そんなクルースニクスちゃんの事を初対面の方に紹介と『良いところをあぴーる』するレティシアさん。だけど、その説明に当人はむずむず顔。
「ボクはそんなんじゃないクマ! ボクは怪盗クマ!」
そう言って、自分の悪い所を説明し始めてしまいます。でも、そんな説明は子供が悪い事を武勇伝のように語る様子にそっくり。でも、内容が「雪を奪ったクマ!」とか「スイカを奪ったクマ!」じゃあ、絵本の泥棒さんのよう。スイカは本当は泥棒を失敗したんだし、雪は除雪のお手伝いですからね。。
「なのでボクは悪いヤツクマ! 今日は悪い事しないクマけど、明日は分からないクマ!」
ですが、もっと前にはとても大変な事件も起こしていまるのです、今回はともかく、油断は大敵なのです。
「でも、私の事助けてくれましたよね」
甘粕さんからの助け船……じゃなくて、これじゃあ横槍でしょうか?
「……違うクマ! 誘拐してミノシロキンご馳走になるクマ!」
身代金でしょうか。クマちゃんが言うとそんなお菓子がありそうですけどね。
「はいはい、じゃあミノシロキンご馳走してもらうまで、ちょっとお手伝いしようね」
「分かったクマ!」
誘拐して身代金を貰うのに、何故かお手伝いする誘拐クマさんなのでした。
●ご相談しましょう
「じゃあ、一緒に作ろうか」
「分かったクマ!」
そして雫と一緒にお手伝いを開始。他の人は甘粕さんたちと内装について、のご相談開始。そんな難しいお話はクマちゃんにはちょっと退屈かもしれないので、その間は雫さんにお任せなのです。
「クマちゃんはここに何しに来たのですか?」
「タケノコ掘りしたクマ!」
自慢げに語るクマだけど、今回は地主さんからちゃんと許可を取っているので、悪いことはしてないです。去年のは無断でしたけどね。
そんなお話しながら、雫さんが作っているのはナイフレスト。和風に言う箸置きなのです。木材をナイフで削って可愛らしい猫さんの形に。その上にそっとナイフとフォークを置くのです。
「ところで甘粕さんは、どんなお店の方向性なのでしょうか?」
レティシアさんの質問に少し顔を赤くしながら甘粕さんのお答え。
「春の風のように甘い香りが萌え咲く店内で……夏の暑さを爽やかに紡ぐようなお料理を食べて……そして秋のまどろみのような柔らかく優しい猫さんと一緒に……そして、冬の刹那の時間を悠久の時と感じられる……そんなお店にしたいです」
最初のとぎれとぎれの口調はどこへやら。まるで、詩が織り成すハーモニーのように語る声はまるで春の鶯のよう。
「……」
「……」
「うん、素敵なイメージだね」
一瞬の沈黙を優しく包むようなルティスさんの言葉。訪れた沈黙が、ちょっと解らなかったのか、素敵な言葉に引き込まれたのかは、人それぞれ。
「それなら、和風テイストなのはどうかな?」
そんな甘粕さんのご意見をブレンドして提案するのは和風を組み合わせて、少し温泉な雰囲気を加え、その上で猫さんたちも一緒にのんびり出来るような、そんな雰囲気。
「それなら、スリッパの代わりに草履ってどうでしょうか?」
スリッパを用意する予定なのですが、せっかくの和風テイストなので、愛莉さんは草履を提案してみる様子。
「それもいいですね」
季節に合わせる必要があるかもしれませんが、選択肢としてはありだと思います。
「和風よりでいくなら猫ちぐらを用意してはいかがでしょうか?」
『猫ちぐら』と言うのは、藁で作った猫さんのベットです。身体全部すっぽり入って、落ち着く雰囲気なのでとても可愛いです。麗菜さんの提案なのですが、結構品薄な様子。
「……これなら作れる人がいるかも」
そんな様子を見ていて阿佐ヶ谷さん。知り合いの手先の器用な人に相談してみる様子。簡単な籠くらいならレティシアさんや他の人でも作れると思いますが、これくらいのサイズとなると、一日二日じゃちょっと難しそうです。どちらにしても、今日は藁の準備が無いので無理ですね。
「和風といえば畳ですよね」
「畳ですか……ちょっと別にお願いしてみようと想います」
阿佐ヶ谷さんからの提案。和風にするのにゴザや別の薄めの畳などすぐに出来るのもありますけど、皆さんのご意見を聞いて阿佐ヶ谷さんも何か思いついた様子ですね。
猫ちぐらにしても、草履にしても畳にしても材料は藁。もちろん、別の素材ってのも出来ますけど、近くにはお米を作っている農家さんもあります。手作りというのも、一つの特徴かもしれませんね。
「素敵ですね〜」
そんな風に意見を出し合って、それを簡単な図面にして……出来上がっていく様子に、何か頭にぽやぽやした想像が出来上がっている様子。
「よし、それじゃあ取りかかろうか。榛名さんは、台所をお願いしていいかな」
「じゃあ、甘粕さんは私が運んでおきますね」
ルティスさんのかけ声で開始するのですが、甘粕さんは考え始めると色々とぽよぽよなので、台所へ阿佐ヶ谷さんが運んで、皆さんは内装に取りかかるのでした。
●作ってみようか?
さて、イメージが出来たら作業開始です。
「重労働は俺が引き受けようかな?」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
力仕事にはすっと手を出してお手伝いするルティスさん。作業中のお手伝いって、簡単なようで実はとても難しい。お相手の呼吸に合わせてそっと手伝いの手を差し伸べるルティスさんはさすがなのです。
「クマも手伝うか?」
「手伝うクマ!」
小紅さんは事前に用意してきた、POP(ネコさんのイラストで注意書きのある物)を並べ、後は木材を使って机のナンバープレートを作るようです。クマちゃんも雫さんに教わって作ったナイフレストをポッケに入れて、今度はプレート作りに挑戦。
レティシアさんは、竹を使って籠を編むようです。籠は通気性もいいですし、清潔なので猫さんも大好きなのです。さらに竹なので和風な雰囲気にもお似合いなのです。
そんな感じで色々と作業をしていますと……。
「ふう……」
どうしても疲れてきます。手をだら〜んとして、ちょっと休憩。
「みゃ〜」
そんなお休み中の麗菜さんの手に鼻をくんくんしながら近づくジェリーちゃん。
「どうしましたか?」
優しく声をかけると麗菜さんを見上げてから、そのだら〜んとした手に、ジェリーちゃんの手をそっと乗せます。
「くすぐったいです」
優しい笑みを浮かべながら手に添えられた肉球を感じていると、そのままぷにぷにと足踏み。一度足下を整えてからのぷにぷに。それはまるで疲れた手をマッサージしてくれているよう。
「あらあら」
そんな仕草に手の疲れが癒されるようなのでした。
そして皆さんが手分けしてお仕事をしている中、猫さんたちはのんびりゆったり。
「ミルフィちゃんはどうしているかな?」
ここに来たばっかりのミルフィちゃん。緊張していないか、ちょっと気遣いレティシアさん。ですが、見るとごろ〜んと、お腹を見せてすご〜くりらっくす。
「大丈夫そうですね」
思わず笑顔になってしまうような、そんなミルフィちゃんにそっと近づき、そのごろんなお腹を優しくなでなで。
「みゃ〜みゃぁ〜」
お腹なでなでされて、嬉しそうなミルフィちゃん。
「それ〜」
出来上がった猫じゃらしを愛莉さんが振ると、元気よくじゃんぷ。だけど、猫じゃらしはささっとよけて地面をすりすり。
「みゃん!」
そんなすりすりな猫じゃらしにジェリーちゃんとほたる君も一緒に追いかけてごっつんこ。
「みゃ!」
その後ろからぽよぽよと追っかけたちとせちゃんがむぎゅっと猫じゃらしを捕まえます。
「みゃみゃみゃ〜」
かぷっとした猫じゃらしをくわえてレティシアさんも元へ。『とったよ!』って雰囲気でしっぽでぱたぱたなのでした。
「みい〜」
カリカリカリカリ。そんな猫じゃらしに逃げられちゃったほたる君は、レティシアさんが作った爪研ぎ。カリカリで誤魔化している様子が可愛いのでした。
●皆さんで一緒に食べましょう
「準備が出来たクマ!」」
準備出来た試食料理を運んで来たクルースニクスは麗菜が用意した可愛らしいウェイトレス服。そしてプラチナブロンドの髪をポニーテールにまとめています。まだ開店する訳じゃないけど、とりあえずの試着です。
「すっごい美味しそうですね」
そして机に並べられたのは、色とりどり。まるで机の上が遊園地のように楽しさをぎゅっと敷き詰めたような素敵空間。そんな素敵な光景を写真に撮っているのは雫さん。どうやら、今日来れなかった優美さんにメールで送ってくれるようです、素敵な気遣いですね。
「それでは、試食をお願いします」
「いただきます!」
皆さん、並べられたスィーツを味見していきます。一人で3つ食べるのは大変なので、2セットずつ並べてひっとずづ味見をします。
「いただきますクマ!」
クマちゃんは早速あくり。口の中に広がる素敵な甘さに目はキラキラ!
「美味しいクマ!」
すぐにもう一口ぱくり。
「甘いクマ!」
「ふふ、そうね」
とっても正直な感想に思わず笑い声が響きます。そのまま手が止まらずにぱくぱくと食べてしまって、あっと言う間にクマちゃんのお皿は空っぽに。
「無くなったクマ……」
もちろん食べたら無くなってしまいます。
「もっとおたべ」
そんなクちクゃんにお裾分けなレティシアさん。
「ありがとうクマ!」
きちんとお礼を言って、今度は一口味わいながらゆっくりとぱくぱくクマちゃんなのでした。
「うん、どれもとても美味しいね」
一通り食べてみたルティスさん。まずはお味を褒めてくれます。
「榛名さんの人柄や性格はきっと優しいんだ……って想わせてくれるような味だね」
詩的な言葉での味の表現ですね。
「あ、ありがとうございます」
そんなルティスさんの言葉に相変わらず背中に隠れてのお返事。ただ、ちょっと違うのは今回は阿佐ヶ谷さんじゃなくて、クマちゃんの背中。クマちゃんの方がちっちゃいのに、何だか不格好な感じですが、クマちゃんは隠れられて頼られて、ちょっと嬉しそう。
「言い易さも必要なんじゃないかな」
「ネコのイメージメニューも欲しいな」
「う〜ん、料理にもネコを関係させるとくどいかも……」
そんな感じで皆さんから様々なご意見が出るのでした。
●可愛いお名前はどうでしょう?
独特の名前だからこそ、色々なご意見を頂けた模様。メニューの名前が長いというお話もあるのですが、そこは甘粕さんのご希望という事で……。
『森の木陰で猫さんとお茶会』
『猫さんの好きな海は同じ海の色』
『夏の足音を彩る風雲と猫雲』
といった感じになりました。メニューには写真と番号を載せるので、名前が恥ずかしくて呼べない人も安心なのです。
「という事で、もう一つ作ってみました」
皆さんのご意見を参考に、もう一皿完成。山盛りクリームを入道雲をイメージされるように盛り上がりに変化を加え、ゼリーにも添えてあります。さらに猫さん型のクッキーに変えてみました。
「素敵な色合いだね」
綺麗な花畑の中に可愛らしく遊ぶ猫さんが加わったように、より洗練された一皿になった気がします。
「美味しいクマ!」
そんな洗練とかは関係無さそうなクルースニクスは、美味しそうにぱくぱくもぐもぐ。
美味しそうに食べる姿に作った甘粕さんはもちろん、他の人にまで幸せを運びそうな笑顔なのでした。
ここは猫と温もりを共にする温泉街。新しいお店のスタートは活気が戻ってきた現れです。でも、開店まではもうちょっとかかりそうですね。