「子供がやられるのは絶対に阻止するんだよ……」
そう意気込むのはルルディ(
jb4008)。ちょうど自分よりも一つ二つ小さい男の子たち。だから、助けるために全力を尽くす。そんなルルディの手には、子供たちにあげる優しい想いの詰まった小さな飴が握られている。
「無謀な行動だと叱るにしても、まずは救出してからだな」
そう言うのは、月野現(
jb7023)。今回はディアボロが潜む森へ入ってしまった子供たちを救うために森へ向かう。
「そうだけどな……まあ、俺にもいささか覚えがるからな」
そう言うのは石動雷蔵(
jb1198)。実際、これくらいの頃には、冒険心を持って「入っちゃ駄目な場所」に入った事がある人は多いのではないだろうか。
「だが、その冒険心というのは、時には命に関わってしまう……何としても助け出さないとな」
そう決意を固める石動。
「それをわかってもらうためにも、必ず助け出してやらんとな」
同意するように頷く風雅哲心(
jb6008)だった。
「そして。叱るのも大人の仕事だ」
そう言いながら、警備を担当していた人から森の大ざっぱな地図と最初のディアボロスの痕跡を確認している天河真奈美(
ja0907)。
「この森は普段からあまり人が入らない森です。大人でも迷う事があります。ご注意ください」
地図を渡した人は丁寧に説明を行い、後を託す。
「任せてなんだよ!」
そう元気良く答えるルルディ。そして、手を軽く振って召喚獣であるヒリュウを召喚する。ヒリュウは可愛らしい外見で、朱色の体にエメラルド色の大きな瞳を持つ小型の竜。その背には皮膜の付いた翼がある。
「フィロ君、力を貸して」
「キュィィン!」
ルルディの言葉に答えるように、空中で軽く回ってから高いリスのような声で返事をするヒリュウのフィロ君だった。
「ん、顔は覚えたし早く見つけに行ってあげようかー」
と、尻尾をふりふりするアッシュ・スードニム(
jb3145)。そんな尻尾に興味心身のフィロ君。「なんだろう?」って雰囲気を漂わせて、アッシュの尻尾にゆっくりと接近。その尻尾が急にピンっと張ると、びっくりしてルルディの背に隠れるフィロ君でした。
「そうだよね」
驚いたフィロ君の頭を撫でながらルルディも歩き出し、他の者も続くのだった。
森に入ると、ディアボロを捜索するA班と子供たちを探すB班に分かれる。A班は風雅哲心、天河真奈美、月野現の三名、B班はアッシュ・スードニム、ルルディ、石動雷蔵の三名だ。
「まずは、足跡の付近から捜索しましょう」
A班の天河は事前調査で足跡が見つかった場所をスタートにして、そこから調査をを開始する。
「敵が一ヶ所にいるとは限らない。注意して進もう」
そう仲間に言いながら、月野は地図を手に進む。地面の変化や落ち葉などの痕跡を調べながら慎重に進む。痕跡の調査は任せて風雅は周囲の警戒に当たる。調査に夢中になってディアボロから不意打ちを受けては元も子も無いからだ。
B班は逆に静かに慎重に子供たちの捜索を行う。
「頼んだ」
石動もヒリュウを召喚し、探索の目を広げる。
「さ、一緒に見つけられるようにがんばろー」
そして、アッシュもヒリュウのイヴァを召喚する。気が付くと、アッシュのイヴァ、ルルディのフィロ、そして石動のヒリュウと三体のヒリュウが一緒に捜索していた。
そんなヒリュウたちも、これだけのヒリュウが一緒に呼び出されるのが珍しいのか、ちょっと楽しそうな様子。周囲を捜索しながらも、軽く回ったり、頭に乗ったりと軽く遊んでいる雰囲気。その仕草は可愛らしい踊りを踊っているようだった。
そんなヒリュウ三体を含む子供たちの捜索班は……しばらくして、なにやら周囲の木の枝が折られている痕跡を見つける。その枝は自然に折れたものではなく、人の手で折られたように見える。何よりも比較的若く、折れた場所はまだ乾燥していない。
「なんなのかな?」
首を傾げるアッシュに何となく想像の付いた石動。
「まあ、そういう事だな」
すぐに分かるだろうと説明を省略して、周囲の捜索を行うと……すぐに木の枝や葉が不自然に集まっている場所を見つける。
「みつけた」
ディアボロの注意を引かないように小さな声で仲間に知らせる石動。そこには……木の枝や葉などで作った小さな小屋のようなものがあった。
そして、そんな小さな声が聞こえたのか、その小屋の中から、子供が顔を出す。
「あ、いたいた高杉君だね。迎えに来たよー」
アッシュは子供たちの顔を覚えていたからすぐに分かった。三人の中で一番やんちゃそうな男の子の高杉衛。そのすぐ後ろから二人の男の子も顔を出す。間違いなく天海始と星川真だ。
「迷子になって怖かったか? もう大丈夫だ」
石動が優しい声をかけると、少し疲れた顔で三人とも出てくる。
「ごめんなさい……」
三人とも意気消沈した様子で、半分泣きそうな表情で「ごめんなさい」をする。
どうやら、疲れて不安になった三人は自分で、ちょっとした休憩場所を作って休んでいたようだった。
「うん、でもみんなが無事でよかったよ」
そう言ってルルディはポケットから飴を取り出して配ってあげる。そんな飴を見つめる高木。
「悪い事したのに……」
「それは頑張った君たちへのご褒美」
天使のような微笑みを三人に向けるルルディ。
「そして、悪い事をした後にしっかりと謝る事が出来たご褒美だ」
石動はそう言って、高木の頭をくしゃくしゃと撫でる。
それでも、色々な人に迷惑をかけたことを理解しているのか、元気が無い天海や星川。
アッシュは、そんな子供たちにイヴァと一緒に動きを合わせての踊るような仕草をする。イヴァの手を取って、軽くステップ。そして、頭に乗っけてから軽くターン。そして、丁寧にお辞儀をする。
「みんな無事でよかったよ」
そして三人に笑顔を見せるアッシュ。そんな楽しげで和気藹々とした仕草に三人の疲れも不安も和らぐのだった。
「こちらB班なんだよ、無事に子供たちを保護したんだよ」
そして、A班に子供たちを無事に保護した事を携帯電話で連絡するルルディ。幸運にも電波はここにも届いているようだ。しかし……その時には、A班にはディアボロが迫っていた……。
「こちらA班、了解しました」
ルルディの連絡に答えた天河は、周囲を油断なく見渡しながら答えた。
「巨大な身体をしていても、何処から現れるか分からない。気を抜くなよ」
と、月野は仲間に声をかける。周囲からは、激しい敵意が三人に向けられていた。背中に冷たい汗が流れる。
周囲から感じる敵意は、明らかに自分よりも強力な気配。同じ様に天河も感じていた。
「ただ突っ込むだけしか能が無い敵だ。冷静に対処すればいい」
そんな二人に声をかける風雅……しかし、この三人で勝てるかどうかは正直、不安があった……。
「ブホォォォォオオォォ!」
突如、激しい音……なのか、吠え声なのかが響くと同時に、周囲の小さな木を薙ぎ倒してディアボロが突進してくる。
「くっ!」
それをかろうじて盾で防ぎ、致命的なダメージを避ける月野。だが、連続して別のディアボロが連続で突撃してくる。三連続の突撃を防ぎきれずに、大きなダメージを負ってしまう月野。その突進を止めるべく、天河は鋼の糸を木々に引っかけて、ディアボロの動きを阻害するように拘束を試みる。その鋼の糸で一体のディアボロがダメージを受けるが、残りのニ体は止まらない。今度は天河をねらって、突進してくる。
だが、その直前に地面を滑るように移動して、天河の間に割って入る風雅。列しく光る太刀、列光丸を抜き鋭い斬撃をディアボロに叩き込む。
「ピギャァァァ!」
ディアボロが大きな悲鳴を上げて、大きく体を回転させて距離を取る。そして、周囲で戦いやすい場所を選ぶように、少しづつ戦場を移動するのだった。
「ピギャァァァ!」
B班から聞こえる場所で、大きなディアボロの悲鳴が響く。そして、周囲の木々が大きく揺れる。どうやら、A班は近くの場所で戦っているようだ……いや、すぐ側の藪が大きく揺れる。そこから現れたのは、天河と風雅。どうやら、本当にすぐ側で戦っていたようだ。
さらに、藪を突き抜けて現れるディアボロ。
「あわわわ!」
「あれが化け物ですか!」
「すっげぇ!」
三者三様の反応をする子供たち。怯えて竦みあがる子が居ないのは幸いか。だが、それはアッシュたちが優しく三人の不安を和らげた結果だろう。そうでなければ、パニックを起こしていたかもしれない。
「ボクが守って上げるからね」
ルルディは天海を庇うように立ちふさがり、ヒリュウのフィロに戦いの指示を出す。
同時にアッシュもヒリュウのイヴァに指示を出す。同時に強力周囲に聖なる光がヴェールのように煌めく。
そのヴェールに包まれたアッシュは神々しさすら感じるようだった。
そして、一緒にディアボロを迎え打つために前に出る石動。本当なら子供たちを護衛して逃がしたいが、この相手に対して半数で戦う事は、敗北の可能性が十分に考えられるから、この場で守りながら迎え打つ選択をしたのだ。石動はドリルを装備し、激しい駆動音を響かせる。それによって、ディアボロが目標を石動に定める。同時に地面を大きく踏みつけ、突進の構えを見せる。
石動の肩付近にいるヒリュウが小さく警戒の声を上げる……と同時にディアボロが突進してくる。石動はそれを間一髪回避すると同時に、大騒音を響かせるドリルでディアボロを貫く。
一瞬の間の後に、地響きを立てて倒れるディアボロ。残りはニ体だ。
ダメージを負っているからか、執拗に狙われているのは月野だ。盾をしっかりと構え、防御の姿勢を崩さない。それをサポートするように天河が手の中に小さな光を集める。それは、アウルの光。それをそっと月野に送り込むと、ディアボロの突進によって負った怪我が少し和らぐ。
別のディアボロが風雅を狙い突進する。それを冷静に迎え打ち、間一髪で避ける。避けると同時に、風雅の手には雷が収束しはじめる。その雷が形を変えて、野太刀のような形になる。その手の中で小さく雷鳴が響く。その音はまるで竜の嘶きのよう。
「これで終わりだ。雷光纏いし轟竜の牙、その身に刻め!」
竜の嘶きが咆哮に変わると同時に一瞬の光が瞬いたかと思うと、地面に倒れ……そして、動きを止めた。
「フィロ君!」
「イヴァ!」
アッシュとルルディのヒリュウが同時に力を貯めた一撃を放つと、最後の一体のディアボロにダメージを与える。しかし、それでも動きを止めずに最後の力を振り絞るのか、道連れを狙うのか、ダメージが蓄積している月野を狙う。
「させません!」
それを防ごうと天河が放つ魔法の光。それはディアボロを縛る鎖となる。
「グガガァァァガ!」
動きの鈍くなったディアボロにとどめの一撃を狙う月野。しかし、その前に最後の一撃を狙うディアボロ。
「来ると思ってましたよ」
それを冷静に盾で受け流し、ディアボロに止めの一撃を見舞う。そして、しばらく暴れていたかと思うと……ゆっくりと動きを止めた。撃退士たちの勝利だった。
戦いが終わると、応急処置をして子供たちを森の外まで護衛する。
「アディ出番ですよー!」
アッシュはヒリュウのイヴァを送喚して、今度は黒と蒼の馬竜、スレイプニルを召喚する。そして、その背に星川と高杉を乗せる。
「かっこいいです!」
「わぁお」
スレイプニルの背で嬉しそうな二人。その表情は驚きと興奮で嬉しそうだ。そして、アッシュは帰り道でも警戒を解かずに戻るのだった。
「駄目でしょ! この森に入っちゃ!」
無事に森から戻った子供たちを迎える三人の両親たち。その表情は安堵の表情とそして多くの人に迷惑をかけてしまった事への申し訳なさが入り交じっていた。
「まあまあ。ちょっと遠出しただけだし」
そんな少し興奮気味な三人の両親をなだめるように優しい言葉をかける天河。
そんな話をしている横で、じっと石動を見ている高杉。その目は憧れの視線。石動は、それをちょっと困ったような、照れくさいような表情でそっと目を反らす。
「君たちが取った行動で、誰かが死ぬ事もある……注意すのですね」
そんな視線に気が付いた月野はしっかりと叱咤して釘を指す事も忘れない。憧れで同じ様な事をされては困る。
「はい……分かりました」
本当は高杉に言った言葉だったが、それを真摯に受け止めたのは天海だった。自分が引き留められなかった事を考えているのかもしれない。
「はい、いい勉強になりましたです。何かあった場合にはしっかりと大人に相談しますです」
そして、優等生な雰囲気の星川も色々と学んだようだった。
そして、両親に手を引かれて帰っていく子供たち。
「もう、勝手なことしたらダメなんだよ〜」
最後にルルディが手を振りながら優しい言葉をかける。その言葉にもう一度振り返って、頭を下げる三人の子供たちと、その親御さん。その姿を見ながら無事に依頼を完了出来た事を実感するのだった。