「おおっ! 世界が白い!」
見渡す限りの雪景色に豪快な笑みを浮かべるエイドリアン(
jc0273)さん。その光景は、初めて見る人を虜にするほど、美しく……そして寒い光景。
だけど、そんな美しい雪でちょっと窮屈そうなのは、雪に埋もれた家や道をふさがれた車。
今日は、そんな雪景色の中から『生活』を救い出すために、撃退士の皆さんは来たのです。
「荻窪先輩、おひさしぶりです!」
「荻窪様、ご無沙汰しております」
「レティシアさん、唯さんお久しぶりです」
撃退士として色々な仕事をしていると、顔見知りも増えていく。荻窪優美さん、レティシア・シャンテヒルト(
jb6767)さん、唯・ケインズ(
jc0360)さんも以前の依頼で一緒にお手伝いした事がある。
「今日はよろしくお願いします」
久しぶりの再会に花を咲かせながら、今回の雪かきの範囲を簡単に説明する。それと、優美は別の場所でのお手伝いがあるから、ここでの担当のおばちゃんに後を任せる。
「今日は来てくれてありがとうね。雪かきが終わったら、豚汁用意してあるから食べていってね」
おばちゃんは豪快に笑いながら説明してくれる。
「ふっふっふ。このクマさんが御手伝いして差し上げますよ」
そんな説明に頼もしい言葉を返すのは、直立したクマ……でじはなく、くまの着ぐるみを着た或瀬院由真(
ja1687)さん。
「ちょっと、そんな格好で大丈夫なの?」
豪快なおばちゃんでも驚く服装。ちなみに優美は以前にも着ぐるみでお手伝いしてくれる人を何度も見ているので、全然気にしなかったのはここだけの秘密。
「大丈夫です。この着ぐるみには耐水処理や滑り止め装置を行っていますから」
「そういう方法もあるのですね」」
自信満々に答える由真さん。隣では、子供たちと遊ぶときのために同じく着ぐるみを用意してきた陽波透次(
ja0280)さん。着ぐるみがどんななのかは、後のお楽しみです。
「さっさと片付けてしまおう……」
そう言って腕まくりする頼もしい戒龍雲(
jb6175)さん。正直、この量を雪かきするのは大変そうなのですが、龍雲さんが言うと、なんとかなる気がしてくる、そんな声なのでした。
「クマ?」
そんな皆さんの様子に、何事かと様子を見に来たクルースニクスさん。今日の服装は頭にいつものようにクマ耳カチューシャ。だけど、そのカチューシャに追加パーツのふかふか耳当て。そして、誰かから着せられたのか、暖かそうなどてらを来ています。なんというか、可愛いのですけど、それ以上になんだか馴染んでしまっている雰囲気がとても不思議。ちなみにそのどてらには『火の用心! 雪用心! 熊用心!』の文字……それ、いいの?
「熊だクマ!」
とっても目立ちます由真さんのクマさん着ぐるみ。でも、そんな由真さんに一歩距離を取って『なんだろ?』な視線。
「こんにちは」
「熊がしゃべったクマ!」
どう見ても着ぐるみだけど、何か思い出す事があるのか、嬉しそうな顔、驚きの顔、そして笑顔がころころと変化している。
「えっと、こんにちはクマ!」
そんなころころ変わる表情に笑みを浮かべた唯の視線に気が付き、すぐに色々考えるのをやめて元気に挨拶。
「こんにちは〜」
そして皆さんで挨拶する。
「お久しぶりですね、クマさん」
「レティシアクマ〜!」
以前の依頼でクルースニクスと面識のあったレティシアを見て笑顔になる。
本当はその時にはヴァニタスとバレないように偽名を使っていたのだが、そんな事はもう忘れた様子。
(憎めない雰囲気の子だな……)
そんな彼女を静かに見つめる透次さんなのでした。
「可愛いどてらですね〜」
「クマのじゃないクマ! 借りたクマ〜」
確かに新品じゃない様子。
「ふふ、気に入ったかい?」
「うん、あったかいクマ〜」
どてらの袖をぎゅっと握って満面の笑み。
「じゃあ、今日の雪かき、手伝ってくれたらご褒美にあげようじゃないか!」
「頑張るクマ!」
そんな訳でやる気十分にお手伝いする事になるのでした。
「ねぇ、なにやってるの?」
そんな事をやっていると物珍しさに集まってくる子供たち。
「これから雪かきするのですよ」
「わかった、お手伝いする!」
「僕も手伝うよ!」
透次さんが丁寧に説明してあげると、元気やる気を出してお手伝いする様子。
「まったく、あたしが言っても聞きやしないのにね」
おばちゃんはちょっと困り顔……だけど、困り顔の中に子供の成長を喜ぶ笑顔があるの気が付く人はいるのかな?
「よし、じゃあ手伝ってもらおうかな。だけど、注意するんだぞ」
そんなおばちゃんの顔はともかく、透次さんが丁寧に子供たちにご説明。それを大きく頷きながら聞いている姿は可愛らしい。
「すまん、俺もこんな場所で活動したことがないから、注意することがあったら教えて貰えないか?」
そんな子供たちに混じってエイドリアンさんも一緒に教わります。
「クマはどうするクマ?」
さらに、クルースニクスさんも一緒に説明をしっかり聞いています。
「危ないから、絶対に一人でやったらダメですよー」
「分かったクマ、一緒にやるクマ!」
由真さんの説明にレティシアの手を引っ張り、一緒のお手伝い希望です。
「はい、一緒にやりましょうね」
クルースニクスへの雪かき指導はレティシアさんと由真さんが担当する事になりました。
そして皆さんで手分けして、雪かきの開始です。お手伝いをしながらしみじみと楽しさ嬉しさ感じている透次さん。
「こういう形で撃退士の力が役に立つのは嬉しい……よな」
「そうですわね」
隣で一緒に作業をしている唯が笑顔で答える。
「戦いなんかするよりも、ずっと……」
そんな透次さんの顔はとても優しい顔をしているんでした。
子供たちも手伝ってくれて、撃退士の皆さんが全力で雪かきをするのですから、かなりのハイペースで片付けてしまいます。その集められた山のような雪を見ながら龍雲さんは何か考えている様子。
「よし、かまくらにしよう」
すごい雪山を目の前に軽く言う。
「そうですね」
「僕もお手伝いします」
「龍雲様、唯もお手伝いいたしますわ」
そんな龍雲の意見に同意する透次さんにエイドリアンさんと唯さん。そして、他の人も手伝って完成するのは、巨大なかまくら。
「……ふむ、軽く12畳ほどはあるな。ちょっとでか過ぎたか?」
大量の雪を使い撃退士が気合いを入れて作ったかまくらだから、これくらいは朝飯前。
「わぁ〜」
出来上がると早速集まってくる子供たち。
「おにいちゃん、すご〜い」
「しゅごいのぉ〜」
きゃっきゃ、わいわいと大騒ぎな子供たち。かまくらの中で遊んだり、上に乗って遊んだり。その様子を怪我などしないようにクールな表情で見つめる龍雲さん。その瞳は意外と気配りなのでした。
「雪合戦するクマ!」
そんなかまくらで遊ぶ子供たちがいるなかで、向こうで雪合戦が始まろうとしていた。
「龍雲さんはどうしますか?」
「先に始めてて下さい」
「唯も、ご一緒しますわ」
様子を見に来た透次さんが声をかけると、子供たちが満足するまで、龍雲さんと唯さんが様子を見てくれる様子。
「はい、よろしくお願いします」
丁寧にお返事して透次さんも着替えてから雪合戦に向かうのでした。
「ふふふ、挑戦を受けるクマ!」
いや、挑戦状を出したのはクルースニクスだから、その言葉はおかしいけど、まあ細かい事は気にしない。いつのまにか作った雪合戦の戦場で仁王立ちして待ちかまえています。
「ちょっと寂しそうです」
そんな仁王立ちする様子に、ちょっと心配そうなのはレティシア。こちらは4人、あちらは独りなのだ。
「ルールは挑戦状に書いた通りクマ!」
「分かった、その挑戦、受けてたーつ!」
元気よく返すエイドリアンの声が響きレティシアの心配を余所に雪合戦が開始された。
「まあ、やってみよう」
そう呟く透次さん。その外見はネコさんの着ぐるみ。
「似たような外見だな……間違えて当てたら許せよー」
物騒な事を呟くエイドリアンさんです。
「ライバルクマさんとして、この戦い……決して負けませんよ!」
由真さんが走りながら雪玉を沢山投げる。
「やるクマね!」
走りながら避けるが、それが由真さんの作戦。回り込んだ先で待っているのはエイドリアンさん。
「そらぁ!」
待ちかまえて、雪の壁を足場にして豪快に跳躍。そして高い場所からの雪玉投げ。
「やるクマね!」
エイドリアンさんの奇襲が成功して、まずは一つ目のアウト。
「戻るクマ〜」
当てられたのに満面の笑みを浮かべている様子から、楽しんでいるのは間違い無さそう。
それを見て、真剣にやる気になるレティシアさん。まずは陣地に籠もって雪玉をせっせと大量に作ります。
「あぁ〜 また雪合戦やってる!」
「クマちゃんと一緒にやるぅ〜」
「わぁわぁぁぁい〜」
そんな様子に気がついた子供たちが、元気に登場。
「さぁ、遊んで来い!」
それは龍雲さんがタイミングを見計らって連れてきてくれたのですけどね。
「む、手ごわい子供たちの乱入ですね?」
そんな子供たちに聞こえるように、大きい声を出す由真。
「クマおねーさん、張り切っちゃいますよー」
「わぁ〜 クマさん〜」
クマの着ぐるみな由真さんに殺到する子供たちから、何とか避けている……ように見せている由真さん。やっぱり撃退士なので、子供が投げる雪玉を避けることは簡単。
「わわ、クマおねーさん、ぴんちですよー」
だけど、そこは勝敗とか気にしていないので、あえて追い込まれます。
「みんな、一斉にいくよ〜」
「お〜」
子供たちはすっごく楽しそうな笑顔で雪玉を手に一斉攻撃。
「わわわ!? このままだと白クマになっちゃいます!」
「やった〜」
「わ〜い」
由真さんは子供たちの笑顔と雪にまみれてアウトなのでした。
その間に後衛ではレティシアさんがせっせと雪玉量産中。
「いくぜ!」
「囮、頑張ります」
そんな作戦の準備をしているのを見て、囮役を買ってでるのは透次さんとエイドリアンさん。
ジグザグ軌道で狙い難い動きで子供たちの雪玉を華麗に避けます。
「すご〜い」
「ネコさんすごいの〜」
透次さんの動きに途中から華麗なダンスでも見ているように、眼をきらきらさせている子供たちを見ながら、さらにアクロバットな動きを見せる透次さん。
「わぁ〜」
その動きに拍手喝采!
「俺は跳躍が得意だからな!」
その横では、エイドリアンさんが横だけの跳躍だけでなく、上への高いジャンプで雪玉を華麗に避け、まるで二人でダンスを踊っているような動きに、子供たちも大喜びです。
だけど、これは雪合戦。
「足下がおるすクマ!」
だけど、高く飛んで着地地点で狙われたエイドリアンさんに迫る雪玉。
「たぁ!」
目の前に迫る雪玉を華麗に叩き落とす。その瞬間、皆の動きが停止。
「だってほら、俺、攻撃は受けるのが得意だし」
「でも、アウトですよね?」
「だよなー」
あまりに綺麗な受け止めだったけど、雪合戦ではやっぱりアウト。元気に陣地へ戻るのでした。
「よお〜し、突撃クマ!」
エイドリアンさんがアウトになると、反撃とばかりに子供たちと一緒に一斉攻撃を仕掛けてくる。
「わぁ〜」
「いくよ〜」
しかし、それを待ちかまえていたのはレティシアさんが作っていた大量の雪玉。
すっごい勢いで大量に雪玉の雨を降らせます。
「わぁ〜」
「すごいクマ!」
途中から唯さんも手伝ったからすごい量になって、見事命中でアウトになります。子供たちはアウトとか無いですけど、当たると皆さんの真似をして陣地に戻っているのがとても可愛らしいです。
そして、雪合戦も佳境に入ってきます。そんな時にぽすっと見事に透次さん頭に雪玉命中。
「あれ?」
「許せー」
当てたのは、なんとエイドリアン。透次さんが着ているネコのぬいぐるみを見間違えた……という事ではなく、きぐるみ着て大きくなっているから当たってしまった模様。
「わぁ〜 着ぐるみネコさんアウト〜」
「あうと〜」
ルールを分かっているんだか分かっていないんだか、子供さんたちはアウトな透次さんに、追撃の雪玉。
「僕はアウトなのでなので撤退ですね」
子供たちの楽しそうな声を聞きながら、急ぎ足っぽい動きでゆっくりと陣地へ戻る優しい透次さんなのでした。
「えへへ、あったか〜い」
これで2アウトになった透次さんが外に引っ込むと、一緒に女の子が着ぐるみネコさんにぎゅってして、一緒に退場。お膝の上に乗って一緒に観戦。
「クマさんもあったかいよ〜」
それを羨ましそうに思った男の子が由真さんにぎゅ〜っと抱きつくと、反対側から別の女の子が。
「私もアウト〜」
まだ1アウトだけど、子供たちのぎゅ〜ってされたらもうダメですよね。持っていた雪玉を上に投げて頭に乗せて自主的アウト。
観戦席で子供さんたちに抱きつかれながら応援するのでした。
そして、夕焼けが空を赤く染める頃……勝負の決着が迫っていた。
「一球入魂だぁぁぁ!」
龍雲さんの雪球がクルースニクスに命中して、これで4アウト。
「皆さん、豚汁が出来たよ〜」
ですが、同時に皆を呼ぶおばちゃんの声。他の場所ので雪かきをしていたボランティアさんたちも集まって、豚汁を食べます。
「これでノーサイドだな」
「そうクマね!」
龍雲は笑顔でクルースニクスと握手をして楽しい雪合戦は終わり。仲良く一緒に豚汁を食べます。
「美味しいね」
「あったかいよ〜」
「いっぱいお食べ」
「いっぱい食べるクマ!」
にこにこしながらクルースニクスさんに豚汁をよそって上げるレティシアさん。一緒に食べながら由真さんも一緒にお話の様子。
「そういえば、クマさんは何の為にここに来たんです?」
「雪が見たかったクマ!」
豚汁を食べながらの由真の質問に即答する。その声はどう聞いても嘘には聞こえない。純粋に雪が見たかった、それだけのようだった。
「前は農家さんのお手伝いしてましたよね」
「そうクマ! 美味しい野菜食べたかったクマ!」
そんな言葉を聞きながら、クルースニクスの行動は好奇心のままに動いている、そんな気がする行動なのです。
(戦場では会いたくは無いな……)
そんな彼女を見つめながら静かに想う透次さん。
「食べ終わったらお風呂入りな〜」
用意してくれた豚汁も龍雲さんが用意したお餅も皆さんでご馳走様すると、ちょうとお風呂が用意されたようです。
「お兄ちゃん、一緒にはいろ〜」
「ボクも〜」
「そうだな」
透次さんと龍雲さんは子供さんたちに囲まれて、一緒にお風呂。
「一緒に入るクマ!」
クルースニクスは由真とレティシアの手を取ってお風呂へだっしゅ。
「そうですね」
「お風呂ではクマさんはお休みですね」
着ぐるみを脱いでお風呂へ向かう由真さん。
「お姉さん、一緒にはいろう」
「私と一緒ね〜」
唯さんやエイドリアンさんにも集まる子供たち。そんなにぎやかなお風呂と一緒に、夜は更けていくのでした。