「今日もいっぱい採れたクマ!」
大きい籠を背負ってか、背負われてかという雰囲気のクルースニクス。しかし、現在は熊谷と名乗っている。同時にウィッグで変装しているので、綺麗なプラチナブロンドの髪の毛は見えないし、トレードマークのクマ耳カチューシャも付けていない。
そんなクルースニクスが手伝っている姿が見える中でゆっくり歩く撃退士の8人。
「おっ、あいつ遊びに来たのかなっ?」
最初にクルースニクスに気が付いた花菱彪臥(
ja4610)が楽しそうに呟く。
「あの様子では、何か企んでいる様子ではなさそうですけどね」
雫(
ja1894)が遠くのクルースニクスを眺めながら呟く。
「ですが油断は禁物ですよね」
同時に畑の様子などを観察してるのはレティシア・シャンテヒルト(
jb6767)。他に被害が出ていないか確認するが、目立った被害は無い様子だった。
「1日5回の食事……まさに夢のような環境……」
そしてこれからの体験学習で並木坂・マオ(
ja0317)がなにより期待しているのはご飯の様子。
「そうだぜ、働いた後の飯は美味いよなー!」
そんなマオの言葉に同意するように答える千葉真一(
ja0070)だが、少し意味が違うかも。
「そうだよね。一杯お手伝いして働けば大丈夫だよね!」
乙女心は複雑のようです。
そして到着するとすぐに皆さんでご挨拶。
「今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いするウサ!」
礼儀正しく挨拶する只野黒子(
ja0049)に今から楽しそうなグラサージュ・ブリゼ(
jb9587)。
「宜しく頼むぜ! 畑仕事なら多少の心得があるんで、力仕事とかは遠慮なく言ってくれ!」
「地元産業が農作業中心なんだ」
真一も音羽紫苑(
ja0327)も経験豊富のようで頼りになりそうな雰囲気。
そんな感じで他の人たちも挨拶をしました。
「まぁまぁ〜 丁寧なお子さんたちだね。これからみんなをおばあちゃんが案内するからね〜」
おっとりな感じのおばあちゃんが案内をしてくれる様子なのです。
「おばあちゃん、これどうするクマ?」
さきほど収穫を終えた農作物を背負ってクルースニクスが顔を出しました。
「あら、熊谷ちゃんありがとうね」
「クマ! ……って彪臥クマ!」
以前の出会いの際にクルースニクスに名乗った彪臥を覚えていたクルースニクス。早速自分で一生懸命考えた設定はどこへやら、見知った顔を見つけて嬉しそう。
「よう、クマー……いや、それじゃ紛らわしい気もするじゃん!」
最初にクルースニクスの事を『クマー』って呼ぶがしっくり来ない。
「クマ?」
「クマっち?」
彪臥がクルースニクスをクマっちと呼ぶと、一瞬顔が花でも咲いたかのような笑顔になる。
「ボクの事はクマっちって呼ぶクマ!」
よっぽど気に入ったのか、すっごく嬉しそうなクルースニクス。そんな偽名設定をいきなり投げ捨てたクルースニクスにこっそりと耳打ちするレティシア。
「クマさん、今日は熊谷じゃないの?」
言われてクルースニクスの顔が驚きで停止する。
「ク、クマ!?」
「熊谷さんとは初対面だよね」
レティシアに説明されて理解したクルースニクス。
「……」
そして、一瞬全員に沈黙が訪れる。
「えっと……初めましてクマ! 熊谷ま……」
そんな沈黙が1秒ほど続いた後に、改めて自己紹介しようとするクルースニクスだが、自分で決めた設定の名前を忘れる……。
「熊谷真由美……ですよね」
「熊谷真由美クマ!」
再度のレティシアの手助けで自己紹介を終えるクルースニクス。
「じゃ、じゃあ初めましてだな。俺は彪臥!」
「俺は千葉真一だ」
「レティシアです。よろしくね」
そんな彪臥に続いて他の皆もご挨拶。
「あらあら、いきなり仲良しさんね
そんなある意味突っ込み所満載な会話だが、ほがらかに笑って楽しそうなおばあちゃんなのでした。
そして、一度荷物を置いてから、早速畑へ向かう。もちろんクルースニクスも一緒だ。
その途中で真一はクルースニクスと軽く雑談している。
「熊谷さん、君も体験学習なんだろ?」
「ちょっと違うクマ!」
やはり体験学習は普通の人でないと出来ないので(必要書類の提出や怪我のときの保険などがある)、クルースニクスは居候というか近所の子供のお手伝いな感覚でやっているだけなのだ。だから、費用も払っていないし賃金も無いらしい。
そして畑へ到着。広大に広がる畑は全部ジャガイモ畑らしい。
「じゃあ、とりあえずジャガイモを収穫しましょうか」
広い畑でジャガイモ収穫用のトラクターが畑の上を走り、畑に埋まっているジャガイモを掘り出す。
そんな様子を見ながらストレッチを開始する黒子。それを見て、一緒に皆も体操をする……が、さきほどまで作業していたクルースニクスも一緒にやるのはなんとも微笑ましい光景。
「あの車が通った後、地面からジャガイモを拾ってね」
そして、トラクターが通った地面からジャガイモを拾い上げて見せてくれる。大きいジャガイモから小さいジャガイモまで様々だ。
「ほぇ〜。これがスーパーに並ぶんだ」
拾った泥だらけのジャガイモを見て不思議そうな顔をするマオ。スーパーに並んでいるのは、泥を綺麗に落として大きさを選定して傷のチェックを終えた品だけだ。
「スーパーに並ぶのは、チェックを終えた物だけなのよ」
そんな事を丁寧におばあちゃんは説明してくれました。さすが、体験学習を受け入れるだけあって説明は丁寧で解りやすい。
そして言われた通りに作業を開始する皆の中で軍手でジャガイモをとても丁寧に集めているのは紫苑。
「掘り返しての収穫は、傷が心配なので」
ジャガイモなど根菜類は農家さんによって収穫の方法は様々だ。ここでは、トラクターで深めに掘って土を軟らかくして、人の手で集めている。
「そうね、もっと浅く掘れば傷も付くけど、それだけ収穫は楽になるからね」
少し悩ましい顔をしながら効率などの話をしてくれるおばあちゃんなのでした。
「いっぱい収穫するクマ!」
「負けないウサ!!」
そんな横ではグラサージュとクルースニクスが元気良く……というか、切磋琢磨してジャガイモを拾い集めている。
「あらあら」
「楽しそうですよね」
そんな二人を楽しそうに見つめるおばあちゃんとレティシア。そんな話をしながらの畑作業。
「よし、こっちは終わりだぜ」
「こちらも終わりだ」
とにかく手際がいいのは真一と紫苑。
「これでっかいじゃん!」
「グラのも大きいです!」
「ボクのはちっちゃいクマ!」
「あら、本当に可愛いですね」
「クマちゃんは力加減に注意してね」
彪臥、グラサージュ、レティシアやマオはクルースニクスと楽しそうに一生懸命。
「農作業よりも戦いの方が楽かもしれないですね」
「それも必要なことではないでしょうか?」
そして慣れない作業を頑張る雫に黒子。特に黒子は畑のお手伝い以外にも天魔の警戒に余念がない。
「丹精込めて育てられている〜っていうのがとっても伝わってくるウサ!」
「食べると美味しくて、もっと伝わるクマ!」
そして、いっぱい収穫して戻ってくる皆。
「クマちゃんと一緒だったから全然疲れてないウサ!」
「ボクもグラっちと一緒だから疲れてないクマ!」
特にグラサージュとクルースニクスの二人は、とても……泥だらけだった。
「まあまあ、じゃあご飯の前にお風呂に行きましょうか」
そんなおばあちゃんたちと一緒にお風呂になるのでした。
「ご飯作りをお手伝いするウサ!」
「ボクも手伝うクマ!」
「私もお手伝いしますね」
そして夕ご飯の支度のお手伝いをするのはグラサージとレティシア。
「おばあちゃんはゆっくりしててウサ!」
「あらあら、ありがとうね」
中でも手際がいいのはグラサージュで大人数の山盛り料理を素晴らしい速度で仕上げていく。
「すごいクマ!」
そんなグラサージュの手腕を尊敬の眼差しで見つめながらも一緒に頑張るクルースニクスとレティシアなのでした。
「さあ、みなさん召し上がれ」
おかずはバイキング形式で、大皿に山盛りになっているおかずから好きなおかずを自分の皿に食べるだけ盛ります。
並べられているおかずは、定番の肉ジャガにマッシュポテト、ポテトサラダにフライヤーで小さいジャガイモを揚げたフライドポテト。
「これはさっきみんなで採ってくれたジャガイモを揚げたんだよ」
「いただきます!」
さっそく手を伸ばすマオが一口パクリ。
「ほ、ふっふふ」
熱々のフライドポテトが口の中で弾け、ちょっと熱いけど、表面の皮はカリっと、中はしっとり美味しいのです。
「これ、美味しいね」
喜んでみなさんで揚げる次々に食べていきます。そんな様子を嬉しそうに見つめるおばあちゃん。
「これって、売り物にならないもの?」
察しのいい黒子がおばあちゃんに質問です。
「そうね、ちょっと小さいからね。選定のときにね……」
そんな黒子に丁寧に選定のノウハウを含めて説明するのでした。
そして、フライドポテトが粗方片づいたところで、改めてご飯をよそってみなさんが好きなおかずを自分のお皿に盛って……。
「いただきます」
みなさんで一緒にいただきます♪
「美味しいです。クマさん、こっちも美味しいですよ」
「一口もらうクマ! 美味しいクマ!」
レティシアはクルースニクスと楽しくご飯で仲良しな感じ。そんな隣ではパクパクモグモグといっぱい食べているマオ。そんなたべっぷりに農家の皆さんも嬉しそうです。
「そういえば、近くで天魔が見かけられたらしいですね」
そんなご飯の中で雫がクルースニクスに聞こえるように雑談をして、様子を伺います。
「ええ、そうなの。なんだかおっきなコウモリみたいなのがいてね……」
そんな雫の言葉に何故か楽しそうに答えるおばあちゃん。話を聞きながらクルースニクスの様子を見ると……まるで耳を大きく広げて、いるような雰囲気で話に耳を傾けている。
「やっぱりクマっちと天魔は関係あるみたいだな」
「そうですね」
そんな様子を見ているみなさんでした。
その夜は交代で巡回をするのだが、今日は怪しい影を発見する事は出来なかった。
「う〜ん、空気が美味しいね」
朝5時に布団から這い出てくるマオ。一生懸命起きて朝の空気を吸うと、さわやかな風が目を覚ましてくれる。
「朝クマ!」
そんなマオよりも早く起きていたクルースニクス。元気よく朝の体操をしている。
「一緒に体操するクマ!」
「そうだよね、朝は体操だよね!」
そんなクルースニクスに誘われて一緒に体操をする。そんな体操の声に誘われたのか、彪臥が欠伸をしながら起きてくる。
「彪臥っちも体操するクマ!」
「やっぱ体操じゃん!」
そんな体操にグラサージュや朝の巡回から戻った黒子も加わってのにぎやかなになるのでした。
そして早朝のお手伝いの後の朝ご飯を食べ、午前中のお手伝い開始です。今日はカボチャの収穫作業。
「これでっかいな!」
思わず目を見張るような大きさのカボチャ。
「おっきいクマ!」
クルースニクスが両手を広げてむぎゅっと抱きつくけど、手が回らない。
「反対側は俺じゃん!」
彪臥が反対側に回って両手を広げて、やっとクルースニクスの手が触れるくらい。
「すっごく大きいね!」
そんな微笑ましい光景に思わず笑う皆であった。
「それでね、こんなのを収穫して欲しいの」
そして収穫のお手伝い。立派に実ったカボチャを収穫していく。ここでもやはり大活躍な紫苑や真一。特に重たいカボチャを収穫するのに大活躍なのでした。
「くま〜」
お昼ご飯を一杯食べたクルースニクス。その後はお昼寝の様子。その側ではすでに爆睡しているマオ。
「ここがいいクマ〜」
そんな爆睡マオの隣にちょこんと体を丸めてお昼寝クマっち。
「んっ……」
寝返りを打つマオが自然とクルースニクスを抱き枕にしたのは自然な事なのでした。
そして、その夜……昨日と同じように巡回していると、怪しい影を発見した。
「あれか?」
闇夜で怪しく動く影。その影はコウモリのように見えなくもないが、大きさが変だ。
「あれはディアボロだ!」
そんな怪しい影をディアボロだと断言したのは紫苑。異界認識を使用した判断だから間違いない。
即座に弓を構えようとする真一だが、それよりも早くディアボロが羽を大きく広げ超音波を放つ。
「ゴウライアーク、シュート!」
その攻撃を最低限の動きで避け反撃の矢を放つ真一。狙い違わずコウモリ型のディアボロを打ち抜く。その一撃で地面に落ち動かなくなる……だが、ディアボロはそれだけじゃない。木の影から数体のディアボロが現れ撃退士たちに超音波を放つ。
「敵が来たじゃん!」
ディアボロに攻撃しながら、部屋で休んでいる皆に連絡をする彪臥。
「騒音注意だよ!」
マオが掛け声と同時に放つ不可視の矢で貫いていく。
そんな戦い様子を、こっそりと……いや、本人はこっそりのつもりのクルースニクスが顔を見せていた。
「あらあら、クマさんもいますね」
そんなクルースニクスに気が付いたレティシアだが白い羽を放ちながらも様子を見るだけにする。
「く、クマ〜」
その様子は戦いを止める様子でも、ディアボロを応援する様子でもない。ただ、農家の建物や畑に被害が出ない事を願っている様子。
その様子を見て、少なくともクルースニクスが農家さんに悪い事を考えているのではないのは間違い無さそうだ。
黒子の電撃や紫苑のアウルのナイフによりディアボロが倒される中で眠い目をこすりながらグラサージュや雫も参戦し、ウサギの人形から火の玉のようなものを放ち、燃える大剣の一撃でディアボロを倒していく。
全員が参戦してからほどなく、他に被害も無く倒す事が出来た。
「よかったクマ〜」
そして、すべてのディアボロが倒れ動かなくなった事を確認したクルースニクスは安心した顔になり、静かに自分の部屋へ戻るのだった……。
「今日で終わりクマ!」
「そうなの、残念ね」
「でも、とても楽しかったウサ!」
次の日、クルースニクスも今日で終わりにする様子で、撃退士たちは役目を終えた事もあり体験学習は終了になった。詳しく何があったのか知る術は無いが、クルースニクスとあのディアボロに何かあったのは間違い無いだろう。
「クマっち、また遊ぼうな!」
「また、彪臥っちも、レティシアっちも遊ぶクマ!」
もはや初対面の設定は迷子どころか投げ捨てて楽しそうなクルースニクス。全員の手を握って笑顔でのお別れの……いや、またねの挨拶。
「短い間だったけど、ありがとうね」
そう言って見送りに来てくれたおばあちゃん。手には大きなお土産。中身はどうやらパンプキンパイのよう。
「熊谷ちゃんには、これね」
クルースニクスにも一緒にパンプキンパイ。でも、こっそりとお小遣いが忍ばせてあるのはおばあちゃんだけの秘密。
「ありがとうクマ〜」
満開の笑顔を見せて、大きく両手を振りながら走り去っていくクルースニクスを見送りながら、一緒に帰路につく撃退士でした。