「このまま予告状を無視し続ければ殆ど害なく事態が収束しそうですよね」
状況を一番的確に理解しているのはユウ(
jb5639)でしょうか。たしかに、クルースニクスの様子を見る限り、その予想は当たっているでしょう。
「そうですよね。でもまあ、クマの人のごっこ遊びに付き合ってあげましょう」
そんなユウに話しかけるのはレティシア・シャンテヒルト(
jb6767)。
「それに、この前こんな事があったのですよ」
そう言って、以前に竹材が差し入れされた温泉宿のお話をするのでした。
「そっかー そんな事があったのかー」
そんな中で花菱彪臥(
ja4610)はクルースニクスに興味がある様子。
「スイカ好きってとこは気が合いそうだぜー」
「そうですね、花菱さんと気が合うかもしれませんね」
スイカはともかくレティシアはなんとなくそう感じるのでした。
「完全な悪人という訳じゃないようじゃが、だからこそ、しっかりとお灸を据えんと駄目じゃな」
「たとえそうであっても、農家の方が丹精込めて作ったスイカを盗む、極悪非道な大泥棒を許すわけにはいかない!」
そんな話を聞いてさらに、やる気を見せるアヴニール(
jb8821)と下妻笹緒(
ja0544)でした。
「ついでに熊鍋も……」
そんな事を考えている夏木夕乃(
ja9092)。
「……いや、あれはディアボロだし、そもそもこんなのだぞ?」
以前に現れたクルースニクスが率いているディアボロの絵を見せてもらう。それは……一見するとクマのぬいぐるみのようなディアボロ。食べたら綿でも出てきそうである。
「ディアボロでもぬいぐるみでもいけます」
なにがいけるのだろうか……ともかく、準備をするのだった。
「最近、ストレスがマッハでヤバイんですよね 」
なんだか物騒な事を言うのはファリオ(
jc0001)。普通に見れば頼もしいとも言えるのだが、どうなのでしょうか?
「それじゃあ行ってきます!」
ともかく、農家さんにご挨拶をしてから出発です。皆で奇襲の場所を確認して東側へ行くと……なにやら声が聞こえてきます。
「よし、準備するクマ! 番号!」
「ミクマ!」
「ノクマ!」
「アブマ!」
綺麗に整列して手を上げるクマのディアボロたち。その外見は、まるでぬいぐるみよう。
「どこか憎めない風貌のクマ達ですよね」
その様子を見ていたレティシアだが、そんなレティシアの肩にもふもふの手を置き、首を横に振る笹緒。
「あのディアボロの外見に騙されてはいけない。あのクマ型ディアボロは戦いとなると、その容姿を変貌させ襲いかかってくる。その変貌は実に興味深いがね」
「そうなのですか?」
可愛らしいディアボロの様子を見ていると信じられないのだが、本当の事。しかし、今回も同じように変貌するかどうかは分からないのですけどね。
そんな準備をしている撃退士たちにクルースニクスは全く気が付かず、準備体操などをしています。
「じゃあ、配置に付くか」
「合図は夕乃さんお願いしますね」
撃退士の皆さんは奇襲しやすい場所に移動します。
「ってことで、用水路でスイカを冷やしてくるね」
そんな中で、用意してきたスイカを用水路に冷やしに行く咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)。
「いや、普通に冷蔵庫で冷やせばいいんじゃねーの?」
突っ込みを入れる彪臥。
「あ、間違えた。用水路でスイカを冷やしてディアボロを迎え撃つわよ!」
言い直しても何か重要な言葉が足らない感じな咲。どうやら、用水路でスイカを冷やして見せることで囮として使うようだ。
「は〜っはっはっは。よく来たねクマくん。しかし、キミの行動などお見通しだよ!」
最初に彪臥が星の輝きを使い、現場を明るく照らす。同時に夕乃がクルースニクスを指さして高らかに宣言する。
「ど、どうしてクマたちの居場所がわかったクマ?」
明らかに動揺している……ふりをしているクルースニクス。その顔は驚きもあるが、喜んでいるようにも見える。
「それは……だな」
そんな夕乃の後ろから、ゆっくりと現れる笹緒。その姿は、どうみてもパンダ。
「キミが教えてくれたのだろう」
クルースニクスが出した予告状を手に、謎のドヤ顔を決める……いや、着ぐるみだから顔は見えないのだが、口調と仕草だけでドヤ顔を表現する、笹緒恐るべし!
「パンダにその謎が解けたというのかクマ!」
その横でアブクマクマが『いや、別に予告状に暗号とか入れてないでしょ』っていう雰囲気を漂わせている気が、なんとなくするが、たぶん気のせいだ。
「そうだ。クマには出来ない事だろうがな」
何故かクマとパンダを比較してから解説を始める。
「予告状にはキーワードが二つ。久慈川……これは9時側、つまり西」
それは推理としては良い推理だ。
「そしてもう一つ、行っていない……すなわち来ていない……きてない……きたない、つまり『北ない!』 故に北という選択肢も除外され、残された選択肢は東だ!」
かなり……いや、無理がある推理である。
「ふっふっふ、よくぞ見破ったクマ!!」
犯行が見つかった犯人のような声を出すけど、顔はやっぱり満面の笑み。隣のクマノクマは『さっきまで北側から行くつもりだったのに』という顔をしている気がする。
「ならば、後は力押しだクマ! アブクマクマ、ミクマクマ、クマノクマ! 緑と赤の宝石を奪うクマ!」
クルースニクスがディアボロに指示を出す。戦闘の開始だ!
先頭を走るクマノクマ。そのまま用水路を飛び越えようとするが、ジャンプしたその瞬間に、眉間を貫くユウのスナイパーライフルXG1の射撃。
「ビューティフォークマ!」
何故か絶賛するクルースニクス。しかしディアボロなので、打ち落とされた用水路から水浸しで立ち上がる。しかし、次の瞬間に頭部に炸裂するのはファリオのモーニングスター。その一撃で動かなくなるクマノクマ。
「さぁ……次にこうなりたいのは、誰ですかねぇ?」
その口調は、どちらかというと悪役側なファリオ。モーニングスターを振り回し次の獲物を探す。
「ミクマクマ、あいつを狙うクマ!」
「ミ、クマ?」
その表情は『え、私? 私は戦闘は……』そんな顔だけどクルースニクスには逆らえない。申し訳程度に、両手を振り回して攻撃を仕掛ける……が、次々にモーニングスターの餌食となる。
「クノ! クノノ!」
一斉に用水路を飛び越えれば、一人くらいは向こう岸へ行けるかと思ったようで3体ほどのクマノクマがジャンプ。一体がユウの狙撃で打ち落とされ、笹緒が作り出した彩色紙本が残り2体のクマノクマを囲む。
「クノクノ?」
そして次の瞬間に本はサラサラと宙に解け、眠りを誘う霧となり、クマノクマを夢の世界へ連れていく。
「クマノクマ泳ぐクマ!」
泳いで渡れという指示を出すクルースニクス。『俺、泳げないよ!』そんな表情をするも川へ果敢に飛び込み……濡れて動きが鈍くなる。その結果、遠距離攻撃で見事な的になるクマノクマ。
「これでどうじゃん!」
彪臥から放たれる光の波に大きく後ろに弾き飛ばされ、さらにアヴァニールのアウルの力によりスイカの蔓が伸びてクマノクマたちを縛り、レティシアの死者の書から白い羽が放たれダメージを与える。次々とクルースニクスの駄目な指揮に実力を発揮出来ずに倒れていくディアボロたち。
「声から察するに奴が指揮官かの?」
「そうみたいですね」
そんな様子にアヴァニールは少し呆れながら……レティシアは優しい眼差しで見ながら話をしている。
「碌な指示も出していない様子じゃな」
「ですよね」
そんなクルースニクスを見つめる眼差しは、まるでやんちゃな孫を見つめるようなレティシアなのでした。
「あ、あんなところにスイカがあるクマ!」
そんなときに用水路で咲が冷やしたスイカにやっと気が付くクルースニクス。
「クマノクマ、取りに行くクマ!」
クマノクマは初めてのまともな命令とばかりに、機動力を生かしたダッシュで用水路のスイカを狙う。
「咲選手、内角高めに来た玉じゃなくてクマを狙い打ちます」
野球のような解説と同時に綺麗に決まるウェポンバッシュ。
「行ったぞー!」
見事に夕乃の目の前に飛んでくクマノクマ。
「ノノノマ〜」
吹っ飛ばされながら叫ぶクマノクマを待ちかまえるのは夕乃と召喚したストレイシオン。
「行くよオポニティー!」
ストレイシオンに声をかけて、力を合わせての合体攻撃。雷のようなアウルを打ち出してクマノクマを打つ。
「ギネヴィア選手の絶妙なバットコントロール!」
その攻撃で倒される華麗な連携プレイ……じゃなくて連携攻撃でした。
そんな感じでも、何とか用水路を越えたアブクマクマ。そこに立ちはだかるのは夕乃。
「鍋の材料になりたい子からかかってきなさい」
スイカを奪うために、アブクマクマが夕乃を攻撃するも、元々苦手な接近戦だから、恥ずかしいほどの空振りを見せ、コロコロと転がってしまう。そこへ夕乃とストレイシオンの攻撃が炸裂する。
「ブブグマァ!」
一瞬、怒気を込めた声を出すアブクマクマ。一瞬顔が本物のクマのような顔になり、鋭い鉤爪を生やした両手に力を込め、鉤爪を発射しようとする。
「アブクマクマ、回り込むクマ!」
「ッチ!」
そこへ、明らかに作戦を間違ったクルースニクスの指示。次の瞬間に手の光が消滅して、顔が最初のぬいぐるみのような顔に戻る。
「アクママ!」
ぬいぐるみのような顔でぺこるとしてから走り出す。しかし、一瞬舌打ちしたのを夕乃は見逃さなかった。
「……なんなのでしょうか、あのディアボロは?」
そんな疑問を抱くがともかく、戦いは継続するのだった。
「ふははははっ!! 所詮は頭の悪いクマ!!」
高笑いするファリオ。
「そうだな。所詮クマ、パンダに勝てる筈など無いのだよ!」
同時に偉そうで高圧的な態度の笹緒……しかし、外見がパンダだから、あまり悪い雰囲気は感じない。むしろ……愛らしい。
「うう、スイカが奪えないクマ!」
ディアボロの数が減り、戦いは完全に撃退士たちのぺース。それをみて、口を挟むのはファリオ。
「次にお前は『とにかくスイカを狙うクマ!』という!」
「とにかくスイカを狙うクマ! って、何で分かったクマ!」
「全てお見通しだぁ!!」
ハイテンションで叫ぶファリオ。二人ともとても楽しそうなのは間違いない。
「敵の指揮官が未熟なお陰で、戦い易いですね」
思わず呟くユウ。それが見事にクルースニクスの耳に届く。
「ち、違うクマ、未熟じゃないクマ、無能クマ!」
「自覚しているのか!!」
思わず突っ込みが冴える。確かに、クルースニクスは未熟な指揮官というよりは無能な指揮官である。
「それはともかく、なぜ予告状を出したのですか?」
まっとうな突っ込みである。
「怪盗は予告状を出すと相場が決まっているクマ!」
堂々と答えるクルースニクス。まあ、口ではそう答えているのだが、その表情を見ると、遊びたい盛りの子供の顔。ようは、遊んで欲しくてイタズラする子供の心境なのだろう。
「ところで、この前温泉宿の前に竹を用意してませんでした?」
ディアボロもちょうど全滅して、後はクルースニクスをどうするか……という状況になったから、レティシアはちょっと気になった事を質問する。
「竹林で遊んだときの残りクマ! 使ってくれたなら嬉しいクマ!」
レティシアが言うのは、ある温泉宿に用意されていた竹材の事。
「そうか……そういう事だったのか」
そんなクルースニクスに……手錠を手にゆっくりと近づくパンダ……じゃなくて笹緒。以前の事件で竹林に現れたディアボロを退治したのだが、そこで余計な竹が伐られ無くなっていたのだ。
「これで、一つ謎が解けたな。ICPOの撃退捜査官としては当たり前だな」
シュターン、シュターンと手錠を振り回しながらクルースニクスに近づく。ちなみにICPOは 国際刑事警察機構ではなく、国際刑事パンダ機構の事らしい。
「ひぃ……クマ!」
その姿に怯えるクルースニクス。
「怪盗だからこそ引き際を誤ってはいけませんよ」
そんな怯えて足が竦んでいるクルースニクスに耳打ちするレティシア。
「そ、そうクマ、怪盗だから逃げるクマ!」
そう言うと、ポケットから小さい封筒一つ置いて、背中を見せて逃げようとする。そこへユウの華麗なスナイピングが炸裂。
「痛いクマ!」
見事に命中して転倒する。
「あ、そうです」
その隙に何か思いついたレティシア。自分のスイカを袋に入れてクルースニクスに持たせる。
「竹、ありがとうございました」
お礼とばかりにお土産を持たせる。
「と、とにかく逃げるクマ〜」
しっかりとお土産を手に、逃げていくクルースニクス。
「こっちも楽しいぜ、いつか来いよな?」
逃げていくクルースニクスに声をかける彪臥。短い言葉だけど、様々な想いを込めた言葉。それが通じたのか、飛んで逃げる前に一度止まるクルースニクス。
「キミの名前は?」
「俺は彪臥。花菱彪臥だ」
「ボクの名前はクルースニクス・マーヴァルティン。名前覚えたクマ〜!」
名前だけ聞いて、今度は振り向かずに飛んで逃げていくクルースニクスでした。
「さあ食ってくれ!」
戦い終わって戻ってきた撃退士たちを出迎えたのは、テーブル一杯に並べられたスイカ。切り方も様々で一口で食べやすいように小さく切ったものから、丸々一つがドンと置かれている。
「遠慮なく頂こうか」
大量にあるスイカに早速かぶりつく笹緒。よく冷えたスイカは噛むと口一杯に甘い汁を溢れさせ、夏の暑さと戦いで火照った体を冷やしてくれる。
「う〜ん、冷えてて美味い!」
「瑞々しくて、本当に美味しいスイカですね」
本当に美味しそうな声を響かせる彪臥とユウ。
「クマの人と一緒にスイカ食べたかったな。みんなで食べるほうが楽しいし美味しいからね」
「そうだな。いつか、一緒に食べる時が来るといいよな」
そんなレティシアの想いに同意する彪臥。
「わーい、いただきまーす」
隣では、迷いなく丸々一個に飛びつくのは咲。皮ごと種ごとばりばりむしゃむしゃ、あっと言う間にぺろり。
「ごちそうさまでした」
見事な早食いに思わず苦笑い。
「え、これ一個で一人ぶんじゃないの?」
「ああ、違うさ。好きなだけ食ってくれ!」
そんな咲に豪快な笑顔を見せて次のスイカを用意する農家さん。
「とても甘くて美味しいのう……土産に持って帰りたいのう」
「おう、用意してあるから持って帰えんな」
さらにアヴァニールのご期待にも応える気前のいい農家さんでした。
「そういえば、この封筒、あのクマちゃんからです」
拾っていた封筒を農家さんに渡すレティシア。中にはお手紙とお金がちょっと。
『スイカ盗んでごめんなさいクマ!』
そんな封筒なのでした。そんな封筒を頭をかきながら受け取る農家さん。
「おじさん、ありがとう。ごちそうさまです」
そして最後に、お腹いっぱい食べて夏を満喫した夕乃の声が響き無事に依頼の成功を実感するのでした。