●竹林は誰の?
「クイズ! 撃退士100人に聞きました。『クマの好物と言えば何……?』 その一位はハチミツ、二位は……」
静かに知識を披露するのは下妻笹緒(
ja0544)。その笹緒の説明を実に熱心に聞いているのは鈴代征治(
ja1305)。
(パンダ、笹、竹、タケノコ。食べるのかな?)
いや、聞いているのかと思えば、ただ笹緒の姿をじっくりと見つめウズウズしている。
みつめる、笹緒の姿はパンダ……ではなく、ジャイアントパンダの着ぐるみを纏っている奇人。
(もふもふしたい!)
そんな笹緒に熱視線を向けるもう一人はロジー・ビィ(
jb6232)
(最近のパンダはすごいナー)
そして完全に勘違いしているリシオ・J・イヴォール(
jb7327)でした。
「……つまりは、そういうことなのだ。クマがタケノコを食べようなどと考えるのは、百年早い!」
そんな視線には慣れているのか気にせずに、結論を出す笹緒でした。
「タケノコ! まさに旬というヤツですわねっ?!」
「そんな旬のタケノコは、どう食べるのが美味しいんでしょうね〜」
「そのまま煮て食べてもいいし、天ぷらにもよさそうだな」
ロジー、黒葛瑞樹(
jb8270)と鴉乃宮歌音(
ja0427)は、タケノコ料理についてお話中。中でも瑞樹と歌音はディアボロ退治というよりはタケノコ狩りにきましたという雰囲気です。
「ところで、タケノコって何でス? 竹が子供産ムんでス?」
そんな話をしている横ではリシオがとっても基本的な質問。リシオの興味はタケノコでもディアボロでもなく、話に聞く不思議ディアボロ、コクマコの様子だったりします。
「タケノコというのはね、竹から伸びる地下茎から生えてくる若い芽でね……」
そんなリシオに丁寧に説明をするのは世話好きの向坂玲治(
ja6214)。ネットで調べてきたタケノコレシピを見せながら丁寧に説明。
「なるほど、素晴らしイ!」
征治の説明を受けて、タケノコが竹の芽で美味しく食べられる事を知るのでした。知らない事を質問出来るのはいいことですね。
「竹林、素晴らしイ! ニホンって感ジダー!」
そんな話をしていると、目的地に到着しました。……そこは綺麗に整備された竹林でした。
「へえ、これは随分綺麗に掃除してくれたんですねえ」
征治が思わず呟く。多すぎる竹はかなり刈られ、その竹を使い簡単な道が出来ている。その道も生えてきたタケノコが分かるように軽く作られています。
「地主さんの話だと荒れ放題だったらしいけど、かなり整備されているね……罠じゃないよね?」
日下部司(
jb5638)が冷静に作られた道を警戒するが、その様子は無い。そんな風に道を慎重に調べていると……その道の先から何か鳴き声のような音が聞こえてきます。
「クママ〜コクマク〜マママクマ〜♪」
「マママ〜クコクコクコ♪」
どうやら竹林で作業をしているディアボロのようだ。ぬいぐるみのような外見のクマが竹を切っては道を開き、その竹を揃えて並べて道を作る。コクマコたちは歌うような声を出しながらのテキパキ作業。
「コクマコ!」
一体のコクマコが声を上げると、集まるコクマコたち。そして、爪を器用に使い穴を堀り……そして食べごろなタケノコをゲット。
「コクマ!」
そして見つけたコクマコが頭の上に乗っけると、竹林の奥へダッシュ。クルースニクスに届けるのかな?
「……こいつら、全国の竹林に派遣した方が良いんじゃないか?」
「そうですわね。それが出来れば全国の竹林問題も解決しますわ」
玲治の意見に同意するロジー。全国には同じように荒れ放題な竹林があると聞く。もっとも、不眠不休で報酬不要で働くディアボロだからこその結果でもあるのだが。
「あの、なんだカかわいいクマは『ク』『コ』『マ』だけしか発音出来ないノですカ!?」
コクマコに興味津々のリシオはそんな事に気が付く。
「クコマ!」
そんな観察をしている撃退士たちに気が付いたのか、周りを警戒するような反応になるコクマコ。鼻をくんくんとしながら集合です。しかし、何かを感じただけなのか、周囲を観察しているだけのようです。
「なんだカかわいいクマだけド……」
そんな仕草にちょっと愛らしさを感じてしまうリシオ。
「……まあ、討伐しないわけにはいかんな」
玲治は改めてやる事を確認するように呟きます。
そんな話をしていると……コクマコたちの動きが活発になってくる。どうやら、完全に撃退士たちに気がついた様子。
「コクマ!!」
コクマコたちが戦闘開始……なのかと思うと、膝を付いて両手(前足?)を地面に付けて……お尻を突き上げる。
「……クラウチングスタートですカ?」
陸上競技のスタート方法の一つ。
「クマ!」
かけ声を上げると同時に顔を上げて全力スタート。その走りは……クマというよりは何処かの全力疾走するゾンビ。さらに顔はさきほどまでのぬいぐるみのような顔ではなく、眼は赤くギラギラし、口は鋭い牙がゴリゴリ生え、鼻はプクプク膨らむ。
「グマゴ!!」
さきほどまでの可愛らしさを何処かへ蹴っ飛ばしてディアボロの本性をさらけ出す。
「よし、倒そう」
可愛いから倒す事に少しためらいのあった歌音は、それを見て即座に判断した。
(あれは無理だよね)
征治も平和的交渉を考えていたのだが、ヴァニタスはともかくあのディアボロは危険すぎる。特に本性を表した表情は完全に顔面凶器!
「来いよ熊公。熊鍋にして食っちまうぞ」
「ゴグゴグゴー!!」
玲治がにやりと笑い手招きすると、挑発に乗るように不気味な奇声を上げて腕を振り上げる。戦闘開始だ!
●戦闘開始!
玲治の挑発に乗ったのか、それとも最初から狙っていたのか不明だが、玲治を狙い疾走するコクマコ。コクマコはさきほどまでタケノコを掘るのに使っていた爪を鋭く伸ばして武器にする。
「甘いぜ!」
その攻撃を盾で受け止め、最小限のダメージに押さえる。さらに連携して攻撃を仕掛けてくるも、大きなダメージにはならない。
玲治がコクマコたちの注目を集めている間に、歌音が弓を構え、静かにコクマコを狙う。その目は獲物を狩る猟師の目。
そして、弓から放たれた矢は狙い違わずコクマコの眉間を貫き、ディアボロはそのまま崩れ落ちる。
「こういウやり方もあルのカ!」
戦いに不慣れなリシオは他の撃退士たちの戦い方を見て、学ぶ。
さらに笹緒がコクマコを指さすと、その背後上空に黄金の屏風が現れる。その屏風には風袋を持つ風神と天鼓を持つ雷神が描かれている。
「遠距離攻撃手段を有しているか否か、これもまたクマとパンダの大きな性能差と言えよう」
そして笹緒がコクマコを指す指を動かすと同時に、その屏風の風神と雷神から稲妻が放出される。
「グゴグゴ!!」
稲妻に打ち抜かれ、動きを停止するディアボロ。
「一気に叩きますわ!」
ロジーは光の翼で空を舞いながら武器を構え、一直線の魔力を放出し、複数体のディアボを巻き込みダメージを与える。
「危ない!」
そんな戦いの中で注意深く周囲を警戒していた司が大きな声を出す。別方向から疾走してくる、一体のディアボロ。さきほど、タケノコを持って群から離れていた個体だ。
「グゴグゴ!」
その一体の突撃攻撃を身を挺して庇う司。その攻撃に耐えると武器を全力で振り回して大きく弾き飛ばす。
「数が多いね」
征治はアウルにより無数の蝶を形成し、ディアボロを攻撃する。
「グマ??」
無数の蝶に攻撃され朦朧とするディアボロ。
「あんまり凝ったこトできなイけド……」
リシオは朦朧としたディアボロ狙い淡く発光した剣を構える。
「こレがボクの全力ダ!」
その剣にアウルを込めて全力の一撃を放つ。征治とリシオの連携攻撃で倒れ動きを止めるディアボロ。
「後ろががら空きですね〜」
瑞樹は玲治の挑発に乗って隙だらけのディアボロの背後を取り、黒鞘の両端から二本の小太刀を抜く。
「ゴゴグッ!」
次の瞬間に二筋の黒い筋が走った瞬間、ディアボロは崩れて落ちた。
それが最後の一体だったようで、倒れると同時に静かになる。撃退士たちの勝利だった。
●タケノコ掘ってヴァニタスと
「ではタケノコを掘りましょうか」
「そうですね」
戦いが終わるとすぐにタケノコ掘りに取りかかる瑞樹と歌音。他の者も思い思いにタケノコを掘ったり周囲を警戒したりと様々です。
「あれがヴァニタスだな」
笹緒が竹林を歩いていると、一人の少女を発見した。シルバーブロンドの髪の毛とクマ耳のカチューシャ。情報通りの姿のクルースニクス。
クルースニクスは椅子に座り焼きあがったお菓子を手に笑顔でぱくぱく食べている。どうやら、小麦粉にタケノコを加えたビスケットのようですね。
「なかなか美味しいクマ!」
笑顔で食べているクルースニクスの目の前に仁王立ちする笹緒。
「……パンダクマ!」
そんな笹緒を見て満面の笑みを浮かべるクルースニクス。
「私はパンダではない!」
尊大で偉そうな声を響かせる笹緒。
「パンダがしゃべったクマ!」
思わず笹緒に抱きつこうとして一歩止まる。
「パンダは人間クマか!」
鼻をひくひくさせ、着ぐるみの中の笹緒を感じたのか、急に怯えた表情になり一歩後ずさる。というかそもそも、臭いで判断しないと駄目なのか?
「いや、パンダはパンダだ。竹林の覇者、白と黒の美獣、熊を超越せし存在だ!」
微妙に話がかみ合っているような合っていないような……。
「おーい、そこのヴァニタス。竹林の整備に関しては『ありがとう』と土地の持ち主が言ってたよ」
そんな、埒が明かない会話に割り込むのは歌音。
「……『ありがとう』クマ??」
歌音の言葉に疑問符を浮かべるクルースニクス。その疑問符は『何に感謝されているのか分からない』のか、それとも別の意味なのか、判断が出来ない。
「きみの目的はゲートを作る事か?」
話が進まないので、今度は司がクルースニクスに問いかける。
「……ゲートクマ?……クマ!!」
何か忘れていた表情の後に、思い出した顔をする。
「い、いつか作るクマ!」
もしかしたらやぶ蛇な質問だったかもしれない。しかし、少なくともここにゲートを作るつもりでは無い様子。
「ともかく、そろそろ逃げるクマ!」
思い出したように翼を広げるクルースニクス。
「ボクの名前はクルースニクス・マーヴァルティン。覚えてろクマ〜」
「……なるほど、だからクマ……なのでス?」
『ク』ルースニクス・『マ』ーヴァルティン。二文字並べて『クマ』となる。まあ、激しくどうでもいい。
そして、クルースニクスは空へ消えていった。
「タケノコのお土産、渡せなかったよ」
ヴァニタス用に用意していたタケノコに、歌音は視線を落とす。
「お土産は貰うクマ!」
と、思うとダッシュで戻ってくるクルースニクス。そして、歌音の手からお土産を受け取ると再度、飛んで逃げる。
「あ、ボクの作ったタケノコビスケット余ってるから、残さず食べて欲しいクマ! 食べ物は無駄にしちゃ駄目クマ〜!」
そんな言葉を残して、今度こそ逃げていった。
●みんなで食べましょうね
そんなクルースニクスが去った場所には、結構しっかり出来た釜戸やテーブルが。道具類はしっかりと持って帰ったようですが、歌音や瑞樹たちが持ってきた道具で準備は万端です。
「罠……じゃないよね?」
テーブルの上に残されたタケノコビスケット。ヴァニタスが残した物だから、司のその反応は撃退士として正しい判断。しかし、そのまま捨てるのも食べ物を粗末にするようで心苦しい。
「……大丈夫のようだな」
司は罠を警戒した以上、自分で食べて確認する。その味は少し薄味だが、タケノコの食感が加わって、さっくりと美味しい。
「独り占めするつもりでは無かったようですわね」
置いていったビスケットを食べながらロジーは呟きます。
「せっかくだから俺も」
甘いものが大好きな玲治もビスケットに手を出す。甘さは控えめだったが悪くない味でした。
「それでは、いざ!」
ロジーはせっかくなので釜戸を利用させてもらい、タケノコを皮つきで焼く。そして、半分に割って持参した味噌ダレを付ける。
「……何か物足りませんわね……。そうですわっ! アグレッシヴさが足りないのですわっ!」
そう言うと、半分に割ったタケノコ料理をもう一度皮に包み、竹林の奥深くに埋め直す。
「さぁ、皆さん、タケノコ掘り……もとい、焼きタケノコ掘りを楽しんで下さいましっ!」
さらに、埋めたタケノコ料理にツツジの花まで添える徹底ぶり。
「オー、これガ本当のタケノコ狩りナのでス?!」
そんなロジーの工夫に大喜びのリシオ。全力ダッシュで埋めた焼きタケノコを狩る。
「いただきまス!」
そして、ロジーのタケノコ料理をぱくり。工夫はともかく、味は格別。味噌ダレもタケノコにマッチして、とても美味しくなっていました。
「……まあ、そんな楽しみ方もありますけど、普通はこんな風に食べるのですよ」
後でリシオが日本文化を誤解しないようにしっかりと征治が教えてあげるんですけどね。
「さあ、皆さんで食べましょうか」
そんな事をしている間に瑞樹と歌音が色々とタケノコ料理を完成させました。タケノコをそのまま茹でたものに天ぷらに、焼いた物。味付けように色々なソースを小皿に並べています。
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
皆さんで声をそろえてのいただきますをしてから、食べ始めます。
「タケノコの天ぷらモ美味しいでス」
「この味噌ダレのタケノコも美味です」
「歌音の天ぷら美味しいですわ!」
皆で作ったタケノコ料理を交換しながら食べていますね。皆さん美味しく出来た様子。
「一度でいいから食ってみたかったんだ。タケノコの刺身ってやつをな」
玲治はそう言って、新鮮堀りたてのタケノコを薄くスライスしたお刺身タケノコをパクリ。
「うん、これも美味い」
新鮮なタケノコだからこそ出来る生のお刺身タケノコ。大きさもぎりぎり掘れるくらいの小さく若いタケノコだけで味わえる贅沢な食べ方。
「本当、美味しいです」
他の皆もそんなタケノコの刺身を感慨深く味わう。
「タケノコはそのままが一番だな」
そう言いながら、相変わらずのパンダの着ぐるみのままでタケノコを堪能している笹緒。よけいな味付けをせずに、ただ焼いたものをそのままホフホフと頬張る。
シャキシャキ感を存分に堪能しながら春をお腹で感じる笹緒。そんな春を堪能する笹緒に対して……ウズウズしている征治。
(それで笹緒さんは笹や竹を食べるのですか?)
しかし、さすがに笹や竹は食べられない様子。
「竹や笹を楽しむ事もできず、ただタケノコのみを貪り尽くそうという愚行……熊には竹林はまだ早い」
何がどう早いのかよく分からないが、ともかくディアボロの被害を出す事なく退治出来た事に安堵し、もう少しタケノコを掘ってお土産にするのでした。