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マスター:あきのそら
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/29


みんなの思い出



オープニング


 ボクは、いつも怖い夢を見る。
「うああ、うわあああ!」
 村のみんなが焼かれていく夢を見るんだ。
 空が気味の悪い紫色になった頃、西の空から蝙蝠の羽を生やしたライオンみたいな顔の女性がやってきて、みんなを焼いてしまうんだ。
 そして、決まってボクは戦う。
 見たこともない力で……黒い雷でみんなを守るんだ。
 ボクがみんなを守るんだ、ボクが、みんなを。
 
●X村 村はずれ
「おい見ろよ!コウタの奴、またおかしなことやってるぜ!」
 コウタが切株の上に置いた空き缶に向けて両手をかざしていると、いつものように村の子供たちがやってきた。
「だって、また夢を見たんだ……」
「ハンッ、悪魔がやってきて俺たちを皆殺しにしちまうってかぁ?」
「ホントにそうなったって、お前にはなぁんもできねぇよ!」
「ボクが守るんだ!ボクがみんなを守らなきゃ、みんな死んじゃうんだぞ!」
「コウタのくせに生意気なんだよ!」
 後ろの方に居た体の大きな一人の子供がコウタ目がけて石を投げると、驚いたコウタは尻もちをついてしまう。
 お尻をさするコウタの姿を見て、子供たちがひとしきり笑うと気分が良くなったのかそのまま山の方へと行ってしまった。
「どうしてみんなわかってくれないんだ……ボクが守らなきゃ、みんな死んじゃうのに……」
 コウタは首から下げたロケットペンダントを悲しい顔で握り締める。
 コウタは、いつもいつも笑われながらも、どうしても怒る気持ちにはなれなかった。
 自分が守らなければならない、その使命感だけが強くなっていく。
 自分にみんなを説得する力も、身体も無いことがただ悔しくて、焦れる思いでいっぱいだった。
「早く、あの黒い雷を使えるようにならなくちゃ……!」
 夢の中の自分は、決まって黒い雷で戦っていた。
 そんなもの見たことも聞いたこともないのに……。
 そう思いながらも、自分に出来るのは唯一夢の通りの力を使えるように努力することしかないのだと分かっていた。
「うぅぅ……ていっ!」
 精一杯力を込めて空き缶へ向けて両手をかざしてみても、雷どころか風すら起こりはしない。
 自分に特別な力など無いことは、分かりきっていた。
「このままじゃ……みんなが……」
 ぎゅっと拳を作る両手に力が入る。
 このままじゃいけない、けれど一向に自分が何かに目覚める兆しはない。
「そ、そうだ!助けてもらおう!ボクじゃなくても、夢の中のボクみたいに戦ってくれる人に助けてもらえばいいんだ!」
 どうして今まで気づかなかったんだろう!
 名案が思い付いたコウタは村の役場に向けて走り出した。

●X村 役場
「えと、だから、ライオンみたいな頭をした、蝙蝠の羽を生やしてて、女の人が来るんです!それで、みんな殺されちゃうんです!え、い、いつかわからないけど絶対ぜったい来るんです!だから!」
「うぅん……そう言われてもねぇ」
 コウタの話を聞いた役場の女性は困り果てた顔をして首を傾げた。
「あのね、コウタくん。お母さんやお父さんと遊べなくて寂しいのはわかるけど、殺されちゃうーなんてこと嘘でも言っちゃダメなのよ?」
「嘘じゃないよ!ホントなんだ!」
「それじゃあ、その怖い女の人はいつ来るの?」
「それは……わかんないけど……でも、絶対くるんです!」
「そう、わかったわ。じゃあ私が頼れる人にちゃーんと相談しておくから、コウタくんは修行がんばってね」
「本当っ!?うん!ボク、絶対みんなのこと守るからね!」
「頼りにしているわ」
 女性の笑顔を見て安心したコウタは、再び村はずれで修行するために役場を飛び出した。
 その背を見送った女性は、悲しそうな表情で俯く。
「コウタくん、よほど寂しかったのかしら」
「仕方ないじゃろう」
 肩を落とす女性に、年老いた村長がしゃがれた声で話しかける。
「あの年ごろは、何でもいいから周りの気を引きたがるものじゃ」
「そうですねぇ」
「久遠ヶ原学園に連絡するかね?」
 村長の問いに、女性は軽く笑った。
「いやですね、村長ったら。しませんよ」

●X村 役場裏
「やっぱり……」
 コウタは、役場を飛び出したフリをしていた。
 自分の言葉がどうしたって説得力に欠けることをコウタは知っていた。
 村の子供たちが、何度コウタの話を聞いても信じないのが証拠だ。
 役場が閉まる時間を待って電話を使おう。
 そうすれば”くえんがはらがくえん”というところの人に助けてもらえるはずだ!

 そして、陽が沈みかけてきた頃。
「こんばんは!」
「あら、コウタくん」
 役場の鍵を閉めようとしていた女性は、コウタの姿を見て一瞬困ったような顔を見せた。
「おトイレ貸してください!」
「えぇ、いいわよ。鍵を閉めるから、早めにね」
「はぁーい」
 誰も居ない役場へと入ったコウタは、迷わず村長の部屋へと向かう。
 ”くえんがはらがくえん”の電話番号は知らなかったが、きっと村長ならどこかに電話番号のかかれた何かを持っているはずだ。
「く……く……あった!」
 机の上に読み仮名のふられた久遠ヶ原学園からの資料らしい紙を見つけた。
 拙い手つきだが、電話をかけることには成功した。
「あ、あの、X村のコウタといいます!えっと、ボクの村が、怖い女の人に襲われるんです!だから、えと、たすけてください!」
 たどたどしい口調ではあったが、依頼斡旋所の女性は快く依頼を受けてくれた。
「よかったぁ……」
 これで、たとえ自分が夢のような力が使えなくたってみんなが死んじゃうことはないはずだ。
 コウタが安堵した、その時だった。
 ―――キャアア!
 役場のすぐそばから、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「あいつらがやってきたんだ……!」
 少年が急いで役場を飛び出すと、そこには少年が夢で見たのとは違う、いつもの村の光景が広がっていた。
 しかし、ひとつだけ違うところがある。
 獅子の頭、背丈ほどある大きな蝙蝠の羽、そして石膏のような女性の体。
 夢で見た怪物が、二体。
 気味の悪い紫色に染まった西の空に浮かんでいた。
 二体の怪物はコウタの姿を見つけると、一瞬でコウタの元へと飛んできた。
「あ、ぁ」
 間近に見た怪物は、黄色く澱んだ恐ろしい瞳をしていた。
 獅子のたてがみは黒ずんでおり、蝙蝠の羽は羽ばたく度に焦げたようなボロボロの翼膜をまき散らし、身体は艶めかしく滑らかだった。
 恐怖に慄きながらも、夢のように両手をかざす。
 黒い雷など出るはずもなく、コウタはただ恐怖に震えるしかなかった。
 このまま殺されるのだ、そう思った時。
 怪物たちは恭しく跪き、それぞれがコウタのかざされた手を握った。
 そして、深々を頭を下げ、コウタの両手を掲げるようにして持ち上げると、美しい声で同時に話し始めた。
「「ようやく見つけました、我が主」」
 柔らかく、甘美な囁きが優しく脳みそを締め付けていくような感覚に包まれる。
「「さぁ、愚かな我らに指示を」」
 二人の女性が、優しくささやくと地面から無数の手が生えた蛇のような生き物が次々と這い出してくる。
 そして、ボクらに襲い掛かろうと工具や鉄パイプを持って走ってくる奴等を絡めとり、動きを封じると二人の女性が口から炎を吐き出して辺りを焼き尽くした。
 あぁ、そうだ。
 ボクが、守らないと。
 ボクが、二人と、地面を這いずる愛すべき仲間たちを守らないと。
 ボクが、みんなみんな。
 殺してあげなきゃ。


リプレイ本文

●X村 中央 道路
 ――きゃああああ!
 村へと到着した一行を出迎えたのは村人の断末魔だった。
「うっ……これは……」
 村の様子に鈴代 征治(ja1305)が顔をしかめる。
 焼けた家屋、千切られた電線、散らばる蛇のような何かの死体。
 生き物の焦げた異臭と黒い煙に村中が包まれていた。
 その中心。道路から続く田んぼ道を抜けた向こうでは炎を拡大させるように蝙蝠のような羽を持った三体の天魔が飛行しながら村人の一団を追っている。
「……!」
 一際大きな火の手が上がったのを見て取ると、翼を可視化させたフローライト・アルハザード(jc1519)が布状の槍を構えながら飛び上がり、突進した。
「……堪え性の無い奴だ」
 それを追うようにエカテリーナ・コドロワ(jc0366)が走り出す。
「アルねぇ!」
「シドウ、作戦通りにヤロウ」
 続いて飛び出そうとする獅堂 武(jb0906)を長田・E・勇太(jb9116)が静止し、紅色と黄色の瞳を持ったスレイプニルを召喚する。
「わあーってるけど……ええいっクソっ!」
「まずは僕らで子供型を抑えましょう!」
 純白の弓を構えた黒井 明斗(jb0525)が駆け出し、ショットガンを構えた獅堂とスレイプニルを従えた長田がそれに続く。
 街灯が少ない道路から村内部へと続く道すがらにフラッシュライトをばら撒きながら、鈴代も続いた。
 
●X村 村内部
 村人たちの元へいち早く到着したのはフローライトだった。
 飛行するディアボロが炎を吐き出そうとした瞬間、布槍を回転させ村人たちの盾となるように立ちはだかった。
 炎は回転する槍に阻まれ、村人たちには届かない。
 が、ディアボロは飛行したまま、前進した。
 炎がフローライトの頭上を通り越すよう、前進したのだ。
「なに……?」
 フローライトを無視したディアボロの炎は村人たちだけを一瞬で包み込んだ。
「こいつ……」
「呆けるな!」
 フローライトに追いついたエカテリーナの銃撃がディアボロの翼をカスる。
 が、依然としてディアボロは撃退士たちに興味を示さなかった。
「ハンッ、私らには興味ないということか?」
 続いて、黒井たちが到着する。
 今度はヴァニタスへ向け、黒井の矢が放たれる。
「僕たちが相手だ!かかってこい!」
「カチューシャッ!」
 長田の召喚したスレイプニルが咆哮を上げ、威嚇をしてみせる。
 が、それでもヴァニタスはディアボロ同様に撃退士たちを見ることはなかった。
「なんだなんだ、どうなってんだ?」
 支援するつもりでショットガンを構えていた獅堂は困惑の表情を見せる。
 そんな撃退士たちのことには我関せずといった様子で、未だ村人を探すディアボロ。
「あくまで無視するというなら……!」
「嫌でもこっちを見させてやる!」
 鈴代、エカテリーナがそれぞれディアボロ目がけて攻撃を仕掛けた。
 鈴代の手からは無数の光の爪が放たれ、ディアボロの肉体へと突き刺さる。
 エカテリーナの銃撃は今度こそディアボロの翼を撃ち抜き、まばゆい光を伴って炸裂した。
「あ、ぁ……」
 初めて、ヴァニタスが反応した。
「ぁ、あぁ、しんじゃう、二人がしんじゃう!やめろよ!やめろよ!!やめろよお!!!」
 錯乱したように叫び散らすヴァニタスの手から黒い雷が迸る。
 だが、黒い雷は滅茶苦茶な軌道で飛び、撃退士の誰も捉えること無くディアボロの背を焼き、わずかに残っていた蛇たちを焼き払った。
「あ、あぁぁ、死んじゃった、みんな、死んじゃった、死んじゃったじゃないかあ!!」
 ヴァニタスは怒りを露わにすると、最も近くに居た長田目がけて突進した。
「こっちに来タゾ!作戦成功ダネ!」
「道路まで下がりましょう!」
「自分でお仲間焼いといてこっちに来んのかよっ!どうなってんだ!」

●X村 田んぼ道
「しんじゃう、しんじゃうんだ、やだ、まもらなきゃ、ボクが、まもらなきゃぁあ!!」
 黒井たちを追うヴァニタスは低空で飛行しながら両手をかざす。
「まずいネ、これは……」
 黒井たちが走るのは田んぼ道。
 追いつかれないよう道路へと全力疾走している状態ではまともに回避が出来そうもない、道を外れれば田んぼに足を取られるだろう。
「任せろっ!」
 獅堂は反転しアウルを込めた数珠を網のように張り、ヴァニタス目がけて飛んだ。
 黒い雷を受けながらヴァニタスに飛びつくと、数珠でヴァニタス腕を絡めとり攻撃を封じる。
「シドウっ!」
「いってぇ……黒井ーっ!」
「わかりましたっ!」
 獅堂の呼びかけに呼応し、黒井が空中目がけて矢を放つ。
 すると、放たれた矢は光の尾を引きながら回転し、一本の鎖となってヴァニタスに絡みついた。
 翼を縛られたヴァニタスとそれに飛びついたままの獅堂は飛行の勢いで道路へと転がり込んだ。
「邪魔するなよぉお!!」
 すぐさま体勢を立て直したヴァニタスが黒井目がけて両手をかざす。
「させるかッ!」
 獅堂がヴァニタスの両腕へと数珠を放ち、絡めとると、思い切り振りあげることで両手を上空へ向けさせる。
 雷は道路沿いの街灯へ伝播し、辺りが暗闇に包まれる。
「長田さん、お願いしますっ!」
 道路へ辿りついた黒井は足を止め、アウルを集中させた矢を真上へと放つ。
 光を纏った矢が上空で炸裂するとまばゆい光が辺り一面を照らし出した。
「お任せデスッ!」
 スレイプニルの召喚を解き、阿修羅の力を活性化させた長田の拳がヴァニタスの胴を捉える。
「これで……終わりです!」
 間髪入れず黒井の手から聖なる鎖が放たれ、ヴァニタスを拘束した。

●X村 村内部
 黒井たちがヴァニタスを引き付けている頃。
 鈴代は一体のディアボロを光の鎖によって墜落させ、道路へと誘導していた。
「我が主の命に従い、愚かな我らが殺します」
 ディアボロが美しい声で囁くと、地面から次々と蛇もどきが湧き出してくる。
「ここで戦うつもりはありませんっ」
 軽快なステップで襲い掛かる蛇もどきを躱しながら道路方面へと後退していく。
 時折掴まれそうになった時も、エカテリーナの狙撃が蛇を撃ち抜き拘束へは至らない。
 足止めが困難と判断したのか、ディアボロも鎖で翼を封じられながらも鈴代を追いかけていった。
 一方、フローライトは翼を失ったディアボロと対峙していた。
 エカテリーナの炸裂弾により翼を失ったディアボロは地上から火炎を吐き、フローライトを捉えんとしているが飛行するフローライトには一切当たらない。
「無視をしたかと思えば、今度は狙い撃ち……ヴァニタスに従うだけの木偶か」
 意思がない機械のように標的を変えるディアボロに怪訝な表情を見せるフローライトが己を観察していることを察したのか、ディアボロは向きを変え、エカテリーナ目がけて蛇を放つ。
「うっとおしいッ!」
 エカテリーナが強酸性の消化液へと変換されたアウルを放つと、蛇たちはあっけなく力尽きてしまう。
「ふんっ、足止めにすらならん」
 と、自分から注意がそれた瞬間を見計らったようにディアボロが炎を溜めながらエカテリーナ目がけて跳躍する。
 ゆうは10mを超える跳躍はエカテリーナの頭上を捉え、火炎はエカテリーナを中心に辺り一面を焼き尽くすかと思われた。
「状況も判断出来ない雑魚に用はない」
 フローライトの白い輝きを纏った鎖が炎を溜め込んだディアボロの口に叩き込まれ、上顎から上を削り取るようにディアボロの頭部を引きちぎった。
「ぁ、ぉ、愚かな我らの断末が、我らが主の想起となります、よう、に」
 頭部を失ったディアボロの全身は炎に包まれると地面に着く前に消し炭となって消え去った。
「……ふんっ」
 散らばる消し炭を一瞥するとフローライトは村の家々へがある方向へと飛び去っていく。
「さぁ、もう一体だ」
 エカテリーナはスナイパーライフルのスコープを覗き、鈴代が対峙するディアボロの方へと視線を向けた。
 槍を構え、器用に立ち回る鈴代に翻弄されるディアボロの背後はガラ空きだった。
 エカテリーナの炸裂閃光弾が背面を捉え、ディアボロが大きくよろめく。
「そこだっ」
 鈴代は隙を逃さず、両腕に光と闇のオーラを纏い、強烈な一撃を叩き込む。
 ディアボロの胴を貫いた槍からオーラが爆裂し、ディアボロの四肢がはじけ飛ぶ。
「ガァ、ぁ、愚かな我らの断末が、我らが主の想起と……なり、ます……ように……」
 飛び散ったディアボロの四肢は燃え上がると、消し炭となって消え去った。

●X村 中央 道路
 ディアボロが撃破されたらしいことを見て取ると、黒井がヴァニタスへ説得を持ち掛ける。
「ここまでです。貴方に勝ち目はありません。大人しく降伏して下さい」
 ヴァニタスの目は焦点を捉えておらず、黒井の言葉が耳に届いているとは思えない様子だった。
「ア、ァァ、死ンジャッタ、ミンナ死ンジャッタ……ァァ……マタ死ンジャッタ、守ラナキャ、ボクガ殺シテ、殺シテ、ァァ……」
「っ……もう貴方に勝ち目はっ」
 もう一度説得しようとする黒井だが、ショットガンを構えたエカテリーナに静止される。
「人の言葉が理解できないようだな。悪いが、殺処分だ」
「そう、ですね……」
 ガチャリ、とショットガンの引き金にエカテリーナの指がかかった時。
「ァアアッ!!嫌ダッ!!殺サナキャッ……殺サナキャイケナインダア!!」
 鎖が引きちぎられ、ヴァニタスの両手がエカテリーナへと向けられる。
 これまでと違う炎を伴った黒い雷が球体となってエカテリーナたちへと放たれたが。
「死を、受け入れろッ!」
 至近距離で放たれた炸裂弾はヴァニタスの放った球体を貫き、両手に埋め込まれたペンダントを砕き、ヴァニタスを粉々に吹き飛ばした。

●X村 中央 道路
 ヴァニタスたちを撃破した後、エカテリーナたちを恐れて先に学園へと戻った長田と、フローライトのライトヒールで生命力は回復したものの念のため治療をと一足先に学園へ帰らされた獅堂以外の四人はX村内に生き残りが居ないか捜索していた。
 日が昇り、村を覆っていた火の手が消えるまで捜索した結果、僅かに生き残った村人たちから話を聞くことが出来た。
 迎えの車を待つ間、情報交換することとなった。
「では、おそらくあのヴァニタスはコウタくんといういつもペンダントを持っていた記憶喪失の男の子であった、と」
 鈴代の確認に黒井が頷く。
「えぇ。村長さんのお話では最近村にやってきたばかりだったんだとか。ご両親の話も聞ければよかったのですが、この村で一緒に暮らしていたのは本当の両親ではないとかで。そのお二人も残念ながら……」
「本当の両親ではない?」
「コウタくんはここから離れたZ市で悪魔の襲撃に巻き込まれたんだそうです。そこで両親を亡くして、このX村の夫妻に引き取られたと」
「斡旋所に来た依頼で言ってた二体の化け物がどうたらって話も、そのコウタってのがよく言ってた夢の話らしいな。村のガキどもが言ってた。そして実際二体の化け物がやってくるのを見た、と……あのディアボロがヴァニタス化させたっていうのか」
 エカテリーナの問いに黒井が答える。
「それは無いでしょう。あるとすれば近くに悪魔が居るか、それとも……自分がヴァニタスであるという記憶ごと全て忘れていたか、でしょうか」
「これだけドンパチやらかしても無視するような悪魔が居るとは思えないがな。記憶を無くしていたとしてもエネルギー供給はどうしていたんだ?そもそもまともに生活できるとは思えん」
 黒井の意見に納得がいかない様子のエカテリーナに続き鈴代が疑問を口にする。
「しかし一体なぜこの村に?なにかの狙いがあったのだろうか?」
「執拗に村の人たちを狙っていたようにも思えますが……殺戮行為そのものに執着していたようにも見えました。記憶喪失説を推すならば、ディアボロがヴァニタスであるコウタくんを見つけたが、高すぎる殺戮衝動故に本来の目的を果たす前に殺戮行為に走ってしまった……というところでしょうか。それでも、コウタくんをヴァニタスとして復活させた目的はわからないですが」
「……もし、Z市で悪魔に襲われた時ヴァニタス化していたのだとしたら、ディアボロごと焼き払うような奴の記憶を奪ったとしてもおかしくない」
 沈黙していたフローライトが口を開く。
「まさか、ヴァニタス化させたはいいけど、手綱を握りきれないから記憶を奪ったってかい?」
 エカテリーナの問いに頷き、フローライトが続ける。
「ヴァニタスとして生かすためにもエネルギーが必要だ。わざわざ生かしておいた以上、何かしら使い道を考えるはずだ。だが、ゲートを張るような場面では邪魔になる。ならば使い道は辺りが人間だらけの場所が適任だろう」
「だから人間に紛れ込ませて、ディアボロで記憶の解放を……」
「……手の込んだことをする奴が居たものだ、もしそうだとしたらの話だが」
 しばらくの沈黙のあと、黒井が口を開いた。
「……コウタくんは直前まで、村の人たちに危険を知らせようとしていたそうです。もし、ディアボロたちがコウタくんを見つけなければ、たとえヴァニタスであったとしても心優しいコウタくんのまま過ごせたのではないでしょうか」
「無理だろうな」
 エカテリーナが答える。
「身体がヴァニタスである以上エネルギー供給という悪魔との繋がりもあったはずだ、いずれ今回のようなことになっていただろう」
「そうかも、しれませんが……」
「それに、もし心優しい人間として生活し続けたとしても、ヴァニタスと成りえるほどの殺戮衝動を抑えきれるはずがない。マトモな頭のまま殺しまくるよりも化け物として化け物らしく死んだほうが幸せだと思うがね」
 と、迎えの車がやってくる。
 四人を乗せ、学園へと車は走り出した。
 悪夢のような戦場をあとにして。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
 負けた方が、害虫だ・エカテリーナ・コドロワ(jc0366)
重体: −
面白かった!:2人

最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト