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マスター:あきのそら
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:4人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/02/19


みんなの思い出



オープニング

●ナツミ私立相談所

「最終決着が近いわね」

 女性――ナツミは事務所の椅子に深く腰掛けながら、神妙な面持ちで呟いた。
 
 乱雑に、ファイルや資料、お菓子の空箱やお菓子の包み紙やお菓子の特売記事が載ったチラシが積まれた机は今にも崩れそうだ。

「はぁ、そうなんですか?」

 ナツミとは違い、整理整頓されたデスクに向かう男性――ソウタはめんどくさそうに相槌を打つ。
 
 打つっていうか打ってあげる。
 
 どうせ大したことは言わない上司よりも、目の前の顧客情報整理の方が大切なのだ。
 
「オーラを感じるのよ……このアタシの天才的頭脳に秘められた第六感がね」

「はぁ、すごいですね」

 感じるならオーラじゃなくて社員が自分しかいない相談所の状況がどれだけヤバいのかを感じて欲しいと思いつつ、ソウタは手を動かす。

「きっと大事になるわ……それこそ日本中を巻き込んだ大事にね……」

「はぁ、こわいですねぇ」

「えぇ……だから、死ぬ前にやりたいことはやっておきたいわよね」

「はぁ、そうですねぇ」

「いや、死にたくはないけどね? こんな若さで死んじゃうのは嫌だけどね?」

「はぁ、そうですねぇ」

「ごっほんえっほん! ……でね?」

「……ダメです」

「まだ何も言ってないーっ! まだ何も言ってないからぁー! はいぶっぶー! ソウタぶっぶー! 早とちり―!」

「……どうせまたスイーツビュッフェだか、バイキングだか行きたいって言うんでしょ」

 前科三四犯。
 
 適当な理由をつけてこれでもかと甘い物を食べまくるのはナツミの常とう手段なのだった。
 
「違いますぅー! 今度は違いますぅー!」

「じゃあなんだっていうんですか」

「ほら、ウチってそろそろ経営ヤバいじゃない? ソウタがやめたら倒産? みたいな?」

「気付いてたならもうちょっとどうにかしてくださいよッ!」

「いやいやいやまぁまぁまぁそれでね? さっきも言った通り、最終決着が近いと思うわけよ。ソウタとアタシ二人でお客さんと学園を繋ぐこの相談所が回ってる時点でおかしいと思わない?」

「この経営状況のほうがおかしいと思うんですけど……どういう意味ですか」

「つーまーりっ! アタシたちでも手が足りちゃうくらい、依頼が減って来てると思うわけ!」

「言われてみれば……確かに、そう、かもしれませんね……?」

 現在絶賛整理中だった顧客情報を依頼日時でソートしてみると、確かに去年おととしと比べて依頼頻度が落ちていた。
 
「ってことは、なんかもういい加減天魔騒動もおしまいなんじゃないかなーって思って」

「結論付けるのは早計な気がしますけど……まぁ、そうかもしれませんね」

「で! ここ、畳もうと思って!」

「はっ!? た、畳む!? そ、相談所をですか!?」

「うんっ! そう! 飽きた!!!」

「飽きっ、飽きたじゃないですよちょっとぉ!!!!」

「まーまーまーまーまーそれでね? ほらほら、時期的にバレンタインも近いじゃない?」

「いや、あの……はい、まぁ、そうですね、二月ですし」

「だから、お菓子屋さんに変えようかと思って!」

「……………………」

「ふんすっ!」

「……誰が、作るんです? お菓子」

「ソウタ」

「所長は何するんですか」

「アタシはほら、試食係?」

「結局今と変わらないじゃないですかっ!! 知らないんですか飲食の大変さをっ! 無理です絶対無理! どんな小規模にしたって二人で回るお菓子屋なんて聞いたことないですよっ!!」

「まーまーまーまーどうどうどうどう、それでね? 昨今の依頼事情を鑑みるに、撃退士さんたちも手隙な人が居そうじゃない?」

「……まぁ、依頼がなければ手隙という人も居るかもしれませんね」

「だから、作ってもらおうと思って! 家くらいの生チョコ!」

「…………………………」

「ふんすっすっ!」

「あ、帰りますね」

「待ーっーてーよー待ーっーてーよーちーがーうーのーちーがーうーのー!」

「何が違うんですかっ! 頭おかしいんじゃないですかっ!? もういいですここが畳まれるならボクは就活しますぅぅうっ!」

「違うから! 待って! ちゃんと聞いて! お仕事あるから! ちゃんと! 健全な環境で! ね!?」

「……なんですか、もう」

「ほら、アタシの親戚に牧場主さんとカカオ農家の人とてん菜農家の人が居て、おまけに土木関係の人とちょうど独立したいと思ってるパティシエの人が居るじゃない?」

「なんですかその出来過ぎた家系」

「だから! ずっと話してたわけ! ウチがそろそろ潮時かなーなんて言ってたらじゃあお菓子屋やっちゃう? 人手ならあるよーなんて言って! ね? だからほら、やってみよ? 親戚の持ってる孤島借りる手はずになってるか家一軒分の生チョコ作ってみよ?」

「……いやでも待ってくださいよ、なんだって家一軒分の生チョコなんですか」

「オープニングセレモニー的な?」

「……じゃあ、どうやって作るんです?」

「そこをほら、撃退士さんたちに依頼してみよっかなって思って! すんごい力で、こう、ばばばーっと!」

「あーなるほど。だから撃退士の方たちの話をしたんですね」

「そうそう! ふふんっ、どう!? お腹いっぱい食べれそうじゃない!?」

「ん?」

「あっ、いやっ、う、上手くいきそうじゃないっ!? 新しいお店! ナツミ洋菓子店! んふふ……今ならあれよ? ソウタを偉い立場にしてあげちゃうわよ?」

「……結局、生チョコを好きなだけ食べたいんですね?」

「ぎくっ」

「……はぁ。もう良いですよ」

「えぅ、だ、だめ?」

「いいえ、やりましょう」

「えっ、ホントに?」

「無くなるんでしょう、ここ。だったらボクも路頭に迷うことになりますからね。もういいです、なんかもう疲れました。ボクだって好きに生きますよ!!!」

「おぉ! なんかいい調子だねソウタっ!!」

「えぇ! ボクだって撃退士さんのなんかスゴイ力で造られた生チョコ食べたい!!!」

「おぉ! いいぞいいぞ!!!」

「できれば可愛い女の子の手であーんしてもらいたい!!」

「は?」

「うおー! 燃えてきましたね!!」

「……うん、そだね」

「えっ、なんですか」

「いやべっつに。あぁ、そうだ。競争形式にするから」

「え、は?」

「アタシと、ソウタチーム。良いわね?」

「え、まぁ、えぇ?」

「負けたらあれだから、もうすごいアレだから」

「あ、アレ!? アレってなんですかちょっと!!」

「じゃ、依頼するから」

「ちょっとォ!!!」

「つーん」

 こうして、今日もまたしょうもない依頼が舞い込むのであるッ!


リプレイ本文


●孤島 ナツミ洋菓子店オープニングセレモニー会場

 ここは、日本の瀬戸内海あたりに浮かぶ孤島。
 
 急ごしらえの建物にしては立派な、どでかい倉庫のような空間の中には甘く美味しそうな香りが漂っていた。
 
「うおー! やるからには完全勝利を目指すわ! 全力で行くのよ!」

「は、はい! ……私はとにかく突然変異させないように注意しないと……」

 やる気満々・準備万端な雪室 チルル(ja0220)と、その横で不安げにしながらも今回こそは大丈夫と意気込む雫(ja1894)。
 
 二人は肩から『ソウタチーム』と書かれたタスキをかけている。

「非常に嫌な予感しかしないけど……案外ちゃんとした設備が整ってるみたいですね」

「おいしく作れるといいですねぇ」

「……まず食べられるものが作れるか心配ですけどもね」

 チルルたちとは違い、『ナツミチーム』と書かれたタスキをかけているのは浪風 悠人(ja3452)と月乃宮 恋音(jb1221)。
 
 四人はそれぞれあらゆる角度から撮影できるよう設置されたカメラと、業者の方々。
 
 モニターの向こうで待機している試食役の方々、数百人規模に見守られながら。
 
「じゃ、やりますか」

 調理を開始した――!
 
 
●ソウタ班『チョコを細かく切ります』

「手出しは無用よッ!」

 ソウタ班に配属された業者たちは、チルルの静止によって足を止める。
 
「あたいのかっこいー切り方……見れるものなら、見てみるといいわっ!!」

 ――カッ!!!
 
 一瞬、チルルの手元を見つめていた者たちは全員が目を閉じざるを得なかった。
 
 光。圧倒的輝きが、チルルの手元を照らしたように見えたのだ。
 
 しかしチルルの手元には輝くものなど何もなく、業者たちはふわりと香るチョコの香りとチルルの目の前に山と積まれた切り刻まれたチョコレートを見てようやく状況を理解した。
 
 風圧だ。
 
 あまりにも速すぎるチルルの槍捌きによって生じた爆風とも言える風圧はまるで閃光の如く業者たちの目を襲い、瞬きの一瞬のうちチョコレートは切り刻まれたのだ。
 
「「「お、おぉぉ……!!!」」」

 普段、目にすることのない撃退士の圧倒的身体能力を目の当たりにした業者たちからは、誰からともなく拍手が巻き起こる。
 
「ふふんっ、これは500ポイントくらい頂きね!!」

「急にポイント制!? そんなルールじゃないですよね!?」
 
「突然変異させないよう慎重に……し、しかし、切り刻むだけならば大丈夫でしょう……!」

 ソウタ班、チョコレートの粉砕完了――!
 

●ナツミ班

 時は少し戻って、ナツミ班。
 
「せぇいっ!」

 万能包丁を片手に、≪神速≫で駆け抜ける浪風によって巨大チョコレートは二分される。
 
「ふぅ。分け方はこんなもんで良いですかね、月乃宮さん」

「だいじょぶそうですよぉ」

 ロザリオから放たれる光の爪で丁寧に丁寧に刻んでいく隣で、浪風も包丁を構え直す。
 
「包丁で切れる幅に整えて……っと。よし、あとは――」

 ≪翔閃≫と同時に≪手加減≫を発動させた浪風の包丁は、チョコレートをシュレッダーに通すがごとく流れるように細切れにしていく。
 
「……っと、こんなものかな。月乃宮さん、そっちは……ど、どう? 何、してるの?」

「ミルクチョコレートを使った生チョコだけでなくてホワイトチョコと抹茶チョコもあったら美味しいと思うんですよぉ」

「た、確かに美味しいだろうけど、撃退士らしさのない調理は依頼内容にそぐわないんじゃないかな……」

 とんとこ、とんとこ。
 
 普通の包丁で普通に調理している様は明らかに撃退士というよりもお菓子作り上手な女の子、という感じではあったが。
 
 ――グッ!
 
「あぁ……テレビクルーの人たちが全員サムズアップしている……だいじょぶそうだね……」

「???」

 月乃宮の迫力ある胸元は、十分な絵力を持っているようだった。
 
 というわけで、ナツミ班も完了――!
 

●ソウタ班『生クリームを沸騰させます』

「さて、刻んだチョコレートは業者の方々にお願いしてボウルに移していただきました。次は生クリームをあたためて、混ぜるのですが……すみません! 協力、お願いします!」

 雫の指示のもと、業者の手によって運ばれてきた大量の生クリーム。
 
 一応、大きなコンロ自体は用意されていたが……。
 
「このままかけるだけでは温度調節が上手くいかないかもしれませんね……では、この太陽剣で――」

 ガシャリと重々しく取り出された大剣は、白く輝く刀身に炎を纏っていた。
 
「「「おぉぉ……!」」」

 中々一般人の目に留まることの少ない、本物の武器。
 
 研ぎ澄まされ、光り輝く刀身が現れただけで感嘆の声が上がる。
 
「――あっためますっ」

「「「えぇぇ……」」」

 スッと生クリームの入った鍋の下に挿し込まれた大剣から、ボボボッと炎が伸びていく。
 
 鍋の下、全体を包み込むように温める炎は逐一形を変え、まんべんなく生クリームを温めている……の、だが。

 雫の位置からでは生クリームの様子を見ることが出来ない。
 
「ゆ、雪室さんっ! 生クリームの様子を見てくださいっ!」

「――もういんじゃないかしらっ!!!」

「ほ、ほんとですかっ?」

「わかんないっ!!!」

「ちょっとお!!!」

 そんなこんなでソウタ班、加熱完了――!
 
 
●ナツミ班『生クリームをあっためます〜よく混ぜます』

「あっちは加熱でだいぶ苦戦しているみたいですね……」

 ソウタ班の苦戦を尻目に、浪風が薪材をくべると月乃宮の≪炎焼≫によって勢いよく炎をあげる。
 
「良い具合になってきましたよぉ」

 浪風のバイコーンシールドの扇ぎも合わさり、生クリームはちょうどよい具合にあったまってきた。
 
「それじゃあ月乃宮さん! チョコレートと生クリーム、よろしくお願いします!」
 
「それじゃあ、押さえておいてくださいねぇ」

 月乃宮の指示のもと、業者さんがチョコレートのボウルへと生クリームを流し込みながら重機でしっかりと固定する。
 
 そこへ、月乃宮の両手から激しい風の渦――≪マジックスクリュー≫が放たれる。

 ビュオーッともバビョボーッとも聞こえる激しい音はするのに、月乃宮の丁寧で繊細な作業の様は穏やかも穏やかで、なんとも不思議な光景に業者さんたちは困惑気味だ。
 
「あとは普通に混ぜていいですよぉ」

 月乃宮の神業に、パティシエと業者たちも腕まくりをして作業を引き継いだ。
 
 一方、浪風はというと。
 
「ほっ! よっ! ていっ!」

 大きなボウルの中に入れた自前のビスケットを、大きなハルバードを使って砕いていた。
 
 軽い掛け声と共にやっているが、一打ごとにトランポリンが如く跳ね上がるビスケットの数たるや凄まじく、噴水ショーか何かのような作業風景だ。
 
「よし、すみませーん! バターお願いしまーす!」

 ビスケットを砕き終えたところで、軽く溶かしたバターが流し込まれる。
 
 それらを良くかき混ぜて、巨大な型の底へ入れてやれば――。
 
「これでタルト生地らしくなるでしょう」
 
 生チョコタルトの準備完了のようだ。
 
「チョコレート、もう流し入れてだいじょぶですよぉ!」

 アレンジの塩生チョコ用に一部をとりわけ終えた月乃宮から声がかかる。
 
「りょうかーい! これであとは冷やして切り分ければ完成、かな」

 ナツミ班、調理完了――!
 
「ふんふふーん……♪」

 ……月乃宮のチョコも、調理完了!
 

●ソウタ班『よく混ぜます』

「それじゃあちょっと借りてくわね!」

 がきょんっと、重機に取り付けられた泡だて器を外し軽々と持ち上げるチルル。
 
「では私も……≪闘気解放≫ッ!」

 雫もまた、同じく泡だて器を持ち上げる。
 
「いくぞッ!」
 
 闘気を迸らせながらかき混ぜる雫と。
 
「おりゃあああ!!」

 気合いを迸らせながらかき混ぜるチルル。
 
 一見、撃退士の力で思い切りかき混ぜたりなんかしたらチョコレートが飛び散るわ空気が入るわで悲惨な出来になりそうだが、そこはハウス級。
 
 重機に頼らざるを得ないほどの量を人の腕でかき混ぜるのだから、むしろ妥当なくらいだった。
 
 モニターでチョコレートの様子を見守るパティシエたちも納得のかき混ぜ具合だ。
 
 そうして、バターも入れて更にかき混ぜる。
 
「ぜぇ……ぜぇ……おりゃあああっっ!!」

 溶けそうな勢いでかき混ぜるチルルの頑張りもあって、無事混ざり合った生チョコの素を半分だけバットに流し込んでいく。
 
 そしてもう半分はというと。
 
「アウルクリエイト――ッ!」

 雫の≪創造≫によって作り出された動物などをモチーフにした型が造り出され、生チョコの素が流し込まれていく。
 
「あとはここにジャムやウィスキーを入れてあげれば……! 今回はとっても上手くいっている気がしますっ! この好機を逃さず、もっと斬新な……新しいチョコレートを造り出したいですね……」

 ≪創造≫は悪魔的発想もクリエイトしちゃうのか、突然変異が起こらない嬉しさは雫の手による自発的変異を引き起こしちゃったりして。
 
「ちょっとばあちゃん! 今チョコ作ってるんだからイナゴの佃煮なんか持ってこないでよぉ!」

「イナゴの……佃煮……ッ!?」

 試食役としてきていたおばあちゃんと女の子のやり取りが、たまたま耳に届いちゃったりして。
 
「イナゴチョコ……いいですねっ! イチゴ大福とかもありますしッ!!!」

「語感が似てるだけだよねぇっ!?」

 浪風のツッコミは、耳に届かなかったりするのだった。
 
 
●ソウタ班『冷やします』

 三種に加えて、お米で作ったパフをチョコレートでコーティングしたものも合わせて四種のチョコが出来上がったソウタ班。
 
 それらを巨大冷蔵庫へと運び入れるため、重機で移動させている途中。
 
「あっ!」

 動物の型に入れられたチョコの一つが、作業員の一人目がけてひっくり返ってしまった。
 
 幸い、大きな型が作業員に当たることはなく、チョコレートが全身にかかってしまっただけだったのだが。
 
「ハッ――!」

 その光景は、雫のクリエイティブなマインドを刺激し。
 
「≪氷の夜想曲≫――ッ!」

 すぐさま発動された冷気は一瞬のうちに、地面に着く前にチョコレートを固め。
 
「雪室さんっ! チョコレートだけを切ってくださいっ! 足元をっ!」

「あいあいさーっ!」

 くるりんっ、と作業員の足元に円を描くようにチルルの槍が切り込みを入れると。
 
 かぽっ、と作業員型のチョコレートが出来上がった。
 
「いいですね……これはいい。中にイチゴソースを入れて、一緒に冷やしましょう」

「えぇ〜…これ食べれるのー?」

 るんるん調子で冷蔵庫の中へと向かう雫の背に、チルルは何を言うでもなく。
 
「……ま、いっか!」

 切り分けに備えて両手剣の素振りを始めちゃうのだった。
 

●ナツミ班『試食します!』

 両チームともがチョコレートを冷やしている間。
 
 調理場に置かれていた機材は片づけられ、代わりに試食役のナツミの親戚アンド周辺の離島に住んでいる人たちの席が設けられていた。
 
 わいのわいの、ざわざわざわ――。
 
「これだけ大勢居たら、チョコレートも余ることは無さそうですねぇ」

「切り分けるのが大変そうだ……」

「ナツミ班、切り分け準備OKでーす!」

「チョコレートが溶けちゃわないうちに、みなさんへ切り分けないとですねぇ」

「えぇ、気合いを入れていきましょう……っ!」

 拍手喝采に迎えられながら、ナツミ班の巨大生チョコタルトが登場する。
 
「それじゃあ、俺のほうは太陽剣でサクッと……せいっ!」

「大きすぎる方はこちらにどうぞですよぉ」

 浪風がざっくり一人前分に切り分けていきながら、業者の人たちがせっせととりわけ、さらにそのあとにエネルギーセイバーを持った月乃宮と、月乃宮が造ったホワイト生チョコたちを添える係が待機する。

「ポテトチップスやショートブレッド、緑茶や牛乳を用意しているのでぇ〜、生チョコと一緒にどうぞぉ。おせんべえもありますよぉ」

 月乃宮の準備したサイドメニューも好評で、これまたあっというまにナツミ班の試食は終了したのであった。


●ソウタ班

「はぁぁぁァァァア……!!」

 雫の握りしめた剣が、オーラを纏う。
 
 ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめくオーラは光を纏い、熱を纏い、風を纏っていく。
 
 やがて、揺らめきが刀身を大きく上回り、高く掲げられて――。
 
「せぇいッ!!!」

「「「おぉぉ!」」」

 ≪地すり斬月≫が生チョコたちを全て一刀両断しながら、宙高く跳ね上げていく。
 
 席に座ったままの試食役たちが見上げる先へ、チルルが飛び込む――。
 
「おりゃりゃりゃりゃーーーっ!!」

 漫画のようにザシュザシュッと空中のチョコレートを切り刻みながら駆け抜けていくチルル。
 
 切り刻まれたチョコレートは、ぽてんぽてんと試食役のお皿へと均等に切り分けられていき、お皿の上でジャムやウィスキーがとろりととろけていく。
 
「あたいの派手なパフォーマンス……これは高得点間違いなしね!」

 チョコレートを切り刻みながら、チルルは密かにドヤるのだが、しかし。
 
「……い、イチゴソースは、やめたほうがよかったかもしれませんね」

 作業員の型から出来た人型チョコレートがイチゴソースを散らす様は、到底放送出来るようなものではないのだった。
 
 
●勝敗!

 そんなこんなで、試食を終えた人から投票が行われた。
 
「おー、虫チョコ結構人気ね!」

「む、虫チョコじゃありませんっ! イナゴチョコですっ!」

「いや、大して変わらないから、それ……」

「投票はこちらですよぉ、ゆっくり、押さないでどうぞぉ」

 撃退士たちは投票所に設けられたいくつかのタブレット端末から送られてくる集計情報を見ながら、誘導を行う。
 
 そして、最後の一人が投票を終えた時――。
 
「あ、あれ?」

「これは……もしかして……」
 
 『ナツミチーム!50%:ソウタチーム!50%』
 
 ――表示された結果は、引き分けだった。
 
「えー!そんなー!」

「チョコレートごとに偏りはあるみたいですけど……うぅん、まさか試食役が偶数人だったなんて」

「あはは、まぁいいんじゃないかな」

「みなさん、美味しいって言ってくれてよかったですねぇ」

「……むー、それもそうね! じゃーおしまいっ!!!」

 こうして、ナツミ洋菓子店オープニングセレモニーは終了したのだったッ!
 
 
●後日

 そして、ナツミ洋菓子店はどうなったのかといえば。
 
 オープニングセレモニーで出されたイナゴチョコに始まり、生チョコタルトや塩生チョコなどなど……撃退士たちが考案したメニューに頼り切ったラインナップで売り出されたものの、これが大好評。
 
 お煎餅も売り出され、これまたお年寄りに人気の商品となっていたのだった。
 
 めでたしめでたし。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
重体: −
面白かった!:2人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト