●もろぼし寮 キッチン
「と、いうわけでっ!このたび我が寮の袋めんくんたちを美味しくおいし〜く変えてくれるコーディネーター!ぷろでゅーさー!ぷらんなーの撃退士さん、まずはこちらっ!」
ババンッとアオナが示した先に立つのは鴉乃宮 歌音(
ja0427)。
「よろしく頼むぞ」
淡々と話す鴉乃宮。
今回は普段着の白衣にポニテで可愛らしさちょっぴり増しな装いだ。
「か、わいい……」
「ではでは、さっそく調理のほうよろしくお願いしまーすっ!」
見惚れるタツトを尻目に、鴉乃宮の調理が始まる!
「うむ。袋めんというのは、ちょっとの手間をかけて工夫をこらしえあげれば十分料理といえる品になる。なので、これを機会に料理することを覚えるように」
「ふぁーい……んでもその手間のかけ方がわかんないんだもんなぁ……」
「言い訳するな、向こうは俺らの四つ年下だぞ」
「歳は関係ないですーっ!」
「何、難しく考える必要はない。うまいこと加工してやる、ちょっと具を加えてやる、その程度の認識で十分だ」
「はぇ〜」
「というわけで、まずは袋めんの美味しさの中心であるスープ。これに手を加えていく」
鴉乃宮は普通に一袋分のラーメンを作る。
それを小分けにし、アオナとタツトの前にそれぞれ二つずつ小さめのラーメンを用意した。
「まずはこれだ」
鴉乃宮は次の調理を開始しながら、トンッとある調味料をテーブルにおいてみせる。
「これ……って、油?」
「そう、これは香味油の中でもネギ油というやつだ。市販のものもあるし、手作りだって簡単にできる。さ、味はどうだ」
「んーっ!お店のラーメンっぽい!」
「ネギ油が加わっただけで、こんなに味わいに、こう、その、あれが、ほら、なんだ、すごいおいしいな………」
「普通に調理したものと比べても美味いだろう。では次だ」
鴉乃宮はニンニクとしょうがを刻んでごま油で炒めたものを油ごと豪快に、普通に調理したほうのラーメンへと加える。
「うおぉ……!ばちばちいってる……!」
「んんっ!辛味が効いてて……しかしっ、うま……からっ……」
「油を加えるだけで劇的に違うだろう。背脂までは求めないが、ラー油等はそのへんで売ってるから買うといい」
「ふぁーいっ!」
●引き続きもろぼし寮 キッチン
「さて、もうひとつ。乾燥しいたけと冷凍小エビ、もやし、刻みニンジンを持ってきた。これらをスープ用の水と一緒に煮込む」
引き続きキッチンに立つ鴉乃宮。
その後ろには料理を覚えるためアオナとタツトが立っている。
「うぉぉ……なんか料理っぽいねっ!」
「これはダシをとっているんだが、こうやって一緒に煮るだけでいいのだ」
「へぇ、これでダシが……」
「なんかもっと、こう、すんごい機械とか職人技で見極めないとダメかと思ってた!」
「お前の中の”ダシ”は一体何モノなんだよ」
「………神の御業?」
「難しく考えすぎだ。最悪粒上のダシを買って来るでもいいし、もっと別のバリエーションが欲しくなったら鰹節や煮干しで一からダシを取ってもいい。ほい、ラーメンのスープを溶かして完成だ」
あっという間に出来てしまったダシの効いたお野菜いっぱいラーメンをかっこむ二人。
「んむぐ!おいひぃ!!!」
「具やダシを加える方法は蕎麦などにも使えるので必ず覚えるように、いいね」
「あいあいさー!やっぱり世の中女子力だねぇ!」
「私は男だが」
「嘘…だろ………?」
「タツトあっつぃ!!!!落ちた箸で跳ねたスープが私の喉元にだいれくとっっっ!!!」
●
「いやぁ、油とダシ。早くも重要なファクターの登場だったね……続いてはこちらっ!」
「まずはごあいさつ。はいこんにちは」
鴉乃宮に代わり、キッチンに立ったのは龍崎海(
ja0565)が礼儀正しく丁寧にお辞儀する。
「こんにちはーっ!」
「元気でよろしい。今回は依頼内容からして、調理技術がなかった場合を考えてほとんど手を加えないで済むモノを用意してきたよ。価格も抑えたものでね」
そうして龍崎は乾燥ワカメ、鰹節、そして瓶詰の鶏そぼろ、鮭フレーク、食べるラー油を取り出す。
「これらをスープに加えていく。何回にも分ければ一食分の値段はささやかになるし、これらは比較的保存が効くからね。買いだめもしておけて、便利なんじゃないかな」
「鶏そぼろ……鶏そぼろ……っ!おいひぃ……!!!」
「なかなか食べないけど、ワカメもシンプルでいいな」
「そのほかふりかけを使ってみるとか、組み合わせを変えるだけでも飽きにくくなるんじゃないかな」
「ふりかけ……あったっけ?」
「お茶漬けの素ならあるぞ」
「和風のおだしで美味しい感じに!!!」
「あはは、色々試してみるのも楽しいんじゃないかな。けど、ごはんでお遊びにならないようにね」
「ふぁーいっ!!!」
「ちなみにおそばは茹でたあとに炒めて、ソースで味付けするのはどうかな?味を濃くすれば、ある程度はどうにかなるものだよ」
「焼きそば的な感じになりそうだな」
「おいしそぅ……じゅるりら」
「火の元に気を付けて挑戦してみてね」
「「ふぁーいっ」」
●
「さて、次は私の番ですか」
インスタントな食品で加工することを覚えた二人へと歩み出るのは雫(
ja1894)。
若干呆れ気味な雫は、とりあえずみそ味の袋ラーメンを手に取る。
「せめて、袋めん以外のインスタント料理にも手を出せば良いと思うのですが……まぁ、いいでしょう。まずは依頼を果たします」
「よろしくお願いしまぁーすっ!!」
「まずは簡単なものですね。味噌味に擦りごまとラー油を加えます」
雫は不慣れな手つきで袋めんを開封して、調理していく。
「炒めたひき肉とチンゲン菜などがあれば、もっと担々麺らしくなるのですが……インスタント料理の手軽さを失うのもアレですからね」
パパっと完成した担々麺風味噌ラーメンを食す二人。
「んーっ!辛味が増して、ゴマの味が良い感じに、こう、良い感じだねっ!!!」
「くっ、ぉぉ……っ!から、からぴ……っ!」
「好評のようで何よりです。では次は醤油味をアレンジしていきましょう」
少し慣れはじめた手つきで醤油味を開け、麺を茹で、どんぶりに酢と水溶き片栗粉を入れる。
「最後に溶き卵を入れて……酸辣湯麺風の出来上がりです」
「んーっ!とろとろしてるし、すっぴゃいっ!!!」
「卵美味いな……卵、美味い……!」
「では最後に少々手の込んだものを……実際に作ってもらいましょうか」
「「えっっ」」
●
雫の指導の元、二人はキッチンに立つ。
「まずは白菜やニンジンを炒めてください」
「いっ、いいい炒めるとは!?」
「野菜を切って、フライパンに入れて、良い感じに火を通してください」
「ひっ、ひぃぃ……っっ、あっついですよぅ……!」
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、手をかざし続けたり具材の入っている部分に触れない限りやけどしませんから」
おっかなびっくりな手つきでアオナがフライパンを振り、無事お野菜の調理は完了。
「スープの水を少な目にして、濃いめの水溶き片栗粉を用意します。硬めのとろみをつけてください」
「とっ、とと、とろみをつけるとは……?」
「片栗粉を適量入れればいいだけですよ」
「ひっ、ひぇっ……っ、あっつい……!」
「片栗粉が熱いわけないでしょう!?」
おっかなびっくりすぎるタツトが水溶き片栗粉を用意し、そして。
「では、麺を油で揚げていきます。お二人とも、それぞれ自分の分を揚げてみましょうか」
「「ひっ、ひぇぇえっっ」」
揚げ物初体験。
終始青ざめた顔のまま二人は調理を終え、大きな事故もなく席へと戻るとぐったりと項垂れる。
「さぁ、かた焼きそばの完成です。二人が頑張った成果ですよ」
「「お、おぉぉ……っ!」」
塩味のラーメンをアレンジした”あん”に、油であげた麺。
およそ見たことない袋めんの姿は、新鮮なだけでなく達成感にも似た喜びを感じさせるものだった。
「「うっ、うぅぅ……おいひぃ……」」
「二人とも、良く出来ました。良く出来ましたが、しかしインスタント食品ばかりというのは感心しません。依頼料を出せるのであれば外食するべきですよ。っていうかですね、いつまでも寮にお世話になるわけにはいかないんですから最低限の料理位は出来るようにならないといけませんよ?慣れないうちは怖かったり、面倒だったり、勝手が分からなかったりするかもしれませんが今のうちに挑戦しておけば将来一生役に立つ技術になるのです。わかりましたね?」
「「ふぁい……」」
ガチなお説教に少しだけへこみながらも、二人はかた焼きそばをおいしく完食した。
●
「うぅ……いきててごめんなさい……じゃなくて!最後はこちらっ!」
「ふっふっふー、料理なら任せろ〜」
「不破 十六夜(
jb6122)さんで〜すっ!」
意気揚々と登場した十六夜は、年齢に会わないやや大き目なお胸を揺らしながらでんっとキッチンに構える。
「袋めんって基本的におそばみたいな和風かラーメンみたいな中華風だからね。のっけから変化球でいってみちゃうよっ」
レシピのかかれたメモを取り出しつつ、十六夜はテキパキ調理をこなしていく。
面を茹で、スープに卵黄と牛乳を混ぜて煮詰めたものを用意し、洋風の食器に盛り付ける。
「はいっ!塩味のラーメンをアレンジして、カルボナーラの完成〜!」
「お、おぉぉっっっ!!すごいっ!レストランに出てくるやつみたいっ!」
大興奮のアオナはもちろん、タツトも一風変わった味わいにうんと頷く。
「おいしい……」
「ふふーんっ!でしょでしょ?」
十六夜が得意気に胸を張ったところで、ピピピッと炊飯器が鳴る。
「あれ?ごはん?今日は袋めんのアレンジの予定……」
「ふっふー、次は麺の”使い方”を変えちゃうよ?」
十六夜は醤油味を手に取り、スープの素を取り出して麺だけを粉々に砕く。
それをごはんと一緒に炒め、残ったスープはお湯に溶いて茹でたもやしとネギを入れる。
「はい、チャーハンとスープの完成っ!あ、スープの方は塩コショウをちょっとかけて、お好みで味付けしてみてね♪」
「す、すごいっ!麺が、麺なのにごはんになってるっ!」
「ラーメンおつまみ的な食感がまた、むぐむぐ……ジャンキーだぜ……」
「えっとねぇ、めんどくさいならスープに粒状鶏がらスープでも入れとけば大抵のものはおいしくなる……らしいよ!」
「粒状鶏がらスープ……ふむふむ!」
「便利なんだな、粒状シリーズ」
「さっきもお料理らしく出来てたし、もやしとか菜っ葉を茹でたものを添えれば栄養も良い感じだね」
「菜っ葉か、今度は俺たちで買い出しに行ったら何かと勉強になりそうだな」
「んむぐむぐ……そだねっ!」
「うん、うん……はいっ!というわけで、ボクからの提案は以上!はぁ〜疲れた〜。まったくひどいよね、御母さんったらボクに任せるのは危険だからってこんなメモ書きを無理やり持たしたんだよ?」
十六夜の持つメモには『人命と環境のため、絶対にこれ以外の調理は披露しないように』と油性ペンでデカデカと書かれていた。
「ちなみに、アレンジして良いならどんなのをやる予定だったんだ?」
「やっぱり生クリームとか合うと思うんだッ!!!」
「オーケー二度と料理しないでくれ」
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「いやぁ、これでゆでたり炒めたり、揚げたりなにがししたりと料理出来るようになったも同然だね!レパートリーも増え放題っ!」
「香味油、ニンニクとしょうが炒め、乾燥しいたけたちを使ったダシ利用法、乾燥わかめと瓶詰食材たちの長持ちアレンジ、そばの焼きそば風、担々麺風に酸辣湯麺風とかた焼きそば、そしてカルボナーラとチャーハンアレンジ……ひと月回せそうなくらい、レシピが増えたな」
全員の提案を食べ終えて、二人は龍崎と一緒にお片付けをしながら残りの面々は試食中。
「野菜もきちんと選べば安く手に入るし、何食分にもなる。調味料も活かせれば同じ食材でいろいろ変えられるもんなんだってわかっただけでも、大収穫だな」
「これでインスタント生活も充実だね!」
「私は、インスタント食品ばかりは感心しないと、言ったはずですが?」
「「ひぃっ……が、がんばりまふ……!」」
「あっ、ごはんに生クリームは――」
「「それは大丈夫です」」
●
かくして、撃退士たちの活躍により二人の食卓は革新的進歩を遂げた。
二人の食生活は依頼料によって圧迫され、約ひと月の間異常な苦しさを見せる事になったが、撃退士たちより託されたレシピを手に二人は見事乗り越えてみせた。
寮内での二人に対する認識は変わり、寮母さんからお料理やお買い物も任されるようになった。
人間、ひとの役に立てるとなれば成長する。
二人の料理スキルはますます向上し、その自信は撃退士としての腕も上げる結果に繋がった。
こうして、二人の撃退士が起こした香り高き戦いは幕を閉じたッ!
「ねぇねぇタツト、ラーメン!久しぶりに作ってみたよっ!」
「お、どんなんだ?」
「へっへっへーー…………………なんとっ!生クリームを入れ――」
「脱兎ッ!!!」
「あーーーーーっ!逃げるなーーーっ!」
だがしかし、戦いの先には戦いがあるッ!
この世にごはんがある限り、二人の戦いは終わらないッ!
負けるな胃!負けるな十二指腸っ!
「「うぷっ……まっっっずぇ……」」
いつの日か、一人前の食生活を手に入れるその日までッ!