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夏の日差しに照られた藍浜海水浴場は、にわかに盛り上がりを見せていた。
「おーーーっとっ!!またしても藍浜の豪腕、権三郎氏のスパイクが砂浜を抉ったーーーっ!!」
司会の声がスピーカーから響き渡る。
「ホント大人げねーのな、お前のとーちゃん」
権三郎のスパイクに観客が拍手する中、苦笑いでタケルに話しかけるのはラファル A ユーティライネン(
jb4620)。
「さぁ続いての挑戦者は、連敗を止められるかっ!?藍浜少年団っ、ラファル A ユーティライネーーンっ!!」
「頼むぞっ!金髪のねーちゃん!」
「任せとけって」
ラファルはタケルの応援にビシッと答えると観客に囲まれたコートへと踏み出した。
「タケルの奴、なかなかのべっぴんさんを連れてきたじゃないか」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねーの」
「まぁ、手加減はせんが……なァッ!!」
「っ……!」
「おーーっと!!ラファル選手っ、着弾点に滑り込みギリギリ受け止めたーーっ!!」
「ひひっ、やったぜタケルーっ!」
「うおー!金髪のねーちゃんすげー!」
「……ラファル君も意地が悪いやっちゃな」
ファインプレーに喜ぶラファルにタケルだけでなく観客からも歓声が上がる中、黒神 未来(
jb9907)はニヤリと微笑んだ。
「まぐれか……だが、二度は続かないぞ、べっぴんさんよッ!!」
「ほっ!!」
「またしても受け止めたーーっ!!」
二度、三度。回数を重ねても鋭さを失わない権三郎のスパイクを、ラファルは何度も受け止めていく。
「と、止まらないっ!ラファル選手のファインプレーが止まらないぞーーっ!!」
「ぜぇ……はぁ……」
「なんだよ、もうバテちまったのか」
「ぐっ、ぬおおっ!!」
「権三郎氏渾身のスパイクが放たれたーーっ!!」
「よっ、と」
「ら、ラファル選手、軽々と蹴り上げ――」
「ほいっ」
ズドンッ!!
「す、スパイクを決め返したーーっ!!さきほどのファインプレーもわざとっ!圧倒的な実力を見せつけたーーっ!!」
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ラファルの活躍により注目を集めた藍浜少年団は大勢の観客を引き連れたまま次の競技へと参加していた。
「じゃあ、旗を持ってるスタッフさんの合図と一緒に走り出すしかないってことなのかな?」
スタートライン手前でしゃがみこみナナコから話を聞いているのは、水着に猫耳しっぽ装備の猫野・宮子(
ja0024)。
「そうなんです!猫のおねーさん、大丈夫ですかっ?」
「うんっ、魔法少女マジカル♪みゃーこにお任せにゃ♪」
「さーーっ!PKビーチの奇跡、もう一度見せてくれるのかっ!?藍浜少年団っ、
猫野・宮子ーーっ!!」
「位置について、よーい……」
(「迅雷っ……!」)
「ドンッ!」
スタッフが旗を振り下ろしたのと同時に猫野の立っていたスタートラインから砂柱が上がる。
「ばっ、爆発っ!?猫野選手の姿が見え……あーーとっ!!」
舞い上がった砂が徐々に晴れてくると、スタートラインから一直線に引かれた爆風の跡の先にビーチボールをしっかりと抱きとめた猫野が立っていた。
「うに、このくらいの球、簡単にキャッチ出来るのにゃ♪」
「余裕のキャッチ、キャッチっ、キャーーチッ!!PKビーチに続いて余裕の勝利だーーっ!!」
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「さぁ、今年の藍浜海浜フェスティバルは何かが違うぞっ!!続いての競技はっ、引き抜け!ビーチフラーーッグっ!!」
「よっしゃ、次はうちの出番やな!」
「関西弁のおねーさん、ファイトッス!」
「おう、任しとき!」
「ファイトですよぉ、黒神ちゃん」
ケンジと共に黒神を応援するのは黒百合(
ja0422)。
「どうでもええけど、黒百合君の持っとるちっこいボンベみたいのはなんや?」
「気にしなくていいですよぉ♪」
「それでは登場していただきましょうっ!!藍浜少年団、黒神 未来選手ーーっ!!」
「なんや、タケルのとーちゃんやないか」
「ふっふっふ……ここまでずいぶんと運が良かったみたいだが、この勝負ばかりは運でどうにかなるものではないぞ、黒ビキニのべっぴんさんっ!」
「なんやと……?」
「黒神ちゃ〜んっ、落とし穴なら全部ふさいでおいたからだいじょぶですよぉ〜っ!」
「なにィッ!?」
「だ、そうやで?」
「ぐ、ぬぬ……こうなったら……!」
「それでは両者っ!位置について、よーーいっ……ドンッ!!」
「おっとついうっかり慣れない砂浜につまづいて黒ビキニのべっぴんさんの黒ビキニに手が引っかかっちゃいそうにーっ!」
スタートの合図と共にわざとらしく黒神へ手を伸ばした権三郎だったが、黒神の素早いバックステップでかわされてしまう。
「ありっ?」
「つくならもっとぉ……マシな嘘つかんかいっ!!」
「あーーっとっ!!黒神選手の痛烈なバックドロップが決まったーーっ!!」
「ふんっ、口ほどにもないわ」
「そのまま悠々とフラッグを回収ーっ!!黒神選手の勝利ーーっ!!」
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「ほ、ホントに指示しなくて大丈夫なのか、銀髪のにーちゃん」
不安げなタケルに自信たっぷりの様子で藤沖拓美(
jc1431)はニヤリと笑う。
「へっ、俺に任せとけってんだ」
スタートラインに立ち、藤沖はスイカの位置の全て頭の中へと叩き込む。
「目隠しを付けさせていただきますね」
「……」
「あ、あの」
「……おう」
「さぁ、ただいまスタッフによる目隠しの装着が完了した模様ですっ!!それではいってみましょう、割っちゃえ!いっぱいスイカ割りぃ……スタートですっ!!」
「右だー!」
「もっと左ですよー!」
「開始のアナウンスと同時に観客席からスタッフの声が響いておりますっ!!おーっとしかし、藤沖選手まったく耳を貸している様子はないぞーっ!」
「……ここォッ!!」
「おーーっとっ!気合の一撃と共に一つ目を破壊っ!!」
「そこォッ!!こっちにあっちにそっちもだァッ!!」
「外さないっ!!藤沖選手、一撃も外しませんっ!!」
「そぉらァアッ!!」
「決まったーーッ!!記憶を頼りに10個のスイカを割り切った藤沖選手、勝利ですっ!!」
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「よろしくおねがいしまーす♪」
「さぁエントリーナンバー4番、聡美さんの点数はぁっ!!10点、10点、10点、10点、9点の49点ッ!!暫定一位だーっ!!」
「……やっぱりタケルのお姉ちゃん、人気」
「でも、1点残っていますわ」
海の家に設けられたミスコン会場の舞台袖で不安げに呟くユミコの横には、マントに身を包んだ桜井・L・瑞穂(
ja0027)が立っていた。
「……でも」
「わたくしに、任せなさいっ」
「続きましてはエントリーナンバー5番、桜井・L・瑞穂さんの登場でーーすっ!!」
紹介と共に不敵な笑みを浮かべながらステージへと上がる桜井。
「パレオにビキニに競泳水着……なかなかレベルの高い方々が揃っているようですわね、ですが――」
バサッ!と勢いよくめくられたマントから現れたマイクロビキニ姿の桜井に観客から大きな歓声が上がった。
「ミスコンでこのわたくしに勝とうなんて百年早いですわ!」
「「う、うおおおーー!!」」
「うふふふふっ♪」
「「おおおおおっ!!!」」
「うーっふっふっふ♪」
「「おああああああっ!!!」」
「おーーっほっほっほ♪」
「凄まじい歓声っ!!桜井選手の美貌に会場中が割れんばかりの歓声に包まれておりますっ!!さぁ、点数はぁっ!!10点、10点、10点、10点、そして――」
「清き一票を如何か宜しくお願いしますわ、ねっ♪」
「10てーーんっ!!魅惑の投げキッスに審査員も陥落ーーっ!!今年の藍浜ミスコンは、桜井・L・瑞穂さんに決定だーーっ!!!」
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「以上っ、藍浜海浜フェスティバル実行委員会による打ち上げ花火でしたっ!!」
「猫のおねーさんたち、だいじょぶでしょうか」
ナナコが不安げに呟く。
陽が落ちた藍浜海水浴場は実行委員会による打ち上げ花火を終え、観客席からもチラホラと帰宅する人が見えるようになっていた。
観客席には藍浜少年団の面々の他、黒神と藤沖の姿もあった。
「ま、大丈夫やろ」
「おたくらが依頼したんだろう?だったら、最後まで信じてやるってのが筋ってもんだろ、な」
黒神、藤沖の言葉にタケルたちも頷いたところでアナウンスが響く。
「続きましては藍浜少年団によるパフォーマンスですっ、どうぞっ!!」
紹介と共に、波打ち際に立ったのは黒百合。
静かに腕を広げるとぼんやりとした輝きを放ち始める。
「陰陽の翼、ですよぉ♪」
「まじかる♪レインボーを見せるにゃー♪」
翼を生やし月明かりに重なるように浮かび上がる黒百合の周りを、猫野の持つ忍法「月虹」を帯びた飛び出す絵本から飛び出た火や雷、虹色の光が彩る。
「……きれい」
幻想的な光景にユミコだけでなく浜辺の観客たちからも感嘆の声が漏れる。
「こっちも、負けていられませんわよ」
「当たり前だぜ」
宙を舞う黒百合と猫野の光が観客の目を惹きつけると、今度はラファルのファイアワークスの閃光が放射状に夜空へと放たれ、轟音が地上へと目を惹きつける。
「さぁ!その目に焼き付けなさいな♪」
轟音に目を引かれた観客たちの視線の先には星輝装飾を纏った桜井が。
空中に舞った光子の輝きとファイアワークスの閃光は夜の波に反射し、キラキラと輝く。
間近で繰り広げられるパフォーマンスに席を立ち始めた観客たちも足を止め、じっと眺めている。
そして、くるりと回転しながら黒百合が着地するのに合わせて忍法「月虹」、ファイアワークス、星輝装飾の光が宙へ飛び、ぼんやりと残る陰陽の翼の灯りが静かに消えると桜井たちの礼によってパフォーマンスは終わりを告げた。
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「あんなの見せられたら、まぁ、打ち上げ花火程度じゃかなわねぇわな」
キラキラコンテストを終え、無事MVPを獲得した藍浜少年団と撃退士たちは海の家で賞品のスイカ一年分を楽しんでいた。
「へっへ!まいったかってんだ!」
「勝ち誇るのは構いませんけど、何時迄も頼ってばかりでは、強い大人になれなくてよ」
スイカを頬張るタケルをたしなめる桜井。
「へーい……」
「……また、助けてもらってもいい?」
撃退士へ頼ることを提案したユミコが不安そうに桜井へ問いかけると、にこりと微笑んだ。
「えぇ、もちろん。困った時は遠慮無く頼って来なさいな♪」
「……うん!」
ユミコは安心した様子でスイカを頬張った。
「銀髪のにーさんのスイカ割りすごかったッス!オレっち、尊敬するッス!」
「へへっ、だろう?」
「オレっちのスイカのおいしいところを献上するッス!」
「おうっ、どんどんもってこいや!」
ケンジの差し出すスイカのおいしい部分をむしゃむしゃ食べる藤沖。
「それにしても、流石に大人気なさすぎるよね」
「ホントそうだぜ」
大会の様子を思い出しながらしゃくしゃくスイカを食べる猫野とラファル。
「おっちゃんもなかなか出来るんやから、正々堂々勝負してやればええやろ。なんでそうしないんや?」
黒神の問いに権三郎は顔をしかめながら種を吐き出す。
「へっ、このガキンチョどもがなんでも出来ると思い込んだまんまでっかくなっちまったら、今のご時世危なっかしくて藍浜から出してやれなくなるだろうが」
「お優しいんですねぇ♪」
黒百合の言葉にフイッと顔を背ける権三郎。
「なんやおっちゃん、照れてるんか?なぁなぁ!なぁってば!」
「だーもうっ!るっさい!来年からは撃退士の連中は参加禁止だかんなっ!ぺっぺっ!ぺーっ!」
「うわきったな!やめーや!」
「だ、そうですわよ。タケル?」
桜井に話を振られたタケルは一気にスイカを食べるとビシッと空を指差す。
「わかってらぁ!来年こそは俺たち藍浜少年団の力でMVPを取ってやるぜ!そんときの賞品もねーちゃんたちに送ってやっから楽しみにしててくれよな!」
「うふふっ♪楽しみにしてますわ」
こうして、来年もまた藍浜少年団の負けられない夏はやってくるのだった。