●屋内劇場 舞台裏
「今回の件、一応は覚醒者による威力業務妨害等の刑事事件です。無罪放免は無理かもしれませんが、尽力しますよ」
雪ノ下・正太郎(
ja0343)は青龍をモチーフにしたスーツに身を包みながら、真剣な面持ちでタケオへと告げる。
「わかり、ました……」
自分の姉が罪に問われる。
その事実が重くのしかかり、思わずうつむいてしまうタケオ。
酷なことを告げていると分かっていても、その痛みを受け止めることもまた正義であると信じ、それ以上言葉をかけない正太郎。
そんな二人の後ろのほうでは。
「きゃはァ、ヒーローショーの悪役かァ…けっこう面白そうなお仕事よねェ♪」
ダークなスーツに身を包み、サングラスをかけてタバコをくるくる回して楽しそうな黒百合(
ja0422)。
「こんな感じでどうだ」
ローニア レグルス(
jc1480)が義肢からジャキンッ!と剣を出してみせると、黒服覆面に身を包んだ男性演者たちがおぉー!と歓声を上げる。
「きゃはは!みぃんな……うぅん……?きゃはハハ!!みぃんな蹴り殺シテアゲル!!こんな感じでしょうか……?」
一人ムエタイ仕込みのハイキックを繰り出しながら演技の練習をするラクナゥ ソウ ティーカナィ(
jc1796)と。
「良い感じですよぉ!」
青いハイレグ水着の上から大きなバスタオルを羽織りつつ、ラクナゥの練習に付き合う桜庭愛(
jc1977)。
結構自由な人たちだなぁなんて思っていたタケオのところへローニアがやってきて黒服と覆面を手渡す。
「えっ、これは…?」
「お前も人肌脱げ。ブラックに、なってもいいぞ」
「ローニアさん…!!!」
まぁ尽力してくれると言ってるし、姉さんのことは今更考えたって仕方ないか!ショーを楽しむとしよう!ブラックだしね!!!と、気楽に考え直すタケオなのだった。
やがて、ショーの幕が上がる。
●屋内劇場 舞台
「逃げても無駄だ」
背景に観客席が描かれた舞台の上、その中央に成金っぽいスーツを来た男が一人慌てた様子で飛び出してくる。
そこへやってくるのは腕を剣に変えたローニアと、三人の覆面戦闘員。
そして戦闘員を従えているっぽい風貌の黒百合だった。
「俺たちは金儲けの為、人生を狂わされたがついにこの時がやってきた」
戦闘員たちが、成金男を捕まえる。
「復讐のため、お前をこの場で処刑してやるぞ、悪徳社長」
ジャキンッとローニアが剣を突きつけると共に黒百合と戦闘員たちは喜びの声を上げる。
「スッゾッゾッゾオラー!」
「「「オラー!」」」
どこかで聞いたことあるけど微妙に違う喜びの声と共に。
ローニアの剣が振り下ろされそうになった、その時。
『待てぃ!』
「誰だ」
ローニアのローテンションな声色とは正反対な力強い声が響き渡り、銅鑼の音と共にリュウセイガーの衣装を身にまとった正太郎が登場する。
「俺の名はリュウセイガー。我龍転成、リュウセイガーだ!」
中国武術っぽい構えを取るリュウセイガー。
「正義のヒーローか…」
「スッゾッゾオラー!」
「その人を離せ!」
「ザッケンナコッコッコー!」
「こいつを離すことが正義なのか、俺たちの人生を狂わせたこいつを離すことが」
「なんだと!?」
「見せてやろう、こいつの行いが如何に悪だったかを」
ローニアが合図すると、ムエタイっぽい音楽が流れ始める。
「きゃはハハーッ!」
そしてハイテンションな笑い声と共にラクナゥが飛び膝蹴りで登場する。
上手の袖から下手側まで突き抜けるように飛び出してきたラクナゥは防御する正太郎の腕を踏み台にして、宙返りをしてみせた。
さほど多くはない観客席の子どもたちからは歓声が上がり、親御さんからは感嘆の声とちょっとガチすぎて引いているような声が漏れていた。
「可愛い弟のためダモノ…お姉ちゃン頑張らナキャ…」
「弟のため?まさか彼女は!」
「そうだ。彼女は名前も無く貧困層の出身でありながらたった一人の家族である弟を養うため荒事や犯罪に手を染めた末復讐によって弟が殺され勝機を失って異様にハイテンションなしゃべり方をするようになってしまったのだ」
「そ、そんな!」
「そして俺のことを弟だと思っている」
「大切な家族を失ったショックで、そんなことに!」
悲惨な過去が明かされたことでショックを受けるリュウセイガー。
「この悪徳社長が居なければ彼女は弟と共に幸せなムエタイ生活を送りながら、美味いオリーブオイルを飲めたはずなのだ」
『おりーぶおいる』と書かれたラベルの貼られた割れた緑色の瓶を握りしめ、悲しげに目を伏せるローニア。
「くっ!し、しかし……!」
「彼女を倒さなければこの悪徳社長は助けられないぞ。彼女を倒すことがお前の正義なのか」
「くっ、お、俺は……!」
「ザッケンナコララーッ!」
「「スッゾッゾオラー!!」」
「うわーっ!」
黒百合の指示によって覆面戦闘員たちに捕らえられ、ラクナゥの執拗な飛び膝蹴りを受ける(フリ)をする正太郎。
弱ったところでラクナゥの本物さながらの回し蹴りが炸裂する(フリ)!
「ぐ、うぅ……!」
ついに膝をついてしまうリュウセイガー。
「俺たちを悪とするならば、お前たちのしていることは本当に善い事か?」
「お、俺は!うぅ……!」
『迷ってはいけませんよ、リュウセイガー』
「そ、その声は!」
『ウォー、ウォー、ウォー』という唸り声と共に登場したのは2m30cmくらいの巨大ロボットになったラファル A ユーティライネン(
jb4620)だった。
本物のロボットの登場に子供たちの歓声はマックスにまで高まる!
親御さんの中にも思わずおお!と声を上げてしまう人も居る中、一つの影が勢いよく舞台目がけて飛び込んできた。
「どんだけ凄い物ばっかり登場させるのよーっ!!ピカッと参上だぞーッ!ヒナヨMk.?!くらえピカッとぎ―――」
「タケオッ!」
ヒナヨが構えを取ることを予見していたローニアが素早い手つきでタケオをヒナヨ目がけて突き出す。
「え、ちょ、ちょ!」
「りッッ!!!」
交差した手から放たれた光でタケオの衣装が木っ端みじんに弾け飛ぶ!
「たっ、タケオ!!!?」
「確保ーーーーっ!!!」
ラファルの手から放たれる鞭状の植物が、タケオの全裸に驚くヒナヨを捕らえる!
「ふぐぅ!」
「今ちょっと正太郎の番だから待っとけや!」
「ふぐぐぅ!」
「いいぞ、正太郎!」
ガッチリと確保されたヒナヨを確認すると、悪徳社長と戦闘員たちプラスタケオが袖へと下がっていく。
「私的な制裁では、君達に幸せは訪れない!!『力無き正義はむしろ悪より悪い』……それを俺は、ラファルに教わったんだ!」
『ウォー!ウォー!』
「スッゾッゾオラー!」
黒百合のモデルガンから放たれる銃弾を回避し、リュウセイガーの掌底が黒百合を弾き飛ばす。
「グワーッッ!」
ギャグマンガ並み回転しながら舞台袖へと吹き飛んでいく黒百合。
「アチョー!みぃんな蹴り殺シテあげるゥー!」
「君たちを助けるためにも、俺は戦う!」
回し蹴りを回避し、リュウセイガーの掌底が再び敵を吹き飛ばす。
「ウワァー!」
ギャグマンガ並みの回転を撃退士の肉体を使って完全再現し、飛んでいくラクナゥ。
「ふぐぐ……ぷはっ!だからぁ!やりすぎ飛び過ぎ茶番すぎぃ!もっと普通にやられなさいよぉ!」
『茶番だとぉ!』
「!!!?」
ラファルの拘束を受けながらのヒナヨのひとことに反応するように、もう一人の乱入者が現れる。
「プロレスを馬鹿にする発言、ゆるせません!みんなまとめてプロレスショーにしちゃいますよ!」
青いハイレグ水着に身を包んだ桜庭のムーンサルトにキッズたちが釘づけになる。
「言ってない!プロレスとは言ってないです!」
「だったら、魅せてやる!これが私のプロレススタイルだぁ!」
「言ってないのに!私プロレスなんてひとことも言ってないのにい!」
ヒナヨの言葉もガン無視で全身に闘気をみなぎらせていく桜庭は、舞台上で向かいあう正太郎とローニア目がけてフライングボディプレスをぶちかます!
「ぐふぅ……。壊す為ではなく、守る為に闘う…それがお前達の正義、か…」
「あぁ!悪役のやられセリフなのに!せっかくかっこいいセリフなのに全然キマってないよぅ!」
「さぁ!次はキミの番だよヒナヨMk.?!」
「わ、私?!」
「そうだよ!ヒーローショーなんかよりもプロレスのすばらしさを思い知ってもらうんだからーっ!」
「い、いやぁぁ!」
闘気をみなぎらせた桜庭のドロップキックが炸裂しそうになった時。
二人の間に滑り込んだのは肩で息をしながらも、全身でヒナヨをかばうリュウセイガーだった。
「はぁ……はぁ……」
「り、りゅうせいがぁ」
「むむむっ!」
攻撃を止められた桜庭が距離を取ると、ヒナヨを捕らえていた植物が解かれ、リュウセイガーが手を差し伸べる。
「『賛同無き正義は悪と同じ』……俺は彼女を助けるため、みんなを守るため、戦わなければならない。ヒナヨMk.?、お前はどちらの味方だ」
「わ、わた、わたしは」
リュウセイガーが、再び構えを取りながら桜庭へと向き直る。
「ヒナヨMk.?は『ヒーローショー≪この世界≫を憎む悪』か!『ヒーローショー≪この世界≫を守る正義』か!どっちだ!」
「えぇいうるさいうるさーい!みんなプロレスにしちゃいますよー!」
「ラファルっ!」
『ウォー!ウォー!ウォー!!!』
ラファルの植物が桜庭を捕らえる。
「ヒナヨMk.?は……ヒナヨMk.?は!『ヒーローショー≪この世界≫を守る正義』の味方だーっ!」
虹色の光を足に宿しながら、ヒナヨが跳びあがる。
「いくぞヒナヨMk.?!とうっ!」
それに合わせるようにリュウセイガーが跳びあがり――。
「ピカッとーーー!」
「リュウセイガーッ!」
「「キーーック!!!」」
二人の蹴りが、桜庭へと炸裂した。
………と。
『ウォ!?』
当然桜庭を捕まえていたラファルは、蹴りの勢いをモロに受け。
「ん!?」
かっこよく着地したヒナヨと正太郎目がけて倒れ込み。
「あ」
『ウォーーーーーっ!!!』
大爆発の効果音と共に幕は下りたのだった。
●
ショーが終わり、ヒナヨは撃退士全員からお説教を受けた。
その後、一度実家へと帰ったヒナヨとタケオは正太郎から事情の説明を受け、久遠ヶ原学園への入学ということで落ち着いた。
「しかし、警察沙汰になると思ったんだがな」
舞台の片づけを手伝う中、正太郎が独りつぶやく。
司法機関との交渉が待っていると思ったのに、一向にやってこない。
警察に聞いてみても、そんな話は来ていないとまで言われたのだった。
「ふっふ、教えてあげようリュウセイガーくん」
そこにやってきたのは、一人の男だった。
「あ、あなたは?」
「ヒナヨMk,?のおかげで目を覚ました、しがない監督とでも名乗っておこうか」
「あ、ヒーローショーの監督さんですか」
「そうだけどっ!ご、ごほん。まぁ、なんだ。これでも顔は広いほうなのでね、彼女の被害にあった奴らの話を聞いてきたよ。あいつらもまた、エンターテインメントを創る者の端くれ……本気で愛を語ってくれた彼女を憎むことなんて無いさ。彼女に伝えてくれるかい、『応援しているよ』とね」
「……はい」
そう言って、去っていく監督の背を見送った正太郎は仲間と共に劇場を去る。
誰も居なくなった舞台を振り返りながら、ヒナヨが本物のヒーローになれるようにと願いながら。
●
「監督ぅー!子供たちからまたあの大爆発する銃とか撃つすごいショーやってくれって要望が来まくってるんですけどーっ!」
「なにぃーっ!?くっそぉ……余計なことをしてくれたものだなあ!ヒナヨMk.?ぅーーー!!!」
おしまい