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マスター:あきのそら
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/05/12


みんなの思い出



オープニング

●ラッキースケベを探究する会 部室

「ラッキースケベがしたいッ!」

 ある日。

 ひとりの男がそう言った。

「では、依頼してみるのはどうでしょうッ!」

 またひとり。
 
 男が答えるようにそう言った。

「嫌だッ!!」

「もぉなんなんですか会長ぉ……いっつもそうじゃないですかぁ」

「だってぜーーーったい怒られるじゃん!やだよ!俺は、社会的になんの損失も無くただ純粋にラッキースケベの嬉し恥ずかしきゃっきゃうふふなとこだけ楽しみたいの!怒られたり呼び出されたり殴られたりしたらそれはもうラッキースケベじゃないんだよ、アンラッキースケベなんだよ!」

 そう豪語するのはラッキースケベを探究する会、会長のカイト。
 『会長』と書かれた腕章を付けたごく普通の久遠ヶ原の生徒だ。

「せっこー……」

 それをジトーと見つめる眼鏡の青年は副会長兼参謀のマコト。

「なんだよなんだよ!せこいとかいうならマコトがしてくれば良いだろ!」

「い、いや、僕は参謀ですから、実働は会長の役目っていうか、ねぇ」

「チキンだなー……」

「かっ、会長には言われたくないですよ!」

「………あの」

「ん、なんだねトモヨくん」

 ピッと手を上げながらノートを開くのは目が隠れるほど長い前髪をした書記のトモヨ。
 会唯一の女生徒だ。

「今日も、ノート、取らなくて、いいですか」

「うむ、良いだろう」

「…許可出す前にもっと有意義な会議しましょうよ」

「だってさぁ!なんかさぁ!気付いちゃったんだもん!漫画とかアニメの中のラッキースケベってヒロインに許されるのと許されないパターンがあるんだよ!」

「まぁ、確かに。主人公の不注意で、まったく顔見知りでもないヒロインにラッキースケベしちゃったときは大体殴られますね」

「そう!それが許されないパターン!」

「では、許されるパターンは?」

「……不思議道具、とか、魔法、とか、そういう時」

「そう!!!そうなの!だからさ、要は現実じゃあ許されないパターンしかほぼあり得ないってわけ……残念なことにね……」

「ま、スケベって言ってる時点で許されないでしょうね」

「そうなんだよなぁ……漫画なら、あれだよ?結局主人公となんやかんや良い感じになるからラッキースケベしちゃった事実も流れるけど現実だったらあれだからね、痴漢だからね痴漢」

「通報されるか罰金か……いえ、僕は経験ないのでどういう後始末をさせられるのか知りませんケド」

「はーあ……良い感じのラッキースケベってないかなぁ」

「……あの」

「なんだねートモヨくぅーん」

「怪我した子、おんぶしてあげる、とか…?」

「なるほど、非常事態にかこつけてというやり方ですね」

「あーだめ。そういうのあれだから、スケベな気持ちになってる場合じゃない時のほうが多いから。実際アレじゃない?足挫いた子をおんぶとかして胸が当たってドキッ!とか言う前に一刻も早く保健室なり病院なりにつれてって冷やすとかしてあげないと痛そうで痛そうで…もうそれどころじゃなくない?」

「そうかもしれませんけど…そこまで重傷じゃなければいいんじゃないですか?」

「軽傷の女子が俺におんぶを頼むと思うか?おぉん?」

「…ごもっとも」

「よほど歳の差のある相手じゃないとありえないってーのー」

「……女児、相手」

「女児って呼べる子をおんぶしてもお父さんな気分にしかならないって」

「……残念」

「やっぱり反撃覚悟でぶつかって、勢いで胸に手がーっていうのが無難なのでは?」

「正直考えてみろ、なんだ歩いてる女性が目に入らないほどの勢いでスピード出してる状態って。俺は一体どんな危機に直面してるんだ」

「そ、そんなの知りませんよ」

「仮にそんな危機的状況だったらなんだ、俺はラッキースケベと引き換えに殺人鬼にでも追われてるのか?殺されるのか?そんなの御免だ!加えて言うなら、仮に危機的状況でなかったとしたら、だ」

「したら…?」

「何ふざけてんだと本気で殴られる」

「あー……」

「もしくは愛想笑い全開で『あ、だ、大丈夫です、あはは』みたいな感じになる」

「あー……ん?それは良いのでは?」

「あぁ、そうだな。ここまでならな。漫画なら全く別の場面へ一気に時間が飛んでくれる場面だろうさ。けど違うんだよ!現実だとそのあと一緒に居たお友達のところまで小走りで去っていって『ちょ、大丈夫〜?(笑)』みたいな雰囲気になって『あんなのにぶつかられて災難だったねぇ(笑)』『最悪〜(笑)』みたいな感じになるんだよ!見えちゃうの!そういうのが見えちゃうのお!」

「自意識過剰すぎませんか!?見なきゃいいじゃないですか!さっさとその場を離れればいいじゃないですか!」

「お前俺が初めて触った女子の感触にニヤニヤしてるスケベ男だと思われたらどうしてくれんだよ!」

「事実じゃないですかあッ!!!」

「………あの」

「はいトモヨくん」

「女性にぶつかる大義名分、作って、実験、とか」

「大義名分……つまり許されないラッキースケベを許しても良いと思えるような……そうか、ドッキリ企画!」

「………それ」

「では早速架空の番組企画を立てて、機材を用意して……会長!」

「いや、待て」

 にわかに浮き立ち始めた面々を、静止する。

「何ですか会長、これは良い案じゃないですか!早速行動しましょうよ!ほら、早くそれっぽい格好して!」

「だから待てと言っているだろう、冷静に考えてみろ。俺が実験台になる必要がどこにある?」

「それは…ここには、実験台になれるような人は会長しか居ないじゃないですか」

「あぁ、ここにはな」

「え?ま、まさか」

「そう!このパーフェクトな『ドキッ!ドッキリ企画を装ってラッキースケベしちゃおう大作戦!』のパーフェクト性を確かめるため、我々以外の人材に実験台となってもらう必要がある!」

「そ、そんなこと言ったって、一体誰が」

「………依頼」

「その通りだトモヨくん。ここは久遠ヶ原学園、数多の生徒が闊歩する学校。ラッキースケベを求める者も居れば、なんかこう貞淑で礼儀正しくお願いしたら真面目に請け負ってくれる者も居るであろう学園!依頼システムを存分に活用して我が”ラッキースケベを探究する会”の躍進の………なんか、そのぅ……良い感じに、してもらうのだ!」

「難しいこと言えないなら言わなきゃいいのに」

「………らじゃー」


リプレイ本文

●空き教室

「じゃあ、俺が撮影係で」

「一機君と私が主な実行役で」

「私たちが、必要に応じてサポート役に回るということですね」

 非常に公平な議論の結果。
 
 撮影係に逢見仙也(jc1616)。
 
 主な実行役が米田 一機(jb7387)と蓮城 真緋呂(jb6120)なった。
 
「ラッキースケベはね、起こすのではなく起きてしまうものでね、考えてちゃダメでね、その邪念がね、ラッキースケベを遠ざけてね―――」

 放心しているのか瞑想しているのかうわごとを繰り返す米田を尻目に、ゲルダ グリューニング(jb7318)が『ラッキースケベを探究する会』のトモヨを連れてくる。
 
「では、作戦を実行へ移す前に。私から、ラッキースケベの動作と注意事項の確認を行いたいと思います」

「大切ですね。いくら依頼でも、ターゲットになった人を傷つけるわけにはいきませんからね」

 何故トモヨが選ばれたのかは聞かず、大きなタオルやバケツなどを用意しつつ頷く雫(ja1894)。

「えー、別にノリでいいんじゃねーのー?」

 ペンギン帽子をくるくるさせながら、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が面倒そうに言うものの。

「いいえ、絶対に。絶対に、必要です」

「なんつー目してんだよお前……」

 火かビームでも飛び出しそうな眼光で拒否されるのだった。
 
「……さて、蓮城さんと米田さんには特に聞いておいてほしいのですが。今回の調査では、ターゲットとなる女性をこのように押し倒すことが予想されます」

 仰向けに寝そべったトモヨの上へ覆いかぶさるようにしてみせるゲルダ。

「ふんふんっ」

 真剣に頷きながら聞き入る真緋呂と。
 
「うわあ……ホントにこんなことするんだな僕……」

 だいぶアレな光景に不安気な声を漏らす米田。
 
 その後ろではカメラを構えた逢見。
 
「……あの、ここは、撮らなくても」

「いえ。カメラを意識しすぎないことも重要ですよ、蓮城さん、米田さん」

「うんっ」

「そして、手をわきわきさせない。やらしい動作をしない。具体的にはターゲットの胸に手を当ててしまったとしても揉みしだくような動作をしないことが重要でして例えばこのように服の下に直接手を入れてしまった上あまつさえ直接感触を楽しむなど言語道断で」

「……あの、ちょっと」

「いえいえトモヨさんはそのままで良いんですよ何も気になさらず別にそのまま天井の染みを数えておいていただければすぐにでも」

 ギラつく眼光をしたゲルダの手がトモヨに触れそうになったところで。

「……グリューニングさん」

「ほわ。なんですか、雫さん。急に持ち上げないでください」

「……行き過ぎです」

「………まぁ、こんなふうにならないよう気を付ければ良いとおもいますよ」

 雫に持ち上げられたまま、不満気に呟くゲルダの言葉を持って事前の会議は終了した。
 
「僕ら、グリューニングさんのセクハラを見せられただけなんじゃ」

「危ないから、気を付けないといけないよね……注意しなきゃ」

「不安だなぁ」


●久遠ヶ原学園 人気のない隅っこの方

「……私は一体何をしているんでしょう」

 広い久遠ヶ原校舎内。
 
 その、人気のない隅っこの方。
 
 逢見と雫の案を組み合わせ『油を塗り見えないように糸を張った床を通りかかった女性の足元を攻撃して米田目がけて転ばせた上、胸元のボタンを撃ち抜く』案を実行するため、雫は拳銃を構えながら柱の陰に隠れていた。
 
 既に米田は廊下の真ん中で携帯をいじりながら誰かを待ってる風を装っており。
 
 逢見がその近くの教室から隠れつつ撮影準備に入っていた。
 
 ターゲットの痴態が周囲に晒されない様、人通りの少ない廊下を選んだため、誰も来ないまま小一時間が経とうとしていた。
 
 すると。
 
 ――コツっ、コツっ、コツっ。
 
 人の居ない廊下に響くハイヒールの音。
 
 足音は、まっすぐ米田の方へと迫ってくる。
 
 物陰で耳をたてる雫は引き金に指を添え、息をのむ。
 
 雫の手にしている自動式拳銃は通常の銃とはかけ離れた軌跡を描くことが出来る。
 
 そのため、雫はドッキリであることがバレないようターゲットを視認していない。
 
 だからこそ、足音の正体がどんな人物なのか気がつかなかった。
 
「あ、あ、あの、雫さん……もしかして、あのひとに仕掛けるの……?」

 携帯の画面を見ながらターゲットを横目にちらちらと見る米田が呟くが、その声は雫に届くことはない。
 
 油の塗られた床まで、あと数メートルというところで撮影している逢見が、米田が、息をのむ。
 
 なぜならば。
 
「ふんふふ〜ん♪ふんふ〜んっ♪」

 軽快な鼻歌と共に軽快な足音を鳴らすターゲットが。
 
 身長182センチ、体重76キロである米田の体積を倍にして横に引き延ばしたかのような大変豊満かつ大変ふくよかな推定40歳以上の女教師(お化粧濃い目)だったからである。
 
「いやいやいや潰れちゃうって、僕さすがに潰れちゃうって……っ!!!」

 逃げるわけにもいかない米田が必死に小声でターゲットの変更を呟くがもちろん離れた物陰で銃を構える雫に届くわけもない。
 
 カメラを構える逢見にこそ、その声は届いていたが。
 
「………」

 無反応。
 
「ふんふ〜ん♪」

 ターゲットが油床へと近づく。
 
「やばいやばいやばい、やばいって……!!!」

 そして。
 
 ―――バキュンッ!
 
「ひゃわっ!?なんです……きゃあっ!」

 若々しい悲鳴と共に女教師(お化粧濃い目)の足元へ雫の放った銃弾が炸裂する。
 
 驚いた女教師が小さく跳ねるように避けた先には逢見の仕掛けた糸が。
 
 片足を取られた女教師が大きく踏み出した先は油の塗られた滑る床。
 
「きゃーーーーっっ!」

 少女のような可愛らしい悲鳴と共に女教師(お化粧濃い目)が米田目がけて倒れ込む。
 
 そこへ。
 
 ―――バキュンッ!
 
 二撃目の弾丸が女教師の胸元のボタンを撃ち抜く。
 
 露わになる豊満な胸元。
 
 17歳である米田目がけて、歳と体重が倍はあろうかという女教師の肉体が半ば飛ぶようになだれ込む。
 
 米田は腰を落とし、さながらPKに備えるゴールキーパーのように女教師という弾丸シュートを受け止めにかかる。
 
 そして。
 
「ぐおぅえっぷし!!!」

 腰を落としたことにより米田の顔面は女教師の露わになった胸元目がけてめり込みながら、その豊満な肉体を全身で抱え込むようにして、爆風のような衝撃で地面を若干滑りながらも女教師を受け止めることに成功した。
 
「あらやだ、ごめんなさいね」

「い、いえ」

 むせ返りそうな香水の香りが全身にこびりつくのを感じながら、米田は少しだけラッキーと思ったそうな。


●歓楽街 夜

 雫の案に続き、ラファルの指揮のもと次の作戦が実行された。
 
『よし、いいか米田師匠。酔っぱらってる女を見つけたら即座に声をかけて背負え。もしくは今すぐ彼女を作れ。いいな』

「そんなむちゃくちゃな!」

 携帯から聞こえるラファルの声に抗議する米田。

『要は不可抗力だと思わせれば良いっていうのが俺の考えだが、米田師匠と浴衣姿で一緒に夏祭りに行ってくれるような彼女は居ない』

「いや僕の話を聞い」

『よって、とりあえず「おんぶが必要なほど酔っぱらってる女性を見つけて背負う」これでいくぞ』

「……はい」

 悲し気に俯く米田が歩き始めると、すぐに路地を入ったところから女性の叫び声が。
 
「ぁによう!こっちゃあおきゃくしゃまなのよお!?もっとだしなさいよぉ、おさけぐらいー!」

 かなり悪酔いしているらしい浴衣姿に草鞋を履いた女性が、居酒屋から出てくる。

「うそだぁ………」

 あまりにも好都合な風貌をした女性にため息を漏らしながら見ていると。

 その足取りはおぼつかないどころか、店から出て数歩でガシャーンッと倒れ込んでしまうほどだった
 
「だ、だいじょうぶですか?」

「う゛ぇーぅ……あ゛ぅ゛〜………」

 すぐさま米田が駆け寄るものの女性はゾンビのような返事を返すばかり。
 
 見れば、転んだ拍子に鼻緒が切れてしまっている。
 
「手、貸しましょうか?」

「だぅー……」

 声こそただの呻き声だったが、コクコクと頷いていたので。
 
 背負って大通りまで歩いていくことに。
 
「もうドッキリでもなんでもなくてただの人助けになってるような気がするんだよなぁ」

「う、うぅぅ………ぎぼぢわるい……」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!そこで吐かないでくださいよ!」

「う゛ぅぅぅぅ」

「い、い、今下ろします!今下ろしますからあ!」

 なんとか吐き気を催す女性を介助しながら、無事タクシーに乗せてあげることが出来た。
 
 ラッキーと思う瞬間はなかったそうな。
 

●久遠ヶ原学園 廊下の角

「はぁ……ひどい目にあった……」

「お疲れ様です、米田さん」

 翌々日の朝。
 
 ゲルダの提案を実行するため、米田とゲルダはスタンバイしていた。

「昨日は満員の女性専用車両に放り込まれた直後に駅員さんと警察が出動してくるわ、待ちゆく人の背中に虫のおもちゃ放り込んでも全然こっちに来ないからただ街中で突っ立ってる不審者に思われて警察が出動してくるわ……」

「理解ある警官さんで良かったですね」

「次は注意じゃすまないよって言われちゃったよ……」

「あ、そろそろ獲物が着きます」

「聞いて?」

 二人が会話しているのは廊下を階段の方へと曲がった角。
 
 そして、ターゲットとなる女子生徒(11歳)は廊下をテクテク歩いてくるところ。
 
「では、よろしくお願いします」

「え、え、なに、そんな急に」

「やだもー!」

 ―――ドンっ!
 
「うわ、っちょっ」

「へ?――きゃぁっ!」

 突き飛ばされた米田が女子生徒に覆いかぶさりそうになる。
 
 しかし、女子生徒もまた久遠ヶ原学園の生徒であり、撃退士であった。
 
 尋常ならざる身体能力が備わっている撃退士とは、たとえ女子生徒と米田の間に40センチ近くの身長差があろうとも、その危険を回避できる存在である。
 
 女子生徒は可愛らしい悲鳴と共に、流れるような動きで背中から倒れ込んできた米田の襟をつかみ。
 
 腰を突き出すようにして、米田の身体を自らの上へ乗せるように背負うと。
 
 米田の倒れ込む勢いを利用して、そのまま窓の外目がけて背負い投げたのだ。
 
「………あ」

「あーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 長い悲鳴と共に窓の外から放物線を描いて飛んでいく米田。
 
 「あ、やっちゃった」みたいな顔をしている女子生徒。
 
「おー」
 
 感心するゲルダ。
 
「あ、あわわ」

「ねぇねぇ」

「え、あ、グリューニングさん……?」

「ふざけて戯れていた。反省してる」

「え、あ、あの、えっ?」

 あらかじめ考えていた謝罪の言葉を受けた女子生徒は頭の上にはてなをいっぱい浮かべていた。
 
 米田は綺麗に受け身を取って無傷で着地していた。
 
「もうラッキースケベでもなんでもないじゃん!!!!」
 

●久遠ヶ原学園 また別の廊下の角

「一機君がいっぱい頑張ってくれたんだから、今度は私の番よねっ」

 女子生徒に投げられた米田を回収したあと。
 
 今度は真緋呂と米田の二人体制で標的に出来そうな生徒を探していた。
 
「ね、ねぇ、あの、真緋呂……あ、当たって、ちょ、ねぇ、聞いてる…!?」

「ちょっと一機君静かにっ!しーっ!」

 廊下の角から顔だけを覗かせて標的を選定する二人。
 
 米田がしゃがみ、その後ろから真緋呂が身体を乗り出すようにしているので米田の頭にはちょうどよく真緋呂の胸が。
 
「うぅん……どんな人が良いかな……」

「あ、あの、あんまり動くと、その」

「……よしっ、あの子に決めたっ」

「え、あ……ハイ」

 水入りバケツを抱えて16歳くらいの女子生徒に近づいていく真緋呂。
 
 ……の、足元にはバナナの皮。
 
「へ、きゃあっっっ!!」

「え、え??」

 標的にだけかかるはずの水は、真上に回転しながら飛び上がったバケツから真緋呂ごと濡らし。
 
 標的と真緋呂の二人がびっしょり濡れ透けになってしまった。

「あ、あぁぁごっ、ごめんなさいっ!」

「あ、え?貴女こそ派手に転んでたけど……大丈夫?」

 バケツを半被りになりながら謝る真緋呂を気遣う標的さん。

「ちょ、ちょっと大丈夫…!?そこの教室で着替――」

 そこへ駆け寄ろうとする一機の手に、ササっとバスタオルを持たせるゲルダ。

「え、なにこれ」

「ふぁいとですよ」

「え、ちょ」

「どーんっ」

「またっ、わっ、わっ!!!」

 ゲルダの親切なアクションにより突き飛ばされた米田が二人目がけて突っ込みそうになる、が。
 
「二度目はない、んだ、よっ!」

 ポッピングブレーキの如く、リズミカルなステップで衝撃を殺し、転倒を避ける米田………だったが。
 
「ひょっ」

 その最後の一歩は、真緋呂が踏み抜いたバナナの皮が。
 
「へっぶしっ!!!」

 標的さんと真緋呂目がけてバスタオルを放りなげ、すっころぶ米田。
 
「え、っと……バスタオル?」

「あ、えぇと、そちらの教室でお着換えをどうぞ……真緋呂も……」

「一機君…ご、ごめんね……」

 突っ伏したまま、あらかじめ確保しておいたお着換え用の教室へ二人を誘導する米田。
 
 心配そうにしながらも、バスタオルを纏って教室に入る二人。
 
「無事ですか、米田さん」

「……ゅん」

「ネタ晴らしも残っていますよ」

「……ぁい」

 ドッキリ大成功のプラカードを手渡しながら、ゲルダはひとり満足そうだった。
 真緋呂と標的さんのお着換え中にネタ晴らしをして、またまたコケってしまった真緋呂に米田が押し倒されてしまうところを目の当たりにした標的さんが唖然とする中。
 
 雫によるアンケートが行われ、ドッキリ企画は終了した。

●会議室

「おぉ、このカメラにラッキースケベが……!」

「えぇ」

 カイトの元へ、カメラを届けたのは。
 
 雫だった。
 
「そして、もう一つ報告があります」

「報告だと?」

「今回、協力していただいた方々に許せるか否かアンケートを行いました。結果、『悪くなかった』一名、『覚えてない』一名、『ごめんなさい』一名、『誰か居たの?』十名、そして『女性専用車両にわざと乗ったのは許さん』三十名」

「ひょ?」

「――以上の結果から、民主主義に則りあなた方お二人を有罪と断定。正義を執行します」

「「あ、あ、あーーーっ!!!」」

 こうして。
 
 結局、ラッキースケベを探究する会のパーフェクトな作戦は、お蔵入りとなったのでした。
 
 おしまい


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 あなたへの絆・米田 一機(jb7387)
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
マインスロワー・
ゲルダ グリューニング(jb7318)

中等部3年2組 女 バハムートテイマー
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト