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「うわぁ〜……あれは依頼じゃなきゃ近づきたくない感じですねぇ……」
高瀬 颯真(
ja6220)ら撃退士一同はアーケード街の端に立ちながら。
明らかに異常な人だかりが出来ている場所を眺めつつ、大きくため息をついていた。
「砂原さん、ホントにやるんですか〜?」
「もちろんだよ、あんな面白そうな子……えっふんえっふん!!悩める子羊を、放ってはおけないからねっ☆」
両目を青紫色に光らせる砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)の後ろで小宮 雅春(
jc2177)がアシスタント木偶人形ことジェニーちゃんを肩に乗せつつ、揃って警備員っぽい動きをしてみせる。
「私も、誘導の準備は万端ですよ」
「あぁ、うん…ミュージカルに絡むつもりは無いんだね……」
「よし、では行くか」
狩衣にジーパン装備の不知火藤忠(
jc2194)を先頭に、一向はヴァニタスへと歩を進めた。
●
「ううっっ」
人だかりの中心では、ヴァニタスが四つん這いになって悲しい嗚咽を漏らしていた。
と、そこへ。
カッ!!!
「ど・う・したんだぁあ〜い↑ 悩め〜る子ひつじくぅ〜ん♪」
『星の輝き』により周辺の野次馬の目が潰れてしまうのではないかというほどまばゆい閃光を放ちながら、優雅に砂原が踊り出てくる。
「…う?」
「やぁ!子羊くんっ!そんなに悲しそうな目をしてっ……ど・う・したんだぁあ〜い↑」
セリフパートと歌唱パートのメリハリが効いた振る舞いは、野次馬たちの胸を打ち。
その背から放たれる閃光は近代の街へと舞い降りた神話の天使を思わせ。
道行く人々までもが足を止め、静かに涙している。
「いや……あの、すげぇ眩しいからちょっとやめてくんない?」
「そ・れ・は……嫌ぁ〜↑」
「いやなんでだよ!」
「さぁ、ヴァニタスよ。このまま砂原のミュージカルに巻き込まれるか、俺たちと共に来るか、選ぶといい」
「いや、ちょ、誰!誰が喋ってるかわかんないくらい眩しい!」
「ご・め・ん……ねぇ〜↑」
「謝るなら光を仕舞えって言ってるの!」
「はーい、すみませーん、道開けてくださーい」
「いや、ちょ、また誰か喋ってるし!見えないから!眩しいからあ!」
「ご・め・ん……ねぇええ〜↑」
「だからあ!謝るならあ!!!」
「ほらほら、イケメンなお兄さん♪いいからこっちこっち〜」
「ちょ、待って押さないで!誰か知らないけど押さないで!」
「こ・ち・ら・へ〜〜〜↑」
「お前はちょっと静かにしろよッ!眩しいんだよッ!うるさいんだよォ!」
そんな感じで一向はアーケード街を外れたところにある公園へと移動したのだった。
●
「はぁ……はぁ……」
「おやおや、お疲れのようだね。大丈夫かな?」
無事公園へと着いた頃。
ヴァニタスは精神的にぐったりしていた。
「あぁ、うん……わかってる、全然どいつがどいつか見えてなかったが光ってたのは間違いなくお前だな」
「おや!大正解っ☆」
「うるさいよ!」
「まぁまぁ、それじゃお悩み相談と行きましょうか〜」
ススス―っと。
ヴァニタスの隣へと腰を下ろす高瀬。
わずかに流れる若草色の優しい風が、『先読み』の発動を告げる。
「別に恋人なんて居なくていいんじゃないですか?」
「……は?いや、あのいきなり何を……」
「別に恋人なんて居なくていいんじゃないですか?」
「いやだからあんたら戦いに来たんじゃないのかっていう話を」
「別に恋人なんて居なくていいんじゃないですか?」
「いや、あの、俺の話を」
「別に、恋人なんて、居なくていいんじゃないですかっ?」
「ふぇっ…ひぐっ……そ、そうかもしれませんね…えぐっえぐっ」
「俺も恋人いないですけど、別に欲しいとかないですし〜」
「うっうっ……そう言うけどさ……一歩踏み出しちゃったんだよ!告るまで行ったの!それで放置なんだよ!」
「ほら、俺の姉さんより可愛い女性いないので」
「俺の話聞いてる!?」
「あ、写真見ます?」
「……そんなに可愛い?」
「俺くらい可愛いですよっ♪」
「みるみる。みたいみたい。あと初めて会話成立したねキミ」
「んーとですねぇ、この浴衣写真も甘いものを食べてる時の幸せそうな顔とかも!寝顔も可愛いんですけど、これは他の男には見せられないな〜!」
「自慢なだけじゃん!それ可愛いお姉さんの自慢なだけじゃん!せめて見せてよ!」
「嫌ですよ〜、俺の姉さんなんですから〜」
「じゃあなんで話したんだよお!」
「………流れで?」
「いや、超無理やりだったよね」
「まーまー分かりましたよ〜、じゃああれですよ、その告ったお相手さんはヴァニタスさんのご主人様なんでしょう?」
「えっ、なんで知ってるの」
「アーケード街の野次馬さんたちがSNSで呟いてたので」
「嘘だろ……情報化社会こわいわ……まぁ、ヴァニタスにしてくれたけど放置なんだよ……好きにしろ、みたいな?別にお前の力なんか要らないみたいな?」
「それ照れてるだけですよ〜。わざわざヴァニタスにしたんですよ?凄い愛されてる証拠じゃないですか〜!」
「そう、なの、かなぁ……でもさ、でもさ、照れててもさ、どっかしらさ、可愛げがあったりするものじゃない?」
「きっとツンデレなんですよ〜!少しでも長く傍に居てあげて、照れくささがなくなるくらい愛を育まないと〜!」
「そう、だよな……そうだよな!ツンデレだよな、なっ!」
高瀬の言葉に希望を見出したヴァニタスは、わずかに涙を浮かべながら快活な笑顔で力強く頷き。
「俺、すぐ帰るよ……帰って、出来る限りご主人の傍にいる!」
羽を広げ。
「じゃあ、ありがとな!」
羽ばたいたところで。
「はい、じゃあ次砂原さんっ♪」
「はぁ〜い☆」
砂原に足を掴まれベンチへ引き戻される。
「いったッ……え?は?なに?」
「じゃ、とりあえずコレどーぞっ☆」
「あぁ、うん、ありが……え?」
高瀬が説得している間に買ってきたらしいカフェのコーヒーを手渡しながら。
砂原主導の第二ラウンドが開始された。
●
「ま、気楽にしてよ。かくいう僕もヴァニちゃんといっしょでね、カップルって無意味だと思うんだ」
「いやいやいや違う、いろいろ違う。なに?今俺帰ろうとしたじゃん?」
「いや、だって……コーヒーが、ね?」
「あーうん、買ってきちゃったのね。いや、そうじゃなくない?」
「いや、だって……ヴァニちゃんの愚痴聞いてあげたいなって思って」
「うん、その呼び方もね?なに、ヴァニちゃんって。すごい、あれだな。お前だけ距離感近いよな最初からな」
「……嫌?」
「乙女な顔してんじゃないよ!いいよ分かったよ聞きます聞きます……で、なに?なんだっけ?」
「よかったっ♪おっほん……カップルって、無意味だと思うんだ」
「あぁ、まったくだ……この流れで愚痴るのもだいぶ無理があると思うが同意するぞ……奴等あれだろう!?好き好き言うけどすぐ代わりが見つかるだろう!?それがカンにさわるんだよ!」
「うんうん」
「せめてだなぁ、俺のように職も命も捨てるくらいの愛に身を焦がしてからそういうことを言えとだなぁ……いや、放置されてるんだけどさ……か、かま、構って、ぐすっ……か゛まって゛もらえてないんだけ゛どさ゛ぁっ!ずぴーっ!」
「うんうん、分かるよ。僕もはとこが可愛くて堪らないんだけど、構ってくれなくてさー」
「うっうっ……う?」
「あ、写真見る?この子なんだけどさ、身内贔屓じゃないけどだいぶ美人だと思うんだよねー!」
「……なに?あんたらは俺に自慢しにきたの?どっち?ねぇどっちなの?泣くよ?悲しくて泣いちゃうよ?」
「あぁごめんごめん、でもね、高瀬ちゃんも言ってたけどヴァニタスにしたっていうことと……今もまだエネルギー供給のリンクがあること。これって、本当にヴァニちゃんを見捨てて、放置してるってことになるかな?」
「えっ、なにちょっと急に」
「君はご主人ちゃんのエネルギー……ううん、彼女の命を、愛を受けてここに居るんだ。そのことを、誇ってもいいんじゃないかな?」
「ご主人の、愛……」
自分の命が、愛する人の感情で紡がれている。
その事実だけで、ヴァニタスは、にわかに胸が温かくなるのを感じていた。
「もしどうしてもっていうなら直接甘えてみるといいんじゃないかな?女の子は猫とか好きだし、ほら……猫耳でもつけて、ねっ♪」
スッと装着された猫耳カチューシャに目もくれず、ジンと熱くなった胸に感極まりながらヴァニタスは立ち上がる。
「俺、帰るよ」
羽を広げ。
「じゃあ、ありがとな!」
羽ばたいたところで。
「はい、じゃあ次は小宮ちゃんっ♪」
「えぇ、失礼します」
『次はコミヤンの番!』
ジェニーちゃんと小宮に足を掴まれ、再びベンチへと引き戻された。
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「………なに?あ、そういうことなの?まぁ、いいけど…いいけどね?あの、あれじゃない?無駄じゃない?あんたら的に時間の無駄じゃない?」
「まぁまぁ……して、人間だった頃の記憶などはあるのですか?」
「あ、うん、基本的にこっちから話題は振っちゃいけないのね」
「人間だった頃の記憶は、あまり?」
「まぁ、普通に覚えてるよ……サラリーマンやって、構ってくれる人なんてどんどん居なくなってってさ、なんか、何?ウザいみたいな?そんな感じ?うん……あの、ちょっとこの話やめてもいい?」
「それでは…ご主人とはどんな方ですか?」
「ご主人はさぁ……あ、ちょっと長くなるかもだけど良い?」
「えぇ、構いませんよ」
「ちょ、マジ?聞いてくれる?優しい…えっとねぇ!ご主人はねえ!も、なに、凄いちっこいの!背も胸もちっこいんだけどキリッとしててねぇ、髪も短めなんだけどねぇ、振る舞いが気品ある感じ?貴族っぽい感じ?上流階級的な?見た目はちんまいのに中身はすごいお姉様気質でさぁ……も、すぐギンッて感じの視線になってね?」
「ふむふむ、なるほど……こんな感じでしょうか」
「出会った時も……えっ?」
スッ、と。
小宮が地面に手をかざすとずもももっと土が盛り上がり。
ジェニーちゃんほどの、ドールっぽいサイズのご主人が出来上がる。
「なっ、なにこれ!す、すげーっ!!」
「ふっふ、そうでしょう?どうです、こういう世界も」
ふいっと小宮が手を動かすと。
ひょこひょことご主人ドールが歩き、ヴァニタスの足にぴょこんっと抱き着く。
「ふ、ふおお可愛い……!」
「”彼女”ならば、貴方が望めば相思相愛ですよ?」
「……いや、でもあの視線を向けてくれるご主人は……一人だけだ。俺が惚れたご主人はご主人だけなんだよ」
『そんなピュアなお兄さんに、コミヤンからプレゼント!』
「えっ」
ポンッと。
紙吹雪と共にハンカチの中から現れたのは、カラフルな彩色のかわいらしい『イースターエッグ』。
「貴方の気持ちは、誰に認められるまでもなく誇ってよい気持ちです。誰かを慕うことは素晴らしい……これはそんな、称賛の気持ちです」
「こ、コミヤン……!」
「中にはお菓子が入っています。よければ、ご主人に」
「……あぁ、わかった。俺、帰るよ」
羽を広げ。
「じゃあ、ありがとな!」
羽ばたいたところで。
「はい、それでは不知火さん」
「む?あ、あぁ……もう帰ってもらっていいと思うが……」
「決まりですので」
「……じゃあ」
不思議そうに小首をかしげる不知火に足を掴まれ、またまたベンチへと引き戻された。
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「もうね、うん。わかったよ。最後でしょ?わかってるわかってる。いいよ、ハイ!やろう!ね!うん!ぐずぐずしても俺が辛くなるだけだもん!」
「そ、そこまでやる気なら……俺もやぶさかじゃないが……あー、あれだな、お前良く見たらイケメンじゃないか」
「ふ、ふひっ……イケメン、イケメンだってよ……ふへへ……」
「…………なんだ、お前はあれか?ご主人とやらに褒められたことはないのか?」
「い、いけめ、ふひひ……え?無いよ?」
「………」
少しおだててやろうと思った矢先。
予想以上の食いつきと、その悲しい理由に思わず眉間を抑える不知火。
「え、なに。聞いておいて放置?やめて?泣くよ?」
「あ、あぁ……いや、お前が不憫でな……」
「憐れんだら泣かないと思ったら大間違いだよ?」
「いやいや、すまん……あー、でもあれだ。ご主人に告白したらヴァニタスにしてもらえたということはお気に入りということだろう?普通に脈はあるだろう」
「いやぁ、そうなんだけどさ……告白は良かったかもしれないよ?俺も渾身の告白だったしね?でもやっぱり能力ががっかりだったからとかさ、使えない奴だったからいいやもうみたいなこともありうるじゃんか!」
「ならば、そのご主人の期待に応えるのが一番だろう」
「……どうやって」
「男を磨け。泣くのをやめろ、男らしくなれ。そして服屋と美容室でばっちり決めて来い。相手のために身なりを整え、洒落てみせるというのもまた男らしさだ」
「……あの、素朴な疑問なんだけど今の俺って普通に服屋だ美容室だって行けるの?」
「……」
「っていうか、金もってないんだけど……普通にダメじゃない?」
「……」
「え、ちょ、黙んないでよ」
「……いや、知らん」
「えっ」
「久遠ヶ原に入学したのは最近だから、その辺のことは知らん」
「いや、えっ。じゃあ俺どうしたらいいの?」
「まぁ、その、なんだ。ほら、雑誌なら持ってきたから。これでも読んで、服とか……持ってないのか」
「無くはないと思うけど……あ、うん、ある。なんかご主人にいろんな服入ったクローゼット貰った」
「じゃあそれだ、それで、良い感じに整えて、もう一度告白してみると良い。渾身の告白に惚れたのだとしたら、もう一度その覚悟と気概を見せてやるといい」
「……あぁ!」
不知火から雑誌を受け取り、力強く頷いてみせる。
「俺、俺……なんか、頑張れる気がする、やれる気がするよ!」
高瀬たちを見て、高らかに宣言してみせるヴァニタス。
「ふふ、頑張ってくださいね〜」
「猫耳似合ってるよっ♪」
「”こちらの世界”が恋しくなったら、ご主人と一緒に来てもいいですからね」
『コミヤン待ってる!』
「男だったら当たって砕けろだぞ。砕けたら、また来るといいさ」
「みんな……ありがとう!」
そしてついに、ヴァニタスは羽を広げ。
「じゃあ、ありがとなっ!!!」
空高く、飛び去っていった。
「ふぅ……これで、一件落着ですねぇ〜」
高瀬の言葉に一同が頷いていると。
近くの木からガサゴソッとパーカーを着た鈴木悠司(
ja0226)が降りてくる。
「あ、鈴木さんも見張りお疲れさまです〜」
コクンッと頷く鈴木。
戦闘に備えて見張りをしていた鈴木と合流も終え、撃退士たちは学園へと歩を進める。
そして。
●
撃退士たちが学園へ戻っている頃、ヴァニタスは。
「ごっ、ご主人っ!」
「お前、今までどこに行って……」
「俺、俺っ!ご主人のこと―――」
「―――!」
情熱的に。真摯に。
思いの丈を猫耳カチューシャ装備の姿でぶつけ。
「まったく、お前というやつは……ふふっ」
無事、ご主人にヨシヨシしてもらえたそうな。
END