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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/31


みんなの思い出



オープニング

●ほら、またそういう事になる
 バーのカウンター席で、ちびちびと酒を啜る寂しげな背中があった。
 ボサボサの髪に無精髭。皺だらけの黒い外套。
 男はその道では少しは名の通った暗殺者だが、如何せん『ツイていなかった』。
「ったくよー……手入れしてる筈の銃はジャムるし、鴉に集られて対象には気付かれるし……」
 この前はスコープと対象の間に猫が入り込んで来た。何でだ。
「そういや、この前は二回取り替えた銃が二回ともジャムったっけ……」
 通称『パーフェクト・ストロベリー』。裏では『ジャムおじさん』。
 そもそも入念に手入れをしているのに、何故そんな頻度で薬莢が詰まるんだろう。
 それは恐らく、彼がツイていないからだ。
 だが、それでも彼はこの仕事に誇りを持っているし、辞める気も毛頭無い。
 依頼なら大物からどんな個人のものでも請け負う。
 それが例えそこらに居る一般人でもだ。
 そんな一般人が一人、彼の隣のカウンター席に座った。
 何処からどう見ても平凡な女性。強いて言うなら、ロングの黒髪が男の好みだったくらいか。
「……パフェ、一つ」
 女性の注文に、男は目を見開いた。
 この店のメニューにパフェは無い。
 それは、この店でこの男に暗殺の依頼をする為の、合言葉だった。
 マスターは女性の注文に対し無言でグラスを磨き、男に目配せをする。
 釣られて目線を男へやった女性は、何も見なかったように正面を向き直し、呟いた。
「……そう、貴方が……」
「……ここのパフェは、えらく高いぞ」
「構わないわ。それより、話を聞いて貰えるかしら?」
 女性の手元に注文通りのパフェが届く。
 それを一口、女性は微笑んだ。

 後日、男、『パーフェクト・ストロベリー』は岩場へ赴いた。
 女性からの依頼はとても簡単な内容であった。
「憧れの男と付き合っている友人を殺して欲しい……か」
 恋愛のもつれ、とでも言ったところか。
 女性を殺すのは正直気が進まなかったが、これも仕事だ。
 話によると、その友人女性は当日、ここの岩場を通って海岸まで出かける予定のようだ。
 今日は飽くまで下見。
 何事にも準備を欠かしてはならない。
「(両脇に反り立つ壁……この一帯自体に巨大な岩があちこちに散在して身を隠すには良いが……)」
 狙うとしたら、あの高所からだな。と暗殺者は岩壁を見上げる。
 近くに丁度良さげな足場も有る。どうやら、そこからならあの高い位置に登れそうだ。
 移動しようとした男を、真っ黒な影が覆った。
「ん……?」
 振り向き、絶句する。
 ふさふさとした毛、頭の先についた長く尖った耳。二股の尻尾。可愛い、などというものでは無い。その巨躯か何者をも射止めるような眼光を放っている。
 そいつが、自分より更に何倍も有る狐が、自分を見下ろしていた。


「聞いてくれ、話が違うんだ」
 頭を抱えて許しを請うように、尚且つ自分の部屋のようにくつろいで、男は学園の会議室に座っている。
「あんなヤツが居るなんて話は無かった。俺はただ女を……」
 何かを言い掛けて、男は頭を振る。
「……『調査』してくれと言われただけなんだ。あんなのが居たんじゃ仕事にならん」
 オペレータは、それを黙って聞いている。
 ただ無表情で、良く無事に帰られたな、と思うばかりであった。
「兎に角!」
 男は、片手で机を軽く叩いた。
「あの天魔をどうにかしてくれないか!?」
「ほう、それで良いのか」
 オペレータは至極冷静に返す。
 男は意表を突かれたように沈黙した。
 電話をした時はもうちょっと、何と言うか、低姿勢だったと思うのだが。
 再度、オペレータは念を押す。
「良いのか?」
「あ、あぁ」
 オペレータは承知した旨を伝え、詳しいやり取りに入る。
 調査する相手の名前、顔立ち、狐がどのように追ってきたか、どんな事をされたか……。
 途中、何度かオペレータが訝し気な顔をしたが、その内容は良く聞き取れなかった。
 最後に男が退出する際、勢い良く振り向くとオペレータへ告げた。
「『調査』を依頼した依頼人については、何も話せんぞ。俺はこれでも守秘義務は守る方なんでな」

「……らしいが、どうにも引っ掛かるな」
 男が出て行った後、改めて撃退士達を集めると資料を広げながらオペレータは言う。
「尾行調査、ってだけならまだ分かるが、それなら先に天魔を倒してしまえば良い。だがあの男が言って来たのは、『調査の間に天魔がこっちに来ないようにしてくれ』だ」
 それが先程男と話し合っていた内容なのだろう。
 つまり男が言うには、女性をその岩場に行かせるのは確定した上で、そこに存在する天魔を排除しろ、という事らしい。
 それから、オペレータは一枚の紙を資料の上に乗せた。
「因みに、これがその対象の女性だ。名前、外見の特徴共に一致してる」
 オペレータは、頭を掻きながら更に付け加えた。
「その女性な」
 繁々と資料を確認する撃退士達に、オペレータは言う。
「……俺の友人なんだよな」
 目を丸くした彼らに、「途中で言おうかと思ったんだが」と溜息混じりに言葉を零した。
 やけに冷静だったように見えたが、何か我慢していたのか。
「さて、あの男の依頼は『天魔をどうにかする』んだったな。俺の友人を見殺しにしろとは言ってない、そうだな?」
 言いながら、オペレータはもう一枚資料を追加する。天魔の情報だ。
 天魔はサーバント。男が遭遇したのは一体だが、もう一体潜んでいる様だ。
「良いだろう、なら俺の友人を守りきる事も依頼の内のはずだ。何せ『調査』しなきゃならんからな」
 オペレータの手が止まる。
 少し思案している様子だった。
「友人をわざわざ危険な目に遭わせるのは忍びないが……男の目的についても気になるな。良いか、出来るだけ依頼は上手くいっている、って思わせるんだ。男はきっと当日も来る筈……姿が見えなくてもな」
 ならば、女性がそもそも来ない、という状況は避けた方が良い。
 その場合、男が諦めて立ち去る可能性がある。
「信頼してるぞ。俺の友人を、守ってやってくれ」


リプレイ本文

●隠し切れない思惑
「……で、どう思う」
 数ある岩の影に身を屈め、向坂 玲治(ja6214)は後ろ三人に改めてそう訊いた。
 影になっている場所が多いせいか、ジメッとした空気がこの一帯の足元から立ち昇っている。
「怪し過ぎるだろう」
 場所を同じくする不知火藤忠(jc2194)が答えた。
 本当に調査だけで済ませる気なら他の場所でも出来る筈だ。
 わざわざ、天魔の居る所に……まるで誘い出したかのように思える。
 その疑問はSpica=Virgia=Azlight(ja8786)も同じく思っていたようで、口にこそ出さないものの頷いて藤忠の意見に肯定を示した。
(「依頼内容、曖昧すぎる……。何か裏が……?」)
 有るとすれば、それは男、パフェの言った『調査』とやらが関わっている事に違いない。
「先に退治してしまう事で、何か不都合が有るのでしょうか」
 北班と行動を共にする樒 和紗(jb6970)が質問を唱える。
 それに藤忠は未だ静かな岩の間で静かに呟いた。
 例えば。
「女性が天魔に殺されるのを待っている……とかな」

「有り得ない話じゃ無いと思うわ」
 同時刻、北グループの四人と少しの距離を空け、南側にて偵察を続ける蓮城 真緋呂(jb6120)はそう述べた。
「つまり、俺達の護衛も囮……ってか?」
 新谷 哲(jb8060)が訊くと、真緋呂は頷いて答えた。
「漁夫の利……を狙っているのかはともかく、アクシデントのどさくさに紛れて何か企んでいるんじゃないかしら」
 その辺の細かい話は気にしないタイプなのか、哲は鼻だけ鳴らすと早くに魔具を取り出す。
「ま、俺はとにかく女性に危害が及ばないようにすりゃ良いって訳だろ?」
 間違いでは無い。
 極論、女性が無事なら何も問題は無い。
 彼と同じく、黒百合(ja0422)も漆黒の巨槍を片手に長い黒髪を揺らめかせる。
「そうねェ……まずは目の前の問題を叩き潰して安全確保としましょうかァ」
 保護対象の彼女がやって来るのは、こちら側からだ。
 早くに接触したいが、下手に接触しても本来の目的を達成し難くなる。
 複雑な心境と言っても良いだろう。
 何にせよ、妖狐というはっきりした敵を始末する事が、当面の目的にはなりそうだ。
 その為に探索を続ける南側の元に、黒羽 拓海(jb7256)が合流した。
「妖狐はまだ確認出来ていない……が、隠れられそうな場所は幾つか見つけた」
 言いつつ、拓海は視線でその場所を指し示す。
 人間一人なら優に身を隠せそうな岩。
「それと……」
 拓海が今度は逆方向に目を向ける。
 皆が見上げた先に、もう一つの情報は有った。

「あの崖……」
「はい、上に登れそうですね」
 藤忠と和紗がその情報を見上げた。
 積み重なった岩、切り崩された足場。
 撃退士で無くとも、身体能力に長けているか、或いは訓練を積んだ者なら頂上まで難なく行けるだろう。
 そして、もしあの男がここに居て、地上では視界の悪いこの場所を調査するのであれば一度に見渡せる場所が望ましい。
 そこを中心に目を凝らした和紗は、その崖上にこちらを見下ろす丸い二つの物体が目に入った。
「……やはり。見つけました、確認に移ります」
 頷いた藤忠は一旦呼吸を正して覚醒させた脳内で再び妖狐を探り、和紗は気配と足音を忍ばせ崖下へと寄る。
 その途中、ふと岩陰の向こう側から来る女性の姿を見た。

「来たわねェ……」
 南側で黒百合もその姿を確認する。
 女性、氷室綾香は、崖道に入る直前で真緋呂に声を掛けられた。
「こんにちは」
 穏やかな微笑で話し掛けられ、綾香は驚きはするものの会釈して返す。
 真緋呂は後ろを向き、歩み寄る三人を横目で見ながら説明を始めた。
 拓海はやや離れた位置に居たが。どうも、他曰く隠し事というのが下手らしい。
「ごめんなさい、今……」

 その時。
 皆が携帯している無線機からノイズ混じりの音が走った。
『遭遇した、交戦に入る!』


 連絡は簡潔に、迅速に行われた。
 北組の見上げた、その正面の岩の上に堂々たる姿で二股の狐が見下ろしている。
「そこに居たか……!」
 妖狐の姿を最初に視認した藤忠がそいつを見上げた。
 スキルによる索敵では無かった為か、かなり接近を許してしまった。
 それでも強襲とならなかったのは警戒したお陰か。
 飛び降りた妖狐にSpicaが急接近する。
 Spicaの身に迫る妖狐の牙、が、翼の加護に吸い寄せられる。
 牙の攻撃を引き受けた玲治。その隙だらけとなった妖狐の側面にSpicaは雷神を模した一撃を叩きつけた。
 一歩、二歩、下がって日の元に妖狐が照らされた時、足元に出来た影から玲治が発生させた無数の黒い手が伸び、妖狐を捕えていく。
「逃がさねぇよ」
 妖狐は目前の玲治とSpicaに牙を向ける。
 しかし、獣はもう一つの存在を忘れていた。
 否、認識が甘かった、という方が正しいか。
 Spicaとは逆の側面より、不意に炎弾の塊が撃ち込まれた。
「悪いが一応忍生まれなんでな」
 驚き見回す妖狐だが、声は聞こえど姿は見えず。
 藤忠がまた岩陰から岩陰へ身を移す。直後に玲治の鋼鉄の一撃が妖狐へ振り下ろされた。

「始まったか」
 遠くの騒音を聞き、拓海が呟く。
 未だ状況を理解出来ない綾香は撃退士達を交互に見ていた。
「え、あの」
「サーバント出現の依頼が有って、今退治中なの。大丈夫。すぐに終わるから貴女はそこに居て」
 ゆっくりと真緋呂は女性を落ち着けさせ、共に安全な場所へと移動する。
 離れた場所での戦闘音を耳にしたのか、綾香は恐る恐る真緋呂へ尋ねた。
「あ……と……あそこで戦ってるなら大丈夫じゃないでしょうか? えぇと、私、守られる必要が……?」
「念の為に、ね」
 と、離れる真緋呂とは別の三人が、何かが駆ける音を聞く。
「……正面!」
 哲の言葉に皆が一斉に身構える。
 一瞬の後、正面の大岩を透過した妖狐が撃退士達へ突進して来た。
 目測を誤ったか、そのまま反対側の岩辺りまで突っ込んだ妖狐は、土煙と共に撃退士達へゆっくりと振り向く。
 北側の妖狐よりは一回りくらい小さいだろうその体躯だが、敵意と殺意は変わらぬものを見せていた。
『南、こちらも遭遇。迅速に片をつける』
 無線機へそう飛ばした拓海の身体がゆらりと揺れる。
 無駄の無い動作で一気に妖狐の目の前まで踏み込むと、紫炎残る斬撃が妖狐の身体を一閃した。
 黒百合も漆黒の槍を手元で振り払うと、ひとっ跳びで間合いを詰めて刺突を繰り出す。
「戦いになりゃいよいよ俺の出番って訳だ! あいつの動きはバッチリ抑え込んでやらぁな!」
 追撃を重ね、前衛と交差するように後ろへ跳び、ライフルへ持ち替えた哲の銃弾も妖狐へ撃ち込まれた。


 その光景を、両面ともから離れた位置で見下ろす視線が有った。
 まず交戦に入った北、そして現れた女性へと、拡大された視界で確認しながらその視線は呟いた。
「お、早速現れやがったな……よし、良いぞ……ん!? あれが目標か……よしよし、そのままそう……あー! 惜しい!」
 俯せになったまま地面を拳で叩く。
 その背後で、崩れた崖を足場にして、アウルによる擬態を施した和紗が覗き込む。
 男の手元には長い銃器。
(「あれはライフル?」)
 『女性の調査』というだけの依頼にはあまり似つかわしくない武器だ。
 だが、天魔の居る場所に赴く……となれば、まだ何とでも言えそうだ。
「実行犯で確保しなければ、護身用などと誤魔化しそうですね……」
 機会が訪れるのは一度切りだろう。
 その時を待ち、和紗はジッと忍ぶ。


 アウルの刃が飛来する。
 抜刀後、すぐに移動する藤忠と入れ替わりにSpicaが着地する。
 そこへ噛みつく筈の妖狐の牙は、玲治の堅牢な盾の前に虚しく阻まれた。
 そのまま再接近し、Spicaは再び雷を纏った、巨大な槌かとも見間違うような攻撃で打ち抜く。
 その一撃でついに意識を失った妖狐に絶え間なく攻撃が加えられる。
 まさに、的であった。
 大きく振りかぶられた玲治の一撃、藤忠がアウルの刃で斬り刻めば、Spicaが紫炎の一振りを放つ。
「報告通り……。何も、できないまま……ただひたすらに、死ぬがよい……」
 再び取り戻した意識の隅に、水平に刀を構えた藤忠の姿がようやく映った。
 舞い上がる砂塵が妖狐の身体を覆っていく。
 妖狐の尻尾に炎が灯ろうとした、その時であった。
「どうやらお前達も利用されたようだ」
 動けぬ身体となった妖狐へ、玲治は白銀の槍を振りかぶった。
「だからって、手加減はしないけどな」
 妖狐の身体にヒビが入る。
「消してあげる……」
 続くSpicaの三撃目。
 妖狐へと迫りながら自身の内に眠る「書庫」へ接続、神々しく輝いたかと思うと、すれ違い様に一閃させた。
 ゆっくり、妖狐の身体が二分に別れ落ちる寸前に、Spicaは槍を振り払った。

 北より少し遅れて交戦に入った南側では、やはり多少の手間は掛かっているようだ。
 というのも、綾香が居る分、立ち位置には成るべく配慮しなければいけない、というのがあるのかもしれない。
 それでも、真緋呂という直接的な護衛人が傍に居る事で、戦い易さは格段に違っただろう。
 拓海の刃が妖狐をまた紫炎一閃、反撃に噛みついた妖狐の牙を、黒百合の腕が受け止めた。
 隙を見て哲が気を集中させ、その間にも拓海が剣を横凪ぎに払い、黒百合は瞬時に召喚させたヒリュウを妖狐の背後から攻撃させる。
 反転した妖狐が背後の正体へと向き直る。
 が、そのまま再度撃退士達を見たかと思えば、四足を踏み尾を立てて威嚇。
 その尾に紫の炎が灯り出すのを見て、拓海は迷いなく踏み込み、蒼雷の一閃を叩き込んだ。
 もんどりを打つ程仰け反った妖狐の脚部へ、気を宿した哲の銃弾が撃ち込まれる。
「今だ!」
 哲が言い終わらぬ内に黒百合が妖狐の正面に跳び。
「残念だったわねェ……」
 漆黒の槍がその身体を見事に貫いた。


『そっちはどうだ』
『終わった。殲滅完了、だ』
 無線機を通じて玲治と拓海が言葉を交わし合う。
 拓海達の後ろでは、綾香が深々と頭を下げていた。
「有難う御座いました……まさか、こっちにも居るとは」
「いえ、無事で何よりよ。じゃあ、私達はこのまま周辺調査に移るけど……気を付けてね」
 真緋呂がそう言って見送ると、綾香はまた頭を軽く下げて岩の道を進みだす。
「さて、と」
 行ってしまったのを確認して、真緋呂は三人と目を合わせ頷き合う。
 同じタイミングで北側の三人も言葉無く合意の合図を互いに送り、真緋呂はアウルによる光の屈折を、玲治はアウルによる塗装の擬態を施し岩陰の中に潜行した。

「あー、やっぱ駄目だったかー。撃退士ってのは見た目によらねぇモンだな……っと」
 男、パーフェクト・ストロベリーは傍らの銃を手に、双眼鏡からスコープへ拡大する物を変える。
「仕方ねぇ、こんな時の俺の銃だ。唸るぞー、今日こそ唸っちゃうぞー」
 スコープが綾香の行動を追いかける。
(「進め……」)
 岩陰……平地……また平地。
(「進め……!」)
 岩が、邪魔をしなくなった。
「ここだ!」
『真緋呂!』
 同時に聞こえた大声に男、パフェの身体が跳び上がる。
 その声と共に放たれた和紗の一矢がパフェの銃弾を掠め、僅かに狙いの逸れた先に歩く綾香。
 の、前へと飛び出した玲治が庇護の翼で彼女を包み込み、同時に飛び出した真緋呂の電磁バリアによって小さな音を立てながら銃弾が消滅した。
「……こういう事だったのね」
 真緋呂は追撃が来ないのを確認すると、後ろの綾香を横目で見た。
 これらが一瞬の間に起こった後、二人の傍には尻もちをついた綾香が、目を丸くしたまま二人を見上げていた。


 崖下へ乱暴に引き摺り落とされたパフェはあぐらを掻いてそっぽを向いている。
 いや、逃げ出したいのは山々なのだが、そうしようとすると和紗の髪が纏わりついてくるような、妙な圧迫感があるのだ。
「言い逃れは出来ませんよね?」
 言いながら和紗はパフェの両手に手錠を掛ける。
「新品の銃……予備までバッチリだ」
 玲治が傍らのスナイパーライフルを持ち上げる。
(「これなら確実とでも……?」)
 それが自身の得意とする獲物だった事にSpicaは内心で皮肉を放ち、隣では藤忠が呆れ返っていた。
「彼女が天魔に殺されることを期待したのか?」
「ふん……仕事に使えるんなら利用しない手は無いだろう」
 その言葉に、藤忠はまた溜息を吐く。
「俺の妹分は生粋の忍だが、あいつなら自分の手で確実にやれと言うだろう」
 言葉が効いたのか、悔しそうにまたそっぽを向く。
「……で、何のために……? 依頼者は……?」
 詰め寄ったSpicaだったが、パフェは依然として沈黙を守った。
「守秘義務は結構だけど」
 と、真緋呂もパフェに対して迫る。
「それだと貴方だけの殺意になるし更生する気無し、再犯の疑い……となるわね、きっと」
 笑って言うが、そんな優しいオーラでは無い。
 黒百合と哲、拓海も互いに武器をしまってないのもそう思わせた。
「貴方が言わずとも勝手に読み取っても……良いのですよ?」
 和紗が妙な木枠を出現させながらパフェへ問い掛ける。
 こいつらなら……いや、有り得る。そういう能力も有り得る。
 だが、脅迫にもパフェはギリギリで踏み止まった。
「へ……それでも言えねぇな! お前らみたいなガキんちょ」
 パフェの頬を拓海の銃弾が掠めた。
 再度、真緋呂が微笑を崩さずに屈む。
「え、何て?」
「待って待って!!」

「あの、何だか有難う……御座いました?」
 疑問形で礼を言い直す綾香に、撃退士達は改まる。
「お友達がこの男を怪しんで私達にこっそり護衛を依頼したの」
「オペレータも俺達もとても心配していた。貴女が無事で本当に良かった」
 真緋呂と藤忠が説明を加える。
 結果として囮にしてしまった事に、謝罪も込めて。
「私達の案だから、お友達は責めないでね……貴女の事、心配してたもの」
「申し訳ありませんでした」
 深々と頭を下げた和紗だが、綾香は逆に驚いた様子で両手をパタパタ震わせた。
「わっわっ、そんな……助けて頂いたのは事実ですし、頭を下げるのはこちらの方です」
 そして、綾香はふと、当然の疑問を口にした。
「私は何で狙われたんでしょう?」


 結局、あの脅迫を凌ぎ切ったパフェは連行された後で話す事を約束に、女性の殺害を取り止めることで落ち着いた。
 その後の真実は光に照らされたか、未だ闇のままか。
 撃退士に依頼をした迂闊な暗殺事件は、こうして一旦幕を下ろしたのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: シスのソウルメイト(仮)・黒羽 拓海(jb7256)
 藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・不知火藤忠(jc2194)
重体: −
面白かった!:6人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
血気盛ん・
新谷 哲(jb8060)

大学部5年160組 男 阿修羅
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師