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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/25


みんなの思い出



オープニング

●人外の統率
 男は足元のそれを良く見る為に、手に持った鞄を一旦地面に置いて屈んだ。
「これ、人骨……か?」
 自分でも呟いたくらいの大きさだったと思うが、その言葉に近くに居た男女が寄って来る。
 頭蓋骨、胸郭、骨盤に大腿骨……雨ざらしにされていたせいか随分と古い感じだが、おおよそ人間の形を保っている。
 胸部の損傷が激しいのは、医師に確認せずとも見て取れた。
「一つ……?」
 隣の女性が訊ねてくる。
「ねぇ、それ一つ?」

 事の始まりは一か月ほど前。
 とある市街地からの苦情から始まった。
「最近不審な物音が絶えないのでどうにかして欲しい」
 それを聞いた警察が駆け付けるも、何も無い。誰もいない。
 それでも苦情は止まることがなく、むしろ数が増していた。
 何より不気味だったのが、物音だけでとりわけ何をしている様子でも無く、話し声も聞こえないという点だった。
 その市街地の郊外には廃墟と化した一帯が在る。
 そうなった理由も今では忘れ去られてしまったが、住人がことごとく住居を変えていくために空き家が並ぶばかりの一帯だった。
 まぁ不良の仕業だろうな。
 警察はそう断定してみる、が、そうすると話し声が聞こえないのも少々おかしな話だと感じた。
 大抵、そういう連中はは騒ぎ立てて迷惑を起こすものだ。
 取り敢えずの見回りの強化、そして次も同じことが起こったら通報してほしい旨を伝え、警察は調査を終えたという。
 不審な物音がするのは深夜帯。住民も多くは眠りについているし、起きていても怖がって出ようとはしない。
 それでも、興味が勝るのか生活時間の都合なのか、外に出てみる人間はいるものだ。
 決定的だったのは、その翌日の通報と連絡だった。
「様子を見に外に出た大人達がいなくなってる」
「見回りに行った交番の人間が帰って来ない」

 いなくなった人間は何処へ消えたのか。
「一つ……みたいだな」
 もう一人の、大柄な男が辺りを見回しながら言った。
 住宅街の道路に残されていたのは、多くの血痕とそれを引きずった跡。
 その跡を辿ると、この廃墟へ着いたというわけだ。
 学園に依頼をしてきた現在も、音は定期的にやってくる。
 派手な倒壊を起こした物ばかりで、狭いようだが廃墟となった範囲は広い。姿を隠す場所なら幾らでもある。
「目的は何だ……?」
「見つけた!」
 生じた疑問を口にした直後、女性の撃退士が声を上げた。
 物陰に隠れながら索敵を開始した約十分後のことであった。
「何人だ?」
「五……六。六体ね。っていうか、アレ……」
 女性の声が小さくなり、男も身を乗り出して見る。
 その頃には例の音もハッキリと聞こえるようになっていた。そして、その音が何なのかも理解した。
 鎧だ。
 鎧が、横並びに列を成して動いている。
 横並びの中央後列に一人だけ、他とは形の違う兜を被った鎧。
 そいつが持っている槍に、撃退士の男は目を見張った。
「あれは……」
 それは、人骨。
 人骨の頭部を、長槍に何本も突き刺し、それを掲げながら行軍しているのである。
「事件にしては雑な犯行だと思ったが……」
 瞬時に思考を切り替える。何故なら、瓦礫をすり抜けてこちらへ来ているからだ。
 狙いは何だ? この人骨の頭部か? それとも……俺達の方か?
「奇襲を掛けるぞ」
 大柄な男の指示に二人は頷く。
 素早くその場を離脱すると、六体のそれらを囲む三点に広がった。

 鎧達が先程の人骨に向かって行く。
(やはり狙いは人骨の頭部……)
 叩くなら、ここが好機……!
 合図が送られる。
 三人の影が、真夜中の廃墟に降った。


「が、失敗に終わった……と」
 一連の話を聞いた後、穏やかな瞳はゆっくりと視界を閉じた。
 華奢な腕は栗色の髪をいじる。
 澄凪翔は、何処か残念そうにも見える表情で隣の男に話し掛けた。
「動く亡霊武者……オカルト……僕の範囲かと思ったけど、どうやら今回も違うみたいだ」
 傍には、話の一人、大柄な男が沈痛な面持ちで立っている。
「アイツら、俺達が攻撃を仕掛けるや否や陣形を整えてきたんだ」
「陣形? それってつまり、こっちの奇襲が筒抜けだったってこと?」
 幾ら俊敏に動けようが、そうそう簡単に対処出来ない筈、なのだが。
 未来予知というなら話は別だ、と翔は口角を更に上げる。
「合ってるが違う」
 少し鬱陶しそうに、大柄な男は否定した。
「俺達が隠れて逃げる途中にも、奴らはほぼ正確に追いかけて来た」
 そう言って、今度は正面の女性撃退士を見る。
「恐らく、俺達で言うところの『索敵』を持った奴がいる。あそこはボロい建物ばっかだったしな……完全に隠れられていなかったんだろう」
「因みに、人骨の頭部は取られたのかな?」
「いや……申し訳ないと思ったが、咄嗟に切り離して持ち帰った。今はもう一人の仲間が持ってる」
「なるほどなるほど……でも、そうすると住民がまた狙われるんじゃないのかな」
 男は首を振る。
「外に出て鉢合わせしなければ大丈夫だし、先の仲間が見張りについている。その点に関しては問題無い」
「見張りって……君達、負傷したから一旦退いてきたんだろう?」
 女性の撃退士が、一歩前に出た。
「全く動けない傷じゃないわ! それに……負けて終わりました、だけじゃ何だか悔しいもの……」
 大柄な男が、今度は頷いた。
「奴らは首を欲している。恐らく、仲間の持っている頭蓋骨を求めて現れるだろう。情報から推察すると、廃墟から住宅街の一本道を行軍したあと、廃墟へ戻るようだ。待ち伏せも出来るな。こちらから出向く場合は……言い方は悪いが、仲間の持つ頭蓋骨が囮に出来るかもしれない」
「ふむ……だけど、気付かれたら僕達を優先するだろうね」
「あぁ、先にも少し言ったが、奴らは三つの陣形を組んでくる。加えて索敵のお陰で準備万端だ」
 大柄な男は、腕組みしている手を外す。
 完治しきれていない大きな切り傷が露わになった。
「俺達に手伝えることがあれば協力する。だが、ご覧の通り戦闘では使い物にならない……大人しくしていろと言われればそうするが、何かあれば言ってくれ」
 翔は苦笑したあと、頭を掻いた。
「……とは言ってもね、彼らを動かすのは僕としては気が引ける。もし僕の可能な範囲で手伝えるなら、僕に言ってくれてもいいよ」


リプレイ本文

●陣を率い、隊を取る
「それじゃあ、くれぐれも気を付けてね」
 澄凪翔からそう言われ、撃退士達は布に包まれた歪な楕円を痩せ型の男から受け取った。
 ミハイル・エッカート(jb0544)がその一片を捲る。
 確かに、硬く濁った白い外郭が姿を現した。
「今日は奴らはまだ来ちゃいない」
 痩せ型の男は頬の傷を擦りながら言う。
「昼だからな……廃墟だろう。今の時間帯なら然程暗くも無いだろうが、場所によっては足元も見え辛くなる、注意してくれ」
 足場が悪い箇所も在るが、開けた場所も少なくない。
 戦うならそこを目指した方が良いかもしれない。
 そう言い終わると、男は伏し目がちに地面を見つめ、再度撃退士達を見上げた。
「……任せる事になって済まん。俺に出来るのはこれくらいだ……後は、頼んだ」
「力になれなくて済まないね」
 いえ、と東條 雅也(jb9625)は切れ長の瞳を向け、男と翔の謝罪を制止した。
「怪我人を一人で帰すのもどうかと思いますので」

「じゃあ、ミハイルさん」
「あぁ」
 逢見仙也(jc1616)はそう言うと、ミハイルの手から布に包まれたそれをヒョイと持ち上げ、近くの石垣に乗せる。
 露わになった人骨の頭部を前にして、ミハイル、仙也、そして浪風 悠人(ja3452)の三人が手を突き出すと、そこに同じ形の白骨頭部が次々と出来あがっていく。
 三十センチにも満たないそれを創造するのは容易であった。
 その数、計十個。
「地図、借りられたぜ」
 人骨の形成が終わった所に向坂 玲治(ja6214)が大き目の紙を一枚手にして広げて見せる。
 手書きの地図であったが、要所要所に丸印が付けられており、簡易的ながらも見易いものだ。
 悠人と仙也が創造に代わる能力へ切り替え、それらを携帯して向かうは廃墟。
「天魔如きに遅れは取らん、一網打尽だ」
 エカテリーナ・コドロワ(jc0366)は青く鋭い瞳を廃墟へ向け、銃器を携え前へ進んだ。
 廃墟へ消えゆく八人の背を、翔と男は見えなくなるまで見送っていた。


「飛べない高さではないな……先を行くぞ」
 地面を蹴った反動で照葉(jb3273)の身体が宙に浮く。
 その背に現れた朱鷺の翼を羽ばたかせ、彼女は位置の検討を付けに廃墟へと飛んだ。
 やはり、長い事手入れがされていなかったせいか廃墟区域の状態は遠目に見ても酷い。
 その途中に、まだ住宅街から連なる丈夫な建物の上に照葉は見覚えの有る姿を見かけ、停止した。
「来たね」
 照葉が地に足を着け、皆も追いついた直後に其処に居た女性も着地する。
 一足先に状況の確認へ赴いていた鬼塚 刀夜(jc2355)は、飴を銜え直すと双眼鏡の紐をくるくると回しながら笑った。
「奴らは見てないかな。コイツで見た感じだと、廃墟って言っても瓦礫で埋もれ切ってるわけじゃないよ。この時間帯なら何処もかしこも暗闇って場所じゃないね」
 やはり、廃墟に向かうには昼間を選択したのは正解だったかもしれない。
 確実に発見するのに、今以上のタイミングを逃してはならない。
 廃墟に足音が響く。
(「武士(もののふ)は 遙か彼岸の 偲ぶ草……」)
 鉄骨や木柱が剥き出しになっているここで、彼らの出すその音だけが周囲の家屋の残骸に包み込まれ無情に反響していた。
(「……迷いいずるは 無粋なりけり」)
 雅也は心の中で短歌を読み上げ、微笑を漏らす。
「……どうかしましたか?」
 その様子に気付いた悠人が訝し気に訊ねると、雅也は苦笑しながら答えた。
「いえ、俺に短歌の才能は無いな、と」
 悠人の疑問が解ける事は無かったが、それ以上の疑問が撃退士達の胸中を巡った。
 天魔の気配が無い……?
 いや、気配は有る。殺気混じりの独特な威圧感。
 明らかにこちらを探られている。だが、それ以上の行動を起こす気配が無い。
 暗がりの地形も相まって何処から現れても不思議では無い。
 その状況は、あの頭蓋骨によって打破された。
「よう、届けに来てやったぜ」
 ミハイルが鷲掴む手の中に、偽の頭蓋骨が姿を見せる。

 音が、聞こえた。

 鉄が、地を踏み音が。

「探し物はこれだろう。取り返しに来い」
 ミハイルはそれを地面へ投げ、非常に似合いそうな悪役面の笑みで偽頭蓋骨に足を掛けようとする。
 その音達は横一列に並んで闊歩していた。
 瓦礫に埋もれた向こう側から、くたびれた鎧と共に音を鳴らす。
 取り逃した御首の回収か。もしくは新たな御首を取りに赴いて来たのか。
「今時、随分と時代遅れな手柄の上げ方だな」
 先頭に立つ玲治が相手側を見遣った時、それらは刀を掲げ、撃退士達の前で止まる。
 途端、ミハイルと雅也の阻霊符が領域を展開させた。
 撃退士達は剣を構え、或は緩やかに武具を取り出し、そして駆けた。

 地図に記された場所へと武者達を誘う。
 狂いが無ければ目的地は目と鼻の先。
 到達直前、ミハイルは携帯していた偽物の頭蓋骨を遠くへ投げ飛ばす。
 一瞬、武将と思われる槍持ちの鎧が視線を上にやった。
 釣られて鎧武者達も頭蓋骨に視線を泳がせる
 ……が、その武者達へ一喝する様に、武将は槍を地面へ突き立て撃退士達へ注意を向けた。
 乱れ気味の行動だった武者達が、慌ただしく列へ並び直る。
「成程、まずは俺達……という訳ですか」
 動向を確認した仙也が溜めた電撃を武者へと放出する。
 動きを止めた一体をよそに、他の四体が一斉に詰め寄った。
 狙うは玲治、仙也、雅也の三人。
 横一列を維持する武者達に対し、向坂を先頭にした三角の布陣。
 偃月(えんげつ)の形を取った彼らの、前衛部分の三人だ。
 だが、両陣が衝突する前に中央後列よりエカテリーナの銃弾が武者を撃ち穿った。
「亡霊風情が……一気に墓場にぶち込んでやる!」
 それでも尚怯まぬ四体が斬り掛かる。
 二体が仙也の肩口と脇腹を、他二体はそれぞれ玲治と雅也へ。
 玲治がその身をもって刀を受け、雅也へ届く筈の剣閃も広がる翼で受け止める。
 武将と玲治の槍が武者を挟んで左右から互いを突き刺し、陣形の左でも照葉の槍に波状して雅也が詰め寄り、深く腰を落とした位置から双剣が武者を斬り上げた。
 仙也を薙いだ武者はそのまま距離を詰める。
 その目前で甲高い音が鳴った。
 鈍く光る刀身。一閃が終わるのは傷の後。
 刀夜が放った、空をも斬り裂く高速の斬撃が武者の鎧に傷跡をつける。
 音が止むと同時に悠人がアウルを込めた一撃をお見舞いする。
 幸運だったのは、敵が横陣のまま、こちらの陣に攻め入った事。
 そして武将の武器が槍だった事、だろうか。
 一人離れた武将は、ミハイル、悠人の位置からでも丸見えだ。
「陣を組むにしては、少し人手不足だったようだな」
 腕に纏う青白き光。
 銃へ収束させたミハイルの雷光が、隼を模り武将の側面へ眩い光と共に到達した。

「どうした……」
 銃口を向けながら悠人が攻撃に備える。
 骨が有るのは見た目だけか?
 その視線を受けた訳では無いだろうが、左翼側の武者達が同時に刀を振りかざす。
「……させるかよ!」
 雅也と照葉へ向けられた刃を悉く玲治の翼が庇い、相手の間合いの外から照葉の三日月槍が武者の身体を打つ。
 体勢を崩し、無様に突き出された武者の刀を躱した雅也が左剣で相手の胸元を貫き、そこを軸に回転して右剣で斬り裂いた。
 玲治が白銀の槍を突き刺し、仙也がそれに合わせ電撃を準備する。
 武将は陣形変更する様子は無い。
 ならば……。
 仙也は自身を狙っていた一体へと狙いを定める。
 電撃に意識を持っていかれた武者が膝をついた。
 そこへエカテリーナが銃弾を浴びせ、刀夜が居合の構えのまま飛び込んだ。
 臨戦状態の鎧武者がその間に割り込む。
 だが、彼女は攻撃を躊躇する事は無い。
 赤に囲まれた瞳孔が開き、上がった口の隙間で飴がひび割れた。
 抜刀、豪撃。
 高速で居抜かれた斬撃が武者の鎧を剥ぎ落す。
 武者を横へとふっ飛ばした刀夜に、前方から最初に意識を落としていた武者が距離を詰める。
 武者と刀夜の刀がぶつかり合った。
 刀ごと身を退いた刀夜はそのまま力を抜いて刃を滑らせる。
 刀の腹から微かに火花が散る。腕の先を武者の刀が掠めた。
 反転した刀夜が後ろへ跳び、武者へエカテリーナが不可視の矢を撃ち込む。
 再び接近を仕掛けようとする刀夜、が、迫り来る武者が迎え撃ち、二度打ち合ったところで一寸速く武者の袈裟切りが刀夜を襲う。
「やるね……!」
「言ってる場合か」
 血を流しながら尚も刀を構えて笑う刀夜へ、武将への攻撃を続けながら冷静にミハイルが嗜めた。
 当たらなければ問題無いが、血の量から見てもこれ以上は望ましくない。
 彼女の傷口に手を当て、アウルを放出させて治癒を試みながらミハイルはそう思う。
「戦れるんですか?」
「当然!」
 薄い笑みを崩さずに仙也は淡々と刀夜へ話し掛け、且つ俊敏に、巨大な火球を形成していく。
「では、追撃しますよ」
 武者達へ火炎が炸裂すると同時に、右翼の三人が一斉に攻撃を仕掛けた。

 対する左翼側では武者達の刀が振り乱れる。
 振り下ろした雅也の双剣と武者の刀が打ち合った。
 数秒続いた鍔迫り合いの末、斜め一閃、胴切り一閃の二撃目に武者の刃が交錯する。
 互いに一歩も譲らぬその後ろでは、走り込んで来た鎧の刃を照葉が三日月槍を持って往なす。
 左右二回に勢い良く槍を弾くと、続いて横薙ぎに振り払われた槍の持ち手に刀を当てて防ぎ、そのまま力任せに突っ込んで来る。
 反応に遅れた照葉が槍を引く直前、彼女は能面にも似た皺だらけの顔と目が合った。
「……ッ!」
 すれ違い、照葉の身体から血が流れだす。
 しかし、ただで終わらせる気は無い。
 自分の身体ごと両手に持った槍を回転させた照葉は、遠心力で槍の刃先を背後の武者へ打ち込んだ。
 たまらず、回転した先の方向……つまり背後から元の位置へ押しやられ、そこに悠人が強力なアウルの銃弾を撃ち放つ。
 武者が再び刀を構えた時には、輝く図鑑を携えた照葉の姿。
「これで一体」
 光波打つ衝撃波が武者を吹き飛ばし、動きを停止させる。
 陣形の反対側から爆炎が散ったのは、その直後の事だった。

 炎を散らして右翼の仙也、刀夜、ミハイルと武者の姿が入り乱れる。
 その状況はやや優勢……いや、こちらの方が、押している……か?
 武将と刃を交わしながら、状況を見た玲治はそう感じた。
 雅也と相対している武者も押されている。左翼は一体沈めたようだし、このまま畳み掛けられるか。
 武将の槍を盾で受け止め、玲治はある事に気付いた。
(「奴ら、もしかしてわざと『退いて』んのか……!?」)
 予想通り。
 武将を先頭に、二対の三角の形に別れる。鶴翼。
 だが、その数ならむしろ願ったりだ。
 玲治は槍を構え直し、武将へ向けて突き出した。
「横陣ッ! このまま押し切るぜ!!」
 号令に合わせ、左右の仲間が押し上がる。
 わざわざ指揮官という弱点を曝け出したのだ。ここを叩かない手は無い。
「遺骨を奪えるものなら全力で奪ってみろ。武将の姿を真似る者なら当然のことだ」
 エカテリーナの銃弾は的確に武者の身体へ命中、更に左右端から光と雷光を纏った弾丸が武将の身体を撃ち抜いた。
「私の弾丸くらい見切れるだろう。できないとは言わせん」
 二人の攻撃が致命傷となったか、玲治の突進に、武将は足を絡ませながら大きく後退する。
「もう、牽制は良いですね?」
 雅也が双剣を前に突き出し目の前の一体を見据える。
「問題無かろう。いざ、参らん」
 空気が制止した一瞬、二人の姿が武者と重なり、駆け抜け、そして武者の身体を斬り裂いていた。
 逆側では砂煙が舞う。
 刀夜の足払いによって武者が転倒、その隣にいた武者へ仙也が接近すると、白き光を宿した鎖を叩きつける。

 武将が後退した。
 つまり、そこに武者達が集まっている。
 集まっているのなら話は早い。
 玲治は武将へ詰め寄ると、アウルの力を開放した。
 芸術は。

「爆発だ」

 轟音が武者達を跡形なく飲み込む。
 それに巻き込まれなかった両端の武将の額を、ミハイルとエカテリーナの銃弾が撃ち抜く。
 鎧が、空虚となって崩れ落ちた。


「敵将、討ち取ったりー」
 仙也がお決まりの様に武将の首を探しに行く……が、まぁわざわざ探す事はないだろう。
 そもそも爆発で原型は留めていない。
「このディアボロ達も元はと言えば人間だろうに……こいつらの主はずいぶん趣味が悪い悪魔だな」
 ミハイルは言いながら玲治の傷を手当てする。
 他、照葉、雅也、仙也と戦闘中に手が回らなかった者達も、傷の具合を見てミハイルと仙也で手分けして治癒に当たった。
「趣味が悪いのも含めて悪魔なんでしょう」
 そう言うと仙也と悠人は武将の側に槍を見つける。
 細かく言うと、その槍に付いていた白骨の頭部を。
 合掌し、悠人はその頭部を回収した。
 最後まで渡す事は無かった、ミハイルの持つ頭蓋骨と共に。

 以下は調査で得られた報告である。
 まず、ディアボロの鎧だが特に何かを模していた訳ではない。
 脆すぎてすぐに崩れ去ってしまい、あまり詳しく調べられなかったのもあるが、特定の地域を指すような特徴は見受けられなかった。
 鎧に魂が……という類のものでは無いだろう、と思われる。
 そうであるなら、鎧の出所が有る筈だからだ。
 白骨体に関しては、夏場の地上ならば一週間程度でそうなる可能性も有る、とのことであった。
 元の依頼の事件が始まったのが約一か月前……だとすると、有り得ない事は無い。
 だが、骨の損傷具合から見ると殺されたのは間違いないだろう、と説明される。
 あの住宅街に帰って来ない人間が居るなら、恐らくはそういう事なのだろう。

 ……という事だが、以上の報告にハッキリとした答えは出ていない。
 飽くまでもその可能性が有る、というだけで、もしかしたらも万が一もあり得ない訳では無い。
 その時は、また依頼という形で貴方達の元へ舞い込むかもしれない。

 撃退士達は然るべき場所へ骨を渡す。
 奴らの手を逃れた勲章は、ただ静かに、眠りの時を待ちわびている様であった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 童の一種・逢見仙也(jc1616)
重体: −
面白かった!:5人

おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
仲良し撃退士・
照葉(jb3273)

大学部6年110組 女 ディバインナイト
撃退士・
東條 雅也(jb9625)

大学部3年143組 男 ルインズブレイド
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

卒業 女 阿修羅